ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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三十六話だと思ったか!!幕間だよ!!

そんな訳で今回は幕間にです。
ソラとレコンの話になります。



幕間の物語 ソラとレコン

2025年 1月13日 鉱山都市ルグル―

 

 

「何度見ても、酷いなこれは……」

言いながらスキルメニューを開いているのはウンディーネの男性プレイヤーだ。

表示されているスキル欄は片手剣を始め、投剣や体術など様々なものがある。

そこだけ見れば普通なのだが、彼のは違った。

熟練度が1000を始め、最低でも700という数字のスキルがあり、中には破損してしまっているものもある。

「初ログイン時の転送バグと言い……明らかにおかしいよな」

言ってウンディーネ―――ソラはメニューを閉じた。

腕を組み、思考を巡らせる。

(スキル熟練度や、破損したアイテムに有り得ない大金。おまけに転送バグ……原因はナーヴギアの可能性が高いな……おそらくALOはSAOと限りなく似たものなんだろう。ナーヴギアに残ってたSAOのアバターデータがログイン時に上書きされて、チートなアバターが完成した。転送バグも位置情報がSAO時のものに上書きされて、ALOで該当しそうな場所に転送されてしまった……ってところだろうか)

「まぁ……推察の域を出ないけれど」

ソラはそう言って溜息をつく。

直後

「おまたせしましたぁ~」

シルフの少年が慌ただしく駆け寄ってくる。

ソラは振り返り

「いや、僕も今来たところだよ。レコン君」

そう言ってシルフの少年――レコンに笑いかけた。

なぜ、この二人がこんな中立都市にいるのか……

それは前日、丁度キリト達がサラマンダー達を退け、蝶の谷を飛び立ってアルンに向かい始めたこの事だ。

シルフ領の軍務を預かるシグルドがサラマンダーと内通していた事を突きとめるも、ドジを踏み、毒矢を受けて捕まってしまっていたレコン。

隙を突いて状態異常を解除し、見張っていたサラマンダーズを毒殺して脱出し、いざシグルドにも毒をと思ったら彼は何故かシルフ領にいなかった。

仕方ないのでレコンは急ぎスイルベーンを旅立ち、リーファを追ってアルンを目指した。

彼に出せる全力の速度で移動し、ようやく古森を抜けそうになった時だった。

森の開けた場所に、ウンディーネの男性プレイヤーがいたのである。

急いでいるし、下手に声をかけてPKされたくないと思い、通り過ぎようと考えたレコン。

だが、どうにも困った様子を見せているウンディーネがなんとなく気になってしまい、レコンは彼に話しかけたのだ。

ウンディーネはソラと名乗り、話を聞くと、アカウントを作ってホームタウンに転送される際にこの森に転送された事や世界樹へ向かいたいという事を聞かされた。

少し迷ったレコンだが、どの道自分も世界樹を目指してアルンへ行くので道案内を了承した。

彼と世界樹を目指す事になったレコンは、兎に角ソラというプレイヤーに驚かされた。

リーファからの受け売りである随意飛行のコツを教えると、ものの数分でマスターしたり。

初心者の筈なのに、ベテラン並みの動きで戦闘をこなしたり。

なかでも驚いたのが、剣の正確さだ。

モンスターの弱点を教えると、そこを的確に突いて、無駄なく倒す。

まるで雷が走ったかのような正確な剣だった。

ルグル―へと続く洞窟も、彼が先陣を切って戦った為、難なく進む事が出来た。

街に辿り着いて、初期装備は心もとないという事で、ソラは白を基調とした防具と太刀型の片手剣を購入し装備を整える。

ちょうどそこで定期メンテナンスのアナウンスが入り、翌日メンテナンス明けにログインしてアルンを目指す事にして、その日はログアウトした。

そうして現在―――メンテナンスが明けて、2人はログインしてルグル―の広場で合流したという訳だ。

「さぁ、いこうか。はやくキリトに追いつかないと」

「わ、わかりました。え~っと……こっちがアルン側の出口ですね」

ソラの言葉に頷いて、レコンは地図を確認し歩き出す。

その後にソラは続いた。

目抜き通りを抜けてアルン側の出口から2人は洞窟を歩いていく。

地図を見ながら歩くレコンは、不意にソラに視線を向けた。

(不思議な人だよな~……初心者なのにアルンに行きたいって……それにおっそろしく強いし。あのスプリガンの知り合いみたいだけど……ホントに何者なんだろう?)

