ピピピと目覚ましの音がする。鳴り続ける目覚ましを止めて未だ睡眠への手招きをし続けているベッドから身体を起こす。現在、時刻は午前6時。寝起きでボーッとする頭をユラユラと揺らしながら洗面所に辿り着き、冷たい水で顔を洗った。
「ふぅ……」
顔を洗ったおかげで目も覚めたことだし、朝食の用意をする。朝食はその日の気分によってパンになったりご飯になったりする。今日はパンを食べたい気分だ。
食パンをトースターにセット。焼いている間にフライパンでベーコンを焼く。いい具合に焼き上がったベーコンを皿に移し、オムレツを作る。
チンッとトースターの音がする。トーストにバターを塗り、ベーコンとオムレツと同じ皿に乗せる。そして、予め淹れておいた珈琲と一緒にテーブルに運んで準備完了。席に座る。
「いただきます」
まずはオムレツに手をつける。……うん、いつも通り出来ている。ベーコンも美味しい。ある程度食べ進めた所で、忘れないうちにテレビをつけて今日の天気を確認しておく。今日は快晴。雨の心配もないので洗濯日和になりそう。なら、色々と纏めて洗濯してしまおうか。
さて、今日のスケジュールは……と思いながらスマホの電源を入れて待ち受けが目に映った瞬間。その待ち受けは、俺をイラッとさせたと共にあることを思い出させた。だが、ひとまずは落ち着こう。クールになるんだ。そう、KOOLに。珈琲を飲もうじゃないか。落ち着いている。落ち着いているとも。珈琲のカップが震えているのは錯覚だ。
……待ち受け画面はこうだ。
『待ち受け画面から失礼するゾ〜(謝罪)休みなのに普段通り仕事しようとするなんて律儀スギィ! 自分草いいっすか? こうでもしなきゃ仕事に行きそうだから、こうやって待ち受け画面にぶち込んでやったぜ〜。許してください! オナシャ ス! なんでもしますから!(なんでもするとは言っていない)』
失礼するゾ~botのテンプレを使った煽り文だった。正直スマホを投げるかと思った。だが、ありがたいとは思わないまでもこれのおかげで現状を思い出すことが出来た。
「そっか……休みなんだ……」
普段通りの時間に起きてしまったのは習慣だろう。この時間に起きるのだと、もう身体が覚えてしまっているんだ。
「せっかくの休みだったんだし、今日ぐらいはもう少し寝てればよかったのに」
まあ、起きてしまったものはしょうがない。休日に動ける時間が多いと考えれば幸せだ。この際、休日にやれることをやろう。
「それでは、まずはあのイベントについての書類作成を……って、いやいや」
休みなんだってば。何が悲しくて休みの日にまで仕事をしなければいけないのか。確かにあのイベントが大事ではあるが。それにしたってもっとこう……休みの日にすることが色々あるだろう。例えば……例えば…………あれ?
「……俺って、休みの日に何してたんだっけ」
武内駿輔 25歳 あまりの仕事漬けの日々で、休みに自分がやっていたことを忘れる。
まずくないか。いや、自分の趣味とか忘れてないし……セーフセーフ。
「ん? ならその趣味をすればいいのか」
洗濯などの諸々のやらなければいけないことを終わらせ、でかける準備をする。軍資金は……これぐらいでいいか。必要な物をちゃんと用意したかも確認済みだ。
「よし、行くか」
「あああああああああああ……フルコン逃したぁ……。やっぱり鈍ってるな。前はラストの単一乱打もしっかり突破出来てたんだけどなぁ」
俊輔がやっていたのは、通称洗濯機とも呼ばれる音ゲーだ。レート12.35。仕事で遠ざかる前は大分やり込んでいたので、このレートの高さだ。
お分かりの通り、彼はゲームセンターにいた。仕事が忙しくなる前、休みを普通にとっていた時などは休みの日や仕事終わりによく通っていたのだが、今西曰く『無口な車輪』になりかけてからは遠ざかっていた。だから今日は、せっかくの久々の休み。ストレス発散も兼ねて思いっきり楽しもうという心づもりだった。
ところで、音ゲーは下手すれば発散するはずのストレスが倍率ドンッになる気がするのだが。本当にストレス発散になるのだろうか。特に今回の俊輔のように曲のラストで微妙にタイミングがずれてGOODでフルコンを逃した時とか。作者はキレる(メタ発言)。
「ん~……感覚戻ってきたかな。1回ma〇maiは終わりにして、別のやるか」
「daisuke……ふぅ。疲れた。やっぱりdaisukeキツいな……これぐらいにして……」
「あっ……」
ダン〇ボで世界を救う45°な雷☆なうを踊り終えた俊輔が振り向くとそこには……。
「緒方さん……?」
「あ……あの、えっと……こんにちは」
「あ、はい。こんにちは……」
