ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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書いたぜ。
ひさびさに筆が乗ったんで連日で書いたぜ。




では91話、始まります。


第九十一話 音楽妖精(プーカ)の少女

ヴェルグンデを攻略した翌日。

学校が終わったキリトはいそいそと帰宅してALOにログインしていた。

今日は新エリアである『環状氷山フロスヒルデ』の攻略に向け、エギルとリズベットの店の奥にある、喫茶店兼バーにて会議を行う予定となっている。

空都ラインで拠点にしている宿屋を後にして、キリトが集合場所へと向かっていると

 

「キリト」

 

聞き覚えのある声が耳に届き、キリトは立ち止まって振り返る。

そこにいたのはウンディーネの青年───ソラだった。

どうやら彼も同じタイミングでログインしていたようである。

 

「よぅ。早いなソラ」

 

「君こそね。よっぽど新エリア攻略が楽しみなんだな」

 

他の誰よりも早くにログインしてるキリトに対し、ソラは少々呆れ交じりの声で言った。

 

「そういうソラだって楽しみなんじゃないか? じゃなきゃこんな早くにログインしないだろ?」

 

「まぁ、そうなんだけどね。ん? あれは……」

 

キリトからの返しに、ソラは苦笑い気味に言うと、ふと視界に映ったものに疑問符を浮かべた。

 

「どうした、ソラ?」

 

「いや、あそこの看板の裏側に誰かいるみたいで。隠れてるのかあれは?」

 

言いながらソラが指さした先には、確かに看板があり、その裏側に誰かが隠れているようだった。

そこにいる人物に、キリトは見覚えがあった。

 

「……あれは、もしかしてセブンか?」

 

「セブン? あの歌姫セブンか? 君が昨日偶然接触できたあの?」

 

昨日、皆がログアウトした後に偶然ではあったものの、菊岡から依頼されていたセブンとの接触を果たし事を、彼は菊岡の話を聞いているソラやユウキ達には知らせている。

なので彼が見間違うことはないとは思っていても、とりあえずソラは確認の問いかけをした。

キリトは頷きながら

 

「あぁ、間違いないよ。おーい、何やってんだセブン」

 

手を振りながら看板裏に隠れている人物に声をかけた。

 

(隠れてる人に呼び掛けるとは……相変わらずこういうところはズレてるな、キリト)

 

あまりにも思い切った行動にソラは苦笑いだ。

すると、看板裏にいた人物───セブンは勢いよく身を乗り出し

 

「ちょっと! 大きな声で呼ばないでよ!」

 

声を上げて抗議する。

まぁ、身を隠しているものに大声で呼びかけたらそうなるのも当然なのだが。

 

「セブン、ここにいたのか」

 

その時、別方向から彼女を呼ぶ声が聞こえ、視線を向けるとそこにはウンディーネの青年。

 

「あちゃぁ。スメラギ君に見つかっちゃった……」

 

バツの悪そうな表情で現れたウンディーネの青年───スメラギを見ながら呟くセブン。

そんな彼女にスメラギは歩み寄り言う。

 

「さぁ、早くこちらへ。今日はミニライブがあると言っただろう」

 

「でも、それってみんなが勝手に決めたことでしょ? あたしは新エリアの攻略を進めたいの! 今は『シャムロック』がクエスト攻略トップを走ってるけど、他の有力ギルド達が追い付いてきてるって聞いてるよ? 噂だと、今頭角を現してる凄腕プレイヤーが……」

 

そう言って返してくるセブンに対し、スメラギは軽くため息を吐き

 

「話は後で聞こう。今は時間がない」

 

言いながらセブンの右腕をつかんで連れて行こうとする。

その様子を見ていたキリトとソラは

 

「おい、あんた。あんまり無理強いするなよ」

 

「事情あるんだろうけど、やり方がスマートじゃないな」

 

そう言って強引にセブンを連れて行こうとするスメラギを引き留める。

すると彼は目をキリト達に向けて

 

