桜と海と、艦娘と   作:万年デルタ

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防衛省から帰ってきた提督一行。
出撃の準備をするが重油の確保に難儀する。

出撃前日の夜中までかかったがどうにか出港準備が整い、寝ようとする提督。
ふと南鳥島へと電話を掛けたくなった彼は受話器を手に取るのであった。

※艦娘は全く出てきませんのであしからず。



1-11 出港前夜 【プレハブ鎮守府】

朝 バス車内

 

「…んで、これから帰る?」

 

「このままのんびりしたいところだが、情勢が情勢だからな。すぐにでも戻って出撃の準備をせねばならんからな。」

 

「そりゃそーだ警務隊長と村上、そして金剛が二日酔いじゃあ遊びにも行けないしな」

 

「そういうことではなくてだな…」

 

「はいはい酔っ払いは静かに寝て起きましょうね~」

 

「お前いつか覚えていろよ…」

 

 

二日酔いの3人を2人席三つに座らせ寝かせる。金剛もそうだが警務隊長が二日酔いするのは意外だ。

ストレスも溜まるだろうし飲みたい時もあるんだろう。

 

 

…………

 

 

「…にしても『山下』が幹部になってマーカスにいるとは思わなかったなぁ」

 

「昨日作戦会議で言ってた提督の教育隊で一緒だった人?」

 

「ああ俺と村上が横須賀でそいつは呉に行ったんだ。大卒で入隊して来て頭が良かったのを覚えてる」

 

「幹部になってマーカスに勤務しているのですね。」

 

「そそ。これから激戦地になるかもしれないって場所に同期がいると思うと負けられねぇっての」

 

 

昨日の会議で分かったことだが南鳥島、通称マーカスに同期の奴が勤務しているらしい。

 

同姓同名の別人の幹部かと思ったがどうやら本人らしい。

 

 

「司令官とそのお仲間の方達は優秀だったのですね」

 

「褒めても何も出ないぞ秋月。

俺は班長や教官に突っかかってばかりだったから評価は低いと思うぞ?

まあ一応優等賞もらったけど」

 

 

別に同期がいたところで避難させたりする訳でも無いんだがな。

 

横須賀基地に着くと使い物にならない3匹を適当に休ませてから、提督らしい仕事である艦隊運営に取り掛かる。

 

 

「まずは重油の手配だな…」

 

 

そう、これが一番の悩みだった。

現代の自衛艦は基本的にガスタービンやディーゼル機関、つまり軽油を主な燃料としている。

しかし艦娘は重油、使っているのは自衛隊でも陸上施設のボイラーだったり商船規格の機関の船ぐらいであるため確保するのは容易では無い。

 

民間の石油会社に片っ端から連絡して融通してもらったり給油するタンカーの手配をしたりと大忙しだ。

 

なんで提督たる俺がそんなことをしているのかというと担当部隊が『自衛艦』の面倒だけで手一杯だからだ。

こんなやり取りがあった。

 

 

俺『出撃するから艦娘用の重油とタンカー手配して』

 

担『ダメ忙しい。自衛艦総出なんだから艦娘の艦船は手が回らない』

 

俺『えぇ…じゃあどうすんの?』

 

担『予算とかは出すからそっちで頼む。給油方法も知らないし、あと領収書は防衛省で頼むよ。陸自や空自との調整もあんだよ、じゃっ!』

 

俺『えー…』

 

 

丸投げですやん。

渋々船体がドックに入っている艦娘や出撃準備が終わっている艦娘も巻き込んで、年度末の石油商事の大決算会場と化したプレハブ鎮守府。

 

ついでに近くにある基地業務隊や総監部といった他部隊も巻き込んで電話と電卓を武器に戦うことになった。

 

深海棲艦のせいで石油価格が急上昇して売り上げに悩んでいた会社側も自衛隊が大量に買ってくれると大喜びだったそうだ。

 

いっそ東京にずっといれば良かったかと思ったが、遅かれ早かれやっていただろうし急がなくては深海棲艦がマーカスに攻め込んでくるやもしれない。

 

