ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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今日が連休の最終日……明日からまた仕事の日々が始まる……あぁ、めんどいw





では55話、始まります。


第五十五話 弾丸破壊(バレットブラスト)

一方―――

キリトの目の前の赤いウインドウには『Kirito VS 餓丸 フィールド・失われた古代寺院』と表示されていた。

準備時間は残り45秒。

キリトはウインドウを開いてメインアームの光剣と、サブアームのF・Nファイブセブンをセットした。

ウインドウを閉じ、静かにカウントがゼロになるのを待つ。

時間がゼロになり、周囲の景色が変化する。

イオニア式かコリント式かはわからないが、傍には巨大な円柱がそびえていた。

数メートル間隔で並び立ち、コの字を描いている。

その中のいくつかは崩れ、倒れており、いかにも滅びた神殿という雰囲気を醸し出していた。

キリトは身近な柱に身を隠し、周囲をうかがう。

視界内に人影はない。

だが、確実に近くに潜んでいる筈だ。

(さて……このまま相手が痺れを切らすのを待ってもいいが……やっぱ、それは性分じゃないな)

思考を巡らせてキリトは微かに笑う。

腰に装備されているハンドガンに手を添えた―――その時。

彼から約20メートル程離れた草の中から、音もなく人影が出現した。

すでに両手でアサルトライフルが構えられ、照準はキリトに向けられている。

このプレイヤーがキリトの対戦相手である『餓丸』だろう。

(いつの間にっ?!)

思考が巡る―――と同時にキリトに向かい、数十の薄赤い光の線が延びてきた。

『弾道予測線』である。

「くっ!」

キリトは思いっきり地面を蹴り、もっとも予測線が薄い上空へ向かい跳躍した。

直後、敵のライフルが軽快な音を立てて弾丸を吐き出す。

右の脛部に一発受けてしまい、キリトのHPバーが少量だが減少した。

(くっそ! とてもじゃないが避けきれない! フルオートでの射撃がこんなに厄介とは……)

思考を巡せ、キリトは着地と同時にすぐ傍の柱の陰へと逃げ込んだ。

腰のハンドガンを抜いて、柱の陰から上体を出し、銃を構えようとする。

が、敵はそんな余裕は与えてくれないようだ。

再び無数の赤いライン―――予測線が伸びてくる。

「わぁぁ!?」

情けない声を出しながら、キリトは再び柱の陰に引っ込んだ。

その際に左肩にまた一発喰らったようで、彼のHPはまた少し減少していた。

(どうする……剣対剣の戦闘とは勝手が違いすぎる……まぁ、当たり前か……兎に角、奴をたたっ斬るにはどのみち真正面から突撃するしかない。けど、あの速射はとてもじゃないけど避けきれない……)

そこまで考えて、キリトは右腰に下げておいる光剣を手に取った。

(SAOでは盾がなくても武器で『防御』が出来た。それはALOでも同じだ。でもそれは相手も接近戦用の武器を使っていたからだし……となると、後はもう弾丸を斬るくらいしか……出来るか……? いや……出来る……可能だ! なぜなら、何処に弾が飛んでくるかは初めから判ってるからな!)

右手に握った光剣のスイッチを押すと、紫の刃が形成される。

一度息を吐いて、キリトは意を決して立ちあがった。

現在、銃撃は止んでいる。

おそらくは再び息を潜め、キリトの死角に回り込んでフルオート射撃を見舞うつもりなのだろう。

キリトは目を閉じて全神経を集中させる。

ほんの僅かな音ですら聞き逃さないように―――

瞬間、キリトは目を見開き、自身から左斜め方向に目を向けた。

そこから微かにだが不規則に蠢く音を捉えたのだ。

「いっ……くぜぇ!」

小さく叫び、キリトは地を蹴って駆け出した。

敵が潜むであろう場所に向かい、一直線に駆けていく。

それに気付いた餓丸は、慌てて上体を起こしてライフルを構えた。

自身の位置がばれるという想定外の事態に、すぐには照準を合わせられず、僅かなタイムラグが発生する。

一秒半。

その一瞬でキリトは相手との距離を半分以下にまで詰めていた。

「うらぁ!」

声と共に、三度ライフルから無数の予測線が伸びてきた。

だがキリトは前方に全神経を集中させた。

駆ける勢いはまったく落ちない。

(……予測線の伸び方にズレがある。どうやら相手の命中精度は大したことはないみたいだな)

