ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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皆さまあけましておめでとうございます。
2017年の初投稿になります。



それでは53話、始まります。


第五十三話 光剣

キリトはゲートの前に立ち、パネルに手を添えた。

次いでファンファーレが鳴り、カウントダウンが開始される。

同時に、新たな挑戦者が現れた事、もしくはキリトの容姿にギャラリー達がざわめいた。

そんな中、キリトは思考を巡らせる。

(このゲームは予測線が見えた時にはクリア不可能に追い込まれる。だったら―――)

カウントがゼロになり、ゲート前の金属バーが解放された。

それと同時に、キリトは床を蹴って駆け出した。

ガンマンがリボルバーを構えた瞬間、キリトは思いっきり左へと跳ぶ。

直後、先程までキリトのいた場所を弾丸が通り過ぎた。

(目線の通りだ。これならイケる!)

思考を巡らせ、思いっきり跳んで中央へと戻るキリト。

(やはりな。予測線が見えた時点で詰むなら、予測線を予測すればいい。その為には、相手の目を見れば―――)

周りのギャラリーが驚く中、キリトとソラだけが冷静に思考を巡らせていた。

先程キリトが弾丸を回避できたのは、ガンマンの目を見て、その視線から弾道を予測したからである。

飛び道具を攻略するには、相手の目を見て、その視線から射線を読めばいいのだが、言うほど簡単な事ではない。

しかし、キリトは僅か2年とはいえ剣道を習っていた為、『目付』という技術を体得している。

更にはSAO時代にも、この『目付』を応用し、モンスターの目を見て行動を先読みする技術も会得していた。

経験の積み重ねによって身についたシステム外スキル。

これを駆使し、キリトは先読みを続けながら確実に前進していった。

やがて、8メートルを超えた―――その瞬間、ガンマンがリボルバーを高速でリロードする。

少女の言っていた三点バーストによるインチキ速射だ。

しかし、これも視線から射線を予測し躱しきる。

距離は残り2メートル弱。

先程のインチキ速射で弾切れの筈と、キリトはそのままガンマンにタッチしようと手を伸ばしかけ―――嫌な予感がよぎった。

視線の先に居るガンマンがニヤリと笑っていたのだ。

キリトは手を伸ばすのをやめて、思いっきり跳躍する。

直後、キリトのいた場所にノーリロードによるレーザー攻撃が放たれた。

(それはないだろ)

内心で突っ込みながら、空中で一回転半。

ガンマンの隣に着地し、キリトはその肩にタッチした。

その途端、ガンマンは頭を抱えて膝をつく。

「オー、マイ、ガァァァァァっっ!!!」

直後に叫ぶと、ファンファーレが鳴り響いて背後のレンガ壁が崩れていき、そこから大量のコインが流れ出てきた。

ウインドウが出現し、キリトは入手ボタンをクリックする。

途端にコインが消滅し、彼のストレージに45万クレジットという大金が納められた。

軽く息を吐いて、心の中でキリトはガッツポーズをする。

ざわめくギャラリーを余所に、意気揚々とソラ達の所に戻ってきた。

「やったな」

「うん。お……私に出来たから、兄さんでも出来るよ、アレ」

「ちょ……まって。アレをクリアするなんて……一体どうやったの?」

まさかクリアできるとは思ってなかった少女がキリト達に問いかけた。

すると、キリト達は顔を見合わせて

「あぁ、アレはね」

「弾道予測線を予測したんだよ」

少女に視線を向けてそう言った。

彼らの言葉に少女は驚いた表情をみせながら

「予測線を……予測ぅ?!」

可愛らしい声で叫ぶ。

同時にざわついていたギャラリー達も言葉を失って静まり返ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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数分後、ギャラリー達は散っていき、キリト達は武器選びを再開した。

