ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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ついに始まったBoB予選トーナメント。
さぁ、これからどうなっていくのでしょう!



では54話、始まります。



第五十四話 バレット・オブ・バレッツ

「これなら間に合う!」

バギーが停止すると同時に、少女はそう言ってバギーから飛び降りた。

キリトとソラもそれに続く。

「こっちよ!」

言って少女は駆け出した。

その後をキリト達も追う。

階段を駆け上がると、巨大な金属タワーが屹立していた。

「これが総督府。通称『ブリッジ』よ。あなた達が出てきたゲーム開始地点のちょうど反対側ね」

「ブリッジ……『艦橋』って意味だね」

いいながらソラは少女に視線を向けた。

少女はクスリと笑って

「えぇ、その通りよ。グロッケンが宇宙船だった時代の司令部だから、そう呼ばれてるみたいね」

そう返した。

「時間が惜しいわ。さっさとエントリーを済ませましょう」

少女はそう言いエントランスに向けて歩き出した。

キリトもその後を追い歩き出す。

そんな中、ソラは思考を巡らせていた。

(……やはり、僕の思い過ごしじゃないようだ。さっきと今とじゃ表情と声色に違いがある……)

少女の後に続きながら、ソラは彼女をジッと見る。

先程バギーの上で見せていた無邪気な表情。

今見せている、張り詰めた、冷たい氷のような表情。

(一体どっちの彼女が本当の彼女なのだろう?)

そう思考に耽っているうちに、彼らはエントランスを通り抜け、ホールへと出た。

正面の大型パネルには『第三回バレット・オブ・バレッツ』のプロモーション映像が流れている。

だが、今それを見ている暇などない。

少女に誘導されて、キリト達は右奥の一角へと赴いた。

そこには縦長の機械がずらりと並んでいた。

コンビニに置いてあるATM機器によく似たモノだ。

現在時刻は14時50分。

三人とも何とかエントリーできそうだ。

機器の前に立ち

「これで大会にエントリーするの。あなた達から登録して。わからなければ教えるから」

「はい」

「わかった」

2人は端末を操作し、『第三回バレット・オブ・バレッツ予選エントリー』のボタンを押す。

すると画面は名前を始め、職業などのデータ入力フォームへと移行した。

目を通すと、一番上にこのような事が表示されていた。

『以下のフォームには、現実世界でのプレイヤーの住所氏名を入力してださい。空欄でもイベント参加は可能ですが、上位入賞賞品を受け取ることはできません』

それを見た瞬間、キリトは指の動きが止まる。

上位入賞賞品という文に惹かれたのだろう。

それもそうだ、キリトは自他共に認める筋金入りのゲーマーなのだから。

ちらりと隣の端末で操作しているソラを見る。

当の彼はすでに登録を終わらせて、少女と交代していた。

どうやらソラはプレイヤーネーム以外を空欄にして登録したようだ。

(俺達の目的は『死銃』という名のプレイヤーに接触する事。その為には大会でとにかく目立たないといけない。賞品には惹かれるけど……)

