ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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昨日でついに黒と紫の軌跡は連載開始から2年が経過しました。
まだまだ物語はさの終わりは遠いですが、これからも黒と紫の軌跡をよろしくお願いします。




それでは80話、始まります。


第八十話 武器に宿る熱

「ロンゴミニアドを攻略……だと? 何を言うかと思えば、そんな事は不可能だ」

「そいつはどうかな。完璧なものなんて存在はしないよ」.

アルトの言葉にそう返しながら、キリトは二刀を構える。

ちらりと右のディバイネーションに視線を向け

(デュエル終了まで残り2分を切った。これからやる事は賭けに近い。失敗すれば俺は確実に負ける……頼む、もってくれよ)

思考を巡らせ再びアルトを見据えた刹那、キリトは勢いよく地を蹴る。

一気に間合いを詰め、繰り出すのは先程と同じく連続斬撃だ。

「馬鹿の一つ覚えだな」

呟いてアルトは大槍を構える。

直後に襲いかかってくる高速の連撃。

しかし、それらは全て槍の纏う風に軌道を逸らされ躱されてしまう。

幾度目かの斬撃が終わった瞬間、キリトの左の剣『フルンディング』が水色のライトエフェクトを纏った。

片手剣ソードスキル『ホリゾンタル・スクエア』、水平に正方形を描くようにして放たれる四連続斬撃だ。

それを見た瞬間、アルトは不敵に笑う。

(不用意だな。中途半端にソードスキルを使うなど、自殺行為にしかならない。スキル終了が貴様の敗北の時だ)

思考が巡り、キリトの『ホリゾンタル・スクエア』を受け流していくアルト。

3撃目が終わり、最後の一撃が放たれる。

アルトは自身の勝利を確信し、大槍を引き絞ろうと力を込めたーーーー刹那、目を見開いた。

何故なら、キリトの右の剣がライトエフェクトを纏っていたからだ。

『ホリゾンタル・スクエア』最後の一撃が終わった瞬間、右の剣が勢いよく振り出される。

弧を描くように放たれる水平斬り。

そこから90度上への垂直斬り、からの垂直斬り下ろし。

片手剣ソードスキル『サベージ・フルクラム』だ。

「な、にぃ……っ」

ソードスキルを受け流しつつも、アルトは驚愕の声をあげた。

それも当然と言える。

今しがた起こった現象は全く予期せぬものだったからだ。

(ソードスキルからソードスキルを繋げただとっ!?)

しかし驚いている暇など与えないと言わんばかりに、『サベージ・フルクラム』終了間際に今度は左の剣がライトエフェクトを纏った。

繰り出されたのは片手剣ソードスキル『ハウリング・オクターブ』、5連突きからの斬り下ろし、斬り上げからの上段斬りの8連撃だ。

「おぉぉ!!!」

咆哮と共に繰り出されるソードスキル。

ソードスキルからソードスキルの連携という離れ業を見た観客たちは次々と歓声を上げていた。

そんな中、ソラは決戦場に視線を向けたまま

「そういうことか」

と呟く。

「どうしたんですか、ソラさん?」

何かに納得している表情のソラに、アスナは疑問符を浮かべている。

無論、ユウキ達も同様だ。

「わかったんだよ、『風王の纏』の攻略法が。一見、あの効果は無敵の防御にも思える。けれど、受け流す回数に限度があるとしたら話は別だ」

「どういうこったよ?」

「さっき、彼女はキリトの『ノヴァ・アセンション』最後の一撃を、受け流さずに後退して躱していた。あのまま受け流していれば、キリトは技後硬直を課せられ動けなくなる。そこに一撃見舞う事だって出来た筈なのにそうはしなかった。つまり……」

「もしかして『風王の纏』にも、他のオブジェクトみたいに耐久値が存在するっこと?」

ソラの言葉に続くようにユウキが言った。

その言葉にアスナ達もハッとする。

「そう考えると、さっきの彼女の行動にも説明がつく。あの時、『風王の纏』の耐久値は限界に近かったんだろう。あのまま『ノヴァ・アセンション』を受けていたら『風王の纏』は強制解除され、最悪ノックバックが発生していた可能性もある。それを避けるために、彼女は攻撃を受け流さずに後退して躱し、距離を取って『風王の纏』を展開し直したんだ」

