ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

64 / 109
ヤバいなぁ、PCの調子がすこぶる悪い。画面がブラックアウトして執筆が滞る滞る……さすがに10年も使ってるとガタもくるものですね。でも買い替えるにしても資金が貯まりきってないのが現状という……もうしばらくは騙し騙しで使っていくしかないか。




では57話、始まります。


第五十七話 BoB本戦

「おにぃーちゃん」

昼食を摂っている食卓で、少女がとても素敵な笑顔で少年に呼びかけてきた。

現在時刻は12時40分。

少年―――桐ヶ谷和人は嫌な予感を抱きつつも

「な、なんだよ、スグ?」

食事の手を止めて少女―――桐ヶ谷直葉に聞き返す。

すると直葉は素敵な笑顔を崩すことなく、隣の椅子からあるものを手にとって

「あのね。今朝、ネットでこんな記事を見つけんたんだよねー」

いいながら見せてきたのは『MMOトゥモロー』のニュースがコピーされたA4サイズのプリント用紙。

上部に『ガンゲイル・オンライン最強者決定戦。第三回バレット・オブ・バレッツ本戦出場者30人が決定』と書かれている。

その下には出場するプレイヤー名が書かれており、ある二つの名前の下には赤いペンで線が引かれていた。

『Cブロック一位―Sora(初)』

『Fブロック一位―Kirito(初)』

ご丁寧に『注目のダークホースは初出場のこの二人。黒の美剣士と、赤の抜剣士』という見出しまで書かれている。

その部分を指差して

「この名前、すっごく見覚えあるんだけどなー?」

直葉は問いかけてくる。

見せているのは笑顔だが何処か怖い。

和人は冷や汗を掻きながら

「い、いやー、似たような名前があるもんだなぁ。あっははは……」

乾いた笑みを浮かべながら言うものの

「似てるんじゃなくて、同一人物だよね?」

バッサリと言われてしまう。

和人は目を逸らしながら

「ま、まぁ……そうだな」

そう応えた。

ちらりと直葉に視線を向けると、彼女は未だに笑顔だ。

しかし内心は怒り心頭といったところだろう。

なにせ彼女にはアバターをコンバートした事は黙っていたのだから。

どう説明しようか迷っていると

「また怖い顔してる」

そう言って直葉は溜息を吐いた。

「ホントはね。お兄ちゃんとソラさんがALOからアバターをGGOにコンバートしたの知ってたんだ」

「え?」

「だって、お兄ちゃんとソラさんの名前がフレンドリストから消えてたんだもん。気付かない訳ないじゃない」

そう言われ和人はバツが悪そうに首を縮込ませた。

「昨日の夜に2人がリストから消えてるのに気付いて、すぐログアウトしてお兄ちゃんの部屋に突撃しようとしたの。でも、お兄ちゃんやソラさんが、なんの理由もなくALOから居なくなるなんて思えなくて、何か事情があるんだと思ってユウキさんとアスナさん、それからユイちゃんにも聞いてみたの」

和人はアバターをコンバートする事を、恋人である木綿季と、アイテムやユルドを預かってもらっているエギル、そして木綿季との『娘』である人工知能のユイには教えてあった。

高度なAIであるユイには、ほんの数秒だろうとALOから消える事を隠す事は出来ないからだ。

明日奈に関しては、ソラこと天賀井空人本人からコンバートの事を聞いている。

もっとも、コンバートの理由は『菊岡誠二郎からの依頼で、ザ・シード連結社の調査の為GGOに行くことになった』と説明し、『死銃』の事は伏せてあるのだが。

「ユウキさんは、「いつも通り大暴れしたら戻ってくるよ」って言ってたし、さっきも帰る前にお兄ちゃんを信じようって言ってくれたけど……私、心配だよ……きっと、ユウキさんも内心では不安がってると思う」

そう言って直葉は不安そうな表情で和人を見ていた。

泊りに来ていた木綿季は一時間程前に現在お世話になっている結城家へと帰ったようで、その時にも直葉に安心するように言ったようだが、それでもやはり和人が心配な気持ちは隠しきれなかったのだろう。

