桜と海と、艦娘と   作:万年デルタ

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またまた間が空きましたが無事
投稿することができました。


先日までかなり執筆済みの話が
あったのですがとある方の小説を
読んで閃きまして、がっつり方向性を
転換して新たに書き直すことに致しました。



前回のあらすじ。

金剛の手にキス、バレる、ビンタ大量。



親睦を深め深海棲艦との戦いに
備える主人公だが、世界情勢は
急速に悪化を辿るのであった。



第一章  小笠原諸島防衛戦
1-1 そして崩壊は突然に 【横須賀基地】


横須賀基地業務隊食堂

 

 

 

 

(頬が痛ぇ…)

 

 

 

 

他の基地から来てくれた艦娘を

歓迎するため俺は食堂に足を進める。

 

 

 

 

 

自分の顔が腫れているのは恥ずかしいが、

歓迎をしないのは失礼だ。

 

 

 

 

事情を知らない艦娘たちがぎょっとした

表情で俺を見ているのがわかる。

 

 

 

 

 

「やぁ、ようこそ横須賀へ。

知ってると思うけど、俺は『むらさめ』…じゃなかった、海幕『特殊艦船室』の菊池だよ。

 

 

ざっと経緯を説明すると突如人類を無差別に攻撃する敵、俺たちは『深海棲艦』と呼んでいる。

現状では表立った攻勢には出てきていないが、今後必ずやってくるはずだ。

 

 

敵の武装は第二次大戦時のものを流用しているようで、証拠に錆びた砲弾や機銃弾も発見されている。

今のところは敵艦種は駆逐艦クラスのみだが、いずれ巡洋艦や戦艦、

空母といった大型艦も出現すると

見込んでいる。

 

 

 

そこでみんなの力を貸してもらいたい。

10日前に君たちは運命のいたずらなのか神が起こした奇跡なのか、

フネの魂たる艦娘がいる各自衛艦のそばにかつての乗っていた帝国海軍艦船が現れた。

そればかりかこうして艦娘が『本当にいる』とわかり、俺も嬉しい。

 

 

だが世間は、特に世界中の偉い人は事態を全くわかっていない。

日本に旧式とはいえ大艦隊が現れた、その程度の認識だ。

この襲撃だってテロ組織のもの程度の考えしかない国もある。

 

 

どうか、日本のため、時代は違えど

この国を一緒に守ってほしい!」

 

 

 

 

 

スッ…

 

 

 

「一つ質問いいかしらぁ?」

 

 

 

そう言って手を挙げたのは

舞鶴から来た愛宕だ。

 

 

 

手を挙げるだけであんなに胸が

揺れるなんて、どんな胸なんだ…?

 

 

 

 

「うん、愛宕だね。なにかな?」

 

 

 

 

 

「その顔、来る前に何かあったんですか?」

 

 

 

 

「べ、別に…?

ほ、他に仕事の質問なら受け付けるよ?」

 

 

 

 

(アタゴン何聞いてきてんの?!

そこはあえて触れないのがまなーでしょう?!)

 

 

 

 

「だってぇ、来る前に見た写真は

カッコ良くって、頬が膨れてなかったじゃない…」

 

 

 

 

「そこは大人の事情が有ってだね…」

 

 

 

 

「ねぇねぇ、さっきまで逢い引きしてたって聞いたけど本当なの?!」

 

 

 

佐世保の足柄が興味津々に話してくる。

それ質問じゃないよね?

ただのトークだよね、仕事関係ないよね?!

 

 

 

 

その言葉が艦娘たちに油を注いだようで、

キャーキャーと女子トークが各所で始まってしまう。

 

 

 

 

「こ、こら!そういったデマを

言うんじゃないっ!」

 

 

 

 

ヤベェ!!

これはまずいぞ、俺のハーレム計画が

頓挫してしまう!

 

 

 

どうにか誤魔化さないと…。

 

 

 

「決してデマなんかじゃ無いデース!!」

 

 

 

 

 

げぇ金剛お姉様?!

やめろ、アンタは何も喋るな!

 

 

 

 

「金剛、君は静かにしていなさい…?」

 

 

 

 

黙りなさい、そんな思いを怒りのオーラを出しながら伝えようとする。

 

 

 

「oh、まっかせるネー!」

 

 

 

謎の自信満々で答える金剛。

…不安しか無いんだけど。

 

 

 

 

「提督は私に、永遠のLOVEを

誓ってくれたデース…!」

 

 

 

 

 

(この妖怪紅茶くれ…、やりやがった)

 

 

 

 

艦娘たちのテンションも最高潮に達し、

食堂全体が黄色い声で満たされる。

 

 

 

 

「飛鷹さんとか村雨にも告白したって

聞いたんですけど?!」

 

 

 

「私は横須賀の艦娘にはキスしたと…」

 

 

 

「えー、私は横須賀の全員は

ホテルに詰め込まれて、1週間

休みなしで提督に遊ばれたって

聞いたわよ?!」

 

 

 

 

「あのー、みなさん?

落ち着いて、ね?」

 

 

 

 

こうなったら収まるところを知らない

女子トーク。

 

 

 

 

各グループを回って少しずつ誤解を

解くしかなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、どうしてこうなった…」

 

 

 

 

……

 

 

 

横須賀組の場合

 

 

 

 

「…頭にきました。」

 

「でね、提督ったらその後…」

 

「えー?!ぷ、プロポーズ!!」

 

「それも私だけじゃなくて村雨にもしてるみたいだし」

 

「プレイボーイ過ぎる、かも…」

 

「金剛お姉様にキスまでして…、

私には何もしてくれないのに司令ったら!」

 

「司令ってそんなに遊び人なのですか?」

 

 

 

話を見守っていた親潮が質問する。

 

 

 

 

「提督は遊び人ってわけじゃ無いけど、

口説き文句を息をするように吐く人よ!

