ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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おぉ・・・いつの間にか通算UAが30000超えていた・・・
こんなにも読んでくれている人たちがいたとは。


そんな訳でいつも黒と紫の軌跡を読んでくれる皆様、感想を書いてくれる方々に感謝感謝です。これからもがんばって執筆していこうと思います。




では42話、始まります。


第四十二話 クエストへ

2025年 9月26日

 

ゆったりとした風が薙ぐ草原。

ここは新生アインクラッド第一層の草原エリアだ。

そこに、黒のスプリガンの少年と紫のインプの少女が向かい合っていた。

互いの手には愛剣が握られている。

強く柄を握り、剣先は相手へと向けられていた。

薙いでいた穏やかな風が止む。

その刹那、互いに目を見開いて駆け出す。

少女から繰り出される刺突を、少年はひらりと躱して斬撃を放った。

瞬時にそれに反応した少女は剣を引き戻し、斬撃を受け止める。

同時に翅を広げて空へと飛び上がった。

少年も同じように翅を出し、空へと飛ぶ。

飛行しながら互いに剣を握り直し、剣戟の応酬が始まった。

双方の剣の速さは互角―――否、少女の方が僅かに速かった。

流れるような連続の刺突を、少年はなんとか捌いている。

しかし、それでもHPはじわじわと削れていっていた。

だがそれは少女も同じだ。

少女の攻撃は防御をほぼ無視したものなのだ。

正確には回避しながら攻撃を繰り出している。

ギリギリで回避はしているが、いくらか捌き切れていないようで少女のHPもじわじわと削られていた。

2人のHPがイエローになる。

互いに後退して一気に距離を取った。

瞬間、2人の愛剣がライトエフェクトに包まれた。

「おぉ!!」

「やぁ!!」

声と同時に放たれる突き出し。

単発型の重突進攻撃―――ソードスキル『ヴォーパルストライク』だ。

紅いライトエフェクトが空中で互いに線を描いていく。

激しい衝撃音が響き、同時に2人は入れ替わるように交差した。

硬直が解けると同時に2人は振り返る。

その時だった。

2人の間にシステムウインドウが出現した。

表示されていたのは『時間切れによる引き分け』だった。

「ありゃ」

「ちぇっ、時間切れかぁ」

言うや否や、2人は剣を鞘に納めて地上へと降りていく。

着地すると同時に翅を消し、少女は身体をほぐすように伸びをしながら

「やっぱキリトは強いよねぇ。今度こそ勝てると思ったのになぁ」

残念そうな表情で少年、キリトへ言う。

対する彼も軽いストレッチを行いながら

「いんや、ユウキの剣速には流石に勝てないよ。被ダメを最小限にするのがやっとだった」

少女、ユウキに向かいそう言った。

ALOをプレイするようになってから、この二人は暇さえあればデュエルをしている。

それも3分間の時間制限制である。

この二人いわく、「ただの完全決着モードだと面白味がない」との事らしい。

「まったく……相も変わらずの戦闘マニアだなぁ」

「しょうがないですよ。三度のご飯より戦いが好きな2人なんだから」

そんな二人に苦笑いで言うのはウンディーネの青年と少女だ。

言われた言葉にキリトとユウキは互いに顔を見合わせて

「酷いよアスナぁ。別に四六時中戦いたいわけじゃないよ」

「ユウキに同意だ。一種の気分転換みたいなもんだよソラ」

そう言って2人のウンディーネ――ソラとアスナに返す。

「気分転換にデュエルなんて聞いたことないよ?」

「そんな事言うのはキリトくらいさ」

苦笑いのアスナと呆れたように肩を竦めるソラ。

「それより、僕らに用事ってなんなんだいキリト?」

改めてキリトに向かい合いソラは問いかけた。

「何か厄介事でもあったの?」

同じようにアスナも首を傾げながら聞いてくる。

どうやらこの二人はキリトに呼び出されて来たようだ。

「実はさ……クエストを手伝ってもらいたいんだ」

