ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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今日仕事中に突然揺れてかなり焦りました(゜ω゜)震源地は鳥取の方らしいですが大きな被害が出てないか心配です。



さてさて、オリジナル展開の『刃雷と閃光編』もいよいよ佳境に入ってきました。
彼らがどうなるか生温かく見守ってくらさいね。



では47話、始まります。


第四十七話 刃雷(ソラ)閃光(アスナ) 前編

「ねぇ、キリト」

「どうした?」

新生アインクラッド第一層、はじまりの街郊外を歩いていたキリトとユウキ。

不意にユウキは立ち止りキリトに声をかけてきた。

振り返ったキリトは疑問符を浮かべている。

「アスナ、大丈夫だよね?」

「……やれることは全てやった。後はアスナ次第さ」

ユウキの問いにキリトはそう応える。

彼女に歩み寄り、頭に手を置いて

「信じよう。アスナならきっと……ソラの心を開き切ってくれるってさ」

優しい手つきで撫でながらそう言った。

「うん……そうだね」

頷いてユウキは微笑む。

キリトも頷き、撫でる手を止めて彼女の頭から離す。

そのまま背を向けて歩き出した。

ユウキも後に続こうと足を踏み出そうとし―――それを止めてホルンカ村の方を見た。

「頑張れ……アスナ」

そう呟き、今度こそキリトの後を追って歩き出した。

場所は変わり森の広場。

デュエル開始のブザーが鳴ると同時に、アスナとソラは地を蹴って駆け出した。

互いに振られた剣が交差し、次いで衝撃音が鳴り響く。

「はぁ!」

「やぁ!」

アタックエフェクトを纏った二振りの剣は幾重もの線を描いては交差し消えていく。

数度剣を交え、2人は再び距離を取った。

アスナは細剣を後ろに引いて、刺突の構えを見せる。

それを見ながら

(彼女の武器は細剣……基本攻撃は刺突技。扱いはそう難しくはないが、斬撃に特化してない分使い手を選ぶ武器だ。彼女はこの癖の強い武器をよく使いこなしている。剣速もユウキに引けを取らない程だ……だが)

思考を巡らせて、彼自身も構えをとる。

アスナと同じように剣を後ろに引く。刃はさらに後ろへと引かれ切先は地面すれすれに構えられている。

一瞬の沈黙。

それを破ったのはアスナだ。

地を蹴り、一気に間合いを詰める。

引きつけた剣に力を込め、得意の刺突を繰り出した。

(まずは下段からの上段突き)

剣の軌道は下から上。

ソラは難なくそれを躱す。

アスナはすぐさま剣を引き戻し、再び刺突を放った。

(次はそのまま中段)

これもまた躱された。

三度引き戻される剣。

取っている彼女の構えはやはり刺突の構え。

(今度は下段……と見せかけて再び上段突き)

彼の足もとに向けられていた切先は瞬時に上を向き、アタックエフェクトを纏いながら再び上段を突いてくる。

しかし、これも軽く躱されてしまった。

(これまで、彼女とは何度も一緒に狩りをしたからな。基本のパターンはほぼ全て把握済みだ)

ソラはこれまでアスナと共によく狩りをしていた。

その度に、彼女と連携を取っていた為、ソラはアスナの基本の攻撃パターンをほとんど覚えていたのだ。

アスナの武器は細剣である。

刺突攻撃をメインとするこの武器は、軽い分一撃の威力は低いが剣速は出る。

彼女はこの特性を生かし、攻撃の割合のほとんどを刺突にしていた。

決して細剣で斬撃が出来ない訳ではないが、速力を生かした彼女のスタイルに斬撃は組みこまれていないも同然だったのだ。

何度も連携を取り、見てきたからこそソラは先程の彼女の攻撃を難なく躱す事が出来、ついには大きな隙を作りだした。

三撃目の上段突きは初撃より勢いがあった分、すぐには細剣を引き戻せない。

その僅かな隙を突いて、ソラは剣を振ろうとした―――その刹那。

アスナの剣は突如、その軌道を変えた。

斜め上を向いていた剣は、勢いよく振り下ろされる。

ソラは瞬時に反応し、攻撃を防御に切り替えた。

ガキンッと小気味いい金属音が響く中

(まさか……斬撃?!)