「なるほどなぁ。じゃぁ、耐久値を削りきるほどの攻撃をすりゃ、『風王の纏』を突破できるってことか」

クラインの言葉にソラは頷いた。

「理屈では。けれど、普通の攻撃をいくら連続で見舞っても、削れる耐久値はしれてる筈です。だが、それがソードスキルとなれば話は変わってくる。高火力のソードスキルなら削れる耐久値は計り知れないだろう。しかし通常、ソードスキルは連続では使えない。スキル終了時に技後硬直を課せられるからね」

「でも、キリトならそれが可能ね」

決戦場を見据えたまま言うのはシノンだ。

「うん。キリトが見つけた抜け道。システム外スキル『剣技連携(スキルコネクト)』なら!」

ユウキが言いながら視線を決戦場に向けると、ソードスキルの連携は四度目に突入していた。

放たれているのは一撃目と同じ『ホリゾンタル・スクエア』だ。

容赦なく襲いくる斬撃の嵐に、アルトは只ひたすらに『風王の纏』で受け流し続けいる。

しかし、その表情に余裕はない。

(なんという離れ業だっ! だが、これほどの威力の攻撃を続けていれば、武器の耐久値が持たない筈……それまで耐えきれば……っ!)

思考を巡らせているアルト。

対するキリトもまた

(リスクは百も承知だっ! けど、俺は信じてる! あいつの、リズの想いが込められたこの剣が、簡単に折れるものかっ!!)

胸中で叫ぶ。

やがて『ホリゾンタル・スクエア』が終了するも、まだ終わらない。

開始される5連携目。

放たれたのは『バーチカル・スクエア』。

垂直に斬り上げ、斬り下ろしを繰り返す四連撃の片手剣ソードスキルだ。

左の剣が勢いよく振り出されたーーーーその時だった。

ピキッ! っと何かが割れるような音が聞こえてきた。

アルトが視線を向けると、キリトの右手の剣にヒビが入っている。

しかも、それは勢いよく増え続けていた。

(やはり来たな、耐久値の限界が! その剣はもう砕ける……これを防ぎきれば私の勝ちだ!)

見えてきた己の勝利にアルトの口角が上がっていく。

その間にもキリトのディバイネーションにもヒビが入り続けていった。

5連携目の『バーチカル・スクエア』は間も無く終了する。

このまま剣が砕ければ、そこで連携は途絶え、キリトに成す術はなくなってしまう。

 

 

ーーーーまだだ……まだだ!!

 

 

刹那、広がり続けていたヒビが、突如として止まった。

まるで剣が自らの意思を持ったかのようにーーーー

確実に剣は砕けると思っていたアルトは、目の前の現象に激しく動揺する。

直後に『バーチカル・スクエア』が終了。

大きく後ろへ引かれたヒビだらけのディバイネーションが紅いライトエフェクトを纏う。

「おおぉぉぉぉ!!!」

咆哮と共に放たれた6連携目、片手剣ソードスキル『ヴォーパル・ストライク』。

単発型の重突進攻撃だ。

強大な威力の刺突が至近距離から放たれ、切っ先が展開していた風の壁に接触したーーーーその瞬間、パァン!! と、風の壁が爆ぜ、アルトは大槍を弾かれて大きくノックバック。

ついに『風王の纏』の耐久値を削り切ったのだ。

「っ……お、のれぇ!!」

大きく体勢を崩されたアルト。

その無防備になった胴に、ヒビだらけのディバイネーションが突き刺さった。

「ぐ、あぁぁぁ!!」

強力な一撃がアルトのHPを勢いよく削っていく。

瞬く間にイエローからレッドに落ちーーーー

「ぁぁあっ!」

HPはゼロとなり、アルトの身体は爆散、リメインライトと化した。

それと同時に、キリトのディバイネーションが砕け散った。

キリトは砕けてポリゴン片となった愛剣に

 

 

ーーーーーーーーありがとな。

 

 

