ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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書きあがりました!
さていよいよヴォークリンデ攻略クライマックスです。結構クエスト端折ったり、アイテムの手に入れ方やシナリオの進み方、そしてボスの強さや能力とか色々ゲーム本編とは違ってますが、そこは二次創作って事で見逃してやってください^^



ではでは88話、始まります。


第八十八話 浮島草原のドラゴン

浮島草原ヴォークリンデはその名の通り、全体の約9割が草原や木々で占められている緑の豊かな浮島だ。

そのヴォークリンデを始めとする、スヴァルトエリアの浮島大陸にはそれぞれ上昇できる高度限界が設けられている。

ここヴォークリンデはALO本土の半分程が高度限界となっており、そこより上に存在する浮島には飛行して行くことは出来なくなっているのだが、その高度限界より上にある、一際大きな浮島には城のような建造物が存在している。

スヴァルトエリア攻略を目指すプレイヤー達は、誰もがその城が怪しいと睨み、そこへ行く方法を探してヴォークリンデ中を飛び回ったがその方法を見つけられたプレイヤーは居なかった。

そう、今日までは……だ。

今現在、この城に数名のプレイヤーが足を踏み入れている。

黒衣のスプリガンの少年と黒紫(ダークパープル)のインプの少女。

そのインプの肩には小妖精(ナビゲーションピクシー)が乗っており、彼らの後にウンディーネの青年と少女に、レプラコーンの鍛治師(マスタースミス)

更には金髪のシルフに弓使いと竜使いのケットシーの少女2人、そして褐色肌のノームに、身の丈程の両手剣を持つサラマンダーの少年と悪趣味なバンダナを頭に巻いているサラマンダーの男性と、計11名のプレイヤーと小妖精が三階建構造となっている城に突入し、地上よりも強化されているモンスター達を蹴散らして、彼らは最上階にある、ボスの元へと通じる扉の前までたどり着いていた。

 

「ここが最後の扉だな。ユウキ、ソラ達も準備はいいか?」

 

扉を前にして、黒衣のスプリガン─────キリトはインプの少女──────ユウキと、ウンディーネの青年達─────ソラやアスナ、リーファ、リズベットにシリカ、シノンやクラインにエギル、そしてつい最近知り合ったサラマンダーの少年────ジュンへと声をかける。

 

「もちろんだよ、キリト」

 

彼からの言葉に代表して返事を返したのはユウキだ。

他の皆は同意するように頷いている。

 

「それにしてもよぉ、あの『シャムロック』の奴等……まさか俺らにここの攻略を譲るとはなぁ」

 

「セブンのライブを優先させるなんて、思いもしませんでしたよね」

 

「ここに来る為に必要だった気流装置起動のための情報も教えてくれたり、結構いい連中なんじゃない?」

 

そう会話しているのはクラインとシリカ、リズベットの3人だ。

彼らがいるこの浮島の真下には、強力な上昇気流を発生させる気流装置が存在いている。

そこから発生させた気流の強さはヴォークリンデの高度限界を超えるもので、浮島に辿り着くにはこの装置を起動させる以外の方法はなかったのである。

装置起動のために、キリト達は『シャムロック』のメンバーが教えてくれた─────正確にはキリトが誘導して聞き出した─────ダンジョンにて古い書物と錆びついた鍵を手に入れ、書物の解読をシルフとケットシーの領主であるサクヤとアリシャに手伝ってもらい、装置を起動させるには二つのアイテムが必要である事を突き止めた。

更にはクライン達『新・風林火山』が潜ったダンジョンで、偶々手に入れていた金槌型のアイテムで錆びた鍵の復元に成功し、その鍵を使ってでしか入れなかった二つのダンジョンにて、『風の紋章』と『風の魔力結晶』を入手。

そして気流装置のある場所まで赴き、二つのアイテムを使用したところで、彼らに追い付く形で『シャムロック』のメンバーが数名現れたのだ。

それと同時に装置を守護するモンスターが出現し、コレを『シャムロック』と共闘する形で撃破。

どちらが先に浮島に乗り込むかで一触即発になりかけたその時、『シャムロック』のメンバー達にメッセージが届く。

その内容は『ライブの為の会場設置準備をする為に集合せよ』との事だった。

メッセージを確認した『シャムロック』の面々は、「この先の攻略は君達に譲ろう。我々にとってはそっちよりセブンのライブの方が重要だ」と、キリト達に告げ、早々に転移門の方へと飛び去って行ったのである。

