桜と海と、艦娘と   作:万年デルタ

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投稿が遅くて誠に申し訳ないです!

本作を楽しみにしている方には
感謝と謝罪を。
たまたまご覧になった方には
是非1話から読んでいただきたいと思います。


あらすじ(荒過ぎ)
・敵はエリート水雷戦隊
・こちらは駆逐艦部隊の出番
・味方はまだ来ない


言うなれば
プランD、所謂ピンチですね。




1-7B 夜戦中編 包囲殲滅の危機

「もう直ぐ敵の魚雷が来る頃だぞ!」

 

 

艦隊に敵魚雷への注意を促す。

 

酸素魚雷と違って空気魚雷は射程も短いし雷跡も出る。

全ての点において劣っているのだが、

それでも脅威であることに変わりはない。

 

 

雷跡が見えるといっても天候は晴れとはいえ月は敵艦隊と真逆、つまり敵からはこちらが月光に照らされて見えている。

 

逆光で雷跡を見つけ出すのは容易ではない。

 

 

「提督っ、何にも見えませーん!」

 

「泣き言言ってないで探せ!

当たったら大破確実なんだぞ?!

駆逐艦なんて轟沈待った無し、見張りは何か見えたらすぐ報告しろっ!」

 

 

阿武隈が弱音を吐くのも無理はない。

だって何も見えねぇのに探せってのも

無茶な注文だ。

 

 

だがそこは見つけてもらわないと困る。

 

 

 

「秋月と黒潮もよく見張っとけよ!

お前たちは当たったらシャレにならないぞ?!」

 

 

「はいわかってますっ!」

 

「装甲が無いのに魚雷もろうたら

ホンマにあかんでぇ…」

 

 

敵への砲撃もそこそこに魚雷を見つけようと必死になる。

 

 

「なあ秋月、『月』型なんだから

なんか月のパワーで見つけたり月の位置を動かしたり出来ないか?」

 

「提督は私のこと何だと思ってるんですかっ?!?!」

 

「いやぁまあ…藁にも縋るってやつ?」

 

「フツーに無理でしょ…」

 

「突っ込む気にもなれんて…」

 

 

漫画やアニメなら特殊能力発動みたいな

シーンだが当然これは現実であって、

そんなことが起こるはずもない。

 

半分ネタだったが見事スルーされ

打つ手なし。

 

 

「とりあえず魚雷が向かって来る方角に舵を取りませんか?」

 

「え、自分から向かって行くのか?!」

 

 

阿武隈の提案に思わず驚いてしまう。

 

 

「危なく思うかもしれませんが

その方が被雷する面積を減らせますし、少しの転舵で回避できますっ!」

 

 

ナイスだ阿武隈。

やはり一水戦旗艦は格が違った!

 

 

「よしっ!

左側の敵に注意しつつ取舵だ!」

 

 

操舵妖精が舵を取りやや間を空けて

フネが左に動き始める。

 

航続する秋月と黒潮も同じように

転舵して魚雷に備える。

 

 

敵は左後方の春雨たちにシフトしたようで、砲撃も止みとりあえず魚雷回避に集中できそうだ。

 

 

「あっ!アレ、雷跡みたいなものが!!」

 

 

阿武隈が指差す方を見れば1~2キロ先の海面に薄っすらと白い線のようなものがあった。

 

 

「魚雷だっ!!」

 

 

だが見つけたのは1本のみ。

灯火管制下で探照灯も使えない状況で

どうすればいいのだろうか…。

 

 

「主砲でも機銃でも何でもいい!

魚雷らしきものが見えたらぶっ放せ!

敵が各艦10発と仮定して計60発、

全部が当たるわけじゃないだろうが1発もらうだけでヤバい!」

 

 

艦首から向かって来ているであろう魚雷群へ主砲と機銃のデタラメな射撃が開始される。

 

ガァン!ガァン!

ダダダダダ…!

 

 

「とにかく真艦首をクリアにするんだ!

そうすりゃ被雷は無くなる!

