桜と海と、艦娘と   作:万年デルタ

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“———今も尚、海底火山と
深海棲艦出現地の関連性は不明だが、
彼らが何らかの基地として
西之島海底を使用していたのは
紛れも無い事実である。

西之島沖海戦では菊池3佐(当時)の
判断で西方へ転進し戦力の集中を図った。
もし東方に敵の別働隊がいたら
重巡妙高以下の分艦隊は壊滅の恐れが
あったと指摘されるが、それでも提督は
民間人保護を優先したのである。

民間人を優先する菊池3佐と、
マーカス(注:南鳥島)を死守
しようとした海幕が対立したが、
結果としては提督の判断が
正しかったわけでと言える。

唯一残念なところは自衛隊の
太平洋における貴重な航空基地が
一つ無くなってしまった点であるが、
仮に命令通り東方に向かっていた場合
後方の敵西方艦隊に追撃を受け、
我が艦隊は全滅したに違いない。

~中略~

彼を『クソ提督』と呼んでいた当時の
自分を恥かしく感じる。
きっと彼は“雪風”と同じく幸運を
引き寄せる体質なのかもしれない。
あの時横に彼が乗っていなければ、
私はきっと沈んでいたのだから…”


青葉新聞社『~回想~艦娘の戦い』
とある艦娘の回想より抜粋




1-3 敵軽空母を鹵獲せよ! 【西之島沖】

小笠原諸島聟島(むこじま)列島沖

 

 

 

「だる~ん…」

 

 

 

見渡す限りの海と、

申し訳程度の島らしきもの。

いずれも無人島だ。

 

まだ父島を出港してすぐ。

 

その北にある聟島列島を掠めるように

艦隊はのんびりと航行中だ。

 

 

「だる~ん…、からのまろ~ん…」

 

「ちょっと何ダラけてるのよ!!

しゃきっとしなさいよこのクソ提督!」

 

 

だってぇ、だるいんだもん。

 

 

曙が横で厳しい声を上げるが、

ダルいものはダルい。

 

 

「…ったく、なんでアンタと一緒に

居なくちゃいけないのよ?!」

 

「まぁまぁ、曙が可愛いのはわかったから、

そう文句ばっかり言うなって。

可愛い顔が台無しだぞー?」

 

「なっ…!

うっさいクソ提督!!」

 

 

……

 

 

今回の出港で俺は

曙へと乗艦することになった。

 

 

作戦前に誰を旗艦とするか

という話題になった途端、

皆の目の色が変わり曙以外が

是非自分を旗艦にと立候補してきた。

 

俺的には蒼龍か伊勢と考えていたのだが、

2人以外の艦娘が“何故か”譲らない。

 

いっそ護衛艦に行こうかと冗談で言ったら、

『ダメ』の一蹴を喰らいました…。

 

 

じゃあ公平にあみだくじで決めよう

ということになり、結果は

唯一希望していなかった曙に

決まっちゃったというワケ。

 

本来なら艦隊への通信指揮を考えると、

最低でも重巡クラスだと思うんだが

そこは目を瞑っておこう…。

 

 

(うわぁ、作戦頑張ろう…)

 

 

……

 

 

この作戦前に、参加艦娘に対し

突貫で可能な限りの改造と増設を行った。

 

 

 

 

砲熕兵器こそそのままだが、

現代艦艇は指揮通信が命。

 

そんなわけで無線機関係は

可能な限り現代の機器を搭載している。

 

アンテナといった目に見えるところから、

艦内の電信室や機器室には暗号関係の

無線機器やら俺もよくわからない

ヘンテコな機器を満載している。

 

お陰で艦隊無線はもちろん、

自衛艦隊司令部や海幕、統幕とも

ホットラインを通した通信が可能となった。

 

中でも衛星通信が可能になったことによる

『作戦支援端末』の導入が戦況を

有利に運ぶ可能性を格段に高めることが

できたと考えると胸が熱い。

 

詳しいことは言えないが、

パソコン上で簡単に戦況分析と彼我の

戦力比較、航跡追跡システムといった、

戦いの全てを手に取るようにわかる

ようになったといっておく。

 

