桜と海と、艦娘と   作:万年デルタ

27 / 59
タイトルの通り遂にドロップ艦ッ!
海自に存在する自衛艦以外で初の艦娘(とその船体)に全世界が興奮…するかも?

ついでに最後、阿武隈に主人公がやらかします。


1-8 初ドロップ 戦闘終了

ーーー俺の情けない叫び声は

深海棲艦の砲撃音にかき消された。

 

 

…かき消された原因は敵の砲撃音だったと思った。

だが違うようだ。

 

 

神通たちを沈めんとしていた深海棲艦は未だ地獄への業火を放つでもなく、ただ『空』を見ていた。

 

 

「ナ、ナンダ?!」

 

「マズイッ…?!」

 

 

空が割れるかのような聞き慣れぬ轟音が戦場を支配する。

 

 

「あれは…死兆星、いや流れ星…かい?」

 

「バッカじゃ…ないの、よく見なさ…いよ」

 

 

響と曙が精一杯の声を出す。

 

 

南の空から向かってくる流星、

それは紛れもなく味方の放った

サジタリウスの矢であった。

 

 

「ミサイルの飽和攻撃を

喰らいやがれェッー!!」

 

哨戒機部隊指揮官の声とともにミサイル群はその全貌を表す。

 

大破して停止する神通を掠めるように

通過した後、ポップアップして深海棲艦に殺到した。

 

当然深海棲艦側も突如現れた対艦ミサイルに反撃をする。

 

フラヘ級やフラハ級からどこにそんなに隠していたのかと思う程の対空砲火が直上へと放たれる。

 

弾薬と燃料を搭載し硫黄島の基地を飛び立った哨戒機から1機当たり4発、

合計40発もの対艦ミサイルが発射された。

 

先ほどのように対空砲火で撃破されるもの、うまくロックオンが出来なかったのか照準が外れて海に落ちるものも少なからずでた。

 

それでも23発が生き残り、深海棲艦の上部構造物に突入した。

 

フラヘ級は大破炎上、他の駆逐艦も沈み始めており沈むのも時間の問題だろう。

 

 

「助かった、のか…?」

 

ほっとできた訳じゃない。

ただ敵の攻撃が終わった、その程度

しか認識できなかった。

 

「どうにか…皆さんを守れました、ね…」

 

辛そうに話す神通の声を聞き安堵したのも束の間、俺はすぐに怒鳴り散らす。

 

 

「神通オマエ何考えてんだっ!!

お前は自分の事をもっと大切にしろ!

さっきの作戦は俺のミスでどうしようもなかった、確かに神通が来てくれなかったら危なかった…。

でもそれでお前が沈んだらどうするんだよ!

もし他の娘も沈められてたらと思うと俺は死んでも死に切れない…!」

 

 

神通に怒鳴り散らすといってもこの結果になったのは俺の安易な考えが原因であり、あくまで彼女が危険な行為をした事に対して怒った。

 

「申し訳ありません…」

 

神通が辛そうに謝る。

そんな声を聞いたら俺が一番辛い。

 

「すまん、つい怒鳴っちまった…。

本当に謝らなくちゃいけないのは俺だよ、

提督になっていい気になってた。

 

この夜戦に入る前だって『俺は実戦に向いてる』なんて思い込んで皮算用な作戦を立ててみんなを危険な目に合わせたんだ…。

 

神通が駆けつけてくれなきゃ春雨や曙に電そして響の誰かが、いや4人とも沈んでいたかもしれない。

 

哨戒機がもし間に合わなかったら神通が沈んでいたかもしれない。

 

ブラック鎮守府とかそんなもんじゃない、

俺は提督、いや自衛官失格だよ…」

 

「「提督…」」

 

黒煙を上げる深海棲艦を見つめながら

生温い溜息を吐く。

 

 

「101護隊司令、こちら哨戒機隊指揮官のケンタウロス1!!