真横を魚雷が通り過ぎたところで

当たらなければどうということはないっ!!」

 

 

少しだけ嘘をついた。

敵は魚雷を放射線状に撃っているはずだから絶対に魚雷が真っ直ぐ来る訳ではない。

敵が触発信管なのか、はたまた磁気信管といった高性能な魚雷なのかはわからない。

 

例え当たらずに横をすり抜けたとしても、

ジグザグに走るように設定できる魚雷だったら避けても追いかけるように命中するだろうし磁気や自爆の衝撃で

少なからず被害は出るかもしれない。

 

 

(無力な俺ですまん…)

 

 

阿武隈の後方に秋月と黒潮が続航し

単縦陣を取りつつ、前方の魚雷を排除しながら突き進む。

 

 

ズズーン!

 

 

「おっ、命中か?!」

 

 

適当に撃っていた砲弾の弾着の衝撃に反応したのか一際大きい水柱が上がり、俺や阿武隈とその妖精たちは歓喜の声をあげる。

 

 

「でもまだ残っているはずです!」

 

「そうだな。

阿武隈の言う通り1発誘爆させたに過ぎない。注意しろよっ!!」

 

 

それからしばらくして大量の雷跡が見え始めた。

把握できるだけでも30ほど、やはり敵はほぼ全力で雷撃をしたようだ。

 

以前川内と話していた『赤外線暗視装置』のような夜戦装備は確かに海上自衛隊にあるにはあるが、ただでさえ自衛隊は慢性的な予算不足なのにそこに突如現れた旧式艦艇である艦娘たちには装備の目処は立っていない。

 

川内が夜戦をしたらぶーぶーと文句を言う光景が目に浮かんだが今はそんな時ではない。

 

 

間も無く先頭の魚雷群が阿武隈の艦首

の両側に差し掛かる。

 

 

「躱しきれぇーっ!!」

 

 

大声で魚雷へ向け叫ぶ。

叫んだところで意味はないのだが

居ても立っても居られない。

 

 

左右を魚雷がすり抜けていく様子はまるで家庭ゲームやスマホゲームのようだ。

 

向かってくる敵や攻撃を

横に避けたりこちらも砲弾を撃ったりして撃ち落とすゲームみたいだと

ふと思ったが、実戦でしかも実弾というのはかなり心臓に悪い。

心臓どころかほぼ死ぬだろう。

 

 

魚雷を避けきるまでしばらくかかりそうだ。

俺や阿武隈たちが四苦八苦している間に後方へと抜けた敵艦隊は、春雨たち左部隊と交戦を開始する。

 

 