 

 

それを自覚していないのが悪いところだし、

何よりあんな優しい顔で、

く、口説かれたらもちろん、

す、好きになるに決まってるじゃない…」

 

 

 

 

村雨が後半は赤くなりながら答える。

 

 

 

「ホントよねー!

軽い、遊び人って感じのくせに、

目を真っ直ぐ見つめて言ってくるんだもの!

提督は卑怯者よ!

わ、私もキスしてもらいたかったり…」

 

 

飛鷹が最後の方は俯きながら本音を言う。

 

 

「て、照月だって提督のこと、

ちょっと好きだったり…」

 

「…千代田も何か言いたそうね?」

 

 

 

 

飛鷹がずっと輪に入ってこなかった

千代田に話を振る。

 

 

 

「えっ、私?!

私は別に、好意があるってわけじゃ…」

 

「へぇ~、そうなんだ~?」

 

「私はあんなナンパ男のこと、

ちっとも…」

 

「…その割にはさっきから菊池士長の

ことをずっと見ているようだけど?」

 

 

 

 

加賀がぴしゃりと指摘する。

 

 

 

 

「そ、それは、提督が他の娘に

手を出さないか見張ろうと…」

 

 

 

 

千代田が慌てて反論する。

 

 

 

 

「でも千代田さん昨日提督が

千代田さんのフネから降りるとき寂しそうだったよ」

 

「村雨なんで知ってるのっ?!」

 

 

 

 

その反応に村雨がニヤリと悪い笑みを浮かべる。

 

 

 

 

(もしかしてカマ掛けられた?!)

 

 

 

 

千代田はしまったと思ったが後の祭り。

 

 

 

「村雨さんをはじめ各艦娘は巡視の際それぞれのフネにいました。

村上さんは総監たちの先導を、司令はその最後尾にいたはずです。

 

 

ということは村雨さんは、千代田さんにカマを掛けたということですか」

 

 

 

 

親潮が律儀に推測を話す。

 

 

 

 

いたたまれなくなった千代田は

赤くなりながら自白を始める。

 

 

 

 

「だって今まで私たち艦娘は男性と

話す機会がなかったし、

提督の人柄も良いし、イケメンだし、優しいし…」

 

 

 

 

(千代田さんも結局好きなんだ…)

 

 

 

 

村雨が人に聞こえない程度にため息を吐く。

 

 

 

 

(私が一番最初から提督といるのに…)

 

 

 

 

東京湾での戦いを思い返す。

 

 

(戦闘が終わって、提督が告白してきて、気がついたら好きになってて…)

↑告白はしてません。

 

 

 

遠くのグループと話をする提督は、

少し困ったように噂の弁解しているようだが、それが余計誤解を生んでいる気がする。

 

 

 

 

本人に自覚が無いのが一番悪いと思う。

 

 

 

(私もいつかキスしてもらうんだから!!)

 

 

 

「…ところで雷は提督のことを

どう思っているの?」

 

 

 

 

村雨がふと雷に話を振る。

 

 

 

今まで話を聞きながら、これといった

感情を表さなかった雷に疑問が湧いたからだ。

 

 

 

 

「え?そんなの決まってるじゃない!

司令官が誰とどうしようと、私は

司令官のことが大好きよ。

なに当たり前のこと聞いてるのよ!」

 

 

 

 

聞いている側が恥ずかしくなる台詞を

ためらいもなく堂々と言う雷。

 

 

 

 

そんな雷を一同は畏敬の念を覚える。

 

 

 

 

 

『雷には敵わないなぁ…』

 

 

 

 

堂々と好きと宣言する雷に、

勝てないと思う一同。

 

 

 

 

 

(『好き』とはどんな感情なのかしら?

…気になります。)

 

 

 

 

約1名の正規空母を除いて。

 

 

 

(菊池士長にはほどほどにしてもらわなければ。

…だって私の心が何故だか、見ていて痛むもの。)

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

大湊組の場合

 

 

 

 

「夕立ちゃんはあの提督のこと、

どう思う?」

 

 

 

 

大湊組の長を務める筑摩が夕立に尋ねる。

 

 

 

 

「すごく面白そうな人!

顔が腫れてて面白いし、真面目な話はよくわからなかったけど、きっと

楽しくなるっぽい!」

 

 

 

夕立が率直に答える。

 

 

 

 

「でも筑摩さん、彼はところ構わず

艦娘に話しかけたり、プロポーズともとれる発言をしているとの情報が…」

 

 

 

 

大淀が事前に調べた情報を提供する。

 

 

 

 

「あら、大淀さん。

ヒトというのは情報だけではわからないものよ?

 

 

実際に会って話してみないと、

本心はわからないもの、

そうでしょう?」

 

 

 

 

筑摩の言葉に大淀も詰まる。

 

 

 

「それはそうですが…」

 

 

 

 

「事前の偵察は重要、でも実際に会ってみないことにはわからないこともたくさんあります。

…ほら、提督がこちらに来ますよ」

 

 

 

 

人数が少ないところから釈明しようと思ったのか、提督がこちらに近づいてくる。

 

 

 

「顔の腫れは結構引いてるっぽい!」

 

 

 

 

「本当ですね、意外と人間じゃなかったり…?」

 

 

 

 

「そんなわけないじゃないですか筑摩さん。

…結構整った顔ですね。」

 

 

 

大淀がぽつりと漏らす。

 

 

 

 

 

こちらに気がついたようで、提督が

にこやかに手を振って返す。

 

 

 

 

筑摩がちらと2人を見れば、

夕立は楽しそうに、大淀は赤くなりながらぽーっと見ている。

 

 

 

 

「大淀さん、もしかしてほの字?」

 

 

 

 

「ちちち、違います!

