ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

66 / 109
寒さに負けず、PCの不調にも負けずに最新話を書きあげました!
くそう、五分に一回ブラックアウトするのマジでつらい……





では59話、始まります。


第五十九話 黒星

目の前で起こった事象に、キリトが戦慄の入り混じった声で言うと、シノンが訝しんだ顔をして彼に言う。

「な、なにを言って……死んだ? 殺された? 冗談も程々にしてよ―――」

「冗談なんかじゃない。あいつは……『死銃』、『デス・ガン』だ」

「デス……ガン。それって、前回優勝者の『ゼクシード』と上位入賞者の『薄塩たらこ』を撃って、撃たれた2人がそれ以来ログインしてないっていう……」

「あぁ、そうだ。奴が『死銃』だって事は昨日、待機室で遭遇した時に俺もソラも気付いた。けど、奴が本当にゲーム内から現実のプレイヤーを殺せるかが判らなかったが……今のではっきりした。もう疑う余地がない。奴は何らかの方法でプレイヤーを殺せる。『ゼクシード』と『薄塩たらこ』の2人は、少し前に死体で発見されてるからな」

キリトから発せられる言葉は、シノンにとってとても信じられるものではなかった。

いや、それよりも、どうして彼がそんな事を知っているのか、ということの方が気にかかった。

もちろん『死銃』が実在していた事も驚いたのだが。

そうこうしていると、ボロマントは移動し始めた。

歩を進める先には、HPがゼロになり仰向けに倒れているダインがいる。

すでに大会から脱落している彼だが、まだログインは継続しているようだ。

目の前で行われた奇怪な出来事に、彼が何を思っているのかはわからない。

そんなダインのすぐ傍まで歩み寄ったボロマントは彼を一瞥すると、ハンドガンをホルスターに収め、そのまま彼の横を通り過ぎていった。

太い鉄柱の向こう側を回り、ボロマントは姿を消した。

その位置からでは川沿いに北か南に進むしかない。

すぐに視界にボロマントが現れると思いきや、一向にその姿を見せない。

「出てこないな……」

キリトの低い囁きに、シノンは頷く。

その時、彼女の左手首に震動が伝わってきた。

時計を見ると、あと15秒程で三度目のスキャンが行われる。

シノンはポーチから端末を取り出し

「キリトは橋を監視してて。私がアイツの位置を確認するわ」

「わかった」

キリトの返事を聞き、シノンは目を向けた。

直後、マップ更新が行われ、端末に多数の光点が表示された。

自分とキリトの光点が並んで表示され、その200メートル北にグレー色で表示されているダイン。

そのすぐ傍にはペイルライダーの光点もないといけないが、表示されてない。

そして、ダインの東側、鉄橋の下にボロマントの光点が―――なかった。

「な、ない?!どうして?!」

驚きの声を上げつつも、シノンは食い入るように端末に表示された光点を確認する。

けれど、どれ程目を凝らしてもボロマントらしき光点は見つからない。

やがて衛星が飛び去ったのか、光点が消え、マップ情報がリセットされた。

シノンは端末を仕舞い、少し思案して

「端末に映ってないって事は、あんたみたいに川に潜ってるのかも……ならチャンスだわ。今なら武装を解除してるはず。そこを狙えば……」

「ハンドガンだけなら装備したままでも泳げるんじゃないか?」

「試した事ないけど、そこそこのSTRとVITがあればいけるかもね。でも、ハンドガンだけなら――――」

押し切れる。

そう言いかけた時

「ダメだ! 君も見ただろ? 奴のハンドガンがペイルライダーを消したのを。撃たれれば本当に死ぬかもしれないんだぞ?!」

キリトが押し殺した声で、シノンの言葉を遮った。

「それは……でも、私やっぱり信じられない。ゲームの中から人を殺せるなんて……ううん。それ以前に、それが事実なら、あいつは自分の意思で人を殺してるってことでしょう? そんな人がGGOに……VRMMOの中にいるなんて認めたくない。PKじゃなくて、本当に人殺しをするプレイヤーがいるなんて、認められないよ」