今までに見たことない彼女の攻撃パターンに、ソラは思考を巡らせながら驚いていた。

彼女の剣を振り払い、地を蹴って後ろに後退する。

「驚いたな……まさか、君が斬撃を使ってくるなんて」

構えたままアスナを見据え、ソラは言う。

当の彼女は苦笑いで

「2人の鬼教官に指導されたので。今までの攻撃パターンはきっと読まれてる筈だから、大幅に改善しないとって」

そう返した。

それを聞いてソラも苦笑いになる。

「鬼教官か……どうやら、僕は君を見縊っていたようだ。その非礼を詫びると同時に、ここからは本気で行かせてもらう」

いいながら構えを取るソラから、先程以上の威圧感をアスナは感じ取る。

纏っている雰囲気はいつものプレイヤーとしての彼ではない―――そう、言ってみれば一人の剣士がそこにいたのだ。

己の握る剣に全てをかけて、剣で己の全てを語る……剣士そのもの。

かつてデスゲームと化した、『ソードアート・オンライン』を生き抜いた猛者のみが纏う大きな威圧感だ。

気圧されそうになるのを、アスナは一度大きく深呼吸する事で気持ちを落ち着かせる。

再び構えを取り、真直ぐに前を見据えた。

直後、2人は駆け出す。

またも剣戟の応酬が始まった。

把握していた攻撃パターンではなく、新しく組みたてた刺突と斬撃を織り交ぜたアスナの攻撃。

それは確実に、ソラに通じていた。

だが、それでなんとかなる程彼は甘くはない。

本気を出すと言った彼の剣は更に鋭さを増している。

アスナの速い剣を、ソラは正確に捉えて捌いていく。

刃が交差する度に伝わる衝撃は、まるで雷を思わせるように重く鋭かった。

(剣を通して伝わってくる……これがソラさんの本気の剣。これが……『刃雷』の剣?!)

(速いな……今までも速いとは思っていたが、また更に速くなっていく。まるで閃く光のようだ……これが『閃光』の剣か)

互いに思考を巡らせながら、斬撃と刺突の応酬が繰り広げられる。

繰り出されたアスナの斬撃を受け流し、ソラは刃を引いて水平切りを放つ。

それは確実に彼女の身体を捉えた―――筈だった。

刃はアスナの身体に触れなかった。

躱されたのだ。

彼が水平切りを放つ瞬間、一歩下がる事で。

一見して普通に思えるこの光景。

しかし、ソラから見れば予想外もいいところだった。

なぜなら、今の水平切りは完全に彼女の動きに合わせて放ったからだ。

避けられないタイミングを見計らって放たれた筈の攻撃……それを彼女は苦もなく躱してみせたのだ。

そこでソラはある事に気付いた。

彼女の視線だ。

自分を見ているようで見ていない。

まるで、更にその先を見ているような……

(これは……『遠山の目付』か!)

思考を巡らせ、ソラは答えに行きつく。

(……なるほど、キリトの入れ知恵だな)

彼の予測通り、これはキリトの入れ知恵だ。

先の攻撃パターンの改善。

そしてこの『遠山の目付』こそが、アスナが鬼教官たち――――キリトとユウキの特訓で得たものだ。

 

 

 

 

 

「ソラと戦う上で、アスナには足りないものが二つある」

アスナからレクチャーを頼まれたキリトは彼女の前に立ってそう言った。

当の彼女は疑問符を浮かべて首を傾げている。

すると、彼の隣にいるユウキが

「アスナはALOのプレイヤーとしては一流なんだけど、剣士としてだとソラには到底届かないんだよ。その大まかな理由が二つあるって事」

右手の人差指を立ててそう言った。

「足りないものって……?」

「まず一つ目は、攻撃のパターンだ。君の武器は細剣。その特性を活かすために君は攻撃のバリエーションから刺突ばかりを取り入れている。並のプレイヤーにならそれで通じるが、ソラが相手だとそうはいかない」

そこまで言うとキリトは一度区切って

「ただでさえ、君はあいつと一緒に狩りをする事が多い。その上、ソラは観察眼が優れてる。君の攻撃パターンは全て見切られてると言っても過言じゃない。だから、新しく攻撃のバリエーションを増やすんだ」

「バリエーションを増やすって……まさか、細剣で斬撃をしろっていうの?」

アスナの言葉にキリトは頷いた。

「そのまさかさ。確かに細剣は斬撃には向いてない。けれど、斬撃が出来ない武器じゃない。威力が低くてもパターンに組み込めば、それだけで劇的に変わるものさ」

「剣での戦いは読み合いが当たり前だからね。いくら沢山のパターンがあっても、来るのが全部刺突だとバレてたら確実に読まれて避けられちゃうよ」

それぞれが交互に言うと、アスナは感心したように頷きながら

「そっかぁ……そういうの全然考えてなかったよ。それで、もう一つはなんなの?」

もう一つ足りないと言われたものについて尋ねた。

「それは、『目』だ」

いいながらキリトは右手の人差指で自身の右目を指し示した。

「???」

一つ目の要素の説明の時以上に訳がわからず、アスナは疑問符を大量に浮かべている。

「あ、悪い悪い。えーっと、アスナは対人戦の時は何処をよく見てる?」

「え……っと……それは相手の足捌きとか……手に持ってる武器とか?」

疑問符を浮かべたままアスナは問いかけに答える。

「それだと視界が一点に集中しすぎて、視野が狭まって逆に危険なんだ。視野が狭まっていると、予想外の攻撃に対応できなくて、モロに喰らってしまいかねないよ」

「じゃぁ、どうすればいいの?」

「そこで、『目』なんだ」

アスナの問い掛けにキリトはニヤリと笑ってそう言った。

「剣道の『目付』って言って、その中の初歩で視点を相手じゃなく、その先にある壁や景色なんかに置く事で構え全体を見て、調和が取れてるか、どこに隙があるかを見破る技法があるんだ。これを『遠山の目付』という。他にも色々あるけど、取りあえずは『遠山の目付』さえ出来るようになれば今まで以上に回避の成功率も上がるぜ」