 

 

 

命令は流石に無線ないし電報・メールといった方法であるが、指揮官が

全体の動きを目で『読める』のは

俺としてもかなりありがたい。

 

 

 

 

レーダーに縋り付いて頭の中で各部隊の動きをトレースさせるような、昔の

戦争とは比較にならない現代戦。

 

 

 

 

技術力で負けたら戦争も負ける、

そんな言葉が脳裏をよぎる。

 

 

 

 

 

この後は伊豆諸島の南端にある

孀婦岩という岩オブザ・岩までのんびり

航行し、半日洋上警戒(という名の釣り)をして、八丈島までの予定だ。

 

 

そして逆ルート、これを最低3回繰り返す。

 

 

 

 

 

そりゃあダルいってーの!

 

 

 

 

 

「…ねぇ『提督』」

 

「…どうした?」

 

 

 

曙が神妙な面持ちで声を掛けてくる。

これは何かあると思い、こちらも

仕事モードに切り替える。

 

 

 

「深海棲艦ってさ、レーダーに反応

するのよね…?」

 

 

 

「おう、バッチリ映るしその為に

艦隊も索敵用に距離を開けてあるぞ」

 

 

 

 

ちなみ俺たちの位置は進行方向の先頭、

索敵地獄の一丁目といった所。

 

 

 

 

「電測妖精が不審な反応を見つけたみたいなんだけど…」

 

 

 

 

「この辺は父島近海とはいえ、よく

中国のサンゴ密漁船とか出没するらしいし、そのあたりじゃないか?」

 

 

 

 

レーダーを睨む電測妖精の後ろから、

画面を覗き込む。

 

 

 

「それが、大きさが…」

 

 

 

 

そこまで曙が話した所で俺は固まった。

 

 

 

 

(馬鹿な、反応が大きすぎる…)

 

 

 

 

 

真北に進む俺たちの左、つまり西の

方角に反応が1、距離は40km。

 

 

しかも大きさは後方を続航する

電や護衛艦と同じ大きさ、これは…。

 

 

 

 

「全艦クラッチ脱!同時に左90度回頭!周囲を警戒しろ、まだ他にもいるかもしれん!」

 

「ち、ちょっと!まだ敵と決まったわけじゃないし、

索敵機を飛ばしてから陣形を変えても…」

 

「味方以外は全て敵と思えっ!

利根は索敵機を出せ、妙高は阿武隈と黒潮、春雨を率いて後方の索敵に当たれ!」

 

 

 

あたふたする曙を尻目に矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

 

「いいか曙、確実は大事だがそれと同時にスピードも必要なんだ。

 

確実を求めるが故に、即応をよしとする、その按配が難しいけどなっ!」

 

 

 

やや落ち込んでいた曙に軽く声をかける。

 

 

 

ポン!

 

 

 

「曙は確実を求めようとして、陣形形成を躊躇った、そうだよな?」

 

「うん…」

 

「んで俺はスピードを重視したが次に確実を求めようと索敵を指示した、ついでに陣形を作り不測の事態に備えた。

大小はあれど曙は間違っていないさ、

ただ先を見据える点では俺に分があったかなー」

 

 

「……」

 

「もし敵が戦艦や空母だったら砲弾は飛んでくるわ、艦載機はすぐ来るわで先を取られて終わる。

あの反応の大きさなら軽巡以下だが、

油断はできないしな」

 

 

 

 

悔しそうに床を向く曙の頭を撫でてやる。

 

 

 

むしろ俺の指示の方が過剰だったかもしれないが、場所が場所だけに敏感にならざるをえない。

 

 

 

 

目と鼻の先に父島や母島があり、

そこには民間人がいる。

 

 

 

まして所属不明船舶は少なくとも駆逐艦並みの大きさときたら、すぐに反応するしなない。

 

 

 

 

「…利根索敵機より通信!

『駆逐イ級1隻、父島方向に向かう。速力30kt』!!」

 

 

 

 

「蒼龍、艦爆だけでいい。

6機あれば十分だろ?」

 

 

 

 

「まっかせといて~!