そう胸中で呟いた。

ウィナー表示が出現し、デュエル終了のブザーが鳴り響く。

残り時間はなんと1秒だ。

「試合終了ぉぉ!! 無敵に思われたアルト選手の風の防御! しかしそれを、ソードスキルを連携させるという離れ業で見事撃破したのは! 『黒の剣士』! キリト選手だぁぁ!! これによりキリト選手! 決勝進出けってぇぇぇぇぇい!!!!」

テンション冷めやらぬカナメ。

同様に観客達も湧き上がっていた。

大きく息を吐くキリト。

「見事だ」

そんな彼の背後から声をかけられる。

振り返ると、大会運営員の蘇生魔法で蘇ったアルトがいた。

「まさかあのような方法で『風王の纏』を攻略しようとは。ソードスキルの連携など、離れ業もいいところだ」

「あんたの槍の特性を考えたら、方法はそれしか無いって思ったんだ。ま、一か八かの賭けだったけどな」

アルトの言葉に苦笑いで返すキリト。

「……どうしてあのような賭けに出れた? 威力の高いソードスキルを連続で使用すれば、武器の耐久値が持たないことを貴方が計算しないはずはない」

「それはまぁ、考えはしたよ。けど、仲間が作ってくれた最高の剣が、そんな簡単に折れるとは思いたくなかったし、思えなかった。そして、結果的に剣は最後まで砕けなかった。きっと、武器に宿る熱が、俺の気持ちに応えてくれたんだって、俺はそう思うよ」

そう言ってキリトは笑う。

アルトは目を伏せ

「武器には想いが込められている……貴方が言っていた通りだな。どうやら私は自らの武器に頼りすぎるあまり、本質を見ていなかった。それこそが、今回の敗因だろう……」

そう言い、キリトに向き合う。

「最後にもう一つ聞かせてほしい。なぜ貴方はあの剣……『聖剣エクスキャリバー』を使おうとしない?」

そう言われると、キリトは少し考える素振りを見せるも、すぐにアルトに向き合う。

「あの剣は俺にとってただの伝説級武器じゃないんだ。アレは俺1人の力じゃなく、仲間とみんなで手に入れたものだから……だから、アレは決して俺自身の為だけには使わない。求められた時、それに応えたいと思った時だけ使う。そう決めてるんだよ」

言いながらキリトは笑う。

するとアルトも釣られたように笑みを浮かべ

「なるほど……私の完敗だ。だが、いつまでも負けたままでいる気はない。次に戦う時は勝たせてもらう」

「楽しみにしてるよ」

差し出された右手を、キリトは握りながら不敵に笑ってそう応えた。

 

 

決勝トーナメント準決勝第一試合 キリトVSアルト。

 

試合時間 4分59秒。

 

勝者、キリト。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あれ? ユウキとソラは?」

試合が終わり、観客席へと戻ってきたキリト。

辺りを見回すと、ユウキとソラの2人がいない事に気付いて疑問符を浮かべていた。

「お疲れ様です、パパ。ママとソラさんはもう控え室の方に行かれましたよ」

言いながらユイはキリトの右肩に乗ってちょこんと座り込んだ。

キリトはそんな愛娘の頭を指で撫でる。

「そっか。ありがとな、ユイ」

そのまま席に座って今度はリズベットへと視線を向けた。

「悪い、リズ。剣、折れちまった」

「いいわよ別に。壊したくて壊したわけじゃないでしょ? また作ったげるわよ。その代わり、材料は自分で調達してよね」

「了解。サンキュ、リズ」

リズベットの言葉にキリトは頷いて返した。

すると、シノンがキリトに視線を向け

「ところでキリト」

「ん? どうした、シノン?」

「次の試合、どっちが勝つと思う?」

問うてきた。

キリトは苦笑いを浮かべ、視線を決戦場に向ける。

「そうだな……正直なところ、わからないかな。ユウキとソラの実力差は微々たるものだし。それに……」

そこで一旦区切り

「俺もユウキも、ソラとデュエルしたことがないからな」

「え? そうなの、お兄ちゃん?」

そう言ったキリトに疑問符を浮かべているリーファ。

「嘘でしょ? あの三度の飯よりデュエルが好きなキリトが?」

「信じられません」

続けて言うのはリズベットとシリカだ。

キリトは不本意そうな表情で

「別にそこまでデュエルが好きなわけじゃないぞ」

「はいはい。でも、実際なんでソラとデュエルしたことがないのよ?」

キリトの言葉を軽く流しつつ、シノンが再び問う。

「ソラはSAO時代、トップギルドの副団長をしていたからってのもあるけど……ソラ自身、デュエルが好きじゃないんだ。デュエルは自分の実力を誇示するのによく使われる。ソラはそう言った戦いを自分からすることはなかったんだよ」