だだ、誰が一目惚れなんて?!」

 

 

 

 

慌てて反論する大淀。

 

 

 

「カッコいいっぽいし、しょうがないよ」

 

 

 

夕立がきっぱり言う。

 

 

 

「私も気になります。

提督を巡って争いが起こりそうですね」

 

 

 

 

筑摩の言葉は的中するのだろうか。

未来は誰にもわからない。

 

 

 

……

 

 

 

 

舞鶴組の場合

 

 

 

 

「士長の提督か…」

 

「あら日向ちゃん、不満?」

 

 

 

日向の呟きに愛宕が反応する。

 

 

 

 

「そうではなくて、彼にどんな

才能があるのか気になったんだ」

 

「確かに異例の人事ですね。

深海棲艦とかいう敵の襲撃もあった

とはいえ…」

 

 

 

 

日向の考えに妙高も同意する。

『深海棲艦』についても、艦娘が出現

してから海幕(資料は菊池と村上作成)が説明を実施し、大まかな艦種やスペックは伝えてある。

 

 

 

「…それだけあの提督は腕が立つって

ことでいいんじゃないかな」

 

 

 

 

話を聞いていた川内が結論を出す。

 

 

 

 

「なんでもあの提督は夜戦で完全勝利したみたいだし、私も久々に夜戦がしたいなぁ~!」

 

「でも深海棲艦ってすごい気持ち悪そうじゃない。

私はこんな敵と戦うのはイヤよ?」

 

「「…確かに」」

 

 

 

 

愛宕の意見に日向と妙高が同意する。

 

 

 

 

「せめて敵が普通のフネの姿だったら

喜んで肉迫するんだけどねぇ…」

 

 

 

 

無理な注文をする川内。

 

 

 

とはいえ久々の戦いに血が騒いでいるのは皆同じ様であった。

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

佐世保組の場合

 

 

 

 

「…そして提督がワタシの手にキスを

してくれたのデース!」

 

 

 

 

金剛が佐世保の艦娘に先ほどあった

出来事をオーバーに伝える。

 

 

 

 

「えーっ!手の甲とはいえ、

キスしてもらうなんて羨ましい!!」

 

 

 

足柄が金剛に輝きの視線を送る。

 

 

 

「霧島から提督のレポートはもらっていまシタが、実際に会ったら惚れ惚れするそのフェース!にこやかなスマイル!

 

 

片膝をついてナイトの様な作法の

キス!そしてワタシにエターナルラヴを…!」

 

「金剛、まさか貴女この私を差し置いて

あの提督とくっ付こうって考えてるんじゃ無いわよね?!」

 

 

 

 

金剛と足柄は所属が同じ佐世保ということもあり仲が良い。

ついでに艦これの提督ラブ勢のキャラも受け継いでいるのか、白馬の王子様を日々待ちわびている。

 

 

 

「そんなの私の勝手デース。

足柄も努力すればいいだけデース」

 

 

 

『勝ち組』に転じた金剛が足柄を冷たくあしらう。

 

 

 

 

「お二人とも仲良くしましょう、ね、ね?」

 

 

 

 

佐世保の苦労人、鳥海がそんな2人を

抑えようとする。

 

 

 

「そういえば照月が『提督は浮気者』って愚痴を零していました」

 

 

 

秋月の言葉に、幸せ全開だった金剛が

凍りつき、一方足柄はニヤリと悪い笑みを浮かべる。

 

 

 

「テートクゥ…、san of a ×××××…」

 

「ふふ金剛、私にもツキが回ってきたようね!

この勝負、私がいただくわ!」

 

「…別に勝負してなかったし、

バッカみたい」

 

「曙ちゃん、聞こえちゃいます…」

 

 

 

 

無駄に熱くなる2人を曙が冷めた口調で

馬鹿にするが、それを神通が止める。

 

 

 

「だってそんな浮気者のクソ提督のどこがいいのよ」

 

「それは…」

 

 

 

 

神通もどもる。

 

 

 

 

 

「愛デース!」「将来の為よ!」

 

 

 

目の前で騒いでいた2人の叫びは華麗に

無視される。

 

 

 

 

「秋月はあの提督どう思う?」

 

 

 

 

島風が秋月に尋ねる。

 

 

 

「うーん、優しそう、というぐらいですか?」

 

「それだけ?

私は面白い提督だと思うよ!

だってアレ見てみて!」

 

 

 

 

島風が指さす方を見れば、提督が

舞鶴組と楽しそうに話している。

 

 

 

 

「あの日向さんと妙高さんが楽しそうに笑ってる…」

 

 

 

 

提督はオーバーな動きと変な顔をしており、話の内容は聞こえないが面白そうだ。

 

 

 

「「あ、川内さんすごい喜んでる…」」

 

 

 

 

((どうせ夜戦の話なんだろうなぁ…))

 

 

 

 

2人のその予想は的中し、川内が夜戦の機会はあるか質問したところ、

 

 

 

「あるよ!敵の装備は大戦当時のままのようだが、こちらは最新の技術と戦術で戦える。

 

 

例えば赤外線装置で真っ暗闇でも敵を

一網打尽にできる。

君たち艦娘の装備の近代化改装の計画はまだ出てないが、なるべく早く俺から上申するぞ!」

 

 

 

 

…と返答され川内は舞い上がったそうな。

 

 

 

 

 

 

「…ただ頭のいいエリートタイプかと思ったら違うみたいだね」

 

「そうですね、表情も豊かで人柄も良さそうな方ですね」

 

「さっき村雨が言ってたのですが戦争になる事を前提に話を進めているそうですよ」

 

 

 

春雨がひょこっと顔を出す。

 

 

 

「敵ってシンカイなんとかって気持ち悪いやつでしょ?」

 

「深海棲艦です、はい。

確かに気持ち悪い姿ですね。

中国の方でも見つかってるので

私たちの出番もあるのではないでしょうか」

 

