ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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書けた・・・書けたぜ・・・燃え尽きた・・・ZE・・・


そんな訳で頭がオーバーヒートしそうですが書き上がりました。

こんな長く書いたの始めてかも・・・



ではどうぞご照覧あれ

追記 カゲムネさんの台詞を少し改変(´Д` )


第三十二話 猛炎の将

「双方! 剣を引け!!」

 

放たれた大音量の言葉。

それにより、まるで物理的圧力に晒させたかの如くサラマンダーの半円を動揺させた。

突如現れたスプリガンとウンディーネにシルフ、ケットシー両領主は眼を丸くしていた。

 

「サクヤ!」

 

「リーファ?! どうしてここに?! い、いや、そもそもこれは一体───」

 

サクヤと呼ばれたシルフの女性はここに居るはずのないリーファを見てさらに眼を丸くした。

彼女がシルフ領を統べる領主だ。

女性シルフにしては秀でた身長を持ち、肌は抜けるように白く、切れ長の眼に高い鼻筋、薄く小さな唇と美貌は刃という形容詞がぴったりの女性である。

前合わせの和風の長衣を身に纏い、リーファの持つ長刀よりも長い大太刀を差しているその姿は一度見たら忘れられないだろう。

普段冷静な彼女が取り乱すのを見た事がないリーファは少し新鮮な気分になるが、それを心の奥に抑えつけて

 

「簡単には説明できないのよ。一つ言えるのは、私達の運命はあの人たち次第ってことかな」

 

「……なにがなにやら」

 

困惑したままで呟くサクヤ。

彼女の隣に居るケットシー領主も疑問符を浮かべている。

このケットシーの名はアリシャ・ルー。

褐色肌を大胆に露出させた戦闘スーツを身に纏い、トウモロコシ色に輝くウェーブヘアの両脇から突き出た三角の大きな耳をピコピコ動かしていた。

彼女らの少し後ろではシルフとケットシーがさらに6人ずつ、同じように困惑している様子だ。

そんな彼らを気にするでもなく、スプリガンの少年―キリトは上空に居るサラマンダーを見据えていた。

彼の隣に居るウンディーネ―アスナはポーカーフェイスを装いながら

 

(動揺せずに合わせてくれって言ってたけど……なにをする気なの?)

 

思考を巡らせていた。

やがてキリトは口を開く。

 

「指揮官に話がある!」

 

余りにもふてぶてしい声と態度に、サラマンダーのランス隊の輪が割れた。

中央から、一人の大柄な男性プレイヤーが進み出てくる。

どうやら彼が指揮官らしい。

炎の色をした短髪を剣山のように逆立て、背には一目で業物と解る大剣が背負われていた。

深紅に光るその眼は周りの者を圧倒する威圧感を放っている。

大男は無表情のままでキリト達を見据え

 

「スプリガンとウンディーネがこんな所で何をしている? どちらにせよ殺すには変わりないが、その度胸に免じて話だけは聞いてやろう」

 

そう言ってきた。

対峙するキリトは臆することなく、大声で答えた。

 

「俺はキリト。彼女はアスナ。スプリガン=ウンディーネ同盟の大使だ。この場を襲うからには、我々四種族との全面戦争を望むと解釈していいんだな?」

 

放たれた言葉にリーファは絶句した。

無茶苦茶にも程がある。あからさま過ぎるハッタリだ。

傍に居る両領主がリーファにどういうことかと疑問の視線を送っている。

冷や汗をダラダラと流しながらリーファは必死のウインクで返した。

彼の隣に居るアスナも、ポーカーフェイスを崩してはいないが

 

(なななな、なんて事言いだすのよこの人は───────!!!)

 

心の中で叫んでいた。

流石にサラマンダーの指揮官も驚いている。

しかし、すぐに無表情に戻って

 

「スプリガンとウンディーネが同盟だと……」

 

呟き、2人を一瞥した。

 

「護衛もいない貴様らがそうだと?」

 

鋭い視線で問いかける。

アスナは圧倒されそうになるのを必死で堪え

 

「そうよ。ここには貿易交渉をしに来ただけ。けれど、会談が襲われたとなれば、四種族で同盟を結びサラマンダーに対抗するでしょう!」

 

そう返す。

腹をくくってアスナはこの大博打に乗ったのだ。

相手に悟られないようにキリトを見る。

当の彼はまったく表情が崩れていない。

心の中で、どういう神経をしているのかと疑いたくもなったが、命がけのデスゲームを潜りぬけてきた彼だからこそ、この大博打を仕掛けられたのだろうと推察する。

沈黙が辺りを支配する。

やがて、サラマンダーの指揮官はアスナに視線を移した。

 

「ウンディーネ。貴様はアスナと言ったな?」

 

「ええ、そうだけど」

 

「貴様の名は知っているぞ。ウンディーネ領を支える支柱の一人、『閃光』だったか……実物は初めて見たが、噂に名高い貴様がここに居るのならば、大使という話も、少しは信憑性があるだろう。だが」

 

