ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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お久しぶりです。とりあえず生きてます。

体調不良と仕事量と地元行事が異常なほど重なって、執筆する時間がまともに取れなかった……





では76話、始まります。



第七十六話 決勝トーナメント

「りゃぁぁぁ!!」

「ぬぅん!!」

咆哮と共に繰り出された刀と旋斧が、交差し激しい衝撃音を響かせる。

斧の圧力に負けそうになるも、クラインは刀を素早く戻し、体勢をずらして再度攻撃に転じた。

それなりの速さを持った連続の斬撃を、エギルは斧で受け止めながら防御する。

クラインが刀を引いた瞬間、エギルは目を見開き、渾身の力で斧を振るった。

「どらぁ!!」

右斜め下から左斜め上に向けての斬り上げ。

クラインは咄嗟に刀を構えて防御する。

ガギンッ! と凄まじい衝撃がクラインを襲い、同時にHPを減少させた。

「ちぃ!」

舌打ちし、地を蹴って後退するクライン。

距離を取って刀を構えなおし

「あっぶねー……ったく、相変わらずの馬鹿力だな。防御したのに結構持っていかれちまったぜ」

「あれならもう少し削れると思ったんだが……流石に簡単にはいかんか」

同じように斧を構え直して言うエギル。

間を置かずに2人は駆け出し、再び得物を振るった。

武器同士による渾身の殴り合い。

刀と斧がぶつかり合う度に、激しい金属音が響き渡る。

男2人の激しい攻防に、会場中が沸いていた。

そんな中、観客席からクライン達の対戦を見ていたシリカが首を傾げて

「なんでクラインさんもエギルさんも、ソードスキルを使わないんでしょう?」

疑問符を浮かべながらそう言った。

「そう言えばそうだね……なんでだろ?」

彼女の言葉にリーファも疑問符を浮かべている。

「使わないんじゃない。使えないんだよ」

そんな二人にそう言ったのはキリトだった。

「どういう事よ?」

キリトに視線を向けながら問うシノン。

「2人は旧SAOで俺達と同じ最前線の攻略組だった。クライン率いる風林火山と、エギルのパーティーはよく連携を取り合っていた。つまり……」

「連携を取っていたからこそ。2人は互いの手の内を知り尽くしている。どのソードスキルが得意なのか……ね」

キリトの言葉に続けてソラが言う。

「そっか……だから2人ともソードスキルを使ってなかったんだね」

納得したように言うアスナ。

そうこうしているうちに、2人の戦いも大詰めへと差しかかっていた。

残り時間はすでに一分を切り、互いのHPはレッドゾーン手前まで減っている。

「りゃぁ!」

放たれた袈裟斬りがエギルを襲う。

それを斧で防御しつつ、彼は身体を思いっきり振り絞った。

「おぉらぁぁ!!」

咆哮を上げて放った右斜め下からの斬り上げ。

クラインは咄嗟に刀を引いて防御する。

鈍い金属音が会場に響き、次いでクラインは後方へと押し返され、体勢を崩してしまった。

好機と言わんばかりにエギルはニヤリと笑い、斧を振りかぶってクラインへと突撃する。

渾身の力で放たれる攻撃。

それはクラインへと――――当たる事はなかった。

なぜなら、彼は自身の身体を無理矢理右へと捻り、エギル渾身の一撃を躱していたからである。

「なっ!!」

驚いて目を見開くエギル。

慌てて斧を引き戻しにかかるが、すでに遅かった。

躱しながらクラインは同時に刀を振るっていたのである。

「だぁ!」

その一閃はエギルの左脇腹へと食い込んでHPを奪い取る。

彼のHPが遂にレッドゾーンへと突入した――――直後、デュエル終了のブザーが鳴り響いた。

制限時間の5分が来たという事だ。

時間切れの場合、勝敗はHPの残量が多い方が勝者となる。

エギルは先程レッドになり、クラインはギリギリだがイエローで止まっていた。

これにより、勝敗が決する。

「試合終ぅ了ぉ!! 激戦を制したのは、クライン選手だぁぁ!!!」

「おっしゃぁ!」

刀を鞘に収め、ガッツポーズをとるクライン。

そんな彼に、獲物である斧を背負ったエギルが歩み寄り

「やられたぜ。まさかあそこであんな回避してくるとはよ」

「へっ。一か八かだったけどな」

笑いながら言うクラインにエギルはやれやれと肩を竦めた後、右手を差し出し

「頑張れよ、決勝トーナメント」

「おうよ!」

言ってきたエギルにそう返し、クラインは彼の手をがっちりと掴んだ。

これで予選トーナメント全ての試合が終了し、決勝トーナメント進出の8名が決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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予選トーナメントが終了し、現在時刻は12時を回っていた。

