桜と海と、艦娘と   作:万年デルタ

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———雲龍は困惑していた。


『———なぁ菊池3佐。
今なら間に合うかもしれぬ、
父島に引き返して戦うべきだ!
後方の憂いを取り除いてから
マーカスに向かえばよかろう…?』

『航空戦力を投入しましょう!
貴隊の空母艦載機を飛ばし、
父島にいる軽空母へと
着艦させればいいのでは?!』


———無線機から流れる
喧騒に対して、ではない。


「いいえ、私は反対です。

まず、引き返す件についてですが
この艦隊は進み過ぎました。
最早、後の祭り以下の野次馬です。

それに仮に引き返したとしても、
現地の補給艦の搭載燃料では
当艦隊の全艦に補給は不可能です。
弾薬を浪費する上、マーカスに
投入すべき戦力が少なくなります。

次に艦載機を向かわせる件ですが、
着艦できるのは10機かそこらかと。
編隊の到着も、時速300kmで
急行したとしても5時間後。
———間に合いません。
それに、当艦隊の航空戦力を
ドブに捨てる形になりますから、
結論としては父島は“見捨てます”。

守備部隊には守備部隊の、
我々には我々にしかできないことが
あるはず、それを行うだけです」


———その原因は提督。


「———全艦、針路速力このまま。
行動予定に変更は無い、
父島は妙高や飛鷹、そして陸自や
空自の部隊に任せておく」

素っ気なく話す提督。
だがその目は強く閉じられている。

(やっぱり辛い、のよね…)

そんな提督に対して、
雲龍はどんな声を掛けるのか…。









2-9a 陽動の目的 【提督、守備部隊】

…その数時間前。

 

『加賀』士官室

 

 

 

「———別の敵が父島に対して

襲撃をかけるかもしれない、と…?」

 

加賀は村上に問うた。

 

「ああ、菊池はそう踏んでいる。

確かに俺たちは西之島の敵艦隊を

壊滅させ、西方の制海権を取った。

…だが敵は深海棲艦、いきなり

大艦隊が現れても不思議じゃない。

 

少し違うかもしれんが、

例えると将棋の『持ち駒』だ。

 

敵は何の前触れも無く、

艦隊を出現させたりしている。

未だその条件等はわからないが

ある程度コントロールできるようだ。

その証拠に、以前の父島沖海戦や

西之島沖海戦では大量の敵潜水艦が

神通や曙たちに襲いかかっている…。

 

それに引き換え俺たちは

後方と前線が離れ過ぎている。

つまりお互いを援護できない…」

 

端末のキーボードを叩きながら

隊付である村上は重々しく語る。

加賀はため息を静かに吐き、

険しい顔で腕を組んだ。

 

(もし父島にいる『妙高』や『飛鷹』が

襲撃されてしまったら小笠原は…。)

 

加賀は最悪の場合を思い浮かべたが、

それと同時に冷静な判断もしていた。

 

 

「…間に合わない、ですね。

艦隊が反転するのは論外。

艦載機を飛ばしても片道ですし、

それに何より、この艦隊の

存在意義が無くなります。」

 

加賀は言葉を繋げた。

 

「そうだ。

硫黄島には航空部隊及び

対艦・対空ミサイル部隊がいる、

直接攻撃するのは厳しい。

だがその北にある父島なら———」

 

「———敵はまず地上の部隊を攻撃し、

慌てて飛んできた航空部隊を迎撃。

日本本土と硫黄島の中間である父島は

あっけなく陥落、そして深海棲艦は

小笠原諸島を手中に収める、と…。」

 

加賀が言葉を引き継ぎ

村上はコクンと頷いた。

 

「当然それを想定してはいるが

さて敵がやってきたぞ、となったなら

硫黄島の航空部隊が対処せねば

これを撃退できないだろう…。

かといって全力を出し尽くせば

硫黄島自体が攻められかねん…」

 

 

2人は苦い顔をした嘆く、

進むも退くも地獄であると。

 

だが加賀はすぐに頭を切り替える。

 

 

「…それで、これを提督は

どのようにお考えなのでしょうか?」

 

「いま加賀が言った通りだ。

数日前と同じく見捨て———

いや、見捨てるってのは少し違うか。

 

確かにこの艦隊はマーカスへ直行し、

仮に父島に襲撃があっても反転しない。

だがそれは菊池にとっても

それは苦肉の策だろうさ」

 

村上はそう答えると、

何かを思いついたように語り始めた。

 

 

「あれは教育隊の時、陸上警備の

教務担当教官の発した言葉で

ちょっとした口論があってな…。

 

 

“仲間を見捨てて逃げるなんて

私は真っ平御免なんですよねェ。

———まァ、どうしてもというなら

教官を説得して差し上げますが…?”

