桜と海と、艦娘と   作:万年デルタ

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かなり非現実な話となっております。
「なんじゃこりゃあぁ?!」
と思われた方は申し訳ありません。


今回2視点から物語を進行させて
おりまして、やや読み辛い場合がございます。


「こう描いて欲しい!」
「構わん、やれ…」

というアドバイスをお待ちしております。






1-5 英雄は奈落より飛翔す

 

side of seabed

 

 

 

 

…ここは、海の中か?

 

 

 

水面下から見る海面はユラユラと

穏やかで太陽の反射が見事な光景を醸し出していた。

 

 

 

(救命胴衣を着てるのに浮かねぇのかよ…)

 

 

 

海中にいるのに不思議と苦しくない。

呼吸さえしなくてもいいみたいだ。

 

 

 

(確か爆発でヌ級から吹き飛ばされて、

海に叩きつけられたところまでは覚えてるな…)

 

 

 

ゆっくりと海底に沈みながら冷静に経緯を辿る。

 

 

 

(これってもしかしてもしかしなくても、

死んじゃったんじゃ?)

 

 

 

身体に力を入れようとしても入らないし、

おまけに海の中で呼吸も不要ときたもんだ。

 

 

 

哀れ菊池のハーレム提督人生もここで

おしまいか…。

 

 

 

せめて来年の春に桜の咲く公園で艦娘と花見がしたかったなぁ…。

 

 

 

飲兵衛な艦娘に絡まれたり昔話を聞いたり、加賀が歌ってくれる加賀岬を聞きながらうつつを抜かしてのんびりと

している光景を浮かべる。

 

 

 

千鳥足の電がそのへんでぶつかったり、

泣き上戸な足柄が俺にベッタリで金剛や照月を始めとした付き人ーーー物理的な意味でーーーが引き剥がそうとしている、そんな光景…。

 

 

 

美味しい料理に舌鼓をうち、作ってくれた鳳翔にお礼を…、言っている……うん?

 

 

 

 

 

(おいおい鳳翔なんていつドロップしたよ?)

 

 

 

まだドロップ艦さえいないのにいつの間に現れたんですかねぇ…?

 

 

 

 

 

鳳翔……ほうしょう……

 

 

 

あっ、さっき見たじゃないか?!

そうだった!ヌ級から真っ逆さまに落ちる瞬間、確かに俺は『鳳翔』が甲板にいるのをこの目で見た!

 

 

 

(じゃああのヌ級は…鳳翔?)

 

 

 

どすんという、鈍いが痛くない音に辺りを見渡すと海底に辿り着いていた。

 

 

 

それと同時に身体の感覚が少しだけ戻り、

泳いで浮上を試みるがまるでここが地上であると言わんばかりに浮かない。

 

 

 

(ダメじゃん…)

 

 

 

取り敢えずあぐらを組んで事態の解決を図ることにする。

 

 

 

(何も出来ないしすることもないな…

 

 

 

 

もしこのまま海底から逃げられないとして、どうすればいいだろう…

 

 

『深海征服!海底人と化した提督2』

 

 

どうだ、生きて帰ったらこんなタイトルの映画でも作って儲けるか?!

 

 

……あほくさ、B級映画にもなれない映画同好会の作った素人ムービーの方がもっとマシなタイトルを考えるっつーの…)

 

 

 

アイデアが浮かばすただ寝転ぶ。

『火砲』は寝て待てって旧陸軍の参謀

も言ってた。

それは流石に冗談だが何も出来ないからしゃーない。

 

 

 

近くの岩に石をコンコン叩きつけて

場所を上にいる艦娘に知らせようとも考えたが、身体がうまく動かない。

 

 

立ち上がろうとしても足が何故かいうことを聞かないし、特に左肩は動かそうとすると鈍い痛みがする。

 

 

マジ訳わからん、やっぱ死んでんじゃないかな?

