ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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書きあがりました第五話

今回はとても痛く、苦しい回です。
書いてて自分でも胸が痛くなりました。


それではご覧ください


第五話 月夜の黒猫団

2023年6月14日 第11層タフト

 

「我ら、月夜の黒猫団に乾杯!」

 

「乾杯!!」

 

盗賊のような装備の少年の音頭に続いてグラスを持った少年少女がそれを合わせる。

カランと小気味い音が鳴った。

その様子を微妙な表情でキリトは見ている。

 

「そして、命の恩人キリトさんに……乾杯!!」

 

「乾杯!」

 

「か、乾杯……?」

 

今度はキリトに音頭が振られ、キリトも微妙な表情のまま応対した。

彼らは皆、口々にお礼を言ってくる。

 

「ありがとう、本当にありがとう……凄い怖かったから……助けに来てくれた時、凄くうれしかった……」

 

少女は言いながら瞳に溜まった涙を拭う。

その様子にキリトは戸惑いながらも

 

「い、いや……」

 

と答えた。

ここは第11層の街タフトのNPCレストラン。

なぜこのような事になったのか。

事は数時間前に遡る。

キリトは自身の武器の強化素材を集めに11層へと降りていた。

迷宮区である程度の素材を集め、いざ拠点にしている層に帰ろうとした時だった。

ゴブリンの集団と戦闘をしているパーティがそこに居たのだ。

いや、戦闘というよりは追いかけられていたと言う方が正しいだろう。

キリトは息をつき愛剣を抜いて

「ちょっと前を支えましょうか?」

そう言ってプレイヤー達の前に立った。

問いかけにリーダーらしきプレイヤーが頷いたのを確認し、キリトはソードスキルでゴブリン達を一掃する。

「よかったら出口まで一緒に行きますよ」

そう提案し、パーティーはそれを受け入れた。

そして迷宮区を出て別れようとしたが、あれよあれよという間にここに連れてこられ今に至る。

 

「あのー、キリトさん。失礼ですけど……LVはいくつくらいですか?」

 

リーダーの少年はおずおずとキリトに尋ねた。

キリトは一瞬、目線を自身のLV表示に移し、苦笑いで

 

「25……くらい」

 

そう答える。

彼の目に映る表示はLV45。

自身が最前線のプレイヤーである事を隠すために、キリトは自分のLVを誤魔化したのだ。

 

「へぇ~。俺達と同じくらいのLVなのに、ソロなんて凄いですね!」

 

感心したように少年は言った。

 

「ケイタ、敬語はやめにしよう。それに、普段はソロじゃなくてコンビを組んで狩ってるんだが、それも一匹を狙っての狩りだから効率は悪い」

 

「そ、そうか……じゃぁさ、キリト。よければうちのギルドに入ってくれないか?」

 

ケイタと呼ばれた少年はキリトにそう切り出す。

当のキリトは面食らった表情をしていた。

そんな彼を余所に

 

「前衛が出来るのはメイス使いのテツオだけでさぁ。こいつ、サチって言うんだけど……盾持ちの片手剣士に転向してもらおうと思ってるんだ。でも勝手が解らないみたいでさ。ちょっとコーチしてやってほしいんだ」

 

言いながら隣に居た少女、サチの頭をポンポンと叩く。

するとサチは不機嫌そうな表情で

 

「なによ、人を味噌っかすみたいに」

 

「ん?」

 

「だって、いきなり前に出て戦えなんて……おっかないよ……」

 

グラスを両手で持ちながらそう言い返してきた。

すると周りから怖がり過ぎと返ってくる。

少女は頬を膨らませそっぽ向いた。

その様子に彼らは笑っている。

キリトは微笑ましくなり自然と頬が緩むのを感じた。

 

「うちのギルド、現実では皆同じ高校のパソコン研究会のメンバーなんだよね。あ、大丈夫だよ。キリトもすぐ仲良くなれるさ」

 