昨夜、迷いを抱いていた自分を優しく諭し、導いてくれた愛しい少女。

彼女の事を思い浮かべた後、目の前で心配そうな表情で見てくる妹に和人は苦笑いになった。

「スグ、俺は―――」

「行かないよね? また何処か遠くに行っちゃうことなんてないよね? 嫌だよ。私、そんなの絶対に嫌だからね?」

和人の言葉を遮るように、直葉が言葉を紡いだ。

兄がまた、SAOに囚われた時のように手の届かない所へ行ってしまうかもしれないという恐怖からの言葉。

和人は優しく微笑み

「行かないよ。俺はちゃんと帰ってくる。ALOにも、この家にも」

そう言った。

「ほんとう?」

「ああ、約束する。決着をつけて必ず帰ってくるよ」

「……うん」

和人の言葉を聞いて、直葉はようやく笑顔を見せて頷いた。

一息吐き、食事を再開しようと箸を手に取った―――その時

「そういえば、ユウキさんから聞いたんだけど……今回の『お仕事』って、すっごいバイト代が出るんだってね?」

「うっ……」

にこやかに笑いながら尋ねてくる直葉に、和人は言葉を詰まらせた。

確かに今回の依頼で30万円という、一介の学生が簡単に稼ぐことは出来ない額の報酬が出る。

和人は軽く咳払いをし

「お、おう。なんでも奢ってやるから楽しみにシテロヨ」

最後はなんとなく片言になりながらもそう言った。

「やった! あのねぇ、前から欲しかったナノカーボン竹刀があってねー」

目を輝かせていう妹に、和人は苦笑いで頷き、内心で盛大に溜息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=========================

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

埼玉県所沢市総合病院の一室。

ここに一人の女性が入院していた。

四十代後半のその女性は、設置されているジェルベッドから上体を起こし、窓の外を見ている。

すると、ドアが開く音が聞こえてきた。

誰かが入ってきた気配を察し、女性は視線を向ける。

目に映った人物を見てニコリと微笑み

「いらっしゃい、明日奈ちゃん」

そう言って来訪者―――結城明日奈に声をかけた。

当の明日奈は丁寧に頭を下げて

「こんにちわ、朱里さん」

女性―――天賀井朱里にそう返した。

ベッドのすぐ傍に置いてある椅子に明日奈は腰掛けて

「身体の調子はどうですか?」

尋ねる。

「大丈夫よ。最近は調子がいいくらいね」

問われた朱里は笑みを崩すことなく応える。

ふと視線を小さく左右に振り

「今日は空人は一緒じゃないのね?」

「あ、はい。今日は用事があるみたいで……」

疑問符を浮かべている朱里に明日奈はそう返す。

「そう。それで、明日奈ちゃんは何を悩んでいるのかしら?」

微笑みかけながら、朱里はそう明日奈へと問いかけた。

明日奈は驚いたように目を見開き

「え、あ……あの」

言葉が出せず、視線が彷徨っていた。

そんな彼女を気にするでもなく朱里は微笑んだまま

「なんとなくね、貴女の表情が迷っているように見えたの。そしてその原因は空人……そうでしょう?」

「あ、ははは……」

乾いた笑みが明日奈から零れる。

まったくもって図星だからだ。

恋人の空人も妙に勘がいいところがあるが、流石は彼の母親と言ったところだろう。

明日奈は意を決して

「実は……」

今自分が抱えている悩み、というよりはちょっとした不安を朱里に話し始めた。

昨夜、空人は明日奈に電話をかけていた。

突然の通話だったが、彼女は大好きな彼の声が聞けることに喜んで電話に出たのだが―――その時の彼の声色が、心なしかおかしく思えた。

いつも通りの優しい口調と声だったが、不思議と何処か張り詰めたような雰囲気を感じた。

電話してきた理由も、明日奈の声が聞きたかったというもので、嬉しく思いはしたものの、なにか妙な引っ掛かりを覚えてしまったのである。

まるで、何かに縋りたいような―――何処か追い詰められた雰囲気を、明日奈はスマートフォン越しに感じてしまったのだ。

通話はほんの数分で終わり、その後明日奈は何か言い知れない不安を抱いてしまった。

空人が何かとんでもないことを抱え込んでしまったのではないか?