「そしたら私が活躍しちゃうんだから!」

 

 

 

島風がはしゃぐのを曙が戒める。

 

 

 

 

「活躍って言っても今の私たちの乗っているフネは第二次大戦時の旧式なのよ、そんなに活躍する場面なんてないわよ」

 

「え〜?でも提督がさっき最新の装備にしてくれるみたいな事を言ってたみたいだよ」

 

「『はつゆき型』まではいかなくともミサイルや射管装置、ソーナーがあれば深海棲艦とやらにはこの秋月、やらせません!」

 

「そーそー!それにあの提督と一緒なら楽しそう!」

 

「島風たちもあのクソ提督のことが

気に入ったの?」

 

「だって面白そうだし~…」

 

「そんな悪い方には見えませんよ?」

 

「そりゃ初対面では誰だって猫の皮を被るわよ。

そのうち化の皮が剥がれるわよ!」

 

 

 

 

曙が厳しい意見を述べる。

 

 

 

「曙どんだけ男の人を嫌ってるの」

 

 

 

島風が質問する。

 

 

 

「オトコが嫌いとかじゃなくて、

ああいう軽い男が嫌いなの!」

 

「まだ直接話したわけじゃ無いのに…」

 

 

 

秋月がやや不満そうに呟く。

 

 

 

 

「それにしても、やけに金剛さんたち

が静かね…」

 

 

 

 

さっきまでの喧騒が無くなり、

不審に思った曙がちらと金剛たちを見る。

 

 

 

 

気付けば提督がこちらに来て鳥海と神通と話をしていた。

 

 

 

 

鳥海と神通は顔を赤くしており、

金剛と足柄はボーッと提督を見つめている。

 

 

 

 

ひそひそ…

 

 

(…アリね)←足柄

 

 

 

(だからさっきから言ってるデース!

提督は素晴らしい方デース。

話せばわかると思いマスが、

とても優しい方デース!

でも譲りまセーン!)←金剛

 

(恋愛と戦争ではどんな手段も

許されるって、昔から言うわ!

私がモノにするんだから!)

 

(絶対に提督は渡しまセーン!)

 

 

 

 

 

 

 

「金剛さんだけが惚れていると思ったら、以外の人も惚れてない…?」

 

「…何なのよ一体。

そんなにあのクソ提督がいいわけ?」

 

「…ヘーイ、アケボーノ!

提督の良さを知るために、話に加わるといいデース!」

 

 

 

どんっ!

 

 

 

「えっ、ちょっ、金剛さん?!」

 

 

 

 

金剛に背中を押される曙。

 

 

 

 

 

 

ぽすっ

 

 

 

 

見事提督に当たってしまい、

気付かれてしまう。

 

 

 

 

 

 

(どど、どうしよう?!

気付かれちゃったじゃない!

 

 

どうにか切り抜けないと…!)

 

 

 

 

 

提督が話しかけてきたら罵声を浴びせようと意気込んでいた曙は、

金剛の作戦により不意打ちを受けてしまう。

 

 

 

 

 

その後、顔を赤らめながら可愛く罵声を浴びせる曙と、それを楽しみながら

曙をいじる提督の微笑ましい光景が見られたそうな。

 

 

 

 

曙が赤くなっているのは

ただ恥ずかしいだけなのか、

それとも……?

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

呉組の場合

 

 

 

 

「なんだか曙も満更じゃないみたいねぇ〜!」

 

 

 

 

蒼龍が楽しそうに佐世保組の様子を見る。

 

 

 

 

「蒼龍さんもそう思う?

私もあんなに元気な曙を見るのは

初めてかもしれないわ……」

 

 

 

 

そんな蒼龍に同調する雲龍。

 

 

 

 

「いや、ただ罵声を浴びせてるだけにしか見えねえぞ」

 

 

 

蒼龍と雲龍ののんびりした会話に

天龍がすかさず突っ込む。

 

 

 

「天龍もわかってないわね、

それがいいのよ~」

 

 

 

 

「そうよ、天龍もまだまだ甘いわね。」

 

 

 

 

「やだ!結構男前じゃない、あの提督!」

 

 

 

 

「伊勢、顔が良くても男は根性が大事なのじゃぞ。

なんだか軽そうな男のように見えるが、

彼奴の何処がみな気に入ったのかわからんのう…」

 

 

 

 

「ふふっ、利根さん知らないんですか?

提督は軽そうに見えて、実は凄い

熱意のある方らしいですよ!」

 

 

 

 

「ほう、鹿島それは何処からの情報じゃ?」

 

 

 

 

「さっき横須賀の艦娘たちから聞いたんですけど、既に部隊運用や造修・補給方面の構想を練っているとか…」

 

「何とっ!今の自衛隊にも未来を見据えている者がいるとは…」

 

「深海棲艦という敵が現れたことに

危機感を持っているのは提督を始め、

ほんの一握りの制服組だけみたいですし、政府に至っては私たち艦娘が

現れたことに嫌悪感を持つ人もいるという風にも聞きました。他にも…」

 

 

 

 

鹿島が独自に収集した情報を打ち明ける。

 

 

 

 

「『艦娘は脅威』ねぇ…、深海棲艦の

脅威は何とも思ってねえのかよ。

つくづくお役人ってのには嫌になるぜ」

 

「被害を受けてからでないと事の重要性が解らないのはいつの時代も変わらないみたいね。

他の国では非常事態宣言や戒厳令を出してる国も有るというのに…」

 

 

 

 

襲撃を受けているのは日本だけではない。

 

 

 

ロシアと中国は元より、世界の主要な国は何らかの不審な襲撃を受けている。

 

 

 

中には死者まで出ている国もあり、

日本は恵まれているとの見方もある。

 

 

 

 

「ま、駆逐艦の奴らが苦労しなけりゃそれでいいか」

 

