ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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おし、なんとかできたぜよ!

ついにALOへと和人ことキリトが降り立ちました。

ではどうぞご覧あれ!


第二十六話 妖精剣舞

 

「リンク・スタート!」

 

あの日、自分を仮想世界へと閉じ込めた言葉。

抵抗がなかったわけではない。

今でも恐怖心はあるだろう。

それでも彼、桐ヶ谷和人はこの言葉を口にする。

大切な人を取り戻す。

ただその為に、もう一度仮想世界へと意識を繋げるこの言葉を。

暗闇に包まれた空間に和人はいた。

ここはアカウント情報登録ステージ。

ゲームタイトルのロゴが表示されると同時に、無機質な合成音声メッセージが流れ始めた。

 

『アルヴヘイム・オンラインへようこそ。まずは、プレイヤーネームを登録してください』

 

指示に従い、表示されたネーム登録画面を操作し和人はプレイヤーネームを入力した。

 

『Kirito』

 

彼がSAOでも使っていた馴染みあるプレイヤーネーム。

次に種族選択を行った。

九つある種族をそれぞれ見ていくと、一つの種族に目がとまる。

『スプリガン』黒を基調とした和人好みの種族だった。

それを選択すると

 

『スプリガンですね。これで設定を終了し、ホームタウンへと転送されます。幸運を祈ります』

 

合成音声のメッセージが流れ、暗闇に空間が溶けていく。

拡がったのは辺り一面の夜空。

そのまま和人、いやキリトは真っ逆様に落下していく。

視界には遺跡の様な建造物が映った。

そこが『スプリガン』のホームタウンなのだろう。

しかし、次の瞬間世界がブレた。

辺りのグラフィックポリゴンが砕け、ぽっかり空いた空間にキリトは飲み込まれていく。

 

「なんじゃこりゃぁ!!」

 

呑みこまれた瞬間、落ちていく感覚がなくなる。

が、すぐにまた落下する感覚が身体を襲った。

 

「ぐえぇ!」

 

妙な現象に巻き込まれ、落ちたのは何処とも知れぬ場所だった。

仰向けになりながらキリトは眼を開ける。

場所は何処かの森のようだ。

夜なので辺りは薄暗い。

虫や鳥の鳴き声が耳に響いてくる。

 

「また来ちゃったな……あんな目にあったってのにさ……」

 

そう呟いてキリトは軽く笑った。

そのまま立ちあがって右手を振ってみる。

しかし何も起きない。

今度は左手を振ってみた。

すると、聞きなれたシステム音と共にメインメニューが表示された。

それを操作してキリトは一番に確認しなければならない事を行った。

『Log Out』のボタン表示。

それを見てキリトは安堵のため息を吐いた。

そのまま今度はステータスを確認する。

表示された自身のステータスを見てキリトは難しい表情をした。

片手剣を始め、様々なスキルが高熟練度で表示されたからだ。

アカウントを作ったばかりだというのに、熟練度1000など有り得ない数字ばかりである。

ある程度スキルを見てキリトはある事に気が付いた。

破損しているものもあるが、表示されているスキル欄には見覚えがあったからだ。

 

「これって……SAOでの俺のスキルと一緒だ……ここは、SAOなのか?」

 

少し思案し、次にアイテムメニューを開く。

表示されたのは文字化けしたアイテム群。

スキルがSAOと一緒ならアイテムもまた……

と、そこでキリトはハッと目を見開いた。

そのままアイテム欄をスクロールさせていく。

 

「頼む、あってくれ!」

 

やがて一つのアイテムが表示された。

『MHCP001』

それをタップしてオブジェクト化させた。

キリトの手に小さな涙石が現れる。

それを恐る恐るタップしてみるキリト。

その瞬間、涙石が眩い光を放ち始めた。

光は大きく膨れ上がり、やがて弾ける。

その中から現れたのは、白いワンピースを纏った長い黒髪の少女。

少女はゆっくりと目を開いていった。

キリトは両手を広げて

 

「俺だよ……解るか? ユイ」

 

少女に呼びかけた。

すると

 

「また……逢えましたね……パパ」

 

少女、ユイはそう言って涙目で微笑む。

そのままキリトの腕の中に飛び込んだ。

彼女はSAOでキリトとユウキがほんの少しだが一緒に過ごした少女だ。

その正体はプレイヤーのメンタルヘルス・カウンセリングプログラム。

『カーディナル』からの命令違反によって消去される寸前、キリトの手によってコアプログラムを切り離され、彼のナーヴギアに保存されていたのだ。

キリトは泣きじゃくるユイを優しく抱きしめて

 

「奇跡は……起きるんだな」

 

そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「で、これはどういう事なんだ?」

 

再会を喜びあったのも束の間。

キリトは近くの切り株に腰を降ろし、自身の身に起きた事に対して疑問符を浮かべて呟いた。

彼の膝の上に座っているユイも、キリトの言葉に疑問符を浮かべて見上げてきている。

 

「いや……ここはSAOじゃなくて、別にゲームの世界なんだ。アルヴヘイム・オンラインって言う」

 