そう言ってケイタはメンバー達に視線を向けた。

彼らは皆笑って頷く。

しかしキリトは

 

「悪い……ギルドには入れない……相棒もいるしな。でも、手伝いくらいならしてもかまわないけど……」

 

そう言って申し訳なさそうに俯いた。

 

「そうか……じゃぁ、手伝いだけでもお願いするよ」

 

少し残念そうにケイタは言う。

その後、彼らとフレンド登録を済ませてキリトは拠点にしている層の宿へと戻った。

 

 

 

 

 

 

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「で、何か言う事は?」

 

「ご、ごめんなさい?」

 

そう答えるキリトの前に居るのは第一層からコンビを組んでいる少女、ユウキだ。

腕を組み、キリトを見下ろしている。

何故か?

現在キリトは正座させられていた。

帰る前に彼は黒猫団の手伝いの事をユウキにメッセージで送っていた。

余計な説明を省くためだろう。

しかし、宿に帰って部屋の扉を開けば待っていたのは御立腹の相棒だった。

 

「まったく、ボクに相談も無しに勝手に決めて! 手伝うのは別にいいけどさ!」

 

言いながらユウキは頬を膨らませている。

どうやら手伝うのはいいが、事前に相談してくれなかった事に怒っているようだ。

未だ機嫌の治らない相棒に

 

「わ、悪かったよ。なんでも一つ言う事聞いてやるから!」

 

そう言い機嫌なおしに出る。

すると腕組を解いて

 

「ホントに? なんでも?」

 

「あ、あぁ……」

 

「じゃぁ、一日前衛やってもらおうかなぁ?」

 

とびっきりの笑顔でそう言った。

瞬間キリトは青ざめた表情で

 

「んなっ……くぅぅ……わ、わかった……」

 

唸りながらも了承する。

するとユウキは苦笑いになり

 

「ウソウソ、冗談だよ。その代わりボクに手伝えることがあったら遠慮なく言ってね? 約束!」

 

「……わかった。その時は頼むな?」

 

「うん!」

 

笑顔で答えるユウキ。

はじまりの日から、ずっとコンビを組んできているこの少女は感情表現がとても豊かだ。

見ていて飽きないとさえ思えるほどに。

そんな彼女をキリトは微笑ましそうに見ていた。

翌日からキリトは黒猫団の所に手伝いに出た。

内容はサチの片手剣の訓練だ。

彼らが拠点にしている層より少し上のフィールドで実戦形式で訓練を行う。

数日が経過したが、未だにサチは剣を振ってもまともに当てる事が出来ずにいた。

それもそうだ、慣れない武器なうえに目を閉じてしまっている。

 

(これは思ったよりヒドイな……)

 

思考を巡らせ、キリトはサチを自分の後ろに下がらせた。

そして敵をノックバックさせてテツオにスイッチして止めをささせた。

そんな感じでいくらか狩りをした後、彼らは休憩をするために安全地帯に訪れていた。

 

「第40層突破か……凄いな……」

 

新聞を見ながらケイタは呟く。

 

「なぁ、キリト。僕らと攻略組なにが違うんだろう?」

 

新聞を見ながらキリトに尋ねるケイタ。

キリトは思案し

 

「そうだな……情報力の差かな。あいつらは効率のいい狩り場とか独占してるから……」

 

(それには俺も含まれているけどな……)

 

言いながらキリトは心の中で自嘲する。

そんなキリトの答えに

 

「うーん、それもあるだろうけど……僕は意志力だと思うんだ」

 

そう言ってケイタは立ち上がる。

 

「意志?」

 

「仲間を守り、生きて全プレイヤーを助け出そうっていう意志の力みたいなさ。もちろん仲間の命は大事だけど、いつか僕らも攻略組の仲間入りしたいんだ」

 

言いながら空を見上げるケイタ。

そんな彼を見て

 

「そうか……あぁ、きっとそうだな」

 