「……いるんだ。奴は、『死銃』は昔、俺やソラがいたVRMMOの中で、沢山の人を殺してきたんだ。相手が本当に死ぬとわかっていて、なんの迷いもなく奴は剣を振り下ろしたんだ。そして……俺も……」

そこまで言ってキリトは口を紡いだ。

彼の言葉を聞き、シノンの脳裏に昨日の予選決勝でのキリトの言葉が浮かんでくる。

 

 

 

 

『もしその銃の弾丸が、現実のプレイヤーを本当に殺すとしたら……そして、殺さなければ自分が、自分にとって大切な人が殺されるとしたら、君はその引き金を引けるのか?!』

 

 

 

 

それを思い出した時、彼女はキリトが昔いたというVRMMOが何なのかに気付く。

3年前、日本全土を震撼させた『あの事件』。

当時、シノンはVRMMOにさほどの興味は抱いていなかった。

それでも、『あの事件』は彼女でもそれなりの知識がある。

かつて、その世界に囚われたのは約一万人。

一年前に解決し、約六千人が解放され、四千人の命が失われた大事件だ。

(キリトとソラは……あの事件の『生還者』なのね……そして、あのボロマントも……)

思考を巡らせた後、シノンは小さく首を振り

「……正直、全部を信じる事は出来ない。でも、アンタの話が全部嘘や作り話とは思えない」

「それで充分だよ」

シノンの言葉に、キリトは力ない笑みで応える。

「兎に角、ここを離れましょう。私達が戦闘中だと思った遠くのプレイヤーが漁夫の利を狙わないとも限らないし」

「そうだな。俺はソラと合流して『死銃』を追う。奴を野放しにはできないからな。君は何処か安全な場所に……って言っても聞かないよな?」

「当然でしょ? 隠れるとか真っ平御免だわ。それに、私としても『死銃』をほっとく事は出来ない。だから、気は乗らないけど一時休戦して共闘しましょう。あいつを倒してこのフィールド、BoBから追い出した方が確実だわ。その後で、私と戦ってもらうから」

「……危険だぞ?」

「『死銃』の位置が判らない以上、1人でいようと誰かといようと危険なのは変わらないわ」

肩をすくめながら言うシノン。

キリトは苦笑いを零しつつ、頷いた。

直後、表情が切り替わり、鋭い視線を右に向けた。

その刹那、100メートル程離れた陰から、幾つもの赤いライン―――弾道予測線が伸びてきた。

キリトは瞬時に光剣を抜いて刃を展開する。

襲いくる無数の銃弾を、キリトが振るう紫のエネルギーの奔流が片っ端から斬り落としていく。

シノンは慌てて伏射姿勢になり、ヘカートⅡを設置した。

覗いたスコープの先にいたのは前回、前々回と出場していた『夏侯惇』というプレイヤー。

『ノリンコ・CQ』というアサルトライフルの使い手だ。

古代中国の武将っぽい顔を驚愕の色で染めている。

無理もない。

趣味武器だと思っていた光剣に、フルオート射撃による弾丸の嵐を防がれてしまったからだ。

「うっそぉ!!」

いかつい顔に似合わない、素っ頓狂な声を上げて夏侯惇は掩蔽物へと身を隠した。

キリトとシノンは視線を交わし

「まずはあいつからだな。サポートよろしく!」

「了解」

シノンは素気なく頷き、キリトは光剣を握って駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

======================

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ALO・イグドラシルシティの宿屋の一部屋。

そこはキリトとユウキは共同で借りている部屋で、内装の雰囲気も良く、中々に広い部屋である。

その部屋に、ユウキを始め、愛娘であるユイとアスナにリズベット、リーファとシリカ、そしてシリカの相棒である子竜のピナとクラインの計7人と一匹が集まっていた。

ガンゲイル・オンラインの最強者決定戦『第三回バレット・オブ・バレッツ』の中継を鑑賞する為だ。

因みに、この集いにエギルは参加していない。

彼の経営する喫茶店兼バーは夜であるこの時間が客の掻き入れ時だからである。

クラインが用意した、酔えない点を覗けば現実の酒より美味いという、酒のような飲み物と、ユウキとアスナが作った手製の惣菜を楽しみながら、皆BoBの中継を見ていたのだが――――

