ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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さて、ロストソング編も次のエリア攻略に移ります。
ここからあの子が本格的に登場しますよ(°▽°)




では89話、始まります。


第八十九話 レイン

ヴォークリンデがキリト達によって攻略され、次のエリアである『砂丘渓谷ヴェルグンデ』が解放されてから2日が経った。

当初の予定通り、キリト達は転移門付近の遺跡や洞窟から攻略を開始し、その過程で二つのアイテムを入手した。

その二つはパズルのように組み合わせる事が出来、組み合わせてみたところ、銀色の鍵に変化した。

この鍵を使い入れるダンジョンに目星を付け、強力なモンスターも出てくるだろうと考えた彼らは一旦街に戻って準備を整え、翌日挑もうという事になり、各々の用事もあるという事で本日は解散となった。

今現在残っているのはキリトとユウキ、そしてリーファの3人だ。

先程まではソラとアスナもいたのだが、アスナは提出用レポートの作成があり、ソラはそれを手伝う事になっているとのことでログアウトしていった。

2人は恋仲であると同時に同じ大学に通っており、専攻しているのも同じ精神医学。

なのでソラが自分の課題やレポートをこなしつつ、彼女を手伝っているという。

 

「さて、残ったのはボク達だけかー」

 

「どうするの?」

 

「うーん。酒場のクエストくらいなら熟せそうだけど、ヴェルグンデを回ってみるのもいいな」

 

考える素振りを見せてからキリトは言う。

そんな彼を見て

 

「ホント、お兄ちゃんってゲーム好きだよねぇ」

 

「キリトらしいって言えば、そうなんだけどねー」

 

リーファが呆れ混じりに、ユウキはクスクスと笑いながら言う。

とりあえず3人でフィールドに出る事に決め、ヴェルグンデへと転移し、いざ探索を開始しようとした─────その時だった。

 

「きゃあぁぁぁ!!」

 

3人の耳に悲鳴が届き、キリト達は頷き合うとすぐ様翅を広げ、悲鳴のした方へと飛んでいく。

辿り着いた先でキリト達が目にしたのは、3匹のハーピィに囲まれ、尻餅をついている長い赤髪の少女だった。

全身の至るところにダメージエフェクトが浮かんでおり、HPもレッドゾーンへと突入している。

 

「お兄ちゃん、助けないと!」

 

「ん? アレは……」

 

助けに入ろうと剣に手を伸ばしかけるも、ある事に気付いたキリトは動きを止める。

そんな彼に

 

「ちょっとキリト! なにボケっとしてるのさ!」

 

「そうだよ!早く助けないと、あの()のHPなくなっちゃうよ!!」

 

ユウキとリーファが呼びかけてきた。

2人は既に剣を抜いている。

 

「す、すまん。俺は正面の、リーファは右、ユウキは左のハーピィを頼む!」

 

「らじゃ!」

 

「オッケー!」

 

慌ててキリトも背の剣を抜き、指示を出して正面のハーピィへと駆け出した。

ユウキとリーファも自分の標的に向かって駆け出していく。

彼らの接近に気付いた3匹のハーピィは叫び声を上げながら、その身を翻しながらキリト達へと向かっていった。

キリトは自身に向かってくるハーピィの翼椀による攻撃をヒラリと躱し、背後に回り込んで斬撃を放つ。

それはハーピィの片翼椀を斬り落とし、ハーピィは飛ぶ事が出来なくなり地面へと落下。

その隙を逃さずキリトはジャンプし、地面で踠いているハーピィ目掛けて剣を逆手に持ち、真下に勢いよく突き出した。

それはハーピィの体躯を貫き、一気にHPを刈り取っていく。

 

「ギィイィィィ!!」

 

断末魔を上げながら、ハーピィは爆散しポリゴン片となっていき、それを見届けたキリトはユウキ達の方へと視線を向けた。

彼女らも難なく標的を片付けて、丁度剣を鞘に収めていた。

それを確認した後、キリトも息を吐いて剣を背の鞘に収め、未だに座り込んでいる赤髪の少女の元へと歩いていく。

同様にユウキ達も少女の元へ駆け寄っていき、リーファが少女の手を取って立ち上がらせ、ユウキがポーチから高回復薬(ハイポーション)を取り出して彼女に差し出した。

 

「大丈夫? これ飲んでHP回復しなよ」

 

「は、はい……」

 