そこまで言って指揮官はキリトに鋭い視線を向けた。

 

「スプリガン。貴様の名には聞き覚えがない。その上、大した装備も持たん貴様を大使とは信じられんな。故にスプリガンよ……」

 

言いながら指揮官は背にある両刃直剣を抜き放つ。

暗い赤に輝く刀身に、龍の象嵌が見て取れた。

 

「俺の攻撃を30秒耐えきってみろ。そうすれば貴様らを大使と信じてやろう」

 

そう言い放った。

キリトは不敵な笑みを浮かべて

 

「随分と気前がいいな」

 

言いながら翅を広げる。

 

「キリト君」

 

「万が一ってこともあるから、アスナは領主さん達の傍に居てくれ。ここは俺が任されたよ」

 

キリトの言葉を聞いて、アスナは頷いて後ろにいる領主たちのもとへと下がる。

目を丸くしている両領主に軽く頭を下げるアスナ。

リーファは未だ収まらない冷や汗を流しながら苦笑いだ。

黒の大剣を抜いて、キリトは上昇する。

指揮官と同じ高度に到達し、互いに剣を構えた。

その様子を見ていたサクヤは

 

「まずいな」

 

呟く。

 

「あのサラマンダーの両手剣、『魔剣グラム』だ。両手剣スキルが950ないと装備できないと言われている」

 

「きゅ、950?!」

 

驚きの声を上げるリーファ。

アスナは少し思案し

 

「まさか、あのサラマンダーは『ユージーン将軍』!!」

 

言いながら上空のサラマンダーを見た。

 

「ほう。流石は『閃光』殿だな。奴の名を知っているとは……サラマンダー領主『モーティマー』の弟。リアルでも兄弟らしいが、知の兄に対して武の弟。純粋な戦闘力ならサラマンダー中最強と言われている」

 

「それって……」

 

「サラマンダーは今一番の勢力。つまりあの人は全プレイヤー中最強って事になる」

 

アスナの言葉を聞き、リーファは両手を胸の前でギュッと握りしめる。

 

「キリト君……」

 

祈るような呟きが彼女から漏れた。

空中で対峙する2人の剣士は、互いの実力を探るように相対している。

高原の上を低く流れる雲が、傾き始めた陽の光を遮って幾筋もの光の柱を作りだしていた。

その一つがサラマンダーの剣に当たり、眩く反射した。その瞬間―

予備動作一つなく、ユージーンが動き出した。

空気を鳴らし、高速での突進。

大きく振りかぶった大剣が、紅く弧を描いてキリトに襲いかかった。

だが、キリトの反応も速かった。

無駄のない動作で頭上に剣を掲げ、翅を広げて迎撃態勢に入る。

攻撃を受け流しつつ、カウンターを叩きこもうとしているのだろう。

互いの刃が触れた───その時、キリトの目を疑う現象が起きた。

ユージーンの刃がキリトの剣をすり抜けてきたのだ。

驚く彼の胸に刃が炸裂する。

巨大なエフェクトフラッシュを爆発させて、キリトは地面へと叩きつけられた。

大きな衝撃音が響き、次いで土煙が上がる。

 

「な、何今の!?」

 

起こった出来事に絶句するリーファ。

その言葉に答えを返したのはケットシー領主のアリシャ・ルーだった

 

「『魔剣グラム』には、『エセリアルシフト』っていう、剣や盾で受けようとしても非実体化してすり抜けてくるエクストラ効果があるんだヨ!」

 

「そ、そんなっ」

 

リーファは慌ててキリトのHPバーを確認しようと眼を凝らした。

が、カーソル照準を合わせる間もなく、土煙から人影が飛び出す。

突進しながら巨剣をユージーンに叩きこむが、それは防御されてしまった。

刃が擦れ、火花を散らしながら鍔迫り合う。

 

「ほう……よく生きていたな!」

 

うそぶくユージーンにキリトは

 

「なんなんだよ! さっきの攻撃は!」

 

叫び、再び距離を取って巨剣を叩きこんだ。

大きな金属音が断続的に鳴り響く。

どうやらこのユージーンというプレイヤーは、キリトの想像以上の実力者のようだ。

武器の性能に慢心はしておらず、リーファやアスナの眼にも捉えきれないキリトの連続斬撃を的確に弾いていた。

連撃の間に空いた僅かな隙。

そこを突くように、再びグラムがキリトに襲いかかった。

キリトは反射的に巨剣を引いて受けようとするが、刃はまたも非実体化して彼の腹部を目掛けて閃が奔る。

刃が食い込む直前、キリトは素早く身体を引いて躱す事に成功した。

そのまま距離を取って

 

「効くなぁ……おい、もう30秒経ってんじゃないのかよ!」

 

ユージーンを鋭い視線で睨んで喚くキリト。

対するユージーンは不敵に笑う。

 

「悪いな。やっぱり斬りたくなった。首を取るまでに変更だ」

 

「こんの野郎……絶対に泣かせてやる!!」

 