「どうしよう、兄さん……どんな銃にすればいいかわかんない……」

「そうだな……」

ショーケースに並ぶ様々な銃を見ては悩んでいる。

今まで剣一本での戦闘スタイルを貫いてきた為、やはり銃というのはしっくりこないのだろう。

「なんていうか、どうにも銃っていうのがしっくりこないな」

「うーん……」

未だに唸りながらショーケースの中にある武器類を見ているキリト達。

「ねぇ」

そんな彼らに、少し離れた位置にいる少女が声をかけた。

「あなた達、前はどんなゲームしてたの? 予測線の予測とか、普通思いつかないし」

「よくあるファンタジー系ですよ」

少女の問いにキリトが応えた。

「へぇ……何かあなた達には底知れないものを感じるわね。BoB予選で、その実力を見せてもらうから」

いいながら少女は微かに微笑んだ。

そうこうしているうちに、彼らは一番端の陳列棚まで来てしまっていた。

ソラがふと視線をその棚の奥の方に向けると、明らかに銃とは違うものが見えた。

黒塗りされた金属の筒で、先端部にはボタンらしきものが付いている。

「これは……?」

疑問符を浮かべるソラ。

同じように覗きこんだキリトも疑問符を浮かべている。

それを見た少女は

「あぁ……それはコーケンよ」

「こーけん?」

「いわゆる剣よ。光の剣と書いて『光剣』。まぁ、皆ビームサーベルとか、ライトセイバーとか好きに呼んでるけど……」

と、そこまで説明したところで、キリト達は勢いよく少女に視線を向けた。

「け、剣?!」

「この世界に剣があるのか!?」

「え、えぇ。でも、こんなの使う人なんていないわよ」

あまりに食い気味に訊いてくるキリト達に、少女は驚きながら応える。

「どうして?」

「そりゃぁ、超近距離(クロスレンジ)じゃないと当たらないし、近付く前に蜂の巣にされるわよ」

少女がそこまで言うと、キリトとソラは顔を見合わせる。

互いにニッと笑って、陳列棚に視線を移して

「つまり当たらなければいいってことだよね、兄さん」

「そういうことだな。これで決まりだ」

そう言って2人は、黒塗装の金属筒をクリックする。

出てきたポップアップメニューから『BUY』を選択すると、NPCの店員がやってくる。

スキャナ画面を表示させ、キリト達がそれに掌を押し当てると『光剣』が実体化された。

それを手に持ち上げると、NPCは「お買い上げありがとうございましたー」と一礼してから定位置に帰っていく。

「……あー。2人とも買っちゃったか。まぁ、戦闘スタイルは個人の自由だから、深くは言わないけど」

「あははは……」

少女の言葉にキリト達は苦笑いを零した。

一度息を吐き、2人は光剣のスイッチを入れる。

直後、ブゥンという音と共に光の刃が形成された。

キリトの刃は紫の、ソラの刃は赤の輝きを放っている。

2人はそれぞれ、片手剣ソードスキル『バーチカル・スクエア』を模倣してみた。

ブォンと唸りを上げながら、空中に複雑な線を描いてピタリと停止する。

「へぇ。なかなかサマになってるじゃない。ファンタジー世界の技か……結構侮れないわね」

2人の剣技を見て、感心したように少女は言う。

「それにしても軽いなぁ、コレ」

「当然でしょ。軽いくらいしかメリットのない武器だもの」

キリトの言葉に少女は肩を竦めて言った。

「後は防具と、サブアームね。SMGかハンドガンくらいは持っといたほうがいいよ。接近時の牽制に使えるし」

「なるほど……所持金は後いくら残ってる?」

そう言ってソラはキリトに視線を向けた。

キリトはメインメニューを呼び出して残金を確認する。

先程の弾避けゲームで45万クレジット程増えた所持金は、15万程に減っていた。

「光剣って無闇に高いのね。でもコレだと防具は2人分揃えられても、どっちかがサブを持てなくなりそうね」

メニューを覗きこんだ少女はそう言った。

すると、ソラが少し考える仕草を取り

「なら、サブは妹のほうを優先にしてくれないか。僕はサブ無しで問題はないから」

「いいの? サブアーム無しだとメインアームを使えないときに厄介よ?」

「構わない。代わりに、光剣を納めるホルスターを左手で持てて、尚且つ耐久値が高いものが欲しい」

「まぁ、貴方がそういうならいいけど。妹さんはどうする? サブアーム、自分で選ぶ?」

そう言われたキリトは首を振って

「いえ、もうお任せします」

そう言って返した。

少女は頷く。

そうしてキリト達はベルト型の『対光学銃防護フィールド発生装置』と防護ジャケット―――キリトは黒色でソラは白色―――を選び、キリトのサブアームは少女が選んだハンドガン『FN・ファイブセブン』に決定した。

