桜と海と、艦娘と   作:万年デルタ

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ようやく存在する全艦娘が見参!


ただし一部のみ!




所属も海幕に変わった主人公たち。




艦娘も全員が揃う親睦会を前に、
ちょっとした騒動が……。







0-13 紅茶の様な甘いキスを君に 【横須賀基地】

あれから一週間後

 

 

 

横須賀基地某岸壁0720i

 

 

 

ホーーーーー…

 

 

 

 

ヒーーーーー…

 

 

 

スッ…

 

 

ホォーーーーーォ…

 

 

 

 

霧島の舷門の妖精が

『送迎』のサイドパイプを吹く。

 

送迎とは所属する護衛隊等の司令、

及び一佐以上の幹部が乗艦する際に

前に言ったサイドパイプを吹いて

出迎えることだ。

この音を2回繰り返す。

 

ホーとヒーとホー、

それぞれ6秒ずつの計18秒

吹き続けなくてはいけないのだが

実際には4秒ずつだったり、

ヒーの後に息継ぎをするのが

慣習となってしまっている。

 

本来は正規分の正規でやらなくては

ならないが、あまり細かく言われる

ことも無いのが現状だ。

 

ちなみに「正規分の正規」とは

海自の用語の一つであり、

文字の通り全部規則通りに

則ってやりなさいよということ。

 

…若年隊員にとっては、

使いどころがわからない

未知の単語の一つである。

 

 

……

 

 

市ヶ谷の査問から一週間。

休養日の次の日からは海上公試へ

向けた打ち合わせと根回しが始まった。

 

ついでに言えば、俺と村上は

『むらさめ』の乗員では無くなった。

 

今の所属は一応海上幕僚監部。

配置は『臨時特殊艦船運用企画作戦

準備室』という東京特許許可局も

霞むような意味不明な怪しい所。

 

そこの室長代理兼運用係長が

今の肩書きというか役職。

 

代理だの運用係長ってなってるけど、

俺士長!下っ端の士長だから!!

 

何すればいいの?!

って初日は思ってたけど、

やってみると案外面白かったりする。

 

関係各所を回ったりで大変だけどね。

 

海幕から言われたのは、

『海上公試を行うにあたり、

特殊艦船室(略した)は必要な物資の

リストアップ、艦娘とその船体の諸元や

操作法の簡単なマニュアル作製、

それから……あーだこーだ』

 

一言で言うと必要な全部の情報を

集めてくれや、モノやヒトは

こっちで準備すっからよ!

 

…という丸投げな命令が海幕長直々に

出ているのであります。

 

休みなんてねーよ!

月月火水木金金で海幕に

詰め込まれて働きっぱなし。

 

 

夜はホテルに泊まれたが、

遅寝早起きだから全然

寝た気がしねーっての。

 

 

 

 

もちろん村上や他の艦娘も一緒だ。

 

 

 

とはいえ業務の合間に話をする程度で、

恒例のセクハラやデートは全く

できなかったのが悔やまれる←するな!

 

 

 

 

 

 

 

とはいえ…

 

 

 

 

目の前に停泊するフネ、

『霧島』のマストを仰ぎ見る。

 

 

 

 

美しい、その一言に尽きる。

 

 

 

 

 

軍艦は兵器、戦うためのものだ。

しかしその兵器から滲み出る美しさ、

無骨な兵器だからこそかもしれないが

機能美や匠の職人技というものに

引き込まれる。

 

 

 

 

スポーツ選手の汗が美しいように、

黒光りする砲身、艦橋。

戦うためだけの存在なのに、

無駄に凝った造り、曲線美。

 

 

砲塔や艦橋の曲線美を一言で

表すとしたら、それはまさしくエロス。

 

 

 

 

 

艦娘が美しいように、船体もまた美しく

惚れ惚れする造形美だ。

 

 

 

 

「…おい何ヨダレ垂らして

ニヤついているんだ?」

 

 

 

声に反応して後ろを見ると村上が

気持ち悪そうな顔で立っていた。

 

 

 

「ん~?

