桜と海と、艦娘と   作:万年デルタ

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父島沖 臨時泊地


遂に艦隊は補給を終え、
決戦の地であるマーカスへと向かう。


本来ならマーカスへ増援部隊を
輸送・護衛するだけの任務だったのが、
気付けば艦船の被害も無視出来ず
更には戦死者を出すという有様だ。

平和国家日本は戦争に突入していた。


(“遂に”マーカス、というよりも
“やっと”というべきかもな…)


独り心で毒を吐くが
今は気持ちを入れ替えねば。


『全艦、陣形を形成せよ。
陣形は対潜警戒陣形である』


任務部隊指揮官から無線で命令が下る。

既に主機の暖機運転を済ませ
艦隊の各艦が待ちに待った時が来た。


「よし、先に指示した通り行動せよ!
対潜警戒を厳としつつも、
経済速力で一路マーカスへ向かうッ!!」


『『了解ッ!』』


☆☆☆☆


●マーカス奪還部隊

○護衛艦部隊
(護衛任務部隊旗艦:ひゅうが)
※非戦闘艦である補給艦等は分離済。


・DDH1
『ひゅうが』

・護衛艦 多数
イージス護衛艦3を含み、
専ら対空・対潜任務に従事。



○艦娘(101ED旗艦:雲龍)22隻

・空母4

『加賀』『蒼龍』
『雲龍』『千代田』

・戦艦3

『金剛』『霧島』『伊勢(小破)』

・重巡3

『足柄』『愛宕』『筑摩』

・軽巡3

『阿武隈』『川内』『鹿島』

・駆逐艦9

『白雪』『漣』『雷』
『村雨』『夕立』『五月雨』
『高波』『島風』『照月』


●小笠原守備艦隊(残置・警備)

※対潜警戒の為DDHを2隻配備。

防空用にイージス艦2隻、
艦娘の『大淀(被害軽微)』
及び『秋月』を配備。


○護衛艦等(旗艦:いずも)

・DDH2

『いずも』『かが』

・DD等

『きりしま』等のイージス護衛艦2、
対空護衛艦及び汎用護衛艦多数。

・補給艦等の非戦闘艦 全艦

・徴用民間タンカー5隻
及び『新おがさわら丸』

○艦娘(旗艦:妙高)17隻
※暫定的措置としてドロップ艦娘も
この部隊の統制下に入れる。
『★』は新ドロップ艦娘を意味する。

・軽空母1

『飛鷹』

・重巡2

『妙高』『利根』

・軽巡5

『天龍(大破)』『大淀(被害軽微)』
『龍田★』『鬼怒★』『大井★』

・駆逐艦9

『松風★』『長月★』『望月★』
『朝潮』『満潮』『黒潮』
『親潮』『秋雲★』『秋月』


●潜水艦部隊(旗艦:ずいりゅう)

・潜水艦4

第2潜水隊所属
『うずしお』『なるしお』
※上記2隻は2SD所属だが、
本作戦では4SDが統制を取っている。

第4潜水隊所属
『ずいりゅう』『やえしお』





2-7 反攻作戦と足枷 【作戦直前、潜水艦部隊視点有り】

 

 

こうしている間にも敵は

既にこちらを迎え撃つための

準備をしているかもしれない。

 

時間というものは有限、

しかし最新の敵情勢は不明だ。

 

 

「またかよ…

急に人工衛星が失探するとかマジねぇよ。

とにかくこれはヤバいぞ…」

 

 

逐次継続していた人工衛星からの

地表解析や偵察が途絶えたのだ。

 

———それも“何故か”作戦海域に限って…。

 

 

解析を担当する防衛省情報本部は

原因を調査したが、衛星の動作状況は

至って良好であった。

 

 

これが意味するのは単純。

 

 

『深海棲艦は謎である』

……ということであった。

 

 

