桜と海と、艦娘と   作:万年デルタ

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今回は反攻作戦の出撃のみです。
本格的な戦闘については次回から
沢山ありますのでお楽しみに!

部隊指揮官から一言頼まれた提督。
彼は何を想い、何を語るのか。
そして聴いた者は何をするのか。





2-2 攻撃隊、発艦! 【反攻作戦開始】

俺は自分に言い聞かせるように

拙い言葉を発し始めた。

 

 

「それでは未熟者ながら

この3等海佐、菊池圭人、

上から物を言わせていただきます…」

 

 

前置きをして俺は目を閉じ

今までの出来事を思い出し語る。

 

 

「これまでの戦いで我が自衛隊は

創設初の戦死者を出してしまった…」

 

 

「奮戦虚しく、敵艦載機の攻撃により

艦隊は損害を受け

多くの隊員の命を失い、

民間人にも被害を出してしまった…」

 

 

秋月が静かに俯く。

 

 

「そして、たった今。

此処より遥か離れた孤島が襲撃され、

隊員がまた亡くなった。

いや、殺されたのだ、敵に…。

そして我らの未熟さとつまらない

『見栄』の所為もあるだろう…」

 

 

村上が悔しそうに唇を噛む。

 

 

「敵は深海棲艦だけではない。

政治(まつりごと)に殺されたのかもしれない」

 

 

総理大臣をじっと睨みつける

幹部自衛官たち。

 

その視線に脂汗を流す総理大臣。

 

自分にもその視線が向けられるのでは

無いかと冷や汗を流す防衛大臣。

 

 

「自分の手を見ろ。

その手は汚れているか?

奮戦して頑張り切った汚れか?

守るべきものを守り切れず、

仲間の血で汚れ切った血か?」

 

 

護衛艦の機関員が静かに

己の油に塗れた手を見る。

 

 

「我らは誇り高き自衛官である。

胸を張れなくとも胸を張れ、

最善を尽くせたのだから」

 

 

「血は…今も流れている」

 

 

手術台でメスを握る医官の

額から玉のような汗が落ちる。

 

護衛艦や輸送艦の医務室には

負傷した隊員が治療を受けている。

 

「次は私かもしれない。

いや、諸君の誰かかもしれない…」

 

 

「生命とは儚く、そして尊いものだ。

しかしそれを大切にし過ぎてはいけない。

何故か、それは自己を犠牲に

大切なものを守れないからだ。

 

『事に臨んでは危険を顧みず』

 

服務の宣誓で皆誓った筈だ」

 

 

「だが流血を厭わずに戦ってもなお、

守り切れないものもある」

 

 

ある海士は自らの、赤い糸で意匠された

『海士長』の階級章を見つめる。

 

帝国海軍から変わらないこの色は

『流血を厭わない』という意味が

あると聞いたのを思い出した。

 

 

「悔しいだろう…。

やり切れないだろう…。

泣き喚きたくなるだろう…。

だがそれでも、

手を汚して…足掻いてみせろ」

 

 

「遥か南の空で戦った者がいた…」

 

 

飛鷹の格納庫内のコックピット内で

静かに腕を組み出撃を待つ妖精。

 

 

「遥か南のフネの上で散華した

陸上と航空の者がいた…」

 

 

父島で陣地設営に勤しむ空自隊員。

 

ホバークラフトで島に向かいつつ

無線を聞き目を閉じる1等陸佐。

 

 

「そして此処より遥か遠くの孤島で

人知れず絶え果てた者がいた…」

 

 

俺は山下の顔を想い描いた。

 

 

「彼ら彼女らは

何を想い、何を成せたのか?

未練、後悔…。

きっとそれだけではない…。

挙げれば負の面が多いと思う」

 

 

「では我らはこれから何をすべきか?」

 

 

「仇討ちではない、

国民を守るために血を流すのだ!

死にに行くのではない、

大切なものを守るために行くのだ!

今動かなくては明日(きぼう)は無い!

明日(きぼう)が無ければ未来(あす)は無いッ!!」

 

 

「つまらない理屈はいらない、

ただ己の正しさを信じろ。

己の持つ全ての力を発揮し、

仲間を守り切るんだ。

己の力だけでは無理でも、

仲間の力を合わせれば勝てる」

 

 

「何を以って勝ちとするかは

各々違うだろうし敢えて揃えない。

…だが勝っても失ったモノは決して

帰って来ない、それだけは忘れるな」

 

 

「それでもなお、私と共に戦うと

いうのであれば付いて来てもらいたい。

諸君…それでもいいかッ?!」

 

 

「「……応ッ!!!」」

 

 

付近の妖精、そして周囲の艦艇から

逞しい雄叫び声が聞こえた。

 

 

「私も死にたくはない、

ましてや傷付きたくない。

だが、それ以上に

他人が、仲間が、大切な人が傷付き

死んでいくのは耐えられない。

 

だから戦う!

