ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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6話です

痛かったです、苦しかったです、とても悲しかったです。
しかし書きあげました。


どうぞご覧ください


第六話 赤鼻のトナカイ

2023年12月15日 第48層リンダース

 

現在の最前線は49層。

月夜の黒猫団が全滅しキリトが行方をくらませて約半年がたった。

この街の宿屋の一階のNPCレストランにユウキはいた。

席に座り表情を曇らせて俯いている。

そこへ一人のプレイヤーがやってきた。

 

「よぅ、ユウキちゃん」

 

「クラインさん……」

 

悪趣味なバンダナが特徴のクラインだった。

席に座りNPCに飲み物を注文する。

持ってこられた赤いサイダーのような液体が注がれたジョッキを手にとってそれを飲む。

一息ついて

 

「わりぃな、ユウキちゃん。今回も空振りだった……」

 

「そっか……ボクの方もだよ」

 

そう言いユウキは表情を曇らせた。

キリトが姿を消してからすぐにユウキは彼を探した。

しかし、フレンドリストから追おうとしたが、キリトによりフレンド解消されていた為に居場所がまったくわからなくなっていたのだ

そこでユウキは協力してくれそうな人たちに片っ端から声をかけた。

現在はトップギルド血盟騎士団の副団長をしているソラや商人兼重戦士のエギル。

そして、ギルド風林火山のリーダーであり、キリトの理解者でもあるクライン。

事情を聴いた彼らは快く捜索を引き受けてくれた。

だが、キリトは彼らの追跡を何度も躱して行方を追わせない。

ボス戦でもキリトは姿を見せず、捜索は難航を極め約半年たってしまった。

 

「くそ! キリトの野郎、どこに居やがんだ!」

 

ジョッキをテーブルに叩きつける様に置くクライン。

 

「ボクの所為だ……ボクがあの時キリトと一緒に戦えてたら……」

 

ユウキは今にも泣きそうな声で呟く。

 

「ユウキちゃんの所為じゃねえよ。言っちゃ悪いがトラップにかかったのはそいつらの慢心が招いたんだぜ? もちろんキリトの所為でもねぇよ」

 

慰める様にクラインはユウキに告げる。

 

「でも、キリトはそうは思ってない……全部、自分の所為だって背負いこんでる……」

 

ついに堪え切れなくなりユウキの瞳から涙が零れ落ちた。

 

「どうしてなの? どうしてキリトばっかり辛い思いしなきゃいけないの? 第一層のときだって、黒猫団の……サチの事も」

 

「ユウキちゃん……」

 

かける言葉が見つからずにクラインは口ごもる。

 

(キリト……今どこに居るの? ボクじゃ君を支えられないのかな? 会いたい……会いたいよ、キリト)

 

涙を零しながらユウキは思考を巡らせている。

沈黙が訪れかけたその時だった。

ユウキのもとにメッセージが届く。

差出人はソラだった。

涙を拭ってユウキはメニューを開いてメッセージを確認した。

それを見て目を見開く。

メニューを可視モードに切り替えて

 

「クラインさん! これ見て!」

 

届いたメッセージをクラインに見せた。

それを見たクラインも目を見開いて

 

「ま、マジでか!」

 

驚きの声を上げた。

メッセージの内容はこうだった。

 

『クリスマスに蘇生アイテムをドロップするボスが現れるらしい。キリトはそのボスの撃波を狙っている』と

 

 

 

 

 

 

 

 

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2023年12月20日 第46層 

 

モンスターが犇めく迷宮区で一人のプレイヤーが戦っていた。

黒を基調とした装備をした男性プレイヤー。

キリトだった。

襲いくるモンスターをソードスキルで薙ぎ払っていく。

次々にモンスターはポリゴン片となり四散していき、残り一匹となった。

 

「おぉぉ!!」

 

咆哮と共に放たれるのは片手剣上位ソードスキル『ヴォーパルストライク』

単発型の突撃攻撃が勢いよくモンスターに命中しHPを削り取る。

対象が四散したのを確認しキリトは剣を背の鞘に納めた。

その場に座り込んでポーチからハイポーションを取り出そうとした。

その時だった。

 

「相変わらず無茶するね?」

 

そう言って誰かがハイポーションを差し出してきた。

 

「……ソラ」

 