それ故にキリト達は、どのプレイヤーよりも速く、ヴォークリンデのエリア攻略に王手をかけることが出来ているのだ。

 

「でも裏を返せば、私達なんて眼中にないって言ってるようなものじゃない?」

 

「まぁ、言われてみりゃぁな」

 

そう言っているのはシノンとエギルだ。

特にシノンは『シャムロック』の対応をあまり良く思っていない様子である。

負けず嫌いである彼女の性格(たち)ならば仕方がないとも言えるのだが。

そんな彼女に苦笑いを浮かべながら

 

「まぁ、ゲームの楽しみ方は人それぞれさ」

 

「そうだよ、シノノン」

 

ソラとアスナが諭すように言う。

それに続くように

 

「むしろ逆に追いつけなくなるくらい、ここから先のエリアも私達が攻略すればいいんですよ、シノンさん! 譲った事を後悔させちゃうくらいに!」

 

「確かに。その方がオレ達もやり甲斐あるって感じだなぁ」

 

リーファとジュンがそう言ってくる。

 

「みんな気合い充分って感じだねぇ」

 

「そうですねー」

 

その様子にユウキが笑みを零し、彼女の肩に乗っている小妖精─────ユイが言いながらキリトに目を向けると、彼も不敵に笑って頷き

 

「あぁ。それじゃぁ、ヴォークリンデ最終エリア攻略の開始だ!」

 

『おぉ!』

 

号令をかけ、目の前の扉に手で触れた。

大きな音を立てて扉が開いていく。

数秒で扉は開ききり、キリト達は中へと入っていった。

部屋の中央まで行き、しばらく待ってみるが何も起こらない。

 

「……何も起きねぇぞ?」

 

「おいおい、まさか此処はフェイクで、ホントは別の場所がボスの部屋ってんじゃ──────」

 

エギルに続けてクラインがそう言った─────次の瞬間。

 

「わわっ!」

 

「うぇぇ?!」

 

「これは?!」

 

キリト、ユウキ、リーファの3人が声を上げ、何事かとソラ達が彼らに視線を向けると、3人の身体がライトエフェクトで包まれている。

 

「キリト!?」

 

「ユウキ! リーファちゃん!」

 

ソラとアスナが慌てて手を伸ばすも、3人はライトエフェクトに包まれ、その姿を消してしまう。

 

「消え……ちゃいました……」

 

「ちょ……どういう事よ……っ?!」

 

「まさか、なにかの(トラップ)……っ?!」

 

あまりに突然の事で、皆が浮足立ちかけた──────その時。

 

「違います! 皆さん落ち着いてください!」

 

鈴の鳴るような、それでいて力強い声が耳に届き、ソラ達は声の方へと目を向ける。

そこには翅を広げてホバリングしているユイがいた。

どうやらキリト達が消える前に、ユウキの肩から飛び立っていたようだ。

 

「パパとママ、リーファさんはここから外に転移しただけです。場所はヴォークリンデの中央空域。さらにその場所に、広範囲でフィールドが展開されています!」

 

「! 皆、外に出るぞ!!」

 

ソラがそう叫び走り出すと、アスナ達もそれに続いて駆け出した。

最上階から一気に外まで駆け抜け、ユイが示した方向を見てみると

 

「いた! あそこだ!!」

 

ジュンが叫び、指をさした先には直径5キロ程の、半透明な球体型フィールドが展開されており、その中央にはキリト達の姿が見てとれた。

そして、そのキリト達のすぐ近くで転移のライトエフェクト。

眩い光が拡がり、弾けて消えた直後、そこから現れたのは─────

 

「ギュアァァァァ!!!」

 

ドラゴンだ。

空を裂くような咆哮を上げ、巨大な翼を羽ばたかせた瞬間、ドラゴンの頭上に4本のHPバーと名が表示された。

 

『FeFnir』

 

ドラゴンの名はファフニール。

突然外に転移され、訳がわからない状態だったキリト達だが、目の前にファフニールが現れた事で各エリアでの最終ボス戦の仕組みを理解した。

どうやらボス部屋に入ったギルド、もしくはパーティメンバーからランダムに3人選ばれ、この特別な空間へと転送、出現したボスと戦うというシステムになっているようだ。

この特殊フィールドはボスを倒すか、選ばれた3人が全滅するのどちらかでしか解除されない仕組みになっているようで、中からは勿論のこと、外から突入する事も不可能となっている。

 

「なるほどな……こりゃ、俺達3人でどうにかするしかないみたいだ。いけるか、ユウキ、リーファ?」

 

「だいじょーぶ! ボク達なら勝てるよ!」

 

