ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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リアリゼーション発売まで後約一週間……早くユウキちゃんを操作したい。




では、46話始まります。


第四十六話 覚悟

2025年 9月26日 桐ヶ谷家

 

 

 

桐ヶ谷家の一室に、2人の少年と少女がいる。

少年は椅子に座って雑誌に目を通し、少女はベッドの上で膝を抱えている。

「ねぇ……和人」

「ん?」

少女に呼ばれた少年―――桐ヶ谷和人は視線を雑誌から少女に移した。

ポニーテールにしてある黒紫の長い髪を少し揺らし

「ボクさ……ショックだったよ」

少女―――紺野木綿季はそう言った。

その言葉に和人は少し思案し、思い当たったように雑誌を机に置いて

「ソラの事か?」

尋ねる。

木綿季は小さく頷き

「知らなかった。旧SAOの一層で出会った時から沢山パーティー組んで一緒に戦って、困ったときや悩んだ時はいつも相談に乗ってくれてた優しいソラにあんな悲しい過去があったなんて……」

「そうだな」

膝を抱えたままの木綿季の隣に和人は腰を降ろす。

「今までソラにはいっぱい助けてもらったのに、ボク達にはなにも出来ないのかな?」

「そう……だな。きっと俺達に出来る事は限りなく少ないと思う。けど―――」

和人は、木綿季の言葉に返しながら彼女の頭に手を乗せて

「なにも出来ない訳じゃないと思う。少なくとも俺はそうだと信じてる。何より、ソラは俺達の友達で仲間なんだ。出来る事はなんだってしてやりたいさ」

優しく撫でながらそう言った。

「そっか……うん。そうだよね」

頬を赤く染めて木綿季は気持ちよさそうに目を細めた。

しばらくそうしていると

「ね。和人……ギュってして?」

木綿季は唐突にそう言ってきた。

和人は疑問符を浮かべている。

そんな彼に木綿季は頬を赤く染めたまま

「ダメ……?」

上目遣いで尋ねてきた。

そこまでされて、和人もなにもしないほど奥手ではない。

やれやれと少し呆れた表情をするも、優しく木綿季の身体を自分の方に引き寄せる。

和人の腕の中に収まった木綿季は

「えへへ~。和人~」

満足そうに微笑んで彼の胸に自身の顔をすりつける。

しばらくそうやって抱擁し合っていたが―――不意に着信音が鳴り響いた。

音を鳴らしているのは木綿季のスマートフォンだ。

彼女は少々不満そうな表情で和人から離れて

「むぅ。いいとこだったのにぃ」

言いながら自分のスマートフォンを手に取った。

画面に表示された名前を見て

「あれ? 明日奈からだ」

不思議そうな表情をしながら通話をタップする。

「もしもし、明日奈?」

『あ。木綿季、今そこに和人君いる?』

出てすぐの第一声に木綿季は益々疑問符を浮かべるも、和人の方に視線を向けて

「和人?いるけど……どしたの明日奈?」

『木綿季にもなんだけど、和人君にお願いしたい事があるの!』

「お願い?」

『うん。ホルンカ村で待ってるから!』

「えぇ?! ちょ、明日奈……切れちゃった」

不思議そうな表情をしたまま木綿季はスマートフォンの画面を暗転させる。

「明日奈はなんて?」

「それがね。お願いしたい事があるみたい。ホルンカ村で待ってるって」

そう聞いた和人は少し思案して

「……兎に角行ってみるか。考えてもわからないし、明日奈に直接聞こう」

「うん!」

いうや否や、2人はそれぞれのアミュスフィアを装着する。

2人で同じベッドに仰向けで横になり、互いに手を重ねあいながら

「「リンク・スタート!」」

仮想世界に意識を繋げる言葉を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2025年 9月27日

 

 