そう思考を巡らせると、キリトは不敵な笑みを浮かべた。

彼の意識が完全に戦闘モードへと移行した証だ。

こうなったキリトは止まらない―――いや、止めることなどできない。

瞬間、敵のライフルがオレンジに光、銃口から弾丸が吐き出される。

それと同時に、キリトは自身の身体に伸びている5本の予測線目掛けて光剣を振るった。

刹那、バシッ! バンッ! という音と共に、光剣が描いた線から澄色の光が花火のように弾けていった。

光剣から発せられている高密度のエネルギーが、敵ライフルの銃弾を弾いたのだ。

しかし、まだ弾丸は飛んでくる。

キリトは焦ることなく、次に飛んで来るだろう弾丸を斬るべく残りの予測線に向けて光剣を振った。

再び激しい衝撃音を発しながら、飛んできた弾丸は火花を散らして消えていく。

キリトに命中する筈だった弾丸は全て、彼によって()()()()られたのだ。

命名するならば『弾丸破壊(バレットブラスト)』と言うべきか―――

「ば、ばかなっ!!」

驚愕の表情を浮かべる餓丸。

だが、それでも彼の腕は止まらず、空になったマガジンをリリースして新しいマガジンの装填へと移っていた。

やはり最強者決定戦でる『バレット・オブ・バレッツ』に出場するだけあって並の精神の持ち主ではないようだ。

「させる……かぁぁぁ!!!」

叫びと共に、キリトは左手に握っていたハンドガンの銃口を餓丸に向ける。

瞬間、彼の胸部に緑の円が出現した。

キリトがトリガーを引くと、バァンッ! と音を立てて弾丸が放たれる。

それは見事に命中し、餓丸のマガジン再装填の動作を鈍らせた。

ほんの一瞬。

時間にすれば一秒足らずだった―――が、キリトには充分だった。

あっという間に距離を詰め、右手の光剣が唸りを上げて突き出された。

片手剣ソードスキル『ヴォーパルストライク』―――その模倣が放たれた。

体勢崩された餓丸は避ける事が出来ず、光の刃が彼の胸を深々と貫いた。

「ぐがぁぁ!!!」

強力で重い一撃は、あっという間に餓丸のHPを削り取り―――その体躯はポリゴン片となって爆散した。

キリトは光剣の刃を消して右腰のスナップリングに吊り、ハンドガンを左腰のホルスターに納めた。

軽く息を吐いて思考を巡らせる。

(しんどかった……こんな戦闘があと4回もあるのか……でも、弾丸を斬れるのがわかったのは収穫だな)

直後、彼の目の前に勝者を告げるメッセージが表示され、キリトは待機室へと転送されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「どうやら、勝ったみたいだな」

