桜と海と、艦娘と   作:万年デルタ

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0-5 黄昏の出撃 【横須賀〜東京湾】

 菊池下宿 0510i

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めてしばらくして頭もスッキリしてきたし、

そろそろ着替えてフネに行かないとな。

 

 

 

洗面などを済ませた俺は、

着替えてすぐに基地へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

にしても出港とは、気が重くなるな。

 

 

なんにも無く終わればいいが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東雲の空の、自分の心境と裏腹な美しい空に、

妙な胸騒ぎを俺は覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 横須賀基地 護衛艦むらさめ 0620i

 

 

 

 

 

 

フネに着いた俺は、同じく出勤してきた村上に

昨日の夢を話していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…っつー訳なんだよ。」

 

 

 

 

 

「そんなワケがあるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はい一蹴されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦これはあくまでゲームであって、

現実ではないんだ。良い大人なんだから

その辺の区別はしておくようにだな…」

 

 

 

 

 

 

 

やっぱりバカにされたか…

 

 

 

まあいい、いい夢を見られたんだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういや『金剛』もいるようだぞ。

直接会ったりしてないが、頭の中に

話しかけて?きたぞ」

 

 

 

 

「なにいぃー?!それは本当か!!」

 

 

 

 

「あ、ああ…。だからもしかしたら

会えるかもしれないぞ…」

 

 

 

「なぜ俺の夢には出てきてくれんっ!」

 

 

 

「知らねぇよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は話の主導権を取ることに成功した。

 

 

 

こいつは『金剛』が絡むと扱い

やすいからな。

 

 

 

そこだけチョロ過ぎんだろ、

他はしっかりしてるのに…

 

 

 

 

 

 

 

 

まあ、そこが俺が村上を同期として好きな

理由の一つなのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は1700出港らしい、その後は別令

あるまで海上警備につくらしいぞ」

 

 

 

 

さっき聞いた風の噂を村上に話す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うむ、俺もETの先輩からその様に聞いた。

隊司令が乗ってきて僚艦の『いかづち』と

ペアで行動するらしい」

 

 

 

 

「いかづちか…」

 

 

 

「言っておくが”いない”からな」

 

 

 

「わあーってるよ!現実との区別ぐらい

出来らぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村上と別れた後職場の電信室に行くと、

他の人も集まり始めていた。

 

 

 

どうやら皆電信長と通信士が来るのを

待っているらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして前日の当直員を除いた通信員が揃い、電信長と通信士がやや緊張した面持ちで

入ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご存知の通り、本日1700頃むらさめは

出港します。前日の当直員が一時帰宅している間、

在艦員は出港準備と整備作業を整え、

磁性物品と不要物の陸揚げと、

臨時の生糧品・貯蔵品搭載を行います」

 

 

 

 

 

 

 

 

通信士が相変わらず謙虚な口調で

今日の予定を達する。

 

 

 

 

 

大体は予想していた内容だ。

 

 

 

 

 

 

今日の朝までいた前日の当直員は

今日来た乗員と入れ違いに上陸し、

夕方まで一時帰宅を許されていた。

 

 

 

 

 

さて、どーせ海士は肉体労働ですか、仕方ないね。

 

 

 

つーか磁性物品ってこのフネ自体が

磁性物品だっつーの。

 

 

 

 

海上自衛隊では海上で行動する際、

磁気機雷に被雷するのを防ぐため、

磁性物品を陸揚げする。

 

 

 

 

 

しかし大抵の艦艇は鋼鉄製なため、

気休め程度にしかならない気がする。

 

 

 

 

 

掃海部隊の艦艇は木製だったりFRP、

強化プラスチック製なので、この磁気機雷に

反応し難い長所がある。

 

 

 

 

木なので水分を含むとスピードが出せなかったり、腐りやすいと欠点も多いらしい。

 

 

 

 

なのでランニングコストの低いFRPに

移行しつつあるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういや小さい艦艇は艦娘っているんかねぇ?