ある場面が中継に映された時、ユウキとクラインが驚愕し、座っていたソファーから勢いよく立ちあがったのだ。

その場面とは、丁度ペイルライダーがハンドガンで撃たれ、直後に苦しむ姿を見せてアバターが消滅した後の事だ。

ペイルライダーを撃ったボロマントのプレイヤーが、中継カメラの方へと向き直り、機械的な声でこう言ったのである。

「俺と、この銃の名は、『死銃』……『デス・ガン』。俺は、いつか、貴様等の前にも、現れる。この銃で、本物の死を与える。忘れるな、まだ終わってなどいない。手始めは、奴らからだ。――――――イッツ・ショウ・タイム」

この言葉を訊いた瞬間、ユウキとクラインは目を見開く。

アスナやリーファ、リズベット達が疑問符を浮かべて彼女達を見やると

「嘘だろ……いや、まさか……」

クラインが擦れた声で呟く。

「クラインさん! 今のが誰かわかるの?!」

すると、ユウキが彼に向き直って叫んだ。

その表情はいつもの彼女からは考えられないくらいに切迫したものだ。

「いや、そこまではわからねぇ……けど、これだけは間違いねぇ」

クラインはそこで一度区切り、ユウキに視線を向けて

「野郎は、『笑う棺桶』のメンバーだ」

「っ!!」

この言葉に、ユウキだけでなくシリカとリズベットも息をのんだ。

旧SAOにて、快楽のままに殺人を犯していた『笑う棺桶』の名は、中層で過ごしていた彼女達の記憶にも焼き付いているのだから。

「まさか、リーダーだった、あの……」

「『PoH』の奴じゃねぇ。奴とは話し方も態度も違いやがった。ただ、『イッツ・ショウ・タイム』ってのは奴の決め台詞だ。多分だが、野郎に近い幹部の可能性がたけぇ」

苦虫をかみつぶしたような表情で言うと、クラインは再びスクリーンを観た。

ユウキ達も釣られて観ると、ボロマントは橋桁の外側を通り川岸へと降りていくようで、たちまち橋の陰に隠れて消えていった。

室内に重い沈黙が漂う。

それを破るように

「えっと……『笑う棺桶』って……?」

リーファが小さな声で言った。

「えぇっと……」

その声にシリカが反応する。

リーファとアスナはSAOプレイヤーではない。

そんな彼女たちが、『笑う棺桶』の名を聞いてもいまいちピンとこないのは仕方ないだろう。

「ボクが説明するよ」

ユウキが苦い表情で2人に、かの殺人ギルドの事を話し始めた。

全てを聞き終えると、彼女等は考える仕草を取り

「ユウキさん。お兄ちゃん、きっと知ってたんだと思います。さっきの人がGGOにいる事」

リーファが言う

「ボクもそうだと思う。昨日帰ってきた時、なんか様子がおかしかったし」

「それに、今日のお昼に言ってたんです。決着をつけて帰ってくるって……」

「まさか……ソラさんも知ってた……? だからキリト君と一緒にGGOに……?」

「ちょっと待ちなさいよ。それだとバイトって話はどうなるの? キリトとソラは、リサーチの為にGGOに行ったんじゃないの?」

リズベットが首を傾げながら言う。

そう、彼女の言う通り、彼らはリサーチの為にガンゲイル・オンラインに行ったはず。

少なくとも、ユウキはキリトから、アスナはソラからそう聞いている。

だが、そこでユウキとアスナは彼らにバイトを依頼した人物の顔を思い出した。

総務省仮想課の菊岡誠二郎。

彼が元SAO事件対策チームの人間だったとしても、流石に『笑う棺桶』と攻略組の因縁を知りはいない筈。

けれど、彼らのコンバートと『笑う棺桶』のメンバーらしきボロマントの存在が単なる偶然とは思えない。

菊岡の目がGGOに向き、キリト達に調査依頼を出す何らかの切っ掛けがきっと……いや、必ずあるはずだ。

そう考えついたユウキとアスナは顔を見合わせて頷いた。

「ボク、一度ログアウトして、キリト達の依頼主に連絡取ってみる」

「え? ユウキは知ってるの? キリト達に依頼を出したのが誰なのか……」

リズベットが疑問符を浮かべて問いかけた。