武器を構えてキリトは再び斬りかかった。

先程と同じように、高速の連続斬撃。

しかし、的確に弾かれてはエクストラスキルを利用した反撃がキリトを襲う。

その様子を地上から眺めているリーファ達。

 

「厳しいな……プレイヤースキルは互角と見るが、武器の性能差が大きすぎる。あれでは……」

 

押し殺したような声で言うサクヤ。

魔剣グラムのエクストラアタックを防ぐには、弾き防御に頼らずに全て躱すしかない。

しかし、剣同士の高速接近戦闘において、それは不可能だ。

 

「せめて……アレに対抗できる武器さえあれば」

 

同じ結論に至ったアスナも歯噛みしながら呟く。

リーファは胸の前で祈るように握った両手にさらに力を込めて

 

(でも……でも、キリト君なら───)

 

思考を巡らせた。

翅を広げ、赤い光の帯を引きながらユージーンはスラストをかける。

その攻撃を、キリトはランダム飛行によって躱していった。

絡み合う二本の飛行軌跡が、空に複雑な模様を描いてゆく。

エフェクトの光塵を散らしてはまた離れる。

止む事のないエクストラアタックにキリトのHPは既にイエローゾーンだ。

ルグルー回廊で多重魔法攻撃を耐えきった彼の防御を簡単に貫通するユージーンの攻撃力が並ではない証拠だ。

背を向けてキリトはユージーンから距離を取るように飛翔する。

逃がさないといわんばかりに、ユージーンは加速してその後を追った。

が、不意にキリトは振り返って右手を翳した。

いつの間にスペル詠唱を行ったのか、その手が黒く輝き───炸裂音と共に、黒い煙が2人を包む。

それは勢いよく拡がっていき、空域を覆い隠した。

黒雲はリーファ達の頭上にも及び、彼女らの視界が薄暗くなる。

みるみる悪くなっていく視界の中、キリトの姿を探すリーファ達。

すると

 

「ちょっと借りるぜ」

 

リーファの背後から彼の声が聞こえた。

急いで振り返るが誰もいない。

その時、ふと腰に手をやると、そこにある筈の愛剣が鞘から抜かれていた事に気付いて、リーファはさらに困惑した。

 

「時間稼ぎの……つもりかぁ!!!」

 

黒雲の中央からユージーンの叫びが響く。

直後、赤い光の帯が放射状に迸り、黒雲を切り裂いた。

無効化された煙はたちまち霧散していき、世界は光を取り戻した。

リーファ達は慌てて空に視線を移す。

しかし、視線の先にはユージーンしかいなかった。

当の彼も、キリトの姿を探して辺りを見回している。

だが、どんなに探しても姿が見えない。

 

「まさか、逃げたんじゃ……」

 

背後でケットシーの一人が呟く。

それを聞いたリーファは

 

「そんな事ない!!」

 

思わず叫んでいた。

驚いたように彼女を見るシルフとケットシー達。

リーファは両手を強く握ったまま

 

「キリト君は、絶対に逃げない!」

 

もう一度叫ぶ。

リーファの脳裏には、ルグル―回廊でのキリトの言葉がよぎっていた。

 

『俺が生きてる間は、パーティーメンバーを殺させはしない!』

 

あの時の言葉は決して軽いものではない。

彼はこの世界で育まれた信頼、絆、そして愛情を真実のものと信じている。

仮想世界を『遊び』の場ではなく、もう一つの『現実』と捉えているからこそ、言える言葉だ。

短い時間の中でだが、それをリーファは理解している。

だからこそ、誰もが逃げ出すだろうこの状況でも、キリトは逃げないと信じられた。

それに応じるように

 

「リーファちゃんの言う通りだよ」

 

アスナが空を見上げて口を開いた。

疑問符を浮かべるリーファ。

アスナは空を指差して

 

「だって彼は……()()()()んだから!!」

 

そう叫んだ。

ハッとしてリーファは指差された方へと視線を向ける。

聞こえてくる美しい飛翔音。

それは近づいてくる。どんどん、どんどん大きくなってくる。

 

「───!!!」

 