買い物を済ませた時には、弾よけゲームで得た大金は完全になくなっていた。

それぞれの防護ジャケットを身に着け、キリトは右腰に光剣、左腰にハンドガンを下げ、ソラは左腰に取り外し可能な高耐久型の光剣用ホルスターを装備する。

この世界で彼等と苦楽を共にする新たな武器である。

買い物を済ませた3人はショップを後にした。

「あの、いろいろお世話になりました」

「すまない。礼を言うよ」

いいながらキリト達は頭を下げる。

少女は特に気にしてないという感じで笑う。

「気にしなくていいわよ。私も予選が始まるまで暇だったし……あっ!」

そこまで言って少女は何かに気付いて慌てたような表情になった。

キリト達は疑問符を浮かべている。

「いけない! 確か15時でエントリー締め切りだよ。走れば15時までには総督府に着けるけど、全員エントリーするには時間が足らないかも……」

左手首に着けているクロノメーターを覗き込みながら言う少女。

キリト達も購入したばかりのデジタル時計を覗きこむ。

現在時刻は14時40分。

表情が青ざめていく少女に、キリト達も急いたように尋ねた。

「あ、あの! テレポート的な移動手段はないんですか?!」

「転移アイテムとか、超能力的ななにかが?!」

「走りながら説明する!」

少女は身を翻し、駆け出した。

2人もその後に続く。

疾走中、少女はGGOでの瞬間移動現象を説明した。

それはプレイヤーが死んだ時の『死に戻り』による蘇生ポイントへの転送だった。

どうやらこの世界での瞬間移動はコレしかないらしい。

更には、グロッケンの蘇生ポイントは総督府なのだが、街中ではPK不可の為、『死に戻り』を利用して移動する事も出来ない。

総督府は市街の北の端に位置し、キリト達が走っている場所からはまだ3キロはある。

現在時刻は14時43分。

エントリー操作の為には5分かかるらしく、一度に3人は行えない為、少なくともあと5分弱で総督府に到着しないと誰かがエントリーできない事態が発生してしまう。

この銃の世界に来た目的を果すためにも、キリトとソラは何としても『バレット・オブ・バレッツ』に出場しなければならない。

「お願い……おねがいっ……間に合ってっ」

必死な声で呟く少女。

どうらや彼女にとっても『バレット・オブ・バレッツ』に出る事は、重大な意味を持っているようだ。

キリトは走りながら視線を左右に振る。

その時、一つの看板が目に映った。

そこには『Rent‐А‐Buggy!』と表示されている。

すぐ傍の広いスペースには2台のバギーが駐車されていた。

「アレだ!」

キリトの声に、ソラが反応し視線を向ける。

看板に気付いてソラは少女の手を掴み、進路を変更した。

突然の事に、少女は驚くがソラは止まらない。

キリトはすでにバギーに乗り込んでエンジンをかけていた。

ソラが少女の手を引いたまま、バギーへと乗り込む。

「きゃっ……」

「いいぞ!」

「わかった! 飛ばすから2人ともしっかり摑まってて!!」

言うや否や、キリトはバギーを発進させた。

アクセルを全開で踏み込み、メーターはあっという間に100を超える。

道を走る未来的な4輪駆動車をすいすい避けながら、キリトは心の中で「電動スクーターじゃなくて骨董バイクに乗っててよかった」としみじみ思った。

「こ、このバギー、運転が凄く難しくて、男のプレイヤーでも乗りこなせないのに……」

「妹はレース系のゲームもやってたんだ」

驚いている少女の言葉に、ソラがそう返した。

「へぇ……ふふ、あはは! すごい! 気持ちいい!!」

すると少女は一瞬だけ呆けた表情をするも、すぐに笑って口を開く。

「ねえl、もっと! もっと飛ばして!」

「りょーかい!」

少女いの叫びに応え、キリトはギアをトップに蹴り込み、更にスピードを上げた。

メーターは200に迫り、約1キロ先にある総督府タワーまで猛スピードで駆けぬけた。

そんな中、ソラは少女に視線を向ける。

(……この娘……何かを抱えている? 僕の思いすごしか……? だが……)

そう思考を巡らせていた。

先程までの武器選びの時に見せていた彼女の表情は、笑っているのに、どこか寂しそうに見えていた。

発していた声も、何処か張り詰めた感じがして、まるで何かに焦っているかのように、ソラには感じられたのだ。

そんな印象を抱かせた少女が、今はこんなにも無邪気に笑っている。

メンタルカウンセラーを目指し、精神医学を学んできたソラ。

その知識、そして自身の過去の経験から、この少女は何かとてつもなく重いものを背負っているのではないかとソラは推測する。

もっとも、確証はないのだが――――――

そうこうしている間に、3人を乗せたバギーは総督府へ続く広い階段の手前に横向きになって停車した。

時刻は14時47分を指していた。




集いし強者たち。


己の威信と尊厳をかけての戦い。


ついに始まる、最強者決定戦予選会。


次回『バレット・オブ・バレッツ』

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