桜と海と、艦娘と   作:万年デルタ

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舞台は小笠原諸島。

父島に入港した彼らは
つかの間のバカンスを楽しむ。



戦跡が至る所に残る父島で
艦娘は何を思うのか…。





1-2 南風(みなみ)はボニンより吹く 【父島】

小笠原諸島、父島沖

 

 

 

 

 

「あ″~やっと着いたー」

 

 

 

 

久々の陸地に気分が高まったのか、

変な声が漏れる。

 

 

 

 

俺たちは『海上哨戒任務』で

父島に進出することになった。

 

 

 

 

「あれが父島か…。

インターネットでしか見たことなかったが、まぁ、悪くない」

 

 

 

「俺も初めて来たけどすごくいいところだな、まず海が綺麗!」

 

 

 

 

乗艦している『日向』の艦橋で

ワイワイ騒ぐ。

 

 

 

もちろんこれは観光ではなく

任務で来ているのはわかっている。

 

 

 

 

「…にしても回航中だけで駆逐イ3隻と軽巡ホ級2隻とはな、深海棲艦の脅威が日本の近海にまで迫ってきている」

 

 

 

日向が深刻そうに考え込む。

 

 

「海幕の読みは当たったってことだな」

 

 

 

 

 

 

 

今父島にいる経緯を簡単に話そう。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

艦娘の海上公試期間中

 

 

 

防衛省海上幕僚監部

 

 

 

先日出現した旧海軍艦艇とその艦娘についての記者会見が開かれていた。

 

 

 

 

「海上幕僚長!

旧海軍の軍艦が現れた件について、

ご説明を!!」

 

「あれは自衛隊が極秘に建造したものじゃないのか?!」

 

「米海軍軍人がツイッターで『旧日本海軍の軍艦とフリートガールが現れた!』と呟いたそうですがこの真意は?!」

 

「パナマ運河沖で米軍が正体不明の艦船に負けたとの情報が…!」

 

「マダガスカル島に所属不明の軍艦が現れ沿岸都市が攻撃された件についてコメントを!」

 

 

 

 

海幕長が演台に登壇する前から罵声と質問が会見場を賑わせる。

 

 

 

 

「ご静粛に願います。

これより現在わかっている情報を

皆様にお知らせします…」

 

 

 

 

 

 

会見は2時間強に及んだため

詳細は割愛するが、要点だけ言おう。

 

 

 

 

 

まず艦艇と艦娘。

 

 

 

 

帝国海軍の艦艇が出現したのは

全くの偶然、奇跡であり、

防衛省自衛隊はもとより民間企業や

特定の団体個人の建造等では無いこと。

 

 

 

 

それに艦娘については艦艇の魂が実体化したものであり、インターネットゲームの『艦これ』のコスプレでもないし、本当に偶然同じ容姿の魂がいたと説明された。

 

 

 

 

 

中継を見ていた艦これプレイヤーは

歓喜でこの事態を受け入れ、

艦これを知らない国民の多くは

唖然としながら放送を見守った。

 

 

 

 

続けて深海棲艦という脅威が現れた

という重要な案件に移る。

 

 

 

 

 

 

会場の記者が静かにーーーただ単純に唖然としながらーーー海幕長の発表を聞いていると、会場に白い制服を着た幹部が慌てた様子で入ってくる。

 

 

 

そのまま海幕長に耳打ちすると、

海幕長が驚いた様子になり記者たちが

何事かとブン屋魂が刺激される。

 

 

 

海幕長は苦い顔をしながら耳打ちされた内容の公表を決意する。

 

 

 

 

『伊豆諸島と小笠原諸島の中間で深海棲艦らしきものを発見した』

 

 

 

 

深海棲艦ーーー先日の東京湾襲撃事件、そして世界各地で起きた襲撃に

関わっていると思われる謎の兵器又は生物。

 

 

 

 

 

『それが現れた』

 

 

 

 

会場はパニックに陥りかけたが、

海幕長の機転で戦況の説明を行い

記者を取材モードへと切り替えさせる。

 

 

 

 

 

発見したのは厚木航空基地から

対潜哨戒任務に出ていたP-1哨戒機であった。

 

 

 

 

哨戒機は通常、対潜哨戒を主任務としており対艦ミサイルは装備していない。

 

 

 

深海棲艦を発見した機長は敵兵力と針路速力を関係各所に発信し、監視に徹することにした。

 

 

 

実は前日から深海棲艦は発見されていた。

 

 

 

正確に言えば襲撃を受けていた。

 

 

 

 

 

海上自衛隊は東京湾事案のこともあり

洋上へ警戒部隊を既に配備していて、

八丈島沖に第11護衛隊所属

『やまぎり』『ゆうぎり』が

警戒の任に当たっていた。

 