 

~~~~~~

 

 

「左部隊、突入させていただきますっ!」

 

 

阿武隈たち右部隊が敵から見て左から襲撃し、続けて春雨たちが同じく右側から夜戦を仕掛ける。

 

敵は魚雷を装填する時間もなく連戦と

ならざるを得ず、必然的に砲撃が主な対抗手段となった。

 

敵艦隊は面舵を取ったようで春雨たちの

頭を抑えるコースを取っていた。

 

「敵はこちらを包囲するかもしれません!

取舵を取り『丁字』に持ち込み

敵を右に見ながら砲雷撃を加えましょう!」

 

「で、でもそれじゃあ最後尾の響ちゃんに敵の砲撃が集中してしまうのです…」

 

「大丈夫だよ電、『不死鳥』の名は伊達じゃない…!」

 

「そうよ、フラグシップだかなんだか知らないけど蹴散らしてやるわ!」

 

 

春雨の案に電が異論を唱えるが、

響と曙が大丈夫だと胸を張る。

 

 

「みんな悪いけど重巡と俺たちが向かうまで耐えてくれよ?」

 

 

阿武隈の艦橋にいる俺は作戦支援端末を操作しながら春雨たちにエールを送る。

パソコン上で戦況がわかると言っても

彼我の編成や位置関係がわかるだけであり、戦闘の指揮まで出来るわけではない。

 

 

それ故に俺が方針を示し現場指揮官たる春雨が分艦隊の運用を行う。

 

反転を終えた利根たち重巡隊と、俺が乗る阿武隈率いる右部隊が回避と装填を終え敵艦隊に近接するまで、春雨たち左部隊は集中攻撃を受ける可能性がある。

 

無論重巡も最大戦速で向かっているが

敵は軽巡をはじめとした水雷戦隊、

敵のスピードが数ノット上回っている為、なかなか20.3センチ砲の射程が届かない。

 

 

「回せ回せ~!

最悪主機が壊れても構わんっ!

春雨たちを助けるのじゃ!!」

 

「利根さんそんなに機関を回転させると

負荷が掛かり過ぎて壊れてしまいます!!」

 

 

焦る利根を妙高が窘めるが利根は聞かない。

 

 

「そんなことはわかっておる!

じゃが『今』急がねば大切な仲間を

失いかねん!

機関が無事でも仲間を失っては意味はないのじゃ!!」

 

「利根さん…」

 

「利根、言いたいことはよくわかるし

気持ちも理解できる。

だけど…いや、だからこそ『仲間』を

信じてやれ。

 

春雨たちも生きるために戦ってる。

利根の妖精たちを見ろ、命令を守ってなおかつ期待以上応えてくれているはずだ。

 

言っただろ、俺は誰も沈めないって。

だから無理はするな、お前のエンジンが壊れたらお前が沈められるかもしれない。

そうしたら他の仲間が悲しむ、お前のその気持ちが逆に悪影響を与えてしまうかもしれないんだ。

 

仲間をそして自分を信じるんだ!」

 

「むっ…す、すまぬ。

焦ってしまったのじゃ…」

 

 

ハッと気付いた利根が反省し、

甲高く唸っていた機関を故障する可能性が高い最大出力から、ギリギリ持続運転可能な最大戦速へと落とし始める。

 

 

(しかしどうするか…。

春雨たちが上手く敵の先手を取れればいいが簡単じゃない…。

敵もフラグシップ、馬鹿の一つ覚えみたいに突っ込んで来るはずがない…)

 

 

ふと敵の目的を考えてみる。

 

 

敵は水雷戦隊、夜戦を仕掛けてきた。

重巡には目もくれないのは阿武隈以下の水雷戦隊が目標か?

 

だが旗艦たる阿武隈には大した攻撃はしてこなかった、そして最後尾の部隊である春雨たちに今から攻撃を仕掛けようとしている。

 

 

(敵は反転して再攻撃でも仕掛けるつもりか?

いやいや敵は追い詰められたネズミみたいなもんだ、ダメージも入ってるしこちらが態勢を整えて臨めば負けはしない。

 

何か引っかかる、単純な『何か』を見落としているような…?)

 

 

悩むがどうもモヤモヤが晴れない。

敵の立場に立って考えてみるか。

状況としては劣勢、練度は高いが

人類の方が手駒は多い。

ここからどう巻き返すか。

 

 

(これがゲームならリセットだな、

戦力の劣勢は練度ではカバーし切れない。

俺なら最後に一矢報いるけ、ど……?)

 

 

『一矢報いる』だと…?

 

 

(まさか敵はっ…?!)

 

 

 

「司令官大変ですッ!!」

 

最悪のケースが浮かぶと同時に

春雨から緊急通信が飛び込む。

 

 

「単縦陣で向かってきていた敵艦隊が

分離、私たちの進路を塞ぐ形で展開し始めましたっ!」

 

「まさか…敵は春雨たちを沈めるつもりなのか?!」

 

 

俺の采配は失敗だったんだ。

最後尾には重巡か阿武隈の右部隊に

しておくべきだったんだ…。

 

 

『窮鼠猫を噛む』

 

残った敵をじわじわと倒すという

俺の策は、敵を追い込みすぎて

捨て身の、いや至極当然な方向へと