その姿を捉えてリーファの瞳に涙が滲む。

中天から降り注ぐ白光を貫きながら、一つの影が一直線に急降下してくる。

数瞬遅れて気付いたユージーンは天を仰いだ。

強烈なエフェクトライトに顔をしかめながらも、視界に映るモノを捉えた。

並のプレイヤーなら、太陽光線を避けるために水平移動していただろう。

しかし、彼はそれをせず、そのまま剣を構えて急上昇した。

ロケットのような重突進で真上からくるモノに迫っていく。

真上から突進していくスプリガン―キリトはこれまで両手で構えていた黒の大剣を右手のみで構えていた。

左手は大きく後ろに引かれてユージーンからはよく見えない。

それでも不敵な笑みを浮かべたユージーンは、魔剣を重々しい唸りを上げながら振り抜いた。

交差する軌道で、突き出すように振られるキリトの黒の大剣。

『エセリアルシフト』により透過した刃が黒の大剣をすり抜ける。

それは吸い込まれるようにキリトの首を──────斬り裂く直前、大きな金属音と共に弾かれた。

魔剣を弾いたのは左手に握られた白銀の刃。

リーファが使っている愛剣だ。

眼前の事象にユージーンは驚愕の表情を見せる。

彼だけではない。

アスナ、リーファ、そこに居る全てのプレイヤーが震撼した。

二刀流―───それは決して新しい概念ではない。

それに挑んだ者は大勢いる。

しかし、誰も二刀流と言うスタイルをモノには出来なかった。

理由はいたって簡単だ。

二本の剣を高度に連携させるのは、仮想世界といえど至難の業だからである。

だが、キリトは違った。

左右に握られた白と黒の剣を、己が手足のごとく連携させてユージーンを斬りつけていっているのだ。

 

「あぁぁぁぁ!!!」

 

雷鳴のような咆哮を上げて、キリトは連撃の速度を上げていく。

青いアタックエフェクトによって描かれる剣閃はまるで降り注ぐ流星を思わせた。

これほどまでに二刀を使いこなすには、どれだけの反復訓練が必要だろう?

それこそ気の遠くなるような時間がかかる事だけは理解できるが、それでもアスナとリーファには想像しかできない。

 

「ぐぉぁぁ!!」

 

HPを減らしながらもユージーンは魔剣を振るって反撃をする。

しかし、それも二刀の連携による二段構えの弾き防御によって防がれてしまっている。

 

「ぬぉぁぁぁ!!!」

 

それでも怯むことなくユージーンは斬り込んできた。

魔剣を小細工抜きの大上段に構えて

 

「落ちろぉ!!」

 

轟音と共にキリトに振り下ろされた。

対するキリトは迷うことなく距離を詰め、黒の大剣を勢いよく振った。

『エセリアルシフト』が発動するよりも速く、魔剣は側面を弾かれた。

ユージーンの攻撃はキリトの肩を掠めて背後へと流れた───直後

 

「うおぁぁぁぁ!!!」

 

咆哮と共に白の刃がユージーンの胴を貫く。

次いで瞬時に引きもどした黒の大剣を同じように突き刺した。

そのまま加速し急降下を始める。

 

「がぁぁぁ!!」

 

HPを勢いよく減らしているユージーンは絶叫と共にキリトの頭を左手で掴み引き剥がそうとする。

同時に右手の魔剣を振り上げた。

瞬間、キリトは素早く黒の大剣を引き抜いて魔剣を弾き飛ばした。

白の刃を引き抜くと同時にユージーンを蹴り、一瞬だけ距離を取る。

が、一気に加速し無防備になったユージーンの右肩口へ─────

 

「おぉぉぉぉおあぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

咆哮と共に白銀の刃が炸裂する。

それはユージーンの上体を斜めに斬り裂いた。

直後、エンドフレイムが大きく爆発し、アバター全体が燃え崩れた。

誰一人、動く者はいない。

エンドフレイムが消えた後も、魂が抜かれたように全てのプレイヤーが凍りついていた。

辺りを静寂が支配する。

まるで時間が止まったように。

それほどまでに2人の戦闘はハイレベルだったのだ。

ALOでの戦闘は接近ならば不格好に武器を振り回し、遠距離ならば芸もなく魔法を飛ばし合う。

回避や防御などを用いた戦闘をするのは一部の熟練者だけで、見栄えのするものは決して多くない。

だが、先程の2人の戦闘は明らかに次元が違った。

流れるような剣舞と、空を切り裂くエアレイド。

極めつけはユージーンの大地をも斬り裂かんばかりの剛剣と、それを打ち砕いた流星が如き超高速のキリトの二刀流。

最初に沈黙を打ち破ったのはサクヤだった。

 

「見事、見事!!」

 

左手に持つ扇子を開き、声高に称賛する。

 

「すごーい! ナイスファイトだヨ!!」

 

アリシャもそれに続き、背後に居たシルフ、ケットシー達も盛大な拍手と喝采を送った。

宙で待機し、2人の戦闘を見守っていたサラマンダー達も「やるじゃねぇか!」「大したもんだぜ!」と口々に言い、持っていたランスを旗のように振り回して歓声を上げている。

リーファにとって―いや、サラマンダー以外の大多数のプレイヤーは彼らを無法な強奪者と思っていた。

しかし、それ以前に彼らもやはりMMOプレイヤーだった。

彼らの心さえ揺さぶる程に、2人のデュエルは素晴らしかったのだ。

宙に浮いたまま黒の大剣を一振りするキリトをリーファは見る。

そんな彼女の肩をアスナが叩いた。

振り返ると彼女は微笑んで頷いていた。

再びリーファはキリトに視線を向ける。

その姿に言いようのない感動が溢れだし、リーファは花のような笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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リメインライトとなったユージーンにアスナが蘇生魔法をかけている。

青い光に包まれた赤い炎は、徐々に人の形を取り戻していった。

最後に一際眩い閃光を発し、ユージーンの蘇生が完了した。

ユージーンは肩を回し

 