 

 

 

伊豆諸島の最南端、孀婦岩南西10kmに駆逐イ級がいるとの情報が父島の漁船からの通報で入った。

 

 

 

 

 

一応国際VHFで呼びかけたが、

攻撃を受けたため菊池らが対処した

ように対艦ミサイルを遠距離から発射し、どうにか撃沈した。

 

 

 

 

しかしその帰還途中にさらなる敵の

襲撃を受け、やまぎりは被弾。

 

 

 

沈没は免れ死者は出なかったものの

やまぎりは中破、負傷者多数で防衛省はもとより日本政府は衝撃を受けた。

 

 

 

 

それ以降横須賀警備区には厳戒態勢が

敷かれ、応急措置ーーー緊急ではないのは事情があったーーーとして自衛隊法82条を根拠とした海上警備行動を実施することとなった。

 

 

 

 

本来なら『防衛出動』を発令する事態なのだがこれには複雑なある事情があり、見送られた。

 

 

 

 

そして会見中の発見報告。

ここに至り政府も重い腰を上げ深海棲艦討伐を目的とした任務部隊編成を指示、直ぐに俺を中心とした専門スタッフと艦娘が艦隊編成と作戦案を決定上申し出港。

 

 

ここまでが父島まで出張って来た経緯だ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

前回は護衛艦からミサイル発射が主な対処だったが、ミサイルの使用頻度の高さとコストパフォーマンスを考慮してこの出撃からは帝国海軍の艦艇も活用することになった。

 

 

 

 

もちろん通常の護衛艦も同行しているが、あくまで対潜メインのサブ戦力としている。

 

 

 

 

 

ちなみに艦娘の弾薬に関しては『ある程度』は問題ない。

 

 

 

現代日本で生産はかなり難しいが、

資源さえあれば各艦から引き抜かれた

生産妖精が時間は掛かるが弾薬を

生産することになっている。

 

 

 

ある程度と言ったが、生産できるといっても妖精が成功する確率がかなり低いということだ。

 

 

 

艦これで例えるならーーー実際そうなのだがーーー戦闘で使用する弾薬は開発でしか生産できないということだ。

 

 

 

これまでの生産結果は

12.7センチ砲弾200発。

14センチ砲弾93発。

20センチ砲弾44発。

36センチ砲弾17発。

 

 

 

 

言うまでもないがこれでは補給が成り立たない。

 

 

 

 

俺は艦娘たちのフネの現代化改装を

提案し、待機中のフネから生産出来次第改装する予定だ。

 

 

 

 

14センチ砲から36センチ砲を扱う

軽巡以上のフネに関してはおいそれと

換装出来ないため、細々と生産していかなくてはらないこととなった。

 

 

 

 

 

とはいえある程度の統廃合を今後

行っていくつもりではあるが…。

 

 

 

 

 

気が付けば近くなった父島を見る。

 

 

 

 

 

きな臭い近海のことは知らぬかのように、平和な島だ。

 

 

 

 

 

「提督、そろそろ降りる支度を頼む」

 

 

 

「ほいよ~」

 

 

 

 

日向に軽く答え、自室に割り当てられた司令室に向かう。

 

 

 

 

父島の二見港は大型艦は入れないため、沖に投錨して搭載の内火艇で上陸することになった。

 

 

 

 

駆逐艦や護衛艦は一部が入港し、

岸壁に横付け又は港内に投錨する。

 

 

 

 

これから俺たちは父島基地分遣隊長に

挨拶した後、借り上げた民宿にて関係部隊とこの作戦の打ち合わせだ。

 

 

 

作戦準備期間として2日間ほどの上陸、

要はバカンスも貰えた。

 

 

 

ヒャッハー、酒が飲めるぞぉ!!

世紀末空母よろしく、南国での一杯に

ワクワクする。

 

 

 

 

日向の内火艇で港内に向かいながら、

この作戦の参加戦力を再度確認する。

 

 

 

●戦艦…日向

 

●空母…蒼龍(57機+ヘリ2機)

 

●重巡…利根、鳥海、妙高

 

●軽巡…阿武隈、神通

 

●駆逐艦…黒潮、曙、電、春雨、

秋月、響

 

 

 

●自衛隊

補給艦1、護衛艦2、哨戒機10機、

空自戦闘機4機、早期警戒機1機。

 

 

 

硫黄島には航空基地があり、

そこに海空の航空機が進出した。

 

 

 

 

蒼龍の艦載機数はいいとして自衛隊の航空機は少ないと感じるだろうが、それはあくまでサポートであるし、クオリティも第二次大戦時のそれよりも段違いだ。

 

 

 

それに通常の任務をこなしつつ、

貴重な戦力を拠出してくれた空自と

厚木の航空隊には感謝しなくちゃな。

 

 

 

 

自己紹介は既にしたとは言え、

彼女らとは初の作戦行動だ。

 

 

 

 

 

だがここで頑張らなければ俺の

ハーレム大作戦が成功しない。

しっかり指揮して、惚れさせてやるぜ!

