桜と海と、艦娘と   作:万年デルタ

20 / 59
前話は走り過ぎたかと反省しております。
細かい描写を省こうとした結果、
順序を飛ばしてしまったと考えます。


適切な順序を経て物語を進めるには
濃く、長ったらしい文章になると思い
端を折らせていただきました。
むずかしいっ!!(結論)


文字数も少なめに更新していきます。
物語の内容はそのままに、進み具合を
高めたいと思います!





1-4 海に吸い込まれし生命(いのち)

西之島沖

 

 

 

「各艦は秋月に続いてくださいっ!」

 

 

 

秋月を始めとした駆逐隊が海を疾る。

眼下にいるであろう敵の潜水艦を求めて

ソーナーが探知した海面へと向かう。

 

 

 

「このあたりでしょうか?」

 

「秋月、面制圧を掛けよう!」

 

「ここはひとまず爆雷を落として敵の動きを見るのです」

 

 

 

立入検査隊収容のために残った曙以外の秋月、響そして電が敵を討たんとする。

 

 

 

「そうですね、まずは爆雷攻撃を行いましょう!!」

 

 

 

よく映画であるようなソーナーで探知してすぐ攻撃のような駆逐艦最強ストーリーは所詮ご都合主義に過ぎない。

 

 

 

水上艦は走っている間潜水艦をほとんど探知できないし、何より潜水艦というものは隠れることに長けた海の忍者とも言える存在だ。

 

 

 

いくら敵が第二次大戦時の艦艇をベースにしているといっても、簡易的なソーナーを積んだだけの旧式駆逐艦では

探知するのは安易なことではない。

 

 

 

「単横陣を取り炙り出しましょう、

よーい…テェッ!!」

 

 

 

秋月の合図で爆雷が投下される。

 

 

 

ズズーン!

 

 

少し間が空き水柱が後方から上がる。

 

 

 

「見張妖精、海面を調べろ!」

 

 

 

秋月が妖精に戦果の確認をさせるも

手応えなし。

 

 

 

「敵は上手く逃げたようだね…。」

 

「響ちゃん、感心している場合ではないのです!

早く倒さないと司令官さんと曙ちゃんが危ないのです!!」

 

 

 

電が焦るのも無理はない。

ヌ級に乗り込んだままの提督を待つ曙は

クラッチを切っているだけとはいえ、

その場に静止。

つまりは止まっているいい的だ。

 

 

 

もし別の潜水艦がいればひとたまりもないだろう。

いくら警戒に当たっていた妙高たちが急行しているとはいえ、その僅かなチャンスを敵が見逃さないはずもない。

 

 

 

(早く倒さないと…)

 

 

 

秋月たちは焦っていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ヌ級軽空母艦内

 

 

 

 

「もう少しで飛行甲板に出るはずだ、

頑張れ!!」

 

 

 

俺たちは傾斜し暗黒世界と化した艦内をライトを片手にひた走っていた。

 

 

 

雷撃を受け真っ暗な艦内。

おまけにそこらかしこから煙やら浸水やらで回り道しながらの脱出になってしまった。

 

 

 

「目印に付けたビニールテープも無くなっちまってるし、こりゃ迷路だなぁ」

 

「冗談言ってる場合じゃないですよ提督、

急がないとこのフネごと海の底です!」

 

 

 

律儀にツッコミしてくれるのは有難いが

弱音を吐いていないと精神がおかしくなりそうだ。

 

 

 

ただでさえ知らないフネの構造、

加えて傾斜と暗黒ときたもんだ。

ヘタしたら生きて太陽は拝めない可能性だってある。

 

 

 

「提督!別れ道ですッ!!」

 

 

 

 

前を進んでいた妖精の言葉に前方を見ると、

上下の甲板へ向かうラッタルがあった。

 

 

 

飛行甲板に出るであろう上のラッタルは煙も無くいかにもこっちに来いと言わんばかりの出で立ち。

下のデッキに向かうラッタルは煙をコンコンと上げており絶対に行っては行けないと思う。

 

 

 

ちらと同じデッキの通路を見れば火災が発生していて物理的に通過は不可能だ。

 

 

 

(上か下か、どっちに行くかで運命が決まるな…)

 

 

 

「提督上に行きましょう!

煙も無いですし何より飛行甲板に行くには上に向かうのがベストです!」

 

 

 

大多数の妖精が頷く。

 

 

 

「上に行くのになんで止めるんだ!