「───見事な腕だな。俺が見た中で最強のプレイヤーだ、貴様は」

 

静かな声でそう言った。

当のキリトは飄々とした笑みを浮かべて

 

「そりゃどうも」

 

と返す。

 

「貴様のような男がスプリガンに居たとは……世界は広いという事か」

 

「俺達が大使だって信じてくれたか?」

 

キリトの言葉にユージーンは眼を細める。

アスナとリーファに緊張が奔った。

それは周りに居るシルフ、ケットシー、サラマンダー達も同様だ。

一瞬の静寂。

が、その時、一人のサラマンダーがユージーンに歩み寄ってきた。

 

「ジンさん。ちょっといいか」

 

「カゲムネか、なんだ?」

 

視界に入った人物を見てリーファは一瞬だけ驚いた表情をする。

それもそうだ。先日自分を襲ったサラマンダー部隊の隊長なのだから。

 

「昨日、俺の部隊が全滅させられたのはもう知ってると思う」

 

カゲムネがまさにその話をしているのに気付き、リーファは固唾を呑んで耳を澄ませた。

 

「あぁ」

 

「その相手が、まさにこのスプリガンなんだけど────確かにそこのウンディーネがいたよ。交渉がどうのって話してたのを聞いた」

 

その言葉にアスナは内心驚いたが、ポーカーフェイスは崩さなかった。

リーファは唖然としてカゲムネを見ている。

キリトも一瞬だけ眉が動くが、すぐにポーカーフェイスへと戻った。

ユージーンは首を傾けてカゲムネを見る。

やがて目を伏せ、小さく笑い

 

「そうか……そういう事にしておこう」

 

そう言った。

キリトに向き直り

 

「確かに現状でスプリガン、ウンディーネと事を構えるつもりは俺にも領主にもない。この場は退こう。だが、貴様とはいずれもう一度戦うぞ」

 

言いながら不敵に笑い、右拳を突き出す。

キリトも同じように笑って

 

「望むところだ」

 

言い返し、同じように右拳を突き出した。

互いの拳を打ち付けた後、ユージーンは背を向ける。

翅を広げて飛翔した。

続いて飛ぼうとしたカゲムネがリーファ達に視線を向ける。

直後、ニッと笑ってそのまま翅を広げて飛び立った。

借りは返したという意味だろう。

リーファも軽い笑みを浮かべていた。

翅を鳴らして2人が飛び去ると、後に続くようにサラマンダーの大軍勢は一糸乱れぬ隊列で次々に飛び立っていく。

ユージーンを戦闘に重い翅音を響かせながらみるみる遠ざかっていった。

無数の黒い影が雲の向こうに消えたのを見届けて

 

「サラマンダーにも話のわかる奴がいるじゃないか」

 

と、笑いを含んだ声で呟く。

そんな彼に呆れた表情で

 

「まったく……心臓に悪いわよ」

 

アスナが彼の頭に軽く手刀を叩きこんだ。

 

「いた!」

 

「あんたって、ホント無茶苦茶だわ……」

 

頭をさするキリトに苦笑いで続けるリーファ。

 

「よく言われるよ」

 

「ふふ」

 

キリトの言葉にリーファ達から笑みが零れた。

その直後、サクヤが咳払いして

 

「すまんが、状況を説明してくれると助かる」

 

真剣な表情で尋ねてきた。

三人は顔を見合わせて頷くと、リーファが一歩前に出る。

 

「一部は憶測なんだけど……」

 

静かに事の起こりを話しはじめた。

レコンからの情報と、自分達が推察した事をその場に居る者達に説明していく。

説明し終ると、サクヤは深い溜息を吐いた。

 

「なるほどな───ここ何ヶ月か、シグルドの態度に苛立ちめいたものを感じてはいたが……」

 

「苛立ち……? 何に対して?」

サクヤの言葉にリーファは疑問符を浮かべる。

未だにシグルドの心理が理解できないのだろう。

 

「多分……彼には許せなかったのだろうな。勢力的にサラマンダーの後塵を拝しているこの状況が。シグルドはパワー思考の男だ。キャラクターの能力だけでなく、プレイヤーとしての権力も深く求めていた」

 

サクヤの言葉にキリトとアスナが納得したような表情をする。

スイルベーンを出る時の高圧的かつ傲慢な態度。

力さえあればなんでも出来ると思っている何よりの証拠だ。

 

「でも、どうしてサラマンダーと内通なんて……」

 

疑問符を浮かべているリーファ。

 

「もうすぐ導入される『アップデート5.0』の話は聞いているか? ついに転生システムが実装されると噂の……」

 

「あ、じゃあ!」

 

合点がいったように声を出すリーファに対し、サクヤは頷いて

 

「モーティマーに乗せられたんだろう。領主の首を差し出せば、サラマンダーに転生させてやると……冷酷と噂のモーティマーが約束を守るとは到底思えんがな」

 

「どうするの、サクヤ?」

 

少し思案してサクヤはアリシャに視線を向ける。

 

「ルー。確か闇魔法のスキルを上げていたな?」

 