キリトは笑って返す。

ケイタは照れたように頭を掻いた。

彼の言葉を聞いた仲間たちも笑いながら話に加わった。

それを微笑ましそうに見ているキリト。

しかし、自分のLVを見て表情を曇らせた。

 

 

 

 

 

 

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その日の夜。

キリトはユウキと共に経験値稼ぎに狩りに出ていた。

最前線のプレイヤーと差をつけられないようにLVを上げるためだ。

現在キリトは51、ユウキは49だ。

訪れたのは第28層の狼ヶ丘。

そこにはすでに先客がいた。

狼型のエネミーと相対しているのはサムライのような防具に身を包んだ男性プレイヤー。

悪趣味なバンダナが特徴的だ。

 

「クライン……」

 

キリトが第一層で知り合った彼の数少ない理解者の一人だ。

狼を撃破し一息つくクライン。

ふと丘の上に視線を向けると、キリト達の存在に気付いたようで

 

「おぉ、キリトにユウキちゃん! おい、後は任せたぜ!」

 

一緒に狩りをしていたパーティメンバーにそう言って彼らのもとに走ってきた。

 

「最近見かけねぇと思ったら、こんな夜中に狩りしてたのかよ?」

 

笑いながらクラインは問いかける。

 

「うん、クラインさんもお疲れ!」

 

笑顔で答えるユウキ。

しかしキリトは気まずそうに

 

「ユウキ、先に行くから……またな、クライン……」

 

言いながらクラインの横を通り過ぎていく。

それをクラインは横目で見ながら

 

「ったく……まぁだ気にしてんのか……」

 

そう呟く。

キリトははじまりの日にクラインを置いていった事に負い目を持っていた。

その所為でどうしてもこのような態度になってしまう。

 

「ごめんね、クラインさん」

 

「俺ぁ別に気にしてねぇよ。あの時は仕方なかったからな」

 

狩り場に歩いていくキリトを見ながらクラインは言う。

 

「キリトはなんでも背負いこみすぎだよ……」

 

ユウキの表情も少し暗くなっている。

そんな彼女を見て

 

「ユウキちゃん、キリトの事頼むな。頼めるのはおめぇさんしかいねぇからよ?」

 

クラインはそう言ってユウキに頭を下げる。

ユウキは頷いて

 

「うん、頼まれたよ。じゃぁ、ボクも行くね!」

 

そう答えを返し、ユウキはキリトの後を追いかけた。

その後、二時間ほど狩りをして街に戻った時だった。

サウンド音が鳴り、キリトがメニューを開く。

メッセージが届いたのだろう。

内容を確認し、キリトはユウキに向かい

 

「ユウキ、黒猫団のメンバーのサチッて娘が何処かに行ったらしい。

 

探しに行くからお前は……」

 

「ボクも行くよ」

 

言いきる前にユウキは返してくる。

 

一度言いだすとユウキは中々折れない。

キリトは苦笑いで

 

「わかった、追跡スキルで捜索するからついて来てくれ」

 

「らじゃ!」

 

そう言ってユウキは敬礼をした。

タフトに転移したキリトはすぐさま追跡スキルを使用する。

サチと思しき足跡を発見しそれをたどった。

ユウキもそれについていく。

辿り着いたのは主街区外れの水路だった。

マントを羽織って蹲るように座り込んでいる。

 

「サチ」

 

キリトは呼びかける。

気付いたサチは顔を上げた。

 

「キリト……」

 

少女の表情はとても暗いものだった。

 

「皆心配してるよ?」

 

キリトはそう言って笑いかけた。

対するサチは視線をキリトから外し俯いた。

 

「ねぇ、キリト……私、逃げたい」

 

そう呟いた。

疑問符を浮かべるキリト。

 

「な、なにから?」

 

「……この街から……モンスターから……黒猫団の皆から……」

 

そこで一旦区切り

 

「ソードアート・オンラインから」

 