 

 

奴が教官に喧嘩腰で言い放ったんだ。

 

 

“———状況、撤退戦。

分隊の仲間の中から有志、

又は推薦にて足止め部隊を編成する。

つまり、囮隊員が奮戦して

本隊の撤退をサポートするんだ。

…ん、どうした菊池学生?”

 

教官がそう言った後、奴は言ったんだ。

 

その教官としては悪気はなく、

“もしも”の場合を想定するという

至って通常の訓練だった…」

 

村上は卓上の麦茶を口に含んだ。

 

「俺や他の同期たちが

その問題に答えかねていたら

菊池が手を挙げ、そう答えたんだ。

奴が教官に歩み寄った時は

全員が止めに掛かったな、

てっきり殴り掛かると思ってな。

結果的に殴りはしなかったんだが。

 

チョークが教官の近くにしかなくて

それを借りに近付いただけだった。

そして書かれた戦況図に書き込み、

各班の役割や目標を説明して

全員が生還する戦術を提示した」

 

村上はそこまで語ると

残っていた麦茶を飲み干した。

 

「———っと失礼。

菊池としては、小笠原だけで

やれると打算しているそうだ。

腹案には程遠いがな…」

 

 

(提督らしいエピソードね…。)

 

 

仮にといえど仲間を犠牲にする

作戦に対して異を唱えるその高潔さ、

そして純情さを持った提督。

 

 

『さすが提督だ。』

 

『この人が提督でよかった。』

 

 

この話を平時に聞いていれば

感じることももまた違っていただろう。

…だが今は違う。

 

(敵が来ないことを祈る。

それしかないのかしら、ね…。)

 

加賀は胸中でそう願った。

 

 

※※※

 

 

———時間は戻る。

 

 

雲龍はどう話し掛けたらよいか

言葉を選びかねていた。

 

(鳳翔さんや加賀さんなら

気の利いた言葉を言えるのかも…)

 

 

『父島西方に敵大規模艦隊。

空母数隻、敵戦闘機の発艦を確認。

本機は退避に移る』

 

 

硫黄島を離陸した哨戒機が

父島西方に敵艦隊を視認。

 

 

通信が終わった後の沈黙、

哨戒機の安否を暗示するかのようだ。

 

提督や連隊長が睨んだ通り

やはり別働隊がいたようだ。

 

程なくして当該機から

無事振り切ったと報告があり、

安堵したのも束の間。

この敵艦隊にどう対処すべきか

指揮官クラスによる検討が始まる。

 

 

“奪還部隊を戻すにしても

時間がかかりすぎるぞ”

 

“では父島を見捨てるというのか?

何らかの支援は出すべきだ”

 

 

支援不要派は3割、

何かしらの形で要支援派7割。

 

そして提督、

菊池3佐は不要だと言い切った、

———激情を押し殺した言葉で。

 

目を閉じ眉間に皺を寄せている。

司令席の肘置きを力の限り掴み、

心の内を声に出すまいと。

 

 

……

 

 

やがて傍でたじろぐ雲龍に気付き、

あ~参ったまいった、と苦笑いした。

 

「敵もなかなかやるよな、

コッチの奪還作戦を妨害しようと

必死になってるのがよくわかる。

 

ああ、心配しなくていいぞ。

別に諦めたり達観してないし、

ちょっと不安になってただけさ」

 

やや陰が残る提督の顔であるが、

それでも雲龍は少し安堵した。

 

「ここからでは父島の部隊に

支援は送れない、ものね…」

 

「それが揺るがない事実だから

悔しさを堪えて受け止めるしかない」

 

提督は続ける。

 

「仲間を見捨ててでも、

国民を守るのが軍人だ…。

それが同期の仲間であっても、だ…」

 

自嘲気味に語る提督を

見つめることしかできなかった。

 

彼の見つめる先の空に写るは

亡くなった隊員たちだろうか。

 

「でも約束したんだ、

“俺がなんとかする”って…。

アイツに艦娘を紹介するのは

無理になっちまったけどね…。

 

それに父島にいる妙高たち、

かなり心配はしてる。でも彼女たちを

信頼して残ってもらったんだ、

それを疑うのは提督失格だろ?