敵艦は完全に沈黙しました。

海幕から艦隊を再編成後父島に向かうようにとの事!」

 

「…こちら菊池3佐了解です。

ご支援ありがとうございました、

父島入港まで上空援護をお願いします…」

 

深海棲艦にとどめを刺した哨戒機部隊にお礼を言い、淡々と再編成を行う。

 

 

阿武隈の近くに集まった他の艦を見て目頭と胸に来るものがあった。

 

無傷な艦は蒼龍のみで、他はダメージを負っているのは素人が見ても明らかだった。

 

神通や春雨たちは大破と言って過言ではないし神通に至っては沈んでいないのがが不思議なぐらいの損傷だ。

 

 

艦これなら敵を殲滅し勝利と判定されるだろうが、現実ではこんな勝利は嬉しくなんてない。

 

「さっきはダメかと思ったんだから~ 、

ねー提督?」

 

横の阿武隈がずっと黙っている俺を気遣ってか話しかけてくれるが、

その優しさがむしろ心を痛ませる。

 

「提督っ、修理ってどれぐらいかかるのかなぁ?」

 

「それについては民間の造船所や町工場から技術者を集めて優先してくれるみたいです。

さすがに『ゲーム』のように数時間では無理でしょうが、可能な限り早くしてくれると聞きました」

 

阿武隈の疑問に秋月が答え、他の艦娘の質問もわかる者が答えてしまい俺の出る幕は無い。

 

 

「……提督」

 

 

これが、戦争か。

負けたら生きた心地はしないし勝っても損害が多ければ嬉しくなんて無い。

一歩間違えたら誰か沈んでいた。

 

『艦これ』は所詮ゲームだ。

損害が出ても入居すれば元通りだし中破したらエッチな絵が見れる。

 

 

だが現実はゲームではない。

被害を受けると服が破けるのは変わらないみたいだがそれを見て嬉しいとか劣情はちっとも湧かない。

湧くのは悔しさと申し訳なさ。

 

 

「ねぇ提督?」

 

 

出港まであんなに整備した艦隊は

誰が見ても惨敗したと思うほどの被害とダメージ。

こんな戦いをずっと見ると思うと提督なんて辞めたくなる。

 

「俺が…不甲斐ないばかりに…」

 

「ねー提督ってばっ!!」

 

「うおっ?!どうした阿武隈?」

 

 

気が付けば横に阿武隈がおり頬をぷくっと膨らませおり怒っているようだ。

 

「それはこっちのセリフ!

さっきからボーッとして心配させないでね!!」

 

「おぅ、すまん…」

 

 

戦闘指揮はからっきしで戦闘後も

迷惑掛けっぱなしな指揮官とか更迭もいいところだな。

 

「『提督』失格だな、これは…」

 

「「…え?」」

 

俺の一言に艦隊の空気が凍りつく。

 

「司令はん、いきなり何言っとるん?!」

 

「だってこの有様だぜ?

『こうなるはずだ』って作戦でお前たちを傷付けてしまったし、挙句には沈没させかけた。

初戦からこれじゃあみんなだって嫌だろ。

 

調子に乗ってケッコンだとか愛してるだなんて言って悪かったな…。

謝って済むことじゃないのは百も承知だ、だが本当に申し訳ない…」

 

<パチーン!>

 

「ぐっ…!!」

 

「…ふざけないでっ!!」

 

突如阿武隈に頬を叩かれる。

 

「そうだよな、謝っても意味は無いよな…」

 

「そんなことはどうでもいいの!

アタシは提督が憎いなんてこれっぽっちも、みんな思ってない。

たった一度失敗したぐらいで思い詰めないで。

誰もそんな言葉を期待してないわ!

 

『よくやった』『大丈夫か』『痛くないか』そういった事を言って欲しいの!

アタシたちは仮にも軍艦、被害を受けるのはわかってるし、失敗だってするもの。

それに…提督が思い詰めている姿、見てるこっちが辛いんだからっ!!」

 

「えっ…?」

 

罵声を受けると覚悟していた俺は

思わずキョトンとしてしまう。

 

「全くです!

司令は重く考え過ぎです。

 

実は照月に出港前が、『提督はネガティブなところがあるから支えてあげて欲しい』と言っていたんです。

 

普段はおちゃらけているけど深く考え込んでしまうところがあってそのギャップがキュンと来るとも聞いています!

