「ねえねえ、凛ちゃん!」
「なに?」
「10日って、凛ちゃんのお誕生日でしたよね!」
「そうだけど……」
何故今その話が出てきたのだろう? と思っていると、横から未央が
「その日にニュージェネの3人で何処か行こうって思ってるんだけど、しぶりん何か用事ある?」
あぁ……なるほど。私の誕生日のお祝いか。
「無いよ。遼哉さんがその日は空けてくれたから。ね、プロデューサー?」
「あったりまえよ。せっかくの誕生日に働かせるような野暮な商売やってねぇ。まぁ、誕生日お祝いイベントみたいなのはそのうちするかもだから頭入れといてくれよ」
「分かった」
「そこの2人もな~」
「が、頑張ります!」
「未央ちゃんにお任せってね!」
返事にも性格とかが現れてるのって、面白いよね。
「それで、何処かで待ち合わせする?」
「そうですね……何処がいいでしょう」
「んじゃ、私達に何かと馴染み深い駅前とかは?」
「いいんじゃないか? アクセスもいいし、遠出するならそのまま電車に乗ればいい。色々便利だな」
「それじゃあ駅前に決定!」
(駅前……か)
あそこはプロデューサー……俊輔さんと初めて出会った場所。あそこであの人に出会ってなかったら、アイドルになんてなってなくて。何も見つけられないままつまらない人生を送ってた。
何よりも……恋を知らないままだった。
「じゃあ、9時に駅前ね!」
「うん」
「わかりました!」
「あっ、私これから奈緒と加蓮とTPの仕事だから行ってくるね」
「いってらっしゃ~い」
「凛ちゃん、頑張ってくださいね!」
「お疲れ様」
「楽しみですね~」
「あぁ……楽しみだな」
ニヤリと悪い顔をする遼哉。
「凛を騙すのは悪いとは思うけど、あいつにとっても悪いことじゃないから許してくれよ」
「それにしても面白いこと思いついたね」
「思いつきだけどな。サプライズってのは大事だろ?」
「そういうの素敵です!」
「それで、そっちは大丈夫なの?」
「もちろんだ、任せとけよ。でもいいのか卯月? こっちから提案しておいてなんなんだが」
「いいんです、私はお姉さんですし。それに、そういうのは無しにしてお誕生日は純粋にお祝いしたいですから!」
「卯月たち……まだかな?」
時刻は9時5分。遅れる時は何時も遅れると連絡してくる2人が、今日に限って何も連絡がない。
(サプライズとか……なのかな)
聡い凛は、うっすらとサプライズの存在に気づいた。凛の想像通り、確かにサプライズは存在する。
(何処かに隠れてて驚かすとか?)
しかし、想像しているモノとは全く違う。確かに驚くことではあるが。
「……渋谷さん?」
「え?」
名前を呼ばれ、その相手に驚愕する。凛がその声の持ち主を間違えるはずがない。幾度となく聴き、耳に焼き付いて離れないその声の持ち主は
「プロデューサー? なんで?」
そう、渋谷凛のプロデューサー。武内駿輔その人だ。普段見慣れているスーツ姿ではなく、完全に私服。デニムパンツに半袖の上着、下に着ているTシャツの首元からは鎖骨が覗いている。
(駿輔さんの私服ってこんなのなんだ……。何、あの鎖骨エッチすぎるでしょ。見せてるの、見せつけてるの? そんなの目を惹いちゃうに決まってるじゃん! 永遠に見つめ続けるけど!? てかむしゃぶりつきたい)
どうやら驚きと夏の暑さの相乗効果によって頭がおかしくなってしまったようだ。実際に声に出していたら1発で銀の腕輪が装備出来そうなレベルでヤバいことを頭の中で考えている。
「浅葱……遼哉に頼まれまして……。『たまには買い物ぐらい付き合えよ』と。それでこの駅前に9時に集合と。渋谷さんこそ何故ここに?」
「目的は決めてなかったんだけど、私は卯月と未央と全く同じ待ち合わせを……ん?」
「ん?」
ここまで来て2人は気づく。あまりにも話が出来すぎている。
「電話してもいい?」
「はい。私も訊きたいことは同じでしょうから」
プルルルル……と、通話をかければワンコールで。
『はいはーい! 未央ちゃんだよ! どうしたのしぶりん?』
「『どうしたのしぶりん?』じゃないよ! 謀ったでしょ!」
『私はやめなよって言ったんだけどぉ……遼哉さんが無理矢理に……ヨヨヨ……』
『おい本田ァ!! お前誰よりも乗り気だっただろうが!』
「未央……」
『それに凛、別にお前にとって悪い話じゃないだろ?』
「遼哉さん、どういうこと?」
『これは俺達からの合同誕生日プレゼントだよ。まぁ、個人的なものは別に用意してるんだけどな。駿輔との1日デート権。俺達はもうこれ以上は干渉しない。完全にプライベートなデートだ。だからこそ駿輔には私服で来るように仕向けた』
そこに駿輔が口を挟んだ。
「すみません、渋谷さん。遼哉と話をさせてもらえませんか?」
「いいけど……遼哉さん、プロデューサーが変わって欲しいってさ」
『聴こえてた。変わってくれ』
電話を変わった駿輔は、アイドル達に接している時のような敬語ではなく友としての口調で遼哉に告げる。
「遼哉、手短に頼む」
『分かってるよ』
「お前がこんなことするなんて珍しいじゃないか」
『まあな、悪いとは思ってるよ』
「驚きはしたけど、怒っちゃいないさ。それで?」
『難しいことは言わない。純粋に凛とデートしてやって欲しいんだ。凛からはこんなこと言わないだろうしさ、誕生日なんだしたまには何かしてやろうと思って』
「想像以上でビックリだ」
『お前は俺をなんだと思ってんだよ』
電話の向こう側で苦い顔をしているのが分かる声に、思わず駿輔は笑ってしまった
「悪い悪い。分かった」
『頼むぞ』
「任せとけ」
『ちゃんとお前からプレゼント送れよ?』
「分かってるよ」
『困ったら連絡してくれればいいから』
「りょーかい」
通話を切った駿輔に凛が話しかけた。
「終わったの?」
「はい。渋谷さん」
「? 何?」
そして、駿輔の次の言葉で凛は身体も思考も固まった。
「渋谷さん、デートを……しませんか?」
「へっ!?」
プロデューサーさん、この先は課金しないと見れませんよ?(緑服の悪魔並感)
明日の内に下を投稿します。あっ、ちなみに課金しても(感想をくれても)いいんですよ?