だから頑張る!

だから血を流す!

 

今必要なのはモノでもなく

カネでもなく、目に見えぬ諸君の

無垢な強い気持ちのみである!

 

自分では見ることが出来ぬ

その気持ちこそが我らにとって

最大の武器となるであろう…」

 

 

丁度言い終わったところで

索敵機から入電が舞い込んだ。

 

 

『敵機動部隊発見。

空母2軽空母4、護衛艦艇多数』

 

 

「…たった今敵機動部隊を

発見したとの入電が索敵機からあった。

知っての通り艦娘の装備は

旧式であるが、この通り有効だ。

現代の人工衛星や哨戒機ですら

見つけられなかったのに、こうして

強い想いが通じ発見に至ったと

私は考える、いや確信している。

 

精神論ではない、しかし強い想いが

なくては出来ることもできない。

それを踏まえて戦いに臨んで

もらえれば幸いである、以上ッ!」

 

 

※※※※

 

 

俺がそう言い放つと

それを待っていたかのように

艦隊全体が慌ただしく動き始める。

 

敵がいる地点へと攻撃を仕掛ける為に

艦娘空母群は発艦準備に取り掛かる。

 

既に格納庫でスタンバイしていた

艦載機は飛行甲板へと並べられる。

 

「暖機運転開始!」

 

増槽や爆弾、魚雷を懸架した各機は

定位置に着き次第エンジンを回す。

 

その間整備妖精が機体の最終チェック

を行い、搭乗員は敵艦隊の詳細について

飛行長妖精から説明を受ける。

 

 

……

 

 

同じような光景は硫黄島でも見られた。

哨戒機と戦闘機は対艦ミサイルを搭載し、

敵艦隊へ同時攻撃を仕掛ける空母側と

段取りの最後の調整を行う。

 

艦隊側の加賀が中心となり、判明した

敵の目標の振り分けを実施する。

 

「飛鷹は戦闘機隊を残して。

蒼龍、貴女は全艦載機発艦させなさい。

そして雲龍は…。」

 

「哨戒機部隊はこの敵空母アルファと

軽空母チャーリー、デルタを

叩いてください。

私たちは空母ブラボーと…。」

 

 

……

 

 

加賀を始めとした空母組が

陸上の航空部隊と調整をする中、

俺は他の艦娘に編成を示達していた。

 

「我が方の戦艦は2隻のみ。

金剛と霧島、お前たちが頼みだ。

伊勢は小破とはいえ無理はさせない、

父島に留まって防衛に徹してもらう」

 

「まっかせてクダサーイ!

ワタシの活躍、お見せしマース!」

 

「司令のご期待に応えてみせます!」

 

「悔しいけど提督が言うなら

私は引っ込むしかないわね…」

 

戦艦組の士気は十分。

頼もしい限り、自慢の戦艦艦娘だ。

 

 

……

 

 

「重巡組は索敵、対空そして

対水上と幅広く活躍してもらう。

戦艦の数が少ない現状では

ほぼメインを張ることになる!」

 

「ふふんっ、この足柄にかかれば

数だけ多い深海棲艦なんて…!」

 

「あ…悪いが足柄は留守番だ」

 

「ってなんでよ?!」

 

胸を張って宣言しようとした足柄の

言葉を否定し、案の定文句が出る。

 

「うん、色々考えたんだが

利根と筑摩は索敵に必要だし、

妙高も前回戦ってて慣れている。

愛宕はまだ未知数だからちょっと

後方を任せるわけにはいかない」

 

「あら、私…実は結構スゴいわよ?」

 

愛宕が意味深に反論する。

 

「まあ言われてみればそうだけど…」

 

足柄は俺の言いたいことを

汲んだのか矛を収めた。

 

「足柄の意気込みを買って

敢えて後方を任せるんだ、

その意図をわかってもらいたい」

 

「…わかったわ、

任せてちょうだい!」

 

 

……

 

 

「軽巡組は大淀以外に活躍してもらう。

大淀が活躍しないとかじゃなくて

全力航行が不可能だし、防空に関しても

後方を任せられるお前が欲しい。

 

他は前進部隊に入ってもらう。

鹿島は対潜警戒をメインに頼む、

他はドンパチしまくって敵を

撹乱してやっつけてくれ」

 

「っしゃあ!

オレの出番が遂に来たぜ!