私も司令が考えに耽る姿が見てみたいですっ!!」

 

おい秋月、キャラが崩壊しているぞ。

 

「…oh」

 

こんな俺でも慕ってくれるみんな優しいな。

 

「君は父島で言っていたな。

『大和魂』、複数の女性を愛しつつ幸せにすると」

 

いや言ってねーし?!?!

てか意味知らなかったって言ったやん?!

日向師匠は爆弾を投下しないで!!

 

「やっぱりクソ提督じゃない!!」

 

「いや待て!誤解だ!

確かに俺はみんなが好きだがそんな

貞操の無い男じゃないぞ!!」

 

「えー夜戦前のセリフは嘘だったのー?

えーんえーん(棒)」

 

「蒼龍は嘘泣きを止めんかい。

まあ俺も結婚はしたいけど幸せには個人差があるし…」

 

「ちなみにですが横須賀に帰ったら村雨を始めとした皆さんが待ち構えていますので司令官は頑張ってくださいね。

父島で撮った水着の集合写真を艦娘ラインに載せたらかなりカンカンなようですよ~?」

 

「おい春雨、なに勝手に送ってんだYO?!

俺が殺されてもいいのか?!」

 

「司令官はどうせ不死身だから大丈夫さ、問題無い。」

 

「響ィ…何気にお前が一番酷いし、

それは死亡フラグだ…」

 

「「あはははは!!」」

 

 

艦隊の士気は以外にも悪くない。

被害は甚大なもののみんなよくやってくれたし、俺のことも嫌いになってなかった。

 

だが俺は猛勉強をしなくてはならないな!

無傷で完全勝利は難しいだろうが、艦娘を傷付けない戦いをする為に。

こんなに俺を慕ってくれる彼女たちの悲しい顔を見ない為に。

やはり提督として頑張ってみたい。

 

 

「あ~、みんなにお願いなんだが

帰っても『ケッコン』とか『愛してる』ってのはバラさないで欲しい。

時機が来て俺の心の整理がついたらちゃんと話すから、あんまり広めないでな?」

 

「「え~なんで~?!」」

 

「ホラ、軽く言うと本当なのかわからないだろ?

こういうのはムードとか場面とかあるし、有り難みも無くなっちゃうしさ」

 

艦娘は渋々了解し、夜の大告白劇はしばらく御蔵入りとなった。

 

だが日向が酒の席でポロリと話してしまい『大和魂』伝説が生まれるのは

そう遠くない未来。

 

 

 

「深海棲艦も倒せたようだな…」

 

炎上していたエリハ級が波間に消え、エリへ級も沈みそうなのを見てやっと安堵の表情になる。

 

 

「数は少なくとも流石はフラグシップってところか。

被害もそうだが、連戦じゃあ疲労も溜まっているな…」

 

「ゴフッ…ケッコウ、ヤルンダネ…」

 

「おいィ?!まだ生きとったんかワレェ?!?!」

 

 

倒したと思っていたフラへ級がいきなり話しかけてきたため動転した。

だが声のトーンに先ほどの様な不気味さは無く、むしろ安らぎを覚えるほどの優しい声だった。

 

「安心シテイイヨ、モウ攻撃出来ナイシスルツモリモナイカラ…」

 

フラへはそう言うと沈み始めた。

それと同時に骨折してずっと痛んでいた肩から痛みが無くなった…気がする。

敵が完全に居なくなり安堵したのだろうか?

 

 

「…司令官さん、誰と話しているのですか?」

 

 

阿武隈や他の艦娘たちはフラへ級の声は聞こえていなかったようで、戦闘から解放され疲れが出たのだろうと勝手に推測した。

 

 

 

……

 

 

護衛艦が艦隊に合流し父島へと向かっていると、突如海上の視界が急激に悪くなってきた。

 

霧が出てきて航行しようにも、衝突の恐れがあるためスピードが出せない。

 

艦隊は人が早歩きする位の速力で進む。

視界ゼロ、見張りも単調となれば戦闘の疲れも出て来るわけで…

 

 

「疲れも出てきたし、小休止しようか。

被害の酷い艦娘から1時間ずつ、

警戒担当艦隊は厳となせ!」

 

「「了解!!」」

 

 

艦隊の疲労はピークに達していた。

休んだところで父島まで2時間もかからないのだが、軽く仮眠でも取らせてあげたい。

 