そう考えると居ても経ってもいられなくなり、彼の母親である朱里なら何か知っているのではと聞きに訪れたのだ。

一通り聞き終えた朱里は苦笑いで首を振り

「ちょっとわからないわねぇ。ごめんなさいね? 役に立てなくて」

「い、いえ、私の思い過ごしかもしれませんし……でも、もし空人さんが何かを抱え込んでいるんだとしたら、私に何が出来るのかなって……」

朱里の言葉に、明日奈は苦笑いで返す。

そんな彼女を見て

「そうねぇ。空人が何を抱え込んでるのかはわからないけど、貴女に言えることが一つだけあるわ」

朱里は微笑みながら

「あの子を、空人を信じてあげて? 他の誰でもない、貴女があの子を一番に信じてあげるの」

そう言った。

「空人さんを……信じる……」

「貴女がそうしてあげることが、きっとあの子の力になる。小さなことだけど、信じると言う事は、決して無駄な事ではないわ。明日奈ちゃんは空人を信じられないかしら?」

「そんな事ありません! 私は空人さんを信じてます。どんな時でも、あの人を信じ続けます!」

朱里の言葉に明日奈は少々声を荒げつつ、そう応えた。

すると朱里は彼女の言葉に満足したように微笑んで

「そう。なら何も心配する事はないわね。あの子が一番信頼している貴女が信じてくれてるんだもの。それなら空人に怖いものはないはずだから」

「朱里さん……」

「これからも、あの子をお願いね?」

「はい。もちろんです」

微笑みながら言う朱里に、明日奈は真剣な表情で頷いた。

その後、彼女の病室を後にし病院を出た明日奈はスマートフォンを取り出し連絡帳を開いた。

よく使う項目に登録されている『天賀井空人』をタップしてコールを鳴らす。

数回のコールが鳴ると、彼は電話に出た。

『もしもし?』

「あ、空人さん。いま、大丈夫ですか?」

『あぁ、問題ないよ。どうしたんだい? なにかあった?』

スマートフォン越しに聞こえてくる彼の不思議そうな声。

明日奈は軽く深呼吸し

「あの、なにがあったかはわかりませんけど、私、空人さんのこと信じてますから!」

そう言った。

『え?』

「昨日、電話してくれた時……空人さん、なんだか切羽詰まったような感じがして……でも、事情もよくわからない私じゃ何もできないし……だから、だからせめて貴方を信じようって、そう思って……」

『……くっ……ははっ。はははっ』

「ちょ、空人さん! 何を笑ってるんですか!? 私は真剣に……」

聞こえてきた空人の突然の笑い声に、明日奈はムッとした表情で言う。

すると、未だ可笑しそうな声で空人が

『ごめんごめん。そうか、僕は君に余計な心配をさせてしまったんだね。昨日は本当に声が聴きたかっただけなんだ。それに、今ので色々吹っ切れたよ』

そう返してきた。

明日奈は疑問符を浮かべている。

『不思議だな。君の声は、いつも僕の心を落ち着かせてくれる。おかげで今日は頑張れそうだ。ありがとう、明日奈』

「え、あ……ど、どういたしまして?」

『明日奈。僕はまだ君に話せていない事があるんだ。今回の件が片付いたら、聞いてくれないか? 面白い話ではないけど、君には知っていてほしいから……』

「……わかりました。聞かせてください。どんな些細な事でも、貴方を知っていきたいから。だから、ちゃんと帰ってきてくださいね?」

『もちろんだ。約束するよ』

「はい、約束です」

そういうと、明日奈は通話を終了する。

スマートフォンをスリープ状態にしてしまうと、空を見上げて

「信じてますよ、空人さん」

そう呟き、歩き出した。

場所は変わって、空人が借りているアパートの部屋の中。

彼はスマートフォンをポケットに押し込むと、座っていたベッドの上から立ち上がり、窓の外に広がる青空に視線を移す。

「僕も現金なやつだな。彼女の声を聴くだけでこんなに落ち着くなんて」

呟く。

(『死銃』が『赤眼のザザ』であるならば、これはSAOからの因縁だ。あの時、奴はまた現れると言った。今がその時と言うならば、今度こそ、この因縁に決着をつける。あの世界で人を殺めた事と向き合う為にも、僕は退く訳にはいかないから)