紡がれる言葉。

それは彼女の恐怖心を物語るには充分だった。

キリトは「やはり」と表情を曇らせる。

たった数日だが、この少女が極端なまでに怯えている事に気付いていた。

いつかはこうなる事がキリトには解っていたのだ。

しかし、どう言っていいか解らず思案していると

 

「えっと……サチさん?」

 

キリトの後ろからユウキが声をかけてきた。

聞きなれない声に呼ばれたサチは不思議そうにユウキを見る。

 

「はじめまして、ボクはユウキっていうんだ」

 

自己紹介しながらユウキは歩み寄る。

サチの隣まで来て腰をおろし

 

「貴女は戦うのが怖いんだね?」

 

そう言って問いかけた。

サチは目を見開く。

やがてその瞳から涙があふれ始めた。

 

「……はい……」

 

泣きながらサチは頷き

 

「どうしてここから出られないの? なんでHPがなくなると死んじゃうの? こんな事に……何の意味があるの?」

 

今まで溜めこんできたものを吐き出すようにサチは捲し立てる。

少しの沈黙。

 

「多分……意味なんてない……と思う」

 

それを破ったのはキリトだった。

 

「私……死ぬのが怖い……怖くて、この頃あまり眠れないの……」

 

嗚咽を混じらせてサチは言う。

そんな彼女を

 

「……そうだね……死ぬのは怖いよね?」

 

ユウキはあやすように抱きしめた。

 

「……あなたも……怖いの?」

 

サチは問いかける。

ユウキは頷いて

 

「うん、ボクも怖いよ。でも、それでもやっぱり戦うしかないんだ。生きて現実に帰る為には……」

 

そう答えを返した。

それに続く様に

 

「大丈夫、君は死なないよ。黒猫団は十分強いギルドだ。安全マージンも取れてるし、嫌なら無理に前に出る必要もないよ。俺からも皆に言うからさ」

 

キリトがそう言った。

 

「ホントに私は死なずに済むの? いつか現実に帰れるの?」

 

涙声でサチは問いかける。

 

「ああ、君は死なない」

 

「そうだよ、ボク達といつか現実に帰れるよ」

 

問いかけにユウキとキリトはそう答えた。

彼らの答えにサチは泣き笑いで頷いた。

その後、落ち着きを取り戻したサチを宿屋まで送っていった。

翌日からユウキも黒猫団の手伝いに参加する事になった。

どうやらサチの事が気にかかったらしい。

一緒に狩りやクエストをこなすうちに二人は仲良くなっていた。

同じ年頃で同性の親しい友人がいなかったユウキはとても嬉しそうだ。

ユウキと接する事でサチにも笑顔が増えてきた。

そうして狩りとクエストを手伝いながら夜中にLV上げする日々が数日過ぎた。

ある日、リーダーのケイタがギルドのホームを買うためにはじまりの街に出た。

すると、メンバーの一人が家具を買うために少し上の層に狩りに行こうと提案してきた。

仲間たちはそれに賛成する。

キリトとユウキはいつもの狩り場がいいんじゃないかと提案した。

しかし、メンバー達に押し切られ、彼らは第27層の迷宮区に足を運んだのだ。

トラップ多発地帯として攻略組にも警戒されている場所だった。

特にトラップにかかることなく、狩りは順調に進んで帰ろうとした時の事だった。

メンバーの一人が隠し扉を発見したのだ。

扉を開くと大きな空間があり、中央には宝箱が置いてあった。

それを見てはしゃぎながら三人が中央に走っていく。

 

「ま、まて!」

 

キリトが制止するも虚しく、メンバーの一人が宝箱を開けてしまう。

瞬間、部屋が赤く点滅しアラームが鳴り響いた。

宝箱を開く事で発動するアラームトラップだ。

呆気にとられるメンバー達。

扉が閉まりはじめたその時だった。

 

「ユウキ!」

 

「えっ!?」

 

扉のすぐ近くに居たユウキがサチによって部屋から押し出された。

尻餅をついた直後に扉は完全にしまってしまう。

慌ててユウキは扉を開けようとするが

 