敵に空母が居るようだが、

飛鷹と空自の戦闘機がいる。

島には陸・空自のミサイル部隊もいる。

 

それに……」

 

「それに…?」

 

雲龍が問う。

 

「陸自の連隊長が言ってくれたんだ、

 

“俺は後方守る、

前線はオメェに任せる。

後ろは任せろ、

父島は俺がどうにかする!”…って。

だから、俺は…頑張らないと。

 

おれたちはマーカスにいく。

みんなを、しんじてるから…

きっと、みょうこうたちも

それをねがっているから…」

 

 

(……提督?)

 

 

そして雲龍は見た。

 

 

前方の空を見上げたままの提督、

その頬からポタポタと滴る光。

 

その正体に気が付かぬ雲龍ではない。

彼女は提督を優しく抱き締めた。

 

(これが“男泣き”なのかしら…)

 

雲龍の胸の中で静かに泣く提督。

 

(そうね、不粋な言葉を掛けるより、

抱き締めた方がいい時もある…)

 

「私、ずっと隣にいますから。

……だから、大丈夫です」

 

それだけを言うと雲龍は

子どもをあやすかのように

提督の頭を撫でる。

 

まるで母親が子供に対して

静かに愛情を注ぐかのように。

 

 

☆☆☆

 

 

提督は泣き虫ではない。

———いや、泣き虫ではなかった。

 

だが提督になってからは激務、

特に“命”のやり取りをするという

倫理から逸脱した戦争をしており、

精神的疲労が著しい。

 

日常では「セクハラするぞ!」と

艦娘にちょっかいを出しつつも、

戦闘中においては皆無である。

 

戦闘が落ち着けば別であるが、

それでも抱き締めたりする程度。

 

本人は自覚は無いが一種の

精神的支柱を欲していたのだ。

 

詰まる所、彼は安らぎを求めていた。

 

 

彼はいい歳の大人といえども

精神は成熟したと言い切れず、

それを支える存在が必要であった。

 

この場合では雲龍。

そして村雨然り、加賀然り…。

 

 

———提督は純情だ、

余りに純情過ぎるのだ。

汚さを知ってしまったために

反抗するかの如く、真っ直ぐ生きる。

 

『俺は絶対にクソ野郎にはならねぇ!』

 

時たま出会う“腐った”上官や政治家…。

そんな者たちに媚びへつらう必要は無い、

彼にとっては反面教師程の存在だ。

 

 

自衛官とは軍人と同等の存在。

本来なら軍人とは非情を必要と

されるのであって、純情など不要…。

 

 

ある意味提督は軍人失格かもしれない。

だが艦娘にとってそれは

心地の良いものであった…。

 

普段の彼を見ればわかる。

セクハラ云々を堂々と隠さず言う、

思ったことはすぐ口に出す。

 

文面上は明らかに変態であるものの、

裏を返せば隠し事をできないタイプ。

つまり嘘は言えないが

喜怒哀楽がはっきりしており、

だからこうして我慢の限界がくれば

感情を爆発させてしまうのだ。

 

そんな提督を見た艦娘は思うのだ、

私が支えなければいけない、と。

相互補完とでもいうのだろうか。

 

だが彼の持つ素直な性格も相まって

艦娘からは慕われているのは事実。

 

彼自身もそれを克服して

もっと強くなりたいと考えるが、

そんなことは無いと言う艦娘もいる。

 

 

自称・提督のお嫁さんである

某白露型3番艦の艦娘は言う、

『無理に強くなる必要は

ないんじゃないかしら』と。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

10分ほど経った頃。

 

 

