ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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急に冷えてきましたねぇ。
みなさん風邪をひかないように気をつけましょう。



今回のお話では懐かしい人が登場しまっす!



では44話、始まります。


第四十四話 殺意

「アスナ!?」

地面に倒れ込んだアスナを見て、ユウキは慌てたように声を上げる。

駆け寄ろうと足を踏み出そうとするも

「動くなよ? 動いたらこのウンディーネの姉ちゃんをキルするからなぁ」

シルフのプレイヤーが片手剣の剣先をアスナに突き付けてそう言った。

「上手くいったなぁ。ボス戦が終わって油断してるところを狙って正解だぜ」

「ひひっ。これならわざわざ俺らが戦ったりしなくても、レアアイテムを楽にゲットできるからな」

サラマンダーの2人が続けて言う。

浮かべている笑みはとても醜悪だ。

「君達、アスナになにしたのさ!?」

「なぁに、ちょいと麻痺状態になってもらっただけさ。結構キツめの毒を使ったからしばらくは動けねぇよ」

怒りを含んだユウキの問いに、スプリガンのプレイヤーが得物の投げ短剣をヒラヒラ動かしながら言う。

「そうか……最近、クエストクリア直後やボス戦後のパーティーやギルドを襲い、アイテムやユルドを奪っていく連中がいるって噂を聞いたが、お前らがそうだな?」

二刀を構えながらキリトは鋭い視線を向けて問いかけた。

すると、ウンディーネのプレイヤーが感心したようにニヤリと笑って応える。

「ああ。お前さんの言う通りだよ。そこまでわかってりゃ、俺達の要求は解るよな?」

「こいつをキルされたくなきゃ、さっきゲットしたアイテムを全部置いていきな。もちろんユルドもだぜ?」

シルフが下卑た笑みを浮かべながらそう言ってきた。

「ふざけないで! アスナに手を出したら許さないよ!!」

「わかりましたなんて言うと思うのか?」

明確な怒りをあらわにするユウキと、静かな怒気を放ちながら構えを取るキリト。

しかし、襲撃者達は厭らしい笑みを崩すことなく

「いいのかぁ? ホントにこいつをキルしちまうぞ?」

そう言いのけた。

「っく!」

「アスナ……どうしよう……どうしたら」

キリト達と襲撃者達の距離はそれ程離れてはいない。

斬り込もうと思えば斬りこめる程度の距離だ。

しかし、キリトもユウキも動けなかった。

アスナのすぐ傍にいるシルフがいつでも彼女を刺せるように剣先を突き付けていたからだ。

キリト達の速力ならば、確かに彼らを斬るのは造作もない。

だが、その前にアスナがキルされてしまう可能性も捨てきれない。

それ故に彼らは動けずにいた。

どうするか懸命に思考を巡らせていると

「ユウキっ……キリト君……私に構わないでっ……こんな人達の……言う事なんてっ……聞いちゃ駄目っ……」

アスナが倒れたまま視線をキリト達に向けながらそう言ってきた。

「あぁ? うるせぇんだよ!」

彼女の言葉に苛ついたのか、シルフはアスナの腹部を蹴りつけた。

「あぐっ!」

「人質はいらねぇ口きいてんじゃねーよ」

言いながらシルフは尚もアスナを蹴りつけている。

その光景に

「やめて!」

「貴様らっ……」

キリトとユウキが愛剣を構えて踏み込もうとした―――その時だった。

ザンッという音が響き、直後に地面に何かがドサリと落ちる音がした。

アスナを蹴りつけていたシルフは視線を地面に向けてみる。

そこには片手剣が握られている右腕が転がっていた。

それはすぐにポリゴン片となって砕け散り、握られていた片手剣がガランと音を立てて地面に落ちる。

「ぁ……ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」

次いで上がるシルフの悲鳴。

その彼の右腕はなくなっていた。

先程砕け散ったのは彼の右腕だったのだ。

醜い悲鳴を上げるシルフの目の前には、太刀型の片手剣を握っているウンディーネ―――ソラの姿があった。

キリト達が動くよりも速く、アスナに暴行を働いたシルフに刃を振るい、その右腕を斬り落としたのだ。