 

 

 

 

 

 

 

グッ!

 

 

 

 

思わず拳を握り締めガッツポーズを取る。

 

 

 

 

 

(提督はこの戦にかなり意気込んでいるな…。

ま、私も頑張るとしよう…!)

 

 

 

 

後ろから日向に見られてたっぽい。

その場は誤魔化したが恥ずかしっ!

 

 

 

 

父基分隊長への挨拶もさっと済ませ借り上げた民宿へと向かう。

 

 

荷物を置き、半袖の制服から濃紺色の幹部作業服に着替えるとすぐに作戦室になっている部屋へと足を進める。

 

 

 

 

「101護衛隊の司令を拝命しました、菊池士長…いえ3佐です」

 

 

 

既に待っていた他部隊の担当者に

軽く挨拶をする。

 

 

 

 

言い忘れたが俺や村上は『3佐』の階級が与えられ、俺は正式に新設された『第101護衛隊』司令が、村上には

隊付着任が下令された。

 

 

 

 

とはいえ村上は本土に残る艦娘の改修計画の監督が指示され、今回の出港には乗ってこなかったが。

 

 

 

 

艦娘たちも人間として戸籍も新たに作られ、自衛官としての身分も与えられた。

 

 

問題になったことと言えば、

保護者と氏名、年齢ぐらい。

 

 

 

保護者は艦娘全員の希望で俺に。

氏名は『菊池』姓を名乗る案があったが、俺は大反対した。

 

 

 

だって…ケッコン出来ないじゃない?!

↑?

 

 

 

 

もし俺の戸籍に入ってみろ。

ほぼ確実にみんな妹になるじゃねーか。

良くても同居人という形になるにしても、数十人の義理の妹やら同居人が

いるってのは気がひける。

 

 

 

 

苗字については防衛省からの提案で

『艦娘』という捻りもしっくりも捨てたネーミングとなった。

 

 

村雨『3等海尉、艦娘村雨でーす!』

 

 

 

…うわぁ、コメントできねぇ。

 

あと艦娘は神主みたいなイントネーションね。普段は名前で呼ぶし、あくまで公的書類上だけのモノということで決定された。

 

 

 

 

 

 

そして年齢。

これは俺の大プッシュと国会の先生方や総務省といった関係各所を回りに回って周到な根回しをした結果、

『艦娘は18歳以上』ということで

臨時国会で可決された。

 

 

 

 

表向きは児童の権利条約等で18歳未満は軍隊の構成員に出来ないからということにしたが、実際には下心しかない!

 

 

 

だって18歳未満だとスケベことが

できないじゃない?!

↑おい

 

 

 

 

そりゃ胸は大きい方が好きだけどさ、

女の子は胸だけじゃないんだよ!

 

 

 

加賀とか霧島は余裕で18歳以上だと思うけど、駆逐艦の娘たちは良くても

中学生ぐらいだからオトナの階段が昇れない訳で…。

 

 

 

 

最低15歳としても、手を出せるのは3年後だなんて血の涙を流すことになりかねないっ!

↑勝手に流してろ

 

 

 

 

 

 

 

 

「……という具合です」

 

 

 

 

作戦室に詰める他部隊の担当者たちと念密な打ち合わせと、細部の調整を行う。

 

 

 

 

 

頭の中では最低最悪なことを考えつつ、

口からは真面目な言葉を出すこの

スキルは俺の自慢できる唯一のスキルだろう。

 

 

 

 

 

 

 

空自には敵に航空戦力が確認された場合には制空権を取ってもらうし、

艦隊防空の際も助けてもらう。

 

 

 

この行動中は普段硫黄島の防空を行い、

俺たちがピンチな時には助けてもらう

という具合だ。

 

 

 

 

 

哨戒機は硫黄島を拠点として小笠原諸島を警戒する。

対艦ミサイルと対潜爆弾(爆雷)も

たっぷり集積、航空戦力も十分だ。

 

 

 

 

 

ちなみに蒼龍の艦載機は、

初期装備の零戦21型12機、

99艦爆27機、97艦攻18機の

57機に海自が誇るSH60Kヘリ2機の

合計59機だ。

 

 

 

 

 

ガチな航空戦をする予定ではないから

これで十分だという結論になり、

他の空母は改装に回し、蒼龍をこの

作戦に組み込んだわけ。

 

 

 

ただ敵に航空戦力が無いと確定しているわけでは無いから慢心はしてはいけない。

 

 

 

 

午前中で打ち合わせも終わり、

非常時に対応する当直艦娘になってしまった日向を残し、俺たちは父島観光…じゃなかった拠点の現状偵察に繰り出す。

 

 

 

 

 

 

今日1日だけとはいえ、当直になった日向が少しふて腐れる。

 

 

 

 

「おいおい、そんな顔するなよ日向」

 

 

 

 

「提督は羨ましいな、二日間のんびり出来て…」

 

 

 

普段は飄々とする日向が恨めしそうに呟く。

 

 

 

ふむ、こりゃ重症だな。

 

 

 

 

「よし、明日は俺(たち)と海に行こう!