 

 

 

 

そんなことを考えつつ通信士の話を聞く。

 

 

 

明日からどうなるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 むらさめ艦内 0800i

 

 

 

 

『10秒前っ!パッパッパッパラパーン!』

 

 

 

 

 

0800の課業整列も無し。

 

 

 

 

 

艦旗掲揚の際にその場に気を付け、

外にいる際は艦尾に敬礼し作業に戻る。

 

 

 

 

肉体労働で半日が過ぎたが、午後も飯食ったら

作業らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうやだ、帰りたい…orz

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼飯は豆腐を混ぜ込んだハンバーグだった。

ソースは甘めのデミグラスと、王道だ。

 

 

 

 

人によっては甘過ぎるみたいだが、俺は

やや懐かしさを感じる味だ。

 

 

 

 

 

 

後輩の調理員に味付けを聞いたら、

調理員長は市販のソースとケチャップ、

砂糖と本だししか入れてないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

基地に帰ったらハンバーグ作ってみっか…

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…さて、午後まで何をしますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

昼飯を食べた俺はヒマを持て余していた。

 

 

 

気が休まるところは艦内に無いし、

どこかに腰を落ち着かせる気にもならない。

 

 

 

 

 

「気晴らしに『村雨』を探しに

艦内を巡ってみますか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日の夢の事もあるし、村雨ちゃんを探して

みよう。あわよくば見つかるかもしれん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「♪村雨探して歩き出す~、いる場所も~

解らぬまま~」

 

 

 

 

 

替え歌を口ずさみながら、とりあえず

艦内の行けるところは歩いてみた。

 

 

 

 

 

まだ見てないのは艦長室と

WAVE居住区、それと艦橋だな。

 

 

 

 

 

 

 

WAVE居住区はさすがに行けないな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…あそこは魔の巣窟、一般隊員が

おいそれと行ける場所ではない。

 

 

 

 

 

WAVEの許可があれば入ることができるが、

進んで行きたい場所でもない。

 

 

 

 

 

前に俺も頼まれて荷物整理で行ったが、

他のWAVEの視線が痛かった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

こっちは頼まれて行ってるのに、ひでーぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

通信機器の点検とか理由を付けて、

艦橋を回ってみようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 むらさめ艦橋 1235i

 

 

 

 

 

 

「ん、お前は確か通信のやつか。何か用か?」

 

 

 

「はい、出港前の通信機器の

点検で見回っています」

 

 

 

 

 

 

 

 

艦橋にいた航海科の人間に誰何(すいか)

されるが、それっぽい理由で切り抜ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(俺が何処を歩こうと、俺の勝手じゃねえか…)

 

 

 

 

そんな顔と声に出したら確実にコロされるため、

華麗に対応。

 

 

 

 

 

 

 

 

この辺の対応が、狭い艦内生活の

処世術ってやつだ。

 

 

 

 

 

 

 

テキトーに通信機器を見回りつつ、

村雨がいないかチェックする。

 

 

 

 

 

 

当然の如く、村雨らしき姿は見当たらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ハァー…、所詮夢は夢、か…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと近くに泊まっている『いなづま』の

艦橋に目をやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

…あれ?艦橋にセーラー服を来た小中学生?

の様な女子の2人組が見えた様な…?

 

 

 

 

 

 

「おい点検はまだ終わらんのか?」

 

 

 

 

「いえ完了しました。失礼します」

 

 

 

 

 

 

 

ちょっとボーッとしていたら航海員に

お叱りを受けてしまった…。

 

 

 

 

 

 

『いなづま』に女子2人組が見えたのは、

きっと俺の思い込みだろう。

 

 

 

 

村雨探しは止めにして、もうすぐ始まる昼の

作業の準備をしますかねぇ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いかづち』の艦橋で話し声が響く。

 

 

 

 

 

 

 

「『雷』ちゃん準備は出来てる〜?」

 

 

 

 

「バッチリよ!この雷にかなうと

思ってるのかしら!『村雨』は?」

 

 

 

 

「スタンバイオーケーよ、やっちゃうからね♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな少女たちに誰も気づかない。

 

まるでそこにいるのに、いないかの様に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 某所 時刻不明

 

 

 

 

 

「…ロシア行きの貨物船の襲撃に

当たっていた者はどうしたか?」

 

 

 

 

「人間どもの”些細な”抵抗に遭いましたが、

さしたる被害も無く、3日後に帰還予定です」

 

 

 

 

「そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部下らしきモノに満足そうに頷く

指揮官らしきモノ。

 

 

 

人間の言葉は話しているが、その容姿は

人型という点以外は異様としか言い表せない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次の襲撃地は、『日本』の東京湾沖だ」

 

 

 

 

 

気付けば指揮官らしきモノの周りに、

部下らしきモノたちが集結していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次に強襲偵察艦として赴く者には

誰を当てる予定だったか?」

 

 

 

 

 

「ハッ、駆逐イ級の『ウォード』です。

既に作戦の委細も了解し、出撃待機しております」

 

 

 

 

「よし…」

 

 

 

 

指揮官の問いに完璧な回答をする部下らしきモノ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我らをぞんざいに扱ってきた人間どもに