優雅に空を飛ぶ鳥を電卓で叩き落とす勢いで事務仕事に没頭する。

 

 

「提督重油50トン確保できました、明日の1300iに油船が着くそうです!」

 

「遅いっ!1000iにしてもらうように言っとけ、その分の手当も出すとか言っとけ!その時間は別の便が入ってる!」

 

 

このときばかりは船体の現代化改装中で調理を手伝う鳳翔や那珂も電話対応や計算に追われる。

 

 

「那珂ちゃんはこういうマネージャーみたいな仕事苦手なんだけどなぁ…」

 

「那珂ちゃん、口を動かす隙があったら手を動かしなさい!」

 

「神通ちゃんだって口を…ってすごい早っ?!」

 

「二水戦の名は伊達じゃないわ!」

 

「神通、それは私の台詞だよ。」

 

「ってそういう響ちゃんも早っ?!」

 

 

3時間程の仮眠を交代で取って手当たり次第に電話、そして給油の調整を行う。

 

しかし出撃用の燃料があっても片道分では帰ることができない。

 

つまり……

 

 

「何度もお願いしていますが小笠原諸島までタンカーを出してもらえませんか、護衛はちゃんと付けますしもしもの保障や保険もこちらが多く出しますから!!」

 

『悪いけどウチの者を危ない所には送り出せないですよ』

 

「ですからそれは!…って切りやがった」

 

 

あーまた駄目だ。

これで何社に断られたんだろう。

 

出港時に満タンにしても戦闘などで消費することを考えると予備は必須。

 

本土近海とはいえ行動期間も不明だからかなり多めに確保してかつタンカーを徴用して同行させるのは目にみえていた。

 

このための『護衛隊群』昇格の上申でありゆくゆくは専用の基地やら設備、ゲームでいう鎮守府を実現させたいのだが今はまだ時代が追いついていなかった。

 

「予算を使っていいと言ってももそんなに使いまくれる訳じゃないし困ったぞ…」

 

「いっそ独自採算制にして艦娘の写真とかCDでも売ってボロ儲けしようぜ!村上にも利益山分けしてやっから」

 

「くだらないこと言っていないで電話をかけて下さい提督。」

 

「ちょっ加賀そんな怖い顔しないで?!

ジョーダンだよ冗談!!」

 

 

…その後どうにか輸送タンカーや重油は確保出来たものの、防衛省内局や海幕からは『予算使いすぎんな』と文句を言われたがこっちだって文句の百や千位言いたいもんだ。

 

 

※※※※

 

数日後 2130i

 

ようやく艦隊と他部隊の出港準備が整い、明朝の出港を待つのみとなった。

 

艦娘はほぼ全員泥のように寝ており、起きている艦娘も死にそうな顔をしている。

 

いつの間にかこの101護隊の一員になっていた警務隊長は出撃しないものの、よく手伝ってくれて彼のツテにお世話になった。

 

村上もこの部隊の『隊付』という任務を果たしてくれたし今回はこいつも同行し、戦闘や艦隊運用の指揮の補佐をすることになっている。

 

 

「ふぁあ〜眠っ」

 

そういえばここ数日まともに寝てなかったな。もうすることもないし寝ようかな。

 

「あ、景気付けにマーカスに電話かけてみるか…」

 

疲れからくる謎テンションで無性に激戦地になるであろう南鳥島の職員にエールを送りたくなり、『部内限り』と書かれた電話帳を手に取る。

 

南鳥島は電波が一切入らない。

島の外との通信手段は無線機を除けば衛星電話しか無く、色々と部隊間の調整に支障をきたしていた。

 

「山下は電話に出るかな〜っと」

 

備え付けの隊内電話を外線に切り替えピポパとダイヤルする。

 

『…はい海上自衛隊南鳥島派遣隊、山下3尉です』

 

おっヤマピーじゃねぇか、ビンゴ!