「…ぐすっ、すまんかった」

 

提督は視線を逸らしながら

恥ずかしそうに呟いた。

 

(あら、意外とウブなのね…)

 

雲龍はそう思ったが

顔には出さなかった、

少し提督を可愛いと思ったが

それも心の底に仕舞うことにした。

 

「今更だけどこの作戦、

最初の目的から逸脱してるな。

南鳥島への増援輸送だったのが

硫黄島と父島に振替えられたり、

西へ行ったり東に向かったり…。

 

そしてやっとマーカスと思ったら

まーた父島に敵がやってきた、と。

 

…これはあくまで俺の推測だけど

この場面で父島に襲来するのは

やはりこの艦隊を足止めさせ、

奴らの目的を達成させる為だ。

 

非情ではあるが、艦隊はこのまま

東進するのが正しいだろう。

きっと軍人としては正しいが

ヒトとしては失格なのかもしれない…。

 

小笠原の住民と本土の国民、

2つを天秤に掛けるのであれば

本土の国民に傾くだろう。

 

だが、小笠原には仲間がいる。

連隊長や妙高たち、そして硫黄島の

航空部隊を俺は信じている…」

 

「誰が提督を責めるというの、

そんなこと誰もしないわよ…?

他の艦娘だって自身の無力さを

嘆いたとしても、提督の采配に

文句がある訳ではないわ。

 

私たちには私たちの戦いがある、

それを伝えるだけでいいと思うわ…」

 

微笑みながら語る雲龍、

そして提督は気持ちを入れ替える。

 

「そうだな、サンキュー雲龍。

改めて、よろしく頼むぜ…」

 

 

<<グゥ~…>>

 

 

提督の腹時計、

それは2人を現実に引き戻す。

 

「……クスッ」

 

提督は普段の明るさを取り戻しつつ

やや照れながら腕時計を見る。

 

「Oh…すんまへん腹減りました。

って、もうこんな時間か」

 

 

タイミング良く妖精が現れ

2人に配食可能を告げた。

 

「クヨクヨしてもしょうがない。

まずはメシ、悩んだところで

何もできないのは明らかだしな!」

 

「それでいいと思うわ。

その方が提督らしいし、堂々と

してくれた方が艦娘としても嬉しい。

それに———」

 

「…それに?」

 

 

“私も提督の笑顔が好きだから…”

 

 

「な、何でもないわ。

さっ、食事が冷める前に食べましょ?」

 

「お…おう、そうだな!」

 

 

奪還部隊は進む、

後方の守りを仲間に任せて。

 

奪還部隊は邁進する、

迷いと憂いを拭い捨てて。

 

提督は後ろを振り向かない、

仲間を信じているから。

 

 

———そして提督は信じる、

艦娘そして戦友の奮戦と勝利を。

 

 

(頼むぞ、みんな…。

陸自と空自、そして航空隊や

護衛艦も艦娘を頼む!

マーカスは俺が必ず奪還する…!

———それでいいよな、山下…?)

 

 

提督は空に目を向けて

鬼籍に入ったであろう同期に問うた。

 

憎いほど綺麗な空からは

彼への答えは返ってこない…。

 

 

空は拒否するかのように…。

 

はたまた、元からそこには

戦死者の魂は無いと言わんばかりに…。

 

 

 

 

※※※

 

同時刻

硫黄島航空基地

 

 

硫黄島にある航空基地では

慌ただしく出撃準備が行われていた。

 

 

「空自の戦闘機を先に飛ばすんだ、

武器整備班についてはP-1への

ミサイルと対潜爆弾を急がせろッ!」

 

海自の航空隊司令が指示を飛ばす。

隊員たちは急ぎつつも確実に

哨戒機の発進準備を整える。

 

一方、戦闘機は既にミサイル等の

対空兵装を装備して待機していた。

 

かつて『支援戦闘機』と呼ばれた

F-4EJ改は対艦ミサイルも積めるが、

今討つべき敵は敵航空機。

 

 

敵に空母が居る、

となれば此方も戦闘機が必要…。

 

 

空自のF-4戦闘機の発進を優先させ、

海自哨戒機部隊は弾薬を積めるだけ

搭載し、敵艦隊へと向かう手筈だ。

 

硫黄島自体が襲撃される可能性も

ゼロではないため全力出撃では

ないものの、可能な限り飛ばす。

 

 

F-4戦闘機が持つ二つのエンジン、

国産ターボジェットJ79-IHIが

轟音を轟かせ、聴く者を勇気付ける。

 

F-2やF-15に搭載されている

ターボファンエンジンとは異なる、

爆音ともいえる雄叫び。

 

燃費よりも速力重視の性能、

それは戦うモノに許された特権。

 

 

『———March01, Iwoto tower.