休息を取る艦娘のフネは妖精が交代で運航し、ゆっくりと航行させているから非常時の即応は問題無い。

 

 

「ふあぁぁ…悪ぃ、俺もちっと休ませてもらう…」

 

「うん!いってらっしゃい提督!」

 

「取り敢えず俺の固縛を解いてくれ。

動きたくても動けん、肩も痛みは無いから1人で部屋まで行けるよ」

 

阿武隈が嫌な顔もせず笑顔で答えてくれる。

ええ娘や、ケッコンしよう。

いやほんとに阿武隈ええ娘や…。

 

 

司令椅子に簀巻きされていた俺は解放され、身も心も軽くなって司令官室へと向かう。

 

「ちょっと横になるか…」

 

司令官室のベッドに倒れこんだ俺は

すぐに夢の世界に飛び立つ。

 

 

……

 

 

村雨との出会いから先ほどの戦闘までが走馬灯のように夢に出てくる。

 

友人に聞いた話だが夢を見るというのは睡眠が浅いかららしい。

 

『もし生きて…いられる…のであれば…小さな店を、開きたかっ…たで……す…』

 

鳳翔の寂しそうな笑顔が思い出される。

涙を浮かべ消えていった彼女はどうなってしまったのだろう。

 

また、会えるかな…?

 

 

<ビーッ!ビーッ!ビーッ!>

 

 

「うおっ?!新手か?!」

 

 

非常事態を告げるアラームで飛び起き、時計を見れば小休止から1時間50分過ぎていた。

 

「アブゥどうしたっ!!」

 

「敵味方不明だけど昔のタイプの軽空母と軽巡が各1隻、真艦首500メートルにいきなり表れたのっ!!」

 

「敵の射程内ってレベルじゃねーぞ?!」

 

正面には少し霧がかかっているが、

確かに軽空母と軽巡らしい艦影が見える。

 

 

「発砲してこないのか?」

 

「うんなんだか様子が変だし、霧で確信は持てないけど軽巡は日本の型に似てて…」

 

俺も艦型に詳しく無いがさっきの深海棲艦とも違う、何処と無く見たことあるような形だ。

その片方軽巡の煙突は4本。

同じ4本煙突を持つ米軍のオマハ級軽巡とは異なる艦橋、日本の川内型に似ているような…?

 

 

「…ところで提督、肩の怪我大丈夫なの?」

 

「あ、そういや骨折してたな…」

 

 

痛みどころか肩も普通に動くし、

俺人間辞めてたりするんじゃね?

 

「そういえばアタシ的にも霧が出たぐらいから疲れが取れた気がする」

 

「霧を抜けるとそこはフネの墓場か天国だった…とか?」

 

「縁起でも無いこと言わないでよ?!」

 

 

阿武隈とコントをやっていると

軽空母らしいフネから発光信号が送られてくる。

 

 

『我軽空母鳳翔、貴艦らの指揮官にお会いしたい』

 

 

「えっ、なんで鳳翔さんが?!」

 

「深海棲艦のワナなんじゃ?!」

 

騒めく艦隊に俺が一言。

 

「あ、そーいや鳳翔と会ったって言ってなかったっけ?」

 

「聞いてないわよ?!

なんでそういう大事なこと言わないの?!」

 

「アレだ、死にかけてる時に会ったんだけど助かってから色々慌ただしかったから言い忘れてた…すっかり」

 

「で提督、君はどうしたいんだい?」

 

「そうだな、阿武隈の内火艇を出そう。

艦娘は全員乗合で向かう、妖精にフネの運航と一応砲雷撃戦の用意をさせておこう。

上空は哨戒機に援護してもらう」

 

 

とはいえ本当にあれが深海棲艦じゃないとは確信が持てない。

鳳翔が俺を覚えているか確認も兼ねて

返答を探照灯で送る。

 

『こちら日本国海上自衛隊、指揮官の菊池3佐。差し支え無ければ内火艇を出す。

もし俺を覚えていれば返答お願いする』

 

 

『覚えていますよ。

今度はちゃんと私自身のフネですから

安心してお越しください。

もう沈みませんよ』

 

 

「はは、嬉しいけど複雑だな」

 

鳳翔の返答に苦笑いしながら内火艇に

乗り込む準備をする。

 

「今度はどこにも行かないでね!!」

 

「もう大丈夫だって、ついでに肩の調子も良いし」

 

 

これは『ドロップ』というやつなのか。

霧が出てきたのはその前兆か?

