ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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第三話始まります。
アニメとプログレが混ざったように展開させました。
お楽しみいただけるといいなー
ではどうぞご覧ください


ちょいと修正しました


第三話 コボルトの王

翌日、トールバーナの広場には会議に参加していたプレイヤー達が集結していた。

各々装備やアイテムなどを確認し、ボス戦での隊の役割を確認していた。

 

「さて、俺達あぶれ組はE隊のサポートでボスの取り巻き『ルイン・コボルト・センチネル』を相手にすることになったけど、取り巻きだが中々に手強いから油断はできないぞ」

 

そんな中、キリト達も自分達の役割の確認を行っていた。

 

「俺達の中の誰かがソードスキルで奴らのポールアックスを跳ね上げる、その瞬間残りの二人で畳み掛けるんだ。弱点は喉元だからそこを狙えばいい」

 

「了解したよ」

 

「後は集中力だけは切らさないでくれ。ボス戦ではなにが起こるか解らない、集中力が切れるのは死に直結すると思ってくれ」

 

「わかった。絶対に生き残ろうね、キリト」

 

「ああ」

 

役割の確認を終わりユウキとソラはシステムメニューを開く。

自身の装備とアイテムの最終確認を行っていた。

だがキリトはそれをせずに視線を変える。

向けた先に居るのはキバオウだ。

彼を見ながらキリトは昨夜の事を思い出していた。

 

 

 

 

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会議を終えて宿に戻ってきたキリト達。

部屋までいくと扉の前で誰かが待っていた。

 

「よう、キー坊にユーちゃん。会議出席ごくろうさんだナ」

 

フードを被った小柄な女性。

両頬には髭を連想させるペイントがなされていた。

 

「アルゴ? 何か用か?」

 

彼女の名はアルゴ。

『鼠』と言われる凄腕の情報屋だ。

キリトとはβ版からの付き合いである。

 

「ああ、ちょいとキー坊にナ」

 

それを聞きキリトは納得したように頷いて

 

「またあの取引か? 何度も断ってるのにしつこいなぁ……まぁ、入れよ」

 

そう言って部屋のドアを開けてアルゴを招き入れた。

 

「キリト、ボクお風呂にはいってくるね」

 

部屋に入るなりユウキはそう言って奥の風呂場に向かっていく。

こう言う取引関係の話の時ユウキはよく席を外す。

彼女なりに気を使っているのだろう。

 

「で、商談内容は同じなんだろ? 今度はいくらなんだ?」

キリトは椅子に座りそう尋ねる。

 

「その通りダ、キー坊の『アニールブレード+6』を買い取り要求。

今度はなんと39800コル出すと言ってル」

 

それを聞いてキリトは訝しげな表情をした。

 

「おいおい微妙だなそれ。今の『アニールブレード』の相場は15000コルだ、20000コルあれば材料も揃えられるぞ。強化費用もプラスされるが、同じくらいの額でこれと同じ+6には出来る筈だ」

 

「オレッちも同じ事を何回も言ったんだゾ」

 

同じように椅子に座っているアルゴが呆れたようにそう言った。

キリトはしばし思案して

 

「アルゴ、依頼人の情報に1000コル出す。先方に積み返すかどうか確認してくれ」

 

「了解ダ」

 

頷いたアルゴは素早くメニューを開いてメッセージを打ち込み依頼人に送る。

少しして返信が届いてきた。

内容を確認し

 

「構わないそうダ、って言ってもキー坊は今日見てるゾ? 攻略会議でそいつの事をナ」

 

そう言った。

 

「……キバオウか?」

 

「その通りダ」

 

問いかけにアルゴは頷いた。

 

 

 

 

 

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(あの男が俺の剣を欲しがる理由……これを手放させる事で俺の戦力を落とす事が目的なんだろうな……けど、何のために?)

 

視線をキバオウに向けたまま思案するキリト。

そんな彼を不思議そうに

 

「キリト? どうしたの?」

ユウキが尋ねてきた。

覗き込むように顔を近づけてくる。

 

「え? あ、いや! なんでもないよ!」

 

キリトは少し顔を紅潮させて後ずさった。

ユウキは疑問符を浮かべている。

そんな二人の様子を見たソラは

 

「二人は仲がいいんだね」

 

笑いながらそう言った。

 

「そうかな?」

 

「傍から見てると微笑ましいくらいにね」

 

「そっかー、えへへ~」

 

嬉しそうにユウキは笑う。

対してキリトは苦笑いだ。

そんな彼に

 

「なにか心配事があるのかい?」

 

ソラは問いかけてきた。

 

「……大したことじゃないさ」

 

キリトは眼を逸らしながら言った。

 

「ならいいけど、僕でよければいつでも相談してくれ。これでもメンタルカウンセラーを目指してるからさ」

 

「そうなのか? じゃぁその時はお願いするよ」

 