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

side of surface

 

 

 

「敵ヌ級爆発!続いて曙から通信、

提督以外の陸戦妖精は脱出したが提督は爆発で吹き飛ばされ行方不明!!」

 

「そんなっ…?!」

 

 

 

妙高が妖精の報告に愕然とする。

 

 

 

動揺は阿武隈他駆逐艦にも広がり、

まだ敵潜水艦がいるにもかかわらず

スピードを落とす艦娘が現れる。

 

 

 

「提督はきっとご無事です!

今は目の前の敵に集中して、ここで

被雷でもしたら後で提督に叱られますよっ!」

 

 

 

咄嗟に妙高がジョーク交じりの檄を飛ばして士気の維持に努める。

 

 

 

「せやせや!司令はんならヒョコッと

現れて『ただいまー』とか言うに決まっとるて!」

 

「そ、そうですね!

司令官さんは何をされてもタフな方なのです!」

 

「電、それは褒め言葉じゃない…。」

 

「司令官はああ見えて私たちのことを

考えてくれていますから…。

きっと戦闘後に現れてまたイタズラをしてきますよ、はい!」

 

「無事だとは思うけど、あたし的には髪を触るのは止めて欲しいな…」

 

 

 

表面上の士気は保てたものの、

皆心の中では不安だ。

 

 

 

敵の魚雷を回避しつつ早く提督が見つかって欲しいと願う妙高。

 

 

 

敵は倒しても倒しても湧いてくる、

まるで『基地が近くにある』かのように…。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

side of seabed

 

 

?「……しもし」

 

 

 

グオーー!

 

スピイィィー…

 

 

?「…もし、起きてらっしゃいますか?」

 

「起きてるぅ…あと5分だけぇ…」

 

?「それは起きてるといいませんよ?」

 

「むにゃ…よゆー…。

俺、二度寝はしても寝坊はしたこと無いしぃ…」

 

?「ふふ、しょうがない方ですね」

 

 

 

海底で頭を休めて休息(普通に寝ていた)俺は誰かの声で渋々起きる。

 

 

 

「ほぇ…?」

 

「初めまして、軽空母鳳翔です」

 

「ああどうもご丁寧に、自衛官と提督やってます菊池です。いつも1-5とかでお世話になったりドロップしたりとお世話になって……、って鳳翔ォ?!」

 

「はい。不束者ですが、よろしくお願い致します」

 

 

 

さっき見た鳳翔が目の前にいる。

 

ついでに今の体勢は俺が寝ていて鳳翔が枕元(枕ないけど)に立っていて、

スカートから何かが見えちまう見えちまう?!

 

 

 

見たい欲より見てはいけないという良心が働き、ガバッと身体を起こす。

 

 

 

「あ、危ねぇ…。

理性が無かったら死んでいた…」

 

「?どうされました?」

 

「いや、寝ぼけていただけかも。

きっと頭を強く打っただけっぽい」

 

「それはいけません、そのまま横になってください」

 

 

 

え、これってもしかして膝枕してくれるパターンですか?!

 

 

 

「ダメっす!元気っす!治ったっす!頭良くなりましたっす!

いつものバカな俺に戻ったっす!」

 

 

 

膝枕なんてされたら、逆に理性がぶっ飛んで海底で狼が暴れ回ることになる。

丁重にお断りしておく。

 

 

 

「そ、そうですか?」

 

「うん、すこし動転しただけだよ」

 

 

 

頭もすっかり醒め、通常モードになった。

 

 

 

「提督をなさっているのですね。

私も提督、とお呼びしてもいいでしょうか?」

 

「うん、俺もそうしてくれると嬉しい。

『他の娘も』そう呼んでくれているしね」

 

 

 

鳳翔にも提督と呼んでもらうことにした。

 

 

 

「今『他の娘』と仰いましたが、

もしかして艦娘のことでしょうか?」

 

「そうだよ、海上自衛隊の自衛艦で帝国海軍の頃と同じ名前の艦娘は元気にしているよ」

 

「あの提督、さっき仰っていた『1-5』というものや海上自衛隊とは何なのでしょうか。日本の新しい海軍のようなものですか?」

 