決勝の開始予定時刻は13時からだ。

その為、様々なプレイヤー達が昼食を兼ねてローテアウトしている。

それはキリト達も例外ではないようだ。

先に落ちていたリーファとアスナ、ソラとシリカが再ログインしてきたのを確認すると、残っていたキリト達が一斉にログアウトする。

「あ、もうトーナメント表が表示されてますよ」

そう言ってリーファがホロパネルを指差す。

そこにはすでに決勝トーナメントの対戦カードが表示されていた。

第一試合はキリト対マジク。

第二試合はユージーン対アルト。

第三試合はソラ対リーファ。

第四試合はユウキ対クラインだ。

「うわー。右半分は見事に身内ばかりですね」

「だね。ソラさん、全力でいきますからね」

シリカの言葉に頷きながら、リーファはソラに視線を送ってそう言った。

対するソラは不敵に笑い

「こちらこそ、お手柔らかにね」

そう返した。

「でも、キリト君の対戦相手と、ユージーン将軍の対戦相手の2人って何者なんだろう?」

「古参の君も知らないのか、アスナ?」

「はい。私は知らないです。リーファちゃんは?」

言いながら視線を送ったリーファは首を横に振り

「私も知らないですね。でも、決勝トーナメントに勝ち進んでるって事はかなりの実力者てある事は間違いないかも」

「どんな相手でも関係ないさ。俺は俺の全力で戦うだけだよ」

難しい表情をしながら言ったリーファの言葉に続くように聞こえてくる声。

皆が驚いて振り向くと、いつの間にかキリトが再ログインしていたようだ。

「おかえりなさいです、パパ」

「あぁ、ただいま、ユイ」

肩に乗ってきた愛娘の頭を、キリトは人差し指で優しく撫でる。

「やはりというか、君ならそう言うか」

呆れ顔で言うソラ。

「でも、ホントに大丈夫、お兄ちゃん。相手の情報、武器が短剣ってくらいで、ほとんどないようなものだよ?」

「確かにそうなんだけどな。ま、なるようになるさ」

心配そうに言うリーファに、キリトは言いながら不敵に笑っていた。

あまりにも彼らしい能天気さに、ソラ達は苦笑いだ。

そうこうしていると、ユウキ達も再ログインして戻ってきた。

そして時刻は12時50分となった。

「間もなく、決勝トーナメントを開始します。第一試合の対戦選手は控室までお願いします」

実況のカナメからのアナウンスが聞こえ、キリトは観客席から立ち上がる。

「さて、行ってくるか」

「パパ、頑張ってください」

「ユイちゃんと応援してるからね、キリト」

控室に向かおうとする彼に、ユウキとユイからの応援の言葉が贈られる。

キリトは振り返って

「あぁ」

短くそう返し、控室へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「皆さん。長らくお待たせいたしました。これより、決勝トーナメント第一試合を開始いたします!!」

カナメの言葉と同時に、観客席から待ってましたとばかりに歓声が沸き起こる。

「まずは右にご注目!! 圧倒的な強さで勝ち上がってきたのは皆さんご存じ! 黒尽くめ先生こと、『黒の剣士』キリト選手だぁ!!」

紹介と同時に、キリトが決戦場へと足を踏み入れる。

途端に観客達の歓声が大きくなった。

まぁ、中にはキリトにいい印象を持っていないものからのブーイングも含まれているが―――当のキリトは気に留めずどこ吹く風だ。

そんな中で

「キーリトー!! 頑張れぇー!!」

「パパー!」

聞こえてきた恋人と愛娘の声援。

キリトは振り向いて不敵に笑って見せた。

「そしてお次は左側! 数多いる出場者の中で、唯一と言っていい短剣使いの新鋭! マジク選手ぅーーーーー!!!」

次いで紹介されたのは対戦相手のプレイヤーだ。

身長はキリトより高く、漆黒のマントを身に着けている。

アカウントを作った時の引きがよかったのか、はたまた追加料金を払ったのかは定かではないが、顔立ちも中々に整っていた。

「君が噂に名高い『黒の剣士』か。お手柔らかに」

「あぁ、こっちこそ」

対戦相手―――マジクからの言葉にそう返すキリト。

互いに装備のチェックをし、キリトからデュエルの申請をする。

マジクが『完全決着モード』をタップすると同時に、カウントダウンが開始された。

背中の『ディバイネーション』を抜き、構えるキリト。

対する彼は武器を構えずにいる。

否、抜いてすらいなかった。

その様子に観客達はざわついている。

向き合っているキリトも訝しんだ表情だ。

(……予選での彼の戦いはモニターで見たが、メインの武器で確かに短剣を使っていた筈だが……もしかすると……)