 

 

 

天龍が優しい視線を駆逐艦たちに

向ける。

 

 

 

 

 

そんな想いを知ってか知らずか、

和気藹々とお喋りを楽しむ電たち。

 

 

 

 

「はわわわぁ〜、格好いい司令官さんなのです…」

 

「電、あんたさっきからそればっかりね…」

 

 

 

電のぼやきはこれで4度目で、

横で聞いている満潮もうんざりしている。

 

 

「あんな男捨てるほどいるわよ。

別に気にかけることも無いわ」

 

「で、でも曙さんや神通さんたちと

仲良さそうに喋っているのです。

すごく楽しそうなのです!」

 

「満潮はその口の悪さを直さないと。

私たちの司令官になるお方なんだから、もっと敬意を持って…」

 

「ホント朝潮は真面目よね、誰が

司令官になっても一緒よ。

どうせ戦うのは私たちなんだから、

上は上の仕事さえちゃんとやっていればいいのよ」

 

 

 

姉である朝潮の小言も、煙たがるように

聞き流す満潮。

 

 

 

 

(司令官が良くても悪くても、

艦娘がちゃんとしないとダメなのよ!

 

 

補給をしてくれたって、味方を沈めるような司令官は無能。

戦いがうまくたって、後方がダメな司令官は無能。

 

 

私がしっかりして二度と艦隊全滅なんて

ことはさせないんだから…!)

 

 

 

ゲームで提督に対して毒ばかり吐き、

前線に出たがる満潮だが、

それは自分が修理中に姉たちが沈没

してしまった過去があるからだ。

 

 

 

『自分の力不足が原因だった』

 

 

これが彼女を戦いへ赴かせる所以であった。

 

 

 

 

そんな満潮を優しく見つめるのは漣。

 

 

 

(ミッチーは自分に厳しいからねぇ〜。

今でもアサッシーが沈んだのは自分のせいだって、心の奥で責め続けてるね)

 

 

 

漣は普段から口調やテンションが

他の艦娘と比べて高いことで知られているが、実は計算された行動であることは知られてはいない。

 

 

 

漣自身は自分はムードメーカーでありたいと願っている。

いつからかはわからないが、少しでも艦娘たちが楽しく過ごせるかを考えるようになった。

 

 

 

そして彼女は人の心の変化に敏感で、

それらを考慮した上で突拍子も無い言動を取っている。

 

 

 

今も白雪と五月雨とワイワイ騒ぎつつも、

気付かれないように仲間の様子を見守るのは本当の漣の姿なのかもしれない。

 

 

 

「提督はどんな料理が好きかなぁ…?」

 

「おいやめろ。

ダレーは料理苦手なんだから、

テキトーに『私を食べて…?』とか

言っておけば喜んでくれるって!」

 

「漣はイジワルばっかりで嫌い〜…」

 

 

 

ダレーと呼ばれた五月雨は

漣の返事に口を尖らせる。

 

 

「だってぇ、その方が漣は楽しいしぃ〜!」

 

「やっぱり意地悪ぅ?!」

 

 

 

ガビーンという擬音が似合う驚き顔で

五月雨は悪態を付く。

 

 

「シラーはカレーが得意なんだっけ?」

 

「漣ちゃん、昨日はシラユーって呼ばなかった?」

 

「し、シラネーヨ…」

 

 

振った先の白雪に突っ込まれ、仏頂面で

目をそらす漣。

 

 

 

曙をボノーと呼んだり、五月雨をダレーと呼んでみたりとめちゃくちゃである。

 

 

 

 

噂では漣は全艦娘に最低3つのあだ名を

付けていると言われている。

 

 

 

 

後に提督にもあだ名をウィークリーで付けていくことになるのだが、大体スケベ関係になるのは妥当か。

 

 

 

「確かにカレーは得意です。

練習艦の時のレシピはインターネットでも公開されていますし、作った人からも美味しいと好評だったようです」

 

「カレーウマー!

ってなワケでダレーもカレーを得意料理にしてご主人様をメロメロにしちゃいなよ、ユー!」

 

「う〜ん、料理はちょっと…」

 

 

 

五月雨は努力家だ、日々時間を設けて

料理の練習をしてはいる。

 

 

…してはいる。

 

 

 

やはり料理はセンスなのだろうか、

五月雨はなかなか上達しない。

 

 

 

フネの調理員のレシピを参考に

してみるが、全く見た目も味も違う

『何か』が完成してしまう。

 

 

 

食べられないことは無いが、

進んで食べたいとも思えない。

 

 

 

味は……ノーコメント。

 

 

 

だが諦めずに挑戦し続ける五月雨は

誰よりも輝いているはずだ。

 

 

(いつか提督に私の料理を食べてもらいたいな!)

 

 

 

後日、料理は見た目じゃないと言って、

提督が五月雨の料理を食べたのだが

一口目で手が止まってしまったとかなんとか…。

吐き出さずに嚥下したのは賞賛に値する、と他の全艦娘が提督の評価を見直したことが業務日誌に綴られた程だ。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

「ふぃ〜、ざっとだけどみんなと話ができたな…」

 

 

 

 

 

懇親会開始から1時間半。

横須賀組以外の全艦娘と軽く顔を合わせ終わり、とりあえず村雨たちのところに戻ることにする。

 

 

 

 

行く先々では俺がセクハラしてるとか、

ホテルに監禁してあんな事やこんな事を

したとか噂の真偽を聞かれたがどっからそんなガセが流れとんじゃい。

↑実は親潮が何気なく詳細をぼかし、

他の艦娘に伝えたら尾びれが付いた模様。

真面目過ぎるのも考えものである。

 

 

 

 

 

セクハラはまぁ…ね、否定できないけど

誰があんな可愛い艦娘を監禁して

いかがわしいことなんてするかってんだ!