「あ、開かない……キリト! サチ! 皆!!」

 

ドンドンと扉を叩き皆を呼ぶユウキ。

しかし返事が返ってくる訳もない。

ユウキは剣を抜いて扉を斬りつける。

しかし、紫色のシステム壁がそれを阻んだ。

無駄だと解りながらもユウキは剣を振る。

無我夢中で扉を斬り続けたのだ。

一方、閉じ込められたキリト達は多数のエネミーに囲まれていた。

キリトは転移結晶を使う様に指示を出す。

しかし、転移は行われない。

トラップの中でも最悪の部類である結晶(クリスタル)無効化空間(エリア)

あらゆる結晶アイテムは機能しなくなる。

戸惑う彼らに構う事なくモンスターたちは襲いかかってきた。

キリトは襲ってくる敵を斬りつけ撃退していく。

しかし、数が多い。

そんな中、ダガー使いが足を縺れさせ転倒してしまった。

起き上がろうとした時、複数の影が彼に群がった。

ゴブリン型のモンスターがメイスで叩きつけていく。

 

「う、うわ! うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

抵抗する事も出来ずダガー使いはHPを削り切られ四散してしまった。

それに続くようにメイス使いのテツオもHPが全損しその身体が砕け散る。

 

「テツオ!! ちっくしょぉぉぉぉ!!」

 

半ばやけになったランス使いがゴーレムに攻撃を当てるが、そのHPはほとんど削れない。

驚愕の表情を浮かべる彼のHPを、ゴーレムの無慈悲な一撃が奪い取る。

 

「おぉぉぉぉ!!!!」

 

仲間達が次々消滅していく中、キリトは彼らと居る時には使わなかった上位スキルを発動させて敵を葬り続けていた。

やがて視界にサチの姿が映る。

ゴーレムの攻撃をランスで押し返し

 

「キリト!」

 

手を伸ばして呼びかけてきた。

応えるようにキリトも手を伸ばす。

しかし、彼女の背後にはもう一体のゴーレムが腕を振り上げていた。

キリトが目を見開く。

直後、その腕は無慈悲に振り下ろされ、サチの背中を切り裂いた。

HPが一気に減少していく。

キリトを見ながらサチは何か言っている。

しかしその声はキリトに届く事はなく……

サチはポリゴン片となって砕け散った。

 

 

 

 

 

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「はぁ……はぁ……」

 

ユウキは無駄だと解りながらも扉に向かい剣を振るっていた。

もう一度剣を振り上げたその瞬間。

扉がゆっくりと開かれた。

 

「キリト!」

 

部屋の中央に立っているキリトを確認しユウキは安堵の表情を浮かべた。

しかし、すぐにそれは疑問の表情に変わった。

部屋にはキリトしかいなかったのだ。

ユウキは辺りを見回して

 

「ね、キリト……サチは? ……皆は?」

 

問いかけた。

キリトは答えない。

嫌な予感がユウキの脳裏を過り

 

「皆、無事なんだよね? 転移結晶で脱出したんでしょ? ねぇ……キリトぉ!」

 

それを振り払う様にユウキは叫んだ。

だが、返ってきたのは

 

「……すまない……」

 

一言だった。

この一言がユウキに全てを理解させた。

重い沈黙が訪れる。

 

「……キリト……帰ろう? ケイタに……ちゃんと話さないと」

 

そう言ってキリトに呼びかけた。

 

「ぁぁ……」

 

キリトは力なく返事をし、ユウキと共に迷宮区を出る。

そして、11層の街タフトに戻りケイタをメッセージで呼びだした。

しばらくしてケイタは不思議そうな顔をしてやってくる。

アインクラッド外周部でキリトとユウキは先程までの事をケイタに話した。

トラップにかかりメンバーが全滅してしまった事。

自分とユウキが攻略組だという事を。

全てを聞いたケイタは絶望の表情を浮かべた。

手に持っているホームのカギを力なく地面に落してしまう。

 