 

≪302SQ 1番機、こちら硫黄島管制塔。≫

 

Order vector 160,Climb and maintain

angle 32,Squawk XXXX.

 

≪目標方位は160度、離陸したのち

高度32,000フィートを維持、

トランスポンダはXXXX。≫

 

離陸後はExcel(早期警戒機)lによる管制を受けよ。

海自のSea Eagle(第3航空隊)については

貴隊が発進してから、

準備出来次第離陸の予定』

 

『———01, Wilco.

敵艦載機は俺らに任せてくれ』

 

『頼もしいな、期待している。

 

———Taxi to holding

point E1, using Runway 07.

≪停止位置E1まで滑走せよ、

離陸滑走路は07である。≫』

 

 

滑走路の手前でF-4は一時停止する。

滑走路上の安全が確認され、

管制塔から進入許可が下りる。

 

F-4は間髪入れずに離陸位置へ移動、

パイロットは固唾を飲んで待機する。

 

 

『———Wind 100 degrees

at 3 knots, Runway 07.

≪滑走路07における風向風速、

100度から3ノットである≫

 

———Cleared for take off.

≪離陸を許可する。≫

 

———Good luck, Murch!!』

 

 

1番機に続いて各機は

大地を蹴って大空へと羽ばたく。

 

指示された巡行高度に向かい、

敵編隊の予想進路に向首する。

 

(今回はミサイルを温存して

機関砲で仕留めていくしかない。

迎撃任務ではなく爆撃だったら

いっそ無誘導爆弾を使いたかったが、

準備できなかったのは痛いな…)

 

飛行隊長は後悔したが今は

迎撃に専念すべきと頭を振った。

 

やがて早期警戒機から

敵編隊のデータが送られてくる。

 

前回の敵機動部隊空襲、

そしてこの迎撃作戦と

引っ張りだこの、空自F-4戦闘機。

 

(コイツもしばらく引退できんな…)

 

戦う機会を与えられて

機体も喜んでいるに違いない、

そんな考えがちらと浮かんだ。

 

「狙うは敵爆撃・雷撃機編隊、

戦闘機は余ったガンで落とせ。

プロペラ機とドッグファイトして

落とされました〜、なんて

マヌケな奴は居ないよなぁ?!」

 

『流石に居ないっすよ!』

 

『そう言ってるお前が

いつもやらかしてるだろうに』

 

『違いねぇや!』

 

 

編隊を組みつつ

やや軽い言葉を交わす。

 

……

 

その電波は父島沖にいる

艦隊でも受信されていた。

頼り甲斐があるというか、

慢心しているのではないかと

やや心配する者もいたが、

その腕を疑う者は居なかった。

 

先日の攻勢において発揮されたチカラ。

 

ファントムⅡ(幻影)は未だ健在なり、と

戦闘結果で示した第302飛行隊。

 

深海棲艦が現れる前のこと、

何事も起きなければこの部隊は

米国開発のF-35へと機種変換する

計画であったが、空幕は情勢に鑑み

その戦闘機保有定数を増やすことを

決定し、本飛行隊は現状維持のため

その更新計画は先送りになった。

 

しかし数世代前の戦闘機であっても

そこはやはりジェット戦闘機、

プロペラ機に負けるはずもなく…。

 

老体に鞭を打ち、亡霊は飛ぶ。

 

 

 

そんな通信を聞きつつ、

艦隊は対空戦闘に備える。

 

 

※※※

 

 

父島沖

守備艦隊

 

 

「砲弾を弾薬庫から搬出して

すぐに装填できるように、急いで!」

 

 

