ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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お待たせいたしやした!
ついに始まりましたデュエルトーナメント編!栄光を手にするのは一体誰だ!!




では74話、始まります。


統一デュエルトーナメント
第七十四話 統一デュエルトーナメント


2026年 2月7日 新生アインクラッド22層

 

森の中に建つ一件のログハウス。

スプリガンの少年がソファーに座ってメニューウインドウを開き、真剣な表情で眺めている。

不可視状態で出ている画面は装備欄だ。

幾つか操作をした後、ウインドウを閉じて大きく背伸びする。

「キリト、終わったの?」

呼ばれた少年―――キリトは振り返り

「あぁ、なんとか纏まったよ、ユウキ」

言いながら振り返り、声を掛けてきたインプの少女―――ユウキに笑いかける。

彼女の手にはトレーがあり、そこには2人分のティーカップ。

中には彼女の特製ハーブティーが注がれていた。

キリトの横に座り、カップの一つを彼の前に置く。

それを手に取ってキリトはハーブティーを一口啜った。

ラベンダーに似た香りが鼻腔をくすぐり、仄かな甘みが口いっぱいに広がった。

「ユウキはどうなんだ? もう明日だぞ、今年最初の目玉イベント『ALO統一デュエルトーナメント』は」

カップを置いてキリトは隣で同様にハーブティーを口にしている。

ユウキもカップを置いて

「だいじょーぶ、もう準備は出来てるよ。って言っても装備はほとんど変わんないんだけどね」

てへへと笑いながらそう答えた。

そう、先程キリトは明日開催されるイベント『ALO統一デュエルトーナメント』に出場する為に装備を見直していたのだ。

年明けすぐに告知されたこのイベントに、ALOで自分こそ最強と謳っているプレイヤー達は我先にとエントリーをしていたものだ。

無論、戦闘馬鹿のキリトも告知を見た瞬間エントリーしている。

「確か、ボク達だけじゃなくて、他にもみんな出るんだっけ?」

「あぁ。ソラにアスナだろ、後はリーファとクラインにエギルも出るって言ってたな。リズやシリカ、シノンはパスって言ってたけど」

自分達の仲間内で出場するメンバーを次々に言っていくキリト。

「あー。リズってば確か「あんたらバケモンとアタシ等並のプレイヤーを一緒にしないでよ」って言ってたっけ」

言いながらユウキは苦笑いを零した。

職人系のプレイヤーであるリズベットだが、決して戦闘力が低いわけではない。

彼女もキリトやユウキ同様に、2年間のデスゲームを生き残っているのだから。

それはシリカもそうなのだが、それでもやはり第一線で戦ってきたキリト達と比べれば、やはり戦闘力差は出てしまう。

故に今回のイベントにリズとシリカは参加せず、観戦する事にしているのだ。

一方のシノンだが、彼女は元々GGOで戦ってきた経験がある為、キャラクターを作って間もないALOでも古参であるリーファやアスナに引けを取らない立ち回りが出来ている。

だが、今回はプレイヤーの各データを集めたいという理由で参加せずに観戦に徹するようだった。

他にもサラマンダーの将軍ユージーンを始めとした猛者達が出場する事がわかっている。

今頃ソラ達も明日の戦いの為に準備をしている事だろう。

「楽しみだなー。強い人と戦えるのは楽しいからね」

「だな。けど、どうせ出るなら狙うはただ一つ、優勝だよな」

「あはは。ボクもかな。キリト、もし戦う事になっても、手は抜かないでね?」

「もちろんだ。ユウキこそ、手加減するなよ」

そう言ってから2人は微笑み合う。

すると、彼らの傍に愛らしい小妖精が飛翔してきた。

目の前で止まり、小さな体が一瞬輝くと、小妖精は10歳くらいの少女の姿へと変わる。

艶やかな黒い長髪をなびかせて、キリトとユウキを見て

「パパとママが対戦する事になったら、私はどっちを応援すればいいんでしょう?」

可愛らしく首を傾げてそう言った。

「それはユイが応援したい方を応援すればいいぞ。な、ユウキ?」

「そうだよ。ユイちゃんの好きにしていいからね?」

そう言いながらキリトとユウキは目の前の少女―――ユイへと微笑んだ。

するとユイは花のような笑顔を浮かべて

「じゃぁ、パパもママも応援しますね!」

そう言ってソファーに座る2人の間に彼女も腰掛けた。

ユウキはそんな愛娘の頭を微笑みながら優しく撫でる。

その光景をキリトは微笑ましそうに眺めていた。

 