それを聞いたユイは

 

「ちょっと待ってくださいね」

 

耳を澄ますようにして目を閉じ

 

「……ここは『ソードアート・オンライン』サーバーのコピーだ思われます」

「コピー?」

 

ユイは頷いて

 

「はい。基幹プログラム群やグラフィック形式は完全に同一です。ただ、『カーディナル』のバージョンが少し古いようです」

 

そう返した。

キリトは納得したように頷いて

 

「なるほどな。SAOを運営していた『アーガス』の事後処理は『レクト』に委託されている。つまり、『アーガス』の技術資産を『レクト』が吸収し、流用したってことか……でも、なんで俺の個人データが……?」

 

「ちょっと、パパのデータを覗かせてくださいね?」

 

そう言って再びユイは目を閉じる。

 

「……間違いないですね。これはSAOでパパが使っていたキャラクターデータです。セーブデータのフォーマットがほぼ同じなので、二つのゲームに共通するスキル熟練度が上書きされたんでしょうね」

 

「そういや……二刀流はなくなってたな」

 

「アイテムも破損してしまっているので、エラー検出プログラムに引っかかる前に、破棄した方がいいでしょう」

 

そう言ってユイは目を開いた。

キリトはアイテムメニューを開いて、壊れたアイテムを全選択した。

『アイテムを全て破棄しますか?』というシステムメッセージが表示される。

キリトは少し迷うが、意を決してYesボタンをタップした。

これにより全てのアイテムは破棄される。

中にはユウキとの思い出のアイテムもあっただろうが致し方ない。

キリトは大きく息を吐く。

そんな彼を見てユイは疑問符を浮かべた。

キリトは苦笑いを浮かべて

 

「はは……なんでもないよ。スキルはどうするかな?」

 

「スキル熟練度は人間のGMが直接確認しない限りは大丈夫でしょう」

 

尋ねるキリトにユイは答えた。

キリトは唸りながら

 

「うぅむ、こりゃ『ビーター』じゃなくて只の『チーター』だな」

 

呟いた。

そこで、ふと気になった事をユイに尋ねる。

 

「そういや、ユイはどういう扱いなんだ?」

 

問われたユイは

 

「えっと……プレイヤーサポート用の擬似人格プログラム『ナビゲーション・ピクシー』に分類されます」

 

そう言った直後、彼女の身体が発光する。

光が弾けてユイは姿を消してしまった。

 

「お、おい」

 

慌てて声をかけようとした時、膝に乗っている小さなモノに気が付いた。

10センチ程の身長で、ライトマゼンダの花をあしらった白いミニワンピースを着た、まさに妖精といえる少女がそこに居たのだ。

背中からは半透明なピンクの翅が二枚伸びているが、長い黒髪と容姿はユイそのままだ。

 

「これがピクシーとしての姿です」

 

言いながらユイはキリトの目線まで飛び上がった。

キリトは感動したように

 

「おぉ」

 

そう声を漏らし指で彼女の頬をつついていた。

 

「くすぐったいですー」

 

「じゃぁ、前と同じように管理者権限もあるのか?」

 

「いえ、出来るのはリファレンスと広域マップデータのアクセスくらいで、主

データベースには入れないようです」

 

しゅんと落ち込んだように声を出すユイ。

 

「そうか、実はな……ここにユウキが、ママがいるかもしれないんだ」

 

キリトはそう言って視線を遥か空に向ける。

 

「どういう事ですか?」

 

ユイはキリトの肩に乗り、疑問符を浮かべて尋ねてきた。

 

「ユウキはSAOをクリアしても、現実に復帰しなかった。俺は知り合いからここにユウキに似た人がいるって情報を貰って、ここに来たんだ」

 

「そんな事が……」

 

「でも、大体の場所は見当がついてるんだ。『世界樹』って言ってな。そこにユウキがいるかもしれない」

 

「あそこに……ママが」

 

2人ははるか遠くに映る大きな影を見た。

天高く聳えるそれは、まさに世界樹と呼ぶに相応しいだろう。

キリトは立ちあがり

 

「そういや、俺はなんでこんな何もない森にログインしたんだ?」

最大の疑問を口にする。

ユイも首を傾げて

 

「さぁ……位置情報が破損したのか、あるいは混信したのか……何とも言えませんが」

 

ユイは答える。

 

「どうせなら、『世界樹』の近くに落ちてくれればよかったのにな」

 

そう言ってキリトは背中に意識を集中させた。

すると、黒い半透明な翅が4枚伸びる。

 

「おお、これが翅か。どうやって飛ぶんだろう?」

 

「補助コントローラーがあるみたいです。左手を立てて、握るような形を作ってみてください」

 

ユイに言われてキリトは左手を握るように立てた。

すると手の中にコントローラーが現れる。

 

「えと、手前に引くと上昇、押し倒すと下降、左右で旋回、ボタン押しこみで加速、離すと減速となってますね」

 

言われるままにキリトはコントローラーを操作する。

上昇と下降、旋回に加減速を一通りやってみてキリトは感動したように声を漏らした。

 