父島付近の海域は映せるが、

敵強襲揚陸艦隊がいるはずの

南鳥島周辺の衛星画像は

解析不能となってしまった。

 

 

(これが“戦場の霧”ってやつか…)

 

 

他国の商用衛星や軍事偵察衛星も

当該エリアを見ることができなかった。

 

相変わらず肝心な時に使えない

現代科学技術の結晶。

天候が良いのか悪いのか、

そんな単純なことさえ掴めない。

 

まるでゲーム画面の様に

当該地域だけ“(もや)”が掛かっていた。

 

 

(最後は肉眼と近接してからの

レーダーによる直接探知が武器になる…)

 

 

部隊指揮官は硫黄島の海自哨戒機

並びに空母・重巡の偵察機へと

偵察飛行をさせることに決めた。

 

時機はまだであるが、いずれ

命令が下ることになるだろう。

 

 

俺はそれに従い指示を出した。

 

 

「偵察機搭載の艦娘に告ぐ、

知っての通り人工衛星の不具合により

最新の敵情が掴めていない。

 

我が艦隊が欲するは敵艦隊の編成だ。

 

天道様(てんとさま)は深海棲艦に味方している

ようだがそんなのどうでもいい。

 

先日も敵機動部隊を発見した。

偶然、それとも気合か…?

本当に偶々だったのかもしれない」

 

 

横の雲龍を見れば目を閉じている。

 

寝ているのか?と思ったが、

彼女は精神を集中させていたのだった。

 

やや満足感を覚え、再び語り始める。

 

 

「なぁに、難しいことは

これっぽっちも考えなくていい。

 

ズバリ“必見必逃”だッ!

それを胸に刻んで飛べばいい!

 

敵の位置はわかってるんだ、

見つけたら“あっかんべー”して

尻まくって逃げりゃあいい!」

 

 

『そんな簡単にいったら

苦労はしないんだけどねぇ…』

 

 

『それ言ったらダメでしょ〜。

千代田はもっと肩の力を抜いて

リラックスしないと!』

 

 

愚痴を零す千代田へ

蒼龍のやや意味深なアドバイス。

 

 

(これって暗に千代田の“おムネ”の

ことを指してるんじゃないか…?)

↑うん、当たり

 

 

『ま、まぁそうかもね…』

 

 

『そうかも、です!

司令官の言う通り、力み過ぎは

ヘタしたら戦果にも関わってきます。

でも司令官の言うことは

決して間違ってないかも、です…?』

 

 

おいこら高波、

珍しく自ら意見を言ったと思ったら

“かもかも神拳疑問流派”になってるぞ。

 

“秋津洲”がドロップしたら

正統伝承者の座を奪われる、かも…?

 

 

「ま、高波の言う通りさ。

確かに俺たちは急ぐ必要がある、

敵が態勢を整えて攻勢に出てくる

可能性は低いわけじゃないしな。

 

…だが“焦り”と“力み”は

此方を危険に晒すかもしれない。

求めるは“確実な殲滅”であって

“可及的速やかな殲滅”じゃない。

 

そこんとこだけ覚えておいてくれな?」

 

 

ハタから聞けばのほほんと、

しかし内容はやや厳しめな指示を

さらっと艦娘に伝える。

 

 

(そう、焦りは要らないんだ。

だって急いで助けるべき人は

マーカスに“もう”いないしな…)

 

脳裏に浮かぶは死んだ隊員たち。

せめて彼らが安らかに眠れるように

俺は静かに祈ったのだった…。

 

 

……

 

 

———その時、雲龍は確かに見た。

 

 

苦虫を噛み潰したように顔を歪ませ

己の良心の呵責を感じる提督を。

 

 

(きっと提督が一番苦しんでいるわ…。

 

彼に声を掛けられない私は弱い。

でも今の私に出来ることは

確実にこなし彼を支えること…)

 

 

先日まで旗艦であった加賀や

金剛と比較すると、雲龍は提督と

必要最低限の話だけ行っていた。

 

関係がギスギスしている訳ではなく

単に艦隊運営の業務が忙しいためだ。

 

雲龍が提督に気を遣って普段より

静かにしているのもあった。

 

 

(それに———)

 

 

提督は時折、何処か遠くを見ている。

彼が見ているのは一体何か。

 

それは生きる者たちの未来(希望)か?