差し出された高回復薬(ハイポーション)をおずおずしながら受け取ると、少女は蓋を開けてそれを飲む。

するとレッドに落ちていた彼女のHPが緩やかに上昇し始めた。

それを見たユウキとリーファは安堵の息を吐く。

しかしキリトはどこか難しい表情をしていた。

やがてHPが8割に差し掛かったところで上昇が止まり、少女はペコリと頭を下げて

 

「あの、ありがとうございます」

 

礼を言ってきた。

 

「ねえ。、君さ、このフィールドのクエストを1人で受けてたの?」

 

「い、いえ……クエストじゃないんですが、1人でフィールド探索してたらさっきのモンスターに襲われて……」

 

ユウキの問いかけに応える少女。

 

「このフィールドはまだ解放されたばっかりだから、未知のモンスターも多いし、1人だと危険だよ?」

 

「はい、あの……もし、よかったら街まで一緒に行動させてもらってもいいですか?」

 

ユウキからの再問いかけに応え、少女がそう申し出てくる。

その申し出にユウキとリーファが頷こうとした──────その時だった。

 

「……君は、見たところレプラコーンだな」

 

「え? そう、ですけど……」

 

今度はキリトが険しい表情をしながら問いかけてくる。

突然問われた少女は戸惑った様子で返した。

ユウキとリーファも疑問符を浮かべている。

そんな彼女達を気にするでもなく

 

「本来、戦いには向かない種族のレプラコーンが、1人で探索してるなんて、あまり聞かない話だ」

 

キリトはそう言ってきた。

その言葉に少女の表情が僅かに変化する。

 

「確かに。普通はアタッカーやディフェンダーと同行してるよね。もしかして君……初心者(ビギナー)?」

 

キリトの言葉を聞いて、ユウキも難しい表情になり、また少女に問いかける。

 

「あ、えと……そうなんです!」

 

慌てたように返す少女。

しかし、キリトはそれをバッサリと切り捨てるように

 

「だが、君のその足装備はとても初心者が入手できるような物じゃない。レプラコーン専用でかなりレアな装備のはずだ」

 

はっきりと言い切った。

瞬間、少女の表情がしまったと言わんばかりに苦いものになった。

さらにキリトは続けて言う。

 

「そして、その特殊な形状の足跡は、前に俺がストーカーを追いかけた時に見た、踏みしめられた土塊の跡と同じものだ」

 

追い討ちをかけるように告げると、少女は完全に言葉が出なくなり俯いてしまった。

その様子に、ユウキとリーファも一歩後退する。

 

「それって……」

 

「じゃあ、この人がお兄ちゃんを付けてたストーカーって事?」

 

警戒心を露わにしながら2人は言う。

すると、俯いていた少女は不意に笑い出し

 

「ふふ……あははは。まさか、こんなに早くバレちゃうなんてね」

 

顔を上げ、笑いながらキリトに視線を向けて

 

「さっすが、SAOをクリアした英雄『黒の剣士(キリト君)』は洞察力が違いますなぁ。わたしを見た瞬間から疑ってたでしょ?」

 

そう問いかけた。

キリトは依然、少女を警戒するように見ながら再度問いかけた。

 

「まぁな。また接触してくるだろうとは考えていたからな。どうして俺達を付けていたんだ?」

 

「やだなぁ。そんな怖い顔しないでよ〜。わたしただ、英雄様御一行がどれ程の強さか確かめたかっただけなんです」

 

すると少女は自身に敵意はないとジェスチャーしながら言う。

しかしキリトもユウキ達も警戒を解こうとはしなかった。

 

「……SAO絡みでボク達の事を知ってる人はそういないはずだけど、どこで誰から聞いたの?」

 

鋭い目で少女を見ながら問うのはユウキだ。

左の手は既に腰の鞘を握っており、右手は柄に添えられている。

斬りかかる準備は万端のようだ。

しかし少女は動じる事なく

 

「ユウキさん。貴女達が思ってるほど、知ってる人が少ないなんて事はないと思うよ。だって、わたしの行きつけの裏サイトには貴女達のパーソナルデータ、普通に載ってたもの」

 

そう言って返してくる。

またもや訪れる沈黙。

だがそれはすぐにユウキによって破られた。

 

「……ボク達の実力を知ってどうするつもりだったの?」

 

「だから、そんなに怖い顔しないでよ。せっかくの美人さんが台無しだよ?」

 

ユウキの問いかけに対し、少女は茶化すように言った後

 

「……わたしね、友達もあんまりいないし、ギルドにも入りたくないから、実力のある人にお近づきになりたかっただけなんだよ」

 

苦笑いを零しながらそう言った。

すると今度はリーファが訝しみながら問う。

 