いいよなぁこういった兵器の美しさって、

造形美っていうかエロスっていうか…」

 

 

 

 

「さっさと俺たちも乗艦するぞ。

本来なら俺たちは先に乗って『総監』を

もてなさないといけないんだぞ」

 

 

 

 

「へいへい、わぁってるよ。

…はぁ、惚れ惚れするなぁ~」

 

 

 

 

「…ダメだこいつ」

 

 

 

 

今日は出港はしない、『初度巡視』。

 

 

初度巡視といって本来は地方総監や

護衛隊群司令が年度が変わったり、

人事交代した時に隷下の艦艇や

部隊を見て回るイベントだが、

今回はこの騒動の中心となった横須賀で

例の地方総監南雲さんと海幕長の

代理の偉い人が横須賀組のフネを

見て回るだけだ。

 

 

 

公試は明日から、

今日は昼過ぎには終わる予定だ。

 

 

 

ラッタルを一段一段登りながら

ブレイク(上陸)になってからの予定を

勝手に考え始める。

 

 

 

 

(まずは下宿に帰って、艦これやって…)

 

 

 

「…って日常と変わらんじゃ無いか」

 

 

 

 

「は、何が?」

 

 

 

 

「いや、独り言だ」

 

 

 

 

「あっそう」

 

 

 

 

 

ラッタルを登り切ると、

すでに金ピカの階級章やら制帽やらを

身に付けた幹部の人がたむろしていた。

 

 

 

 

この後俺たちは総監を始めとした

VIPの案内役になっているのだが…

 

 

 

「総監は一体何処に?」

 

 

 

「…あ、そこで妖精と話してるの、

ナグさんじゃね?」

 

 

 

 

「おいっ!総監をナグさんとは

なんだ菊池!もし聞かれたら

どうするんだよ?!」

 

 

 

 

「優しそうだし、

大丈夫なんじゃねーかな?」

 

 

 

 

「…胃薬持って来ればよかった」

 

 

 

村上がため息をつく中、俺たちは

総監に近寄る。

 

 

 

 

「総監、いかがですか。

戦艦に乗ったご感想をお願いします」

 

 

 

「やあ菊池士長に村上士長。

私はどちらかといえば航空主兵主義だが

実際に乗ると、子供の頃に作った

プラモデルを思い出すよ」

 

 

 

 

総監の瞳は子供のように輝いている。

 

 

 

 

「おう提督、ちゃんと働いてるか?」

 

 

 

総監と話していた妖精が話しかけて来る。

 

 

 

彼は霧島の機関長妖精。

総監が主機(もとき、エンジンのこと)の質問をしていたようだ。

 

 

 

「まあまあかな、ここんとこ

寝られなかったけどね」

 

 

 

 

「そいつはお疲れさんだな。

この期間が終わったら一杯どうだい?」

 

 

 

 

「おっ、やっるぅ!

俺に一杯奢らせてくれよ」

 

 

 

 

相手は機関長、人間でいえば幹部クラス。

 

 

初対面の時は身長1mぐらいの

妖精全員に敬語で話しかけて

いたが、彼らから

タメ語でいいと言われてから

フランクに話しかけている。

 

 

 

 

「随分と馴染んでるじゃないか」

 

 

 

 

「はは、おかげさまで」

 

 

 

 

巡視といっても研修のようなものだ。

 

 

 

艦内各部を周り、各部の妖精が

俺たちにレクチャーをしてくれる。

 

 

 

 

霧島の〆は主砲の旋回と対空射撃を

模したデモンストレーション。

 

 

 

俺たちは艦首で見学する。

 

 

 

 

砲塔旋回を知らせるベルが鳴り響き、

金剛型の35.6センチ45口径連装砲を

水圧ポンプが破裂するかのような駆動音を響かせながらゆっくりと海側を向く。

 

 

 

 

「「「おおーっ!!」」」

 

 

 

見学者から歓声が上がる。

 

 

 

 

だが俯角は未だ水平のまま。

 

 

 

 

ウイィーンと前部の砲身4門が

最大仰角33度を目指して突き上がる。

 

 

 

 

ビーッ!ビーッ!ビーッ!

 

 

 

『教練、左対空戦闘ー!

敵艦載機群、30(さんまる)!

一斉打方……ッテェー!』

 

 

 

 

 

もちろん号令だけであり、砲身から

火を吹くことは無いが見学者には

黒煙と火山の噴火のような発砲の

光景が目に浮かんだ。

 

 

 

 

「…霧島は以上です。

次は駆逐艦村雨にご案内します」

 

 

 

 

 

駆逐艦5隻と飛鷹、そして千代田航を

ざっと周り最後は加賀だ。

 

 

 

 

「『かが』と同じ全長だときいていたが、

実際にはこうも広いものか…」

 

 

 

 

見学者からぽつりと言葉がでる。

 

 

 

 