思考を巡らせて歩くレコン。

そんな時、ソラが不意に立ち止った。

レコンは疑問符を浮かべている。

ソラは一度息を吐き

「気付かないと思ってるのか? 出てこい!」

そう言って後ろを振り返った。

釣られてレコンも振り返った。

視線の先には誰もいない―――と、思った瞬間、ばさりと音がして一人のプレイヤーが現れた。

どうやら透明マントを被り、姿を消していたようだ

濃緑の髪をし、やや厚めのシルバーアーマーを纏ったシルフの男性だった。

そのプレイヤーの顔を見て、レコンは目を見開いて

「シ、シグルド!?」

彼の名を叫んだ。

「知り合いかい?」

「は、はい。シルフ領の軍務を預かるプレイヤーです」

ソラの問いに答えるレコン。

シルフの男――シグルドはそんな彼ら―――否、レコンを睨み

「ようやく見つけたぞ……レコンっ!」

憎悪を孕んだ声で口を開いた。

「お前が……お前がリーファに情報を洩らしたんだろう! おかげで俺はシルフ領を追放されて、計画が水の泡だ! どうしてくれる!!」

一瞬なんの事を言っているのか解らなかったが、レコンはすぐに思い当たった。

彼がサラマンダーと内通していたという事実と、彼らに情報を流し、シルフ=ケットシーの会談を襲わせる計画が失敗した事。

シグルドの様子、何よりシルフ領から消えていた彼がここにいる事が、それをレコンに理解させたのだ。

今にも斬りかかってきそうな威圧を放っているシグルド。

そんな彼の威圧感に圧倒されそうになる気持ちをレコンは必死で奮い立たせた。

「な、何言ってるんだよ! そんなの自業自得だろ! リーファちゃんを……シルフの皆を売ろうとしたお前が悪いんじゃないか!」

持てる勇気を振り絞り、レコンはシグルドに向かい叫んだ。

しかし、シグルドは益々憎しみを孕んだ目になった。

「黙れ! 許さん、絶対に許さんぞ!まずはお前からだレコン!! お前から八つ裂きにして、その次はあのスプリガンとウンディーネを、最後はリーファだ! 徹底的に嬲ってからPKしてくれる!!!」