俺が下見していいスポットを見つけとくから、今日は当直をよろしく頼むよ」

 

 

 

 

「まぁ…それは楽しみだと言えないことも…ない…が」

 

 

 

 

「だから拗ねるなって。

帰ってから紅茶でも飲みながら、

部屋でお話ししようぜ」

 

 

 

 

「まあ、それならしょうがないな…」

 

 

 

 

紅茶が飲めると聞いて目を輝かせる

日向。

…そんなに紅茶が飲みたかったのかな?

 

 

 

 

 

「提督ぅ!早く行こうよー!」

 

 

 

「提督、早くするのじゃ」

 

 

 

「司令は~ん!みんな待っとるでぇ!」

 

 

 

 

 

外で待つ艦娘から早く来いと催促され、

外に飛び出す。

 

 

 

 

 

そこには日向を除いた参加艦娘が

俺を待ってくれていた。

 

 

 

 

 

(ヲイヲイ?!ここは天国か?!

艦娘の水着姿を生で見れるなんてっ!)

 

 

 

目の前には当然の如く水着を着込み、

その上にパーカーやシャツを羽織る天使たち…!

 

 

 

 

「え、なんでミナサン水着なの?」

 

「忘れたか?お主が父島に上陸したら一番に海に行くと言ったではないか」

 

「提督ぅ!着替えて着替えて〜!」

 

「司令官さんが水着と言ったから

皆準備万端なのです…」

 

 

 

 

 

「あ、ああ。

すぐ着替えてくるぞよー…ははっ」

 

 

 

 

 

すごく…理性がヤバいです…。

 

 

 

 

特になんや蒼龍の胸は?!

 

 

水着は潜水艦譲りのスク水ではないにしても、ボリュームにボリュームが重なった超大ボリュームやん?!?!

 

 

緑のビキニから飛び出さんばかりの

その胸部装甲、いつか揉んでやる…!

 

 

 

 

鳥海ももともとムチムチなすけべボディーだけど、水着姿はさらにヤベェ!

 

 

 

他の娘も同じぐらい美しい!

 

 

 

 

俺艦娘の前で色んな意味で醜態を晒しそうだけど我慢できるか?!

 

 

 

 

(落ち着け、俺。

いつもエロいことばっか考えてても言葉と身体の一部は平常だったじゃないか。

 

今日だって心頭分離して頭の中だけで興奮していれば大丈夫なはずだ!

ここを乗り切らねば夢のハーレム提督への道が…)

 

 

 

 

「おまたせ。それじゃあ行こうぜ!!」

 

 

 

頭の中に煩悩を押さえ込んで健全に楽しむことにした。

 

 

 

 

 

 

「アレ?

海に向かうんじゃないの?」

 

「甘いな阿武隈。

確かに目の前に海があるが、

どうせならプライベートビーチでゆったり過ごさないか?」

 

「何よプライベートビーチって。

勿体ぶらないで早く言いなさいよ、

クソ提督」

 

「曙も慌てるなって、まずは予約しておいたレンタカーに乗って移動だぁ!」

 

 

 

 

 

 

〜艦隊移動中〜

 

 

 

 

 

「じゃぁ〜ん、どうだぁ!」

 

 

 

民宿のあった二見港から車で10分ほどで目的地のコペペ海岸に到着。

 

 

 

「すご〜い!ホントにプライベートビーチみたい!!」

 

「な、良かったろ?」

 

 

 

昼はバーベキューするし言うことなし!

 

 

 

青い空白い雲、艦娘の水着とバーベキュー!

 

 

最高のバカンスだと思わんかね?!