オマエは死にたいのか?!」

 

 

 

別れ道だと言って足を止めた先頭の妖精を

ベテランの妖精が強く責める。

 

 

 

「で、でもイヤな予感がしまして…」

 

 

 

(昔テレビで見たことがある…。

こんなピンチな時選ぶべきは…)

 

 

 

「待てみんな、俺を信じるか…?」

 

 

通常なら迷わず上に行くだろう。

だが頭の中で何かが『上に行ってはダメ』

と言う声が聞こえた気がする。

 

 

 

これが第六感というものなのか?

 

 

 

「よし、こっちに行くぞ…」

 

 

 

俺は俺の信じる方を進むことにした。

 

 

 

(俺は、誰も…

死なせはしないっ!!)

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「敵潜水艦、撃沈を確認っ!!」

 

 

 

秋月がほっとするが、すぐに表情を硬くして他の敵を探す。

 

 

 

(敵は一隻だけと決まったわけではありません…!)

 

 

 

現に響と電は撃沈など気にしていないかのように他の潜水艦を探している。

 

 

 

(これが防空駆逐艦と特型駆逐艦の差でしょうか?)

 

 

 

引き続き捜索に戻る秋月は思う。

 

 

 

(…響さんと電さんは私と違って対潜を

メインにしていたからやはり場馴れしているのですね)

 

 

 

『秋月』というフネは一貫して対空艦であった。

初代は駆逐艦秋月、知っての通り対空駆逐艦として多くの仲間を護り生涯を終えた。

 

 

 

二代目は海上自衛隊の護衛艦。

初代『あきづき』型護衛艦として生を受け

図らずしも再び戦後日本の海上防空を担い

前世を大幅に越える30年余りの生涯を終える。

 

 

 

三代目のあきづき、そして再び駆逐艦として生を受け防空艦として日本の海を護る使命と責務を背負うこととなる。

 

 

 

(護りたい人がいるというのは

不思議と力が湧いてくるようです…)

 

 

 

だが今は目の前の蒼い海にいる潜水艦を殲滅することが使命、秋月は刹那の回想を止め眼下の敵に集中した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「上を見ずに突っ走れ!」

 

 

 

謎の声改め第六感は当たっていた。

 

 

 

事実デッキは火災が発生しているようで天井からは熱気と燃える落下物が

上に行かなかったことを正しいと証明していた。

 

 

 

下のデッキに降りてみると煙は大した量ではなかった。

下層デッキからの排煙がラッタルを通じて上に上がっていただけのようで、

今いるデッキは軽い損害の他火災や

損傷は見当たらなかった。

 

 

 

もし上に行っていたらと考えると鳥肌が

立つが、この危機的状況で恐怖に浸る余裕は無かった。

 

 

 

ただひたすらに外を求め青い空を見る、

そのことだけを頭に暗い艦内を疾走していた。

 

 

 

「提督、目印のテープです!

もうすぐ飛行甲板に出ますっ!!」

 

「もうすぐ外だ、気を抜かずに走り抜けぇっ!!」

 

 

 

俺は、俺たちはこんなところで死ぬわけにはいかないんだ。

妖精たちも俺も、生きてフネに戻りたい一心で煙たい空気を吸い咳き込みながら足を動かし続ける。

 

 

 

?(私ももう少しだけ、無茶をしてみましょうか…)

 

 

 

走りっぱなしに加え排煙による酸欠状態の影響か聞こえるはずない女性の声が聞こえる。

 

 

 

(お迎えはっ…まだっ、まだはえーんだよっ…!)

 

 

 

謎の声は優しいトーンだ。

死神の声は優しい囁きだと聞いたことがある、できれば今は優しさより厳しい檄をもらいたいものだ…!

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

2隻目を沈めた秋月たちに

妙高らが合流し、本格的掃討に移る。

 

 

 

幸いヌ級と曙の周辺にはいないようで、

残りは近くにいるであろう2、3隻のみだ。

 

 

 

「索敵機は潜望鏡を見つけ次第報告してください!

何としても提督が戻るまで持ち堪えて!」

 

 

 

遠くのヌ級にまだ沈まぬよう願う妙高。

 

 

 

「潜望鏡発見!

妙高から見て左30度、20!

あっ、雷跡!魚雷ですっ!」

 

 

 

(いざとなったらこの身を挺してでも!)

 

 

 

「みんな、覚悟を決めてください!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「クソ提督は?まだ出てこないの?!」

 

「無線機も故障したのか通信は入ってきてないよ!