 

 

 

…羨ましいっ!!

…じゃねーや、けしからん!

 

 

 

 

顔の腫れも落ち着いたようだし、

みんなのところに戻ろう。

 

 

 

 

「ああ〜ん…?」

 

 

 

見れば村上がなぜーか泣いている。

 

 

 

ぽつーんと食堂の隅の椅子に座り、

俺を睨んでいるような…?

 

 

 

 

「どうしたんだ村上、何があったんだ?」

 

「……の野郎」

 

「え?」

 

「この野郎、俺が金剛を好きなのを

知っていながらキスをしたなぁ!!」

 

「……あ」

 

「お前がそんな奴だとは思わなかったっ!!」

 

 

 

そういえばコイツは金剛が好きだったな、

さっきはつい勢いで金剛の手にキスしちまったけど、あれはあれでしょうがないよね?

↑何がだ

 

 

 

「あれは挨拶の一種であって

恋愛感情とは無関係。

お前がそんなに金剛を想うのであれば、

どんどんアタックすればいいと推察する。

 

よって俺は無罪であり、お前の行動力次第で今後彼女との関係を構築できると考える、以上」

 

「思いっきり堅苦しい棒読みだな。

お前が他の艦娘と話している間に

金剛のところに行ったんだが、

まるっきり『テイトクテイトク』しか

言わないし、俺のことはあまり相手に

してもらえなかったんだぞ…」

 

 

 

あら可哀想。

だが俺のハーレム計画の為には、

例え同期の仲間でも見捨てないといけないのだ!

 

 

金剛が俺に好意を持ってくれているのかはわからないが、俺の『嫁』にさせてもらいたいものだ。

 

 

 

 

(すまねぇ村上!)

 

 

 

心の中で村上に謝る。

 

 

「泣いてる所悪いが、ちと真面目な話だ。

 

 

明日からについてなんだが、

艦娘の海上公試に向けた準備が入ってる。

又、近代化改装案を検討していてお前の力を借りたいんだ」

 

「…近代化改装?

お前が見せてくれたレーダーを取り付けたり、兵装を換装したりとかそのあたりの案か」

 

「そそ、さすがに主砲や魚雷をすぐに換えるのは無理だろうから、

まずは全艦艇に簡易的でいいから

レーダーと指揮通信機器は積みたいと考えてる、ついでにソーナーも。

 

電波機器とかはお前の方が詳しいだろうから、詳細は任せる。

 

 

欲を言えば射撃管制装置も載っけたいよな〜、たしかミサイル艇にも採用されてるからそこまでのサイズにはならないはずだ」

 

 

 

一通り改装案を出し、村上の意見を請う。

 

 

 

 

射撃管制装置とはレーダーと連動した

弾道計算を可能にし、着弾精度を飛躍的に高めることが可能となる。

 

 

 

「レーダーは最悪民生品を導入しても

構わないと思う。

対空レーダーは遠距離の敵機を索敵するために妥協はできんが、対水上だけならそこまでの距離は必要とされないからな」

 

 

 

 

ここのところ影が薄かったり金剛に相手にされなかったりと踏んだり蹴ったりな村上だったが、こいつの頭脳と知識には感心させられる。

 

 

 

提督としての素質が有るのかどうかはわからないが、

こいつには後方の技術関係が向いているのではないだろうか。

 

 

 

俺は技術方面はからっきしだがそれを

村上がカバーすれば、俺は前線の指揮に集中できる。

 

 

 

 

村上を適当に慰めつつ、艦娘たちの

改修や作戦計画を煮詰める。

 

 

 

 

作戦といってもまだ敵は現れて

いないじゃないかと思うかもしれないが、先ほどSF(自衛艦隊司令部)から連絡官が来て南シナ海で深海棲艦らしきものが目撃されたと耳打ちされた。

 

 

 

自衛隊としては日本に関係する船舶が襲撃を受けたわけではないため、

今のところは出撃は行わないとのことだった。

 

 

 

 

(シーレーンは日本の生命線なのに、

どうして行動を起こせないんだ。

攻撃を受けてからじゃ遅いのは明らかじゃないか…!)

 

 

 

無論海幕や統幕はこの事態に危機感を抱いているが、問題はそのトップである総理大臣が待ったをかけたらしい。

 

 

 

『まだ攻撃を受けたわけではないから、慎重に状況を見よう』

 

 

 

連絡官も呆れながら伝えてくれた。

 

 

 

 

(アホくせぇ!

専守防衛っていっても護衛艦ぐらいつけさせろよ。

丸腰の輸送船が何十隻も沈められてからじゃおせーんだよ!!)

 

 

 

 

これだからことなかれ主義の政治家は

好きになれん。

 

 

 

現在ソマリアに海賊対処部隊を派遣しているが、そこから沖縄近海までは

ノーガードであり一隻でも敵がいれば

好き勝手し放題だ。

 

 

 

途中他国の海軍がいたとしても、自国の領海や船舶を守るので精一杯だろうし洋上まで出張ってくれるのはゼロに等しい。

 

 

 

 

(非公式に海幕とSFに艦娘と護衛艦の

派遣準備を打診してみるか…)

 

 

 

 

頭で派遣に適する艦娘をリストアップしつつ、どんな装備が必要か考える。

 

 

すぐには装備の準備製造は出来ないだろうから、護衛艦を対潜メインにして

艦娘には対水上戦闘を頑張ってもらうしかない。

 

 

 

 

今日が歓迎会なのを忘れつつ、

メモ帳に上申する内容と改善案を

書き出し始める。

 

 

 

 

周りの艦娘が俺を見ながらひそひそと

話すのがなんとなく見える。

 

 

 

(どうせ空気読めないとか真面目キャラきもーいとか思われてるんだろなぁ…)

 

 

 

例えメンタルを削ってでも、

俺が今できることに集中するだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

(南シナ海に深海棲艦が現れたそうやで!!)