天龍様の出陣だぜ!」

 

「待ちに待った夜戦もあるの?!」

 

「う〜ん…無いとは言い切れん、かな」

 

約2名無駄に気合が入っているが

気張り過ぎずうまくやってもらいたい。

 

 

……

 

 

「駆逐組は地味だけど

かなり重要な配置なんだ。

対潜や対空がメインだが

敵艦隊に肉薄したら雷撃も

してもらうし、全てにおいて

一番槍を務めるのはお前たちだ」

 

「「……」」

 

責務の重さを感じているのか

これまでの艦娘とは異なり静かだ。

 

「まず後方だが秋月、漣、

雷、夕立そして五月雨。

対空と対潜警戒がメインになるだろう。

秋月が対空戦で指揮が取れない場合

には…漣がこの駆逐隊の指揮を取れ。

 

前進部隊は照月、白雪、

村雨、朝潮、満潮、

黒潮、親潮、高波そして島風。

同じく照月が対空戦で

手が回らないようなら

指揮は…白雪、お前だ」

 

「「了解(しました)!」」

 

駆逐艦にだけ指揮権序列を伝えたのは

対空戦で防空駆逐艦が忙しい場合に

備えたのと、消耗した場合を考慮してだ。

 

軽巡以上の艦娘はそれなりに

序列だったり指揮権の

委譲をスムーズに行えるが、

駆逐艦はまだ精神が幼く

ある程度の指示を必要とする。

 

こうして指揮官さえ明らかに

しておけば、あとは艦娘に一任。

戦闘は任せられるということ。

 

「…どうして漣なんですか『提督』?」

 

「…私でいいのですか?

黒潮さんや朝潮さんの方が

適任ではないかと考えます」

 

漣と白雪が質問する。

ここで漣が『ご主人様』と呼ばないのは

場の空気を読んでのことだろう。

 

「漣は普段はっちゃけてはいるが、

全体を見てフォローができている。

司令艦に求められるのは戦闘力

や性能だけじゃない。いかに

効率良く指揮を取り、どれだけ

全体を見ることができるかだ。

 

そして白雪も同じ理由からだ。

部隊唯一の特Ⅰ型ではあるが、

何事も冷静に対応できる処理能力。

それだけなら朝潮や親潮も似てはいるが

融通も利くし柔軟な考え方が出来て

かつ優先順位の付け方も優れている」

 

日頃の彼女たちの勤務態度や行動を

思い出しつつ、考えを述べた。

 

「選ばれなかった艦娘が決して

優れていないとかいう訳じゃない。

島風には雷撃をメインにやってもらうし

朝潮と親潮も戦闘に特化した能力を

発揮できるように俺なりに考慮した

結果が漣たちになっただけだ」

 

「…でだ。

村雨は本当なら前進部隊ではなく

後方に残しておこうかと思っていた。

厳しい話、現状ではお前が艦娘の中で

今精神的に危ういと考えたからだ。

だが後方に下げたところで

良くなるわけでもないのは目に見えてる。

 

俺は近くにいた方がいいと判断した。

無理に戦闘へ参加はさせはしない。

作戦後を考えると敵に一矢報いたと

思えた方が多少気が楽になるんじゃ

ないかって思う。

あくまで俺の思い込みだし、

それを村雨に強いる俺は最低な指揮官

だとは自覚しているさ。

…でも村雨、お前を置いてはいけないよ」

 

「ありがと、まだ気持ちの整理は

ついてないけど私も提督の近くに

いられるなら大丈夫だと思うわ…」

 

他にもいくつか指示を出す。

特に文句が出ることもなく、

駆逐艦への説明も終わった。

 

 

……

 

 

「これは航空戦になるかそれとも

艦隊決戦となるか、どう流れるか…」

 

作戦をするにしても

弾薬や燃料は無限ではない。

補給艦やタンカーはいるものの、

前線部隊には随伴せず父島に残置し

戦闘艦のみで戦い抜かねばならない。

 

途中補給をしてマーカスに

向かう予定ではあるが、そこで

敵の大軍が待ち構えているならば

途中で砲弾を浪費できないし

ましてや航空爆弾・魚雷も同様だ。

 

せめて敵の空母を壊滅させることが

できれば戦艦や重巡による砲撃で

対水上戦を行えるのだが…。

 

「そこは始まらないとわからん。

まず東方の機動部隊を叩くにしても

西之島付近の敵が突撃してこないわけ

じゃないから、少なからず

警戒も行うべきではあると思う」

 

「空母で指揮を取るのが必ずしも

ベストじゃないのかもしれないな」

 

「…どうする、

今更だが旗艦を変えるべきか?」

 

村上が提案する。

 

「今だと艦隊が混乱を招く。

…だがそれも一つの手でもあるな。

ま、するにしてもまずは東方の

機動部隊を黙らせてからがよさそうだ」

 

俺はそう答えると

発艦準備をする飛行甲板を見ながら

誰が旗艦に相応しいか考え始めた。

 

 

※※※※

 

 

「提督、発艦準備宜しい!」

 

加賀が俺に申告する。

 

『加賀』、『蒼龍』、『雲龍』

『千代田』そして『飛鷹』の飛行甲板に

艦載機が並び、エンジン音が

轟々と辺りの海に鳴り響いている。

 

「よし!