 

それとも———

死んだ者たちの過去(絶望)か。

 

 

その答を知る者は居ない…。

 

 

………

 

 

———数時間後

 

 

雲龍は悔しさを感じたものの、

すぐさまそれを熱意に昇華させた。

 

普段の見た目からは想像もつかない

彼女の凛とした熱意と信念は、

決して表に現れることはなかったが

艦載機妖精たちへと伝播していった。

 

 

「オラァ!偵察機発艦するぞ、

とっとと機体から離れやがれッ!!」

 

 

「お前だけにいいとこ取りはさせねぇ!

次は俺が偵察だ、

それまで精々何にもない

ベタ凪の海でも眺めてやがれッ!!」

 

 

偵察機の妖精たちが

敵艦隊発見の手柄を争う。

口は悪いものの、だがどこか

優しさを感じるのは気のせいか。

 

発艦した機体を見送った妖精は

小さくなる機影に祈りつづける。

 

 

(頼むぜ、兄弟…!)

 

 

護衛艦を含む艦隊全体が

空母から飛び立つ偵察機へと

熱い視線と期待を送っていた。

 

 

世界各地で頻発する各国海空軍による、

深海棲艦との攻防で生まれた迷信。

 

 

“旧式艦の化け物共、深海棲艦に

対しては同じ旧式の装備が有効である”

 

 

これは自衛隊内でも広まっていた。

ある種の神頼みとも思えなくないが、

それは艦娘の奮戦への評価とも言えた。

 

 

☆☆☆

 

 

護衛艦と艦娘が全力で小笠原諸島に

進出しているのと同時期の本土。

 

日本本土周辺では深海棲艦が発見され、

航空自衛隊のF-2及びF-4戦闘機による

対艦攻撃が行われていた。

 

テレビのニュースではそれが淡々と

流れており国民の大多数は

 

『へぇ〜、なんか怖いなぁ』

 

という他人事のような心情であった。

 

 

———東京湾事案の直後から、

毎日の様に深海棲艦を発見したとか

それを自衛隊が攻撃したというニュースを

テレビ各局は特番を組んで流した。

 

だが国民は、それを日常又は

何処か遠くのことと思ったのか、

しばらくして慣れてしまった。

 

無論、海運業や漁業関係者は

他人事ではないため、ニュースが

流れるたびに一喜一憂した。

 

 

『自衛隊さん、どうにかしてくれ』

 

 

そんな声が各基地や周辺の飲み屋から

聞こえてくるとの隊員からの報告もある。

 

 

———その一方で他の国民は

とある不満を持っていた。

 

 

『政治家はアテにならん。

自衛隊や海保が身体を張って

海の上で頑張ってるのに、

あいつらは国会で何してやがる』

 

 

これはインターネット上の掲示板から

抜粋した書き込みであるが、

殆どの国民の心中を

この書き込みが代弁していた。

 

国民の政治家への反感が今後

どのように提督や艦娘へ影響するか、

この時点では誰もわからない……。

 

 

☆☆☆

 

 

艦上・水上偵察機が、

やや時間を開けてながら

発進し敵艦隊の編成を探る。

 

護衛を伴った第一波偵察部隊が、

間も無く敵機動部隊に接敵する頃だ。

 

 

「敵艦隊がいる地点まで150km。

対空・対潜警戒はこのまま厳で

航行するけど、あんまり力むなよ?