復讐する時は近い…」

 

 

 

 

 

「指揮官、攻勢は、攻勢はまだなのですか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

血気盛んな部下らしきモノを指揮官が宥める。

 

 

 

 

 

 

「まだだ、だが近い。貴様の名は?」

 

 

 

 

「…駆逐棲姫、『フレッチャー』!!」

 

 

 

 

「よし駆逐棲姫フレッチャーよ、

貴様を駆逐隊の隊長に任命する。

駆逐艦を率いて憎き人間どもに復讐をしてやるのだ」

 

 

 

 

「ありがたき幸せ、お任せを…!」

 

 

 

 

 

(フンッ、貴様らの様な俗物の言いなりに

なっているのも今だけだ。

今に見ているがいい…!)

 

 

 

 

『フレッチャー』は、東京湾沖襲撃に向けた

会合の中で1人静かに異なる熱意を燃やしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

横須賀基地某岸壁 1715i 

 

 

 

 

 

 

キイィィーーーン…

 

 

 

 

 

むらさめも試運転を開始した。

 

 

 

僚艦の『いかづち』は一足早く試運転を終わらせ、むらさめの番が来た。

 

 

 

 

 

「…試運転終わり!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試運転が終わり、当直士官の言葉が

艦橋に響く。

 

 

 

 

 

各部から報告が上がり、異常なし。

 

出港準備は整った。

 

 

 

 

 

 

 

そんな慌ただしい中、俺はというと

手空き乗員として舷側に着き、

岸壁に来ている見送りに応える役割を

与えられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帽振れー!」

 

 

 

 

岸壁に来ているお偉いさんたちから

帽振れを受ける。

 

 

 

 

『左、帽振れ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

マイクで応答するよう入り、

こちらも帽振れで応える。

 

 

 

 

 

 

 

『帽、元へ!』

 

 

 

 

 

 

岸壁を見れば地方総監やら

1護隊群司令が来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…これってかなり危険な任務ってことなのかな?

 

 

 

 

 

 

 

出港する時になって、ヤバそうな気がしてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『出港用~意!!』

 

 

マイクの後にラッパが港内に響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方ということもあってか、

ラッパが遠くまで反響している気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「任せろよ、日本の海は俺たちが守るからな」

 

 

 

 

 

 

 

他の乗員に聞こえないよう呟く。

 

 

 

 

俺のような下っ端じゃ出来ることなど

知れているが、やれることはやるつもりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あ、艦これで遠征出すの忘れた…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…もうやだ、早く帰りたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 東京湾沖 2310i

 

 

 

 

 

「ほげぇ~、早くも鬱になりそう…」

 

 

 

 

 

フネの外で海上を見ながら、

俺は愚痴を海に響かせる。

 

 

 

 

 

 

海上警備とはいうものの、

実態は漂泊待機、たまに動いては

航行船舶にやってますアピールを

しているようなモノ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…案外何も無く終わりそうだな。

 

 

 

 

早く艦これしたいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな事を考えていると、

後ろから足音がしてきた。

 

 

 

 

どうせ同じように

ヒマな海曹あたりが出てきたんだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆も考えることは一緒かー。

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思い、特に気を付けをしたり

その場を離れようともせず、

そのまま海を眺め続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふむ、武者震いなのか、

ただ非番で時間を持て余しているのか、

そのどちらかだと見た」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…hai?

アナタ何様、なんですかえ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後ろから変な口調で話しかけられ、

振り返りながら当てはまる人を頭の中で探す。

 

 

 

 

(この口調、たしかどっかで…)

 

 

 

 

 

「やあ、君は…通信の菊池君だったね」

 

 

 

へっ?

 

 

このヒト、1護隊の司令じゃね…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前に一度だけ話しかけられた事がある。

 

 

大した事を話したわけでは無いが、

届いた電報をフネの幹部に回覧していたら

通信書類の訂正に関する電報の見方について

質問され、10分ほど司令や艦長、

他の幹部にレクチャーした事がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺を覚えててくれたのか?!

 

 

 

 

 

 

 

 

菊池感激ぃ〜!

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です司令!

