ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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暑い日が続きますね……みんな熱中症には気をつけましょう。





では75話、始まります。



第七十五話 絶剣と閃光

満を持して開催された『ALO統一デュエルトーナメント』は、予選から大歓声の嵐だった。

理由は多々あるが、一番なのは優勝候補のプレイヤーのほとんどが予選で当たることなく別けられていたのが大きいだろう。

時刻は午前11時過ぎ

朝の9時から始まった予選はすでにAからEまで終了し、先程Fブロックの決勝も終了した。

Fブロック決勝の対戦カードはリーファVSカゲムネ。

シルフ狩りの名人とも言われるだけあってかなりの実力を持つカゲムネであったが、現実で剣道をやっており、尚且つ兄であるキリトに負けるとも劣らないバトルセンスを持つリーファに一歩及ばず、軍配が上がった。

これにより、6人が決勝トーナメントに進む事が確定した。

Aブロックはキリト。

Bブロックはマジクというプレイヤー。

サラマンダー族で、装備は短剣のようだ。

Cブロックはサラマンダーの将軍ユージーン。

Dブロックはアルトという女性プレイヤーだ。

種族はウンディーネらしく、顔はフルフェイスの兜で解からないものの、装備は長槍である事がわかっている。

Eブロックはソラ。

そして、Fブロックは先の通りリーファである。

残るは二枠、つまりGとHブロックの優勝者だ。

「ふー。よっし! 決勝トーナメント進出だよ!」

決勝トーナメント進出を決めたリーファが笑顔でキリト達のいる観客席へと戻ってきた。

「お疲れ、リーファ」

「次はGブロックの決勝だよね? 対戦カードは予想通りというかなんというか」

言いながらホロパネルに目を向けるリーファ。

そこにはアスナとユウキの名が表示されていた。

そう、次の対戦は観客達の楽しみにしていた対戦カードの一つだ。

『黒の剣士』キリトの相棒として名高い『絶剣』ユウキと、ウンディーネ領を支える支柱の一人『閃光』のアスナ。

一体どちらが強いのか、勝つのはどっちだと皆が対戦が始まるのを今か今かと待っているのだ。

「ユウキさんとアスナさんの対戦か―。どっちが勝つかなぁ?」

「そりゃユウキだろ」

「アスナが勝つさ」

リーファの言葉に、キリトとソラがほぼ同時に言う。

途端、周囲に冷たい風が吹いた――――ような感じがした。

「ユウキにはSAOでの経験値があるからな。潜ってきた修羅場の数が違う」

「確かにそうだが、アスナも相当の場数は踏んでるよ。それに、彼女は勤勉だ。惜しまない努力は時に思いもよらない結果を生む事がある」

横目で互いに視線を送りつつ言い、少しの沈黙。

「「ははははは」」

そして同時に笑いだす。

顔は笑顔だが声が笑ってない。

「こわ……」

「彼女馬鹿、ここに極まるですね」

「重症ね」

「あっほらし……」

上からリーファ、シリカ、シノン、リズベットの順でのコメントだ。

そうこうしていると

「お待たせしましたー! これよりGブロック予選決勝を始めまーす!」

実況のカナメの声が響いてきた。

「まずはこの人! 閃く刃は光の如く! ウンディーネ領を支える支柱の一人『閃光』! アスナ選手ぅ!!!」

紹介と同時にアスナが現れ、観客から歓声が巻き起こる。

応援の声がほとんどだが、その中に「結婚してくれ―!」というふざけた声があったようで、ソラの眼光が瞬時に鋭くなった。

苦笑いのキリト達。

「お次はこの人だ! 繰り出す剣は絶対不変! 『黒の剣士』の相棒として名高い『絶剣』! ユウキ選手ぅ!!!」

同じように、ユウキが現れるとまたも歓声。