問われたキリトは少しだけ間を置いて答えた。

返ってきた答えに2人のウンディーネはまたも疑問符を浮かべている。

当然と言えば当然だ。

彼は大抵のクエストを、パートナーであり恋人でもあるユウキとシルフ屈指のプレイヤーでもあるリーファと共に挑むことが多い。

しかし、ここにはユウキはいるがリーファはいない。

「あぁ、リーファは秋の大会が近いから部活に専念してるんだよ。流石に邪魔はしたくないから、今回は誘わなかったんだ」

リーファ――本名、桐ヶ谷直葉はキリトこと桐ヶ谷和人の妹だ。

彼女は剣道部に所属し、高一であるにもかかわらずレギュラーとして活躍している。

夏に行われた大会でも大活躍したのは彼らの記憶にも新しい。

そんな妹の邪魔はしたくないとの事で、キリトは今回は彼女を誘わなかったようだ。

後にその事で彼女に拗ねられて宇治金時ラズベリーパフェを奢らされることになるのはまた別の話だが……

「そんなに難しいクエストなの?」

「どんな内容か詳しく教えてくれ」

ソラとアスナの言葉にキリトは一度ユウキに視線を向ける。

彼女が頷いたのを確認し、キリトは軽く咳払いをしてから詳細を話し始めた。

「アルゴから貰った情報なんだが、新生アインクラッド一層のホルンカ村で受けられるクエストなんだ。ユウキもソラも覚えてるだろ? 森の秘薬ってクエストが受けられた村」

「あぁ。あれは結構きついクエストだったな」

「ボクとキリトがそれやった時、確かMPKされかけたよねぇ」

キリトの言葉に2人は遠い目になる。

そんな様子にアスナは疑問符を浮かべていた。

「これから受けるクエストはそれの強化版らしい。取ってくるのも胚珠じゃないようだが、問題はそこじゃないんだ」

「というと?」

「どうやらこのクエストはワンパーティーで一回きりしか受けられないらしい。成功しようと失敗しようと一回だけしか挑戦できないんだ。その上パーティーも人数の上限が4人と決まっていて、前に一度でも挑戦しているプレイヤーがいると受けられないんだ」

キリトからの説明を聞き、ソラは腕組みをしながら

「ワンチャレンジ式か……となると、報酬はかなりのものとみて間違い無いね」

「それについては明確な情報がないんだ。なにしろクリアしたパーティーは未だにゼロだからな。ただ、かなりレアなアイテムがドロップするっていう話らしい」

「パーティーの上限人数も4人なのは結構きついかな」

言いながらアスナも唸りはじめた。

それもそうだろう、パーティーというものは基本的に前衛と後衛にわけられる。

ある程度人数がいれば役割を分けやすいし、スタイルが中途半端なプレイヤーがいてもカバーしやすい。

だが、小人数となるとそうはいかない。

的確に役割を決めなければならない上に、個々の戦闘力も重視しなければならなくなる。

そこまで考えてから、アスナはキリトに視線を向けて

「そっか。上限が4人だからキリト君は私とソラさんに声をかけたんだね?」

そう問いかける。

キリトは頷いて

「俺の知っているプレイヤーで同じくらいの反応ができて、尚且つ連携の取れるプレイヤーとくればリーファを除けば2人くらいしか思いつかなかったんだ」

苦笑いで言うキリト。

因みに、他にも声をかけたらしいがクラインは仕事が忙しく、リズベットとシリカは「化け物染みた動きに付いていけと?」と言われ断られたらしい。

「なるほどね。わかった、面白そうだし付き合うよ」

「私も構わないよ。一回きりっていうのが結構興味を引くからね」

言いながらソラとアスナはクエストを手伝う事を承諾した。

「助かるよ。それで分配だけど、金は自動均等割りでアイテムはドロップさせた奴のものって事でいいかな?」

キリトの言葉に3人は頷く。

それを確認し、キリトは身を翻して

「よし、ホルンカまで飛ぶぞ!」

翅を広げ、勢いよく飛翔する。

ユウキ達も次いで翅を展開し、その後を追って飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ホルンカ村でクエストフラグを立てたキリト達は、村のすぐ近くの森へと訪れていた。