「もちろんいけるよ、お兄ちゃん!」

 

キリトの問い掛けに、ユウキとリーファは応えながら腰の愛剣を抜き放つ。

それを見たキリトも不敵に笑い

 

「頼もしい限りだよ」

 

そう言ってメニューを開き、装備を選択。

操作が終わると同時に、彼の背にもう一本の剣が現れた。

両の剣を抜き放ち

 

「──────いくぞぉぉぉぉ!!」

 

叫び、ファフニールに向かってキリトは飛翔する。

それに続き、ユウキとリーファもファフニールに向かい突撃を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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城から出たソラ達は、展開されている特殊フィールドのすぐ近くにある浮島へと移動していた。

そこからキリト達とファフニールの戦闘を観戦している。

戦闘開始からすでに10分以上が経過しているが、戦況はあまりよろしくないようだ。

ファフニールの4本あるHPバーは現在2本と3番目が3分の1、つまりは半分以上が程削られている状態だ。

3人の10分弱で半分以上減らせているのなら上々だと思えるだろう。

実際、戦っているキリト達も、観戦しているソラ達もそう思っていた。

しかし、問題はそのHPバーが3本目に突入してからだった。

突如、ファフニールに与えていたダメージ量が大幅に減ってしまったのだ。

攻撃力ダウンのデバフをかけられたのかと思い、キリト達は自身のHPバーを確認するも、リーファがかけてくれた魔法による攻撃力アップの効果はあったがそれ以外には何もかけられてはいなかった。

となれば考えられるの、ファフニール自身の防御力が上がったという事なのだが───────ターゲットになっているファフニールには防御アップのバフアイコンは表示されていなかった。

もしかしたら表示されない隠し要素なのかもしれないが、唯一そういう要素を調べられるユイは現在特殊フィールドの外にいる。

なので確認のしようもないのが現状だ。

キリトとユウキは基本的に火力が高い。

その2人の攻撃すら、現在のファフニールにはあまり効果がない様子だ。

 

「こりゃぁ、ちょっとヤバいんじゃないか?」

 

「あぁ、キリの字とユウキちゃんの攻撃が殆ど通ってねぇ。辛うじてリーファっちの魔法が通ってるみてぇだが……」

 

険しそうな表情で言うエギルとクラインに同意するように

 

「ファフニールは風属性に対する耐性が高いようです。リーファさんはシルフですから、一番得意なのは風属性の魔法ですので、決定的なダメージは与えられてないようです」

 

ホバリングしながらユイがそう告げてきた。

その横で、ソラは訝しげな表情をしながら言う。

 

「だが、キリトとユウキの火力と速力は、僕達の中でトップクラスだ。その2人の攻撃が急にあそこまで通らなくなるというのは、どこか不自然に感じる……」

 

「確かに……あ!」

 

ソラの言葉に同意し、ファフニールのHPバーを見ていたアスナだったが、突然何かに気付いて声を上げる。

 

「どうしたのよ?」

 

突然声を上げたアスナに、リズベットが疑問符を浮かべながら問う。

 

「いま、あのボスのHPが上昇したように見えたの! ほらまた!」

 

言いながら指を指すアスナ。

ソラ達もファフニールのHPバーに視線を集中させてみる。

よく見るとファフニールのHPは攻撃を受けるたびに結構な量を持っていかれていた。

しかし次の瞬間、削ったダメージのおよそ8割が瞬間的に回復している事をソラ達は目撃してしまう。

 

「ア、アスナさんの言った通りですよ!」

 

「ああ。オレにも見えたよ。間違いなく今、ボスドラゴンのHPが回復してた。それも、もの凄い速さで」

 

「道理でHPが減らない訳ね。本当はかなりのダメージを与えていたのに、与えた端から回復してたんだから。しかもダメージが通った瞬間だから、よく見てないと回復した事にすら気付けないわよ。下手すれば、自分達がデバフかけられたか、相手の防御が強化されたのかって勘違いしかねない」

 

「シノンさんの言う通りです。先程あのボスの情報を検索してみましたが、HPが半分以下になると高速自動回復(ハイスピードリジェネ)が発動するようになってます。幸い、回復できるのは能力発動した3本目と4本目だけみたいですが、それでも回復量がかなり多いみたいなので、並の攻撃で削りきるのは至難の業でしょう」

 

シノンの言葉を肯定するように、検索したファフニールの情報を説明する。

それを聞いたクラインは苦虫を噛み潰したような表情になり

 

「おいおいおい! そりゃ最早チートの領域じゃねーか!」

 