 

 

 

「く、クソ提督にしてはいいチョイスなんじゃない?」

 

「曙ちゃん凄く嬉しそうな顔してるよ?」

 

「は、春雨さんはその帽子は脱がないのですか…?」

 

「秋月ちゃん、春雨ちゃんの帽子に、ついては触れちゃダメよ」

 

「秋月はんと神通はんも話とらんと泳がんと!」

 

「さて…、泳ぎますか。」

 

 

 

 

皆思い思いに楽しみ始める。

 

 

 

俺はというとビーチにパラソルを挿して

妙高と一緒にはしゃぐ艦娘を眺めていた。

 

 

 

「ありがとうございます提督、

このような素敵な場所に誘って頂いて」

 

「どういたしましてー。

南の島は初めて来たけど身も心も軽くなるって本当なんだな」

 

「うふふっ、案外少年みたいなお方なんですね」

 

「馬鹿にするなよ、言うなら感性豊かとかセンチメンタルとか言い方があるだろうに」

 

「これは失礼致しました、うふふっ♪」

 

 

 

 

妙高に笑われてばかりの俺様だが、

気分はむしろうなぎ昇りだ。

 

 

 

 

鳥海、神通、阿武隈と秋月は

ビーチバレーをしている。

 

 

 

「アブッ?!?!」

 

 

 

あ〝、阿武隈の顔面に秋月のアタック

が直撃した…。

 

 

 

「う、嘘でしょ〜…なんでアタシばっかりぃ〜…」

 

 

 

どうやら何度も(偶然?)当てられて

いるようだ、アブゥ南無三…!

 

 

 

 

 

「ちょっと黒潮待ちなさいよー!」

 

「待てと言われてだーれが待つかいなー!ほな、お先にぃー!」

 

「2人とも待ってぇー!」

 

 

 

バシャバシャと泳いでいるのは

曙、黒潮、春雨のようだ。

競争でもしているのかかなり

ペースが速い。

 

 

 

春雨の帽子は、濡れても大丈夫なのか…?

 

 

 

…現代科学の謎である。

 

 

 

 

「さて、殺りますか。」

 

「響ちゃん、利根さんが可哀想なのですー!」

 

「お主ら!吾輩を埋める気かぁー?!響っ、吾輩に何か恨みでもあるのかぁーー?!」

 

 

 

響と巻き込まれた電が利根を埋めようとしています…。

 

 

 

「私たちが作った城を壊したじゃないか。」

 

「だからそれは事故だと言っておる!」

 

「…電を泣かせた罪は重い。」

 

「ぬわー!!誰かー!」

 

 

 

利根は自業自得…。

響の気迫に押され従う電。

 

 

 

 

あっという間に利根の顔以外が砂に埋まる。

 

 

 

「ち、筑摩ぁ!ちくまぁー!!」

 

「筑摩はいない。」

 

 

 

利根が顔だけをジタバタさせるが意味も無く、響に至っては利根の上に新たな砂城を作り始める。

 

 

 

 

「響って怒ると怖いんだな…」

 

「響ちゃんは根は優しい娘なのですが、

怒るといささか手がつけられないんです」

 

 

 

 

10分ほどで見事な城が完成し、

響は興味を無くしたかのようにビーチバレー組に入っていく。

 

 

 

電は利根を放っては置けず横で慰めるが、

助けようとしないのは響に頭が上がらないからか。

 

 

 

 

「ちょっくら俺も遊んでくるね」

 

「どうぞ行ってらっしゃいませ」

 

 

 

 

流石に利根と電が泣き出しそうなので

助けてやるか。

 

 

 

 

「おおっ、提督ぅ〜…。

助けて欲しいのじゃぁ〜…」

 

「助けてやるから泣かんでくれや。

とりあえずジュースでも飲んでリラックスしな」

 

 

 

ストローの刺さったトロピカルジュースを口元に置いてやる。

間接になるが砂まみれの利根の顔を見ても興奮しないし別にいいや。

 

 

 

 

響サンが創作した見事な城を丁寧に崩していく。

 

 

 

響の方を見れば俺の視線に気付いたようで、ニッコリとウインクを飛ばしてくる。

 

 

 

『もう許してあげるさ。』

 

 

『程々になー』

 

 

『了解。』

 

 

 

アイコンタクトで響と会話しつつ

利根を掘り出す。

 

 

 

 

「た、助かったのじゃ…。

こ、ここで吾輩は死ぬのかと思ったぞ…」

 

「電たちが作った城を踏んだからだぞ。

わざとじゃ無いにしても注意力が足りなさ過ぎないか?」

 

 

 

フツー踏まないでしょ…。

 

 

 

「それが、ちょっとはしゃぎ過ぎてな…面目ない…」

 

 

 

 

どうやら大人げ無く走り回って足元にあった城に気付かずに蹂躙、見事敵要塞を撃破してしまったという。

 

 

 

「しょうがないなぁ〜、あとで2人に

ジュースでも奢ってやりなよ?」

 

「反省するのじゃ…」

 

 

 

こうして利根の生き埋め放置事件も無事?未遂に終わり、反省の色も見えたことだし解決ということで。

 

 

 