「全長だけでいえばほぼ同じなのですが、

飛行甲板の面積でいえば空母加賀は

約7000平方メートルあり、護衛艦かがより面積はやや狭いのですが、他の母艦の

搭乗員からはとても広いと

言われていました」

 

 

 

村上が話を引き継ぐ。

 

 

 

 

「ミッドウェイ海戦で沈むまで

加賀の飛行甲板面積は国内空母一だった

そうで、他の母艦から来たパイロットが

驚いたという記録が残っています」

 

 

 

 

見学者がペタペタと

飛行甲板を触り始める。

 

 

 

後ろに控える加賀が目を鋭くする。

 

 

 

「飛行甲板はデリケートなので、

あまり触らないようにお願い致します。

見ての通り表面は木材で、ラテックス等を滑り止めとして塗っています。

 

 

着艦時の衝撃にも耐えられるように

厚さも考慮されています」

 

 

 

 

 

こちらの説明に

興味を持ってくれたようで、

見学していたお偉いさんたちが

話に耳を傾けてくれる。

 

 

 

 

 

(よかったー、加賀も

矛を収めてくれたみたいだ)

 

 

 

加賀の飛行甲板って言ったら、

デリケートだから触るなが枕詞だから

うまく誘導してお偉いさんの注意を

逸らすスタイルで場を切り抜ける。

 

 

 

 

「次は艦橋をご案内します。

艦橋といっても一つではなく…」

 

 

 

 

 

目ぼしい区画を周り、今度は格納庫。

加賀さんの大事な場所…!

 

 

 

内部には航空機がズラリと並べられ、

整備作業も不測の事態に備えて

継続されている。

 

 

 

 

整備の邪魔にならないエレベーター付近の一画で、整備妖精や飛行長妖精らが

搭載機の概要を説明する。

 

 

 

 

その間俺たちは専門外なため、

しばし休息の時間。

 

 

 

「ここが加賀さんの大事なトコロねぇ…」

 

 

 

 

意味深な発言で加賀を惑わせる。

 

 

 

「き、菊池士長。

そういった発言は、

ご、語弊を生みます…。」

 

 

 

 

加賀が珍しく動揺しながら

俺に指摘してくる。

 

 

 

(あれ?てっきり大概にしてほしい

とか言われるかと思ったけど、

手応えがねーなぁ…)

 

 

 

 

「はは、ごめんごめん。

でもこう見ると圧巻だな、

帝国海軍が誇った第一航空戦隊の

空母加賀の加賀航空隊。

 

 

翼を休めていても、そこから感じられる

気迫。まるで息を殺して獲物を狙う

ライオンのようだ」

 

 

 

 

零戦21型に99艦爆と97艦攻。

 

 

 

終戦時の機体と比べると旧式なのは

否めないが、ミッドウェイ海戦時は

これらが搭載され飛び立ち、

遠くの空を舞っていたのだ。

 

 

 

「加賀、

コックピットに入ってもいいかな?」

 

 

 

興味が湧き、ダメ元で頼み込む。

 

 

 

「操縦桿やラダーぐらいでしたら動かしてもらっても構いませんが、

スロットルや計器類には

お手を触れないでください。」

 

 

 

 

「ほいほい~」

 

 

 

 

 

キャノピーをスライドさせ、

操縦席に潜り込む。

 

 

 

 

狭いなぁー、現代人の体格だと

ちとキツイなあ。

 

 

 

特に横幅がね。

 

 

 

頭上のキャノピーに

頭が当たりそうな狭さだ。

 

 

 

 

試しに足元のペダルを踏み、

機体後部のラダーをバタバタと動かす。

 

 

 

 

 

小中学生の頃に親に連れて行ってもらった

静岡県の空自の広報館を思い出す。

 

 

 

そこには退役したT-2という高等練習機が

展示してあり、コックピットに入ることも可能で乗り込んで操縦桿やペダルを

一心不乱に動かしては自分の操縦で

機体が動くのが面白くて仕方なかった。

 

 

 

 

現代の航空機はフライバイワイヤ

といって、操縦動作にコンピュータ制御の油圧ワイヤーを介す仕組みが主流だ。

 

 

 

電源が入っていない駐機中は

翼はヘナっと下を向く。

 

 

 

 

「いかがですか菊池士長?」

 

 

 

 

「……快感!」

 

 

 

 

「…しょうがない人です。」

 

 

 

 

子供のようにはしゃぎ、その動作を

履行する機体後部を輝いた目で見る。

 

 

 

 