「臨時パーティの募集なら、広場で一杯してるじゃない?」

 

「それは……わたしのプライベートに関わる事なので……言えないのですよー」

 

「……お兄ちゃん、どうする?」

 

どこまでもブレる事のない少女に、リーファは困り果てたような表情をしながらキリトに問いかける。

すると彼は険しくしていた表情を柔らかいものに変えて

 

「ま、付いて来たいなら好きにすればいいさ」

 

そう言って笑ってみせる。

それに続いて

 

「そだねー」

 

ユウキも剣と鞘から手を離して笑顔を見せた。

2人のあっけらかんとした態度に少女は驚いた表情をしている。

リーファは困惑しながら

 

「お兄ちゃんは兎も角、ユウキさんまで……いいの?」

 

「事情は話してくれたしな。それに─────」

 

「プレイヤー同士の交流、画策、化かし合い、騙し合い、それら全部含めて、VRMMOの醍醐味だって言いたいんでしょ? キリトはさ」

 

代弁するようにユウキが笑いながら言う。

キリトもそうだと言わんばかりに頷いていた。

 

「ええっと……その……」

 

「そういえば、まだ名前を聞きてなかったな。なんて言うんだ?」

 

未だ困惑した様子の少女にキリトは名を尋ねる。

少女は戸惑いながらも

 

「わたしは……レイン」

 

自身のプレイヤーネームをキリト達に名乗った。

彼女の名を聞いたキリトは頷き

 

「そうか。これからよろしくな、レイン」

 

そう言って手を差し出した。

レインはおずおずと差し出された手を握る。

その後はユウキ、リーファと続いて握手を交わした。

 

「さて、一旦街に戻ろうか」

 

キリトがそう提案すると、ユウキ達は頷いて返す。

そのまま彼らは転移門から街に戻り、今日はお開きにしようと言うことになり、皆一斉にログアウトしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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東京都世田谷区の、あるアパートの一室。

ここで栗色の髪をした少女と、空色の瞳を持つ青年がテーブルを挟んで向かい合いながら座っている。

テーブルに広がっているのは様々な参考書や文献資料だ。

それらを見ながらレポート作成をしているのだろう。

やがて少女が書き物をしている手を止めて、持っているボールペンを置き

 

「ふぅ……終わりました、空人さん」

 

「おつかれ、明日奈。確認してもいいかい?」

 

労いの言葉をかけられた少女───────結城明日奈は言われるまま青年───────天賀井空人に先程まで自身が書いていたレポートを手渡す。

それを空人は一枚ずつ目を通していき

 

「うん、よく出来てる。これなら再提出なんてこともないと思うよ」

 

「ありがとうございます。それとすみません、手伝ってもらって。空人さんだって自分の課題やレポートがあるのに……」

 

「これでも僕は君より先輩だからね。効率のいいやり方を覚えてるだけさ。それに、頼ってくれた方が僕としても嬉しいよ」

 

申し訳なさそうに言う明日奈に、空人は微笑みながらそう返した。

明日奈は途端に頬を赤く染め

 

「むぅ……空人さんズルいです……」

 

むくれたように言う。

 

「ははは。さて、もう19時か。いい時間だし、家まで送るよ」

 

「あ、あの! 実は……今日のお礼に、お夕飯をと思って……」

 

空人からの言葉に、少しだけ被せ気味になりつつも、明日奈は言いながら近くに置いてある荷物の一つを手に取った。

手に取ったのは保冷バック。

 

「ちゃんと遅くなるって両親には言ってあって、許可ももらってます。もちろん、空人さんが迷惑じゃなければ、なんです……けど……」

 

「迷惑なんてことあるわけがない。準備してくれたのを断るわけがないさ。有り難く頂くよ」

 

遠慮気味に言う明日奈に空人は微笑みながら返す。

すると明日奈は俯き気味だった顔を上げるとパッと笑顔になり

 

「じゃあ、すぐに支度しますね!」

 

そう言い、ご機嫌な様子で立ち上がり、保冷バックを手に炊事場の方へと向かっていく。

その様子を微笑ましげに眺めながら

 

「冷蔵庫の中にあるものは好きに使っても構わないよ」

 

「はい。ありがとうございます」

 

告げると明日奈は振り向きはしないものの返事を返してくる。

鼻歌交じりに準備をしている彼女を微笑ましげに見た後、空人はリモコンを手に取りテレビの電源を入れた。

映し出されたのはニュース番組で、有名人の特集が放送されている。

その特集されている有名人とは──────

 

「あ、この()……例の七色・アルシャービン博士ですね」

 