シンデレラプロジェクトの1人。CIの緒方智絵里がそこにいた。
「あの……緒方さんは何故ここに?」
さっきまで素の口調だったのにも関わらず智絵里の出会った途端敬語になる辺り、彼も筋金入りだ。
(何時もの口調に戻っちゃった……)
彼女は不満そうだが。
「今日はオフだったので……太鼓を叩きに来たんです」
「太鼓でしたらあちらですが……」
ダン〇ボや太鼓などの音ゲーは同じ区画にあるが、置いてある場所は逆方向だ。
「あの……えっと……折角だから色々と見て回ろうかな、と思って」
「そうでしたか」
嘘だ。太鼓を叩きに来たのは嘘ではないが、実際は俊輔を尾けていた。というのも、彼を見つけたのは本当に偶然だった。何時ものように太鼓を叩こうとしていた智絵里はma〇maiの前を通り過ぎようとした。その時だ。
『リハビリのMaster……どれがいいか……』
その声にグルンッと音がしそうな勢いで振り向いた。その声には聞き覚えが……というよりも毎日聞いている。あんな低音ボイス、聞き間違えるはずもない。そして、予想通りそこには自分のプロデューサーである武内Pがいた。敬語が抜けた完全オフ状態の彼が。
(まさか、プロデューサーさんがこんなところにいるなんて……。休みにしたっていうのは聴いてたけど、会うなんて思わなかった。あの時も思ったけど……敬語じゃないプロデューサーさんって、浅葱プロデューサーさんみたいな雰囲気……)
何時ものプロデューサーはクマのような温厚な印象だが、今の彼は素の男の子という感じだ。人見知りをする智絵里からすれば、それは最も苦手とするタイプだ。しかし、彼には恐怖を感じなかった。心根にある優しさが滲み出ているのもあるが、最たる理由は智絵里がプロデューサーである俊輔に心を開き、信頼していることだろう。
(プロデューサーさんもゲームとかやるんだ……)
そこで智絵里は自分たちがプロデューサーのプライベートなことを何も知らないことに気がついた。
(プロデューサーさんのこと、もっと知れるかも……)
そこから彼女は追跡者になり、ここで気づかれたのだ。
「プロデューサーさんもゲームとか、やるんですね」
「はい。昔はよく通っていましたから……」
俊輔は普段の癖で右手を首に回す。
「緒方さんは……太鼓はもうやられたのですか?」
「え? いえ、まだですけど……」
智絵里は俊輔の質問の意図が分からず、頭に?が浮かんでいる。
「私もこれからやろうと思っていた所でしたので……良かったら、ご一緒しませんか?」
まさかのお誘いだった。
「え、あ……は、はい」
智絵里はその誘いに乗った。他のみんなの知らないプロデューサーの姿を見ることが出来ると思ったからだ。
(ごめんね、凛ちゃん。卯月ちゃん。邪魔とかする訳じゃないから)
心の中で謝りながらプロデューサーと並んで太鼓の方へ歩いていった。
「「!?」」
「え、急にどうしたのさ。しまむー、しぶりん」
何処かの事務所のレッスンルームでレッスンをしていた3人組のうちの2人が弾かれたように顔を上げた。
「出番を取られた気がします! 私シンデレラガールなのに!」
「そんなこと言ったら私もそうだよ。誰かがプロデューサーと美味しい状況になってる。行って確認しなきゃ」
「ちょっとー……第六感はいいとしても、次元を歪めようとするのやめなよしぶりーん」
もはや慣れたちゃんみおが冷静にツッコむ。
「未央もこれに冷静にツッコむようになったよね」
呆れ顔をする凛に「あははははは……」と困ったように笑う卯月。
「未央ちゃんには余裕があるのだよ」
「やっぱり彼氏が出来たから?」
「そうそう……って、何言わせるのしぶりん!」
NGは仲良しである。
「プロデューサーさんもマイバチ持ってるんですね」
「はい。やはり手に馴染む方がやりやすいので」
「私も、そんな感じです」
えへへ、と笑う智絵里。
「緒方さんのバチは軽いですね」
「あまり重いとやりづらくて……プロデューサーさんのは先端に重心を置いてるんですね」
「はい。色々試した結果、これが一番やりやすかったので」
「プロデューサーさん、あんなに上手だなんて思いませんでした」
「緒方さんも1度プレイを見たことがありましたが、流石の腕前ですね」
太鼓を数プレイやった後、俊輔と智絵里はゲームセンターをブラブラと目的もなく歩いていた。やはり、共通の趣味があるというのは大きいのか2人の距離は相当近くなっていた。
「あっ……」
「どうか……しましたか?」
「な、なんでもないです」
ふと、声を漏らして智絵里が立ち止まった。声をかけるとまた歩くが、何かに気を取られたようだった。智絵里の見ていた方を見ると……