 

艦娘の疲労が和らいだり、肩がほぼ治った様子なのもその副作用なのかもしれない。

 

『リアル艦これ』の闇は深い…。

 

これ現実なんだけどな、う~ん…。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

鳳翔飛行甲板

 

 

「よっ、また会えたね」

 

「またお会いできて嬉しいです、提督」

 

?「ヤッホー!艦隊のアイドル…」

 

妖精に飛行甲板へ案内されるとそこには鳳翔ともう一人艦娘がいた。

 

「あら、制服でお越し頂くなんて嬉しいですね」

 

第1種夏服を持ってきてもらい内火艇で艦娘にキャーキャー言われながら着替えたのは決して鳳翔に格好良く思われたいなんて下心は無い、ない。

 

「え、さらに格好良くなったって?

いやぁ嬉しいなぁ~!!」

 

「いや、そこまで鳳翔さん言ってないし…」

 

「なんやこの夫婦漫才…」

 

2人の話に他の艦娘が入ってくるが

気にしないきにしない。

 

「おかえり、日本に『還ろう』鳳翔」

 

「はい是非」

 

「そして横須賀で小さな店を開こう」

 

「はい是非」

 

「「…ん?」」

 

「子供は多い方がいいよな~」

 

「はい是非」

 

「「おいちょっとまて」」

 

「こんなうるさい娘が沢山いるけどいいかな?」

 

「みんな可愛い娘みたいなものですから」

 

「「さっきから雰囲気おかしくない?!?!」」

 

「「別に?」」

 

「なんだか息ぴったりですね?!」

 

「どうした阿武隈、褒めても髪ワシャワシャするだけだぞ?」

 

「だからやめてよ?!

ていうか褒めて無いしっ!!」

 

?「か、艦隊のア…」

 

「鳳翔さーん!!」

 

鳳翔の胸に蒼龍が飛び込む。

 

「あら蒼龍ちゃん、元気そうでなにより。

ミッドウェーの出撃以来ね、みんな元気にしてる?」

 

「はい!空母で言えば加賀さんも元気ですし雲龍や飛鷹さん、千代田もです!

まあ千代田は私がミッドウェーで沈んだから軽空母になっただけですけど。

あと、他にも他にも…!」

 

 

日本空母のお艦とも言える鳳翔に会えて艦娘も嬉しそうでなによりだ。

 

 

?「あの~…」

 

「久しぶりだね鳳翔。」

 

「響ちゃんも元気そうね、お洋服が破れちゃってるけど怪我は無い?」

 

?「ねぇちょっと〜…?」

 

 

終戦組である響と鳳翔の会話は何気ない親子のそれに見えるが、戦争を生き延び賠償艦と解体という別れを知っている者にとっては感動無しには居られまい。

この感動の場面に水を差す者がいるとすれば、そいつはお尻ペンペンだな。

 

現代艦娘と鳳翔+1人の軽巡は再会を果たした。

恐らくこれが『ドロップ』というものなのだろう。

 

艦娘の記憶は沈没・解体時のままだが

彼女たちをこの世に復活させるという大義も無事果たせそうだ。

 

姉妹艦に会いたい艦娘も多い。

気が遠くなるほどの年月と苦労が掛かろうとも、まだ見ぬ全員と邂逅したい。

 

 

?「ちょっと~、聞いてるぅ~?」

 

 

そういえば敵の地図では南鳥島にマークがしてあった。

ということは今後あちらも戦場になるのか?もしかしたら今回以上の激戦になるかもしれんな…。

 

 

?「ねえったら~!!」

 

「…ん、誰だ?」

 

おっと気が付けば横で俺を呼ぶ声が。

 

「ん~…どちら様?」

 

「おっはようございま~す!!

水雷戦隊の指揮と地本巡業ならお任せ!

ハブられてもセンターは譲らないっ!