「だな。只でさえ3人しか戦えないってのに、異常な回復能力を持ってるんじゃ勝ち目なんてほとんどねぇよ。ALOの運営はどんだけ底意地が悪いんだ?」

 

クラインが叫び、エギルもうんざりした表情で肩をすくめる。

 

「確かに、並のプレイヤーなら難しいでしょうよ。けど、キリトとユウキなら話は別よ」

 

そんな彼らを余所に、リズベットは落ち着いている。

むしろ何処か余裕そうだ。

それを不思議に思ったシリカが疑問符を浮かべながら

 

「リズさん、 なんでそんなに落ち着いてるんです?!」

 

少々声を荒げて問うた。

ソラ達も同様に、リズベットが落ち着いている様子に疑問符を浮かべている。

 

「要は回復する以上のダメージを叩き込んでやりゃいいって事でしょ? 普通に考えたらそれは確かに難しいわね。でも、あの2人ならヤレるわ。正確には、あの2人の持つ剣ならね」

 

ニヤリとリズベットへ笑い、右手を高々に振り上げて

 

「キリト! ユウキ! 見せてやんなさい!! アタシが作った、アンタ達の剣の『能力』をね!!」

 

声高にそう叫んだ。

その声が届いたのか、キリトとユウキはアイコンタクトの後頷き合ってファフニール距離を取って後退した。

キリト達がファフニールから距離を取った事に気付いたリーファも後退し、彼らと合流する。

リーファの表情には焦りと疲労の色が見えていた。

無理もない。

どれだけ攻撃してもHPが殆ど減らないのでは精神的にもクるというものだ。

 

「ねぇ、どうするの? さっき気付いたけどあのドラゴン、ダメージを与えた端からHP回復させてるよ」

 

「みたいだね。『森の守護者』のボスドラゴンと似た感じかな。違うのは回復力が半端ないってとこだけど」

 

「確かにな。けど、突破出来ないわけじゃないさ」

 

問うてくるリーファとは対照的に、キリトとユウキは何処か余裕そうだ。

 

「なんか余裕そうだね、お兄ちゃんとユウキさん……ホントにあるの? 突破口なんて??」

 

この状況を何処か楽しんでるようにも見える二人に、リーファは呆れた表情で再び問うた。

 

「2つほどな。1つは呪毒などの状態異常をかけてダメージを蓄積させる方法。あのドラゴン、剣や魔法で攻撃すると与えたダメージの8割近くを一瞬で回復してくる。こういう奴は毒なんかの状態異常にはあまり耐性がないんだ。他のMMOでも、こういうボスモンスターは結構いるんだぜ」

 

「でもボク達、誰も状態異常付与の魔法なんて習得してないよね」

 

「ああ。そこが難点になるからこの方法は使えない」

 

「じゃぁもう1つの方法は?」

 

問われたキリトはニヤっと笑い

 

「至極単純、回復が追いつかない速さで高火力の攻撃をお見舞いし続ける」

 

そう返した。

それを聞いたリーファは引きつり笑いになり

 

「ちょ、そんなの無理だよ! 現に最高最速のお兄ちゃんとユウキさんの攻撃でもこんな状況なんだよ?! それなのに────」

 

「まぁ、落ち着けよリーファ。それより、MPは後どれくらい持ちそうなんだ?」

 

どこまでも落ち着いた様子のキリトの返しに、リーファは困惑しながらも

 

「……連続で使い続けたら、あと1分と少しだけど……」

 

「よし、それだけあればなんとかなる。リーファ、これからMPが尽きるまで、魔法でドラゴンを牽制して動きを止めてくれ。その間に、俺とユウキで奴のHPを完全に削りきる」

 

そう言ってくるキリトの目は真剣そのものだ。

彼はいつだってそうなのだ。

ここは仮想世界。

現実とは違い、ここでボスに負けても命が尽きるわけじゃない。

またセーブポイントからやり直す事になるだけだ。

けれど、キリトはそれを基本良しとはしない。

自分が無事な限り、必ず仲間を護り、活路を拓こうと全力を尽くす。

それがキリト─────桐ヶ谷和人というプレイヤーなのだ。

そしてそれはキリトだけではなく、彼のパートナーであるユウキも同様だ。

 

「大丈夫だよ、リーファ。ボクとキリトを信じて。ね?」

 

そう言ってくる彼女の目にも迷いはない。

キリトとなら必ずやり遂げるという覚悟を宿していた。

リーファは小さく息を吐いた後、複雑そうに笑顔を見せて

 