「クレーンゲームですか?」
「えっと……はい」
「何か気になったものがあるんですね?」
「あれ、なんですけど……」
智絵里が指を指した方へ行く。
「クマ……ですか」
「……はい」
少し大きめのクマのぬいぐるみだった。色は黒で、愛嬌のある顔ではなく、無愛想とも言える目付きが若干鋭い顔をしていた。それはまるで……
「ちょっと……プロデューサーさんに似てるなって、思って……」
そう。俊輔そっくりのクマだった。
「ちょっと気になっただけですから……」
そう言うが、俊輔は見逃していなかった。智絵里が、あのぬいぐるみを見ている時はCIの2人と一緒にいるようなキラキラした目をしていたのだ。
俊輔は無言で100円玉を入れた。
「プロデューサーさん?」
慣れた手つきでクレーンを動かし、普通に取ろうとする。しかし、アームの力はそこまで強くなくポトリと落ちてしまう。
「ふむ……なるほどな」
「あの……」
「まあ、見てなって」
続けて100円玉を投入する。今度は掴もうとはせず、アームでぬいぐるみを倒した。俊輔は気づいていない。集中のあまりに智絵里に対して敬語を使っていないことを。
もう1度100円玉を投入する。アームを倒したぬいぐるみの首元のあるタグに引っ掛け、見事にゲットする。
「ほら」
「あ、ありがとうございます……」
「まあ、なんというか……今日はわざわざ付き合ってくれてありがとうっていうお礼だよ」
「プロデューサーさん……その、敬語が……」
「え? ぬ、抜けてましたか?」
「は、はい」
「……」
困った顔をして手を首に回す。
「今の緒方さんは……プライベートで遼哉、浅葱さんたちと接するような感覚でしたので……知らないうちに抜けてしまっていたみたいですね……」
「そう……だったんですか」
智絵里は嬉しかった。あれだけやっても取れなかった……酔っ払った時以外は絶対に敬語だったプロデューサーが、自分に対しては自然に敬語が取れたのだ。
「プロデューサーさん」
「はい……なんでしょう?」
「敬語……私の時だけ取ることって出来ませんか?」
「それは……」
「普段のお仕事は何時もみたいに敬語は取れないだろうけど、今みたいにゲームをしてる時は……プロデューサーとアイドルじゃなくて、同じ趣味のお友達として……接してくれませんか?」
智絵里は勇気を出した。断られる前提で持ちかけた。
「……分かりました。その代わり、緒方さんも私を『プロデューサーさん』以外で呼んでください」
「えっ……」
「私はプロデューサーではなく、お友達ですから」
「は、はい!」
智絵里の提案は、未だにアイドルとの距離を測りかねていた俊輔にとって、ありがたいものだった。普段の彼女からは、未だに怖がられていると思い距離を感じた。しかし、今の彼女と一緒にいるとさっき言ったとおり遼哉たちと同じ雰囲気に思えるのだ。その証拠に、自然と敬語が抜けていた。
「じゃ、じゃあ……俊輔さん……やっぱり武内にさせてください……」
「名前でもよかったんですが……」
「恥ずかしいです……」
「そうですか……じゃあ、私……俺は智絵里かな」
「呼び慣れないです……」
名前を呼ばれて顔を赤らめる智絵里。
「基本名前呼びだから、なれて欲しい」
「は、はい。武内さんが名前で呼ぶのは私だけ……ですから」
(今のところはですけど。多分……凛ちゃんも卯月ちゃんも……あ、あと奏さんもあっという間に距離を詰めて名前で呼ぶようになるんだろうな……)
「智絵里?」
「な、なんでもないです。そ、そうだ。プロデュ……武内さんはさっきのダンスの……得意なんですよね」
「まあ、得意といえば得意だけど……」
「私もあれ気になってて……私でも、出来ますか?」
「智絵里はアイドルなんだし、コツを掴めばすぐ上手くなると思うよ。例えば……」
仲良く話しながら、ダン〇ボの方に2人は歩いていった。その姿はアイドルとプロデューサーではなく、同じ趣味を持った友達そのものだった。
オチなし。(オチになった気がしない)グチャグチャ。でも、なんとか書き上げた。下書きは、ma〇maiが終わった所まで。その後は全部アドリブ。頭にあるのは大まかな流れだけ。……俺よく書けたな。
次回予告
むぅ~りぃ~
いや、森久保ォ!仕事行くぞォ!的な意味ではなく。ただ単に今の頭では次回の話が浮かばない。流れで行けば、彰のアイドルコミュになるはず。はず。
なんか変だぞここ!とかがあれば感想にお願いします。
それでは、感想評価誤字報告などよろしくお願いします。特に感想とか。主に俺のモチベーションの燃料になります。いえ、気が向いたらでいいですから!