 

話した通り、俺たちはあくまで“囮”。

味方潜水艦が襲撃しやすいように

敵を陽動するのが目的だからな」

 

 

『敵が私たちが来ているのを

察知してる、っていう前提で

作戦を進めるのはどうなのかなぁ?』

 

 

伊勢の疑問は鋭い。

 

 

「確かにそうだな。

場合によっては敵は反転して

本隊と合流したり、分離散開して

ゲリラ襲撃を仕掛けてくるかもしれない。

 

まぁ後者は無いかもしれんな、

敵は現代の装備を知っているから

必然とこちらがレーダーを使用して

いるのは知っているだろうしな。

あわよくば時間稼ぎ程度にしか

ならないだろうし、その時点で

決着はついた様なものか…。

 

敵空母群は無力化し沈黙している。

…ならば、そこから予想される

敵の動きは次の3つに絞られる。

 

 

1、空母を見捨ててマーカスに合流。

 

 

2、その場に居座り水上戦。

 

 

3、こちらを捕捉次第突入、

そのまま乱戦に持ち込んでくる。

 

 

もし敵が非情な策として

無力化した空母を盾に使った場合、

被弾の確率も下がるしこちらを

混乱とはいかなくとも撹拌させる

ことができるだろう。

 

俺なら3番を選ぶかなぁ…」

 

仮に乱戦になったとしても

俺は艦娘を盾にはしねぇけどな、

と一言付け加えた。

 

 

「潜水艦が接敵しているとはいえ

あくまでソーナーによる“耳”での

観測だから、衛星が使えない今は

偵察機からの報告を待たないとだな。

 

報告が入ってくるまでは

別命がない限り待機しておこう。

適度な緊張を持ちつつも、

のびのびするのがよろしいにゃしい…。

 

俺はちと部屋で休むから

そんな気張らずに行こ〜ぜ、なっ?」

 

 

『折角いい締まりだったのに最後で

気が抜ける声を出すな、馬鹿野郎』

 

 

“加賀”にいる村上だ。

 

 

「だって疲れたしぃ〜…。

休む時は休まないと

いざという時に頑張れないぜ?

大丈夫、俺は目覚めいいから

呼ばれたらのっそり起きるって!」

 

 

『そこはすぐ起きるんじゃないんですね…』

 

 

霧島が苦言を言う。

 

 

「だって俺朝に弱いしぃ〜…」

 

 

『『弱いんかい…(ですか…)』』

 

 

「そりゃ朝はギリギリまで

布団に包まっていたいだろ?

でも遅刻はしたことないから

そこは安心してくれたまえ諸君ッ!」

 

 

『『なんだか不安だ(です)…』』

 

 

決戦へと船足を進める艦隊は

心の緊張を互いに解す。

 

艦娘も妖精もそれに笑い、

護衛艦の乗員らもやや明るさを取り戻す。

 

———そんな水上部隊を待ちわびている

とある“海中の忍び”が遠くにいた。

 

 

※※※

 

敵機動部隊近辺 

深度不明

 

 

「——どうやら、我々には

気付いていないようだな…」

 

 

潜水艦『うずしお』の艦長は

静かに息を吐き出した。

 

 

ソーナーマンからの報告で、

「駆逐艦、此方に近付いてくる」

が上がるたび、死の恐怖を感じた。

 

これで何度目だろうか。

 

出港前のブリーフィングでは

深海棲艦が装備していると思われる

聴音機の性能はWW2当時と同等、

もしくはそれより低いとのことだった。

 

だが敵は人間ではない。

思いもよらぬ方法で此方を

探知・攻撃してくるかもしれない。

 

事実、他の海軍においては

何隻か潜水艦が沈められているらしい。

 

それらが原子力潜水艦ではなく

通常動力型潜水艦であることは

地球と人類にとって、せめてもの幸いか。

 

 

「捜索パターンは一定ですし、

警戒しているだけのようです」

 

ソーナーマンである水測員が

聴音から得た結論を述べる。

 

「よし、艦内哨戒第3配備に落とせ」

 