狂乱気味に叫び、腰のブロードソードを抜き放った。

レコンは腰の短剣に手を伸ばし

「僕はどうなったっていいけど……リーファちゃんに手を出すのだけは許さないよ!!」

抜き放とうとした、その時

「下がって」

ソラがそれを制して一歩前に出た。

「事情はよくわからないが、彼には世界樹までの案内をしてもらっているんだ。斬らせる訳にはいかないな」

太刀型の片手剣を抜き、シグルドを見据えて構えるソラ。

「なんだ貴様ぁ……俺の邪魔を――――するなぁ!!」

立ちはだかるソラに苛立ちを含んだ声で叫び、剣を構えて地を蹴るシグルド。

距離を詰めて振り下ろされる斬撃。

それをソラは剣で受ける。

ギリギリと音をたてて2人は鍔迫り合う。

「どういう事情があろうと、お前がやっている事は子供染みた仕返し……ただの我儘に過ぎない!」

「ほざくな! ウンディーネ風情が、俺に……この俺に説教かぁ!!」

シグルドは叫び、身体を引いて跳躍し距離を取った。

手を突いて着地し、左手に何かを握る

再び構えなおして駆け出した。

迎撃しようとソラも構える。

瞬間、シグルドが左手に握っていた何かを投げつけた。

それは多量の小石。

地面に転がっている小石を眼潰し目的でまき散らしたのだ。

咄嗟に目を閉じるソラ。

「死ねぇ!!」

勢いよく振りかぶったブロードソードが彼に振り下ろされる。

「ソ、ソラさん!」

それは彼の脳天に直撃―――する事なく空を切った。

何事もないような、自然な動作でソラはそれを躱したのだ。

直後、目を見開いてソラは剣を振る。

それはシグルドの胴へと食い込みかけるも、咄嗟に身を引かれて避けられた。

忌々しいものを見る目でシグルドはソラを見る。

彼もシグルドを真直ぐに見据えていた。

「見え見えの手だな……今まで戦ってきた相手の中で一番稚拙だ」

「黙れ!黙れ黙れ黙れぇぇぇ!! ウンディーネ如きがこの俺を見下すなぁぁ!!」

ソラの言葉にさらに激昂するシグルド。

そんな彼に

「お前はなんのために剣を握る?」

不意にソラは問いかけた。

「なにぃ?!」

「それを握るからには、お前にも『護る』ものがあるんじゃないのか? 仲間や、かけがえのない何かを―――」

真直ぐにシグルドを見据え、ソラは言葉を投げかける。

それを聞いたシグルドは

「『護る』だと?笑わせるな! 剣は自分の力を誇示する為に相手を『殺す』モノだ!! それに仲間ぁ? そんなのは、俺の引き立て役の『駒』でしかないんだよ!!」

そう叫んで切先をソラに突き付けた。

ソラの脳裏に、かつて自分が囚われていた世界での事がよぎる。

ゲームクリアより少し前、森の中であの男と戦った時の事。

剣を『護る』事ではなく『殺す』事に使い、仲間を『駒』と断じて斬り捨てた――――『赤眼のザザ』の事を。

目を開いたソラの瞳には微かな憐れみと、確かな怒りが宿っていた。

直後、剣を鞘に納め、ソラは構える。

その様子にシグルドもレコンも疑問符を浮かべていた。

「な、なんのまねだ!? 大人しく斬られたいという意思表示か!?」

「無駄だ。お前に僕は斬れない―――剣を握る事の意味をわかろうとしないお前には」

「な、なにぃ!」

放たれた言葉に、シグルドは衝動的に動こうとした。

しかし、動かなかった―――違う、動けなかったのだ。

なぜなら――――距離を置いていた筈の相手はすぐ目の前に迫っていたからだ。

あまりに一瞬で、間合いを詰められた事に気づくのが遅れたシグルド。

ソラは納剣された剣の柄を握る。

「飛燕―――― 一閃!!」

言葉と共に、刃が放剣された。

青いアタックエフェクトを纏い、刃は凄まじい速さでシグルドを垂直に斬り裂いた。

「ぎ、がぁぁぁぁぁぁ!!!!」

その一撃は、一瞬で彼のHPを削り取る。

シグルドの身体はエンドフレイムと共に爆散し、リメインライトとなった。

剣を一振りし、ソラはそれを鞘に納める。

そんな彼の後姿を、レコンは驚きの眼差しで見ていた。

レコンは基本、デュエルなどは参加せず傍観する事が多い。

今までリーファが挑んだ、または挑まれたデュエルをただ見ているだけだった。

抜き放った剣を激しく打ち合う。

それが近接戦闘、まして一度抜いた剣をまた納めるなど普通は無い。

しかし、彼は違った。

納めた剣を高速で抜き放って相手を斬りつける。

そんな攻撃法など、見た事はない。

呆気に取られているレコンに気付き、ソラが歩み寄ってくる。

「どうかしたかい?」

「ハッ! いえ、あの、凄かったです今の! あんなマンガみたいな攻撃は初めてみました!!」

興奮気味なレコンにソラは苦笑いを浮かべて

「あはは……前にやってたゲームの動きを模倣したんだよ。ぶっつけだったけど、出来るものなんだなぁ」

そう返した。

ソラは振り返り、シグルドのリメインライトが消えたのを確認する。

一息吐いて

「さぁ、今のプレイヤーが戻ってこないとも限らない。急いでここを出よう」

レコンに向かいそう言った。

「は、はい!」

頷いたレコンは歩き出したソラの後を急ぎ足でついていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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洞窟を抜け、再び空の旅を経て、2人はようやくアルンへと辿り着いた。