 

 

昼にバーベキューをした俺たちだが、

駆逐艦が眠くなってきたということで

近くの山の中にある喫茶店で昼寝をすることにした。

 

 

 

この喫茶店、敷地の森にハンモックを模したネット状のロープが張ってあり

そこでゆっくりとできた。

 

 

 

 

木々の日陰となった場所で少しひんやりしており、昼寝にはうってつけのスポットだ。

 

 

 

 

「ここにいると戦いに来ていることを忘れそうだなぁ〜」

 

「そうですね、ここは静かですね」

 

「とはいえこの平和を守るために俺たちが居て、今ここにいるんだ。

それは自覚しなきゃだな…」

 

 

 

神通がリラックスした表情で返してくれる。

 

 

 

「司令官さんはここに来る途中にあった沈没船は見ましたか?」

 

「もちろん見たよ、確か濱江丸でしょ。

太平洋戦争末期に座礁してその後空襲で損傷して放棄されたんだっけ?」

 

「その通りです。

戦争中とはいえ民間船が攻撃され、

フネとしての生命を絶たれてしまう。

こんな悲しいことは繰り返したくありません…」

 

 

 

鳥海が悲しそうに話す。

 

 

 

「鳥海が思い詰めること無いさ。

そうならないために俺たちはここに来た、

そしてこれからも守るために戦う。

 

 

決して私利私欲の為ではなく、

日本という国の為に」

 

 

 

起きている2人はじっと俺の話を聞いてくれる。

 

 

 

「知っていると思うけどこの平和な父島だってかつては要塞化され、激しい空襲にあっていた。

 

 

敵のパイロットを殺してその人肉を食べるという残虐な事件もあった…」

 

 

 

「「……」」

 

 

 

「だが戦争は終わった。

アメリカに統治されていた期間もあるが、

今では知っての通り沖縄に並ぶ南の楽園になっている。

 

 

欧米系島民とも仲良くやっているし、

海外からの旅行客も多い。

過去を忘れたわけじゃ無いが何事もなかったかのように平和な島に戻ったんだ、ここは」

 

 

 

 

 

気付けば傾き始めた太陽にそっと手を伸ばす。

 

 

 

「だが俺たちは違う。

敵は深海棲艦というフネの化け物であって人間じゃない。

 

俺たちが守るのは国民。

戦争のために戦争をするんじゃない、

守りたいもののために戦うんだ。

 

それだけ覚えておいたらいいんじゃないかな?」

 

 

 

 

夕日の沈む海を眺めながら一人語る。

 

 

 

 

 

その後寝ている艦娘を優しく起こし、

美しい日没を皆で一緒に鑑賞する。

 

 

 

本土で見る夕日と変わらないはずだが、

南の楽園で見るそれは別物と思うほど素晴らしく神秘的であり、無性に涙が溢れるほどであった。

 

 

 

 

 

〜艦隊が民宿に帰還しました〜

 

 

 

 

「たっだいまー、当直ありがとー!」

 

「提督か、おかえり」

 

 

 

日向にお土産を渡す。

 

 

 

「これは…サンゴじゃないか?!

無許可で取ったら犯罪なんじゃ?」

 

「もちろん許可はあるから心配するな!

ほれ、許可状ももらってある」

 

 

 

多くの砂浜がサンゴでできている父島では、無許可でサンゴを取ることは出来ない。

 

 

出港前にこれを知った俺は防衛省に頼んで都知事と小笠原支庁に許可をもらい、全艦娘に1つずつという条件でお土産にすることができた。

 

 

 

「ありがとう、これは宝物になる」

 

「どういたしまして。

留守中なにかあった?」

 

「ああ、急ではないのだが伊豆諸島の警備艦隊から敵の動向報告があって

敵艦は南西に向かったらしい」

 

「あそこから南西というと、西之島方面か?」

 

「詳細は不明だがそちらに向かった可能性は高いな」

 

 

 

護衛艦が敵をロストした後人工衛星による追跡を続けたが、西之島に向かう針路上で突然探知不可能になったらしい。

 

 

 

 

陽動かもしれないし、本当に西之島に向かったのかもしれないが俺たちには確かめる術はない。

 

 

 

 

「予定通り八丈島までの警戒ルートを航行するか…」

 

 

 

 

一応その場にいた連絡官や海幕にも連絡を取ったが警備計画は変更無しでいくとのことだった。

 

 

 

日向に紅茶を淹れて持っていく。

 

 

 

「おまちどさん、ブランデー入っとるよ〜」

 

「君は…いや、提督は紅茶を好むのか。まるで金剛のようだね」

 

「なんかね、物心ついた時には飲んでいたってやつ?」

 

「前世は英国人だったりしてね」

 

「俺はずっと日本人の人生だと思うぜ。大和魂が何かはわからないが花見と夏祭りと焼き芋とこたつは大好きだ

 

 

そう答え紅茶を口に運ぶ。

 

 

「大和魂か、確か複数の女性を同時に愛して幸福にしたり、関係を良好に保つことも意味の一つに入っていたはずだ」

 

「ブブッ?!」

 

 

 

嘘やん?!