那珂ちゃんだよ~、よっろしくぅ~!

!」

 

「……」

 

「あれぇ~、那珂ちゃんの可愛さに

言葉も出ないのかな~?!」

 

 

近くにいた神通と顔を見合わせる。

 

 

 

「「…解体だな(ですね)」」

 

「え"…」

 

「なんだかすみません、根は良い子なんです…」

 

「ちょっと待って?!

なんで感動の再会をして早々に解体されることになるの?!」

 

「だってめんどくさそうだし…」

 

「酷っ?!?!」

 

「こんな妹いたかしら…?」

 

「もっと酷っ?!?!?!」

 

 

初っ端からいじられ仰天する那珂に

我慢しきれずみな吹き出す。

 

「…クスッ、冗談よ。

それにしてもまた会えてよかったわ那珂ちゃん…!」

 

「神通ちゃん…寂しかったよぉ~!!」

 

言うなれば姉妹愛という言葉がぴったり2人が抱き合う光景に、思わずうるりと来る。

 

「ところで川内ちゃんは?!」

 

「姉さんも元気よ。那珂ちゃんに会いたがっていたわ。

相変わらず夜戦のことばっかりで

昔と変わっていないわよ」

 

「そうなんだ~!

…って神通ちゃんすごい格好だよ!

ほとんど裸になってる?!」

 

そう、敢えてさっきから言わなかったが

損傷を受けた艦娘はその服装もエライことになっている。

 

損傷の原因が俺じゃなかったら間違いなく興奮して襲っていたところだ。

 

ポロリが無いのが残念、だが恥じらう艦娘の姿もなかなか悪くない。

↑待ちなさい

 

「…ところで、さっき夜戦で敵の軽巡に手酷くやられたの。

もしかして、さっきの軽巡って…」

 

「知らないよ?!?!

那珂ちゃんはさっき目が覚めて記憶は沈んだ時から変わってないし!」

 

目を細め戦闘モードになった神通に

那珂の本能が危険だと判断したのか、

必死に全力否定する那珂。

 

「そっ、ならいいわ…」

 

「「(…危なかった~)」」

 

せっかくの感動の再会が残忍な復讐劇になるところだったぞ。

 

「ところで神通ちゃん、この人は?

見たところ帝国海軍の人みたいだけど

服装が違うよね?」

 

「おう、自己紹介がまだだったな。

俺は菊池、帝国海軍の後継組織の海上自衛隊という組織で提督をしている。

那珂ちゃんのことは(ゲームとかで)日本のみんなが知ってるよ。

本土に帰ってカルチャーギャップはあると思うが心配はいらないよ」

 

(ねぇ神通ちゃん…)ヒソヒソ

(なあに?)

(この提督、結構イケてるね)

(艦娘はみんな好きよ…)

(えっ?!そうなの?)

(ええ、それに…)

 

「お~い、何か問題でもあったか?」

 

「「いいえまったく!!」」

 

なんでぇ2人して内緒話しちゃって…。

あ、カルチャーギャップって言葉がわからなかったのかな?

↑違うそうじゃない

 

 

「とりあえずみんな自分のフネに戻って父島に帰投しよう。

鳳翔と那珂ちゃんは事態が読み込めてないかもしれないけど、詳しいことは後で話すから艦隊に合流してくれ。

よしっ、全員解散っ!」

 

「「了解っ!!」」

 

 

 

※※※※

阿武隈艦内

 

 

「…みんなよくやってくれたよ。

阿武隈もさっきはありがとな、

お前に叱られて目が覚めたよ。

俺は現実から目を背けようとしていた、艦娘を傷付けたという事実から逃げたかっただけなんだ。

 

本当に見つめるのはそこからどう活路を求めどう実践するかということ。

戦争ってのは必ず犠牲が出る。

それをどう最低限に留めどう最良の結果にするという単純なことを失念していたよ」

 

「ううんアタシこそ叩いたりしてごめんなさい。痛かったよね…」

 

阿武隈に戻って俺はまず彼女に感謝した。

思うに心が優し過ぎたのかもしれない。

彼女たちが傷付くのを目の当たりにして気が動転し、彼女たちを余計危険な目に合わせてしまった。

 