ユウキは頷き

「うん。っていうか皆も知ってる人だよ。ここに呼び出して問い詰める。洗いざらい吐いてもらうから。ユイちゃん、ボクが落ちてる間にGGO関係をサーチして、さっきのボロマントのプレイヤーに関する情報を調べてくれないかな?」

「了解です、ママ!」

彼女の肩に座っていたユイはそこから飛び立ち、テーブルへと降り立った。

目を閉じて、ネットの海から情報のサーチを開始する。

「じゃぁ、ちょっとだけ待っててね! 行ってくるよ!」

そう叫ぶと、ユウキはソファーを飛び越え、メインメニューを開く。

「ユウキ。ユイちゃんが情報を集めてくれたら、私達で整理してみるから!」

アスナがそういうと、ユウキは頷いてログアウトボタンを押す。

たちまち青白い光が彼女を包み、ユウキの意識を仮想世界から現実へと浮上させたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=======================

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

都市廃墟エリア手前の野原にて、キリトとシノンは4度目のサテライト・スキャンを待っていた。

あの後、襲撃してきた夏侯惇を撃破し、『死銃』が次のターゲットを決める前に、奴を止める為に動きだしたキリト達。

その際に、シノンが貸したアイデアから、この廃墟エリアを目指したのだ。

シノン曰く、「妙な力があると言っても、『死銃』は基本的に狙撃手」。

その為、遮蔽物のないオープン・スペースは苦手だろうと言う事で、この廃墟エリアの手前にある野原を訪れたのだ。

時刻が21時になり、4度目のスキャンが始まった。

「キリトは北側をお願い!」

「あぁ!」

シノンに言われた通り、キリトは北側に表示された光点を片っ端からタッチする。

しかし、『死銃』のプレイヤーネームである『Sterben』は表示されなかった。

シノンも同じで、『Sterben』は見つけられなかったようだ。

「アンタから聞いた『死銃』のプレイヤーネームは見つからなかったけど、南東方面にソラの名前があったわ。どうする? 合流する?」

「いや……ソラの事だから、俺達のいる場所に向かって来てるだろう。それに、南東方面だと戻る事になる。だったらこのまま廃墟エリアに行って死銃を探そう。ここに『銃士X』って奴がいる。奴がこいつを狙う可能性も高いからな。」

「でも、『死銃』の光点は廃墟エリアになかったのよ?」

「もしかしたら、特殊な方法を使って身を隠してるのかもな……ともかく、これ以上の被害を出したくない」

キリトがそういうと、シノンはやれやれと肩をすくめて

「わかったわ。とりあえず『銃士X』が狙われてるかどうかだけ確認しましょう。じゃないと、アンタ納得しなさそうだし」

そう言った。

キリトが頷くと同時に、廃墟エリアに向かって走り出し、シノンもその後に続いた。

路上に放置されているタクシーや、バスなどを縫う様にして走り抜け、『銃士X』がいるだろうスタジアムの手前まで来る。

「あそこね」

「よし、いこう!」

言うや否や、キリトはビルの壁面の崩壊部を潜り、スタジアムに向けて駆け出した。

シノンもその後に続こうと足を踏み出した―――直後、地面に力なく倒れてしまった。

何が起きたのか理解が出来ず、シノンは呆けた表情になる。

反射的に左手を持ち上げようとすると、激しい衝撃が走り、表情が苦痛に歪んだ。

起き上がろうとするも、身体の自由が利かない。

唯一自由のきく両目で左手を見てみると、ジャケット袖を貫いて、腕に弾丸―――否、針のようなものが突き刺さっていた。

根元の部分から青白く発光し、糸のような電流が腕から身体へと流れ込んでいく。

それは間違いなく、ペイルライダーを行動不能にした電磁スタン弾だ。

(うそ……誰が何処から……?)