『全機投下』じゃなくてもいい?」

 

「そこはお前に委任する。

沈めりゃいいぞ、いっそ1機ずつでも。

 

でも対空砲火だけは

確認してからだからな?」

 

「おっけ~!」

 

 

 

 

すでにスタンバイしていた艦爆がレーダーに映り、イ級へと向かう。

 

 

 

 

10分程して蒼龍から2機目で撃沈した

との通報が入る。

 

 

 

 

これも父島回航中にやったことで、

敵が単艦かつ低火力の場合のみ

艦爆によるピンポイント爆撃により

ぽちぽち沈めるという戦法を使った。

 

 

弾薬にも限りがあるし、

ボコスカ砲雷撃戦するくらいなら

少数の艦爆で沈めた方が低コストじゃね?という結論に至った。

 

 

 

残弾に余裕のある駆逐艦の砲撃を打ち込む方がいい気もするが危険があり過ぎる。

 

 

 

艦載機の練度を上げたいという俺と蒼龍の希望と、砲弾が無いという悲しい懐事情が皮肉にも解決されたわけだ。

 

 

 

艦載機の爆弾なら国内の既存設備でも

製造可能だし、むしろ火薬も高性能だから俺は推奨した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「利根索敵機からさらに通信!

『新たな敵艦隊らしきもの!

重巡リ級2、軽空母ヌ級1、軽巡

ホ級1隻!

なおホ級以外は実艦なり!!』」

 

 

 

「なんだと?!」

 

 

 

 

驚きの報告に思わず大声を上げる。

 

 

 

これまでに出てきた深海棲艦は全て

イ級やホ級といったいわゆる雑魚キャラがそのまま大きくなっただけのパターンだった。

 

 

 

それゆえに速力もあまり出ず武装も

貧弱でありそれ故に蒼龍が少数の

艦爆で対応していたが、敵が実艦となると武装も大きく変わってくる。

 

 

 

 

「蒼龍は艦爆隊を帰還させろ、同時に

制空隊を出して敵機の来襲を防げ!

利根と鳥海は徹甲弾を装填、全艦隊水上戦闘用ー意!」

 

「提督、攻撃隊はどうするの?」

 

「対艦装備をさせつつ格納庫へ!

敵の戦力がわからんことにはヘタに発艦させられない、まずは零戦隊に様子を見させるんだ」

 

「提督、水雷戦隊はどうするのじゃ?」

 

 

 

うーん、魚雷の威力は捨て難いが被弾率を

考慮すると控えたいな…。

 

 

 

「水雷戦隊は対空戦の準備しつつ対艦・潜に備えろ。

航空攻撃に乗じて潜水艦が現れるかもしれん!」

 

 

 

まだ潜水艦は確認されていないが、

重巡や軽空母もいるなら現れても不思議じゃない。

 

 

 

 

「水雷戦隊は前に出過ぎるなよ、

戦果よりも命を優先しろ!」

 

 

 

1発の被弾が致命傷になりかねない

軽巡以下のフネは後方に下げる。

 

 

 

「提督、戦闘機隊準備できました!」

 

「ようし!直衛機を残して直ちに発艦だ!」

 

「了解っ!制空隊、発艦はじめっ!!」

 

 

 

蒼龍から制空隊が飛び立ち目と鼻の先の

敵艦隊へと向かう。

 

 

 

 

ほぼ同時に敵艦隊からの艦載機発艦を

察知し、艦隊内が緊張感に包まれる。

 

 

 

制空隊と言っても9機に過ぎない。

直衛に1小隊3機を残しているためだ。

 

 

 

 

敵が軽空母といえどもどれ程の兵力、

戦力を持っているのかはわからない。

だが戦わねばならない。

 

 

 

 

「制空隊、敵編隊と接敵しました!」

 

 

 

相手の編成を確かめさせる。

 

 

 

「敵編隊の編成が判明!

いずれも米海軍の旧型機です。

戦闘機、F4Fワイルドキャット。爆撃機SBDドーントレス、雷撃機TBDデヴァステイター!

各9機の計27機の模様!