攻撃隊発艦せよ、目標は敵機動部隊!

各艦毎に割り当てられた目標を仕留めろ、

硫黄島からも哨戒機や戦闘機が

同時攻撃を仕掛けるからそれの

邪魔にならないようにしろ。

早過ぎても遅過ぎてもダメだ、

難しいとは思うがタイミングを

合わせて敵が飽和攻撃に

対処できなくさせるんだ!」

 

『「了解(しました)ッ!!」』

 

目の前の加賀を始め

他の空母艦娘も強く了解を返す。

 

俺や空母艦娘が叫ぶ様に言葉を

発しているのは単純に

空母の艦橋がうるさいからだ。

 

目の前に爆音の音源が50以上あるのだ。

他の空母艦娘もそれは同じだ。

叫ばねば言いたいことも伝わらない。

 

「飛鷹戦闘機以外、

全機発艦はじめェッ!!」

 

俺の号令が言い終わる前に

空母艦娘から各艦の艦載機へ命令が下る。

俺(提督)から各艦娘(艦長)。

各艦長から飛行長、そして艦載機へと

ややディレイを挟みつつ伝えられる。

 

飛行長の指示で信号妖精が

全揚になっていた信号旗、

『プリップ(準備)』を降下させ、

それと入れ替わり『発艦はじめ』を

意味する旗が全揚となる。

 

 

「…手空き帽振れぇ!!」

 

艦橋に詰める要員、高角砲や

機銃座に付く妖精が作業帽や

ヘルメットを手に持ち振った。

 

機動部隊相手に空襲を掛けるのは初だ。

発艦する搭乗員たちも

心なしか顔が硬いように見える。

 

いつもなら自信満々で飛び立つ彼らも

今回はやや緊張が強いように思えた。

 

これはいかんと思い

俺は一芝居打つ事にした。

 

「あぁん…?!おいゴルァ!

なぁ〜に腐ったツラしてやがる!

ビビる余裕があんなら、

このまま艦隊の直衛もさせるぞ?!!」

 

 

見かねた俺は暴言を吐く。

 

 

『うへぇ…そりゃカンベンっす!』

 

『提督、流石に無理っしょ?!』

 

『うわっ、妖精殺し菊池だ…』

 

 

たまらず艦載機の妖精が

俺の『計算通り』文句を言った。

 

 

「誰が妖精殺しだバーロー!

せめて『女泣かせ菊池』とか

『セクハラ菊池』ってマシな渾名に…

ってセクハラは嫌だなオイ?!」

 

 

わざとらしいノリツッコミに

攻撃隊の緊張も少しだけ緩む。

 

その後に発艦する妖精を見れば

艦橋の俺を見据え、歯を出し笑っては

いたが目は獲物を狩らんとする獅子。

 

俺はヘタクソな敬礼をして

送り出すように『飛ばした』。

額から腕を下ろす際にチィースと

砕けた敬礼、厳しい人物なら咎める

であろうがこの場にはいない。

 

もちろんその敬礼には意味がある。

 

 

『しっかりやって還ってこいよ』

 

 

俺の想いが伝わったのか

飛び立つ妖精も同じように敬礼する。

 

 

『モチロンです、任せてくださいよ』

 

 

ニッコリ笑ったあの妖精は

無事還って来れるのだろうか…?

 

脳裏によぎった不安を振り払うように

思い切りヘルメットを振る。

 

「もし還って来んかったら

承知しねぇからな、てめぇら!」

 

『『了解ッ!!』』

 

海鷲たちの覇気の篭る

頼もしい声が艦隊を勇気付けた。

 

 




演説あっての戦争小説、
それも全戦全勝ではなく
泥臭くむせるような展開。

軽く読める艦これ小説では
無いのかもしれませんが悪しからず。

演説はマ○ラヴオルタネイティブという
R18のPCゲームから引用しました。
単純に使いたかっただけです、ハイ。

……

反攻作戦の開始なのです!
攻撃隊は硫黄島の航空部隊と共に
同時攻撃を仕掛け、敵機動部隊に襲いかかる。

これが成功すれば、
いや成功させなければ東と北から
敵の包囲攻撃を受け艦隊は負ける。

しばらくはセクハラも抜きです。
ガチな戦闘シーンが続きます、
それに伴い登場人物のトークも
堅いものになりますがお付き合いください。


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