 

 

oh…これは。

オカンは1947年に解体されてから現代の日本を知らないのか。

 

 

 

「えっとね、ざっくり話すと…」

 

 

 

〜大まかに説明中〜

 

 

 

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side of surface

 

 

 

 

「ま、まだいるのぉ〜?!」

 

 

 

阿武隈が耐え切れず弱音を吐く。

無理もない、確認されただけでも8隻撃沈、目の前の健在な敵も含めると10隻目を相手にしているからだ。

 

 

 

一気に現れて攻撃してこないのが救いか。

2、3隻ずつ現れて1隻を沈めるといつの間にか新たに1隻現れての繰り返しを何度も繰り返していた。

 

 

 

遠くにいた護衛艦2隻が加わり掃討するが、

さすがに全力で走りながらではソーナーも発振出来ない。

 

 

 

蒼龍に積んである対潜ヘリを発艦させ、

ちびちびと探すしか方法は無かった。

 

 

 

硫黄島から哨戒機が急行しているものの、

その前に艦隊が崩壊する危険が高かった。

 

 

 

未だ浮かんでいる軽空母ヌ級の

側には曙と、少し間隔を空けて日向、蒼龍、鳥海、利根そして神通が必死の捜索を行っていた。

 

 

 

「提督はまだ見つからないのか!」

 

「いま探しておる!

焦ったところで何も始まらんぞ!」

 

 

 

利根の言葉に日向は少し冷静になる。

 

 

 

(そうだ、私が狼狽したところで事態が良くなるわけではない…)

 

 

 

キィイイーン……

 

 

 

上空を見上げれば硫黄島から駆けつけたF-15戦闘機4機がスピードを落としながら旋回していた。

 

 

 

戦闘機から間も無くP-1哨戒機が到着するとの通信が入り、艦隊全体が僅かに活気付く。

 

 

 

提督が転落してから3時間は経過していた。

救命胴衣があるにもかかわらず浮かんでいないのはやはり…。

 

 

 

日向は蒼龍へと通信を入れる。

 

 

 

「蒼龍、日向だ。

あと2時間粘る、これを過ぎたら撤退するぞ」

 

「ちょっと待ってよ日向!

提督を見捨てるの?!」

 

「このまま探していても敵の的になるだけだ、目の前のヌ級はまだ沈みそうにないがやがて火災が広がり浸水も激しくなって沈むだろう。

 

 

潜水艦からの壁の役割を果たしているアレが無くなれば私たちにも攻撃は向かってくる。

ただでさえ横と後ろは無防備なのだぞ?!」

 

「そ、それは…そうだけど」

 

 

 

壁と言ってもハリボテに等しい存在の敵の軽空母。横と後ろに至っては快晴の青空、むしろ今まで攻撃されていなかったことが奇跡に等しいだろう。

 

 

 

(提督がいなくなったら…私、

どうしたらいいの?!)

 

 

 

艦橋でむせび泣く蒼龍に声をかける

者はいない…。

 

 

 

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side of seabed

 

 

 

「…んで、俺が提督になったわけさ」

 

「へぇ、艦娘を題材にした『げえむ』というものがあるのですね」

 

 

 

説明終了、鳳翔も概ねわかってくれたみたいだ。

 

 

 

いやぁ、テレビを知らない人にモニターやらインターネットやらを教えるのは骨が折れるぜ…!

 

 

 

「じゃあさ、今度は俺が聞きたいんだけど」

 

「はいなんなりと、私でよければ」

 

 

 

私でって、こかには貴女しかいないでしょうに…。

まあそこは日本語の難しいところだよね。

 

 

 

「ここ、何処?」

 

「あの世の入り口です」

 

 

 

hai?

 

 

 

「あの世って、天国とか地獄とかのアレ?」

 

「ええそうです」

 

 

 

にこにこと答える鳳翔さん、マジ恐いです…。

 

 

 

「つうてーことは、俺は死んだの?」

 

「死にかけている、みたいですね」

 

「みたいってなによ、みたいって…」

 

「すみません、私も同じ様な状況みたいでしてよくわからないんです」

 

「えーっと、それはヌ級が沈むから鳳翔さんも死ぬってこと?」

 

 

 

え、俺もしかして鳳翔を殺してしまった系…?