思考を巡らせ、空人は意を決したように頷いた。

ジャケットを羽織り、GGOにダイブするのに指定されている病院へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

===========================

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空人が病院に訪れると、入口には見知った少年が立っていた。

相も変わらずの真っ黒装備に空人は苦笑いが零れる。

当の少年は空人がやってきた事に気付き、右手を上げて

「よ。今日は俺の方が早かったな、ソラ」

そう言ってきた。

「みたいだな。それはそうと、ずいぶんと吹っ切れた顔をしてるな、キリト」

「まぁな。ソラも吹っ切れた顔してるじゃないか? 明日奈にでも元気付けてもらったんじゃないか?」

「そういう君は、ユウキに迷いを断ち切ってもらった感じか?」

「あぁ、お互いさまってやつだな」

いいながらキリト―――和人は笑う。

が、すぐに真剣な表情に切り替えて

「今回の件は、俺達にとって逃げるわけにはいかないものになった。『死銃』の正体が『赤眼のザザ』だと言うなら、これはもう『笑う棺桶』との因縁と言ってもいい」

「わかってる。だからこそ、僕達の手で決着をつけよう。これ以上、『笑う棺桶』の思想の犠牲者を出さない為にも……そして、僕達を信じてくれている人のためにも」

「あぁ、俺達を支えてくれる人のためにも、負けるわけにはいかない。頼りにしてるぜ、ソラ」

「僕もだ」

そういうと2人は右拳を突き出して軽く打ち付ける。

彼らの表情に迷いはもうなかった。

頷き合い、2人は病院内に入り、指定されている部屋へと訪れる。

扉が開くと、先日と同じく安岐が彼らを出迎えた。

「いらっしゃい、桐ヶ谷君と天賀井君。今日もよろしくね!」

「よ、よろしく」

「お願いします」

2人は軽く会釈して、部屋の中に入る。

安岐はにこやかに笑って

「さ、電極張るから2人とも脱いだ脱いだ」

「はい」

彼女の言葉に、2人は頷いて上着を脱いで上半身裸になる。

設置されているジェルベッドに横になると、ぺたぺたと手際よく電極が貼られていった。

電極を張り、計器のチェックを終えると同時に、和人達はアミュスフィアを装着した。

「じゃぁ、今日も四、五時間潜りっぱなしになると思うので……」

「2人の身体はちゃぁんと観察……こほん! しっかり見てるから、安心していってらっしゃいな」

「あ、あははは……」

安岐の言葉に空人から乾いた笑みが零れる。

和人はもう反応することに疲れたような感じだ。

気を取り直し、2人はアミュスフィアの電源を入れる。

スタンバイ完了の電子音が耳に届く。

2人は一呼吸置き

「「リンク・スタート!」」

仮想世界へと意識を繋げるコマンドを口にした。

意識が遮断されていく、その彼方で

「いってらっしゃい。『黒の剣士』君と『刃雷』さん」

そう聞こえた気がしたが、認識する間もなく2人の意識は現実世界を離れて仮想世界へと誘われた。

目を開くと、そこは黄昏の空が広がる異世界だ。

キリトが降り立ったのは『SBCグロッケン』の北端、総督府に近い路傍の一角だった。

上空にはホロネオンの群が流れている。

そのほとんどが現実世界に存在する企業の広告で、中でも一際目立っているのが間もなく開催される『第3回バレット・オブ・バレッツ』の大会告知だ。

視線を上から横に逸らすと、建物のガラスに自分の姿が映り、キリトは盛大な溜息を吐いた。

何度確認しても映る姿は美少女。

もうこうなった以上は腹を括るしかないと、キリトは無理矢理に納得し、視線を前に向けた。

その先には、灼髪の男性プレイヤーがいる。

彼はキリトに気付いて歩み寄ってきた。