キリトは少し迷ったが、意を決しプレイヤーネーム以外を空欄にして登録を済ませた。

若干残念そうな表情をしているキリト。

そんな彼を見て、ソラは苦笑いになった。

少女も登録完了し、時刻は14時59分。

なんとかエントリー出来た事に、三人は息を吐いた。

「なんとか無事にエントリー出来たわね」

「はい。ホントに何から何までありがとうございます」

「その上、すごい迷惑もかけてしまった。本当にすまない」

「いいよ。バギーで走るの楽しかったし。それより、あなた達は予選のブロック何処なの?」

少女に問われ、キリト達は画面を確認した。

「私はFブロックの37番ですね」

「僕はCブロックの30番だ」

そう応えると、少女は僅かに笑って

「ふぅん……私はFの12番。よかったわ。妹さんと当たるとしても決勝になるわね」

「どうしてだい?」

「予選の決勝まで行けば、勝敗にかかわらず本戦に出場できるのよ」

「なるほど……」

少女の言葉にキリト達は納得したように頷いた。

「さてと。予選が始まるまであと30分もないから、更衣室にいきましょう」

そう言って少女はキリトに促す。

「へ?」

「装備のチェックとかしないといけないでしょ?」

「あ、あぁ……そう、なんですけどぉ……」

途端にキリトは引き攣り笑いになった。

横目でソラに救援を送る。

当の彼は苦笑いで肩をすくめていた。

彼らの様子に疑問符を浮かべる少女。

ソラは一度息を吐き、少女に視線を向けて

「すまない。『彼』を更衣室には連れて行かないでくれないか?」

そう言った。

一瞬の静寂。

が、それを破るように

「は……はぁ?!」

少女が可愛らしい声を発して驚いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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キリトとソラは少女に頭を下げて、事の経緯を説明した。

事情を訊いた少女は何とも言えない表情をしている。

「……なるほど。で、偶然通りかかった私が貴方を女の子と間違えたから、咄嗟に兄妹のフリをしたってことね」

「そういうことです……」

「本当にすまない。騙すつもりはなかったが、結果的にはそうなってしまった……」

申し訳なさそうに言うキリトとソラ。

そんな彼らを一瞥し、少女は溜息を吐いて

「はぁ……まぁいいわ。あなた達からしたら非常事態だったんだろうし、私も結果的にエントリーに間に合ったから、お互いさまって事で許してあげる」

そう言って軽く微笑んだ。

許しが出た事に2人は安堵の息を吐く。

「そう言えば、自己紹介がまだだったわね。私はシノンよ」

いいながら少女―――シノンはウインドウを開き、ネームタグをスライドさせる。

たちまち文字が表示された。

『Sinon』―――性別は女性。

キリト達もネームタグをスライドさせた。

「キリトにソラ……ね。それにしても、キリトはホントに男なのね。パッと見では女の子にしか見えないわよ」

「言わないでくれ……なんでこんなアバターになったのか、俺も訊きたいくらいだ……」

いいながら溜息を吐くキリト。

隣のソラは顔を反らして笑いを堪えている。

「でもまぁ、貴方の妹演技、結構サマになってたわよ?」

「やめてくれぇ……黒歴史だ……」

「ドンマイだな、キリト」

いいながらソラがキリトの肩を叩く。

「他人事だと思いやがって……」

「他人事だしな」

ジト目で見てくるキリトに対し、ソラは涼しげな表情だ。

「ふふ、やっぱりあなた達、面白いわ。2人とも絶対に本戦まで残りなさいよ。特にキリトは決勝で当たっても、手加減なんて許さないから」

2人のやりとりに、シノンは軽く笑ってそう言った。

そのまま背を向け、女性用の更衣室に入っていく。

キリト達はそれを見送ってから、男性用更衣室に入っていき、メニューを開いて装備品のチェックをした。

特に問題ない事を確認してから更衣室を出ると、丁度シノンもチェックを終わらせて出てくる。

そのまま彼女は手招きしてキリト達を呼び寄せた。

壁際にあるテーブルの椅子に腰かける三人。

「とりあえず、BoBでの最低限の事を教えておくわね。カウントがゼロになったら、全員予選一回戦の対戦相手と2人だけのバトルフィールドに自動転送されるわ。フィールドは1キロ四方の正方形で、地形や天候はランダム。決着がついたら勝者は待機エリアに転送されて、次の対戦者が決まっていれば、すぐに二回戦がスタート。何か質問はある?」