「なんだ貴様ら。一介のプレイヤー風情が口をはさむな」

 

言いながら鋭い眼光で二人を睨む。

発せられる圧は、並のプレイヤーならそれだけで崩れ落ちそうになる程だ。

しかしながら、幾多の死線を超えてきたキリトとソラにあまり効果はない。

 

「『シャムロック』のギルドマスターが歌う歌は共存と平和がテーマなんだろ?」

 

「なら、一介のプレイヤーにも口をはさむ権利はあるんじゃないか?」

 

気圧されることなくキリトとソラは鋭い視線で彼を見ながら言う。

それが癪に障ったのか、スメラギは掴んでいたセブンの腕を離し

 

「なんだと貴様ら……」

 

彼の手が腰にある両手剣の柄に延びかけたその時

 

「ああ、もうやめてよ、スメラギ君! わかったから、もう行くから!」

 

彼の前に立ち、セブンはスメラギを諫める。

彼女に諭されたスメラギは武器に伸ばしかけた手を引き、それを確認したセブンは安堵の息を吐いた。

 

「君と、そっちの貴方も恐れ知らずだなぁ。スメラギ君にそんな口を利いたのはあのユージーン将軍くらいだよ」

 

「お褒めに預かり光栄だよ」

 

言われたキリトはどこ吹く風という態度で言い、隣のソラは苦笑いだ。

 

「ふん。さぁ、行くぞセブン。急いでくれ」

 

スメラギはキリト達を一瞥した後、背を向けて歩き出した。

 

「うん……あ! 君、こないだの話、誰にも言っちゃダメだからね!」

 

頷いてスメラギの後に続こうとするも、セブンは思い立ったように振り返り、キリトに向かいそう言った。

この間の話と昨日キリトと話した内容のことだろう。

キリトは苦笑いで

 

「ああ、わかってるよ」

 

そう返す。

するとセブンは笑顔で

 

「じゃぁ、またね、キリト君。そっちの貴方もありがとう」

 

そう告げて先を歩いているスメラギを駆け足で追いかけていった。

その姿を見送りながら

 

「セブンも大変だな」

 

「巨大ギルドのリーダーでアイドルと研究も掛け持ちしているなら仕方ないんじゃないか? それよりキリト。彼女と何か話したのか?」

 

呟くキリトにソラは問いかけた。

対するキリトは

 

「ちょっとな」

 

そう言って言葉を濁す。

その様子と、先ほどのセブンとのやり取りで何かを察したのか、小さく笑って

 

「そうか。なら聞かないことにするよ」

 

「助かる。じゃ、そろそろ行こうぜ」

 

そう言ってくれたソラにキリトは礼を言いエギルとリズベットの店へと歩き出し、ソラもそのあとに続いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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フロスヒルデ攻略のために集まったキリト達は、新エリアを探索した時の情報をすり合わせてどこから攻略するかを話し合っていた。

高度制限があるため飛んでいける場所も限られている事も考慮し、とりあえずは転移門付近から攻略を進めていこうとクラインが提案してくる。

それに加え、エリア中央付近にある怪しげな祭壇も調べてみようということになり、皆それぞれ攻略のために買い出しや武器のメンテを行おうということになり店を後にしていく。

キリトとソラも自分達に出来る準備をしようと考え、店を出ようとした時

 

「キリト、それにソラ。ちょっといいか?」

 

店の店主である褐色のノーム───エギルに呼び止められた。

疑問符を浮かべながら二人はエギルを見て

 

「ん? どうしたエギル?」

 

「何かありましたか?」

 

そう問いかけると、エギルは少々困ったような顔をして

 

「いや……さっきから店の外から中を見てるのがいてな」

 

言いながら扉の方を親指でクイッと指さした。

直後、扉が開き

 

「おお! 工房の中に喫茶店があるなんて珍しいわね!」

 