明日奈が豚の生姜焼きの盛られた大平皿をテーブルに置きながら口にする。

そう、特集されているのは菊岡から接触を試みて欲しいと頼まれている少女、七色・アルシャービンだった。

 

「凄いですよね。まだ13歳なのに、こんなテレビの番組で特集が組まれるなんて」

 

「あぁ、そうだね」

 

彼女の言葉に、空人は番組から目を話すことなく返事をする。

そうしていると、番組司会者がゲストとして出演している七色・アルシャービンにインタビューを行い始める。

 

『それでは、現在日本でも大人気、突然の来日で話題沸騰中の七色博士にお話を伺いましょう。博士はコンピューター科学の研究をされており、同時にALOという日本発のネットワークゲームの中で、セブンというキャラクターとして歌手活動も行なっていますね』

 

『あたしは研究者であり、歌い手でもありそれらはどちらも表現者という意味では変わらないの。どちらも本当のあたし……応援してくれる人がいるのは嬉しいわ』

 

『VRMMOは一時期、SAO事件やその帰還者の精神を捕らえる事件で有名になりました。それについてはどのように?」

 

『茅場晶彦、須郷信之は確かに人道を外れた行為をした。けど、技術に罪はないと思うの。茅場晶彦が作り出した世界がどれほどのものか知る為に、あたしはALOにログインしたわ』

 

『セブンの歌は共存や平和を提唱した歌だと聞いてますが……その辺りはどのようなテーマで?』

 

『ALOは種族同士の闘争が、一つのゲーム性になってるの。でも、ネットワーク社会のあるべき姿は一体どこにあるのか……? あたしなりに、それをもう少し知りたくなったの。競争と共存、それは資本主義ど社会主義のように、どちらも正しさがあって、決して割り切れないものでしょう? ネットワーク社会の未来を知る為にも、プレイヤーの人達の反応を……声を聴かせて欲しいと思ったの』

 

『とても13歳とは思えない、なんとも大人びた発言ですね……』

 

そこで一旦区切りを入れ、司会者は次の言葉を投げかけた。

 

『未だ世間から冷たい言葉を浴びせられるVRMMOというカルチャーですが、平和と共存を提唱する貴女の姿を見て、茅場晶彦と七色博士をネットワークの闇と光、そう揶揄する人もいるようですね』

 

『ふふ。あたしの歌を聴いて、少しでもVRMMOを認めてくれる人がいるのは嬉しいな』

 

七色・アルシャービンの言葉が終わると画面が切り替わり、CMへと移ったようだ。

 

「あの子のおかげで、様々な事件を起こしたVRMMOの印象が良くなってるのは確かなんですよね」

 

皿に盛り付けた料理をテーブルに並べ終わった明日奈が腰を下ろしながら言う。

 

「プロパガンダだね。僕達プレイヤーからすれば有難い存在であるのは確かだね。けど、それをまだ年端もいかない子に背負わせるのは頂けないかな」

 

「でも、あの子の場合は自分から挑戦してるように感じましたけど」

 

空人の言葉に、明日奈はそう返す。

彼は視線をテレビモニターから明日奈へと向けて

 

「本人が前向きなら、それでいいんだけどね……」

 

「空人さん?」

 

言葉が途中で途切れ、黙ってしまった空人に明日奈は疑問符を浮かべている。

そんな彼女を気にするでもなく

 

(そう、本人が前向きであり、周りがそれを支える人ばかりならそれで問題はない。けれど人は自分より突出した人間が現れるとそれに依存し、完璧を求めて過度な期待を背負わせるようになっていく……それが心の負荷となって限界を迎えた時、突発的な暴走行為へと繋がる場合もある。菊岡さんが懸念しているのは恐らくソレだろう)

 

思考を巡らせている。

 

「空人さん、どうかしたんですか?」

 

未だ考え込んでいる彼に、明日奈が疑問符を浮かべたまま声をかけてくる。

彼女の呼びかけが耳に届いた空人は思考を止め

 

「.なんでもないよ。そうだね、キリト辺りは一度話をしてみたいとか言いそうだなって思ってね」

 

微笑みながらそう返す。

すると明日奈もクスクスと笑いながら

 

「ふふふ。確かに」

 

そう返してきた。

 

「さて、せっかく明日奈が用意してくれたんだ。そろそろ夕食にしようか」

 

「はい。どうぞ、召し上がってください」

 

空人がそう言いながら手を合わせると、明日奈も満面の笑みで言いながら手を合わせる。

 

『いただきます』

 