「わかった。2人を信じる。その代わり、もし負けちゃったら、お兄ちゃんの奢りで私とユウキさんに宇治金時ラズベリーパフェだからね!」

 

そう言うと翅を鳴らし、ファフニールへ向かって飛んでいく。

 

「うへぇ……我が妹ながら容赦がないなぁ」

 

キリトはやれやれと肩を竦めた後、ユウキへと声をかけた。

 

「いくぞ、ユウキ」

 

「らじゃ!」

 

呼びかけに短くそう応えると、2人は互いに右手で握っている剣に意識を集中し始めた。

 

「フロッティ、固有能力解放……『バースト・ストレングス』、ランク2!!」

 

「ガラティーン、固有能力解放……『陽光の加護(サンシャイン・ヴェール)』!!」

 

目を見開き叫んだ直後、2人の剣がそれぞれライトエフェクトに包まれた。

一方

 

「いっけぇ!!」

 

ある程度距離を取り、ファフニールに向かい魔法を放つリーファ。

使用されたのは風属性の魔法『ブラストストーム』。

竜巻状の風を相手に向けて放つ中級の魔法だ。

螺旋に渦を巻く竜巻はファフニールに直撃するも、大したダメージを与えてはいない。

しかも与えた端から回復していく。

それでもリーファは魔法を使い続けた。

魔法でファフニールを足止めする事が、2人に任されたリーファの成すべき事だからだ。

彼らからの信頼に全力で応え為、リーファは攻撃の手を決して緩めない。

しかし、ファフニールは魔法攻撃を喰らいながら、リーファに向かって突撃してくる。

ドンドンと距離が縮まり

 

「グギャォォォォ!!!」

 

咆哮しながらファフニールは巨体を旋回させ、尻尾をリーファに向かい振り付けてきた。

対するリーファは魔法を使っていた為、剣を腰の鞘に収めたままだ。

詠唱を破棄してすぐ様右手を剣に伸ばす。

しかし、それよりも速く、ファフニールの尻尾がリーファへと迫っていた。

防ぐのも躱すのもリーファは悟る。

尻尾の先端が勢いよくリーファに迫り──────ザンっという音を立てて斬り裂かれた。

 

「後は俺達に────」

 

「任せて、リーファ!!」

 

斬り裂いたのキリトとユウキだ。

リーファの視界に映った2人は、先程とは少し違っている。

キリトの右手に握られている『フロッティ』の刀身は一回り大きくなり、刃の色も紅を帯びた黒へと変わっている。

一方のユウキは右手の剣、『耀剣ガラティーン』から(オレンジ)のライトエフェクトが放たれ、それをユウキが全身に纏っている状態だ。

 

「ギュォァァァァ!!」

 

そうこうしていると、尻尾を部位切断されたファフニールが咆哮を上げながら彼らに突進を仕掛けてきた。

 

「おぉぉぉぉ!!!」

 

「やぁぁぁ!!」

 

キリトとユウキも同様に咆哮を上げて突撃する。

ファフニールの突進を、キリトが右側に、ユウキは左側へと回避。

 

「らぁ!!」

 

背へと回り込んだキリトがフロッティによる斬撃を放った。

それは勢いよく空を裂き、ファフニールの背を深く斬り裂く。

同時にHPが先程とは打って変わり、勢いよく減少していったが、すぐに受けた6割程を回復するファフニール。

それでも先程までより確実なダメージを与えているのは事実だ。

 

「まだまだぁ!」

 

さらにダメージを与えるために今度はユウキのガラティーンが、勢いよく連続で突き出される。

それも今までより大きなダメージをファフニールに与え、回復する量よりも与えるダメージの総量を増やしていく。

この光景を、特殊フィールドの外で観戦しているソラ達は

 

「凄い……桁違いな火力だ」

 

「ねぇ、リズ。あれってどういう効果なの?」

 

彼らの剣を打ったリズベットに説明を求めた。

するとリズベットはまずキリトを指差して

 

「キリトの『フロッティ』。アレに備わっている固有能力は『バースト・ストレングス』。持ち主のHPの最大値を減少させる事で、一定時間だけ攻撃力を倍加させる事が出来るのよ。段階は最大3段階、つまりは最大で3倍にまで高める事が出来る。見た感じだと、今キリトが使ってるのは2段階目……ランク2ってとこね」

 

そして今度はユウキを指差し

 