「相変わらずのアバターだな、キリト」

「もうどうにでもなれだよ。ソラ」

ソラの言葉にキリトは溜息を吐きつつ肩をすくめてみせた。

と、その時

「おい、あいつら……」

「ああ、黒の美剣士と赤の抜剣士だな……」

周囲にいたプレイヤー達からそんな会話が聞こえてきた。

「いつの間にか有名人だな僕達は」

「そりゃ、予選で暴れたからな。『MMOトゥモロー』のニュースにも載ってたし。それ経由でスグにもバレるわ、クライン達にもバレるわ、もう最悪だよ。今日の中継も皆で観るって言ってたぜ」

「それは……なんというか余計に気を引き締めないといけないなぁ……」

キリトから聞かされた言葉にソラは苦笑いになる。

確かに銃で撃ち合う筈のゲームで剣を使い、尚且つ放たれる銃弾を斬り伏せながら特攻するプレイヤーなどネタになって当然だ。

更にはALOでの仲間たちが、今回の大会で戦う自分達を観るというのだから内心複雑な気分にもなるだろう。

互いに溜息を吐き、2人は総督府を目指して歩き出す。

総督府ホールに到着すると、一階にある端末で本戦エントリーの手続きを済ませるキリト達。

本戦開始までまだ時間がある為、2人は地下一階の酒場で時間を潰すことにした。

酒場に入るとそこには彼らの見知った少女がいた。

「よう、シノン」

キリトが軽く手を上げて少女を呼ぶ。

すると少女―――シノンは彼らの存在に気付いて振り向いてきた。

「アンタ達か。今日の本戦ではヨロシク」

「こちらこそ」

「あぁ、よろしく」

シノンの言葉に2人はそう言って返した。

すると彼女はキリトの顔をジッと見て

「ふぅん。今日は吹っ切れた表情してるわね」

「まぁね。今なら誰にも負ける気はしないな」

言ってくるシノンにキリトは不敵に笑って言う。

彼女は目を細めて

「そう……今日の本戦でアンタともう一度戦うのを楽しみにしてるわ。ソラともね。手を抜いたら許さないから」

「わかってるさ」

「その時は全力でいかせてもらうよ」

宣戦布告してくるシノンにキリト達は不敵に返す。

その時、キリトは思いついたように

「そうだ。シノン、本戦についてレクチャーしてくれないか? 運営からのメールを読んだけど、ちょっと要領を得なくてさ」

「……まぁ、いいけど。じゃ、あっちに空いてる席があるから座りましょう」

呆れた表情で言いながらシノンは2人に移動を促した。

窓際のブース席に座り、三人ともアイスコーヒーを注文する。

少しして、コーヒーが淹れられたグラスがテーブルに置かれ、シノンはそれを手に取り、コーヒーを口にする。

グラスを置いて、一息吐き

「本戦は30人が入り乱れてのバトルロワイヤル。同じマップに30人がランダムで配置されて、遭遇したら戦闘開始。最後まで生き残った1人が優勝。で、マップなんだけど、広さは直径10キロの円形で、プレイヤーは他のプレイヤーと最低でも一キロは離れて転送されるの。山あり森あり砂漠ありの複合マップだから、装備やステータスでの有利不利は特に無しね」

「10キロ?! そんなに広いフィールドなのか?!」

「……ちゃんと対戦者と遭遇できるのかい? 下手をすれば大会終了まで誰とも遭遇しない可能性もあるんじゃ……」

シノンの説明に、キリトもソラも驚いた表情で言う。

「銃で撃ち合うゲームなんだもの。そのくらいの広さは必要なのよ。スナイパーライフルの射程は1キロはあるし、アサルトライフルだって500メートルくらいは狙える。それに、狭いマップに30人も押し込めたら開始してすぐに撃ち合いになって、あっという間も半分は死んじゃうわよ。まぁ、アンタ達は光剣で弾丸を斬り伏せそうだけど……でも、確かに遭遇しなきゃ何も始まらないし、それを逆手に最後の一人になるまで隠れてようって小賢しいやつも出てくるでしょうしね。だから、参加者には『サテライト・スキャン端末』っていうアイテムが自動配布されるの」