なお識別マークなし、塗装は黒!」

 

「制空隊に伝えろ。艦爆を先に狙え、雷撃機は後でもいい。敵戦闘機には1小隊を当てろとな!」

 

「了解!」

 

 

 

電信妖精に指示を出しドーントレスを先に狙わせる。

特に意図は無いが敵の練度が低いと仮定すれば、魚雷も楽に躱せるはずだ。

 

 

 

「えへへ、やっぱり提督には私がドーントレス苦手ってわかる?」

 

「当たり前田のなんとやら。

ミッドウェー組ならドーントレスは苦手だろうて、きっと加賀も苦手なんじゃね?」

 

 

 

空襲を前に軽口を言い合う。

もちろん敢えてやっており、蒼龍の

気持ちを和らげるのが目的だ。

 

 

 

程なくして艦爆は撃墜したと通信が入り、

敵戦闘機と雷撃機撃墜を下令する。

 

 

 

何機か突破してきた敵機に対し、

鳥海を筆頭とした対空射撃を開始する。

 

 

 

「各艦っ!よーく狙ってー…撃てーっ!!」

 

 

鳥海の号令で対空射撃が開始され、

敵機付近に対空砲が炸裂する。

 

 

「修正っ!遠1、左2、撃て!」

 

 

 

上空の制空隊と直衛機はというと、

敵戦闘機との巴戦、ドッグファイトに

突入していた。

 

 

 

艦隊防空では通常直衛機は誤射を避けるため艦隊上空から距離を取る。

 

 

 

そのための艦爆撃墜であり、雷撃機の

対処も艦隊側に割り振りだ。

 

 

 

 

敵戦闘機は未だ何機かいるようだが、

雷撃機は残りわずかだ。

 

 

 

鳥海と利根が激しい対空砲火を浴びせ、

それでも肉薄する敵機にはハリネズミの機銃が待ち構えている。

 

 

 

10分ほどで敵戦数機を除いて敵編隊は壊滅、戦闘機隊が残った敵を追いかけ回すのを見物する余裕があった。

 

 

 

「こら、見物してる暇があったら次だ!

重巡は敵艦隊が射程内に入ったら

令無く発砲しろ。

水雷戦隊はサポートに当たり、対潜警戒を厳となせ!」

 

 

 

自分に言い聞かせるように命令を下す。

 

 

 

「敵の編成に変化が出てきたな…」

 

「本格的な侵攻を始めたってことね」

 

「そのようだな。

どうだ、ソーナーに感はあるか?」

 

「潜水艦の反応は無いみたいよ、

他も同じみたい」

 

 

 

 

どうやらこの海域には潜水艦はまだ

出没していないようだ。

 

 

 

潜水艦が現れたらシャレにならん。

海上自衛隊は対潜メインとはいえ、

そればかりが任務では無い。

 

 

 

もしも輸送ルートを狙われたら国内の流通は一瞬で麻痺してしまうだろう。

 

 

 

 

「利根索敵機より通信!

敵軽空母上に艦載機無し、空襲の恐れは極めて低い!」

 

 

 

「日向、レーダー射撃をお見舞いしてやれ!」

 

「了解、伊勢の分まで殲滅しても構わんのだろう?」

 

「そういう事言ってないでさっさと撃ちなさい」

 

「君もノリが悪いな…」

 

 

 

日向がぶつぶつ言いながらも主砲を放ち、

敵艦付近に水柱を上げる。

 

 

 

 

戦記物にあるような斉射ではなく

ポツポツと小出しであるが、

それ故に精度は高い。

 

 

 

射管装置のお陰で4発目には敵リ級に

命中弾を叩き込めた。

 

 

 

「重巡リ級1番に着弾、前甲板!

前部の主砲付近から黒煙と火災を確認!」

 

「確実に仕留めるぞ!

日向は敵2番艦へ目標変更、利根と鳥海は1番艦に砲火を集中しろ!」

 

「「「了解!!」」」

 

 

 

 

戦況はこちらに有利だが敵も甘くは無い。

 

 

 

最前線にいた日向と鳥海に敵の砲火が集中し、至近弾が2隻に海水のシャワーを浴びせる。

 

 

 

「っ!やるじゃないか…!」

 

「きゃっ?!至近弾がっ!」

 

「2人とも大丈夫か?!」

 

 

 

至近弾は時として直撃よりも被害を被る場合がある。

 

 

 

「私は大丈夫だ。破片と海水で機銃座が3基やられただけだ」

 

「こちらは異常無しです!