先程と同じように、またも「結婚してくれ―!」という声が聞こえ、今度はキリトの目が鋭くなった。

するとキリトは立ち上がり

「頑張れ、ユウキー!!」

声援を送る。

それを見たソラも立ち上がり

「アスナ! ベストを尽くせ!」

同じように声援。

その様子に、決戦場にいるユウキとアスナは

「あはは……」

「もう、ソラさんってば……」

呆れ半分、嬉しさ半分といったところだ。

2人はそれぞれの恋人へと視線を向け、右手を握り、親指を立てて突き出した。

「さてと、キリトの声援を受けたボクはいつもより強いよ。覚悟してね、アスナ」

「こっちだって、ソラさんの声援を受けたからね。負けないわよ、ユウキ」

互いにそう言って、アスナはメニューを開いて操作する。

すると、ユウキの目の前にデュエル申請のメッセージが表示された。

ユウキは迷うことなく完全決着モードのボタンをタップする。

途端にカウントダウンが始まった。

ユウキは愛剣『マクアフィテル』を、アスナは『シルバリック・レイピア』抜き放つ。

構えを取って互いを見据え、時が来るのを待つ。

観客達も緊張した様子で息を呑む。

やがて、カウントがゼロになり、デュエル開始のブザーが鳴った。

同時に制限時間の5分が表示される。

ブザーが鳴るや否や、ユウキとアスナは地を蹴って駆け出した。

「やぁ!」

「せぇ!」

放たれたのは互いに刺突。

刃が交差し、澄色の火花が散った。

すれ違った刃が、互いの頬を掠めHPを減少させる。

瞬時に剣を引き戻し、再び繰り出される互いの剣。

連続で繰り出されるアスナの刺突を、ユウキは武器防御しつつ躱し、連続斬撃を放つ。

同様にアスナもそれを武器防御しつつ躱していた。

が、やはり完全に躱しきれないのだろう。

2人のHPは徐々に、けれど確実に減っていた。

剣と剣が火花を散らしてぶつかり合う度に、観客席からは歓声が巻き起こる。

速さを信条としている2人の剣は、交差する度に澄色の火花を起こし、まるで星が瞬いているかのように見えるのだ。

HPがイエローまで落ちたのを確認すると、2人は一旦距離を取る。

残り時間は3分だ。

「やるね、アスナ。正直捌くのがやっとだよ」

「ユウキこそ、『絶剣』の名は伊達じゃないね」

そう言うと、2人は再び得物を握り直し構えた。

しかし、今度は駆けださない。

(思った以上に剣速が速いなぁ……このままじゃジリ貧だよ……なら、やる事は一つだね)

(凄いなぁ。剣速は完全に私以上だし、重さもソラさん並にあるから、このまま長引いたら私の方が確実に不利になる……だったら)

そこで一旦思考を切り

((ソードスキルで一気に押し切る!!))

互いを鋭く見定め、勢いよく駆け出した。

「でぇりゃ!」

「はぁ!」

再び交錯する剣と剣。

打ち付けては離れ、また打ち合う。

2人とも測っているのだ。

ソードスキルを撃つ最良のタイミングを。

アスナから放たれる三連刺突。

軌道は中段から上段二連。

ユウキは中段の突きは躱し、残りの上段は剣で受け止めてガードする。

素早く剣を引き、ユウキは数歩後退した。

思いっきり身体を捻り、剣を目一杯引き絞っている。

(! これは、ソードスキル?!)

思考が巡った直後、アスナも剣を引いてモーションを起こした。

彼女の細剣が赤いライトエフェクトを纏い、直後に勢いよく突き出された。

星型の頂点を辿るように放たれる高速五連刺突、OSS『スターリィ・ティアー』だ。

アスナが持ちえる最大の火力と速力を誇る必殺剣がユウキの身体を――――貫くことなく空を切った。

なぜなら、ユウキが思いきり身体を右側へと捻って逸らしたからだ。

アスナの目が見開かれる。

(しまっ……!)

思考が巡った時OSSが終了し、技後硬直がアスナの動きを止める。

(これ、誘導されっ……!)