 

一方

 

 

イグドラシルシティ リズベット武具店

 

 

「はい。メンテ終了よ」

「ありがとう」

そう言って先程までメンテをしていた剣を、目の前のウンディーネの青年に差し出すレプラコーンの少女。

受け取った愛剣を再び装備し、青年は少女へ料金を支払った。

「ごめんね、リズ。急にメンテナンス頼んじゃって」

「気にしなくていいわよ。これも仕事だからね。って言っても、あの痛み方は尋常じゃなかったけど……一体何やったらあぁなるのか教えてほしいわ」

申し訳なさそうに言うもう一人のウンディーネの少女に、レプラコーン―――リズベットは言いながら青年のほうをジト目で見やった。

当の青年は苦笑いだ。

「ちょっとね……」

「まぁ、深くは聞かないでおくわ。それより、明日のデュエルトーナメント、ソラとアスナも出るんでしょ?」

言われたウンディーネの2人――――ソラとアスナは顔を見合わせた後互いに頷いた。

「うん、そうだよ」

「僕も自分の実力を試したくなったからね。君は出ないのかい?」

「出るわけないでしょ! そりゃ少しは戦える自信はあるけど、アタシは基本職人だってーのよ」

問われたリズベットは呆れ交じりの声でそう言った。

その様子にアスナはクスクスと笑っている。

「ふふ。ユウキにも同じ事聞かれて、同じ事言ったんだよね」

「なるほど。という事は、身内で出るのはキリトにユウキ、クラインさんとエギルさんにリーファ、そして僕とアスナか。他にも沢山の出場者がいるって聞いてるから、油断は出来ないな」

そこまで言って、ソラはアスナに視線を向けて

「アスナ。もし戦う事になったら全力で戦おう。今度は僕が勝たせてもらうよ」

「はい。でも、あの時はたまたま勝てたようなものですし……」

あの時と言うのは彼らが恋仲になる切っ掛けとなったデュエルの事だ。

「それでも君が僕に勝ったのは事実だよ。君は強い。だから自信を持てばいいさ」

「ソラさん……」

微笑みながら言うソラ。

そんな彼を、アスナは頬を赤く染めながら見つめ返している。

店内に漂う甘い空気、それを――――

「ウォッホン!!!!」

リズベットがわざとらしく咳き込んでぶち壊した。

ハッとした表情で2人が視線を向けると、映ったのは口元をひくつかせながら笑っているリズベット。

「アンタらねぇ。イチャつくなら余所でやってほしいんだけど??」

「あ、あははは……」

「あぅぅ……」

リズベットの言葉に、ソラは乾いた笑みを零し、アスナは顔を真っ赤に染めて俯いてしまった。

キリトとユウキ曰く、ソラ達も割と人前でも気にせずイチャつく時があるらしい。

彼らの甘々空間によって砂糖を吐きまくったプレイヤーも数が多いとか。

 

閑話休題(それはさておき)

 

「ま、何はともあれ。アタシとシリカ、それとシノンはアンタ達の暴れっぷりを観戦させてもらうわ。やるからには勝ち進みなさいよ! なんて言ってもウチの店で作った武器や、メンテしてる武器を使ってるんだからね!」

そう言ってリズベットは笑って見せた。

2人は頷いて

「あぁ。恥ずかしくない戦いをするよ」

「応援しててね、リズ」

笑顔で応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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翌日、キリト達はイベント会場がある世界樹の根元へと訪れていた。