キリトの説明を唸りながらアスナは聞いている。

「攻撃パターンの改善は急がなくてもいいとして、『遠山の目付』に関しては一朝一夕で身につくかどうかやってみなきゃわからない。これの訓練はユウキとの対人戦で感覚を掴んでもらう。ユウキが大丈夫だと判断したら、今度は俺が攻撃パターン改善の指導をする。……突貫になるが、やれるな、アスナ?」

「もちろんだよ。キリト君、ユウキ、ご指導よろしくお願いします」

彼の問い掛けにアスナは頷き、ぺこりと一礼した。

頭を上げて愛剣を抜き放つ。

ユウキも一歩前に出て愛剣『マクアフィテル』を抜いて構えた。

「さぁ、始めるよ!!」

「えぇ!!」

 

 

 

 

 

(まさかこんな短期間で攻撃パターンの改善だけじゃなく、『目付』まで会得してくるなんて……)

思考を巡らせるソラ。

その表情は、何処か楽しそうに見える。

彼の鋭く正確な剣をアスナは、会得した『目付』を用いて回避しながら自身も攻撃を繰り出す。

もちろん、『目付』が使えるのは彼女だけではない。

ソラもまた『目付』を用いて彼女の攻撃を捌き、反撃している。

一つの剣閃が描かれては消え、また別の剣閃が描かれて消えていく。

その光景は、高等な剣舞だ。

ギャラリーがいれば間違いなく沸いたであろう、それ程に美しく、流麗な剣と剣のぶつかり合い。

不意にアスナの剣が後ろに引かれる。

直後、その刃がライトエフェクトを纏った。

それに対してソラは瞬時に反応し、同じように剣を後ろに引く。

彼の剣もライトエフェクトを纏い、

「せぁ!!」

「おぉ!!」

声と同時に勢いよく突き出される。

細剣ソードスキル『リニア―』と、片手剣ソードスキルの『レイジスパイク』だ。

二つの光は互いをすり抜けるように交差する。

アスナの剣はソラの右肩を掠め、ソラの剣はアスナの右の横腹を掠めた。

それによってHPが僅かに減少する。

先程までの剣戟の応酬で、互いのHPは既にレッドゾーンの手前だ。

体勢を立て直し、アスナは細剣を構えた。

そして、視線を先にいるソラを捉え―――目を見開いた。

同じように彼も体勢を整えて彼女に向かい合っている。

だが、彼の愛剣は右手に握られてはいなかった。

左手には鞘が握られ、その中に剣が納められている。

それを見た瞬間、アスナに戦慄が奔った。

(あの構えは!)

先日のボスモンスターに止めを刺した、彼のOSSの構え。

目にも止まらぬ速さで抜き放たれた刃は、とても美しい閃きを描いて見えたのをアスナは覚えている。

それと同時に、恐怖も覚えていた。

圧倒的なまでの速さの抜剣。

その軌道は彼女の目では追い切れなかったのだ。

もし、それを放つ事を許してしまえば彼女は確実にHPを全て持っていかれるだろう。

愛剣を握る手に自然と力が入る。

(撃たせない!!)

勢いよく地を蹴り、持てる全速で駆け出すアスナ。

距離が詰まると同時に連撃が繰り出された。

その速さは、今日一番といってもいいだろう。

しかし、ソラは動じることなくそれらを回避していく。

OSSを最大のタイミングで放つ瞬間を狙いながら。

「せぇやぁぁぁぁ!!!」

アスナは連撃の手を緩めない。

寧ろ、更に速力を上げにかかった。

だが、中段に向かい放たれた刺突が阻まれる。

彼の鞘が、アスナの刺突を止めたのだ。

動揺がアスナに奔る。

「君はよく戦った」

刹那、ソラが口を開く。

同時に、アスナの剣を自身の鞘で上に持ち上げるように弾いた。

衝撃に彼女は剣を離してしまいそうになるも、なんとかそれを堪えた。

しかし、それもまるで意味ないと言うように

「だが……これで終わりだ!!」

ソラが叫ぶ。

彼の右手が剣の柄を握った―――瞬間、白いライトエフェクトを纏いながら、無慈悲にもアスナに向かい刃が抜き放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 




抜き放たれる刃。


絶体絶命の中、アスナはただひたすら想う。


負けたくないと。



次回「刃雷と閃光 後編」

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