だが流石に成人した自衛官。

見学者の説明が終わったと気付くと

気持ちを入れ替え、仕事モードに戻る。

 

 

 

 

「次はお待ちかねの発艦です。

皆さまエレベーターお乗りください」

 

 

 

 

 

 

エレベーターといってももちろん

普段使う方ではない。

 

 

 

 

航空機を飛行甲板に

移動する際に使われる方だ。

 

 

 

 

ウイィーン…

 

 

 

ゆっくりと、しかし力強く上昇していく。

 

 

 

ガタンとやや粗い揺れがあり、

エレベーターは停止する。

 

 

 

 

今いるのは艦橋付近の前部エレベーター。

 

 

 

 

「航空機はあちらから出てきます…」

 

 

 

 

俺が言い終わると同時に、

後部のエレベーターから機体が現れる。

 

 

 

 

「これから航空機が2機、発艦致します。

 

 

まずは99艦爆、そして零戦。

もちろん関係各所には飛行許可は

もちろん、通知も出しておりますので

些かパフォーマンスが過ぎるかも

しれませんがご容赦ください」

 

 

 

 

俺が手を挙げ、99艦爆の側にいる

整備妖精がイナーシャを回し

エンジンの始動を助ける。

 

 

 

 

100m以上離れているにもかかわらず、

不安になるぐらいの爆音が

鼓膜を痛めつける。

 

 

 

 

このまま爆発するのではないか。

そんな幼稚な考えが脳裏をよぎる。

 

 

 

数分後機体横に控えていた妖精が

白旗を掲げた。

『発艦用意よし』だ。

 

 

 

 

同時に揚旗線に括り付けられていた

旗流信号が半揚にされる。

 

 

艦橋に視線をやるとさっき説明を

していた飛行長妖精がコクンと頷き、

手元に持ったマイクを口に近づける。

 

 

 

『間も無く発艦致します。

艦橋側、右舷のキャットウォークへと

退避願います!』

 

 

 

だだっ広い飛行甲板ではどっちが右か左か

一瞬悩んでしまう。

 

 

 

あえて艦橋側と注意を入れたのは

慣れない見学者のためか。

 

 

 

全員退避したのを確認し、

俺は飛行長へ手を挙げ、空中で丸を描く。

 

 

『退避よし、かかれ』

 

 

 

 

 

飛行長の手旗が白から赤へと替わる。

『用意よし』

 

 

機体のタイヤを固定していたチョークが整備妖精によって外される

 

 

 

テレビでよく見る巨大扇風機が

回っているかのような音。

 

 

 

 

 

飛行長が赤旗を左右に大きく揺らす。

 

 

 

『間も無く』

 

 

 

半揚の旗流信号も大きく上下に揺らされ、

パイロットに間も無くを伝える。

 

 

 

 

 

米粒ほどに見えるパイロット妖精が

ゴーグルを掛け直したように見えた。

 

 

 

 

 

旗流が一杯まで上げられる。

 

 

 

同時に99艦爆の爆音も最高潮に達する。

 

 

 

 

 

フルスロットルだ。

 

 

 

 

ヴァアアーー…!!

 

 

 

 

 

今にでも走り出しそうな99艦爆を

固唾を飲んで見守る。

 

 

 

 

 

 

 

赤旗が一気におろされる。

 

 

 

 

『発艦』

 

 

 

 

全揚の旗流が一気に降ろされ、

完全に降ろされる前に飛ばんとする勢いで

99艦爆が滑走を始める。

 

 

 

 

 

 

 

空港に行ったことはあるだろうか。

プロペラ機が滑走を始め、

やや遅れてエンジン音が聞こえる

あの場面を見たことはあるだろうか。

 

 

 

 

それが目の前200m以内で起きている。

 

 

 

 

遠距離故の音のラグも殆どなく、

ダイレクトに発進する航空機。

 

 

 

 

キャノピーを開けたままただ

前方だけを見つめ、己の経験と感覚だけを頼りに発艦するパイロット。

 

 

 

 

プロペラ機特有の回転トルクが

機体を回転方向へと誘うが、

パイロットは前を見たまま感覚のみを

頼りに真っ直ぐ滑走させる。

 

 

 

 

目の前を銀翼の馬が走り抜ける。

 

 

 

 

排気口からでる排気と、

滑走する機体から生まれる対流が

見学者を笑うかのように撫でる。

 

 

 

 

 

思わず被る制帽に手を当てる。

 

 

 

 

艦首のエンドまであと僅か。

 

 

 

 

 

飛べるのか?