 

 

ウソ、責任取って死のう…。

あ、もうすぐ死ぬのか…。

 

 

 

「いいえ、ヌ級が自決した時点に

私は目を覚ましました。

 

 

気が付いたら艦長席に座っていたんです。

少しぼーっとしていたら提督が飛行甲板に上がってこられて、声をお掛けしようとしたら…」

 

「ちゅどーんなワケね」

 

「その通りです」

 

 

 

にしても鳳翔はもうすぐ死ぬかもしれないってのにえらく落ち着いてるな…。

 

 

 

いくら『お艦』とはいえ余りにも落ち着きすぎでしょう…?

 

 

 

「助かる方法は無いのか?

このままだと死ぬのを待つしか無いじゃないか!」

 

「『人事尽くして天命を待つ』…。

この諺を知っていますか?」

 

「…なんだよ突然」

 

「そうかっかなさらず。

提督はやれることをやった、なら後はあの娘たちを信じましょう…」

 

「それだけ?」

 

「それだけです。

運命を受け入れるという言葉はあまり肯定的に思われませんが、私は好きなんです。

 

 

護りたいもののために精一杯戦い、

時には失うこともあります。

 

そんな時は自分に問いかけます、

『努力に憾み勿かりしか』、

そして『不精に亘る勿かりしか』と」

 

「五省だね、海上自衛隊でも教わるよ」

 

「きっとみんな上で提督の事を思い、

戦っているでしょう。

例えなにも出来ずとも私たちには信じることができます」

 

「信じるさ、自慢の仲間だ。

俺なんかよりも強く、繊細で、護りたい存在。

ここで死んだら男が泣くってもんだ!」

 

「ふふっ!やはり面白いお方です」

 

「…なんか最近よく笑われてる気がして

嫌なんだけどなあ」

 

「あら、これでも尊敬しているのですよ?」

 

 

 

ケタケタと笑うを鳳翔を見て思わず

こちらもつられて笑ってしまう。

 

 

 

(OK、受け入れてやろうじゃないか。

運命とやらを!)

 

 

 

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side of surface

 

 

 

「哨戒機から通信!

敵の潜水艦はあと2隻、付近に反応なし!」

 

「やっと打ち止め?!

爆雷が残り5発だけだからダメかと思ったよ〜!」

 

 

 

春雨が安堵する。

 

 

 

「まだ敵がおるで!

気ぃ抜くんはまだやで!」

 

「残弾全て命中させちゃいます!」

 

「やるさ。」

 

「モロ見えなんですけどっ!」

 

 

 

阿武隈たちの渾身の爆雷攻撃と

哨戒機による精密攻撃により、

敵の潜水艦は壊滅した。

 

 

 

曙たちの周囲も探索した結果、敵の

反応は無く戦闘は終了した。

 

 

 

対潜警戒を哨戒機に任せ、妙高らも

提督の捜索へと加わる。

 

 

 

「日向さん、提督はまだ見つかっていないのですか?!」

 

「ああ…。浮遊物さえ見つかっていない。

既に4時間は経過している、最悪のケースも考慮しなければ…」

 

「そんなっ…!」

 

 

 

日向の言う通り、陽も傾き捜索可能時間を過ぎようとしている。

救命胴衣を着けていながら長時間見つからないということは最悪鮫のエサ、

良くても何らかの弾みで救命胴衣が脱げて水死だろう。

 

 

 

内火艇の準備をしつつ落下時の様子を見ていた曙から話を聞くと、提督は吸い込まれるように海中に沈んだという。

 

 

 

「きっと軽空母に空いた破口に海水ごと吸い込まれたんだわ…!!」

 

 

 

話を終えた曙は保っていた糸が切れたように泣き崩れる。

それはやがて他の艦娘にも伝染し、

捜索どころでは無くなってしまう。

 