持って行ってしまった。

 

 

敵からしたらマトモにやり合ったら

敵わない、なら最後尾にいる駆逐艦だけでも沈めるという流れになるのは

落ち着いて考えれば思いついたはずだ。

 

 

(なのに俺は、戦闘が自分の思い通りに行くと思い込んで…)

 

 

俺が自己嫌悪に陥ろうとも最悪な戦闘は始まる。

 

 

「敵軽巡発砲!春雨、避けてッ!」

 

「きゃぁっ?!」

 

「春雨さんっ?!」

 

 

ガァンッ!

 

春雨の艦橋に直撃弾が命中し、

応戦していた砲塔が射撃を停止する。

 

 

「こちら3番艦曙!

先頭の春雨被弾、無線機故障の様子につき私が指揮を執るわッ!」

 

被弾した春雨は無線機が故障したらしい。

連絡も無しに回避行動を行うのを見て

曙が咄嗟に指揮権を行使する。

 

本来なら2番艦である電が指揮権を継承することになっていたのだが彼女も

混乱と応戦で精一杯であり、これは不味いと思った曙が返事も聞かずに判断したのだ。

 

 

しばらくして春雨から発光信号があり

『被害軽微なるも通信機器および兵装使用不要。

応急処置実施中、その間曙が指揮を取れ』

と後続の電たちへと送信される。

 

 

春雨の無事がわかりホッとするが

事態の解決にはなっていない。

 

(まずい、何かいい策は無いのか…?)

 

蒼龍は夜間の発着艦は不可能だから

『艦載機』は出せない。

 

日向も残弾を気にせず進出させようかと思ったが、乱戦になったこの状況では持ち味の火力も生かせそうに無い…。

 

神通は中破だからとても参加させられない。

 

 

万事休す、か…。

 

 

「提督、蒼龍です!

搭載中の哨戒ヘリの乗員から出撃許可要請が…」

 

「……あ!」

 

 

くそっ!そういえば蒼龍にヘリが2機

搭載されていたじゃないか!!

 

「すぐに発艦させてヘルファイアを

ぶっ放すように伝えろッ!!」

 

 

そうか!

蒼龍に載っけて行こうと言ったのは俺じゃないかっ?!

保有戦力は旧式の航空機だと思い込んでいたのは失態の一言では済まされない…。

 

 

(とはいえ発艦するまで時間がかかる、

それまでに出来ることはないか?)

 

 

発艦でもう一つ思い出したが

硫黄島に帰還した哨戒機隊が対艦ミサイルを搭載して戻ってくるはずだ。

まだ連絡は無くレーダーの反応もないが、

あと30分もすれば形勢は逆転するのは間違いない。

 

 

30分という無限とも思える地獄の時間を

この状況からどう作り出すか、

その1ピースが今の俺にはわからないでいる。

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

神通は覚悟を決めた。

 

目と鼻の先では春雨たちが苦戦を強いられ包囲殲滅の危機に瀕している。

自分や伊勢、蒼龍は損傷や夜戦不可能

という状態を鑑み待機命令が出ている。

 

しかしそれでは水雷戦隊

旗艦の名が折れる。

ましてや自分は中破、敵を撃破出来ずとも包囲を妨害するくらいは出来るはずだ。

 

 

たとえこの身がどうなろうとも、

後輩たちは守らなくてはならない。

 

 

(なら、『逝く』しかありません…!)

 

 

神通は静かに目を閉じる。

川内や他の艦娘、そして提督の顔が浮かびこの世との決別をするかのように

心の中で謝罪する。

 

 

(せめて『那珂ちゃん』が現れてから

がよかったのですが、それも叶わないかもしれないわね…)

 

 

自分たち川内姉妹が艦娘として現代にいるのも『あぶくま型』護衛艦として命名されたからである。

だが那珂だけは戦後自衛艦として命名されることなく現れていない。

 

深海棲艦が現れ『艦娘』が世間に認知されるようになって、神通はいつか那珂に会えるのではないかと期待していた。

 

響たち暁型が出港前に提督に「暁を探して欲しい」と話していたのを見て、

かつての仲間を探さなくてはと思った。

 

だがその響たちが苦戦を強いられ、殲滅の危機に瀕しているとなれば自分の身など幾らでも投げ出そう。

 

 

(提督なら必ず那珂を…いえ、まだいない艦娘も探し出してくれるはずです)

 

 

中破で水雷戦隊に挑むのは気が引けるが、それ以上に久々の夜戦に胸が高鳴るのを神通は感じていた。

 

 

「神通、行きますッ!!」

 

 

 

 

 




いかがでしたか。
戦闘描写を皆さまにどう想像しやすく
するか悩み、スランプになってしまいました。

物語のプロットは出来ているのですが、
無駄に細かい所を追求してしまい
なかなか投稿が出来なくて…。


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