落ちてしまうのではないか?

 

 

 

 

そんな心配を大空に放り投げるかのように99艦爆は軽々と浮き上がる。

 

 

 

 

よく考えれば今の状態は空荷。

白黒フィルムの記録映画で見るような

爆装はしていない。

 

 

 

 

これもデモンストレーションだったのだ。

 

 

 

 

「…やっるう~♪!」

 

 

 

 

何処かの軽空母の口癖が移ったのか、

無意識に呟く。

 

 

 

 

99艦爆は仕事は終わったと言わんばかりに、東京湾上空へと向かって行く。

 

 

 

 

 

「さて、99艦爆の発艦はいかがでしたか?

次は三菱飛行機が製作した傑作機。

零式艦上戦闘機21型です!」

 

 

 

 

そう言って手を後部に向ければ、

既に暖機運転を終えた零戦が

今か今かと待ちわびていた。

 

 

 

 

 

「諸元や性能は言うまでもないでしょう。どうぞごゆっくり…」

 

 

 

 

零戦に食い入る見学者を見て、

言葉は要らぬと悟った俺は

ゆっくりと裏方へと下がる。

 

 

 

 

「あー!かっこよかったなぁー!」

 

 

 

飛行甲板の隅で控えている加賀に

心の声を吐く。

 

 

 

 

「勿論です、みんな

優秀な子たちですから。」

 

 

加賀も自分の妖精たちが

誇らしいのだろう、優しく微笑む。

 

 

 

 

「着艦はどうするんだっけ?

見学してもらう?」

 

 

 

 

発艦に感動したのはいいが、

この後の予定まで

頭から飛んでしまったようだ。

 

 

 

 

「いえ、そこはまた

別の機会に見てもらう手筈です。」

 

 

 

 

「そうだったっけ」

 

 

 

 

「はい、この後は総監部にて会食、

海上公試の打ち合わせ、他地区の

艦娘との合同親睦会を予定しています。」

 

 

 

 

 

ワーオ。

さすが一航戦、秘書艦業務も抜かりねぇ!

 

 

 

 

ちなみに自衛隊では司令官クラスになると副官という秘書官のような

部下が付けられ、業務を補佐する。

 

 

 

補佐って言ってもスケジュール管理とか

雑用だったり、関係各所との擦り合わせ

だったりと直接業務には

触れたりしないが…。

 

 

 

 

また、副官とは別に一部の部隊には

副長といった司令(官)の業務を代行するちゃんとした存在がある。

 

 

 

 

その辺の違いは何となくしか

ペーペーにはわかんない。

 

 

 

 

会食か…俺テーブルマナーとか

全然わかんないんだけど。

 

 

 

お上品な家庭で無いため会食が

憂鬱でしょうがない。

 

 

 

 

打ち合わせかぁ~…。

ここ一週間嫌という程やったんだよなぁ。

 

 

 

海幕内は勿論のこと、陸空幕にひょっこり行ったり、統幕や内局に顔見知りが

両手じゃ足りないくらいできたっての。

 

 

 

ま、コネを作れたと言えば

悪くは無かったが、いつ使うかは知らん。

 

 

 

 

 

「皆さま、研修は以上となります。

この後は総監部にて昼食になります。

舷門までご案内致しますので、

私の後に続いてください」

 

 

 

 

夜は他の艦娘と親睦会!

それまでは耐えるのだ、菊池!

 

 

 

人生山あり谷あり!

…っていい事ねーじゃんソレ?!

 

 

 

だが今を乗り切れば

薔薇色のドリームが俺を待っている!

 

 

 

 

 

……はず。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

横須賀基地業務隊食堂1730i

 

 

 

 

「もうダメ、死ぬる…」

 

 

 

やっとこさ会食を乗り切ったら

お次は海上公試の打ち合わせ。

こいつの方が厄介だった。

 

 

 

 

燃料やら生糧品見積もりは当たり前、

海域の設定やら通報先への対応

マニュアル、マスコミも呼ぶとかで

広報対応マニュアルやら保全マニュアルの作製の方針と具体案を話し合った。

 

 

 

勿論数時間で進展しないのはわかって

いるから、今回のは概要と方針の決定。

 

 

 

つまりプロジェクトは

始まってもいないって事。

 

 

 

 

鬱だ…自衛隊辞めよ。

 

 

 

俺、無理だよ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どよ~ん……。

 

 

 

「何落ち込んでるのよ司令官!」

 

 