シノンの言葉に、キリトもソラも首を横に振る。

するとシノンは椅子から立ち上がり

「ならOK。キリト、もう一度言うけど、決勝まで来なさいよ。その時、貴方に教えてあげる」

「なにを?」

「―――敗北を告げる弾丸の味を、ね」

その言葉に、キリトは一瞬呆けるも、すぐに不敵な笑みを浮かべた。

「それは楽しみだな。でも、君は大丈夫なのか?」

「……予選落ちしたら引退するわよ。今度こそ―――」

そこで区切り、待機室の中にいる参加プレイヤー達を冷たい目で一瞥して

「今度こそ―――強いやつらを、全員殺してやるわ」

冷えるような声でそう言った。

その声色に、ソラは眉をひそめた。

ソラだけではない、キリトもまた、違和感を感じたようだ。

シノンが視線を反らし、彼らから少し離れる。

「……キリト、どう思う?」

「シノンの事か?」

2人は彼女に聞こえないように小声で話し始めた。

「どうって言われても……強気だとは思うが……なにかあるのか?」

「あくまで僕の見立てでしかないが……彼女は何か重いものを抱え込んでる可能性がある」

「それ、メンタルカウンセラーとしての勘か?」

そう言われたソラは苦笑いになる。

「まだ資格を取ってないけどね。それもあるけど……そう感じた理由はまぁ、幾つかある」

いいながらソラはシノンに視線を向けた。

「一つは、武器選びをしている時とバギーに乗っていた時の表情と声色の相違。二つ目は、さっきの台詞かな」

「敗北を告げる弾丸の味ってやつか……」

「それもだが、殺してやるって言葉が一番だな。人が強い言葉を発する時は、得てして弱い部分を見せないようにするためだ。キリトにだって覚えがあるだろう? 旧SAO第一層のボス戦の時とか」

そう言われたキリトは苦い表情になった。

あの時―――アインクラッド第一層ボス攻略後、キリトは兎に角βテスターとビギナーの間に溝が生まれないようにする事を考え、自分だけに敵意が向くように演技した。

怖くて仕方なかったのが、あの時のキリトの本音だ。

それでも彼は憎まれ役を買って出る為に、強気な言葉で対応したのだ。

「強すぎる言葉は自身の弱さを表しているのと同じだ。彼女は、その事に気付いてはいないようだけど……」

「普通、そんな事は意識してないだろうけどな……確かに、何かに追い詰められてる感じがするのは俺も感じてた……ソラはあの娘が抱えてる何か見抜いてるのか?」

「いや……流石にそこまではわからない。まぁ、あくまで僕が彼女から感じた印象はそんな感じだよ。どちらにしろ、僕らの目的は『死銃』というプレイヤーと接触することだし、彼女が抱えてるだろう『何か』は、具体的な詳細が判らなければどうする事もできないさ」