目に映った人物を見てキリトはハイポーションを受け取り口に含む。

そこに居たのはソラ、第一層でパーティーを組み共に戦った友人。

現在は血盟騎士団の副団長を勤めている。

 

「何時間潜ってるの?」

 

「……5時間くらいだな」

 

問いかけにキリトは感情の抜けた声で返した。

それを聞いて

 

(思った以上に重症だな・・・)

 

ソラは思考を巡らせた。

彼が重傷だと思ったのは肉体面ではなく精神面だと捉えた。

話に聞いてはいたが、例の事件が彼にどうしようもないほどの傷を負わせたのだろう。

第一層や様々なボス戦では頼もしく見えた姿も、今は見る影もない。

ただただ自分を追い込んでいるその姿は、ソラに悔しさを覚えさせた。

 

「キリト、君がこんな無茶なレベリングをするのは……やっぱり蘇生アイテムのためなのか?」

 

ソラは問いかける。

 

「ああ……」

キリトは立ち上がり答えた。

蘇生アイテム。

今現在、アインクラッドで流れている噂のクエスト。

クリスマスの夜、あるモミの木の下に現れる『背教者ニコラス』

それが持つ袋の中には命を蘇らせる神器があるだろうと。

この世界では死者は還らない。

もし本当にこれで死者が還るのなら、まさに夢のアイテムだ。

 

「俺はこの情報に全てを賭して挑むつもりだ……誰にも譲る気はないし、協力する気もない……俺一人でやらなきゃいけないんだ」

 

呪詛の様にキリトは言葉を紡ぐ。

 

「……君がそう決めたのなら僕はもう何も言わない……でも、君を大切に思っている人がいるのを忘れないでくれ」

 

そう言ってソラはその場を後にした。

一人残されたキリトは

 

「大切に思っている人……か」

 

(ユウキ……今頃どうしてるかな……いや、俺にあいつの心配をする資格なんてないな……そして……心配される資格も……)

 

思考を巡らせ再び戦うために迷宮区の奥へと足を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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2023年12月24日 35層迷いの森

 

キリトは自身のLVを70にまで上げてここに訪れた。

索敵スキルを全開にして尾行されてないか確認する。

地図を見て森の奥に走り出した。

印のつけられたエリアに全速でかけていく。

後少しで目的地。

が、キリトは何かを察知しブレーキをかけて止まった。

 

「つけてきたのか……?」

 

眼を向けた先はワープポイント。

そこから現れたのはクライン率いるギルド風林火山だった。

その横にはユウキもいた。

 

「まぁな、49層の転移門に張り付けといた奴が、お前がここに向かったって言うからよ。隠蔽スキルをアイテムで全開にして尾行したのさ」

 

「キリト……一人でボスに挑む気?」

 

ユウキは不安そうな表情で問いかけてきた。

キリトは表情を変える事なく

 

「あぁ……これは俺一人でやらなきゃいけない……」

 

そう返す。

 

「どうして? あれはキリトの所為じゃないんだよ?! ボクだって……」

 

「キリトよぉ、ガセネタかもしれねぇモンのために命かけてんじゃねぇよ! 俺らと来い! 蘇生アイテムはドロップさせた奴のもので文句なし、それでいいだろ?!」

 

「黙れ! それでも俺は……」

 

ユウキとクラインの呼びかけを遮ってキリトは叫ぶ。

そして背の剣に手をかけた。

クライン達に動揺が走る。

直後、ワープポイントから大多数のプレイヤーが現れた。

 

「うおぉ!」

振り返り、素っ頓狂な声を上げながら後退するクラインとユウキ達。

 

「お前もつけられたな」

 

「ああ、そうみてぇだな……」

 

言いながらクライン達も武器に手をかける。

 

「げ、聖竜連合か……レアアイテムの為ならヤバい事もする連中だぜ」

 

「どうする?」

 

風林火山のギルドメンバーがそう言った直後

 

「キリト、行って!」

 

ユウキが剣を抜き放ち前に出た。

 

「ユウキ?」

 

キリトは疑問符を浮かべている。

 

「あー、くそったれ! 行け、キリト!! ここは俺らが食い止める!!」

 

そう叫びクラインも刀を抜き放った。

メンバー達も武器を構える。

キリトは少し惑うが

 

「すまない……!」

 