声を合わせた後、2人は箸を手に取り明日奈お手製の夕食を楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「─────って話だから、レインって()が来たらみんな仲良くするよーに」

 

キリト達はエリア攻略に出る前に、エギルとリズベットの店の奥にある、カウンターバーに集合し、昨日知り合ったレプラコーンの少女、レインについての説明をしていた。

まるで転校生が来たかのような説明をしているのはユウキだ。

ご丁寧にメガネのアタッチメントも装備している。

因みにジュンは自身のギルドメンバーと集まることになっており、本日は不参加だ。

 

「で、そのレインちゃんはどこにいるんだよキリの字? 仲間になったんじゃねぇのか?」

 

どこかソワソワした様子で尋ねるクライン。

女性プレイヤーと聞いて内心浮かれているのだろう。

相変わらず通常運転な彼にキリトは苦笑いになりつつも

 

「いや、知らないな。付いて来たければ勝手にしたらいいって事で、フレンド登録もしてないからな」

 

そう答えを返すと、クラインはがっくりと項垂れる。

そんな彼を他所に、リズベットが難しい表情をしながら

 

「けど、そのレインって子……なんか腑に落ちないとこがあるわね。種族はレプラコーンって話だけど……」

 

「リズの言いたいこと、わかるよ。ボク達のパーソナルデータを裏サイトで手に入れたって言ってたけど、あれはきっと嘘だと思う」

 

彼女の言葉に応えるように、ユウキはメガネのアタッチメントを外しながら言う。

その表情は真剣そのものだ。

そんなユウキの言葉に驚きながらリーファが訊ねる。

 

「え? そうなの?」

 

「ママの言う通りだと思います。ALOの運営企業はその辺りのセキュリティもしっかりしていますから。仮にクラインさんがいかがわしいサイトで変なウイルスに引っかかり、皆さんのフレンドデータを流出させても、即座に検索・発見して、その情報の出所に注意勧告した上で抹消させる事が可能です」

 

応えたのはキリトのコートのポケットから顔を出した小妖精(ナビゲーションピクサシー)のユイだ。

彼女の説明に、クライン以外の皆が納得したように頷いている。

 

「うぉい!! なんじゃその例えは!! キリの字、お前ユイちゃんにどういう教育してんだよ!!!」

 

涙目になりながら訴えるクライン。

 

「どんなって、自由にのびのびと、正直ないい子に育ってくれればいいなー的な?」

 

「その結果がこの仕打ちかよぉ……つーか、俺達が登録したパーソナルデータにはSAOプレイヤーだったって情報は無いだろ!」

 

「無くてもSAOから引き継がれたデータは、おおよそ異常なほどやり込まれたデータになる。だから語らずとも察しはつくと思うぞ。って今はそういう事が言いたいわけじゃなくてだな」

 

「それだけ、今のVRMMOのセキュリティは万全という事なんです」

 

キリトの言葉に、ポケットから彼の肩に移動したユイが続けて言う。

すると今度はエギルが疑問符を浮かべながら

 

「なら、そのレインとやらは俺達のデータをどこで手に入れたんだ?」

 

そう問いかけてきた。

 

「わからない……けど、きっと問題ないだろ」

 

「言い切るわね」

 

あっけらかんした様子のキリトに、シノンが呆れ混じりの表情で言うと、彼はシノンに目を向けて

 

「勘だけど悪人には見えなかったからな。どこかで会ったらみんなにも紹介するよ」

 

そう返す。

そんな彼を見てソラは言う。

 

「こういうキリトの勘はよく当たるからね」

 

「なら、警戒しすぎない方のいいですね」

 

「あたしも、ジュン君にその人の事メッセージで知らせておきますね」

 

それに応えるアスナとシリカ。

 

「あらあらぁ。シリカってば随分ジュンと仲良くなったのねぇー?」

 

「ちょ! 揶揄わないでくださいリズさんんんん!!!」

 

リズベットが目敏くネタを見つけ、シリカを揶揄うと彼女は顔を真っ赤にしながらリズベットへ抗議し、その様子を見て、皆が一斉に笑い出した。

一頻り笑った後

 

「さて。それじゃぁ今日もヴェルグンデの攻略、頑張って行くぞ!」

 

『おー!』

 

キリトの掛け声に、ユウキ達は元気よく声を上げて返し、ヴェルグンデのエリア攻略へと赴くのだった。

 

 

 




レプラコーンの少女と徐々に打ち解けながら、エリア攻略を進める少年達。

そんなある日、少年は予期せぬ人物と接触する。


次回「接触」

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