そう言ってソラは首を振った。

彼の言う事はもっともだとキリトも小さく頷いた。

その時だった。

「やぁ、シノン。遅かったね? 何かあったんじゃないかと心配したよ」

声がして、シノンはその主へと視線を向けた。

視線の先には銀灰色の髪をした男性プレイヤーが立っていた。

シノンは僅かに微笑んで応じる。

「こんにちは、シュピーゲル。ちょっと予定外の事が起きてね。あれ、あなた、今回は出場しないんじゃなかったの?」

すると、シュピーゲルと呼ばれたプレイヤーは照れたように頭を掻いて

「あはは。迷惑かとは思ったんだけど、君の応援に来たんだ。試合もホロパネルで中継されるし。でも、予定外の事って……なにがあったの?」

「あぁ、そこの2人を案内してたのよ」

そう言ってシノンはキリト達に視線をむけた。

「どーも」

「こんにちは」

「あ、どうも……初めまして。お二人はシノンの友達……ですか?」

礼儀正しく返してくるシュピーゲル。

その様子を見て、キリトは何かよからぬ事を企んだ表情になった。

おそらく『ここでどう答えれば面白いだろう?』と思案しているのだろう。

そんな彼の思考を見透かしたように

「あ、そこの黒の長髪は男だから」

シノンが間髪いれずにそう言った。

するとシュピーゲルは目を見開き、キリトとソラを交互に見る。

「え、えぇ!? 男?! 僕はてっきり女の子で、そこの人がお兄さんなのかなって……」

「ははは……キリトって言います」

「僕はソラ。よろしく」

2人の名乗りに、シュピーゲルは律儀に頭を下げる。

が、すぐに頭を上げて2人をジッと見てきた。

「あ……あの……男って事は……その……」

何かを言いたそうに口籠る。

その様子に、ソラはある事を感じ取り

「安心していい。僕もキリトも恋人がいるから」

そうシュピーゲルに言葉を投げた。

すると彼は安堵の息を吐く。

その様子を見て、鈍いキリトも納得した。

直後、待機室に流れていたBGMがフェードアウトし、荒々しい音楽が鳴り響いた。

次いで、女性の音声が大音量で流れる。

『大変ながらくお待たせいたしました。ただいまより、『第三回バレット・オブ・バレッツ』予選トーナメントを開始致します。エントリーされている選手の皆さまは、カウント終了後に予選一回戦のフィールドマップに自動転送されます。それでは御武運を』

女性の音声アナウンスが終わると同時に待機室全体から拍手と喝采が沸き起こった。

シノンはキリト達に視線を向けて

「さぁ、ここからは敵同士よ。手加減は許さないから」

「あぁ、もちろん」

「いい戦いをしよう」

キリト達も立ち上がり、表情を切り替える。

やがて、カウントがゼロになり、青い光が彼らの身体を覆っていった。

眩い光が、たちまち彼らの視界を白く塗りつぶした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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目を開けば、ホロウインドウが表示されている。

『Sora VS RX フィールド・森』

ウインドウの下には準備時間が表示され、残り時間は50秒をきっていた。

ソラは慌てることなく自身の武装を確認する。

左腰にある光剣が収まったホルスターを取り外し、左手で握って意識を集中させた。

ホルスターから出ている持ち手に右手を添える。

カウントがゼロになった瞬間、周りの景色が変わった。

辺りに木々が生い茂っている。

明らかに視界が悪いフィールドだ。

だが、ソラは意識を乱すことなく集中している。

瞬間、薄赤い半透明の線がソラに目掛けて伸びてきた。

ソラが地を蹴って駆け出すと、複数の弾丸が彼の居た場所に着弾した。

止まることなくソラは駆けていく。

その後を追うように弾丸が着弾していった。

やがて、広場のような木の茂ってない空間に出る。

そこでソラは立ち止った。

振り返り、構える。

その直後、再び薄赤い線が伸びてきた。

光の線がソラの身体を捉える前に、彼は体を右に逸らす。

刹那、弾丸が彼を横切った。

それを確認したソラは不敵に笑った。

「……そこか」

呟いて一気に駆け出した。

二本の大きな木が交差しているその場所に、ちらりと人影が見えた。

「ちっ!」

対戦相手であるRXというプレイヤーだ。

自身に目掛けて駆けてくるソラに向かい、銃口を向ける。

照準をソラの額に合わせ、一気にトリガーを引いた。

全速で直進してきているなら確実に当たる、とRXは思っていた。

が、それは見当違いだった。

飛んできた弾丸を、ソラはなんの苦もなく躱してみせたのだ。

「う、うそだろ?!」

予想外の事に、その場から離れようと動くRX。

だが、それが命取りだった。

ソラはすでに彼の目の前まで迫っていたからだ。

驚愕の表情を浮かべるRXだが、もはやそれさえ無意味となっていた。

「飛燕一閃!」

瞬間、ホルスターから抜かれると同時に、光剣のスイッチが押され、赤く煌めく光の刃が垂直、縦一線に振り抜かれた。

あまりの速さに、RXは躱すことが出来ず、直撃を受ける。

「ぎゃぁぁ!」

その一撃は彼のHPを呆気なく吹き飛ばし、『Dead』のシステムウインドウを表示させた。

ソラは光剣を一振りし、刃を消してホルスターに納めた。

「ふぅ……これは微妙だな。スイッチを押すタイミングがずれたら空振りになりそうだ……実体剣じゃないから軽いし……慣れるしかないか」

いいながら光剣を納めたホルスターを左腰に装着する。

勝敗が決し、勝者を告げるウインドウメッセージが表示され、ソラは待機室へと転送されていった。

 




飛び交う弾丸。


少年は己の手にもつ剣を信じ、それを振るう。



次回「弾丸破壊(バレットブラスト)


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