私は怖い訳ではありませんが、

妙な胸騒ぎがしていまして…」

 

 

 

 

口が裂けても艦これ出来ないから

鬱になりかけてました、なんて言えねぇ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょっと戦場の勘みたいなのありますよ

アピールして、点数稼ぎに持っていく戦法に出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、言ってみたまえ」

 

 

 

 

 

 

「はい、まずは先日の湾内での事案。

この目的と手段が不審な点。ETの村上士長と

話したのですが、テロや特定の国家の仕業に

してはメリットの無さ及び手口の隠し方。

 

 

 

 

 

 

 

基地やフネに工作をするならまだしも

民間船、それもタンカーに爆弾を仕掛けたり

攻撃したこと。テロなら犯行声明を

出すでしょうし、国家ならメリット皆無。

目的が不明過ぎます」

 

 

 

 

 

 

 

「確かに総監部で聞いた調査報告でも

同様だったな。して、手段についてはどうだね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、これについても言えるのですが

捜査の撹乱を意図して”錆びた砲弾”を

使うにしても、テロならちゃんと爆発するか

わからない方法はとらず最低でも

手製の爆発物を作る。

 

 

 

 

国家にしても意味不明で、少なくとも

爆発物を使用せずに積載していた原油を

怪しく無い程度に引火ないし

流出させるのが妥当と考えます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君やその村上君にしても、まるで

自分たちが本当のテロリストや

スパイですと言わんばかりの考察だね。

ふふふ、…今ならまだ間に合うぞ?」

 

 

 

 

 

 

「ち、違いますっ!私たちは

ただの興味本位で話していただけです!」

 

 

 

 

 

 

司令の疑惑発言に思わずビビる俺。

 

 

 

 

 

 

もちろん目は笑っており、

本気ではないのは見てわかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…して、君たちならどう結論付けた?」

 

 

 

 

 

 

やはり。

聞いてくれると思ってましたよ。

こんな俺にポッと聞いてくるぐらいだから、

結論も聞いてくると思ったぜ。

 

 

 

 

 

しかしご丁寧に”結論付けた”、と

確定の聞き方をしてきたし

ヘタには答えられんぞ…。

 

 

 

 

 

 

「…まず眉唾物の考察を述べることを

お許しください。結論から言いますと、

”敵”は第二次大戦のアメリカ軍と同じく

日本を戦略的に枯渇させる目的が

あると考えます。

 

 

 

 

 

今回タンカーを狙った訳ですが、

これは当時の通商破壊、国内への

資源・物資の流通を遮断させる為」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司令は、眉唾物の俺の話に眉一つ

動かさず俺の話を聞いている。

 

 

 

 

「そして”錆びた砲弾”。

不審な点は先ほど述べましたが、

仮に”敵”がタイムスリップしてきた

アメリカ軍やその残党である、と

すれば粗筋は通ると考えます…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はい、笑われる~!

ウソは言わなかったが、絶対に左遷される~!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…あれ?

何も言ってこない。

 

 

 

 

 

 

 

「実は保安庁の参加した調査団に

私の防衛大の同期がいてな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司令には防衛大在学時、仲が良かった同期が

いてその人は自衛隊に進まず

海上保安庁に行った人がいるらしい。

 

 

 

 

 

 

その人が今回の調査報告を、

こっそり司令に相談していたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その報告が俺たちが考えた

『米軍タイムスリップ説』

 

 

 

 

当然相手にされる訳もなく、

メディアにはテロか工作機関の

関与の疑いとの発表だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君らがおかしいのか、

信じない上層部が当然なのか…」

 

 

 

俺はかける言葉が浮かばなかった。

 

 

 

 

 

はいそうです、私たちとその同期の方が

おかしいんです。…言えん。

 

 

 

いいえちがいます、私たちと

その同期の方が正しく、政府が

おかしいんです。…言えんわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令!こちらでしたか、

すぐにCICへお越しください!」

 

 

 

 

 

 

副官サンキュー!空気読まずに

飛び込んで来てくれて!

 

 

 

 

 

 

 

 

反応に困っていたところに、

隊勤務の1尉の人が司令を呼びに来てくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまないが、私は失礼させてもらうよ…」

 

 

 

 

「私こそ付き合っていただき

ありがとうございました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1尉の人がややハテナの表情で

こちらを見るが、司令に続いて艦内に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…結構時間が過ぎたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

まだワッチの時間ではないため、

少しではあるが仮眠を取ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

艦内に戻る前に、ちらっと海上を見る。

 

 

 

 

 

 

 

真っ暗で漆黒の海が迫ってくる気がする。

さっきまで見ていた景色とは大違いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめよやめよっ!