そう、彼―――マジクというプレイヤーはメイン武装として短剣を使用している。

戦い方は至ってシンプルで、初級の攻撃魔法で相手を牽制しつつ、短剣による攻撃をヒットさせるというものだ。

控室からモニターで彼の予選での戦いを見ているキリトはどうにも腑に落ちないといった表情だ。

向けた視線の先のマジクは見た目では隙だらけに見える。

けれど、感じる雰囲気からは隙らしい隙は一切見当たらない。

やがてカウントが10を切り、キリトを始め、観客達にも緊張が奔る。

そしてついに、カウントがゼロになりデュエル開始のブザーが鳴り響いた。

愛剣を構え、キリトは地を蹴って駆けだした。

対するマジクは右手を翳し、スペル詠唱を開始――――したかと思えば翳した右手から4発の火球が放たれた。

火属性の初級魔法『ファイアボール』だ。

四つの火球は勢いよく空を翔け、キリトへと迫っていく。

キリトは駆けるの止め、ブレーキをかけて停止。

その間にも火球は勢いよくキリトへと迫り、彼が体勢を変えようとした直後に爆煙。

辺りに土煙が広がっていく。

すると、マジクは上空に視線を向けて、右手を突き出しスペル詠唱。

観客達も彼の視線の先へと目を向けると、そこには黒衣のスプリガンがいた。

火球が直撃する瞬間、彼は跳躍して上空へ躱していたのだ。

そのまま剣を振りかぶり、マジクへと落下していく。

落下速度を利用して斬撃の威力を上乗せする気だろう。

が、そうはさせないと言わんばかりに再びマジクの攻撃魔法が放たれる。

突き出された右手から放出された炎が二つに別れ、矢となってキリトに向かい撃ちだされた。

火属性魔法『フレイムアロー』である。

迫りくる炎の矢を、キリトは身体を捻りながら躱し

「はぁ!!」

勢いよく斬撃を繰り出した。

その一撃はマジクの脳天へと――――直撃せずに空を切った。

キリトが斬撃を放つ直前にバックステップで回避していたからだ。

着地したキリトは再び剣を構えて駆けだした。

一気に間合いを詰め、今度は横薙ぎによる一閃。

が、それは赤い炎の壁で防がれる。

バックステップで後退する前にスペルを詠唱していたのだろう。

火属性の防御魔法に攻撃を阻まれたキリトは地を蹴って後退した。

剣を構えて、マジクを見据えながら

「……なるほど。これがアンタの本当のバトルスタイルか」

「その通りだよ。魔法特化による戦闘……それが僕のスタイルさ」

キリトの言葉に、マジクは不敵な笑みを浮かべながらそう返した。

「メイジってことか」

「ウィザードと呼んでほしいね。このスタイルにする為に僕は初級魔法はほぼ全て熟練度をカンストしているし、『高速詠唱(スピードスペル)』と移動しながらでも詠唱を可能にする『移動詠唱(ムーブスペル)』も取得している」

それを聞いた観客席のリーファとアスナは驚きを隠せない様子で

「うそでしょ……あの人、完全に魔法戦に特化してる」

「普通、魔法戦特化型のプレイヤーはPvPには不向き……なのに、ピュアファイターのキリト君と互角に渡り合うなんて……」

そう口にした。

ALO古参の彼女達が驚くのも無理はない。

本来、魔法に特化したプレイヤーはパーティー戦で重宝されるからだ。

前衛がタゲを取っている間に、後衛から高火力の魔法攻撃の援護をする。

それが魔法特化型プレイヤーの主な役割となるからである。

更に言えば、魔法に特化したプレイヤーは基本、武器による戦闘には不向きなのだ。

言うまでもないが、優先してあげているスキル熟練度が魔法系ばかりだからである。

多少は武器系統のスキル熟練度もあげているかもしれないが、完全な武器系特化型にはまともに渡り合えないだろう。

にもかかわらず、マジクはキリトと互角に渡り合っている。

その事実が周囲の観客達をも驚かせていた。

ざわつく観客達。

しかし、キリトは多少驚きはしたものの、動揺はしていない。

まるで予想していたかのようだ。

「随分と冷静だね」

「まぁな。なんとなくだが、予選では本当のスタイルを隠してる気がしてたし」

それを聞いたマジクはフッと笑って

「当然だろう? 最初から自分の手の内を全て晒す程、僕は人がよくないからね……しかし、予想以上の強さだ。流石は『黒の剣士』だね」

「二つ名呼びは勘弁してほしいな……アンタも予想以上の強さだ。けど、負けるつもりはないぜ」

かけられた言葉に、キリトも不敵に笑いながら返す。

すると、マジクの表情から笑みが消える。

「……本当に予想以上だよ……」

そう呟き、右手を翳した――――――瞬間、彼の周囲に幾つもの火球が出現した。

その数は12

いきなりの現象に、キリトは目を見開く。

(な、なんだ?! いつの間にスペル詠唱を? いや、そんなそぶりは一つも見せてなかったぞ?!)

思考を巡らせるキリト。

そんな彼を見据えながら

「……だから、僕も全力をもって君を屠る!!」

そう言った瞬間、12の火球が勢いよく放たれた。

それは凄まじい速度で空を翔けていく。

キリトは躱そうとしたが、すぐに剣を構えて防御の姿勢を取った。

直後、火球は彼のいる場所へと雪崩れ込む。

凄まじい爆音が闘技場の中に響き渡り、次いで爆煙が舞いあがった。

 




休む間もなく炸裂する魔法の嵐。

明らかな劣勢の中、少年は――――



次回「スペルストック」

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