 

艦長の命令で艦内は静かに動き出す。

食事や交代といった行動が許され

乗員の顔色も明るくなる。

 

 

「水上部隊がこの海域へ

進出するまで凡そ20時間。

ふむ、ちと長いな…」

 

 

「浮上したくても上には

敵艦が遊弋してますからね。

予定表通りならこの時間、

他の『ずいりゅう』とかでは

敵の聴音・探知捜索域外で浮上して

適宜給換気及び喫煙してますし…」

 

 

ヘビースモーカーの船務長が

喫煙のジェスチャーをしつつ、

幸せそうな顔をする。

 

タバコが吸いたいです、と顔に

書いてあるかのような口調だ。

 

 

「もうすぐ4SD(第4潜水隊)の『せとしお』が

交代で来るはずだろう。

それまで我慢するしかないさ、

俺はとうの昔に禁煙してしまったが

浮上した時の一本は格別だろ?」

 

 

「そうですね、もう少しだけ

静かに我慢しておくことにします」

 

 

「海自潜水艦初の実戦とはいえ、

いつもの様に訓練通りやればいい。

水上部隊に気付いた敵を仕留めれば

後はなるようになるさ。

 

潜水艦には潜水艦の戦い方がある、

対艦ミサイルにも劣らぬ威力の

長魚雷を敵の船底にぶち込む。

コイツ(うずしお)にもハープーンは

積んでいるが、なにしろミサイルは

弾数とコストがなぁ…」

 

 

艦長は自嘲気味に笑う。

潜水艦部隊も、自衛隊特有の

予算・保有弾薬の問題を抱えていた。

 

 

「これまでマトモに撃ったことは

ありませんでしたし、今回ぐらい

景気良く撃ちましょうや艦長!」

 

 

魚雷や操舵を統括する水雷長が

元気に笑いかける。

 

 

「そういや艦娘部隊指揮官の…、

たしか菊池3佐でしたっけ?、

その人と出撃前に基地の居酒屋で

偶然一緒になりましてね…。

 

“もしかしたら潜水艦の方々にも

戦闘に加わってもらうかもしれません。

いざとなったら、補給とか

国会云々の面倒臭いことは

私がどうにかするんで

景気良く思いっきり頼みます!”

 

って言ってましてね。

ハタチそこらの幹部にしちゃ

度胸と覚悟があるって思いましたよ。

テレビで映ってた時とは違う

本気の熱意が伝わってきましたね。

 

なんと言いますか…

“カリスマ”っていうんでしょうか

見た感じは別に普通なんですが、

誰よりも“仲間”と日本のことを

考えて動いてるって感じました」

 

 

水雷長の熱の篭った話は

艦橋周辺の乗員にも聞こえていた。

 

 

「あ…その菊池3佐なんですけど

私の教育隊時代の同期になります。

そこまで親しかったわけではないですが

彼の評判は有名でしたよ。

 

“大口を叩くが、必ずやり遂げる”

とか

“上官に噛み付くが、

仲間想いのなかなか骨のあるヤツ”

 

と班長たちも言ってました。

 

私も何度も話したことがありますが

大雑把そうに見えて裏では

念密な調整と計画を立てていて

凄い奴なんだと感じました」

 

 

「そういや俺もそんな話を

聞いたことがあるぞ、

たしか———」

 

 

……

 

 

どうやら横須賀では、彼が

“提督”になる前から有名だったらしく

逸話がいくつも発掘された。

 

そんな『うずしお』は2時間後、

『やえしお』と警戒を交代。

安全距離まで進出して浮上、

乗員は戦闘前のひと時を過ごした。

 

 

 

 

“菊池3佐とかいう護衛隊司令が

俺たちに期待してくれている”

 

“基地に帰ったら

奢ってくれるらしいぞ”

 

“1隻沈めるごとに

艦娘を紹介してくれるらしい”

 

 

海自内でもちょっとした

有名人となった提督は

知らぬところで慕われていた。

 

話に尾ひれが付き、

雪だるまの様に大きくなる。

 

 

裏を返せば、潜水艦部隊は

精鋭かつ士気旺盛であると言えた。

今回の海戦に於いては

主役を任せられたのだから。

 

最後のとどめは空母の艦載機

ということになっているが、

初撃は潜水艦による『襲撃戦』だ。

 

 

“———もし潜水艦の艦娘が

現れたら俺たちの部隊に

配備されるんじゃないか?”