受けたクエスト名は『守護者の涙』という。

重い病に侵された少女を救うには、森を守護するものを倒し得られるアイテムが必要というものだ。

森の入り口でキリト達は役割を決める。

前衛はキリトとソラ。

アスナは回復に専念し、ユウキはアスナを護りつつ任意のタイミングでキリトかソラと前衛を交代するという割り振りになった。

そうして陣形を作った四人は森の中を進んでいく。

道中では当然リトルネペントとの戦闘が起こる。

旧アインクラッドに出現していたモノよりは強化されていたようだが、基本的な行動は変わっていなかったようなので狩り慣れているキリト達の敵ではなかった。

そうして出現してくるネペントを蹴散らしながら進む事数十分。

キリト達は森の奥地へと辿り着いた。

そこは広場のようになっており、サークルを描くように周りが木々で囲まれている。

四人は武器を構えたまま、警戒を怠らずにゆっくりと広場の中央へと歩を進めていった。

彼らが中央へ辿り着いた、その刹那だった。

「グォァァァァ!!」

上空より空を裂くような咆哮が響いてきたのだ。

キリト達は勢いよく空へと視線を向ける。

彼らの目に映ったのは―――銀に輝く鱗を持った竜だ。

大きな翼をはためかせながら、宙にホバリングしている。

竜の頭上には『シルバリー・ドラゴン』と表示されていた。

どうやらこいつがクエストのボスと見て間違いないだろう。

キリトは視線をユウキ達に向けて

「来たな。三人とも、当初の予定通りに俺とソラで攻めるから、アスナは回復を、ユウキはアスナを護りつつ、タイミングを見てスイッチしてくれ」

「了解だ」

「らじゃ!」

「わかったよ」

彼の言葉に三人はそう返し、己が得物を構えて上空のドラゴンを見据えた。

翅を広げ、キリトとソラは勢いよく空へと飛翔する。

それと同時に

「ギョォォォォォォ!!」

咆哮を上げ、大きな翼をはばたかせるドラゴンは、彼らに向かい突進を開始した。

迫りくる体躯をキリト達は、ひらりと躱す。

空かさずに2人の斬撃がドラゴンへと繰り出された。

キリトの剣は翼に、ソラの剣は背に刃を食い込ませる。

もちろん、それで攻撃が止むことはない。

持てる速力でキリト達はドラゴンを斬りつけていった。

徐々に、だが確実にそれらはドラゴンのHPを削っていく。

かといってドラゴンもただ攻撃を受け続けるだけではない。

当然のごとく反撃は来る。

左右の鉤爪による攻撃は、その巨体故シンプルだが範囲が広く攻撃力も高い。

咄嗟に身を引き、剣を構えてガードするキリト達。

2人のHPはイエローに落ちないまでも削られていった。

防御の上からでもかなりのダメージを与えてくるドラゴンの攻撃力はやはり侮れない。

刹那、ドラゴンは地上にいるアスナ達へと身を翻した。

直後に大きくその顎門が開かれる。

「まずい!」

「ブレスだ!!」

キリト達の声と同時に、硬質なサウンドエフェクトと共に、白く輝く気体の奔流が吐き出された。

迫りくるブレスに対し、ユウキはアスナの前に立ち愛剣『マクアフィテル』を構えた。

刀身が青く輝き、瞬間、勢いよく回転する。

それは迫っていたブレス攻撃をいとも簡単にかき消してみせた。

かつて、旧アインクラッドにおいてキリトがドラゴンタイプと戦う時に使っていたスキル『スピニングシールド』である。

ブレス攻撃を防いだのとほぼ同時に、キリトとソラが光に包まれる。

瞬間、2人のHPは回復していった。

アスナの回復魔法だ。

HPが回復したのを確認した2人はドラゴンへの攻撃を再開する。

重く火力の高いキリトの連続斬撃と、正確無比なソラの剣閃は確実にドラゴンのHPを削いでゆく。

が、ここでキリトは違和感を覚えた。

(……おかしい。これだけの攻撃を浴びせてるのに、まだHPが半分近くある……)

ふとドラゴンのHPを見てみると、未だ半分―――イエローゾーンの一歩手前までしか削れていなかった。

ドラゴンタイプは攻守ともに高い補正がある事が多い。

このドラゴンもそういう類なのかと、そう思いながらもキリトはHPバーから目をそらさなかった。

やがて、ドラゴンのHPがイエローになった時だった。

キリトの目を疑う現象が起きたのだ。

(見間違いか? いや、今確かにHPがイエローからグリーンに戻ったぞ?!)

そう、減っていっている筈のドラゴンのHPが回復していっているのが確認できたのだ。

視線をソラに向ける。

彼も気がついたようで、表情には驚きが見えていた。

「ソラ!」

彼の名を呼んでキリトはドラゴンから距離を取る。

ソラも頷いて距離を取った。

2人はそのままユウキ達のいる地上へと降下する。

そんな二人にユウキもアスナも疑問符を浮かべていた。

「キリト君、ソラさん?!」

「ちょ、どうしたの?」

困惑する2人に対し、キリトは上空に視線を移して

「ユウキ、アスナ。ドラゴンのHPをよく見てくれ」

そう促す。

未だ困惑気味の2人が上空にいるドラゴンに視線を移した。

そうして視界に映ったドラゴンのHPを見て驚愕する。

ドラゴンのHPは確実な勢いで回復していってるのだ。

「HPが……回復してる?!」

「うっそぉ!?」

「道理で、このクエストをクリアしたプレイヤーがいないわけだ」

呆れ交じりにキリトが言う。

「ただでさえ防御が固いのに自動回復まであるなんて……」

「なんていうか……ALOの運営は意地が悪いな」

「汚い!流石薩長、やることが汚い!!」

「いやユウキ。薩長関係ないから。っていうかキャラ違うぞ?」

「テヘペロ☆」

キリトの言葉にユウキは可愛らしくアクションを取る。

一度息を吐き、改めて上空を見上げ、

「兎に角、このままじゃ埒が明かない。作戦を変更だ。全員で攻撃して奴のHPが回復するより速く削り切るぞ!」

いいながらキリトは左手を振ってメニューを操作する。

すると、彼の左手にもう一本の片手剣が握られた。

 

 

 

 

 




HPを回復させていくドラゴン。

作戦を変え、全員で攻撃するキリト達。

彼らはこの強敵を打破できるのか・・・?


次回「OSS」

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