待機室へ戻ると、そこはすでにソラがいた。

「まぁな」

「僕の方が少し早く終わったみたいだった。さっきホロパネルから中継を見たけど、相変わらず無茶苦茶だな。弾丸を斬るなんて」

呆れたような表情でソラは言う。

「俺に出来たなら、ソラだって出来るさ。次の試合で試してみろよ」

「ふむ……そうだな。やってみるか」

「……シノンはまだ戻ってないんだな」

周りを見渡してキリトは言う。

ここにいないという事はまだ戦闘中なのだろう。

2人はシノンの試合を見ようと、彼女が映っている場所を探そうとホロパネルに目を向けた―――その時だった。

「おまえたち、本物か?」

背後から声が聞こえ、2人は振り返る。

視線の先にはボロボロのダークグレーマントを羽織っており、フードが目深に被ってある。

その奥から覗く目は仄かに赤く光っていて、不気味な雰囲気を漂わせていた。

あまりの不気味さに、キリト達は身構えたままボロマントのプレイヤーを見据えている。

が、ソラが一歩前に出て

「本物とは、どういう意味だ? 何が訊きたい?」

そう問いかけた。

すると、ボロマントは金属めいた声で

「貴様等の、試合を見た。剣を、使っていた」

そう言った。

「別にルール違反じゃないだろ? お前、何者だ?」

キリトの言葉にボロマントは特に応えようとせず、ホロパネルに表示されているキリトとソラの名を指差した。

「キリトに、ソラ。そして、あの剣技。……お前達は、本物の、『黒の剣士』、『刃雷』、なのか?」

ボロマントがそう言った瞬間、キリト達の顔が微かに強張る。

2人は平静を装いながら

「言っている意味がわからないな」

「仮に、本物だとしたら……どうする?」

鋭い視線でボロマントに言葉を投げかけた。

すると、ボロマントは自身の左手のグローブの隙間を覗かせる。

そこに刻まれている物を見て、キリトもソラも息をのんだ。

見えたのはタトゥーだ。

カリカチュアライズされた西洋風の棺桶から、不気味な笑みを浮かべる顔が覗いており、白い骨の手が手招きしている。

彼らは知っている―――否、知っているなどという言葉では済まされない。

忘れることなどできはしない。

あのタトゥーは―――

そこまで思考が巡った瞬間、ボロマントは左腕を下げ、低く不快な声で囁いた。

「本物なら、いつか、殺す」

耳に届いた言葉はとてもロールプレイしているものとは思えなかった。

ボロマントは身を翻し、2人の元から去っていく。

その姿が見えなくなり、足跡さえも聞こえなくなって、ようやく2人は張り詰めていた気が解けるのを感じた。

「ソラ……」

「わかってる……奴が、『死銃』だ」

キリトの言わんとしていた事を察し、ソラは言う。

奴から発せられた声は、菊岡から聴かせてもらったボイスレコーダーの声と限り無く一致していた。

それだけではない。

放っていた雰囲気、そして口に出した台詞からも、言いようのない殺戮衝動が感じられたのだ。

「……どうする?」

「とりあえず、奴の事は探ってみてもいいと思う。それより、まさかまたあの『エンブレム』を見ることになるとは……」

「あぁ……殺人ギルド『笑う棺桶』のエンブレム……」

キリトがそう呟いた―――その時。

「どうしたの? 深刻そうな顔して」

聞き覚えのある声が耳に届き、2人は振り返る。

そこには街を案内してくれた少女―――シノンが立っていた。

どうやら一回戦が終わったらしい。

「いや……なんでもないよ」

疑問符を浮かべているシノンに、キリトは作り笑いを浮かべてそう言った。

「ふぅん……まぁ、いいけど。ちゃんと勝ったみたいね。その調子で勝ち進んできなさいよ」

シノンはキリト達を一瞥し、そう言って彼らから離れていく。

「……兎に角、今は予選に集中しよう」

「そうだな……ボロマントは探れそうなら探る方向でいこう」

そうこうしていると、全てのブロックでの一回戦が終了したというアナウンスが流れる。

次いで二回戦開始のアナウンスが流れ、彼らは再び戦場へと転送されていった。

その後の結果はどうという事はなかった。

二回戦、三回戦、そして準決勝も、キリト達は特に苦も無く勝ち進むことが出来た。

2人ともそれぞれのブロックでの決勝に進んだことで、BoB本戦への切符を手にしたのだ。

キリト達はすでに待機室で、残っている準決勝が終わるのを待っている。

その表情は何処か張り詰めていた。

本来なら、本戦への出場が確定してのだから肩の力だって抜けていておかしくはない。

けれど、彼らには懸念があった。

それは一回戦が終わって戻ってきた待機室で遭遇したボロマントの事だ。

あの後、二回戦が終わって待機室に戻ってからすぐに、彼らはホロパネルに映っている映像から、ボロマントの出ているブロックを特定した。

ボロマントはCブロックの枠に入っていた。

番号は4番、上手くいけばソラと決勝で当たるようになっていたのだ。

そして、ボロマントは特に苦戦する事もなく、準決勝まで勝ち進んできている。

ソラとキリトが見ているのは、そのボロマントの試合だ。

勝敗はすでに決し、ボロマントが勝利していた。

ソラは息を吐き、口を開く。

「決まりか。さて、上手く奴の正体を探れればいいけど……」

「気をつけろよ、ソラ」

キリトが彼に視線を向けて言う。

ソラは頷き

「わかってる。キリトも程々にな」

そう言って別のホロパネルに視線をむけた。

そこにはシノンが勝利している映像が流れている。

どうやら彼女も準決勝を勝ち進み、本戦への切符を獲得したようだ。

「まぁ……なるようにするさ」

苦笑いで言うキリト。

直後、ソラの身体が青白い光に包まれる。

どうやらCブロックの決勝が始まるらしい。

「じゃぁ、いってくる」

そう言った直後、彼の姿が待機室から消えた。

そのすぐ後、キリトも青白い光に包まれる。

こうして彼らは、それぞれの決勝戦へと赴くのだった。




青年は探る。


目の前の不気味な対戦者を


少女は問う。


目の前の少年がもつ強さの秘密を



次回「それぞれの予選決勝戦」

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