そう、ユウキは自分が仕掛けると見せかけて、アスナにソードスキルを『撃たせた』のである。

アスナが思考を巡らせる中、ユウキは再び身体を捻って剣を引き絞った。

「やぁぁ!!」

刀身に青紫のライトエフェクトが纏い、勢いよく突き出された。

超高速11連刺突、OSS『マザーズ・ロザリオ』。

技後硬直によって動けないアスナの身体を、青紫の閃光が十字を描くように突き穿つ。

その威力はあっという間に彼女のHPを奪い去り

「ッ……!!」

ゼロになった瞬間、エンドフレイムを散らしリメインライトと化す。

直後にウィナー表示が出現した。

「決まりましたぁーーーー!! 勝者、『絶剣』ユウキ選手ーーーーー!!」

カナメのウィナーコールが会場に響くと、観客からも大歓声が巻き起こる。

これにて、Gブロックの勝者が決まり、残るはHブロックのみとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「はぁ……負けちゃったぁ……」

「でもでも、あそこで誘導に乗ってくれなかったらちょっとアブなかったんだよねー」

大会運営員の蘇生魔法によって蘇生したアスナはユウキと共にキリト達のいる観客席へと戻って来ていた。

先程のデュエルを振り返り、アスナが残念そうに言う横で、ユウキは満足そうに笑っている。

「結果は残念だったけど、君はよく戦ったよ」

隣で落ち込み気味なアスナにソラが言いながら彼女の頭に手を置いて優しく撫でた。

途端にアスナは頬を赤く染めるも、嬉しそうに目を細める。

それを見たユウキは少々羨ましそうな表情をし、自身の隣に座るキリトを横目で見やった。

キリトは呆れた表情で

「しょうがないな。ユウキ、よく頑張ったな」

言いながら彼女の頭を撫でた。

「えへへー」

途端にユウキは表情を緩ませる。

そんな二組のカップルに、リズベットを始めとするメンバー達は呆れ交じりの溜息を吐いた。

ただ一人、ユイだけは「仲良しさんですねー」と言いながら、のほほんと笑っている。

近くにいた観客達も呆れた溜息、もしくはキリトとソラに対して嫉妬の視線を向けている。

中には血涙を流している男性プレイヤーもチラホラいるようだ。

「ほらほら。アンタ達がイチャついてる間に次の試合始まりそうよ」

リズベットがそう言うや否や、キリトとソラは頭を撫でるのをやめる。

ユウキはちょっと不満そうな表情で、アスナは恥ずかしくなったのか赤面だ。

男2人は苦笑いである。

直後、カナメの声が響いてくる。

「皆さん、お待たせしました! これより予選Hブロックの決勝を行いまーす!! まずはこちら! 唸る旋斧が大地を砕く! エギル選手!!」

「さぁて、やるか!」

気合充分といった様子で現れるエギル。

「そしてお次は! 突き進むは武士の道! クライン選手!!」

「っしゃぁ!」

クラインもまた気合を入れながら、決戦場へと現れた。

「このHブロックの勝者が決まれば、決勝トーナメント進出の八名が全て決まります。最後の椅子を手に入れるのはエギル選手か? それともクライン選手か? では、お二人とも装備の再確認の後、デュエル申請を行ってください!」

言われた2人は同時にメニューを開いて装備をチェックする。

変更するものはないようで、数秒の確認の後に装備メニューは閉じられた。

次いでクラインがデュエル申請を行い、エギルの前にウインドウが出現。

完全決着モードをタップすると、カウントダウンが開始された。

「さて、クラインよ。手加減はしないからな?」

「へっ! そりゃこっちの台詞だぜ、エギル!」

互いにそう言うと、クラインは刀を、エギルは両手斧を握って構えた。

カウントがゼロになると同時にブザーが鳴り響く。

制限時間が表示され

「おらぁぁ!!」

「うらぁぁ!!」

大きな咆哮を上げて突撃する。

ここに、決勝トーナメント出場の最後の椅子を賭けた戦いが始まった。

 

 

 




ついに決まった決勝トーナメント進出者。


激戦は更に加速する。


次回「決勝トーナメント」

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