決して艦娘に対して非情にすべきだとか言うわけではないが、もっと広い視点から物事を考えなくてはいけない。

 

「正直心が痛かった。

失敗の一言で済まされないのは分かってるけど、この作戦は失敗だった。

航空支援を待つ、艦隊を分けるべきじゃなかった、反省点は多々あるけど

まずは俺の覚悟不足かな」

 

「また自分を責めて…!」

 

「いや、もう言わないさ。

ここで言うことじゃないし、言ったところで終わりは無いだろうしな。

でもありがとう阿武隈。

さっきのお前は輝いてたぞ」

 

彼女の頭を強めに、だが髪を乱さないよう優しく撫でる。

 

「えへへ~」

 

「まだ俺自身何が出来て何が最善なのかよくわからないけど、お前たちを幸せにしてみせる。

例え世界が滅びてもお前たちだけは絶対に誰も沈ませない、これだけは約束する」

 

我ながら矛盾したことを言ったがこれが個人としての最大の約束だ。

日本を、世界を守る使命があるのはわかってる。

だが彼女たちを沈める事だけはしないしさせるものか。

 

こんなに慕ってくれる可愛い艦娘を沈めるくらいならこの身に代えてでも守ってみせる。

 

「嬉しいけど流石に世界が滅びたらダメじゃない…?」

 

阿武隈の苦笑いにつられ2人して微妙な笑いをする。

 

「まぁな…。あくまで個人的な意見であって日本政府や防衛省の見解ではありませーん、戦闘時の注意事項をよく読み戦法戦術を正しくお守りくださーい」

 

「テキトーに誤魔化してもダメだって!」

 

(でも嬉しい。

こんなにアタシたちの事を想ってくれているなんて。

提督ならきっとこれからも大丈夫かな…)

 

「ついでと言っちゃなんだが、

これはお礼のキスだ」

 

<チュッ…>

 

「えっ…」

 

(アタシ提督からキスされちゃった?)

 

「あ"ーっ!

私へのご褒美はまだなのに〜!

こンのクソ提督ッ!!」

 

「げっ、無線切り忘れてた?!」

 

「無線切って『ナニ』しようとしてたのよー?!?!」

 

満身創痍にも関わらず最大戦速で近接する曙。

 

「『ナニ』しようと俺の勝手だろ?

てかお前機関部壊れんぞ?!」

 

「うっさい死ね!」

 

「阿武隈逃げるぞッ!!

アイツマジで突っ込んで来やがる!」

 

「なんでアタシこんな役ばっかりなの〜っ?!」

 

 

…………

 

 

普段のテンションでドタバタを繰り広げる長閑な光景に笑い声が南の海に木霊する。

 

初戦は辛勝。

艦隊は大損害を負い、提督は自らを責め自信を失いかけるが本当に艦娘の為になる事を見出し強くなる決意をする。

 

ドロップという艦娘に会える方法も見つかり、深海棲艦との戦いに意義が生まれたかにみえた。

 

しかし放たれた戦火はまだ導火線に点火したばかりだ。

 

 

 

 

ここは小笠原諸島、その中の一つ南鳥島に訪れる運命をまだ人類は誰も知る由も無い…。

 




阿武隈にもキスしてしまった…orz
でも男なら普通あそこでしますよね?
↑しません

艦娘を傷付けメンタルダウンしかける主人公でしたが、阿武隈の喝もあり気合を入れ直しました。
本当は初戦はもう少し緩めの戦闘にしようと思っていたのですが、戦争は甘くないことを認識させるため艦娘が傷付く描写にしました。

次からは本格的に『南鳥島』をめぐって人間と深海棲艦との激戦が繰り広げられる予定です。
ここからはストックもなくプロットも作りながらな為、亀さん投稿になるやもしれません。

自分で『小笠原諸島防衛戦』と名付けていながら流れはかなり微妙になりそうな気がして来ました…。
筋を通しつつ書きたい物を仕上げていく所存です。
ここで第1章の前半が終わったことを宣言します。
後半は6隻編成の制限をこれまで通り無視しつつ、大艦隊を運用し深海棲艦から『南鳥島』で戦っていきます。
守り切るとは言わないのがミソなのです…。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。