破片が水線下を叩きましたが浸水等ありません!」

 

「よかった!2人とも少し後退しろ、

無理に立ち向かうなよ!」

 

 

 

よかった、被害は少ないみたいだ。

 

 

 

 

戦艦と重巡が規定の砲弾を撃ったところで

水雷戦隊が接近し雷撃を試みる。

 

 

 

 

砲弾を叩き込んだところで敵をボロボロにできても撃沈までには至らない。

 

 

フネとはある程度の浮力があり、それを魚雷で撃ち破る必要がある。

 

 

 

 

「敵の砲火に注意して近接しろよ!

無理にぶっ放そうとしたらお仕置きするからな!」

 

「わかってます!」

 

「ただセクハラしたいだけじゃないの?」

 

「こら曙、心を読むんじゃない!

神通が真面目に返事してくれてるんだから、茶々を入れるなって…」

 

 

 

曙が俺の言葉に反応して毒を吐く。

神通を筆頭とした水雷戦隊は散発的な

敵の攻撃を避けつつ肉薄する。

 

 

 

「撃ちます、よーい…てぇっ!!」

 

 

 

神通の合図で水雷戦隊から魚雷が発射される。

 

 

 

彼我の距離はあってないようなもので、

軽巡ホ級から砲撃がひっきりなしにくる。

 

 

 

 

やはり神通は狙われやすいのか

遂にホ級からの砲撃が命中してしまう。

 

 

 

「きゃっ、痛いですっ!」

 

「神通っ?!」

 

「被害は軽微です!

でも…なんだか身体が火照ってきてしまいました…」

 

 

 

 

神通の動きが一瞬止まるがそこからは

鬼神に迫る攻撃であっという間に

ホ級に魚雷と砲撃を命中させる。

 

 

 

(うわぁ…神通こえぇ…)

 

 

 

神通の火照ってきた発言にちょっと興奮してしまった俺だが、その後の猛撃を目の当たりにして『殺る気スイッチ』が入った彼女はヤバイと実感させられた。

 

 

 

(せ、セクハラは控えめにしておこーっと…)

 

 

 

 

「重巡リ、軽巡ホ級撃沈しました!」

 

「よし!軽空母も沈めるぞ!

秋月は対空警戒をしつつ随伴、

神通は後退して日向の横で待機。

他は曙を中心に続け!」

 

 

 

俺と曙が先頭となり秋月、響、電が

ダイアモンドフォーメーションで

残ったヌ級に向かう。

 

 

 

「艦載機で沈めなくていいの?」

 

「いや、駆逐艦だけでいい。

索敵機からの報告だと飛行甲板には

穴が空いて発艦は不可能だし兵装も使えないみたいだ。

 

 

それに機関部に被弾したのか行き足も止まっているから、『計画通り』このまま調査に向かおうと思う」

 

 

 

艦載機の収容を終え攻撃隊の準備を

していた蒼龍から航空攻撃をしないのかと具申されたが今回は却下する。

 

 

 

なぜなら……

 

 

(沈黙した敵とはいえ『立入検査』するのはビビっちまうな…)

 

 

 

この作戦は伊豆・小笠原諸島近海に現れた敵の撃退が第一目的で、第二目的は隙あらば敵の調査又は鹵獲とされた。

 

 

 

 

 

海幕『敵っていっても何者かわからん、

鹵獲したり残骸とか持ってこいや』

 

俺『いやヤバイです…』

 

海幕『東京湾の時お前らが撃ち過ぎたから敵情がわかんねーんだろ?』

 

俺『すんませんでした、今度拾ってきます…』

 

 

 

 

……端折るとこんなことを言われたわけ。

 

 

 

 

そんな訳で軽空母ヌ級にゆっくりと

接近を試みる。

 

 

 

「見張妖精、敵に動きはあるか?」

 

「敵甲板上、兵装付近に敵影無し!