 

 

“———性能が違い過ぎるだろ。

仮に同じ部隊だとしても、

隣のフネだから会えねぇだろ?!”

 

 

“———そりゃ違ぇねえや!”

 

 

““———ギャハハハ!!””

 

 

そんな“ジョーク”が聞こえたが

すぐに海上の風に流された。

 

 

 

 

 

———後日、その“ジョーク”は

いい意味で裏切られることとなる…。

 

 

 

 

※※※

 

『雲龍』司令室

 

 

「———へぶしっ!」

 

 

人が真面目に戦術を練ってるのに

誰か俺の噂でもしてんのかよ。

 

ま、いいけどな。

これも有名税ってやつだろう。

 

 

「んで潜水艦と水上部隊との

攻撃のタイミングが重要だな…」

 

 

数時間前にも連絡を行なったが、

戦争を時間通りに行うことは無理。

あくまで目安程度にしかならない。

 

となると、それを考慮した上での

作戦と戦術を練らなくてはいけない。

 

 

(主力艦に砲撃させ、敵に水上戦を

行うように強いるべきか…。

それともさっさと艦載機に

爆撃させて沈めるべきか…。

う〜ん、悩むなぁ…)

 

 

無線で宣言したように自室で

休みつつも、真面目に戦術を練る。

 

そりゃヘタしたら被害が出るからな、

減らせる危険は減らしたい。

 

 

理想的な流れは

 

①水上戦すっぞゴルァ!…と

敵に思い込ませる。

 

②艦載機は命令があれば

発艦できるようにしておく

 

③潜水艦は雷撃できる位置に待機

 

④敵艦隊に雷撃、

間を空けず速やかに爆撃

 

⑤敵は大混乱、まともな反撃も

行うことなく海の藻屑となる

 

 

「…ってなれば理想だけどな〜」

 

 

理想ではダメだ、

そうなるように努力しなくては。

提督の使命なのだから

絶対に妥協してはいけない。

 

 

作戦をいかに緻密に練ろうとも、

実際にその通りになるかというと

そうならないのが戦争だ。

 

これまでも神通たちが大破した

あの『父島沖海戦』もそうだし、

先日の『西之島沖海戦』では

天龍に魚雷が集中している。

 

俺自身、敵が旧式艦タイプだったから

舐めてかかったのは否めないが、

やはり戦争とは予測不能である

ということを痛感させられた。

 

 

「こんなボロ勝ちな状況でも

他国からすれば完勝と思われてるって

のも色々とおかしいけど…」

 

端末を操作しながらボヤく。

新着メールが数件あった。

 

 

……

 

 

海幕からの連絡で、米軍側の戦況及び

米軍の俺たちに対する評価について

しょーもないパワーポイントが

送られてきたのだが、

 

 

要約すると…

 

 

“米海軍はパナマ運河防衛失敗後、

防衛体制の再構築及び沿岸警備を

行なっているものの、

戦況の打開には至っていない。

パールハーバーに『転進』した

第7艦隊についてはハワイ方面の

防衛に当たっている為、

日本側を支援するのは不可能である”

 

 

“海上自衛隊は護衛艦及び

旧式艦(注:艦娘のこと)で

如何なる戦術を取っているのか?

可能であれば此方に旧式艦を貸与、

若しくは検査・試験の為に

借用してもよいだろうか?”