 

(なにっ、本当か?!)

 

(でも自衛隊は出撃しないってさ)

 

(司令官さんは作戦を練っている

ようなのです)

 

(提督は私たちの現代化改修を考えてるのかぁ)

 

 

 

 

南シナ海の件は見事にバレていた。

 

 

 

後ろからモロ聞こえだったようで、

ついでにメモまで艦娘に見られていた。

 

 

 

そんなことはいざ知らずいそいそと

メモに必死な提督。

 

 

 

艦娘たちは少なくとも良い人という

認識はあるようだが、それ以上の感情を持っているかどうかは誰にもわからない。

 

 

 

 

(提督ったらなんで懇親会で仕事してるのかしら!

さっきの話は終わってないのよ?!)

↑村雨

 

 

(いつか提督とまたデートに行きたいわねぇ…)

↑のろけ飛鷹

 

 

(金剛姉様に先を越されたけれど、

いつか私も…!)

↑霧島

 

 

 

……約3名は周りの空気を読めずに

妄想を続けていたとか。

 

 

 

 

(提督のために頑張らないとデース!

そして次はワタシのリップに…!)

 

 

 

…訂正、約4名だった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

楽しい時間は長くは続かなかった。

 

 

 

親睦会の翌日。

パナマ運河を太平洋側に抜けたばかりの

原油タンカーが襲撃され、

乗員全員が爆発に巻き込まれ死亡した。

 

 

深海棲艦撲滅に米軍が乗り出すも

敵の反撃を食らい駆逐艦1隻が沈められ、

哨戒機も2機撃墜され敗走した。

 

 

 

 

 

ほぼ同時刻にアフリカのマダガスカル島沖で

多数の深海棲艦が発見され、

近隣国の海軍が合同で掃討作戦を

実施するも被害甚大、戦果はゼロ。

 

敗因は各国の利己的な思惑が

多国籍艦隊の運用を阻害したためであった。

 

 

島の沿岸都市は艦砲射撃を受け

壊滅状態に陥りったものの、

駆けつけた英国海軍の支援を受け

どうにか撃退した。

 

だが結果としては

戦術・戦略的敗北であった。

 

アフリカ地域の海軍兵力は衰退し、

その後はジリ貧となっていくことになる。

 

 

 

 

深海棲艦という存在は瞬く間に全世界へと知れ渡り、各国の情報・軍事機関は躍起になってこれの正体や戦力を把握に努めたがフイに終わる。

 

 

 

 

 

『ゴジラの様にかつての沈んだ船舶の怒りの化身』

だとか

『深い海の底から現れた』

といったガセに尾びれがついた様な

情報しか収集できず、未知の敵と手探りで戦うことを余儀無くされた。

 

 

 

 

 

戦闘を経験した各国海軍将兵の間に、対艦ミサイルの信管を敏感にすれば有効とか第二次大戦時に使われていた旧式装備が効果的のような迷言が広まるが、所詮はそうであってほしいという希望が生んだ偶像だった。

 

 

 

ミサイルも決して効かないわけでは無かったのだが、信管等の調整ミスや着弾角度によっては思ったほどの効果は挙げられなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

日本は東京湾防衛戦(海幕呼称:東京湾不審船正当防衛撃沈事案)以後平和であったが、戦乱の足音は確実に迫ってきていた。

 

 

 

 

 

こめ

 

 

 

 

某所

大広間

 

 

 

 

「…ふむどうしたものか」

 

 

 

深海棲艦の指揮官が呟く。

 

 

 

「指揮官何か不満がおありですか?」

 

「襲撃は全世界に実施中だがどうも

我々の戦力、特に打撃力や速力が人間どもに劣っているようだ」

 

 

 

 

指揮官が提出された襲撃報告書をトントンと叩きながら指摘する。

 

 

 

深海棲艦の大勝利となった初の大攻勢であるが、

人間どもの艦艇はミサイルをこちらの射程外から発射するし機動性も

『第二次大戦頃の艦船の魂が多い』

深海棲艦側よりも高く、砲弾を躱されてしまう場面が見受けられた。

 

 

 

 

「我らは事故で沈んだり沈められた者の集まり、烏合の衆に過ぎん…」

 

 

 

大広間に集う幹部を見てもそれがよくわかる。

 

 

 

下は駆逐棲姫フレッチャーから上は

戦艦・空母クラスと艦種も様々。

 

 

例えば下級棲艦である駆逐イ級を始めとした生物タイプは出撃時には、100mを超える船体へと姿を変え

憎き人間どもを襲撃に向かう。

 

 

 

これもここ最近確立してきた戦法であり幹部棲艦が基地から指揮しているが、いかんせん幹部が直接前線へと向かえないのは歯痒い。

 

 

 

指揮官も出来るなら直接人間どもに

『復讐』してやりたいと思うが、

幹部には船体へと姿を変える手段はまだ無く、ただただ下級棲艦を育成して

送り出したら祈るしかできないのだ。

 

 

 

「誰か妙案は無いものか…?」

 

 

 

指揮官が幹部に尋ねるが皆悩んだ表情で首を捻るだけだ。

 

 

 

ちらと戦艦ル級や空母ヲ級に目をやるがフルフルと首を振り、案は無いとアピールしてくる。

 

 

 

 

(戦艦どもも思いつかぬか。

そういえば元気のいい奴がおったな…)

 

 

 

駆逐棲姫フレッチャーだ。

 

 

 

 

指揮官が目をやれば待っていたかの様に視線を合わせてくる。

まるで他の幹部など微塵にも思っていないような出で立ちを思わせるがそれは彼女の覇気が思わせる錯覚だろう。

 

 

 

「指揮官、私に提案があります!」

 

「フレッチャーだったな。

駆逐隊を率いたそなたの提案を聞かせてもらおう」

 

「はっ!現在我ら駆逐隊は戦力の要でありますがいかんせん『姿を変えられる』人数が限られるため、質より量、つまり駆逐艦クラスしか戦力になっまていないのが実情です」

 

「技術部も重巡や雷巡クラスの変換試験を実施しているが、まだ成功には至っていない。

軽巡を1隻変換する間に駆逐艦が10隻は変換される。

ならばそれを以って飽和攻撃を仕掛け人間の艦隊を壊滅させていけば良いのでは無いか?」

 

 

 

2人の後に技術部の深海棲艦が口を挟む。

 

 

 

「…私もそれを考えました。

ですがそれでは非効率すぎるっ!!