思考が巡る。

この廃墟エリアには自分とキリト、そして『銃士X』しかいない筈。

その時だった。

南に約20メートル離れた位置で、ジジッという電子音が鳴り、光の粒子が流れて空間を切り裂き、そこから人影が現れた。

その光景を見て、シノンは心の中で叫んだ。

(あれは、メタマテリアル光歪曲迷彩(オプチカル・カモ)!?)

装甲表面の光そのものを滑らせる事で、自身を不可視の状態にする。

言ってしまえば最高位の迷彩アイテム。

現れた人影はボロボロのマントを身につけ、フードを目深に被ったプレイヤーだ。

間近で見るのは初めてであるにも拘らず、シノンは彼が何者か悟る事が出来た。

(こいつが……『死銃』)

呆然を見つめている『死銃』は滑るような動きでシノンに近づいてきた。

なんとか動く右手をサブアームであるMP7へと持っていくシノン。

ふと視線を『死銃』に戻すと、彼の後ろには中継用のカメラが浮かんでいた。

『死銃』はカメラを確認し、十字を切る動きを見せた。

そんな中、シノンの右手がMP7のグリップを捉える。

後は照準を合わせてトリガーを引くだけ―――

そう思い、視線を『死銃』に向けた瞬間、彼女の身体が凍りついたように動かなくなった。

正確には『死銃』の姿ではなく、彼が握る黒いハンドガンを見たからだ。

(なんで? ……あれはなんの変哲もないハンドガンなのに……)

『死銃』が左手をスライドに添えて、銃の左側面を晒すように見せつけた。

円の中央に、星が描かれている。

黒色の星だ。

この銃の名は『黒星(ヘイシン)・五四式』。

シノンにとって――――朝田詩乃にとって因縁深い銃。

彼女の右手から力が抜けて、最後の希望ともいえるMP7が滑り落ちる。

そんなシノンに構う事もなく、『死銃』は照準を彼女に合わせた。

「さぁ、出てこい」

金属質な声が響く。

しかし、シノンの耳にそれは届いてはいなかった。

彼女の頭の中は、あの時の事が巡っていたからだ。

 

 

 

 

――――あれは、あの時の銃。お母さんを殺そうとした男の……私が無我夢中で奪ってあの男を撃ち殺した……あの時の銃。

 

 

 

 

目に映った『死銃』のフードの内部の暗闇が、赤い光を放ちながら不気味に歪む。

それがあの時の男の目に見えて―――

(あの男は……ここにいたんだ……この世界に潜んで、私を殺す機会を待ってたんだ……)

思考が巡ると同時に、シノンの全身から感覚が失われていく。

それでも彼女の目は黒いハンドガンから反らされていない。

彼がトリガーに添えた指を引けば、銃弾が放たれる。

それは仮想の弾丸ではなく、現実の彼女に確実な『死』を与える本物の銃弾。

あの時、彼女が男を撃ち殺しように、今度は自分が殺される。

それは逃れられない運命だと、シノンは最後にそう思考を巡らせて、諦めたように目を閉じた。

『死銃』の指がピクリと動き、後少し力を込めれば引き金が引かれる――――その時だった。

ジャリッと、地を踏む音が聞こえ、『死銃』音の方へと身を翻す。

「はぁぁ!!」

直後、叫びと共に赤いエネルギーの奔流が『死銃』へと迫ってきた。

彼は上体を後ろに反らし、迫ってきたエネルギー刃を躱してみせる。

そのままバックステップで距離を取り、自身に攻撃を仕掛けてきた人物を確認した。

左手にホルスターを、右手には赤の煌めきを放つ刃の光剣を握った灼髪の青年。

「来たな、『刃雷』!」

歓喜の入り混じった声は発し、『死銃』は青年―――ソラを見やった。

 

 

 

 




一時撤退する少年たち。


それを追う『死銃』。


逃走のなか、少女はただ怯えていた。



次回「選択」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。