羽飾りをつけた銀髪の少女が興奮した様子で言いながら入ってきた。

 

「うちに何か用かい? つぅかどっかで見たような……?」

 

「ねぇ、マスター。キリト君って知らない? スプリガンの子なんだけど。あと名前は知らないけど、ウンディーネのお兄さんも」

 

「セブン?! なんでここに……」

 

訝しむエギルに尋ねている少女───セブンを見てキリトは驚きの声を上げた。

声には出さないがソラも驚いている様子だ。

まさか話題の少女がこんな場所に来るとは思ってなかったから当然であるが。

 

「あ! やっと見つけた! 貴方達のこと探してたのよ!」

 

「探してたって……君一人でか? こんなところに来て大丈夫なのか?」

 

「お付きの人はどうしたんだい? というより今日はミニライブを予定してたんじゃ?」

 

「おいキリト。こんなところとはなんだ、こんなところとは」

 

キリトの言葉に苦虫を噛み潰したような顔で言うエギル。

そんな彼を余所に

 

「ううん一人で来たの。貴方達に会うためにね。ミニライブはスケジュール調整して夜行うことにしたから大丈夫よ」

 

「そうなのか。俺も君とは話をしたいと思ってたんだ」

 

「キリトはともかく、僕にもって言うのはよくわからないが……」

 

セブンから発せられた言葉にソラは疑問符を浮かべている。

偶然とはいえ最初に接触し、ある程度会話をしたキリトだけならまだわかる。

にもかかわらず、彼女はソラのことも探していたというのだから疑問に思うのも当然だろう。

そんな彼の疑問に応えるように

 

「あら、そうなの? あたしももっとキリト君と話してみたいと思ってたの。ウンディーネのお兄さんの方もさっきので興味が湧いたの」

 

彼女はそう返してきた。

 

「さっきの……あぁ、君の側近に対して無礼な態度を取っちゃったからかな」

 

「それは気にしなくていいわ。それ以上に、あのスメラギ君に睨まれても平然としてたんだもの。大概の人は脅えて委縮しちゃうのにそうならなかったんだから興味が湧くのも当然だと思わない? あ、貴方には名乗ってなかったわね。あたしはセブン。貴方の名前も教えてくれない?」

 

「僕はソラ。なるほど、ああ言った視線や威圧には慣れてるだけだよ。それに、彼自身本気で圧を出してるようには見えなかった」

 

名乗ってくるセブンにソラも名乗り返しながら言う。

 

「ソラ君、か。いいネームね。謙虚なのも好感が持てるわ。それよりキリト君。この前の話、誰かに話しまわったりしてないよね? もちろんソラ君にも」

 

「あぁ、話してないよ。ソラにも誰にも。そういう約束だからな」

 

言いながらソラに目を向けると、彼は頷いて見せる。

元々ソラはそういった秘め事などを自ら根掘り葉掘り聞いたりはしない性格だ。

先程も聞かないことにするとキリトに公言もしていた。

 

「約束……ふふ、そうね」

 

彼の言葉を聞き、セブンは呟き小さく笑って見せる。

そんな彼らのやり取りを今まで見ていたエギルは

 

 

「お、おいキリトよ……この子はまさか……」

 

恐る恐るキリトに訊ねてきた。

まぁ先程ソラに名乗っていたのだからエギル自身も察しはついているだろう。

しかし、やはり聞いてしまうのは人情だ。

 

「あぁ、街でちょっとな……悪いがエギル、この事は誰にも言わないで欲しい」

 

「確かに大事になるからな。特にクラインが黙ってないだろ。了解した、黙ってるよ」

 

キリトからの願いにエギルはやれやれと肩を竦めながら了承する。

 

「それでセブン。早速なんだけど、俺は君の博士としての───」

 

気を取り直し、キリトがセブンに質問を投げかけようとしたその時だった。

突然、店の外から複数人の声が響いてきたのである。

 