「で、ユウキの『耀剣ガラティーン』。アレの固有能力は『陽光の加護(サンシャイン・ヴェール)』。陽の出ているフィールドでのみ、自身のMPを常時消費する事で発動可能。効果は火と光属性の攻撃と耐性に大幅なプラス補正とHPの自動回復(オートリジェネ)の付与。そして持ち主の攻撃力と敏捷力を2倍加させるわ」

 

2人が持つ剣の能力を説明していく。

 

「な、なんか凄すぎて言葉が出ないです……」

 

「アレをこの間のデュエルで使われてたらって思うと……オレ、正直ゾッとしてる……」

 

リズベットの説明を聞き、視線の先で繰り広げる激戦を見ながら言うのはシリカとジュンだ。

 

「けど、それだけの効果を得られるなら、当然デメリットも相当なものなんでしょう?」

 

その中で、やはり冷静にしているのはシノン。

キリト達から目を話す事なくリズベットは問いかけた。

リズベットは頷き答えを返す。

 

「ええ。『バースト・ストレングス』はさっき言った通り発動するためにHPの最大値を減少させないといけない。最大HPが下がるってことは極端に言えば、一度でも致命傷を受ければヤバイって事。おまけに効果が切れてHPの最大値が元に戻っても、減ったHPは戻らない上にしばらく防御力が大幅に下がるデバフがかかるわ。『陽光の加護(サンシャイン・ヴェール)』は火と光に大きな補正を得られる代わりに、水と闇属性の攻撃と耐性に大幅なマイナス補正をかけられて、効果が切れると一定時間HP回復不可と攻撃防御ダウンのデバフがかかるのよ。更に効果使用中でもソードスキルは使えるけど、そのあとの技後硬直時間が倍になるおまけ付き。しかもどっちも発動は1日に一回だけで、『陽光の加護(サンシャイン・ヴェール)』に至っては陽の出てるフィールドでしか使えない」

 

「なるほどな。とんでもねぇ隠し球だが、それ以上のハイリスクって訳か」

 

「けどよぉ。この状況をぶち破るには、キリの字とユウキちゃんのそれしか方法はねぇんだよな?」

 

唸りながら言うエギルの横で、苦々しい表情をしながらクラインが誰とも無く問いかける。

それに応えたのはアスナだ。

 

「それしか無いと思う。もしここでキリト君達が負けて、もう一度ボスに挑んだとしても、ボスと戦えるのはランダムで選ばれた3人だけ……次もキリト君達が選ばれるとは限らないもの。それにこのチャンスを逃したら、ヴォークリンデのエリア攻略を今度こそ『シャムロック』に持っていかれちゃうよ」

 

「そうだね。セブンのライブが優先とはいえ、ボスに負けた隙を『シャムロック』が逃すとは思えない。現に、何人かがこの戦いを見ているようだ。隠蔽(ハイディング)スキルを使用した上で、ね」

 

「ソラさんの仰る通りです。ここから少し離れた北東の方角にプレイヤーの反応があります。数は3人ですね」

 

ソラの言葉をユイが肯定する。

アスナ達はユイが指摘した方向へ視線だけを向けてみると、彼女が言った通りの数のプレイヤーが、別の浮島の陰から確認できた。

プーカの羽飾りを装備しているので『シャムロック』のメンバー、もしくはセブンファンのどちらかだろう。

ソラはキリトと同等の検索(サーチ)スキルを有しており、ユイは高度なAIプログラム。

並みの隠蔽(ハイディング)では見破られて当然だ。

 

「このボス戦は、エリア攻略最初で最期のチャンスだ。逃せば次は確実に無い。そしてこの事はキリトが一番わかっているだろうし、逃す気なんてさらさらないだろう。根っからのゲーマーだからね、キリトは。だから、僕らは信じて待とう。キリト達が必ず勝つと─────」

 

そう言ってソラが視線を向けた先では、激しい攻防が続いていた。

とはいえファフニールのHPは4本目の半分を切っており、局面はすでに最高潮(クライマックス)と言っていいだろう。

巨体からは想像出来ないほどの速さで、ファフニールは爪や尻尾での攻撃を繰り返してくる。

それをキリトは持ち前の反応速度で、ユウキも持てる最速の動きで回避し、ファフニールに連撃を食らわせ続けている。

 

(能力を発動させて、もう1分は経過してる。『バースト・ストレングス』はランクで持続時間が変わってくる。ランク2だともって2分だ。ユウキのMPも既に最大値の3分の1に差し掛かってる……もう互いに1分も効果を持続出来ない……なんとしても、ここでヤツのHPを削りきる!!)