「確かにな。第一層のボス戦からの付き合いだが、あいつから誰かに挑んだって話は聞いたことがないぜ」

キリトに続いて言うエギル。

「根が真面目なんだよなぁ、ソラはよぅ」

「クラインとは大違いよねぇ?」

「うっせ! 臨機応変なんだよ俺は」

リズベットの言葉に、クラインはそう返す。

「クラインが臨機応変かはさて置いて。兎に角、対人戦においてのソラの実力を体感してるのは、この中じゃアスナだけだ。で、アスナからしたらどっちが勝つと思う?」

言いながらアスナ視線を向けるキリト。

対するアスナは少し考える素振りを見せ

「……そうだね。それぞれの持ち味を考えても、ソラさんの方が勝つ可能性は高いかな。決してユウキがソラさんに劣るってわけじゃないけど……」

そう応えた。

「なるほどね」

「でも、なんで急にそんな事訊いたんですか?」

「ちょっと気になっただけよ。深い意味はないわ」

疑問符を浮かべて訊ねるリーファにシノンはそう返す。

「あ、そろそろ始まるみたいですよ」

そう言ってシリカが決戦場へ指を指すと、カナメのアナウンスが流れ始めた。

「皆さん、お待たせいたしました! これより決勝トーナメント準決勝第2試合を開始いたします! まずはこの人、振るう剣は雷の如く、あらゆるモノを打ち砕く! ALO唯一の抜剣士! 『刃雷』ソラ選手ぅーーーー!!!」

紹介終了と同時にソラが決戦場へと現れた。

途端に巻き起こる歓声。

そのほとんどが女性のものだ。

「アスナ、顔怖いわよ?」

「ヤダなぁシノのん。別に怒ってなんてないよ私はー」

にこやかに笑いながら言うアスナ。

確かに表情はにこやかだ。

けれど目が笑ってない。

(((((((いや怒ってる。めっちゃ怒ってる)))))))

そんなアスナの様子を見てキリトたちは胸中で呟いた。

「続けてこの人! 呼ばれる二つ名は伊達じゃない! あらゆる敵を打ち破る、絶対の剣! 『絶剣』ユウキ選手ぅーーーーーー!!」

続いて行われた選手紹介。

終わると同時に決戦場へユウキが現れる。

大きくなる歓声の中、ユウキとソラは決戦場の中央へと歩み寄った。

「よろしくユウキ。いい試合にしよう」

「もちろんだよ」

そう言葉を交わし、2人は装備メニューを開いた。

装備の確認をしていると、不意にユウキがソラへと視線を向けて

「ねぇ、ソラ」

「なんだい、ユウキ」

「ソラはさ、なんでこの大会に出場したの?」

そう問いかけるユウキ。

疑問符を浮かべているソラに、ユウキは構わずに言った。

「だってさ。ソラって自分からデュエルすることってないでしょ? 自分の力を誇示するの好きじゃないみたいだし。なのに、こういう大会に出たのがなーんか不思議でさー。優勝賞金や賞品が目的ってわけでもなさそうだし。それで気になってね」