「店の外が騒がしいですね」

 

「おいおい、『シャムロック』の奴らに嗅ぎ付けられたんじゃないか?」

 

ソラとエギルが外に続く扉を見ながら言う。

するとセブンはため息を吐いて

 

「どうやらそうみたいねぇ。今日のところは退散するわ。また遊びに来るわね、キリト君、ソラ君」

 

そう言いながら扉の方へと歩いていく。

 

「あ、あぁ。ぜひまた来てくれ。な、ソラ?」

 

「あぁ。いつでも歓迎するよ」

 

そんな彼女にキリトとソラはそう言うと、セブンは振り返り

 

「じゃぁね、ダスヴィダーニャ~!」

 

笑顔で言って店から出て行った。

それを見送った直後、キリトの元にメッセージが届いた。

送り主はユウキのようで、内容は買い出しや武器のメンテが終わった事を知らせるものだった。

内容を確認した三人は工房側につながる扉へ向かい、開いて中に入るとそこにはすでにユウキ達が準備を終えて待っていた。

 

「あ、来た来た」

 

「すまん。待たせた」

 

「私達もさっき準備が終わったとこだよ、お兄ちゃん。じゃぁ、早速フロスヒルデの攻略に行こうよ」

 

「とりあえず、転移門付近のダンジョンから攻略だったね」

 

「あぁ。よし、フロスヒルデの攻略開始だ!!」

 

『おおー!』

 

そうキリトが号令をかけると、ユウキ達も元気よく声を上げる。

そして転移門へと向かい、フロスヒルデの本格攻略へと乗り出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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フロスヒルデ攻略開始から数日後。

キリト達はエリア内にあるダンジョンの攻略を行っていた。

最奥で待ち受けていたボスを倒し、奥にある部屋で発見した宝箱を彼らは期待に胸を膨らませて開いてみる。

ガチャリというSEの後、開いた宝箱の中身を見てみると、そこにあったのはレアアイテム───ではなくただの武具強化素材だった。

 

「っかー! まぁた強化素材かよ! これで何度目だ?!」

 

額に手を当て言うのはクラインだ。

今回挑んだダンジョンは割と難度の高い場所で、クリア報酬もかなりのものと期待していたのだろうから気持ちは察して余りある。

 

「普通、こういったダンジョンの初回アイテムはかなりレアなはずよね?」

 

「あぁ。にもかかわらず、クリア報酬が強化素材数個となれば、結論は一つしかない」

 

「……また『シャムロック』に先を越されちゃったね」

 

シノンの言葉にソラとキリトは苦い表情で言う。

そう、彼らはここ数日、フロスヒルデの攻略で『シャムロック』に先を越されていたのだ。

挑んだダンジョンは必ずと言っていいほど先に攻略されており、目ぼしいアイテムもほとんど持ってかれている。

 

「まぁ、仕方ないわよ。アタシ達と巨大ギルド『シャムロック』とじゃ勢力に差がありすぎるわよ」

 

「あたし達みたいな一般プレイヤーじゃ、かなり不利ですもんね……」

 

リズベットの言葉に、シリカが相棒の小竜を抱きながら言う。

彼女らの言うように、複数のプレイヤーでパーティを組んでるキリト達と巨大ギルド『シャムロック』とでは大きな差があるのは確かだ。

数多くの構成員を誇る『シャムロック』はその圧倒的人員で様々なダンジョンを攻略して回っている。

そしてそれだけでなく、情報網もかなり手広いようで、キリト達が1の情報を入手する間に彼らは10の情報を入手して行動する。

行動範囲と情報の収集力。

ギルドと一般パーティではどうしてもこの差は大きく出てしまうものだ。

 

「どうするキリト? 今からでもギルド作って他に仲間を集めてみる? それか、自分の選んだ種族につくとかさ?」

 