そう告げて奥へと走り出した。

全速で駆け抜け目的のポイントに辿り着く。

その時頭上から鈴の音が鳴り響いた。

そして上から何かが落ちてくる。

巨大な何かは地面に着地し辺りを揺らした。

赤を基調とした上着と三角帽、頭陀袋を担ぎ右手には斧が握られている。

頭上には『背教者ニコラス』と表示されていた。

ニコラスは声にならない声を出している。

 

「……うるせぇよ」

 

キリトは剣を抜き

 

「おおぉぉぉぉぉあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

咆哮しながらニコラスに向かい地を蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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どれくらいの時間が経っただろう。

聖竜連合を退け、疲労困憊といった感じでクライン達は座り込んでいた。

するとワープポイントからキリトが現れる。

 

「キリト!」

 

無事に戻ってきた彼を見てユウキは喜ぶが、すぐに様子がおかしい事に気付いた。

生気がなく、目からはハイライトが消えてみえた。

 

「蘇生アイテムは……?」

 

そう聞いてきたクラインに向かいキリトは何かを投げた。

それをキャッチしクラインはタップしてアイテム名と効果を確認した。

『還魂の聖晶石』

それがこのアイテムの名前。

そしてクラインは効果を見て目を見開く

 

「対象が消える……十秒以内にって……」

 

そう、このアイテムの効果は過去死んだ者には使えない。

如何な手段を用いても死者は還ってこない事をキリトに突き付けたのだ。

 

「それが蘇生アイテムだ……次にお前の前で死んだ奴に使ってくれ……じゃあな……」

 

よろよろとした足取りでキリトはその場を去ろうと歩き出す。

 

「キリト!!」

 

そんな彼をクラインは大きな声で呼びとめた。

キリトは立ち止るが振り返らない。

 

「キリトぉ……お前は生きろよ……頼む、生きてくれぇ……」

 

泣きながらクラインはそう言った。

しかし、キリトはなにも言わずその場を去っていく。

その場に膝をついてクラインは崩れ落ちた。

キリトがその場から去った直後、ユウキは後を追うように走り出した。

49層ミュージェンの宿屋に戻ったキリトは椅子に座りテーブルに突っ伏していた。

望んでいたアイテムは自分にどうしようもない絶望を突き付けた。

キリトはずっと望んでいた、サチを蘇らせる事を。

あの時彼女が呟いた言葉。

それがどんな呪いの言葉であったとしても受け入れなければならないと思ったからだ。

しかし、その望みは断たれてしまった。

最悪の形で……

しばらく突っ伏したままでいるとドアを叩く音が聞こえる。

キリトは頭を上げて

 

「……誰だ?」

 

力ない声で尋ねた。

 

「ボクだよ……入るね」

 

訪ねてきたのはユウキだった。

部屋に入り扉を閉める。

 

「なにしに来た……?」

 

「……心配だから」

 

互いに俯いたままで会話する。

 

「……一人になりたいんだ」

 

「……ここに居る」

 

「頼む……帰ってくれ……」

 

「嫌だ」

 

「帰れって言ってるだろ!!」

 

ついに顔を上げ声を荒げてキリトは叫んだ。

ビクリとユウキの身体が震える。

それでも構わずに

 

「もう俺の事なんて放っておいてくれ!!」

 

キリトは感情任せに叫ぶ。

それを耳にしたユウキは

 

「っ……キリトの馬鹿!!!」

 

同じように顔を上げて言い返した。

 

「なんだよそれ! 勝手な事ばかり言わないでよ!! ボクがどれだけ心配したと思ってるの!! 勝手に居なくなって、一人で無茶して!!」

 

言いながらユウキはキリトに歩み寄る。

顔がよく見える位置で立ち止まり

 

「この半年間、気が気じゃなかったんだよ! 君が死んだらどうしようって……それなのに……それなのに君は!!」

 

涙を浮かべて訴えるユウキ。

驚いた表情をしていたキリトだがすぐに苦い表情になり

 

「じゃぁ、俺はどうしたらよかったんだ!! あの時、俺が止める事が……いや、初めて会った時に本当のLVをちゃんと話して拒絶してれば、サチもケイタも……皆死なずに済んだんだ!!!」

 

抱え込んでいた感情を吐き出す様に捲し立てる。

 

「もう……わからないんだ……俺には……もう何も……」

 

再び顔を伏せてキリトは力なく呟く。

そんな彼に

 