 

元気な声が掛けられる。

だが今の俺には振り向く気すらしない。

 

 

 

 

「俺には提督なんてダメなんだ~。

下っ端だからとかじゃなくて、

根本から無理なんだよ~…」

 

 

 

 

肩からキノコが生えてきそうな声を

机に突っ伏したまま発する。

 

 

 

 

 

ひそひそ…

 

 

 

(これは重症ね…)雷

 

(こんな提督初めて…)村雨

 

(何だか別人みたいね…)飛鷹

 

(メンタルダウンかも…です)高波

 

(何だかかわいそう…)千代田

 

(司令をお助けしなきゃ…)親潮

 

(照月にも何かできないかな…)照月

 

(私の頭脳でも流石に…)霧島

 

 

 

「「……」」村上と加賀

↑打ち合わせにいたから苦労がわかる。

 

 

 

 

「提督~、

他の娘がもうすぐ来ちゃうよー?」

 

 

 

村雨が急かすが、無理な物はむり。

 

 

 

 

(…とはいえ、折角来てくれるんだし

せめて今ぐらいはシャキッとしなきゃな)

 

 

 

ふらりと座っていた席から立ち、

気分転換にジュースで

も飲みに行こうとする。

 

 

 

「18時に呼びに行くんだろ?

それまで少し新鮮な空気を吸ってくる。

ちゃんと戻るから心配しないでくれー…」

 

 

 

 

(((……心配だ)))全員

 

 

 

 

 

 

自販機でストレートティーを買い、

近くの非常階段でちびちびと飲む。

 

 

 

 

「提督って…キッツ」

 

 

 

それが正直な感想。

 

 

 

ネット小説や動画で見るような

戦術バリバリ、用兵のプロみたいな

提督を想像していたんだが、

実際は違うようだ…。

 

 

 

むしろたまにある戦略家や内政が

得意な提督の業務が主になっている。

 

 

 

「仮に業務が同じでも、俺には

内政術や交渉術なんて無いんだが…」

 

 

 

 

そう、俺にはスキルが無い。

 

 

 

あるのはフネで鍛えた雑用ぐらいだ。

あ、反故紙シュレッダーなら

誰にも負けない自信あるぜ!

 

 

 

 

 

「いやいや、

何に使えるんだそのスキルは…?」

 

 

 

 

あ〝ー、折角テンション回復しかけたのにまたドン底だよ。

 

 

 

 

菊池から菊沼に改姓しよっかないっそ。

 

 

 

 

 

 

 

 

カツーンカツーン…

 

 

 

 

「ん?ハイヒールみたいな音だな。

WAVE(女性隊員)か?」

 

 

 

 

非常階段をハイヒールのようなものを

履き、上がってくる音がする。

 

 

 

まあ誰でもいいか…。

 

 

 

 

 

「あー、こんな時は紅茶が飲みてーなぁ!

 

こんなペットの安いやつじゃなくって

爽やかなな茶葉で…、それでいて

香りはフルーティなやつ」

 

 

 

 

何だったかな、そんなリクエストに

ピッタリな茶葉は…

 

 

 

「たしか…」

 

 

 

 

「…それは『レディグレイ』ネー!」

 

 

 

「そそ!それ!

落ち込んだ時に飲んだら

ほっとするんだよねぇ~。

 

 

こんなペットの紅茶じゃなくて、

ちゃんと茶葉から

入れたのが飲みたいねぇー!」

 

 

 

 

さっすがぁ!

この人紅茶に詳しいじゃん!

 

 

 

「今度『霧島』と3人で

ティータイムをするデース!!」

 

 

 

 

 

 

 

……。

 

 

 

 

 

 

 

…ん?

 

 

 

 

 

 

この声、この口調。

 

 

 

 

なんだか、聞き覚えが、あるような…?

 

 

 

 

 

ギギギと音が鳴りそうな動きで

後ろに首を回す。

 

 

 

 

 

「貴方が菊池サンですネー!

噂は霧島から沢山聞いてマース!

 

 

紅茶を愛する素敵な提督と聞いて

いましたが、実際に会ってみたら

もっと素敵デース!!」

 

 

 

 

 

「…えーっと、コンゴウ、さん?」

 

 

 

 

「見ての通り金剛デース!!

よろしくお願いシマース!!」

 

 

 

 

 

これは驚きぃっ!

 

 

 

非常階段を上って来たのは

金剛型一番艦、帰国子女キャラ全開で

メッチャ可愛い金剛ジャマイカ?!