ホルンカ村のすぐ近くにある森の広場。

その中央にウンディーネの少女が立っている。

空に浮かぶ月と星を見つめながら、ここに来るもう一人を待っていた。

現在の時刻は午後7時55分。

後五分で約束の時間となる。

その時、彼女の後ろにもう一人のウンディーネが降り立った。

翅を消して歩み寄ってくる。

「待たせたかな? アスナ」

「いえ、私も今来たばかりです……ソラさん」

声をかけてきたウンディーネの青年―――ソラに、少女―――アスナは振り返って応えた。

彼女が言った、“来たばかり”という言葉は嘘だ。

本当は30分も前からここに来て夜空を眺めていたのだ。

月と星の光に照らされながら、彼女は考えていた―――彼、ソラの事を。

「それで、話というのはなんだい?」

いつもの優しげな表情でソラはそう尋ねる。

アスナは軽く深呼吸し

「……昨日、キリト君から聞いたんです。貴方の……家族……お姉さんやお母さんの事を」

そう告げた。

瞬間、ソラの表情が強張った。

が、それも一瞬の事で、すぐに呆れたような表情をする。

「やれやれ……まぁ、あんな姿を見せたんじゃ、キリトも言わざるを得ないか」

「怒ってないんですか? キリト君が勝手に話してしまった事を」

「いずれは判ってしまうことだし、僕自身も近いうちに話そうとは思っていたことだよ。君はそれより早くに知ってしまったってだけだし、キリトを責めるつもりもないさ」

アスナの問いにソラはそう答える。

「それで、話はそれだけなのかい?」

「いいえ……」

問いかけにアスナは一度息をつまらせるが、もう一度深呼吸をし

「もっと詳しく聞きたいんです。貴方の事を……」

真直ぐに彼を見据えてそう言った。

その言葉が彼の耳に届いた瞬間、今度こそ彼の表情は完全に強張った。

「……何故だ?」

発せられる声には僅かに怒気が含まれているように感じた。

まるで拒絶しているかのように。

気圧されそうになるのを何とか堪え、アスナは彼と向かい合う。

「もちろん、簡単に話してくれるとは思ってません。だから、私とデュエルしてください。私が勝ったら、貴方の事を……聞かせてください」

「…………」

ソラは無言で彼女を見ている。

彼の瞳に映ったアスナの表情は真剣そのものだ。

決して興味本位や遊び半分といったものではないのだろう。

その目には彼女の本気―――ある種の『覚悟』が見てとれる。

やがてソラは沈黙を破るように息を吐き

「どうやら真剣なようだね。わかった。そのデュエル……受けて立つよ」

いいながら腰の剣を抜き放った。

それは先日まで装備されていたものではない。

昨日ここで倒したボスモンスターから得たLAボーナス『銀竜刀』である。

白銀の刀身は美しく、まるで魂までも斬ってしまえるかのような輝きを放っていた。

「ただし、僕からも条件がある。僕が勝ったら金輪際、僕の過去を詮索しないと約束してくれ」

「……わかりました」

ソラからの条件にアスナは頷いて応える。

メニューを操作し、彼にデュエルを申請した。

ソラの前にシステムウインドウが表示され、彼は『完全決着モード』で受諾した。

「今更だけど、ルールはどうするんだい?」

「地上戦のみで、魔法は無し……純粋に剣だけのルールでいいですか?」

「わかった」

頷いたソラは剣を構える。

アスナも自身の愛剣を抜き放つ。

細剣カテゴリの『シルバリック・レイピア』だ。

リズベットが鍛え上げた傑作品の一つである。

静かな広場にデュエルのカウントダウンの音が鳴っている。

そんな中、アスナは思考を巡らせた。

 

 

 

「それで、俺達にお願いしたいことってなんなんだ?」

突然の呼び出しに応じたキリトとユウキ。

先に来ていたアスナに向かってキリトはそう問いかけた。

ホルンカ村の小さな宿の一室で、彼らはそれぞれ椅子に座っている。

問われたアスナは

「私に、ソラさんの戦い方を教えてほしいの」

そう言葉を紡いだ。

それを聞いた2人は顔を見合わせる。

「どゆこと?」

疑問符を浮かべたユウキが問いかける。

「ソラさんに……デュエルを挑もうと思うの」

問いかけにアスナはそう答えた。

その表情は真剣だ。

「私ね……今日、キリト君からソラさんの過去を聞いて、後悔しそうになったの。あの人の事をもっと知りたいって思ってた筈なのに……あんなにも重くてつらい過去があることが信じられなかった」

「アスナ……」

「でもね。それじゃダメだってわかったの。どんなに目を逸らしたくなるような事を抱えていても、それも含めてその人なんだって……そうやって人を知っていくことも『勉強』だってわかったから。でも、きっとソラさんは簡単には話してくれないと思うから……」

「なるほど。それでデュエルを申し込んで勝ったら話してもらうって魂胆か」

納得したキリトは呆れたような表情になる。

「無茶なのはわかってるよ。でも私は……」

「いや、アスナがそう決めたんなら俺達には止める権利はないさ」

「そうだよ。アスナがそうしたいって思って決めたんでしょ? だったらボク等に出来る事なら喜んで協力するよ!」

いいながら2人は立ち上がり、ユウキは彼女に歩み寄ってしゃがみ込み、その手を握った。

2人の優しさに、アスナは涙が込み上げそうになる。

しかし、それを必死に抑え込んで

「ありがとう、ユウキ。キリト君も」

微笑んでそう言った。

2人は頷いて

「さて、そうと決まればさっそくレクチャーするか」

「だね」

いそいそとメニューを操作し始める。

その表情はとても生き生きとしていてた。

「レクチャーって……」

若干不安に駆られるアスナ。

そんな彼女を気にするでもなく

「よし! 今日はデュエルのコツをトコトン教えるぞ!」

「今夜は徹夜だぁ!」

スプリガンとインプの2人は楽しそうにそう言った。

そして2人の言葉通り、レクチャーという名の特訓は現実の夜明けまで行われたのだった。

 

 

 

 

思い出したように苦笑いするアスナ。

(……ありがとう、2人とも)

思考が巡る。

(私、頑張るから!!)

そこで思考を切り、愛剣を握る手に力を込める。

やがて、カウントがゼロになりデュエル開始を告げるブザーが鳴り響いた。

直後、2人のウンディーネは勢いよく地を蹴る。

互い振られた剣が交差してぶつかり合った。

 




月明かりが照らす森の広場。

互いの剣がぶつかり合い音を鳴らす。

剣の閃きはアスナの想いを乗せて線を描く。


次回「刃雷と閃光 前編」

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