そこには、旧SAO75層にあったものと同じ、古代ローマを彷彿とさせる闘技場が聳え立っていた。

ヒースクリフとデュエルした時の事を思い出しながら、キリトとユウキは闘技場の入口へと歩いていく。

すると、入口付近に10人の集団がいるのが視界に映る。

種族は様々で、その中で指示を出しているトゲトゲ頭のサラマンダーには見覚えがあった。

2人は集団へと歩み寄る。

「ええか。ワイの指揮するA班は闘技場の東側を、サブリーダーの指揮するB班は西側を担当や……って、おぉ、キリトはんにユウキはんやないか」

「よう、キバオウ」

「なになに? もしかして今日の警備?」

軽く手を挙げてあいさつするキリトと、疑問符を浮かべて尋ねるユウキ。

キバオウは頷いて

「せや。ユージーンの旦那を始めとする各種族のお偉いさんから依頼を受けてな。こういうお祭り騒ぎん時は、必ずと言ってえぇほど馬鹿やらかすやつがおるからのぅ」

「ふーん。でも変われば変わるものだねぇ……SAOでの事を知ってる人達からすれば今のキバオウさんは別人だよ」

「それは言わんといてや。ワイも反省しとるんやからな」

バツの悪そうな顔で頭をかくキバオウ。

「アンタも頑張ってるんだな」

「……ワイは決めたんや。もう間違わんってな。ワイがSAOでしてしもうた事は簡単には償えん。けど、やからこそ、それから逃げるわけにはいかんのや」

キリトの言葉に、真剣な表情でキバオウは応えた。

大きな罪を犯したからこそ、そこから逃げてはいけない。

そう言う彼の覚悟と決意は本物だ。

だからこそ、結成した自警団も規模が小さいとはいえ各種族の要人に認められるほどに成長できたのだ。

「さて、ワイらはそろそろ仕事に取り掛からんと。2人ともイベントに出るんやろ? 気持ちのええ暴れっぷりを期待しとるで!」

そう言った後、キバオウは自警団のメンバーへと向き直り

「ほないくで! 決して気ぃ抜かんようにな!」

『はい! キバオウさん!』

彼の言葉に、メンバー全員が大きく返してくる。

5人一組に分かれ、彼らはそれぞれ闘技場の東と西へと飛翔していった。

それを見送ったキリトとユウキは

「さて、俺達もいくか」

「うん」

闘技場の中へと入っていった。

観客席の最前列の一角へ目を向けると、そこにはまたも見知った顔ぶれ。

「あ、遅いよー、お兄ちゃんにユウキさん」

「悪い悪い、リーファ。ちょっと知り合いがいてな」

口を尖らせて言ってくる金色の長髪をポニーテールにしたシルフ――――リーファにキリトは苦笑いでそう言った。

「俺達も知ってるやつか、キリトよ」

「あぁ、キバオウだよ。今日のイベントの警備をするってさ」

「へぇ、あの野郎が警備ねぇ」

褐色肌のノームに聞かれたキリトが応えると、悪趣味なバンダナを頭に巻いて髪を逆立てたサラマンダーがそう言った。

ノームの巨漢の方も感心したような表情だ。

「まぁ、エギルとクラインの反応もわかるけどな。でも、あいつはあいつなりに頑張ってるぜ」

「わーってるよ、キリの字。野郎の自警団の評判はサラマンダー領でもかなりの評判なのは。なにせ、あのユージーンの旦那が信頼してるくらいだからな」

「変われば変わるもんだな」

そう言いながらサラマンダー――――クラインとノーム―――――エギルはうんうんと頷いている。

「ね、シリカちゃん。そのキバオウって人、そんなに酷かったの?」

リーファが首を傾げながら、隣に座って相棒の子竜を抱きかかえたケットシーの少女――――シリカに尋ねた。

シリカはうーんと唸りながら

「詳しくはあたしも解からないの。ただ、中層でもあまりいい噂は聞かなかったかな」

そう応え返す。

「結構酷い事やってたらしいけど、それを潰しちゃったのが、そこにいる2人なんだってさ」

付け足すように、シリカの隣に座っていたリズベットが悪戯っぽい表情で言う。

「潰したとは失礼な。成り行きでそうなっただけだって」

「そうだよ、リズー」

ぶーぶーと抗議してくるキリトとユウキ。