「どういうものなんだ?」

「15分に一回、上空の監視衛星が通過する設定なの。その時、全員の端末に全プレイヤーの位置情報が表示されるのよ。マップに表示されてる光点に触れば名前も表示されるオマケ付き」

それを聞いたソラは一瞬だけ考える仕草を取り

「つまり、一か所に留まれるのは15分が限界ということか……」

そう呟いた。

シノンは頷く。

「そういう事」

「なら、スナイパーは不利なんじゃないか? 茂みに隠れて只管ライフルを構えてなきゃいけないんだろ?」

「そうでもないわ。一発撃って1人殺してから一キロ移動するのに、15分もあれば余裕で出来る。今度こそ、アンタの眉間にヘカートⅡの弾丸を見舞ってやるから」

「さ、さようでございますか……」

シノンの言葉にキリトは冷や汗を掻きつつ苦笑いで返す。

隣のソラは軽く笑っている。

「ずいぶんと嫌われてるな、キリト」

「言っとくけど、ソラ、アンタにもヘカートⅡの弾丸を撃ち込んであげる予定なんだから。他人事みたいに構えてると後悔するわよ?」

「肝に銘じておくよ」

言ってくるシノンに対し、ソラは表情を崩すことなく返す。

一呼吸置いて

「つまり、試合が始まったら兎に角動き回って敵を見つけて倒し、最後の一人になるまで戦うってことか。15分ごとに全プレイヤーの位置情報が手元の端末に表示されて、誰が生き残っているかが判る。という認識でいいのかな?」

ソラは聞いた情報を纏め、改めてシノンにそう問いかけた。

シノンは頷き

「その理解で合ってるわ。レクチャーはこれで充分ね?」

そう聞いてくる彼女に、キリト達は頷き返す。

シノンはグラスに残ったコーヒーを一気に飲み干して立ち上がり

「じゃ、待機ドームに行きましょう。装備やアイテムの確認もしなきゃいけないしね」

「あぁ」

「そうだね」

2人もコーヒーを飲み終わり、グラスを置いて立ち上がる。

酒場の隅にあるエレベーターに乗り込み、シノンが下向きのボタンを押した。

鉄骨の箱がゆっくりと下降していく。

「2人とも最後まで生き残りなさいよ。キリトとはもう一度勝負したいし、ソラとも戦いたいからね。私以外の誰かに撃たれたら承知しないわよ」

「「わかった」」

シノンの言葉に2人が頷くと同時に、エレベーターは停止した。

エレベーターから降りて、待機室に入り、2人はシノンと別れて待機室の隅に移動した。

今後の事を話しあう為だ。

「取り合えず。大会が始まったら合流する事を第一に考えて動こう。『死銃』と接触するのはそれからでも遅くはない筈だ」

「それでいいと思う。奴の動きが読めない以上、一人で下手に動く方が危険だしね」

「シノンを始め、俺達以外に『死銃』がこの大会に出ている事は知らない。まぁ、話すわけにもいかないし、奴がどうやって現実のプレイヤーを殺しているかがわからないからな」

「わかってる。なんとしても犠牲者が出る前に、『殺害法』のタネを調べよう」

本戦が始まってからの行動を確認し、2人は頷き合う。

そのままキリト達は武装と所持アイテムを確認する。

それから数分後、女性の合成音声によるアナウンスが響いてきた。

『お待たせしました。これより、第三回バレット・オブ・バレッツ、本戦を開始いたします。出場プレイヤーの皆さまの健闘と勝利をお祈りしています』

直後、待機室にいるプレイヤー達の身体が青白い光に包まれていく。

その光は瞬く間に彼らを戦いのフィールドに転送していった。

 

 

ついに、最強者決定戦バレット・オブ・バレッツ本戦が始まった。

 




少年と少女の視線の先で繰り広げられる銃撃戦。


それが終わると同時に、不気味な影が姿を現す。


その手には『死』告げる力の姿があった。



次回「死を与える者」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。