 

…とのこと。

つまり———

 

 

“こっちも手一杯でお前らを

助ける余裕は無いんだよねー。

 

てかお前らなんか強ぇじゃん。

艦娘貸してくんねぇかな?

あと調べてみたいから

ちょっと借りていい、いいでしょ?”

 

 

「———ってことか。

“世界の警察”も落ちぶれたもんだ」

 

 

しかし、資料の解説欄には

防衛省や外務省の専門家による

注意書きが書いてあり、

 

“新大統領による

自国保護政策の一環と思われ、

必ずしも国防総省の見解を

示したものではない模様だ”

 

…と締められていた。

 

 

日本の総理もクソであるが、

アメリカも迷走しているようだ。

 

ほとんどの政治家はクソである、

というのは各国共通らしい。

 

真面目に頑張っている

政治家の人に謝れって話だ。

 

 

「本土のモヤシ総理については

今のところ大人しくしているか…」

 

 

警務隊長からの報告では

本土に残っている艦娘たちは

しっかり働いてくれているようだ。

 

ついでに総理が良からぬことを

企んでいないか危惧していたのだが、

意外にも俺にボロカス言われた後は

サポートに徹しているらしい。

 

 

(単に改心して真面目になったのか、

それとも鳴りを潜めているのかは

警務隊長にじっくり見極めてもらう

必要があるかもしれんな…)

 

返信文に書き足そうと思ったが、

彼なら既に手を打っていると考え

感謝の言葉のみを送信する。

 

 

「海の上では国防だけを考えて

戦っているってのに、陸上の

ボンクラどもは何やってんだか…」

 

優秀な頭脳をお持ちの方々は

どうも悪知恵が働くようだ。

 

ボンクラとは頭の回転が鈍いという

意味であり、もし彼らが本当に

優秀ならばそんな“幼稚な”ことを

考えることなく只々世界の為に

その身を粉にしている筈だ。

 

つまりはその程度の存在ってこっちゃ。

そんな皮肉を吐きつつ考える。

 

(俺自身普段はゲスだが

仕事は真面目に取り組むぞ…。

国会で“税金泥棒”云々言ってる奴が

よっぽど泥棒じゃないか…)

 

 

つい思考が逸れてしまい、

余計なことばかりが頭を占める。

 

 

「———んなことは置いといて、

目の前のことに集中集中っと…」

 

目の前に居ない奴の文句を

言ったところで究極に無駄。

 

文句は本人に直接言ってやるのが

俺の流儀だからな、止めとこ。

次に会ったらぶん殴ってやろうかな?

 

 

☆☆☆

 

 

提督の愚痴も無理もない。

各国の軍人は、彼と同様の不満を

政府首脳に対して抱いていた。

 

国毎に主義・主張は異なるものの、

軍人はリアリストであるため

国防にはそれらが足枷であるとの

共通認識を持っていた。

 

…だがこの時点では

それが表に出ることはなく、

軍人たちは一応命令を守っていた。

 

裏を返せば、

各国は我儘をする余裕が

あるということであった。

 

 

“化け物から地球を守る為に、

人類は一丸となり戦うべきである”

 

 

小笠原で提督たちが

戦っているのと前後する時刻、

某国の元首は国連で演説したが

各国の反応は冷ややかであった。

 

国営放送はそれを

テレビ放送したものの、

自国民はそれを鼻で笑い

軍人たちも同様の反応をした。

 

何故ならその国は独裁国家、

日頃から自国優先の政治であり

この演説もその一環であるのは

小学生にもわかることであった。

 

 

日本の近くに位置するこの国家が、

領土拡大政策を強行した所為で

艦娘たちが苦労することになるとは

この時、誰にも予想できなかった……。

 

 

 

 

 




更新が遅れ気味ですが、
次回は謂わば中ボス戦になります。

プライベートが多忙で
執筆が進まない、と言い訳を…。
ぼちぼち進めていきます!

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