レコンはメニューを開いてリーファの居場所を確認する。

赤い光点が指す位置は、アルンの最上部―――世界樹の根元だ。

街中を2人は歩いていき、やがて最上部の広場に続く階段へと辿り着く。

レコンの視線を先にはベンチに腰掛けているリーファの姿があった。

「ちょっと待っててください」

そう言ってレコンは階段を上がっていく。

ソラは階段から離れた位置で2人の様子を見ることにした。

階段を登り切り、リーファの前に立つレコン。

「リーファちゃん」

呼びかけに反応し、俯かせていた顔を上げてリーファは驚いた。

「れ、レコン?!」

「もう~~~。探したよリーファちゃん」

思いがけない人物が現れた事で、リーファは若干困惑しているようだ。

「な、なんで? サラマンダーに捕まってるんじゃ?」

問いかけにレコンは得意げな笑みを浮かべ

「全員毒殺して、脱出しました」

「ど、毒殺って……」

微妙な表情のリーファ。

「それで、リーファちゃんを追いかけて来たんだ。そういえばアスナさんやキリトさんは? 実はキリトさんに会いたいって人がいて……」

レコンがそこまで言った時、リーファの表情が曇った。

その様子にレコンは疑問符を浮かべている。

「私ね、あの人に酷い事言っちゃったの……口にしちゃいけない事を言って……傷付けた……私、馬鹿だ……」

俯いて、そう漏らすリーファ。

その目から涙が滲んでいるのが見えて、レコンは息を呑む。

「ごめん、変な事言って。忘れて。あの人にはもう会えないから……帰ろう、スイルベーンに」

そう言ってリーファは階段へ向けて歩き出す。

レコンの横を通り過ぎかけた時、横にいる彼が眼前に高速移動してきた。

リーファの両手を手にとって、自身の胸の前で強く握るレコン。

「な、ななななに?!」

いきなりの事にリーファはただ困惑するばかりだ。

そんな彼女をレコンは真剣な表情で見つめていた。

頬は紅潮し、目には緊張の色と決意の色が見てとれる。

「リーファちゃんは泣いちゃ駄目だよ! いつも笑ってないと、リーファちゃんじゃないよ!! 僕が、僕がいつでも傍にいるから……リアルでもココでも、絶対に一人にしたりしないから!」

「ちょ……」

「僕、リーファちゃん―――直葉ちゃんの事、好きだ!!」

放たれた言葉にリーファは思考が停止する感覚を覚える。

待ち伏せからの不意打ちはレコンの得意技だ。

しかし、あまりにも度肝を抜く展開に、リーファは思考が追いつかない。

そんな彼女を余所に、レコンの顔が近づいてくる。

そこでようやくリーファは思考回復し

「な、なにすんのよぉ!!!」

握られた手を振り払って右拳を握り、勢いよくレコンの胴へと叩きこんだ。

「ぐふぅぉ!!!」

殴られた衝撃でノックバックが発生し、レコンは悲鳴と共に一メートル程飛んで地に落ちた。

「いたたたぁ……ひ、酷いよリーファちゃん」

「どっちがよ! いきなり何言ってるのよこの馬鹿!」

顔を真っ赤にしたリーファが腹をさすりながら訴えてくるレコンに叫ぶ。

「うぅーん……おかしいなぁ。ここまで来たら後は僕に告白する勇気があるかどうかだけだったのにぃ……」

胡坐をかいて、項垂れるレコン。

「あんたって……ホント馬鹿ね」

呆れ顔でリーファは言う。

しかし、彼女は笑みを浮かべて

「―――でも、あんたのそういう所、結構好きだよ?」

そう言った。

するとレコンは勢いよく顔を上げて目を輝かせる。

「ほ、ホントに!?」

「調子に乗るな!」

そんな彼の頭にリーファは手刀を見舞う。

「でも、そうね。たまにはあんたのそういう所、見習ってみるのいいかもね」

頭をさすっているレコンを見て笑いながらリーファは言う。

その表情を見て

「よかった……リーファちゃん笑ってくれた」

レコンが笑みを浮かべてそう言った。

「え……まさか、あんた……さっきのワザと?」

「ううん」

問いかけにレコンは首を横に振り

「気持ちは本物だよ。僕は君が笑ってくれるのが一番嬉しいんだ」

「レコン……」

「だから、キリトさんの所に行って。リーファちゃんの気持ちをぶつけてくるんだよ!」

微笑みを浮かべて言うレコン。

いつも見せるとは違う笑顔。

思わずリーファの頬に熱が籠る。

それを振り払うようにリーファは頷いて

「ありがとう、レコン。ここで待ってて、すぐにキリト君と戻ってくるから」

翅を広げて飛翔する。

そのままアルンの北側へと飛んでいった。

その姿を見送るレコンの隣へ、一部始終見守っていたソラが歩み寄る。

「よかったのかい?」

「はい。リーファちゃんが笑ってくれたので」

彼女が飛んでいった方を見ているレコンの横顔を見て

「……そうか」

ソラは呟いて、彼と同じ方に視線を向ける。

その先には青い空が広がっていた。

 

 

十数分後、リーファはキリト達と共に戻ってきた。

地上から彼の姿を見つけたソラは、あの世界と同じように黒一色の装備をしている彼に苦笑いになりつつも

(キリト、ここからは僕も全力で力を貸すよ)

思考を巡らせながら、呼びかけるように手を振った。

 




幕間の物語が段々とソラがメインになってきているような・・・
気のせいだよね☆


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