 

 

 

 

(…いや、ジャマイカは違う)

 

 

 

 

セルフノリツッコミしてしまった。

 

 

 

 

ジャンゴウは葉っぱは葉っぱはでも、

『ハッパ』の方のイメージが…。

それにあれ男だし…。

 

 

 

とりあえずこういう時は…

 

 

 

(愛の告白だよねっ!)←?

 

 

 

 

 

「ワーオ、ベリーキュートガール!

 

初めまして金剛、俺は紅茶を愛し、

君のような美しい姫君に仕える為に

生まれたしがない騎士さ!

 

 

さあプリンセス!

手の甲を出しておくれ。

永遠の愛をここに誓おう」

 

 

 

 

突然の金剛ドロップ(違います)に

気分とキャラがブレにブレまくり、

謎の騎士もどきを演じてしまう俺。

 

 

 

 

金剛の前に片膝を着き、金剛が恐る恐る

差し出した手にキスをする。

 

 

 

 

 

チュッ…

 

 

 

 

「やあ金剛。

俺は菊池だよ、よろしくね」

 

 

 

キザなスマイルでイチコロ!

 

 

自己紹介だけ普段のキャラで話す。

 

 

 

「アウアウアウ……アウ」

 

 

 

はれれ?

金剛が顔を真っ赤にして

目を回している?!

 

 

 

 

一体何があったんだ?!

 

 

 

 

ガチャ

 

 

 

「しれ~い!

もう他の艦娘が来てますよ、

早くお戻り…く、だ……?」

 

 

 

 

「提督、早くしないとみんな

まちくたび…れ、て……?」

 

 

 

 

「提督ぅー、女の子を待たすのは

感心しないわよー、もしも

私とのデー…ト、で……?」

 

 

 

 

扉を開けて出てきたのは

霧島と村雨、飛鷹。

 

 

 

 

 

で、今の状況はと言うと…

 

 

金剛、真っ赤に目を回してる。

 

 

俺、片膝を着き騎士スタイル。

 

 

 

 

 

キスは見られてないよ?!

終わって見上げた瞬間だから、

セーフ!危機一髪!

 

 

 

 

 

「…スされたデス…」

 

 

 

 

「え、金剛お姉様…?」

 

 

 

金剛の呟きを疑問に思った霧島が

首を傾げる。

 

 

 

 

「提督にキスしてもらったデーーッス!

 

 

ヒャッホーー!

もう我慢出来ないデース!!」

 

 

 

 

 

びきっ。

 

 

 

 

いまなにか聞こえた。

聞こえちゃいけないおと、

この世から別れを告げるおと。

 

 

 

 

金剛に向いている俺の視線から

明らかに見える、横の波動。

 

 

 

 

みちゃだめだみちゃだめだみちゃ……。

 

 

 

 

「…金剛お姉様ぁ?

司令は何をしたんですかぁ…?

 

 

ぐっ、具体的にっ…

教えてもらえませんかぁ…?」

 

 

 

 

霧島の超ヘビーな声が

俺の耳を突き抜ける。

 

 

 

 

逃げようにも、金剛が俺の両手を

ギュッと握っている為逃げられない。

 

 

 

ついでに俺の体は恐怖のあまり

硬直しているようだ。

 

 

 

 

「だーかーらー!

提督にキスをしてもらったデース!

 

 

ワタシのバーニングラブにさらに

ラブを注入してもらったネー!」

 

 

 

 

…終わった。

 

 

 

 

 

 

ors

 

 

 

 

 

物理的に人生終わった…。

 

 

 

 

「あ、あのなみんな。

キスはしたけども、キスっていっても

手の甲にだな…」

 

 

 

 

言い訳を言いながら、霧島たちの方を

向こうとしたら…向いてしまった。

 

 

 

 

目の前には、

顔は背筋が凍るほど美しい3人。

 

 

 

 

 

だが背後から明らかに見えるドス黒い

オーラが危険だと表している。

 

 

 

 

「いや、これはだな。

ちょっと冗談でだな、

騎士の挨拶を真似しようとだな…」

 

 

 

 

「あ~ら司令ぃ?

司令は冗談でそういったことを

なさるんですかぁ~?!」

 

 

 

「…ていとくぅ~?