「……キリト、これ見て」

 

ユウキは何かを差し出した。

手にあったのは音声再生結晶だ。

 

「これは……?」

 

「サチに渡されてたんだ……クリスマスには返してって言われてたんだけど……今までこれ、ロックがかかってたんだ。それがさっき、ここにくる前に解除されたみたい」

 

言いながらユウキはキリトの前にしゃがみこむ。

 

「中身はまだ聞いてないよ。キリトと一緒に聞いた方がいいと思ったから……再生するね?」

 

そう言ってユウキは結晶をタップする。

すると結晶は光りだし、録音されていた音声が流れ始めた。

 

『メリークリスマス。キリト、ユウキ』

 

聞こえてきたのはサチの声。

キリトは目を見開く。

 

『君達がこれを聞いてる時、私はもう死んでいると思います。もしクリスマスまで生きていたら、自分で言うつもりだったから結晶は返してもらう予定だったんだけど』

 

懐かしい、それでも忘れた事のないサチの声に二人は静かに耳を傾けている。

 

『本当の事を言うとね。私、はじまりの街から出たくなかったの。でも、こんな気持ちのまま戦ってたら、きっといつか死んでしまうよね? それは誰の所為でもない、私自身の問題です。怖くなって逃げ出したあの日、君たちは私に「君は死なない、いつか現実に帰れる」って言ってくれたよね? もし私が死んだら、君たちは自分を責めるでしょう。だからこれを録音する事にしました』

 

静かな部屋の中に淡々と音声が響いている。

 

『それと私、ホントは君達がどれだけ強いか知ってるんです。気になって情報屋さんに教えてもらったんだ。二人が自分のLVを隠して私達と戦ってくれる理由を私なりに考えてみたけど、結局判りませんでした。でも、二人が凄く強いんだってわかった時、凄くうれしかったの。この人たちは本当に私達を守ってくれるんだって思えたから、私は怯えずに安心する事が出来たんだ。だから、もしも私が死んでも二人は頑張って生きてね。生きてこの世界の最後を見届けて、この世界が生まれた意味、私みたいな弱虫が来ちゃった意味、そして、私と君達が出会った意味を見つけてください。それが私の願いです。……大分時間が余っちゃったね。折角のクリスマスだし、歌を歌うね。曲名は「赤鼻のトナカイ」です』

 

澄んだ歌声が二人の耳に届く。

優しい旋律がキリト達に全てを教えてくれていた。

彼女は知っていた。

知っていて尚、二人の事を信じていたのだ。

やがて歌が終わり

 

『キリト、忘れないでね。あなたは決して一人じゃない、その事を忘れないでね。そしてユウキ、貴女はキリトを支えてあげて。それはきっとユウキにしか出来ないって私は思うから。それじゃぁ、お別れだね。君達と出会えて、一緒に居られて、友達になれて、本当によかった。』

 

そこで一旦区切られて

 

『ありがとう、さようなら』

 

最後の言葉が二人の耳に届く。

その瞬間キリトは理解した。

彼女は怨んでなどいなかった。

その事実がキリトの心の闇を振り払っていく。

再生を終えた結晶は床に落ち、カランと音を立てて転がった。

 

「キリト……聞いたよね? サチは君の事怨んでなんかなかったよ? 一緒に居られて、出会えてよかったって……生きてほしいって思ってくれてたんだよ?」

 

涙を流しながらユウキはキリトに問いかける。

 

「……ユゥ……キ……俺……おれ……」

 

今にも泣き崩れそうなキリト。

そんな彼をユウキは優しく抱きしめて

 

「いいよ……いいんだよ? もう我慢しなくていいよ? キリトは……もう泣いていいんだ」

 

そう言った。

それを聞いた瞬間

 

「う……っく……っ~~~~~~~~~~~~~~~~」

せきを切った様にキリトは泣いた。

ユウキは彼を抱きしめたまま

 

(サチ……約束するよ。ボクはキリトを支える……支え続けるよ。これからもずっと……)

 

そう思考を巡らせた。

 

 

その日、キリトの心に突き刺さっていた大きな棘がとれた。

そしてユウキと共に再び歩き出す。

生きるために……

 

 

 

 

 




泣き崩れる少女。

手にあるのは竜の羽。

支えを失った小さな少女は森の中で黒の少年と巡り会う。

次回「竜使いの少女」

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