 

思考を巡らせながら、キリトは攻撃の速度を更に上げていく。

呼応するのにユウキの速力も上がっていった。

減っては増えるファフニールのHPだが、与えられるダメージが多いので確実にその量を減らしていく。

ようやくHPがレッドゾーンに入った────その時

 

「グゥガギャァァァァ!!」

 

今までで一番の咆哮を上げながら、ファフニールは巨大な翼を羽ばたかせ、旋風を巻き起こした。

強力な風圧にキリト達の動きが一瞬だけ止まってしまうの。

その隙を逃さないように、ファフニールの鋭い爪による攻撃がキリトに向かい放たれた。

なんとか反応するも、爪はすぐそこまで迫っている。

今のキリトは『バースト・ストレングス』の効果で最大値HPを大きく減らしている。

喰らえば間違いなく致命傷となるだろう。

 

「し、しま……っ?!」

 

「キリト!」

 

ユウキが叫び、キリトは防御も回避も間に合わないと悟り目を閉じる。

その瞬間──── 一陣の風が駆け抜けた。

 

「ギャァァァァ!!」

 

直後にファフニールに咆哮。

閉じた目を開けファフニールを見ると、その巨体を大きく仰け反らせていたのである。

 

「私だって、足手纏いになるだけじゃないんだから!」

 

「リーファ?!」

 

そう、ファフニールを仰け反らせ、攻撃をキャンセルさせたのはリーファの魔法だったのだ。

使用されたのは風属性上級魔法『タービュランス』。

風を超高密度で圧縮し、巨大な槍を形成して高速で放つ貫通型の強力な魔法である。

 

「リーファ、ナイスアシスト!!!」

 

キリトが叫び、態勢を崩したファフニールへ突撃する。

全速で距離を詰め

 

「あぁぁ!!」

 

フロッティを右斜め下から左斜め上に全力で斬り上げる。

それはファフニールの体躯を深く斬り裂き、一気にHPを刈り取っていった。

しかし、それでもわずかに残っていたのだろう。

ファフニールのHPが数ドットから10%近くまで回復した。

 

「決めろ、ユウキぃぃぃ!!!」

 

「まっかせて!!!」

 

入れ替わるように、キリトの後ろからユウキが飛び出てくる。

握られているガラティーンは大きく引き絞られており、青紫のライトエフェクトを纏っていた。

 

「でやぁぁ!!」

 

間合いに入った瞬間、勢いよく突き出されるユウキの剣。

十字を描くような高速十連刺突。

その後、再び剣は引き戻され纏ったライトエフェクトは一層の輝きを放ち

 

「これで終わり、だぁぁぁぁ!!!」

 

描かれた十字の中心へ、最後の刺突が放たれた。

超高速刺突による11連撃、ユウキが編み出したOSS『マザーズ・ロザリオ』。

 

「グギィィィィィァァァァァァァァ!!!」

 

本来それ単体でも強力なOSSだが、『陽光の加護(サンシャイン・ヴェール)』の効果で攻撃力が倍加され、更には同効果で火と光属性の攻撃及び耐性に大幅補正を受けている『マザーズ・ロザリオ』は超回復など意味を成さないと言わんばりにファフニールのHPを完全に削り取る。

ファフニールは大きな断末魔を上げながら、巨大な体躯を爆散させ、ポリゴン片となって消えていった。

同時に『Congratulations!』とシステムメッセージが表示され、形成されていた特殊フィールドが音を立てて崩れていく。

 

「───────おわっ……た……?」

 

「やった……やった、やったよ!」

 

少しの間呆けていたキリト達だが、目の前に表示されているシステムメッセージがボス撃破を彼らに実感させた。

 

「勝った……私達、勝ったんだよ、お兄ちゃん! ユウキさん!」

 

発動させていた固有能力が解除され、疲労困憊といった様子の2人にリーファがはしゃぎながら近づいてくる。

 

「ああ……リーファ、最後の場面……リーファの魔法がなきゃ確実に俺はやられてた……ありがとな」

 

「えへへー。どういたしまして」

 

キリトに礼を言われ、リーファ照れてたような笑顔で返す。

 

「パパ、ママー!」

 

「やったな、キリト」

 

周囲の浮島で観戦していたソラ達も、キリトの元へとやってくる。

その時だった。

彼らの目の前にまたもシステムメッセージが表示されたのだ。

表示されている内容は『新たなエリアが解放されました』である。

 

「パパ。転移門に新たな転移先が追加されたみたいです」

 

ユイがそう言ってくる。

キリトは頷いて

 

「わかった。よし、転移門から次のエリアに行ってみるか」

 