ソラの言葉にキリトは笑って返す。

そうこうしていると出発の時間が訪れる。

レイドリーダーであるディアベルが二回ほど手を叩き

 

「皆! 今日は集まってくれて本当にありがとう! 力を合わせて必ずボスを倒そう、もちろん、犠牲者無しでだ!!」

 

そう言った瞬間、皆の気合のはいった声が返ってくる。

満足したようにディアベルは頷いて

 

「よし、出発だ!!!!」

 

号令を出し攻略集団は迷宮区を目指して出発した。

道中、いくらか戦闘が起こったが、先陣を切っているパーティー達によりそれは難なく終わる。

特に被害も出ないまま、攻略集団はボス部屋の扉の前まで辿り着いた。

ディアベルが皆に向かい合う。

 

「ついにここまで来た、俺から言える事はたった一つだ……勝とうぜ!!」

 

その言葉にプレイヤー達は頷き、気持ちを切り替えた。

キリトも剣を握る手に力を込める。

大きな扉が開かれ、ディアベルを先頭にボス部屋へと侵入していく。

薄暗い部屋の奥には大きな玉座がありそこに巨大な何かが座っているのがうっすらと見えた。

全てのプレイヤーが部屋に入った直後、暗かった部屋が明るくなる。

奥に居た巨体がそこから跳躍しパーティーの前で着地する。

瞬間頭部にカーソルが現れボスの証である名が表示された。

『イルファング・ザ・コボルトロード』

四本のHPバーが表示され、更に取り巻きの『ルイン・コボルト・センチネル』が現れる。

ディアベルは剣を掲げ

 

「攻撃───開始!!」

 

コボルト王に向けて号令を出す。

プレイヤー達は駆けだした。

 

「グルァァァァァァァァァァ!!!」

 

コボルト王の咆哮をあげて、センチネルも同時に駆けだす。

ここに第一層ボス攻略戦が幕を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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ボス戦開始から数十分。

戦闘は順調に進んでいた。

既にコボルト王のHPは三本目の半分を切っていた。

そんな中、あぶれ組であるキリト達はメイン部隊が攻撃を阻害されないようにとりまき達を処理していた。

振り降ろされたポールアックスをキリトのソードスキルが弾き返す。

 

「ソラ! スイッチ!」

 

「了解!」

 

青色の輝きが迸り、ソードスキルが放たれる。

片手剣ソードスキル『レイジスパイク』

強力な一突きがセンチネルの喉元に突き刺さる。

それはHPを一気に削りセンチネルはポリゴン片となり四散した。

 

「よし! 次!」

 

そう言って次に襲ってきたセンチネルにソラは斬りかかる。

そんな彼を見て

 

(すごいな、同じレイジスパイクでも俺より速くて正確だ……剣の扱いに慣れてるみたいだな)

 

思考を巡らせる。

そうこうしていると

 

「スイッチ!」

ソラの呼びかけが聞こえる。

応えるようにユウキが入れ替わり

 

「やぁぁ!!」

放たれたのは片手剣ソードスキル『スラント』

斜め切りで喉元を切り裂かれたセンチネルはHPが大きく削がれ四散した。

それを見たキリトは

 

「二人ともグッジョブ」

 

そう言って駆けだす。

今度はユウキがポールアックスを跳ね上げてキリトがスイッチしてセンチネルに斬りかかった。

水平に放たれる片手剣ソードスキル『ホリゾンタル』がセンチネルに命中した。

それは鎧に命中した為あまりダメージは削れてない。

しかし、すかさずソラがスイッチして『レイジスパイク』を繰り出した。

見事命中しセンチネルがポリゴン片になる。

それをキリトが見届けた直後

 

「アテが外れたやろ? 残念やったな?」

 

突然キバオウが小声で話しかけてきた。

先程倒されたセンチネルが最後の一体だったのをキリトは確認しキバオウに向かい合う。

 

「……何の事だ?」

 

「とぼけんなや。ワイは知っとるんやで、ジブンがこのボス戦に参加した動機をな」

 

キバオウの言葉にキリトは訝しむ。

 

「動機……? ボスを倒す以外に何かあるのか?」

 

それを聞いたキバオウは忌々しげな表情で

 

「はっ! 開き直りか。それを狙っとたんやろが! 聞いてるで、あんたが狡い立ち回りでボスのLAを掻っ攫いまくっとった事をな!」

 

そう言い捨てる。

ラストアタック。

文字通り最後の攻撃である。

これが達成されたプレイヤーはボーナスアイテムを獲得できる。

それはどれも貴重で二つとないユニークアイテムがほとんどだ。

キリトはβ時代にこのLAを獲得する事を得意としていた。

しかしキバオウはビギナー、キリトのβ時代の事など知らないはずだ。

ふとキリトの脳裏に昨日の商談の事が頭をよぎった。

 