大和魂ってそんな意味も有ったの?!

やっぱ日本人ってエロ民族だわ!!

 

 

 

「ゲホッゲホッ…」

 

「おいおい大丈夫か?

日本人なのにそんな意味も知らないとは

君もまだまだだな…」

 

「まあ、しょうがないな」

 

「む、それは私のセリフなのだが…」

 

 

 

 

日向と面白おかしい会話を楽しみつつ

夜はゆっくり更けていく。

 

 

 

民宿の庭から近くにある飲み屋街の雰囲気が感じられる。

 

 

 

テレビの情報で不安に感じる住民がいるかと思ったが、見る限りではそれほど悲観的なムードは流れてはいないようだ。

 

 

 

「彼らは朝から元気にしていたよ、

残ってる観光客は不安そうだったが

島民はそれを元気付けるようにしていた場面もあった」

 

「もともと小さな島だし外界との

窓口も『おが丸』ぐらいしかない、

幸せっていうのは金じゃ無いのがよく分かるよ」

 

 

 

父島までの一般的な交通手段は『おがさわら丸』という貨客船のみであり、

空港も無いため約1日かけて船に揺られるしかない。

 

 

 

また料金もバカにならないため意外と高級な南国バカンスとなっている。

 

 

それを補って余るほど島民は優しく気さくで、島も素晴らしいところだ。

 

 

 

 

そのおがさわら丸であるが、ここ数日の情勢に鑑み東京に足止めとなっている。

 

 

生活物資が入ってこないのは言うまでもなく、経済基盤の観光業が成り立たなくなってしまう。

 

 

 

 

 

(早く敵を撃退しないとな!)

 

 

 

 

 

 

次の日は約束通り、

日向と俺(たち)で海に行った。

 

 

「君と2人では無いのか」

 

「えっ、俺としては複数で行くつもりだったんだけど?」

 

「霧島や飛鷹が提督の言葉には気をつけろと言っていた意味が分かった気がするな」

 

「??」

 

 

 

少し残念そうにちゅーちゅーとマンゴージュースをのむ日向。

 

 

 

(なんで残念がるんだ?

…あっ、実は泳げないとか?!)

↑大ハズレ

 

 

 

 

勘違いはあったものの概ね喜んでもらえたようでなにより。

 

 

 

 

夜は酒が飲める大人組ーーだが艦娘はみな18歳でありどう見てもはんz…ーーと一緒に一杯だけと約束して飲みに行ったのだが、『海亀の刺身』は珍味だったな。

 

 

臭いは少しあったが面白い味と食感だった。

妙高は一口目で食べるのを止めたがそこは個人差があるようだ。

 

 

 

ほろ酔い気分で宿に到着し、各自思い思いに風呂に入ったりして就寝前の時間を過ごす。

 

 

 

 

う〜ん、今日は酔いが早いな…。

 

 

 

 

麦茶をコップに入れ夜風に吹かれ体を冷やそうと外のベンチに腰掛ける。

 

 

 

「わーお、すごい夜空…」

 

 

 

本土ではほぼ見られないであろう満天の星空が頭上には広がっており、

言葉に出すのも忘れるぐらいの光景だ。

 

 

 

「クソ提督の割には感性はマトモなのね…」

 

「ん、その声は曙か?」

 

「何よ、わたしがいちゃダメなの?」

 

「ダメとは言っとらんがな。

それとクソはいらんて、クソは」

 

 

 

現実でも曙はクソ提督と呼んでくる。

まあ呼び方がクソ提督じゃなかったら偽物じゃないかと疑うが…。

 

 

 

「だってエロエロ星人でクソなんだなら

クソ提督じゃない」

 

「ぐぬぬ、悔しいけど言い返せん…」

 

「ノってんじゃ無いわよ!」

 

 

 

暴言を吐きつつも横のベンチに腰掛けるあたりが彼女の優しさを表している。

 

 

 

「今日行った海岸にさ…」

 

「うん」

 

「戦時中に空襲を受けた濱江丸だっけ、とかトーチカとかあったじゃない?」

 

「ああ。ここが要塞だったことを実感させられたな…」

 

 

 

昨日途中で見た海岸ーーー境浦海岸に今日は行ってきた。

シュノーケリングポイントにもなっていて、とても楽しめた。

 

 