当のキリト達はなにが起こったのか解らずに呆気に取られていた。

「な……て、テメェ!!」

正気を取り戻した様に武器を構える、残りの襲撃者達。

しかし、ソラは動じることはなかった。

それどころか、何処か様子がおかしい。

俯いたまま何かを呟いている。

最初は小さく聞き取り辛かった声はやがて、はっきりと聞こえるようになった。

「貴様等が……」

剣を握る手にさらに力が籠る。

彼の全身からは、普段のソラからは考えられない程の禍々しい雰囲気が醸し出されていた。

そう―――純粋なまでの殺意が―――

「貴様等のような……奴等が!!!」

顔を上げ、叫んだ直後にそれは弾け飛ぶ。

凄まじい殺気を孕んだ怒声と共に繰り出された斬撃は、目の前にいた槍使いのサラマンダーの首を一気に刎ね飛ばした。

直後にHPがゼロになった為、エンドフレイムを撒き散らしながらリンメインライトと化す。

「あぁぁぁぁ!!!!!」

咆哮と共に、ソラは次なるターゲットに刃を振るう。

右斜め前にいたスプリガンだ。

「ひっ……あぎゃぁぁぁ!!」

鋭い刺突がスプリガンの顔面を刺し貫く。

貫いたそれを瞬時に引き戻し、勢いよく左斜め上に斬り上げた。

それはいとも簡単にHPを削ぎ落す。

次いで斬りつけたのは刀使いのウンディーネだ。

刀を構えて防御しているウンディーネだが、そんなものはまるで意味がないといわんばかりに武器ごとその身体を真っ二つに両断する。

「がぁぁぁ!!」

悲鳴と共にHPがゼロになったウンディーネもリメインライトと化した。

それを意にも介さず、次にもう一人の大剣使いのサラマンダーへと斬りかかるソラ。

流石に刀以上に耐久値がある為か、サラマンダーの大剣はソラの強力な斬撃を防ぎきる。

しかし、それで終わる筈もない。

凄まじい速さでソラは連撃を繰り出したのだ。

「ぐ、ぐぉぉぉっ!」

なんとか防御していくサラマンダー。

だが、ソラの剣の鋭さは彼の防御を少しずつすり抜けていく。

ジリジリとHPが減っていくサラマンダー。

「お、おのれぇ!!」

苛立ったサラマンダーは徐に大剣を振り上げた。

それが命取りになる。

振り上げたそれは、振り下ろされることはなかった。

ソラの剣が、彼の胴を深々と刺し貫いていたからだ。

「あああぁぁぁぁぁ!!!!」

差し込んだ剣を回し、刃を上に向けてソラは思いっきり振り抜く。

それはサラマンダーの腹から頭部までを一気に切り裂いた。

「ぎゃぁぁぁ!!!」

悲鳴を上げてリメインライトと化すサラマンダー。

「ぁ……ひっ……」

最初に右腕を斬り落とされたシルフは地面に尻餅をついている。

あまりの恐怖に腰を抜かしてしまったんだろう。

鋭い殺意を向けてくるソラに、翅を広げ飛んで逃げることすら思いつかないようだ。

ガタガタと震えるシルフの前でソラは立ち止り、愛剣を振り上げた。

止めを刺すつもりだろう。

それを見たキリト達は、ようやく我に返り

「ソラ!」

「それ以上は駄目だ!!!」

叫んで走り出す。

だが、それも虚しくソラは刃を思いっきり振りおろそうとした―――その瞬間。

「だめぇ!!」

叫び声と共に、アスナがソラにしがみついてきた。

どうやら麻痺から回復したらしい。

勢い余ったようで、2人は地面に倒れ込んだ。

「っ!!」

いきなりの事にソラは驚いてアスナを見る。

視界に入った少女は力いっぱいにソラに抱きついて

「もういいんです!もう……酷い事はしないで……」

今にも泣き出しそうな声でそう言ってきた。

そこでようやくソラは握っていた剣を落とし

「……ねぇ……さん」

呟く。

アスナは泣きそうな表情でソラを見る。

視界に映った彼はいつものソラだった。

彼は申し訳なさそうに目を逸らし

「すまない……」

そう言ってアスナの身体を自分から離れさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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あの後、キリト達を襲撃した五人のうちでキルされなかったシルフは拘束されることになった。