どうしよう、もしかしたら…」

 

 

 

艦橋のウイングで焦る曙。

隣の妖精が悲観的な返事をする。

 

 

 

「まだ、謝ってないのにっ……」

 

 

 

(クソ提督なんて初対面から言わなければよかった…。

護衛艦の時見た男なんてみんな蛮カラな人ばっかりで、世の中の男もみんなそうだと思ってた。

 

 

でも『提督』はそんなじゃなかった。

言動はセクハラばっかりだったけど

本当は優しくて艦娘のことを考えてくれてて、ちょっとだけ凛々しくて…)

 

 

 

この僅かな期間で曙は提督の真の姿を

知った。

 

 

口ではスケベなことしか言わなくても、

ちゃんとフォローもするし

決して不快ではない会話。

 

 

行動は変態にしか見えなくても、

艦娘のことを考えてくれて結果的に

丸く収めてくれる。

 

 

 

(そんな人を敵艦に乗り込ませるなんて、

ふざけてる!!)

 

 

 

「飛行甲板上に人影!

提督です、提督たちですっ!!」

 

 

 

双眼鏡を覗いていた見張妖精の言葉に

顔を上げるとニッコリと提督がススだらけの顔でこちらに手を振っている。

 

 

 

「捜索班の妖精、海に飛び込み始めました!」

 

 

 

ドボンという音の後、やや間を空けて

妖精が海面に浮かぶ。

 

 

提督は高所の飛行甲板から飛び込むことに怯える陸戦妖精を励ましている。

 

 

 

(まさか最後まで見送るつもりなの?!)

 

 

 

曙の予測は当たっていた。

提督は最後まで陸戦妖精が飛び込むのを見届けてから自らも続くつもりだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「提督も飛び込んでください!」

 

「俺はいいから早く飛び込め!

俺もそのうち行くから!」

 

 

 

妖精が一瞬戸惑うが意を決して飛び込む。

 

 

 

飛行甲板というものは思いのほか高い。

 

 

 

現代米軍の空母でもswim callと呼ばれる甲板から海に飛び込む訓練が行われているが、それは空母のエレベーターを下げ喫水に近づけた上で行われるものであって、飛行甲板から飛び込むものではない。

 

 

言うまでもなく飛行甲板から飛び込めば身体を打つし、顔面から落ちれば少なくとも鼻血が出るからだ。

 

 

 

「痛い怪我と苦しんで死ぬのとどっちがいい?!」

 

 

 

俺もこの時ばかりは情け無しに

強引に飛び込ませる。

 

 

 

最後の妖精が飛び込み終えるのを見届け、

海面に異常が無いのを確認して飛び込もうとする。

 

 

 

ブワッ!!

 

 

 

「えっ…?」

 

 

 

突如後ろから熱い風が吹き荒れ、

まるで塵のように宙に舞う。

 

 

 

刹那爆炎を上げるヌ級の飛行甲板が見え

天地がひっくり返ったと悟る。

 

 

 

逆さに見える飛行甲板よく見ると爆炎の中に『誰か』によく似た女性の姿を見つけた。

 

 

 

「大丈夫ね…」

 

 

 

ニコ

 

 

 

 

逆さまとはいえその姿を見間違えるはずもない。

 

 

 

「ほ、ほうs……!」

 

 

 

『彼女』の名前を叫ぼうとしたが、

海に落ちた衝撃と海水を飲んだせいで

それどころでは無くなってしまう。

 

 

 

(グガッ…!)

 

 

 

痛い、苦しいと思う間もなく

背中に受けた衝撃が意識を強制的に

シャットダウンする。

 

 

 

死ぬんだ俺、それだけが頭に浮かんだ。

 

 

 

「『提督ーー!』」

 

 

 

海上に曙の叫びが響いた…。

 

 

 

 




軽空母ヌ級から投げ出された主人公。
救命胴衣を着用しているとはいえ、
ビルの屋上ほどの高さから海に落ちたら
普通ヤバイです、はい。
結構痛いのではないかと、下手しなくても
死ぬのではないのでしょうか。


投げ出される直前に見た『彼女』とは?
艦娘のセリフを把握しているプロなら
わかってしまうかも…っぽい。



え?「ほうs」見ただけで推測余裕でした?
誰でしょうね。


一体何軽空母なんだ…?
(軽空母キャラの時にこのネタ使い過ぎな
気がしますが、後書きぐらい明るく
書かせてくださいな!!)



…これから血生臭い展開になるし(ぼそっ)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。