ずっと見てたら引きずり込まれそうだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

さっさと中に入って夜食食べて休もう。

夜中にワッチあんだからな。

 

 

 

 

 

 

「今日の夜食はなんですかねーっと」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 むらさめCIC 0003i

 

 

 

 

日付も変わってすぐの事、隊司令は

隊勤務の幹部に呼ばれ、CICに来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「して、どうした?」

 

 

 

 

 

 

「こちらのレーダー画面をご覧ください」

 

 

 

 

 

むらさめ砲雷長が司令に説明する。

 

 

 

 

「この目標、アルファ目標なのですが

13分前から移動していません。

 

 

国際VHFにも応答なし、

東京マーチス(東京湾海上交通センター)

に問い合わせましたが不明とのこと。

 

 

如何なさいますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやら不審な船舶”らしい”目標が

見つかったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『いかづち』も了解しているのか?」

 

 

 

 

 

 

「はい、既に通報済みです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隊勤務の幹部が答える。

 

 

 

 

 

 

 

「ヘリの準備もしてあるか?」

 

 

 

 

「ハッ、いかづちのロクマルK、

指示通りヘルファイヤミサイルを装備して

あとはエンジンを回すのみです」

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、すぐ発艦させろ。

両艦に『合戦準備』を下令、目標にあまり

近づきすぎるな。同時に両艦停止、

自動操艦にて待機。

むらさめの左後方40度500mに

いかづちを配置させろ」

 

 

 

 

CICが、むらさめと司令部の号令や

指示で慌ただしくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何も起きなければいいが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司令の呟きは、喧騒にかき消された。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

むらさめ科員食堂 0008i

 

 

 

 

 

 

ちゅるちゅる…ちゅるちゅるる~。

 

 

 

 

 

 

「なんか年越し蕎麦を食べてるみたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂で夜食の温蕎麦を1人食べる俺。

 

 

 

 

 

 

食堂に人はそこそこいるのだが、

一緒に食べる人がいないので1人だ。

 

 

 

 

 

 

ちなみに村上の野郎はワッチ中、

俺がワッチに入ると同時に非番になる。

 

 

 

 

 

 

 

あーつまんね。

 

 

 

 

テレビでは昨日、いや日付変わったし一昨日か。

 

 

ロシアの貨物船事件の特番をやっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

夜中なのによくやるぜ。

 

 

 

聞いた事もない大学の准教授やら

軍事ジャーナリストが

あーだこーだ持論を並べていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズズズズー…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やや食い足りないが、これで戦闘準備完了だ。

 

 

 

 

 

 

 

戦闘準備って、我ながら大げさな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺たちは”戦争をしに行く”訳じゃ

ないんだからさぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだ、俺たちはない戦争をしに来たんじゃない。

 

 

 

 

ただの海上警備、『海上警備行動』でも無ければ

射撃訓練でもない。

 

 

いくらヘリのロクマルに実弾のミサイル

乗っけてたり、12.7ミリ機関銃を

日中に準備したとはいえ、それを

ぶっ放すことがあるはずがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…はず、だよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司令と別れてからなんか胸騒ぎがするな。

 

 

 

 

 

 

司令に話しかけられてとっさに胸騒ぎとか

戦場の勘とかホラ吹いちまったが、

やけにソワソワしやがる…。

 

 

 

 

 

ビビってんのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ブツッ…』

 

 

 

 

スピーカーからマイクのスイッチが入る音がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(お、なんかマイクが入るのか?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『合戦準備、艦内非常閉鎖っ…!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……は?

今なんて入った?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かっせんじゅんび?

 

 

 

 

 

 

 

 

マジで?

 

 

 

 

 

 

 

 

ガタッ、ダッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は慌てて食器を投げるように置き場に置き、

電信室へとひた走る。

 

 

 

 

 

 

 

途中受け持ちの閉鎖ハッチやら通風口やらを

閉じながら、大きく息を吸い込む。

 

 

 

 

 

 

 

「こいつぁあ面白いことになりそうだっ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

全然面白く感じてなど無く、

むしろやや震えていたのだが、

自分を奮い立たせようと頭にない事を口に出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やるからにはちゃんとやろう!

 

 

 

 

 

どうせすぐ脱ぐ作業帽をやや深めに被り直し、

自分の向かう場所に向かった。

 

 

 

 

 




前話のあとがきで、今回戦闘が
ある様な描写をしたな?




あれはミスだ!(すみませーん!)





戦闘回は次回に持って行きます。


予告作ってから次回を書こうとすると
失敗するのがよくわかりました。

反省します。








予告はあまり詳しく書かない様にします。



『むらさめ』と『いかづち』の
第1護衛隊の海上警備部隊。


謎の船舶”らしい”ものからの発砲。




海上自衛隊創立史上初の戦闘。

…平和は終わった。




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