そう言ってリズベットはキリトを見た。

当のキリトは苦い表情をしている。

無理もない。

彼はギルドというものにいい思い出がないからだ。

その最たるは旧SAOに囚われていた時に起こったある事件が関係しているが、リズベットはその詳細は知る由もない。

知っているのは当事者のユウキと、間接的に関わっていたソラやクラインにエギル。

そしてキリトからそのことを教えてもらっているアスナだけだ。

更にギルドに対してはユウキもあまりいい印象を持っていない。

彼女もキリト同様に旧SAOにてソラが副団長をしていた『血盟騎士団』の団員であった男にストーカー紛いな事をされ、挙句逆恨みで殺されかけた事がある。

そのこともあり、キリトはギルドに入ったり作るという事に抵抗があるのだ。

 

「……まぁ、みんながそうしたいなら止めないけどさ……」

 

苦い顔のまま言うキリト。

それをリズベット達は黙ったまま次の言葉を待っている。

少し間を置き、キリトは首を振って

 

「いや、やっぱり嫌だ! 俺はみんなと一緒に攻略したい! どうしてもと言うなら、ギルドくらい作ってもいいけど……」

 

「あっははは! やだなキリトってば冗談よ!」

 

そう言葉を紡いでいると、リズベットが不意に笑いながらそう言った。

呆気に取られるキリトを余所に、他のみんなも苦笑いしている。

 

「そんな顔しないでよ。詳しくは知らないけど、キリトがギルド嫌いなのは知ってるからさ。ごめんね、ちょっとからかっただけよ」

 

「んな……脅かすなよ!」

 

そう言ってくるリズベットにキリトはジト目で睨みながら講義した。

当のリズベットはなおも笑いながら

 

「キリトのそんな顔見られて、冗談言った甲斐あったわ」

 

そう返してくる。

キリトは未だ不服そうだが、内心ではホッとしていた。

 

「アタシ達はアタシ達のペースで仲良くやりましょ?」

 

「はい、シャムロックに勝てなくてもあたしは構いません。みんなでこうやって仲よく遊べれば、それで充分ですから」

 

「リズ……シリカ……ありがとう」

 

二人の言葉に、キリトは笑みを零しながらそう返す。

因みに余談だが、冗談とはいえキリトのデリケートな事に触れたという事でリズベットは後にユウキから少々お説教を食らったのは別の話だ。

その後キリト達は街に戻り、今日はここまでという事にしてお開きとなった。

皆がログアウトする中、キリトとソラもログアウトしようとメニューを開いたその時。

キリトの元にメッセージが届く。

送り主はエギル。

彼は今日は店を優先させるとのことで今回の攻略には参加していなっかった。

送られてきたメッセージには『お前さんとソラに客が来てる』と表記されていた。

それを見て、二人は客というのが誰なのかを察し、エギルの喫茶店へと向かうことにする。

店に入るとエギルが工房のカウンターから

 

「来たか。二人に客だ。カフェスペースで待ってもらってるから行ってくれ」

 

そう言ってきた。

二人は頷いて奥のカフェスペースへと入って行く。

中に入ると、カウンター席の一つに見覚えある銀髪の少女が座っていた。

 

「あ、キリト君にソラ君!」

 

「やっぱりセブンか。今日も『シャムロック』の取り巻きを捲いてきたのか?」

 

「うん。でもすぐに戻るつもり」

 

「すごい行動力だね……」

 

「そうかなぁ? そんなことより二人ともこっちこっち!」

 

予想通り来客はセブンだった。

彼女は楽しそうに二人を手招いて席に座るように促した。

言われるままに二人はカウンター席に座ると、セブンはウキウキしたように

 

「さぁて、何を注文しようかなぁ」

 

メニューを見ながら飲み物を選んでいる。

こうしていると世間を賑わしている天才化科学者もしくは歌姫というよりは年相応の少女と思えてキリトとソラは微笑ましく思った。

NPC店員に飲み物を注文し、楽しみそれを待つセブン。

そんな彼女に

 