「はは。確かに賞品や賞金が目的じゃないかな。……戦いたい人がいるんだよ。2人ね。その1人は今、目の前にいて、もう1人はこの戦いの先にいる」

そう言ってユウキを見据えるソラ。

「それって……」

「あぁ。僕は君達と戦ってみたかった」

それを訊いて、ユウキは一瞬呆気にとられるも、すぐに噴き出して

「なにそれ。ボク達とデュエルしたかったんなら気軽に声掛けてくれればよかったのに?」

そう言われたソラは少し照れたように頭を掻き

「そうなんだけどね……なんとなく理由がつけられなくて」

「そっか。うん、わかったよ。そういうことなら、手抜きはしないでね」

「もちろんだ。君こそ、全力で来てくれ」

言い終わると、ソラは装備メニューを閉じ、デュエル申請のウインドウを開いて操作する。

操作が終わり、ユウキの目の前にデュエル申請ウインドウが表示された。

『完全決着モード』をタップすると、ウインドウが閉じ、カウントダウンが始まった。

愛剣『マクアフィテル』を抜き放ち、構えを取るユウキ。

同様にソラも『銀竜刀』を抜き、さらに左手に鞘を握って構えを取った。

やがて、カウントがゼロになり、デュエル開始のブザーが鳴り響く。

直後、ユウキとソラは同時に地を蹴って駆け出した。

「やぁ!」

「はっ!」

間合いが詰まり、同時に振り出された剣は、交差し激しい金属音を響かせる。

それを皮切りに、互いに斬撃と刺突の応酬が始まった。

何度か打ち合った後、ユウキがバックステップで間合いを離す。

マクアフィテルを後ろに引き、勢いよく突き出した。

ソラはそれを難なく躱し、右斜め上からの袈裟斬りを放つ。

迫り来る刃を、ユウキは瞬時に剣を引き戻して防御、ぶつかり合った剣同士がまたも金属音を響かせる。

互いの剣が離れると同時に2人は僅かに距離を取る。

着地と同時に駆け出したのはユウキだ。

対するソラは動かない。

が、不意に剣を左手の鞘へと納めて構えを取った。

それを見たユウキはブレーキを掛けて速力を緩めつつ、剣を水平に構えて防御姿勢に入った。

2人の間合いが一メートルになるかならないかの距離になった時

「おぉ!」

鞘に納められていた刃が、白いライトエフェクトを纏い、縦一線垂直に抜き放たれる。

ソラのOSS『飛燕一閃』。

かつてSAO時代に取得していたユニークスキル『抜剣』のソードスキルを模倣し、OSSに登録したものだ。

迫り来る刃を、ユウキは更にブレーキ掛けて停止、更に身体を後ろに引いて構えていた剣で防御することで直撃を免れた。

一気にHPの2割近くを持っていかれ、更には衝撃が激しかったのか、ユウキは後退を余儀なくされ、技後硬直を課せられているソラへ反撃を仕掛けることができなくなった。

ユウキが体勢を整えたと同時に、ソラの技後硬直も解けたようで、再び構えをとっている。

形勢は一気にHPを削られたユウキの不利に見えるが、ソラのHPも減っていないわけではない。

ユウキの剣速はALO随一といえるものだ。

それを全てノーダメージで躱すのは、幾らソラといえど至難の技である。

故に、互いHP残量はほぼ同じくらいだ。

「ひえー……体感してますます思うけど、やっぱりその速さインチキだよねー。タイミングズレてたら確実にやられてたもん」

「そのつもりで撃ったんだけどね。これを防御したのはアスナに続いて君が2人目だよ」

「それって素直に喜んでいいのかなぁ、ボク」

苦笑いを零した後、ユウキはすぐにソラを見据えて

「でも、もう簡単には撃たせないからね」

「わかってるさ。何度も同じ手が通じる相手じゃないからね、ユウキは。だから……遠慮なく、奥の手を使わせてもらうよ」

ユウキの言葉にそう応え、ソラは左手の鞘を腰に着け、そのまま左手を翳してスペル詠唱を開始した。

唱えたのは初級の水属性魔法『アクアパイル』。

円型のカッターを相手に向かって放つ魔法だ。

普段魔法を使わないソラがスペル詠唱したことに動揺しつつも、ユウキは躱すために構えを取る。

しかし、詠唱が終わっても水属性魔法は放たれることなくソラの左手で待機状態になっていた。

疑問符を浮かべるユウキと、騒ついている観客達。

ソラは銀竜刀を水平に構え、魔法を待機状態にしている左手の人差し指と中指を刃に当てながら

「『銀竜刀』固有スキル発動……『エンチャント』!!」

そう言って当てていた指を奔らせる。

すると、途端に白銀の刃が青い輝きを纏い、小さくスパークを奔らせはじめた

 




青く染まる白銀の刃。

放たれる一撃は、少女に容赦なく襲いくる。


次回「エンチャント」

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