ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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GWも終盤、皆さんはどこかに出かけられましたか?
私は家でずっと自堕落に過ごしてましたwww




では70話、始まります。



第七十話 ヨツンヘイム

マップにも表示されないような細い裏路地を進んでいくと、見た目はなんの変哲もない扉が見えてきた。

リーファがベルトポーチから小さな銅のカギを取り出すと、扉のカギ穴に差し込んで一回しする。

ガチャリと音が鳴り、扉を開くと遥か下層へと続く下り階段が目に映った。

9人が一列になって入っていき、最後尾のクラインが扉を閉めると自動的に施錠された。

どうやらリーファが持っている鍵がないと扉を開ける事が出来ないらしく、その鍵は以前トンキーに地上まで運んでもらった時に、彼女のストレージにいつの間にか追加されたそうだ。

「うわぁ……一体何段あるのよこれ……?」

初めてここに来るリズベットが引き攣った表情で囁く。

「んーっとねぇ。確か迷宮区タワーまるまる一個分だったと思うよ」

先頭を切って歩いているユウキが右手の人差し指を唇に宛がいながら言う。

それを聞いたリズベットとシリカ、クラインはうへぇと溜息を吐いた。

彼女等の前を歩くソラは苦笑いだ。

「まぁ、溜息が出るのも無理はないかな。僕も最初来たときは同じ心情だったし」

「あ、それはボクもかなー」

苦笑いのまま言うソラに次いで、ユウキはあっけらかんとした声で言う。

そんな彼らにキリトは

「あのなぁ、普通のルートを行こうと思ったら、まずはアルンから何キロも離れた階段ダンジョンまで移動して、モンスターと戦いつつ移動し最後に守護者を倒してようやく到着できるんだぞ? ワンパーティーなら最速2時間かかるところをここを通れば5分で着くんだ。俺がリーファなら通行料一回千ユルドで通らせる商売を始めるぞ」

今降りている階段の有難さを熱弁しながら心の欲を口にする。

「お兄ちゃん。ここを降りても出口でトンキーが来てくれなかったら落下してお終いだよ?」

呆れ顔で言いながらリーファはやれやれと肩をすくめてみせる。

「キリト君、欲望だだ漏れだよ?」

その後ろを歩いていたアスナも呆れ顔だ。

広大な地下世界『ヨツンヘイム』の真ん中には、差し渡し1.5キロの底無しの大穴『中央大空洞』が存在する。

黄金の聖剣が封印されている空中ダンジョンは、その大穴の真上の天蓋から下に向けて突き出ており、キリト達が今降りてる階段の出口はそのすぐ近く、大穴の上空に設置されている。