「ん、あげてるヨ」

 

「シグルドに『月光鏡』を頼む」

 

「いいけど、まだ夜じゃないからあんまり長くもたないヨ?」

 

「構わない。すぐに終わる」

 

サクヤの言葉を聞いて、アリシャは耳をピコリと動かしスペルの詠唱を開始する。

高く澄んだ彼女の声と耳慣れない闇属性のスペルワードが合わさって流れる。

たちまち周囲が僅かに暗くなり、一筋の月光が降り注いだ。

それは円形の鏡を形作り、その表面が波打って────何処かの風景を映し出した。

 

「あ……」

 

リーファが微かに息を洩らす。

そこは彼女も何度か訪れた事のある、シルフ領事館の執政室だ。

正面に翡翠の机が見え、その向こうでは椅子に座り、机に大きく足を乗せている人物がいた。

目を閉じ、上機嫌な笑みを浮かべて片手でワイングラスを持ち、注がれているワインを口にしているその男は間違いなくシグルドだ。

サクヤは鏡の前に立ち、琴のような張りのある声で呼びかけた。

 

「シグルド」

 

すると、シグルドは両眼を見開いた。

手に持っていたグラスが床に落ち、中の液体が零れる音がした。

バネ仕掛けの如く飛び起きたシグルドは、口元を強張らせてビクリと身を竦ませた。

 

「サ、サクヤ……!?」

 

「ああ、そうだ。残念ながらまだ生きている」

 

淡々と答えるサクヤにシグルドは動揺を隠しきれない様子だ。

 

「な、何故……いや、会談は?」

 

「無事に終わりそうだ。条約の調印はこれからだがな。そうそう、予期せぬ来客があったぞ」

 

「きゃ、客?」

 

未だ落ち着かないシグルドに向かい、サクヤはニヤリと笑みを浮かべて

 

「ユージーン将軍が君によろしくと言っていた」

 

「な……」

 

放たれた言葉に今度こそシグルドは大いなる驚愕に見舞われた。

言葉を探すように視線を彷徨わせると、リーファ達が視界に入る。

その瞬間、全てが露見した事をシグルドは悟った。

眉間にシワを寄せて、歯を剝き出す。

 

「無能なトカゲ共めぇ……で、どうする気だ?懲罰金か?それとも俺を執政部から追い出すか? だがなぁ、軍務を預かる俺がいなけりゃ、お前の政権だって───」

 

開き直ったように捲し立てるシグルドの言葉を

 

「いや。シルフでいる事に耐えられないなら、その望みを叶えてやることにした」

 

サクヤは遮るように言い放ち、メニューを開く。

それは領主しか開けない特殊なシステムメニューだ。

一枚のタブを引っ張り出して、素早く指を走らせる。

シグルドの眼前に青いシステムメッセージが表示され、その内容を見た途端、彼は血相を変えて立ち上がった。

 

「き、貴様!正気か!! 俺を、この俺を領地から追放するだと!!!」

 

「そうだ。『レネゲイド』として中立域を彷徨え。いずれそこにも、新たな楽しみが見つかる事を祈っているよ」

 

それを聞いたシグルドは拳を握って何かを喚き立てようとする。

が、それより速くサクヤの指がタブに触れ、同時にシグルドの姿がかき消えた。

どうやら何処かの中立域にランダム転送されたのだろう。

『月光鏡』が効果を失って静かに消えていく。

薄暗かった周囲が明るさを取り戻し、夕陽が差し込んでくる。

サクヤは大きく息を吐き、リーファに向き直って

 

「礼を言うよ、リーファ。君が救援に来てくれて、とても嬉しい」

 

笑みを浮かべて言う。

リーファは首を横に振って

 

「ううん、私は何も……お礼は、キリト君達に」

 

言いながらキリト達に視線を向けた。

同時にサクヤ達もキリトを見る。

 

「そういえば……君達は」

 

「ねぇ、君達? スプリガン=ウンディーネの大使って……ホントなの?」

 

アリシャが問いかけてきた。

好奇心の表れか、縞模様の尻尾がユラユラ揺れている。

問いかけにリーファとアスナに緊張が奔った。

キリトは眼を伏せていたが、小さく笑みを浮かべて

 

「もちろん大嘘だ! ブラフ、ハッタリ、ネゴシエーション!」

 

両手を腰に当てて、ふんぞり返りながらのたまった。

アスナは深い溜息をついて

 

「私はヒヤヒヤしたよ。そういう訳で、私は彼のアドリブに乗っただけです」

 

苦笑いを見せた。

領主二人は絶句している。

 

「なんともまぁ、無茶な男だな。あの状況で、そんな大法螺を吹くとは……」

 

「『閃光』ちゃんも大概だネ? 普通あそこまで乗れないヨ?」

 

やがて苦笑い気味で2人は言う。

 

「手札がショボイ時は、取りあえず掛け金をレイズするのが主義なんだ」

 

「やらないで後悔するくらいなら、やって後悔しようかなって思って……あと、『閃光』はやめてください」

 