近接差し支えないと思われます!」

 

「よし、200mの位置で全艦停止。

各艦立入検査隊を編成し、内火艇にて向かうぞ!」

 

 

 

そう下令すると俺もいそいそと準備を始める。

 

 

 

「え、どうしてクソ提督も行くの?!」

 

「そりゃ俺が行かないと意味が無いだろう。

クソなりに指揮官だし、現場に立ち会わないと指示出すやつがいないしな。

 

 

艦隊の指揮は日向と蒼龍に委任する、

もし検査中敵が動き出したら、2人とも

わかってるな?」

 

 

 

敵に乗り込んでいて急に動き出す、

それは目の前の駆逐艦に攻撃をすることを意味する。

ならば最小限の犠牲で済ませる、

俺たち立入検査隊を見捨ててでも

駆逐艦だけは守ってほしい。

 

 

 

「もし俺からの定時報告が切れたら迷わず撃て、

これは命令だ…」

 

「……わかった」

 

 

 

無線機の向こうから苦い顔をしているであろう日向の返事が届く。

 

 

 

「危なかったらすぐに帰ってきてくださいね!」

 

「余裕よゆー。

俺こう見えて逃げ足は速いから!」

 

 

 

暗い雰囲気を打ち消さんと明るく振る舞う。

 

 

 

(俺だって怖く無いわけ無い…)

 

 

 

ヘタしたら艦内で敵が待ち構えてるかもしれん、そう考えると遺書でも書こうかと思ってしまう。

 

 

 

自衛隊戦死者第一号にはなりたくないなぁ…。

 

 

 

視線を感じ振り返ると曙が心配そうな顔で何か言いたそうにしていた。

 

 

 

「ん、どした?俺に告白でもしてくれるんかぇ?」

 

「…どうして?」

 

「……え?」

 

 

 

何が?

 

 

 

「どうしてそんな平気でいられるの?!

『提督』が死んじゃうかもしれないのよ?!」

 

「なんだなんだ俺のことが心配なのかぁ?」

 

 

 

曙が俺のことを心配してくれているのか

決死の立検に赴く俺を止める。

 

 

 

「いつもそうだった…。

沈んだ艦娘は出撃前明るく振舞って、

そして還って来なかった…」

 

「俺はな、今すっごく怖いぞ?

ビビビビびびってる、実を言うとな」

 

 

 

正直言うと行きたくない、だが…

 

 

 

「でもここでヤツらの情報が掴めれば

みんなが傷付く可能性もグッと下げることができると思うし、有効な対策や作戦が浮かぶと信じてる」

 

 

 

これが一番の本心だ。

うまいこと深海棲艦のデータが取れれば艦娘が取る戦術も変わるだろうし、

愛する人が傷付かなくなるのは

何よりの願いだ。

 

 

 

「でももし敵が…」

 

「デモもクーデターもありません。

曙はここにいて緊急時に即応すること!

 

ちょっと社会科見学に行ってお土産を拾ってくる簡単な仕事だっての!

もし俺が行かなかったら立検の陸戦妖精が迷子になるかもしれないだろ?

 

…って泣くなよ?!

 

 

だあぁ〜!ちゃんと帰ってくるから、

ほら指切りするぞ!」

 

 

 

何時ぞやの村雨の時のように指切りを

してその場を後にする。

 

 

 

「あっ…」

 

 

 

曙の呟きが聴こえるが、ここで振り向いたら俺も我慢できなくなる。

 

 

 

「今夜はヌ級の鍋にするって調理妖精によろしく〜」

 

 

 

後ろに手を挙げ内火艇へと足を進める。

今日が俺の命日にならないことを祈るとしよう。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「…日向、提督だ。

ヌ級の後部に着いた、これより乗り込む」

 

「了解、気をつけて」

 

 

 

 

乗り込んだら罠でしたということもなく、

無人の艦内を警戒しつつ進む。

 

 

 

艦内は暗く不気味な色で構成されているが、人間が使用するのを考慮されているかのように造りがされていた。

 

 

 

「こりゃ第二次大戦時の米軍の軍艦のような造りですぜ提督!」

 