飛び下りれば問答無用で落下中に死亡し、地上のセーブポイントに戻されてしまう。

キリトはわざとらしい大きな咳払いで己の強欲発言をなかった事にし、改めて言う。

「ま、まぁ、そういう訳だから、文句を言わずに感謝しながら降りるんだぞ諸君」

「あんたが作った訳じゃないでしょ」

するとキリトの前を行くシノンがクールな突っ込みを返してくる。

そんな彼女にキリトはニンマリを笑って

「ご指摘ありがとう」

目の前で揺れる水色の尻尾を右手で握りながら言った。

「フギャァ!」

途端にシノンは物凄い悲鳴を上げ、勢いよく振り向き器用に後ろ歩きで階段を降りながらキリトの顔を引っ掻こうとしている。

対する彼はひょいひょいと躱している。

ケットシー特有の耳と尻尾は、もちろん人間には存在しない器官だ。

けれど、どういう仕組みかは解からないが感覚があるらしい。

なれないプレイヤーがいきなり触られると『凄く変な感じがする』とはシリカ談だ。

「次やったら鼻の穴に火矢ブっ込むからね!!」

勢いよく鼻を鳴らして振り返るシノン。

ユウキをはじめとする女性陣はやれやれと首を振り、ソラは呆れ顔で

「相変わらずデリカシーがないな」

といい

「恐れをしらねぇな、キリの字……」

最後尾のクラインが感心したように唸った。

そうして階段を降りていくこと5分。

アルヴヘイムの地殻を貫く階段トンネルを抜けた先に、ヨツンヘイムの全景を視界にとらえた。

眼下に広がるのは、分厚い雪と氷に覆われた常夜の世界だ。

視界を真下から正面に戻すと、地上のアルヴヘムに屹立する世界樹の根に包まれるように天蓋から突き出している逆ピラミッド型のダンジョンが見える。

あの場所に、キリト達が求める黄金の聖剣が封印されているのだ。

一通り状況を確認し終えると、アスナが右手を翳してスペルの詠唱を開始する。

終えると同時に、全員の身体が青い光に包まれた。

HPゲージの下に凍結体勢上昇のアイコンが表示される。

「よし」

アスナが言うと同時に、リーファが右手の指を唇にあてて高く口笛を鳴らした。

数秒後、風の音に混じって「くぉぉーーーん」という鳴き声が聞こえてくる。

目を凝らしてみると、暗闇から白い影が上昇してくるのが見えた。

平べったい胴体から四対八枚の翼が伸びていて、体の下からは植物のツタような触手が無数に垂れている。

頭には片側三個ずつの黒眼と長く伸びた鼻。

「トンキーさーーーーーーーん」

ユウキの肩から力いっぱいの声で呼ぶユイ。

その声を受けて大きく翼をはためかせた邪神――――トンキーが勢いよく上昇し、その姿をキリト達の前に現わせた。

初対面となるクライン達は一歩後退する。

そんな彼らにキリトは

「へーきだって。ああ見えて草食だから」

そう言って安心させようとするも

「でも、この前地上から持ってきた魚を一口で食べたよ」

リーファがにっこり笑って言い放った。

クライン達は更に一歩後退する。

象を彷彿とさせる顔でキリト達を順に眺めたトンキーは、長い鼻を伸ばしてクラインの逆立った髪を撫でる。

「うびょるぽ!!」

当の本人は妙な声を上げて驚く。

そんなクラインの背をキリトは容赦なく押して

「ほら、乗れって言ってるぞ」

「い、いや……オレぁ、アメ車と空飛ぶ象には乗るなっつぅ爺ちゃんの遺言が……」

「こないだ爺ちゃんの手作りって言って干し柿くれただろ?! 美味かったからまたください!」

苦笑いで言いながらキリトはクラインの背をもうひと押しする。

ようやく観念したクラインはおっかなびっくりといった感じでトンキーへと乗っていく。

それに続いて度胸のあるシノンが乗り、次いでシリカとリズベットが乗った。

初めてではないリーファとアスナが乗り、ソラがその後に続いて、最後にユウキとキリトが一緒にトンキーへと乗り込んだ。

全員が乗った事を確認し

「よぉーし、トンキー。ダンジョンの入り口までお願い!」

リーファが叫ぶとトンキーは一啼きし、八枚の翼を羽ばたかせる。

「……ねぇ、これってさ……落ちたらどうなるの?」

すると、キリトのすぐ後ろに座るリズベットが恐る恐る口を開く。

ヨツンヘイムでは原則的にどの妖精も飛行不可となっている。

更には高所落下ダメージも適応され、スキル値にもよるが大体30メートルくらいでHPが全損してしまうのだ。

現在、トンキーは高度1000メートルを超える上空を飛行中だ。

落ちたらどうなるかなど考えるまでもない。

どうやら皆同じような危惧をしているのようで、気持ちよさそうにしているのは『スピード・ホリック』のリーファと絶叫系大好きのユウキ、その肩に乗っているユイとシリカに抱かれているピナくらいだ。

リズベットの問いに応えたのはアスナの隣に座るソラだった。

呆れ交じりの表情でキリトを見る。

「きっと、旧SAOの迷宮区外周を登って次の層に行こうとして落っこちた誰かさんが実験してくれるさ」

「いやいや……高いとこから落ちるならネコ科の方が得意なんじゃないか?」

そう言ってケットシーの2人を見えると、彼女等は真顔で首を横に振る。

そんなやりとりをしている間にもトンキーはゆっくりと翼を羽ばたかせて飛んでいる。

(……願わくばこのまま安全運転で……)