「なぁ、セブン。君が前にインタビューで言っていた事について聞いてもいいか?」

 

キリトは問いかけた。

するとセブンは嫌な顔一つせず

 

「いいわよ。セブンファンによる質問コーナーってやつね?」

 

そう言って返してきた。

 

「いや、博士としての君に聞いてみたいんだ」

 

「あ、そっちの方ね。うん、別にいいよ」

 

承諾の返答を聞いて、キリトは一呼吸置き

 

「君はあの……茅場晶彦の作り出したVR世界を否定できないと言っていたけど、あれはどういう意味だったんだ?」

 

そう訊ねた。

実は3日ほど前にまたしても七色博士の特集番組が報道されていたのだ。

そこで彼女は茅場晶彦について質問され、キリトが言うように答えていたのである。

その番組はキリトだけでなくソラも見ており、彼自身も疑問には思っていたようで、セブンがどう返してくるのか気になっている。

 

「技術者として、アレを作り出したことは素晴らしいって、素直に答えたつもりよ」

 

そう返してくる。

キリトもソラも表情は崩れず真剣なままだ。

 

「残念ながら、あたしはSAOにログインすることは出来なかった。でも、SAOのシステムを継承したこの世界の技術もすごいとわかったわ」

 

「それは、どうすごいと思ったんだい?」

 

今度はソラがセブンに問いかける。

 

「現実で不可能なことを可能にする……それはこのVR世界でのみ感じられる疑似体験の粋だよ。つまり、この仮想世界は今後、現実世界も超越する可能性を秘めてるの」

 

そう言ってるセブンの表情は何処か楽しそうだ。

 

「言いたいことはわかる……確かに俺も技術としては素晴らしいと思ってる」

 

「でも、彼のしたとこは許せない。キリト君とソラ君はそう言いたいんだよね?」

 

「そうだね……君の言うとおりだよ」

 

セブンの言葉に対し、ソラがそう返す。

彼女はいつの間にか運ばれてきた飲み物を飲みながら

 

「だからね、あたしはこの技術を研究の糧にしたい……それだけよ」

 

はっきりとした口調でそう言った。

 

「七色博士の研究? 君は何を研究してるんだ?」

 

キリトに問われると、セブンはカップをテーブルに置いて

 

「『クラウド・ブレイン』」

 

そう答える。

聞き覚えのない言葉に、キリトもソラも疑問符を浮かべて

 

「クラウド・ブレイン……?」

 

「それはなんなんだい?」

 

「ふふ。二人には言っても無駄だから言わなーい!」

 

訊ねてくる二人に、セブンは悪戯っぽく笑ってそう返してきた。

するとキリトは慌てた様子で

 

「ええ?! ここまで言っといてそりゃないだろ? 俺は意外に理解のある方だと思うぜ?」

 

そう言うも、セブンは両手の人差し指を交差させてバツの字を作り言う。

 

「だったら尚更ね。研究はアイデアが全てよ。パクられたくないもん」

 

「墓穴だな、キリト?」

 

「ぐぅ……確かにセブンの言うとおりだな」

 

ソラに揶揄い交じりの口調で言われ、うなだれるキリト。

その様子を見てセブンはクスクスと笑いながら

 

「ふふふ。そんなに気になるなら、いつかあたしの研究チームを受けてみて。チームリーダーが自ら推薦してあげるから。なんならソラ君もどう?」

 

そう言ってくる。

 

「博士直々だなんて光栄だな」

 

「いや、僕はキリト程こういったことに詳しくないからね。それに目指すものは決めてあるから」

 

「ふぅん。確かにソラ君って研究とかのイメージないもんね。ソラ君は何を目指してるの? 差し支えなければ教えてほしいな」

 

彼の目指すものに興味惹かれたのか、セブンはソラに視線を向けて訊ねてきた。

ソラは少し迷うも、特に問題はないと思い応えることにする。

 