 

 

(最早これまで、か…)

 

 

 

絶望が艦隊を支配し、捜索する内火艇の妖精の喧騒のみが辺りに響く。

 

 

 

 

 

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side of seabed

 

 

 

「でね、村雨がさあ…」

 

 

 

海底で待つ俺たち2人はひたすらに

トークしていた。

 

信じるっていっても祈ったところで何も変わらないし、折角なら鳳翔とお話ししたいしね。

 

 

 

「ダメですよ、女の子をからかっては」

 

「いやさぁ、俺としては普通に『騒動の責任』を取る意味で言ってるわけで変な意味はこれっぽっちも無いわけさ」

 

「それを端折り話す提督の意図とそれを受け取るあの娘たちでは解釈が違うのでは無いでしょうか?」

 

「えっ、マジ?」

 

 

 

ちなみに今は、俺が何回かした『お前を守ってやる』発言を聞いた艦娘が何故か顔を赤くしてしまったことの相談だ。

 

 

 

(ふむ、女の子とは難儀な生き物だぜ…)

 

 

 

上で俺の生存が絶望視されていることなどつゆ知らず、まったりムードが場を支配する。

 

 

 

「その発言を聞いた娘たちは恐らく…」

 

 

 

そこまで鳳翔が話したところで、

異変が現れた。

 

 

鳳翔が半透明になり、段々消え始めたのだ。

 

 

 

「ちょちょちょ、

鳳翔さん消えかかってる?!」

 

「きっとあの軽空母が沈み始めたのね…」

 

 

 

鳳翔は悟ったようにゆっくりと瞼を閉じる。

 

 

 

「まさか、鳳翔は死ぬのか?」

 

「どうでしょうね。

それは神様のみが知ります…」

 

 

 

寂しく笑う鳳翔に、思わず心が揺らぐ。

 

 

 

「折角会えたのにっ!

またこの世に生まれて、鳳翔が新たな人生が歩めると思ったのにっ!!」

 

「泣かないでください、提督。

いくら敵のフネといえども、沈没すれば艦娘も同じように消えるのです」

 

 

 

奇妙な出会いから体感で4時間余り。

短いながらも打ち解け、これから他の艦娘との交流も楽しみにしていたじゃないか。

 

加賀を始めとした空母勢、他の艦娘にも久しぶりに会いたいってはなしてたじゃないか!

 

 

 

(なのに…サヨナラなんて…!)

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

side of surface

 

 

 

「敵軽空母、沈み始めましたッ!!」

 

「何だと?!

捜索隊は即刻退避っ!艦から遠ざかれっ!」

 

 

 

誰も中止とも言い出せず、日没後も捜索をしていた日向たちだったが、

ここにきてずっと炎上していたヌ級が沈み始めた。

 

 

 

今までよく沈まなかったと思えるほどに燃え盛る船体の各所から浸水した海水が吹き出し、急速に傾き始める。

 

 

 

「全艦クラッチ入れ!

後進一杯で遠ざかるんだ!」

 

 

 

ゆっくりと離れ始めた艦隊を追い立てるように、ヌ級は艦尾からスーッと沈んでいく。

 

 

 

フネが沈む際には伴流と呼ばれる沈む船に引っ張られる流れや、渦が発生したりして付近の浮遊物を海中に引きずり込もうとする。

 

 

 

浮力の高いはずの無傷の船であっても巻き込まれる可能性があり、何が何でも遠ざからなくてはならない。

 

 

 

ましてや沈んでいくのは軽空母だ。

駆逐艦など池のボートに等しく、内火艇は言うまでもない。

 

 

 

悲しみに浸る余裕も消えてなくなり、

全艦後進を掛けつつゆっくりと下り始めた。

 

 

 

「もっと、もっと速くさがるんだ!」

 

 

 

駆逐艦や軽巡は比較的早く速度が出始めるが、大型艦は速度が効くのが遅い。

 

 

 