襲撃者を拘束し、ホルンカ村まで戻ってクエストを終了させると

「すまない……今日はもう落ちるよ」

そう言ってソラはパーティーを抜けてログアウトしてしまった。

誰も彼を引き止める事は出来なかった。

重い沈黙がキリト達の間に流れる。

その時だった。

「拘束しとる奴を引き取りに来たで」

ホルンカ村の入り口にいる彼らに、一人のプレイヤーが声をかけてきた。

視線を向けた先にはサラマンダーの男性プレイヤー。

その頭は、サボテンのように刺々しい頭だった。

「わざわざ悪いな、キバオウ」

「おう」

キリトの言葉に短くそう答えるキバオウと呼ばれたサラマンダー。

彼は拘束されているシルフを見て

「こいつやな。最近色んな場所で悪さしとるっちゅうのは」

呆れたように言うキバオウ。

「本当はこいつ以外に四人いたんだが、そいつらは皆キルした。多分今頃はセーブポイントにいるだろう」

そう言ってキリトはメニューを開く。

メッセージ作成画面を開き何かを打ち込んで、送信ボタンを押した。

その直後、メッセージの着信アラームが鳴る。

届いたのはキバオウのようで、メニューを開いてそれを確認した。

「俺の知り合いがそいつらの情報を調べてくれた。今送ったメッセージに打ち込んどいたよ」

どうやら先程キリトが送信したメッセージはキバオウ宛だったようだ。

彼らを襲った襲撃者の情報を纏めた内容が書かれている。

もちろん情報を集めたのは彼の愛娘であるユイだ。

内容を確認したキバオウはメニューを閉じて

「おおきに。ほな、こいつは連れてくで」

そう言ってシルフを掴みあげる。

「頼む」

頷いてキバオウは背を向けた。

翅を広げ、シルフを抱えたままホルンカ村を飛び立つ。

僅か数十秒でその姿は見えなくなっていった。

「なんていうか……変われば変わるものなんだねー」

キバオウの姿が見えなくなってから、ユウキはそう呟く。

「キバオウのことか?」

「まぁね。SAOでの事を知ってたら想像もできないよ。あの人が自警団をやってるなんてさ」

ユウキの言葉にキリトは苦笑いになった。

それもそうだろう。

彼―――キバオウもSAOに囚われていた者の一人だ。

キリト達が初めて彼に出会ったのは第一層の攻略会議の時だった。

彼はキリトのようなβ経験者に対して酷い偏見を持っていた為、印象は最悪といってもよかったものだ。

第一層ボス攻略の際に起こったアクシデントで多少はβ経験者に対する偏見は改めたようだが、攻略後半で彼はとんでもない暴走をしてしまった。

『アインクラッド解放軍』と呼ばれていたギルドにて、己の意のままに動き権力を強め、はじまりの街に残っていた戦えないプレイヤー達に『徴税』と称した恐喝紛いな事まで行っていたのだ。

しかし、それもキリトとユウキの行動によって阻まれ、最終的にギルドを追放されることになってしまう。

実はこの少し後、ゲームがクリアされる3日前にキリトとキバオウは一度だけ話をしていた。

その時、彼は自分がした事を深く反省していたようであった。

「ジブンはただ……ゲームをクリアして皆を解放したかっただけやったのに」と。

そんな経緯がある為、彼が目に余るようなマナー違反者を取り締まる自警団を作ったと聞いた時に、キリトもユウキも驚いたのは今ではいい思い出だ。

「自分が酷い事をしていたからこそ、そういう奴を見過ごせなくなったんだろうな。ま、なんにしてもSAOでの経験がいい方向に行ってるからいいんじゃないか?」

「そだね」

キリトの言葉にユウキは苦笑いになった。

だが、すぐに表情が曇り

「それより……ソラ、大丈夫かな?」

そう問いかけてきた。

キリトも表情が曇る。

「私の……所為だね」

今まで黙っていたアスナが呟く。

俯いて、悔しそうな表情をしていた。

「私が麻痺さえしなきゃ……」

「……アスナの所為じゃないよ」

彼女の言葉を遮るように、キリトは口を開く。

「多分だけど、さっきの光景がソラのある記憶とダブったんだと思う」

「ある……記憶?」

キリトの言葉にアスナとユウキは疑問符を浮かべた。

「俺も詳しくは知らないんだが……あいつは、ソラは……過去に姉を殺されているらしい。それも目の前で」

そう告げられたアスナ達は大きく目を見開いた。




知らされる過去。

それは温かな日々の終焉。

空人の背負うモノを知った明日奈は・・・


次回「迷い」

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