そうキリトが心の中で呟いた――――その時。

トンキーが全ての翼を鋭角に畳みはじめる。

次いで急激なダイブへを開始した。

『うわぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!!』

男三人の絶叫が響き

『きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

次いで女子4人の高い悲鳴

『やっほーーーーーーーーーーーーい!!』

最後にリーファとユウキ。

高速で急降下するトンキーはたちまちヨツンヘイムの地表へと近付いていき、急激な減速。

直後に凄いGがかかり、キリト達はトンキーの背中にべたりと張り付く。

振り落とされなかった事に安堵の溜息を吐きつつ、キリト達は体を起こす。

再び緩やかな巡行にはいったトンキーの背中から下界を見下ろしてみると、高度は50メートルといったところまで来ていた。

と、その時だった。

「あっ……お、お兄ちゃん! アレ見て!」

地上の一点を指差して、リーファが悲鳴に近い声を上げる。

言われるままにキリト達は指差された方に視線を向けた。

途端に眩いエフェクトが視界に映り、遅れて大規模攻撃スペルによる爆音が聞こえてくる。

それだけで戦闘が行われている事が把握できた―――――が、それよりも驚くべき光景が彼らの目には映っていた。

「プレイヤー達と人型邪神が……一緒に戦ってる?」

ソラの呟きに、キリト達も驚愕と疑問符を浮かべてその光景を見ていた。

眼下では30人を超える種族混合レイドパーティーが、人型邪神と共に象水母邪神を攻撃していたのだ。

一方的な攻撃を受け続けた象水母邪神は「ふしゅるぅぅぅ」と断末魔を響かせながら、爆散しポリゴン片を撒き散らした。

「どういう事なの? あのパーティーの中の誰かが邪神をテイムしたのかな?」

疑問符を浮かべて言うユウキ。

その疑問に答えたのはピナを抱いたシリカだ。

「有り得ないですよ! 邪神級のテイム成功率は、最大スキル値に専用装備でブーストしても0%です!!」

「するってぇと……あれは『便乗』してるってわけか?」

「確かに……人型邪神の攻撃に乗っかって攻撃してるようにも見えたが……」

「でも、そんな都合よく憎悪値を管理できるものなの?」

シノンの冷静なコメント。

確かにその通りだ。

普通に考えて、あれほど派手に攻撃していれば、人型邪神のターゲットが象水母邪神からレイドパーティーに移ってもおかしくない。

だがそうはならず、レイドパーティーと人型邪神は敵対することなく象水母邪神を倒し、更には戦闘になることなく共に移動を始めたのである。

「な、なんで戦闘にならないんだ?!」

「あ、あっち見て!!」

更に驚愕の声を漏らすキリトの隣で、何かに気付いたユウキが指をさす。

その方向に視線を向けると、今度は別のレイドパーティーが人型邪神と共に象水母邪神を攻撃している。

「こりゃぁ……一体なにが起きてんだ……?」

呆然と呟くクライン。

「もしかして……さっき上で言ってたスロータ系のクエストって、これじゃないの? 人型邪神と協力して象水母邪神を殲滅する……みたいなさ……」

その横でリズベットがそう言うと、キリト達は揃って息をのむ。

確かに特定のクエストでMobが仲間になることはよくある事だ。

けれど、その報酬が『聖剣エクスキャリバー』であるというのがキリト達には解せなかった。

(黄金の聖剣は人型邪神の本拠地に封印されてる……つまりは奴等を倒してじゃないと手に入らない代物の筈だ……)

そう思考を巡らせてキリトは再び天を仰ごうとする――――が、それは叶わなかった。

トンキーの背中の一番後ろ、誰も乗っていない場所に、光の粒子が音もなく集まって凝縮し、人型を作ったからだ。

現れたのはローブのような長めの衣装を纏い、足元までウェーブのかかった金髪の女性だ。

振り返りその姿を視界に入れた瞬間、キリトとクラインの口から、おおよそ女性に向けるには相応しくない言葉が出る。

「「でっ……けぇ!」」

まぁ、無理もない話だ。

何しろその身の丈はキリト達の3倍――――3メートルを超えていたからだ。

当の巨大美女はキリト達の言葉を気にするでもなく

「私は『湖の女王』ウルズ。我が眷族と絆を結びし妖精たちよ。そなたたちに頼みたい事があります」

自らの名を名乗り、キリト達に語りかけてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「なーんかさ、すごい話になってきたねー……」