浜を歩けば岩場にトーチカが残されていた。

米軍が上陸してきたらここから機銃を撃つことになっていたのだろう、銃眼が四角に開けられていた。

 

 

 

「この楽園がヘタしたら戦争によって地獄になっていたと考えると、なんか嫌なものよねやっぱり…」

 

「そうだな。戦争はやっぱりいけないよな、何も生み出さずただ喪失と悲しみしか残さない最低な行為だ」

 

「仮にも軍人の『提督』がそんなこと言っていいの?」

 

「嫌なものはイヤとハッキリ言うのが俺の質でね」

 

 

 

ナイーブになっているのか『クソ』を付け忘れてる曙に突っ込もうかと思ったが、今の空気はそんなんじゃないと悟る。

 

 

「俺たち軍人は何のためにいるかわかるか?」

 

「えっと、戦争に備える為?」

 

「半分正解。

実は戦争をしない為に軍人ってのは本来いるんだよ。

あべこべな話だけどな。

 

敵がいるからその対抗策として、あくまで防衛戦力として軍隊ってのはあるのであってそれを侵略目的、つまり自分たちの利益の為に使うのはよろしくないんだがな。

 

 

 

よく『戦争は他の手段を交えた政治的交渉』って言われていて要は外交の延長に過ぎないんだ。

政治目的を達成する為に行使せざるを得なくなって、仮に行使しても目的を達成したら講和なり交渉なりでちゃんと折り合いをつけるのが賢い戦争かな。

 

 

利益の為に戦争している時点で賢いもクソもないけどね。

…だが時には立ち上がらなくちゃいけないときもある、今のようにね」

 

 

 

 

自分でも驚くぐらい語ってしまったが

曙はどう思うだろうか?

 

 

 

「ま、人の数だけ正義と目的はあるし逆に悪でもあるというこっちゃ。

 

俺の持論だって勝手な推測だし、純粋な一般論からしたら矛盾だらけだと思う。

 

曙はどうかな?」

 

 

 

静かに聞いてくれていた曙に感想を聞いてみる。

 

 

 

「……んー」

 

「ど、どうだ?」

 

「ん……んー」

 

 

 

およよ?

 

 

 

「お〜いあけぼのちゃ〜ん?」

 

「ん…ぐぅ〜…」

 

 

 

寝落ちですか、そうですか。

今日もたくさん泳いだし仕方ないね。

 

 

 

「曙、ちょっと触るけど許してな…」

 

 

 

ベンチに座る曙を優しく抱き上げ、

部屋へと運ぶ。

 

 

 

まだ何人か起きていたので、アイコンタクトで状況を伝え部屋のドアを開けてもらう。

 

 

 

「おやすみ曙…」

 

「ん…」

 

 

 

こいつ、絶対に起きてるだろ…。

器用に返事するし、狸寝入りかぁ?!

 

 

 

とはいえ『あの』曙が俺のお姫様抱っこを

よしとするわけもなく。

 

 

 

(無意識に返事をしてるんだろうな)

 

 

 

 

流石に眠くなってきた俺はまだ起きていた蒼龍と妙高に寝ると伝え、割り当てられた自室に入る。

 

 

 

(ふぁあぁ〜…。

ガラにもなく難しい話をしちまったかな)

 

 

 

曙が俺の話を聞いてくれたのは

意外だったな。最後は寝落ちしてたとはいえ、途中までちゃんと聞いてくれていたし。

 

 

 

 

(やっぱり根は優しく娘なんだなぁ…)

 

 

 

 

そこまで考えると意識がフッと堕ちる感覚がした。

 

 

 

 

南国特有のジメっとした湿気も部屋のエアコンによって快適になりすんなり眠れた。

 

 

 

 

…だが次の日に蒼龍が、俺が曙を抱っこしたことを色々ワザと間違えて広めて、通常通りの性格に戻って落胆したのは秘密だ。

 

 

 

「このあたしに触るなんて、やっぱり変態!エロエロ星人!クソ提督っ!!」

 

 

ベッチーン!!

 

 

「…蒼龍のバッキャローッ!

いつかモミモミしてやるーッ!!」

 

 

 

提督をビンタする曙だったが、

もう少し起きておけばよかったと思ったとか思わなかったとか……。

 




父島はいいところですよ!

数年前に旅行で行ったのですが、
素晴らしい気候と地理、そして海っ!

原付借りて島をひとっ走り、夜遅くまで
飲み歩いて海に飛び込み
通報を受けた警官に注意される…。
そんな南の楽園です(苦笑)!!




次からは戦闘が入ってきますので、
一気に地獄になっていきます。


※ここから物語が
多少重くなるかもしれません。

閲覧注意とは言いませんが、
『R-15』タグをご理解の上
お読みくださいませ。


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