「やっぱりそう思うか。

こちらが旧海軍の艦艇なら、深海棲艦は米軍の旧式艦艇をベースにしているのかな?」

 

 

 

何処となく護衛艦の造りに似てると思ったらそういうことか。

 

映画の『沈黙の戦艦』に出てくるミズーリの艦内に酷似し、あたかも沈没した艦艇を海底からサルベージしたかのような敵のフネ。

 

 

 

機械室と艦橋を周ってみたものの、

敵も人気も無い。

 

 

 

「索敵機が発見した時には艦橋に

ヌ級の姿が見えたんだよな?」

 

「はい、利根索敵機が撮った偵察写真にも確実にヌ級の姿が写っていました」

 

 

 

激しい対空砲火の中索敵機は偵察撮影を敢行、見事ヌ級の艦橋ウイングにいるヌ級と思われる異形のモノを撮影した。

 

 

 

「もし深海棲艦が妖精を使わず、単体で

操艦・戦闘をこなしているとする。

艦長である敵は何をしているのか…」

 

 

 

うーん。

陸戦妖精と一緒に頭を捻る。

 

 

 

「もしかしてですが…」

 

「おう、言ってみ言ってみ!」

 

 

 

1人の妖精が遠慮がちに意見を言おうとする。

 

「もしかして敵の艦長、つまりヌ級の本体は艦長室にでもいるんじゃないでしょうか?」

 

 

「あ〜、艦長室は探してないな」

 

 

 

 

世界中の海軍は昔から、沈没する直前に艦長クラスは最期までフネと運命を共にしようとしていたことを思い出す。

 

 

 

(案外いるかもしれないな…)

 

 

 

艦長室を探すように指示を出し、

俺も9ミリ拳銃で警戒しつつ捜索する。

 

 

拳銃を扱うのは初めてだが狭い艦内で小銃を振り回すよりかはマシだ。

 

 

操作は出港前に教わり一通り覚えているが、いざ扱ってみると不安である。

 

 

 

しばらく捜索を続けると別の場所にいた陸戦妖精の班から発見したとの報告を受け、立入検査隊全員が集合する。

 

 

 

「中はまだ見てないか?」

 

「はい、まだ見ていません」

 

「待ち伏せもあるかもしれないから、

みんなは横に避けておけ」

 

「提督自ら行くのですか?!」

 

「そりゃそーでしょ。

敵のアタマがいる訳だし、そこは

指揮官たる俺の役目だからな」

 

 

 

コンコンコン

 

 

 

ノックをしてサッとドアから逃げる。

もしかしたら中から機銃で蜂の巣にされるかもしれない。

 

 

 

「…めっちゃビビってますな」

 

「び、ビビってねーし…警戒してるだけだし…」

 

 

 

お約束のコントをしつつ中からの返事を待つ

 

 

 

……

 

 

 

「いないのかな?」

 

「どうでしょう。

もう一度ノックしてみますか?」

 

「そうだな」

 

 

 

コンコンコン

 

 

 

「ちわー、宅配便でーす」

 

 

 

……

 

 

 

「入りますよー?」

 

「返事ないっすね」

 

「それじゃ、入るぞ。

3人俺に続け、他は警戒しろ!」

 

 

 

中に入るとヌ級であろう、深海棲艦が

頭?あたりから黒い油を流して床に横たわっていた。

 

 

 

「自決したのか…」

 

「敵に乗り込まれると知り、責任を

取ったのでしょう」

 

 

 

異形のモノとはいえ見事な軍人魂だ。

思わず敬礼し他の妖精も続く。

 

 

 

死体の写真を撮り、油も回収する。

室内を物色すると怪しげな地図のようなものを見つけた。

 

 

 

「おーいちょっと来てくれ!