全ての高角砲には妖精が配置され、

空襲前の打ち合わせが行われていた。

 

大淀と秋月が装備している

長10cm連装高角砲では、

砲弾の運搬作業が行われている。

 

即応弾は可能な限り装填されているが

それが切れてしまえば…沈むしかない。

もし即応弾を使い果たせば、

人力で装填を行わなければならない。

 

そこで戦闘前に、砲架下へと

主砲弾を集積することにしたのだ。

 

 

しかし砲弾というものは

存在自体が危険であり、

それを装甲に覆われた弾薬庫から

大量に出しておくことは厳禁だ。

 

艦娘たちからも反対意見が出たが

秋月と大淀はそれらを押さえ込んだ。

 

“戦艦や重巡ならまだしも私たち

軽巡や駆逐艦は装甲は皆無です。

1発でも被弾すれば致命傷になります、

それならとにかく撃つしかないんです!”

 

要は、やられる前にやるしかない。

 

 

『迎撃にあたり、最終確認をします!』

 

大淀は高らかに通達する。

 

『我々は防空の最後の砦です。

まずは空自戦闘機が側面から奇襲、

攻撃機を優先に狙ってもらいます。

 

島の空自部隊と護衛艦から

対空ミサイルを発射、それを抜けた

敵機を艦娘が高角砲や機銃で迎撃…』

 

大淀に代わって、秋月が引き継いだ。

 

「情報によりますと、敵編隊は

戦闘機が少数で攻撃機多数とのこと。

50機ほどの編隊が3、4つで飛来中、

先日の空襲以上の激戦が予想されます」

 

秋月の脳裏に浮かぶは記憶、

つい先日の空襲での被害。

 

「護衛艦による援護も前回より

多いですが、敵は深海棲艦です。

無傷とはいかないでしょう…」

 

だが、やらなければならない。

 

「敵が15km以内に入りましたら

主砲、副砲や機銃…ありったけの

砲熕兵器を投射してください!

提督や任務部隊指揮官からは

既に許可はいただいています!」

 

つまりここが踏ん張り所、

後のことは考えず戦っていい。

タマの無い軍艦は只の的だ、

それを考慮しての許可だ。

 

「この秋月、力不足かもしれません…。

ですが司令と約束しました、

“大切なモノは必ず守り抜く”と…。

自惚れや慢心などありません、

只全力を尽くすのみッ!!」

 

秋月に迷いは無かった。

 

持っている力を出す、

それだけを愚直に守る。

単純かつ最善の方法。

 

『迎撃機はどうするの?』

 

艦隊唯一の空母、飛鷹だ。

 

「航空戦力は欲しいですね!

ですが96式艦戦では敵のF4Fと

やり合って厳しいのでは?」

 

『私もそう言ったんだけど

妖精たちが飛ばせって五月蝿いのよ…』

 

無線から聞こえる飛鷹の声には、

搭乗妖精であろう複数の掛け声。

 

やられたら脱出すりゃいいだろ、

というツワモノもいるようだ。

 

「では性能差があると思いますが

是非戦闘機隊を出してください。

無理に撃墜しなくとも、敵の編隊を

崩すだけで十分な活躍になります!」

 

それと味方の対空砲火にはご注意を、

秋月は一言だけ付け足した。

 

 

(今度こそ、というのはダメですね。

司令…お任せください、

この秋月が艦隊と島を守ります!

全て私の大切なモノですからっ…!!)

 

 

優しいだけではだめなのだ、

時には冷徹にならねばならぬ。

過去は変えられないのだから…。

 

 

先日のように、艦長室で

カコを悔やむ秋月はいなかった。

 

「秋月、推参しますッ!!」

 

そこにはイマだけを見ている

防空駆逐艦『秋月』がいた。

 

 

……

 

 

 

 

 




奪還艦隊が南鳥島手前に来たら
敵が父島に襲撃を掛けてきました。

なお、本文中の航空無線については
適当なので突っ込みどころ満載です。
硫黄島の滑走路番号については
Goo●leマップにて検索し、
停止位置は勘ですのでご容赦を…。

17秋イベで涼月が登場しましたね!
護衛艦『すずつき』も居ますので
落ち着いたらドロップさせたいな、と。

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