「ありゃりゃ、二つ名はお嫌いみたいだネ。それより、キミ。ウソツキ君にしては強いネ? スプリガンの秘密兵器だったりするのかな?」

 

「俺はしがない傭兵だよ」

 

答えるキリトにアリシャは一瞬だけ呆気にとられるも

 

「にゃはははは!」

 

あくまで人をくった答えにアリシャは一頻り笑い

 

「ねぇ、キミぃ。フリーなら、ケットシー領で傭兵やらない? 今なら三食お

やつに昼寝付きだよ?」

 

ひょいっと彼の右腕をその胸に抱いた。

 

「んなっ!」

 

瞬間、リーファの口元が引き攣った。

だが、割り込む隙を見つける前に

 

「抜け駆けはよくないぞ、ルー。キリト君だったかな? どうだろう、個人的興味もあるので、この後スイルベーンで酒でも……」

 

少し艶っぽい声を出し、キリトの左腕にスルリと着流しの袖が絡みついた。

さらにこめかみまで引き攣るリーファ。

その隣でアスナは笑っている。

正確には口元は笑っているが、眼は決して笑ってない。

そんな彼女らを気にするでもなく

 

「あーっ、ずるいヨ、サクヤちゃん! 色仕掛けハンターイ」

 

「人の事言えた義理か! 密着しすぎだお前は!」

 

などと言い合っている。

当のキリトは両側から美女二人に密着されて、顔が耳まで赤くなっている。

しかし、何処かまんざらでもなさそうだ。

その瞬間、リーファが後ろから彼の服を引っ張り

 

「駄目です! キリト君はっ……」

 

そこまで言って我に返って口籠る。

三人は振り返ると不思議そうにリーファを見た。

 

「その……えっと……」

 

適切な言葉が出てこずに、しどろもどろになっているリーファ。

キリトはそんな彼女を見て小さく笑い、口を開く。

 

「すみません。お誘いは嬉しいんですが、俺達は彼女に世界樹まで案内してもらう事になってるので」

 

「ほう……そうか、それは残念だ」

 

少し残念そうにそう言うとサクヤはリーファに視線を向ける。

 

「アルンに行くのか。物見遊山か? それとも……」

 

「領地を出る……つもりだったんだけどね。でも、いつになるかわからないけど、きっとスイルベーンに帰るわ」

 

問いかけにリーファは笑って答えた。

 

「そうか。安心したよ。必ず戻ってきてくれよ───彼らと一緒にな」

 

「途中でウチにも寄ってネ。大歓迎するよん」

 

両領主はキリトから離れると、表情を改めた。

それぞれ深々と頭を下げて一礼し、顔を上げたサクヤが口を開く。

 

「今回は本当にありがとう。リーファ、キリト君、アスナ君。私達が討たれていたら、サラマンダーとの格差は決定的なものになっていただろう。何かお礼をしたいのだが───」

 

そこまで言った時、アスナはサクヤに視線を向けて

 

「あの、今回の同盟は、世界樹攻略の為ですよね?」

 

そう問いかけた。

 

「あぁ、まぁ、究極的にはな」

 

それを聞いた時、リーファもピンときた表情になって

 

「その攻略に、私達も参加させてほしいの。可能な限り早く」

 

そう言った。

領主二人は顔を見合わせ、やがてキリトらに視線を戻し

 

「同行は構わない。むしろこっちからお願いしたいくらいだ。しかし、何故?」

 

問いかける。

アスナとリーファは視線をキリトに向ける。

 

「……俺がこの世界に来たのは、世界樹の上に行きたいからなんだ。そこに居るかもしれない、ある人に会う為に」

 

「『妖精王オベイロン』の事か?」

 

「いや、違う……と思う。リアルで連絡が取れないんだけど……どうしても会わなきゃいけないんだ」

 

「その人は私の知り合いでもあるんです。それで、今は私も彼に協力して、一緒に世界樹を目指しているんです」

 

キリトの言葉にアスナが付け足して言う。

2人の言葉に納得しながらも、領主たちは難しい表情をした。

 

「でも、攻略メンバー全員の装備を整えるのに、しばらく時間がかかると思うんだヨ。とても一日や二日じゃ……」

 

耳と尻尾を伏せて、申し訳なさそうに言うアリシャ。

サクヤも同じ意見なのだろう。

キリトは首を振って

 

「いや、俺達も、とりあえず根元まで行くのが目的だから、後は何とかするよ。あ、そうだ……」

 

何かを思いついたようにメニューを表示し、大きな革袋をオブジェクト化する。

 

「これ、資金の足しにしてくれ」

 

言いながら差し出したそれはジャラリと音を鳴らした。

どうやらユルドが詰まっているのだろう。

受け取ったアリシャは一瞬ふらついた後、革袋の中を覗いて眼を丸くした。

 

「さ、サクヤちゃん! これ見て!」

 

促されて中身を見たサクヤも絶句する。

つまみだしたのは青白く輝く大きなコイン。

それを見たリーファとアスナ、領主の後ろに居るプレイヤー達も驚いている。

 