 

「…俺だ!」

 

偉くなったら一度言ってみたかったんだよねぇこのセリフ。

 

『その声…どうせ菊池だろ?』

 

「おっひさ〜、なんでわかったんだ?」

 

『増援が来るってのは知ってるし、お前が新設された護衛隊の司令として小笠原諸島とマーカスに来るのも知ってる。

てか俺がその調整の窓口なんだ、さっきまで電話が鳴りっぱなしだったんだ』

 

「マジで?こっちもついさっき終わったんだよー」

 

同期と世間話をする。

こいつも結構苦労してるんだな。

 

『BS放送で本土に帝国海軍の軍艦が現れてお前がそれを束ねる護衛隊の司令に就任するって放送した日には何かのドッキリかと思ったぞ』

 

「俺もだっての。てかお前怖くないの、ヘタしたら深海棲艦の攻撃でマーカスやられちまうんだぜ?」

 

『そりゃ怖いさ、だがそれが任務とあれば逃げる訳にもいかん。

というか逃げられないだろ…』

 

「ははっ、そりゃそーだわな!」

 

『笑えるかバ〜カ!』

 

「ま、俺がなんとかすっから釣りでもしながら待っとけって」

 

『期待はしてるぞ』

 

「今回は味方の潜水艦もいるし、ヤバくなったら沖まで泳いで乗っけて貰えばいいんじゃねーの?」

 

『島から少し離れると流れも速くて1000m位の深さがあるんだ、無理だって』

 

「そうならないようにすっからのんびり常夏を楽しんでろよ!」

 

一通り言いたい事を言ったところでヤマピーこと山下が真面目そうな声で問いかけてきた。

 

『…なあ菊池、最後に聞きたいことがあるんだがいいか?』

 

先ほどとは違う声のトーンにこちらも思わず構えてしまう。

 

「…なんだ、言ってみろ?」

 

ゴクリと思わず固唾を呑み、その音が受話器からはっきりと聞こえた。

 

『その…』

 

なんだ、そんな大事なことなのか?

 

『…今、内線電話から掛けているのか?』

 

「……えっ、そうだけど何?」

 

『馬鹿!!いくら内線でタダだからって私用で電話して来るな!』

 

「は、はぁ?!なんだよお前こっちが気ぃ遣って掛けてやったのにそんな細かいことでキレやがって?!」

 

『煩い、眠いんだから早く寝かせろ!

今度会ったら艦娘の1人ぐらい紹介しろよ、覚えとけッ!!』

 

<プツッ>

 

「な、なんだアイツは…」

 

真面目に遺言でも言うかと思ったら公用電話の私的利用云々とか抜かしやがる。

今度会ったら肩パンしてやる!

 

「『今度会ったら』ねぇ…」

 

アイツなりの覚悟と度胸の見せ方ってところか。励ますつもりがこっちが励まされたかもしれないな。

 

「深海棲艦どもめ、ブチのめしてやるから待っていやがれ!」

 

今度はこの前の様にはいかない。

艦娘や護衛艦がやられたら南鳥島が奪われ、本土近海に奴らの牙城を構築させる事になる。

商船は攻撃され日本の流通はストップしてしまう。

 

この戦いは敵に完勝とまではいかなくとも、南鳥島攻略という目的は何としても阻止しなくてはならない。

 

「げっもう2300じゃねぇか、朝は早いし

もう寝ないと…」

 

 

 

……

 

 

日本の戦後初とも言える大艦隊の出撃、それの過半数をしめる帝国海軍の軍用艦群。

 

この『連合艦隊』は果たして深海棲艦の野望を見事打ち砕けるのか?

深海棲艦の狙いとは一体…。

 

 

 




人類側の準備は整いました!
次に深海棲艦側のパートを少し書いたら小笠原諸島を巡る海戦が始まります。

帝国海軍の艦艇は重油を燃料としていましたが海上自衛隊では軽油を使っていてその辺の苦労もちょこっと書いてみました。こういった細かいところが気になってしまう私は世間一般で嫌われるでしょうね…orz
だが反省はしないッ!!

※ゲームについて
飛龍ちゃんや舞風ちゃんがドロップしてウキウキしています。この調子で提督業も進めていきたいです。


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