私をお嫁さんにしてくれるんじゃ

なかったのぉ~?!」

 

 

 

「…この前のデートから帰ってきて、

私にプロポーズしたのも

冗談ってわけぇ~?!」

 

 

 

 

 

 

 

「「「…えっ?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

3人の声がハモる。

 

 

 

 

「冗談で…?」

 

 

 

 

「いやいやいや…」

 

 

 

「お嫁さん~…?」

 

 

 

「いやいやいや、それはだから…」

 

 

 

「プロポーズゥ~…?」

 

 

 

 

「いやいやいや、あのね

それは愛の別な意味があって…」

 

 

 

 

3人に精一杯の釈明を述べようとする。

 

 

 

 

 

 

 

「……でもさっき提督が

『永遠の愛を誓う』って

言ってくれたデース!」

 

 

 

 

「あ…」

 

 

 

 

金剛がポツリとこぼした言葉で

場の気温が氷点下に落ちた。

 

 

 

 

「「「……」」」

 

 

 

 

つかつかつか…

 

 

 

 

「ひ、ひぃい…?!」

 

 

 

 

「司令の…バカー!」

 

 

 

バッチーン!!

 

 

 

「ヴィッカースッ!?!?」

 

 

 

 

「…提督の、浮気者ォ!!」

 

 

 

パッチコーン!!

 

 

 

「浮気は文化っ!?!?」

 

 

 

 

「よくも私を誑かしたわねっ!」

 

 

 

ベッチーン!!

 

 

 

「実はチョロインッ!?!?」

 

 

 

 

その後も3人のビンタは続き、

俺の顔が赤く膨れ上がるまで

叩かれ続けた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメだよ提督ゥ~!!

そんなに甘えたら困りマース!!」

 

 

 

金剛は横で危険な妄想モードに突入

していたのであった…。

 

 

 

 

 

(金剛お姉様だけ

キスしてもらうだなんてっ…!)

 

 

 

 

(提督のお嫁さんは

私って言ったのにっ…!)

 

 

 

 

(次のデートで私から告白して、

キスをしようと計画してたのにっ…!)

 

 

 

 

 

 

 

(((羨ましいっ…!!!)))

 

 

 

 

 

 

 

3人からの交代ビンタで頬の感覚が

無くなってきた頃、俺はふと思った。

 

 

 

 

(こうやってみんなで騒いで、

楽しんで、一緒にいて。

 

 

 

…たまにビンタされて。

 

 

 

こんな生活も悪くはないかも、な…。

 

 

 

 

 

一緒にいるために、頑張らなきゃ。

 

 

 

仕事の悩みも1人で抱え込まないで、

怒りが冷めたら、

みんなに相談してみよう。

 

 

 

 

みんなで協力して、体制を作って、

誰も沈まない作戦を、するんだ。

 

 

 

 

誰も沈まずに、

深海棲艦を倒して、

そしたら…)

 

 

 

 

 

 

キスの先取りをされた怒りを

にぶつけるしかない3人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(私の司令への…)

 

 

 

 

(提督への気持ちに…)

 

 

 

 

(気付いてリードしなさいよっ…!)

 

 

 

 

 

言いたい本音をビンタという

乱暴な方法でしか伝えられない、

恋の戦いは不器用な戦乙女たち。

 

 

 

 

 

 

そんな彼女たちの気持ちを主人公が

汲み取れる日は来るのだろうか。

 

 

 

 

ビンタはもう嫌だと思いつつも、

艦娘と共にいる日常に

充実と楽しみを感じ始めている

主人公であった…

 

 

 

 

 




私事ですが横須賀の
三笠公園に行ってまいりました。



三笠艦内に感想を書くノートが
置いてあるのですが、毎回
行くと提督がちらほら…!



特に加古ちゃん大人気の模様。
※16年8月2日1600i現在。


三笠は幼少からよく遊びに
行っていますが、いつ来ても
ぐっとくるものがあります。



舷門へ登るとサイドパイプの
『送迎』が鳴り、つい癖で
立ち止まってしまうのは
特定の職業の人間だけでしょう(苦笑)



訪問されていない方は、是非
行ってみてはいかかでしょうか。


日露戦争の海戦の解説や、
当時の世界情勢がびっしり
展示されています。




模型や展示物だけでも見る価値は
ありますので、お気軽に!




欲を言えば、三笠の生い立ちや
日露戦争へ至った経緯。
そして三笠が戦後どう扱われ、
どの様に現在に至ったのか。


その辺も気にしてもらえれば
喜ぶ人もいるのではないでしょうか。




ちょっとだけ難しいことを
考える機会になるかもしれません。




ラムネと東郷ビールは買いましょう!
ケースで買いましょう!



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