「僕はメンタルカウンセラーを目指してるんだ。絶対に資格を取る気だよ」

 

「へぇ。それってすごいね。医療系の資格ってものすごく難しいのに。でも、それだけ本気で目指してるならきっと届くと思うわ」

 

「ははは。ありがとう」

 

感心したように言うセブンにソラは笑顔で返した。

するとセブンは座っていた席から降りて

 

「さてと。そろそろ戻らないと、ギルドのみんなが騒ぎ出すだろうし。あ、そうだ」

 

何かを思い立ったようにセブンはキリトとソラの二人を交互に見て

 

「あたしからも二人に質問! 君たちってOSSは持ってるの?」

 

そう問いかけてくる。

キリト達は一度顔を見合わせて

 

「いや、俺は持ってないよ。特に作る気はないし」

 

「僕は持ってるけど……それがどうかしたのかい?」

 

彼女の質問に対して応えた。

するとセブンは一瞬何かを考える素振りを見せるも

 

「んーん、ちょっと気になったの。でも残念……ソラ君のOSS欲しかったなぁ……」

 

かぶりを振ってそう言う。

もっとも、最後の部分は小声でキリト達には聞こえなかったようだ。

疑問符を浮かべる二人をセブンは気にするでもなく

 

「いつかキリト君が現実世界のあたしの研究所に来るのを楽しみにしてるね。それと、ソラ君の目標も応援してるね。それじゃ、ダスヴィダーニャ~!」

 

そう言葉を残し、扉を開けて店を後にする。

残されたキリト達は、最後になぜセブンが彼らにOSSを所持しているのか聞いてきたのが疑問だったが、特に重要ではないだろうと判断し、彼らもその日はログアウトすることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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更に数日後。

本日もキリト達はフロスヒルデ攻略に乗り出していた。

しかし、やはり度のダンジョンも『シャムロック』に先を越されており、目ぼしい成果を上げられずにいる。

今回挑んだダンジョンも、かなりの難易度であったにも拘らず、クリア報酬は強化素材数個だった。

流石にここまで先を越されれば楽しんでゲームをしようと心がけていてもげんなりしたくなるのは人情と言えるだろう。

そんなどんよりした雰囲気でボス部屋からキリト達が出てきたその時

 

「……レイン。そこにいるんだろ?」

 

ボス部屋近くの岩陰に目を向けてキリトが言うと、そこから赤髪のレプラコーンの少女───レインが姿を現し

 

「イヤ~、流石キリト君。あっさりばれちゃった」

 

言いながら彼女はキリト達の元へと歩み寄ってくる。

 

「もしかしてお邪魔だった?」

 

「いや、そんな事はないぞ」

 

遠慮気味に訊ねてくるレインに、キリトはそう返す。

その様子を見ていたジュンは

 

「なんか、もうストーカーっていう距離感じゃないよな」

 

呆れたような表情で言う。

それに同意するようにシリカもクスクスと笑いながら

 

「確かに。もう普通にお話したりもしてますし、これじゃ普通のお友達ですね」

 

そう言った。

それを聞いたレインは何処か照れた様子で

 

「えへへ……そう言ってもらえると嬉しいな」

 

言いながら頬を指で掻いている。

 

「で、どうしたの? ボク達に何か用事があるんじゃないの?」

 

「あ、うん。キリト君達、最近クエストの報酬取り逃してるんでしょ? それってあの『シャムロック』に先手を打たれてるからなんだよね?」

 

ユウキに問われたレインはそう言ってくる。

 

「大半がそうだな……」

 

レインの言葉にキリトが難しそうな表情で返した。

ユウキ達も苦い表情をしている。

みんなで楽しむとはいっても、やはり競争に負け続けたら悔しいのは変わらない。

そんな彼らの様子を見て

 

「VRMMOのギルド間競争はやっぱり頭数がものをいうからね。あれだけの巨大ギルドを出し抜くのは中々難しいと思うよ。それにあの人達、常にレイドクラスの人数で徒党を組んでるしね」