「謝ってすむ事じゃないのは……わかってる……けど、俺にはなにも……」

 

キリトは力なく言う。

しかし、ケイタは応える事なく外周部の方まで歩いていく。

 

「ケイタ! キリトは皆を守ろうと……」

 

「うるさい! もう何もかも遅いんだ……」

 

ユウキの言葉を遮るようにケイタは叫ぶ。

そのまま彼らの方を振り向く事なく

 

「ビーターのお前が、僕達に関わる資格なんてなかったんだ!!」

 

吐き捨てるようにそう言った。

キリトは目を見開きケイタを見る。

当のケイタは柵の上に立っている。

そのまま力なく外周部に身を投げた。

 

「駄目だ!!」

 

キリトは急いで駆け付ける。

手を伸ばすがそれは届く事はなく。

ケイタは落ちていきながらその身体を四散させていった。

 

「ぁ……~~~~~っ!!!」

 

キリトは思い切り地面を殴る付ける。

そんな彼にユウキは寄り添い

 

「キリト……今日はもう帰ろう?」

 

そう言って問いかけた。

キリトは無言で立ちあがり、フラフラと歩き出す。

支えるようにユウキは彼の隣を歩いていった。

 

 

 

 

月夜の黒猫団全滅から一夜明けた。

 

「んぅ……」

 

目覚めたユウキは上体を起こし自身の目を擦る。

そして自分が使っているベッドの隣にあるもう1つのベッドへ目を向けて

 

「キリト……?」

 

そこで寝ていると思っていた彼の姿が見当たらず、寝ぼけてた脳が一気に覚醒した。

勢いよくベッドから降りて、部屋を飛び出すユウキ。

 

「キリト! キリトォー!!」

 

タフトの街中を、彼の名を呼びならがら走り回るユウキ。

しかし、キリトの姿は何処にも見当たらない。

焦りが彼女を支配し、上手く思考が回らない中で、ふとある事を思い出す。

 

「そうだ、フレンドリスト─────!」

 

そう、ユウキとキリトは互いにフレンド登録してある。

リストを見れば彼がどの階層にいるかなんてすぐにわかるのだ。

態々街中を駆け回って探す必要などない。

そう考え、ユウキは急いでメニューを開き、フレンドリストを展開する。

リストに登録されている名前を最初から最後までチェックしてみるも

 

「な、い……?」

 

リストの中にキリトの名は見当たらなかった。

 

「そんなはずっ……」

 

もう一度ユウキはリストを確認する。

それこそ食いつく様に、しっかりと────しかし、何度見ても彼の名は何処にもない。

登録されているはずのフレンドがリストから消えている。

考えられる理由は2つ。

1つは対象が死んでいる事。

しかしこれはあり得ないだろう。

キリトの実力は折り紙つきだ。

それはパートナーであるユウキが誰よりも知っている事なのだから。

ならば、答えはもう1つの理由しかない。

キリトが自らフレンド登録を解除したとしか思えないのだ。

そしてきっと、登録解除の対象はユウキだけではないはずだろう。

おそらくソラやクライン、エギル達もフレンド解除されている可能性が高い。

 

「なんで……?」

 

メニューを閉じ、その場に座り込むユウキ。

 

「なんで? なんでだよぅ……? キリト……」

 

呟いている彼女の目からは涙がつぎつきに零れ落ちていく。

 

「なんでなの! キリトォォォォォォォォ!!!」

 

遣り切れない思いを吐き出す様に叫ぶユウキ。

その叫びは虚しくタフトの街に響き渡るだけだった。

その日、キリトはユウキの前から姿を消し、その行方を晦ませた……。




少女の前から姿を消した少年。

虚無のまま剣を振るい少年は先に進む。

目指すのはモミの木の下。

クリスマスの日に少年は1人背教者に挑む。

次回「赤鼻のトナカイ」

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