 

 

変換するのには馬鹿にならない資源が費やされているのは技術部もご存知のはず。

 

そこで私としましては、あえて大型艦の……」

 

 

 

 

 

………

 

 

 

 

 

「クソッ!!」

 

 

 

 

自室に戻ったフレッチャーは部屋に入るなり悪態を付く。

 

 

 

 

 

「所詮駆逐艦だから高度な戦略はわかるまい、だと?!」

 

 

 

先の集会で彼女が提示した案は採用されたものの、他の幹部からは散々な評価だった様だ。

 

 

 

 

 

人間に復讐するという共通の目的に集う深海棲艦であるが、内部の派閥争いというものはどこの世界も同じだった。

 

 

 

 

事あるごとに文句を付けてくる戦艦隊、

常に上から目線で駆逐艦を馬鹿にする空母隊。

 

 

 

彼女が率いる先日編成されたばかりの駆逐隊はというと、そんな他の艦種に無駄に敵対心を向ける。

 

 

フレッチャー自身はそこまで気にしてはいないが先ほどの様に文句を言われたり、見下されるとならばこちらもと腹が立ってしまう。

 

 

 

 

(いつもそうだ、駆逐艦駆逐艦と馬鹿にされ戦闘で扱き使われ消耗品の如く捨てられて…。

 

 

『あの戦い』もそうだ!

 

 

私や妹の……妹?

私に妹などいたか?

 

 

まあいい…。

 

 

避雷針よろしく艦隊の先鋒で突入させられ集中砲火を浴びたり、私が沈んだ後に救助に来た妹の……、妹の……。

 

 

 

 

なんだか頭が痛い…。

 

 

 

 

『あの戦い』とはなんだのだ…?

名前も知らないし憶えていないのに、

なにかあったのは憶えている。

 

 

 

妹とは一体…?

妹など私にはいない、はずだ)

 

 

 

 

 

 

謎の記憶と頭痛を振り払うように

フレッチャーは寝床につく。

 

 

 

 

「それよりも次の作戦を練らなくては、次は日本の…」

 

 

 

 

 

フレッチャーはすぐに頭を切り替え

今すべきことに集中する。

 

 

 

指揮官を始め大型の深海棲艦は駆逐艦を見下したりして癪に触るが、

人間どもに復讐するにはお互いに手を組むしかない。

 

 

 

(次は私も出るし指揮に関しては、

今まで以上にスムーズに行くはず。

後は提案した通り大型艦の……)

 

 

 

 

 

フレッチャーはやっと自ら出撃出来ると思うと夜も眠れなかった……

 

 

 

 

 




自衛艦娘を一気に出し切って
ネタを使い果たした感がありますが、
ここからが戦争モノの始まりです。


さて駆逐棲姫フレッチャーちゃん
また登場おひさ。
どうも小者臭がする書き方しか
できませんでしたが本当は
もっと格好良く書きたいッ!



深海棲艦は『変換』と呼ばれる作業により
大型の船体(いわゆる艤装?)に
なるようです。
もしかしたら通常サイズのイ級とかは
可愛いかったりして?!


復讐、第二次大戦頃の艦船…
一体どういうことなのか?


フレッチャーの欠けた記憶。
『あの戦い』『妹たち』
これが意味するものとは?



あまり解説が過ぎるとストーリーが
終わってしまいますので、皆様の
ご想像とご妄想(?)にお任せします。





●最後に

謝罪すべきことがあります!
それは潜水艦『おやしお(親潮)』の
所在についてです。


彼女は練習潜水艦に艦種変更を行い
所在も横須賀から呉になりました。

私はずっと横須賀のままだと勘違いを
していて、横須賀組の一員として
執筆してしまいました。

まぁ呉は艦娘多いしいいよね?
(おやしお乗員の方々すみません…)

元同期の潜水艦乗りに指摘され、
気が付いた次第であります。



次に無線の交話に関してです。
同じく元同期の奴に見てもらったところ
『ダメ、ヤバイ』
と指摘を受けたので、次からは
かなりアバウトかつ分かりやすく
表記していくつもりです。





さて次からは皆大好きな
とある南方の島々が登場!


ビーチ、水着、海、それと敵襲!!


もちろん遊びに来たわけではありません。






「だる~ん…、からのまろ~ん…」

「うっさい、クソ提督!!」

「なっ…軽空母だとっ?!」

「ちっ、硫黄島にスクランブル要請だ!」

「菊池3佐、マーカスを保持せよ。
これは総理大臣からの命令だ!」

「提督、南鳥島を見捨てるのですか?!」

「おい菊池。
目の前に深海棲艦ってヤツがいるぜ、
キモイな…こいつら、ははっ…」



次編、『南の島に散る桜』


「仲間を見捨ててでも、
国民を守るのが軍人だ…。
それが同期の仲間であっても、だ…」

「なっ…駆逐棲姫だとっ?!」







「俺は…、同期を…仲間を救えなかった…」







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ニコニコ動画にこの小説のPVもどきを
テスト投稿しました。
まだ製作途中ですがよろしければどうぞ。


http://www.nicovideo.jp/watch/sm29475806

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