「今と変わらずアグレッシブだったんだね。お兄ちゃんもユウキさんも……」

呆れたような、納得したような微妙極まりない表情のリーファ。

その様子をアスナとソラが苦笑いで見ていた。

すると、水色の髪から突き出たシャープな三角耳をピコピコと動かしながら

「いいんじゃない? 今は改心してるんでしょ、その人」

もう一人のケットシーの少女が口を開いた。

クールなコメントにキリトは苦笑いになる。

「まぁ、シノンの言う通りかな。あいつは過去にした事を償いたいと思って、今行動してる事は確かだよ」

「そんな彼の行動をどう思うかは他の人次第ってことだね。少なくとも僕等はキバオウさんが頑張ってる事を理解してるのは確かだ」

シノンの言葉に、そう返すキリト。

それに同意するようにソラが言葉を紡いだ。

そうこうしていると、闘技場の中央に人影が現れる。

種族はシルフで身長150程であり、セミロングの緑の髪を揺らしている

「皆さん、お待たせしました! これより、『ALO統一デュエルトーナメント』を開催いたします。私は、今大会の実況を務めさせていただきます『カナメ』と申します。それでは、今大会のルールを説明しちゃいますねー!」

カナメと名乗ったシルフの女性はマイクを握った右手を大きく振り上げた。

瞬間、彼女の背後に巨大なホロパネルが出現する。

そこに、大会のルールが次々と表示されていった。

「試合はAからHブロックにまで別れて予選を行ってもらいます。予選を勝ち進み、各ブロックの優勝となったプレイヤー合計八名が決勝トーナメントへと進みます。試合時間は5分。勝敗は相手のHPを全損させるか、相手が降参、もしくはタイムアップ時にHP残量によって決定します。それと、試合開始前に装備を変更する事が可能になっており、試合中にアイテムを使用する事も可能です。アイテムは大会運営から支給される事になってます。さて、それでは気になる予選トーナメントの組み合わせ発表でーーす!!」

言うや否や、ホロパネルに映し出された内容が切り替わった。

各ブロックのトーナメント表だ。

大会出場者達はホロパネルに映っているだろう自分の名前を探していく。

「俺はAブロックか」

「ボクはGブロックだねー。キリトと離れちゃった。」

「僕はEブロックみたいだ」

キリトとユウキ、ソラは自分の名を見つかたらしい。

「あ、私はFブロックだよ。よかったー、いきなりお兄ちゃん達と身内戦にならなくて」

安堵の息を吐くリーファ。

その近くで

「おいおい、オレとエギルがHブロック……確実に身内戦になるじゃねぇか!!」

「ほぉ。クライン、当たっても手加減はせんからな」

喚くクラインと不敵な笑みを浮かべるエギル。

「私も身内戦になりそう。ユウキと同じGブロックだよ」

「そうなの? お互い全力で戦おうね、アスナ!」

「えぇ。負けないわよ、ユウキ」

言いながらアスナはユウキと笑い合っている。

「対戦表は確認しましたね?! それでは、いよいよ今年最初の大イベント、『ALO統一デュエルトーナメント』を開催いたします!!! みんな、目指せALOナンバー……ワァーーーーーーーン!!!!」

カナメの言葉と同時に、観客席から大歓声が巻き起こる。

キリトは立ち上がり

「よし! やるぞ!」

気合の入った表情でそう言った。

すると、彼の黒コートのポケットからユイが飛び出してくる。

「パパ、ママ、頑張ってくださいね!」

「うん。ユイちゃんはここで見守っててね」

「あぁ、行ってくる!」

愛娘の声援を受け、キリトとユウキは一度顔を見合わせたから頷き合い、それぞれの予選会場へと向かっていく。

その後にソラ達も続いていった。

 

今、ALO最強の座を決める戦いが始まったのであった。




繰り広げられる激闘。


2人の少女の剣が、鋭く交差しぶつかり合う。


次回「絶剣と閃光」

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