「だね。いってみよー!」

 

移動を促し、それにユウキが応える。

ソラ達も頷き、皆翅を広げて転移門へ向かい飛翔を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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見事ヴォークリンデのボス『ファフニール』を撃破したキリト達は、新たに解放されたエリアへと転移していた。

エリア名は『砂丘峡谷ヴェルグンデ』。

一面が砂と岩で形成されたフィールドだった。

とりあえずフィールドを一周してみようという事になり、三組に別れて探索を開始。

30分後に転移門近くの岩場に合流して、フィールドを見て回り集めた情報を話し合っていた。

ソラとアスナ、シノンの3人はいくつかの遺跡を見つけており、クラインにエギル、リズベットとシリカにジュン達5人は岩場の一部に怪しい台座が有るのを発見していた。

そしてキリトとユウキ、リーファの3人はフィールドの中央部にある峡谷の奥で、あからさまに怪しい遺跡を発見したのだが、そこは強力な気流によって行く手を阻まれており、進む事が出来なくなっていた。

そしてその近くに洞窟があり、そこもフィールド攻略に関係しているのではキリト達は推測する。

とりあえず『ヴェルグンデ』の攻略最終目標をボスの撃破に決め、もう少し情報を集めるために転移門近くの遺跡から攻略を開始しようという事になり、今日は解散する事になった。

皆が転移門へ移動を開始しようとした──────その時だった。

 

「……」

 

キリトが不意に足を止める。

 

「キリト? どしたの?」

 

それを不思議に思ったユウキが問いかけた────────瞬間。

 

「悪い、ユウキ。みんなも、ちょっとここで待っててくれ! 訳は後で説明する!」

 

そう言い残し、勢いよくキリトは岩場から飛び出していった。

後ろから彼を呼ぶ声が聞こえるが、キリトは振り返る事なく駆けていく。

 

(気のせいじゃない、やっぱり付けられてる!? 全速で移動すれば、捕まえられなくても姿くらいは──────)

 

そう思考を巡らせながら、別の岩場まで駆けるキリト。

その陰を覗き込むも、そこには人の影は全く見当たらなかった。

 

「はぁ……はぁ……いない……くそっ!」

 

キリトは苦虫を噛み潰したような表情になり、視線を地面に落とした。

すると、視界にあるものを捉えた。

 

「これは……足跡……か?」

 

言いながらしゃがみ込むと、そこには足跡が残っていた。

古いものではない。

間違いなく、先程までここに誰かが居たという証明だ。

 

「キリトー!」

 

「どうしたんだ、キリト!」

 

直後にユウキとソラ、それにリーファとアスナが彼を追ってやってくる。

 

「もう、急にどうしたのさ!?」

 

「まさか、誰かに付けられてたのか?」

 

「あぁ。見事なまでの隠蔽(ハイディング)だよ。実を言うと、少し前から誰かに見られてる感覚はあったんだ」

 

問われたキリトは溜息を吐きながらそう返す。

 

「どうするの、キリト君。正体を確かめるの??」

 

「いや、今は気にせずクエストに集中しよう」

 

「えぇ……放置するの? 誰かに見られてるなんて、気味が悪いよ、お兄ちゃん」

 

アスナの問いかけに答えているキリトに、リーファが不安そうに言う。

そんな彼女に

 

「気取られた事に向こうも気付いたはずだ。警戒するだろうから、これ以上の詮索は難しいよ。それに、こういう化かし合いもゲームならではさ」

 

キリトは何処か楽しそうに笑いながら返す。

その姿にユウキとソラは呆れたような表情になり

 

「全く、キリトったら……こんな時まで楽しんでるよ」

 

「キリトらしいといえば、キリトらしいんだけどね」

 

彼を見ながらそう言った。

 

「さぁ、とりあえず街に戻ろうか」

 

言いながらキリトは転移門に向かって歩き出す。

ユウキ達もそれに続いて歩き出した。

一方、彼らが居た岩場から離れた別の岩場の陰。

ここに1人の少女が駆け込んで来た。

赤色の長髪(ロングヘアー)(なび)かせ、両の手に握っている片手剣を両腰に装着している鞘へと納めながら

 

「ふふ。聞いてた以上の達人ね。けど……もう少し様子を見させてもらおうかな」

 

キリト達が居た岩場を一瞥した後、不敵な笑みを浮かべながら、その場から去っていったのだった。

 

 

 

 




少年の耳に届いた悲鳴。

その元へと駆けつけると、そこには─────



次回「レイン」

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