キリトの隣にいるユウキがポツリと呟く。

現在、キリト達を乗せたトンキーは緩やかに上昇し、空中ダンジョンを目指している。

少し前に現れた『湖の女王』ウルズは、キリト達に今現在ヨツンヘイムで起こっている事を告げてきた。

かつて、このヨツンヘイムは世界樹イグドラシルの恩寵を受けた緑豊かな大地だったらしい。

しかし、ヨツンヘイムの下層に存在するニブルヘイムを支配する王『スリュム』の計略によって、『全ての鉄と木を立つ剣』と言われたエクスキャリバーが湖に投げ入れられ、剣によって根が断ち切られたヨツンヘイムはたちまち世界樹の恩寵を失ってしまった。

途端に『ウルズの湖』と呼ばれる巨湖から世界樹の根が浮き上がり、周囲の街を崩壊させながらヨツンヘイムの天蓋であるアルヴヘイムの地殻まで上昇して根が抱え込んでいた氷塊が半ばまで突き刺さった。

その氷塊こそが、聖剣の封印されている空中ダンジョンである。

世界樹が浮き上がった事で、そこに存在していた美しい湖は消え去り、代わりに底なしの大穴が現れた。

この混乱に乗じ、スリュムは大軍を率いてヨツンヘイムを攻め、かつて『ウルズの湖』だった氷塊に自らの居城『スリュムヘイム』を築き、ヨツンヘイムを支配したのである。

それに飽き足らず、この地に残る動物型邪神を全て狩りつくすために動きだした。

そうする事でウルズの力を完全に削ぎ、さらに上の世界、アルヴヘイムをも侵略する為だという。

しかし、中々ウルズの眷族を滅ぼせない事に苛立ったスリュムは、妖精の力を利用する事を思いつき、聖剣を与えると誘い駆け、動物型邪神を狩りつくさせようしているのらしい。

もっとも、ウルズが言うにはスリュムが報酬に聖剣を差し出すなど有り得ないとのことで、差し出すとすれば、見た目は聖剣と同じ偽物『偽剣カリバーン』だろうという。

ともかく、妖精たちに協力させる為に、兵力のほとんどを城から地上に降ろしたため、空中ダンジョンはかつてない程護りが薄くなっているという。

そこまで話して、ウルズはキリト達に改めて請願した。

『かの城に侵入し、聖剣を『要の台座』から引き抜いてほしい』と。

「でも、これって普通のクエスト……よね? その割には話がおおがかりすぎるって言うか……」

思考を立て直したらしいシノンが言う。

「そうだね……動物型の邪神が全滅したら、今度はアルヴヘイムまで占領されるなんて……」

「けど、運営側がなんの予告もなくそこまでするかな? 他のMMOでも『街がモンスターに襲撃される』ってイベントはあるけど、最低でも1週間前には告知される筈だし……」

キリトが言うと全員がうんうんと頷く。

すると、彼の左肩に乗っていたユイが飛び立ち、ホバリングしながらみんなに聞こえるボリュームで口を開いた。

「これは推測ですが……この『アルヴヘイム・オンライン』は他の『ザ・シード』企画とは違うものが一つ存在します。それは、使用されている『カーディナル』が機能縮小版ではなく、フルスペック版の複製だという事です」

このALOは須郷伸之が違法研究をする為に旧SAOをコピーし創り出した世界だ。

故に、世界を動かしている『カーディナル』もオリジナルに匹敵する性能を持っているという事になる。

「本来の『カーディナル』にはシュリンク版では削られている機能が幾つかありました。その一つが、『クエスト自動生成システム』です。ネットワークを介して情報を収集し、様々なクエストを無限にジェネレートし続けるんです」