「十万ユルドミスリル貨がこんなに……いいのか? 一等地にちょっとした城が建つぞ?」

 

未だ驚いた表情のサクヤが問いかける。

 

「いいんだ。俺にはもう必要ない」

 

キリトはなんの執着もなく頷いた。

 

「これだけあれば、目標金額にかなり近づけるヨ!」

 

「大至急装備を揃えて、準備が出来次第連絡させてもらう」

 

「よろしく頼む」

 

アリシャが革袋を収納し、2人は再びキリト達に向き合う。

 

「何から何まで世話になったな。君達の希望に出来る限り添えるよう努力する事を約束するよ。キリト君、アスナ君、リーファ」

 

「役に立てたなら嬉しいよ」

 

「連絡、待ってます」

 

差し出された手にキリト達は応じて握手を交わす。

領主二人と護衛のプレイヤー達はそれぞれ翅を広げて飛翔した。

 

「アリガト! また会おうネ!」

 

アリシャの声が響いてくる。

彼女らはケットシー領に向かて飛んでいった。

その姿をキリト達は並んで見送っている。

やがて、姿が見えなくなって

 

「……行っちゃったね」

 

アスナが呟いた。

 

「ああ───終わったな」

 

答えるようにキリトも呟いた。

そんな彼をリーファは横目で見る。

一連の発端となったシグルドとの決裂が、リーファには遠い昔の出来事のように感じていた。

彼と一緒に居ると、翅をもつ今の姿が真実の自分ではないかとリーファ───直葉は思ったが、上手く言葉には出来なかった。

その時だった。

 

「もう! 浮気は駄目って言ったです、パパ!」

 

キリトの胸ポケットから小妖精のユイが飛び出してきた。

御立腹といった様子で腕を組み、キリトの肩に乗った。

 

「えぇ?」

 

「領主さん達にくっつかれた時、ドキドキしてました!」

 

「そりゃ、男なら仕方ないんだって!!」

 

「全部終わったら、あの娘に報告しないとね?」

 

隣のアスナが素敵な笑顔で言ってくる。

 

「んな! ちょ、アスナさん! 不可抗力ですよ!!」

 

慌てふためくキリトを見て、不意にリーファは口を開いた。

 

「ねぇ、ユイちゃん。私やアスナさんはいいの?」

 

「ほぇ?」

 

問われたユイは振り返って思案し

 

「お二人は大丈夫みたいです」

 

そう答えた。

 

「そうなの?」

 

「なんで?」

 

アスナとリーファはキリトに視線を向けた。

一瞬思案して

 

「アスナは親友って感じがするし……リーファは女の子って感じしないんだよなぁ」

 

そう言ってあっけらかんと答える。

 

「ちょ……それ、どういう意味ぃ!」

 

思わず出た彼の本音にリーファは憤慨した様子で叫んだ。

 

「い、いや! 親しみやすいっていうか、いい意味でだよ! うん!!」

 

慌ててそう返すキリト。

直後、彼の眼前に白銀の細剣が現れる。

 

「キリトくぅん? デリカシー無さ過ぎだよぉ? 刺そうか?」

 

笑顔だが目は決して笑ってないアスナが冷えた声で言ってきた。

 

「そ、そんな事よりアルンまで飛ぼうぜ! 日が暮れちゃうよ!!」

 

慌てて逃げるように翅を広げてキリトは飛び立つ。

 

「こら! リーファちゃんに謝りなさぁい!!」

 

それを追ってアスナも飛翔した。

リーファは慌てて

 

「あ、待ってよ2人とも!!」

 

翅を広げて飛翔し、2人の後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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同刻、世界樹の枝の一角。

そこに設置された大きな鳥籠。

その中に囚われているユウキはベッドの上に座っていた。

オベイロン――須郷伸之の訪問から結構な時間がたっていた。

ユウキは徐にベッドから降りて、鳥籠の扉まで走り寄る。

 

「8……11……3……2……9……」

 

以前、須郷が立ち去る時に鏡を利用して記憶に焼きつけた番号をユウキは入力していく。

システム音が鳴ると同時に、鉄格子のような鳥籠の扉が開いていった。

ユウキは一歩踏み出し外に出る。

風で彼女の長い黒髪が靡き、頬を撫でる。

 

「キリト。ボク、頑張るから」

 

小さく呟いて目を閉じる。

そうして彼女はイメージする。

SAOで『絶剣』と呼ばれていた時の自分を。

『黒の剣士』の相棒として、幾つもの死戦を潜りぬけてきた事を。

閉じていた目を開き、ユウキは意を決して歩き出す。

目的は脱出。

その為に必要なコンソールを探し出す事。

長く伸びる枝の道をユウキは走っていった。

 

 

 

 

 

 

 




サラマンダーの将軍を退け、アルンにたどり着いた少年たち。

そんな中、囚われの少女は脱出を試みて樹の内部を探索する。

そこで彼女がみたものは・・・


次回「アルヴヘイムの真実」

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