ようやくスピードが乗ると、それを待っていたかのようにヌ級は沈むペースを上げる。

 

 

 

タイタニック号が沈むかのように、

ヌ級も艦首を天に向けながら海の底へと向かっていく。

 

 

 

まるで沈むのを拒否する『何か』が存在するかのように、まだ生きたいと言わんばかりに往生する。

 

 

 

潮を吹き上げ、艦内の空気と辺りを照らしていた炎がフッと見えたと思うと

ヌ級は一気に沈んでいった。

 

 

 

「そんな…、どうして…」

 

「…ウソでしょ」

 

「司令官さんは…」

 

「もう…ダメ、なのかしら…」

 

 

 

ヌ級が海中に消えてから、

艦娘が思い出したかのように悲しみ始める。

 

 

 

「捜索隊は……?

そうか、無事か…。せめてもの救い、か…」

 

 

 

精神に鞭を入れ妖精の無事を確認する日向だが、失ったものは大きい。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

side of seabed

 

 

 

「俺が悪いのかな?

俺が、ヌ級を…鳳翔を攻撃したから…」

 

 

 

泣き噦る俺に鳳翔が微笑みかける。

 

 

 

「そんなことないですよ。

提督のお陰でこうしてまた現れることが出来たのですから、感謝していますよ」

 

 

ひんやしした鳳翔の指が俺の涙を拭う。

 

 

 

「また、会える…よな?」

 

「きっと、また」

 

 

 

一番怖いはずの鳳翔がニッコリしながら

小指を出し約束しようと言ってくる。

 

縋るかのように今にも消えそうなその小指に自分の小指を絡め、心から約束を契る。

 

 

 

「約束だぞっ!俺頑張るからっ!

みんな幸せにするからっ!

 

だから、またっ…!!」

 

「ふふっ、折角のお顔が台無しですよ?」

 

 

 

笑っているはずの鳳翔の目から溢れる涙が彼女の心境を物語る。

 

 

 

「敵のフネとは…いえ…私も、

沈むのです…ね……」

 

 

 

半透明の鳳翔の身体からキラキラと

飛散する彼女が彼女であった証。

 

 

小指は元から何も無かったかのように

消えて行きそのまま上半身、下半身がフェードアウトしていく。

 

 

 

「あっ…ああっ……!」

 

「もし生きて…いられる…のであれば…小さな店を、開きたかっ…たで……す…」

 

 

 

寂しそうな笑顔のまま鳳翔は消えていった。

 

 

 

それと同時に俺の身体に激痛が走り、

苦しくなり始めた。

 

 

「ガッ…!ぐぅっ…!」

 

 

 

まるで骨折したみたいに左肩が鈍い音を立て変な方向を向く。

 

 

 

いままで海中にいても呼吸が必要無かったのに、突然口の中に海水が入ってきて苦しくなる。

 

 

「ガボッ…!」

 

 

 

海の中にいるのを思い出したかのように

身体が海面を目指して浮き始める。

 

 

 

 

とはいえ息を我慢できるはずもなく、

俺は悲しみに浸る暇もなく意識を手放すことを余儀無くされた……。

 

 

 




リアリティゼロな展開…。
だが書きたかったッ!
それだけです。


鳳翔さんがドロップかと思いきや
即刻リタイアというまさかの展開。
お艦好きな皆様に怒られる…。


タイトルの
『英雄』、『飛翔』
でピンと来た方がいたらうれしいです。

鳳翔
『鳳=英雄』、『翔=飛翔』


…どーでもいいですか、そうですか。



●ゲームの方は『飛龍』ちゃんが
出なくて泣きそうです。
私としましては彼女は
隣の家に住む幼馴染キャラ
というイメージです。

異論は認めます。


大破進撃が怖くて攻略が
全く進みません…。
みんな平均的に育ててるのも
ありますが…。

特定艦のみ集中のような攻略は
好きになれなくて、生憎。


でも潜水艦だけはレベルトップに
陣取っているんですがねぇ…(ブラ鎮)

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