これは敵の作戦計画じゃないか?」

 

「どれどれ、あーそのようですな。

ほらこれが西之島ですね、赤くマークされています。

 

こっちは父島と母島のようですな、

形が一致します」

 

 

 

思わぬ収穫に舞い上がってしまう。

 

 

 

「ん、こいつはなんだ?」

 

 

地図の右の赤い二重丸に疑問が浮かぶ。

 

 

「そうですね、たしかこの位置だと南鳥島ーーー通称マーカスがあるはずです」

 

「あの日本最東端の南鳥島?」

 

「そうです」

 

 

 

他にも読めない文字で色々書かれているが目を引くのはその二つだ。

 

 

 

いまいる西之島近海に赤丸、南鳥島に

赤の二重丸か…。

 

 

 

嫌な予感がするな…。

 

 

 

「よし早めに撤収するぞ!

鹵獲班は回収できそうな金属等を持って撤収、俺と警戒班はこの部屋をもう少し捜索したのち撤収!」

 

「「了解!」」

 

 

 

撤収と決まれば報告を入れねばな。

 

 

 

「全艦、こちら提督。

立入検査終わり、異常なし。

 

もう少しだけ捜索したのち撤収する。

それと重大な報告だ、敵の作戦計画を入手したんだが西之島と南鳥島にそれぞれ赤丸と二重の赤丸がしてあった。

 

 

これが何を意味するかは俺にはわからんが恐らく敵の目標とみて間違いない。

日向はこれを護衛艦と父島基地分遣隊に連絡、そして硫黄島と海幕に中継を依頼してくれ!」

 

「むっ…了解」

 

 

 

鹵獲班が内火艇に乗り込んだとの連絡があり、俺たちも捜索を切り上げヌ級

から離れようとする。

 

 

 

すると無線機から大声が流れた。

 

 

 

「司令早く逃げてください!

雷跡がヌ級にたくさん向かって…!」

 

 

 

秋月の叫び声にキョトンとした次の瞬間、

部屋の壁が動いたかのように迫り背中を強打してしまった。

 

 

 

「がっ…!なっ、なに…」

 

 

 

背中を強打し息がうまくできない。

ヘルメットと救命胴衣を着用していたためクッション代わりとなったが、

それでも息を止める程の衝撃はあった。

 

 

 

(な、何があったんだ?)

 

 

 

「司令っ、秋月です!

敵の潜水艦がヌ級に雷撃をした模様です!

ご無事ですか?!」

 

 

 

どうやら敵の潜水艦がいたようで、

そいつがヌ級の雷撃処分を図ったみたいだ。

 

 

 

「み、みんな無事だ、怪我人なし…」

 

 

 

ざっと捜索班の妖精を見れば、俺のように倒れている者もいるが無傷のようだ。

 

 

 

「とにかく俺たちは脱出するから、

それまで秋月が対潜戦闘の指揮を取れ!」

 

「はっ、了解致しました!

防空駆逐艦といえども対潜戦闘だってできます、司令をやらせはしません!」

 

 

 

そこまで話すと交話を終わらせ、

持ち出す物件を防水加工された袋にしまい走り出す。

 

 

 

軽空母といえども雷撃を受けるとダメージが大きいようで、只でさえ暗かった艦内は暗黒と化し至る所がひしゃげたり崩れかかっている。

 

 

 

しかも浸水の所為か段々傾斜が酷くなるのがわかる。

 

 

 

「みんな絶対に生きて脱出するぞ!」

 

「「了解ッ!!」」

 

 

 

…戦いはまだ序章を終えたばかりだ。




先日変な事抜きでとある女の子をずっと
見ていたんです。

何故かというとその子がどう見ても『飛龍』
そっくりだったんですね。
髪型も完全に一致、服の色合いもオレンジの服で
前世が飛龍か親が提督かのどちらかなのは
間違いないですね!



敵が実艦で現れました。
今まではイ級やホ級がそのまま大きく
なっただけという設定でしたが、
敵もパワーアップしてきた模様です。




敵の作戦計画にある『西之島』と
『南鳥島』に何が起こるのか?

敵の潜水艦は単純に鹵獲を妨害しようと
しただけなのか、それとも別の目的が…?



物語と設定がポンポン変わりますが、
わからないところや疑問点は聞いて
いただければまだ公開できない点以外は
お答えしようと思います。


わかりやすく、イメージし易い文章が
書けず申し訳ありません。
書き方やシーンの切り替えについて
助言をもらえればと思います。



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