 

レインはそう言ってくる。

MMOでのギルド間競争は彼女の言うように頭数の多い方が圧倒的に有利だ。

人数がいればそれだけ行動できる範囲は広がり、情報も集めやすい。

そのことは今まで様々なMMOをプレイしているキリトには身に染みていることでもある。

 

「確かに、そもそも人数が違うからな……」

 

「じゃぁ、ここは一つレインちゃんが協力してあげちゃおうじゃないの!」

 

『え?』

 

唐突なレインの申し出にキリト達は思わず間の抜けた声を出す。

それを気にするでもなく、レインは続けて言う。

 

「最近キリト君達に同行させてもらってるおかげで、レアな素材やアイテムを色々ゲットできてるからね。これはほんのお礼だよぉ」

 

「何するつもりなんですか?」

 

シリカが疑問符を浮かべながら訪ねると、レインは不敵な笑みを浮かべて

 

「『シャムロック』の次の動きを調べて、彼らよりも早く動くという寸法よ。むこうが頭数でもの言わせてるなら、こっちはそれを予測するしかないでしょ」

 

そう言って返してくる。

それを聞いたキリトは少々驚いた表情で

 

「確かにそうだが……そんなことできるのか?」

 

問い返す。

するとレインは笑顔で

 

「うん! レインちゃんにお任せあれ~♪ 今度連絡するから、じゃぁねぇ~! ダスヴィダーニャ~♪♪」

 

そう言いながら背を向けて走り出そうとする。

が、キリトは慌てて

 

「おいおい! 俺はまだお前の連絡先知らないぞ!」

 

そう言って彼女を呼び止める。

レインはピタリと足を止めて振り返り

 

「あっ……そ、そうだね。じゃぁ、えぇっと……いいのかな?」

 

言いながらキリトの元まで歩み寄る。

何処か落ち着かず、ソワソワとしているレイン。

 

「あなたねぇ……ただフレンド登録するだけだってのに、何モジモジしてんのよ?」

 

そんな彼女の様子を見てリズベットが呆れたように言ってきた。

 

「シャイなんだろ、レインちゃんは。おめぇさんと違って───あだぁ!!!」

 

揶揄い交じりでクラインが言ってきたが、途中で彼の腹部にリズベットの鉄拳がめり込み見事に言葉を遮った。

 

「わぁるかったわねぇ? どうせアタシは図太いわよ!」

 

「今のはクラインさんが悪いね」

 

「そうね、クラインが最低だわ」

 

腕を組みながら言うリズベット。

それに同調するようにリーファとシノンがウンウンと頷いている。

それを見てソラやアスナたちはやれやれと肩を竦めていた。

 

「でも、どうしたの? そんなに照れることないのに?」

 

改めてユウキが問いかけると、レインは一層照れた様子で目を逸らし

 

「えぇっと……だってその……これってなんだかホントの友達みたいで緊張しちゃって……」

 

言いながら俯いてしまった。

そんな彼女にキリトは

 

「俺たちはもう……友達だろ?」

 

そう言葉を告げる。

その言葉が耳に届いたレインが顔を上げてまっすぐに前を見ると、キリトは笑顔で彼女を見ていた。

彼だけではない。

ユウキやソラ、アスナ達も同様にレインに笑顔を向けている。

 

「あはは……そっかぁ……みんな、ありがとう……えへへ……」

 

レインは照れたまま、それでも心の底から嬉しそうに、キリト達にそう告げた。

その後、彼らはフレンド登録を済ませて街に戻り、レインが情報を掴んでから攻略に乗り出そうという事なり本日はお開きとなった。

 

 

 

 

 




少女が得た情報を元に、少年達は再度フロスヒルデの攻略へと乗り出す。

果たして彼らはかの巨大ギルドを出し抜けるのか?


次回「シャムロックとの攻防」

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