「……キバオウ、あんた聞いたって言ったな? 誰から聞いた? そいつはどうやって俺のβ時代の情報を掴んだんだ?」

 

確認するようにキリトは問う。

 

「決まっとるやろ。大金積んであんたの情報を『鼠』から買うたって言うとったで。ま、誰かは言う義理あらへんけどな」

 

その言葉を聞いて

 

(嘘だな……あいつは自分のステータスですら売り物にするが、β時代のプレイヤー情報だけはなにがあっても売ろうとしない)

思考を巡らせた直後。

 

「グゥゥォォォォォオオオオォォォ!!!!」

 

猛々しい咆哮が響き渡り再びセンチネルがPOPする。

どうやら三本目のHPバーを削り切り四本目に突入したようである。

F隊とG隊が後退しディアベルがリーダーのC隊が前に出る。

視界に映ったディアベルが笑ったようにキリトは見えた。

直後に仮説が浮かぶ。

キバオウに自分のβ時代の情報を流し、アニールブレードの商談をさせたのは彼ではないかと。

何故か、答えは簡単だった。

先程キバオウが言っていたラストアタック。

それによるレアアイテムの獲得が彼の目的なのだろう。

そしてさらに仮説が浮かぶ。

彼も自分と同じ……

そう思案していると

 

「雑魚が来たで、くれてやるからあんじょうLA取りや」

 

キバオウがそう言い捨て、C隊のサポートに回る為にボスのもとに走り出した。

するとユウキが近寄ってきて

 

「キリト、どうしたの?」

 

心配そうに尋ねてきた。

キリトは首を振って

 

「なんでもない……今は敵を倒そう!」

 

剣を構えなおして走り出した。

センチネルを相手にしながらキリトは思考を巡らせる。

 

(ディアベル、あんたも俺と同じ元βテスターだったんだな……LAが欲しかったなら、こんな回りくどい事せずに素直に言ってくれれば俺は……)

 

ふと、ボスの方へとキリトは眼を向けた。

既に四本目のHPバーは大きく削れレッドゾーンへと突入していた。

 

「グオオオオオオァァァァァ!!!!」

 

大きな咆哮を上げてコボルト王は装備していた斧とバックラーを投げ捨てる。

 

「情報通りやな!」

 

不敵にキバオウが言った。

直後

 

「下がれ! 俺が出る!」

 

ディアベルが指示を出し、コボルト王の前に立った。

ソードスキルのモーションを取り構える。

同時にコボルト王が腰に携えていた剣を抜き放った。

それを見た瞬間キリトは大きく目を見開いた。

 

(あれは野太刀!! βテストと違う!!)

 

そう、情報ではタルワールとあった武器が変更されていたのだ。

そうとは気付かずにディアベルはソードスキルを繰り出そうと地を蹴った。

 

「駄目だ!! 全力で───後ろに跳べぇぇぇ!!!!」

 

鍔迫り合いをしていたセンチネルを押し返してキリトは出せる最大の声で叫んだ。

それも虚しくコボルト王の攻撃は放たれる。

重範囲攻撃『旋車』

野太刀による水平360度の攻撃範囲を持つ刀専用のソードスキルだ。

スキルをキャンセル出来ず攻撃を受けてしまうディアベル。

それにより彼はスタン状態になってしまった。

空かさず床ギリギリからの斬り上げ『浮舟』をコボルト王は繰り出す。

為す術なくそれを喰らったディアベルは宙へと浮かされてしまった。

 

「ぐあぁ!!」

 

だがそこで終わりではない。

更にスキルのコンボが発動する。

下から上への斬撃、そして渾身の一突き。

刀専用ソードスキル『緋扇』

初見ではまず見切れない攻撃を受けてディアベルは後方に吹き飛ばされ、床へと叩きつけられる。

そんな彼のもとにキリトは急いで駆けよった。

直撃を受けたディアベルのHPは急速に減っていく。

キリトはポーションを取り出して

 

「ディアベル、どうして一人で……」

 

飲ませようとするがそれをディアベルが制し

 

「はは……ざまぁないな……最後に欲が出て……ヘマしたよ……」

 

苦笑いで言う。

 

「あんた……やっぱり……」

 

そこでキリトは言い淀む。

 

「すまなかった……キリトさん……こんな事言えた……立場じゃないけど……」

 

真剣な表情をして

 

「頼む……ボスを倒してくれ……皆の……為に────」

 

そう言い終わると同時にディアベルの身体が光る。

直後、その身体はポリゴン片となって砕け散った。

 

 

 

 

最後の最後でレイドリーダーの死という想定外の事態が起こってしまったのだった。

 

 




振るわれるコボルト王の猛威。

騎士を名乗った男の最後の頼み。

それを果たすために少年は立ち向かう。

次回「ビーター」

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