「な、なんだと」

ユイがそこまで言うと、クラインが呟き項垂れる。

「てぇこたぁ……あれか? オレ等が散々パシられたクエは、全部システム様が自動で作ってたってのかよ」

「どうりで多すぎたわけだ……75層時点でデータベースに存在してクエストは1万を超えていたからね……」

次いでソラも溜息を吐きつつそう言った。

『血盟騎士団』にて副団長をしていた彼は、ギルド運営資金を稼ぐために、かなり真面目にクエストに取り組んでいたのだから仕方ないと言えば仕方ないが。

隣で苦笑いをしてるアスナの横で

「それに、お話もミョ―なのが多かったですよね……」

シリカが遠い目をしながら言う。

どうやらそうとう変なクエストを受けた事があるようだ。

このままではダンジョンに着くまで旧SAOの愚痴り大会に発展しかねないと判断したキリトは軽く咳払いし

「って事はユイ。このクエストも『カーディナル」が自動生成したものなのか?」

「おそらくは。もしかしたら、今まで停止していた自動クエスト・ジェネレータが、運営側の何らかの操作によって起動したのかもしれません」

そこで一度区切り、小妖精は難しい顔をして続ける。

「だとすれば、ストーリーの展開次第では行きつく所まで行くかもしれません。氷のダンジョンが地上に浮上し、アルンが崩壊、周辺のフィールドには邪神級モンスターがポップするようになる……いえ、下手をすれば……」

「……もしかして、『神々の黄昏』?」

神話関係の話が好きなリーファがそう続ける。

「はい。このクエスト、及びALOは北欧神話がモデルになっていますから」

「でも! でも、幾らなんでもゲームシステムが自分の管理してるマップを崩壊させるなんて……」

「いえ、オリジナルの『カーディナル』にはワールドマップを全て破壊する権限があるんです。オリジナルの最後の任務は、浮遊城アインクラッドを崩壊させる事だったんですから」

ユイから告げられた事に、キリト達は言葉が出せずに黙りこむ。

そんな沈黙を破ったのは、今まで話を静かに聞いていたシノンだ。

「……仮にその『ラグナロク』が起こったとして、それが運営の意図しない展開なら、サーバーを巻き戻す事も出来るんじゃない?」

「お、おお……確かにそうだよな……」

シノンの言葉にクラインがうんうんと頷く。

しかし、ユイは頷くことなく

「運営サイドが、手動で全データをバックアップしているなら可能でしょうが……もし『カーディナル』の自動バックアップシステムを利用していた場合、設定次第では、巻き戻せるのはプレイヤーデータだけで、フィールドは含まれないかもしれません」

そう言った。

再び沈黙が訪れる。

そうこうしているうちに、空中ダンジョンとの距離は目と鼻の先だ。

「こうなったら……やるしかないよ、お兄ちゃん!」

そう言ったリーファはウルズから与えられたメダリオンをかざした。

ウルズ曰く、このメダリオンが全て黒く染まった時、動物型邪神が全て狩りつくされ、彼女の力が完全に消え去るという。

そうなれば『スリュムヘイム』によるアルヴヘイム侵攻が始まってしまうという事らしい。

「……そうだな。元々、今日集まったのはあの城に殴りこんで聖剣をゲットする為だったんだし、護りが薄いって言うなら願ったりだ」

そう言ってキリトはメニューを開き装備欄を操作する。

すると、背中の『ディバイネーション』と交差して、新生アインクラッド15層のボスからドロップした剣が現れた。

剣二本を背負った彼を見て、クラインがニヤリと笑う。

「おぉっしゃ!! 今年最後の大クエストだ!! ばっちりキメて、明日のMトゥモの一面飾ったろーじゃねーか!!」

『おぉー!!』

全員が腕を高らかに上げて叫ぶと、トンキーも「くるるーん」と一啼きする。

速度を増して上昇し、一気にピラミッドを横切って上部の入り口に横づけしたトンキーから、キリト達はテラスへと飛び移った。

着地したリーファはトンキーへと振り返り

「まっててね、トンキー。絶対にあなたの国を取り返してあげるから!」

そう言い、入口に向き直り、腰の愛剣を抜き放った。

次いでキリト達もそれぞれの武器を抜き放つ。

視線の先には氷の二枚扉が屹立している。

本来ならば、ここでガーディアンと一戦交えなければならないが、何事もなく扉は開いていった。

ウルズの言う通り、今日は本当に城の防御は薄いみたいである。

「よし! 前衛は俺とクライン、ソラとユウキにリーファ。中衛にシリカとリズ、後衛はアスナとシノン。このフォーメーションで突っ切るぞ!!」

言うや否や、キリトは氷の床を蹴り駆け出す。

ユウキ達も頷くとその後に続いて駆け出し、巨城『スリュムヘイム』へと突入を開始した。

 

 




立ちはだかる大型邪神。


刻一刻と迫るタイムリミット。


少年たちは現状打破のための賭けに出る。


次回「スキルコネクト」

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