「へぇ……なるほど、大体わかった。とりあえず近くの街に行ってみるか。ユイ、どこが近い?」

 

「西の方に、シルフ領の『スイルベーン』という街があります。そこが一番……!」

 

言葉を途中で区切り、ユイは何かに気が付いたように顔を上げた。

キリトは疑問符を浮かべる。

 

「近くにプレイヤーがいます。これは、3人が1人を追いかけているようですね」

 

「戦闘か……? とりあえず、行ってみるか!」

 

そう言ってキリトは翅を展開させる。

コントローラーを操作してその場から飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「はぁ……はぁ……」

 

息を切らしているのはシルフの少女。

そんな彼女を三人の男性プレイヤーが空中から取り囲むようにして見下ろしていた。

三人とも赤い甲冑に身を包み、手には大きなランスを持っている。

背からは赤の半透明な翅が伸びていることから、間違いなく彼らは『サラマンダー』だろう。

 

「流石はシルフ族で五指に入る実力者だな。リーファといったか……だが、ここまでだな」

 

中央に居るリーダー格がリーファと呼ばれた少女に向けて言葉を放つ。

対するリーファは息を切らしながら、長刀の切っ先を彼らに向けていた。

「悪いがこちらも任務でね。金とアイテムを置いていけば見逃すが?」

そうリーダー格が言うと

 

「なに紳士ぶってんだよカゲムネ! 女相手なんて超久々じゃん!」

 

「ゆっくりじっくり殺しちまおーぜ!」

 

残りの2人はそう言ってリーファを舐めまわすように見てきた。

それに対し、リーファは嫌悪感を露わにしたように舌打ちする。

『女性プレイヤー狩り』

MMOでは女性プレイヤーを狩ることこそが最高の快楽。

ALOではそういったプレイヤーが後を絶たない。

確かにこのゲームはPK推奨だが、女性を殺す事に快楽を求めるなどリーファを始め、多くの女性プレイヤーは身の毛もよだつ事でしかない。

このゲームですらこうなのだ。

あのSAOではきっと……

そこまで考えてリーファは首を振って

 

「後一人は絶対に道連れにするわ。デスペナルティの惜しくない人からかかってきなさい!」

 

言いながら長刀(ツーハンドブレード)を上段に構えた。

その言葉にリーダー格の男、カゲムネは同情にも似た溜息を吐いて

 

「気の強いお嬢さんだ。仕方ない」

 

その言葉を合図に、三人はランスを構えて浮き上がる。

三方から取り囲み、一気に刺し貫こうというのだ。

カゲムネが合図を出し、彼女を貫くために動き出そうとした。

その時だった。

突然、後ろの灌木が揺れ動き人影が飛び出してくる。

それはサラマンダー達の横を勢いよく通り過ぎ地面に激突する。

 

「あたた……こりゃ、着陸がミソだな」

 

頭を押さえながら、キリトは立ちあがる。

予想外の事にリーファもサラマンダー達も呆然としていた。

そんな彼らをキリトは交互に見て

 

「ふぅん……女の子一人を重戦士三人で襲うなんて、ちょっとカッコ悪いなぁ」

 

不敵に笑ってキリトはそう言った。

すると、サラマンダーの一人は我に返って

 

「んだぁテメェ! 初心者がのこのこ出てきやがって!!」

 

そう叫んでランスの切っ先をキリトに向けた。

それを見たリーファは

 

「なにしてるの! 早く逃げて!」

 

そう叫ぶ。

しかし、キリトは笑みを浮かべたままサラマンダーを見据えていた。

そんな彼にサラマンダーは

 

「やろう……なら、お望み通り殺ってやんよぉ!!」

 

声高に叫んでキリトに突撃する。

突き出したランスが彼を突き刺した。

そう思い、リーファは目を閉じた。

だが、目を開くと信じられない光景が視界に映る。

突き出されたランスはキリトを貫いてはいなかった。

どころかキリトはランスを右手だけで掴み止めていたのだ。

 

「よっ」

 

軽く声を出し、右手を振り払うようにしてランスを手放す。

 

「わぁぁぁ!!」

 

悲鳴を上げてサラマンダーは後方へ投げ飛ばされてしまった。

目の前で起きている事に、リーファもカゲムネも唖然としている。

そんな彼女らを余所に、キリトは右肩をぐるぐる回しながら

 

「えっと……あの人達、斬ってもいいかな?」

 

気楽そうにリーファに問いかけた。

その言葉に我に返ったリーファは

 

「そりゃ……いいんじゃないかしら……少なくとも向こうはそのつもりだし」

 

サラマンダー達を見ながらそう返す。

それを聞いたキリトは背中の片手剣を抜き放ち

 

「じゃ、遠慮なく!」

 

勢いよく地を蹴る。

 

「ぐぁぁ!!」

 

直後、サラマンダーの一人が悲鳴を上げて炎に包まれていた。

起こった事に全員が唖然とする。

炎に包まれたサラマンダーのすぐ近くには剣を構えたキリトがいた。

信じられない事に、彼は剣を抜き放ったと同時に高速で駆け、サラマンダーを両断したのだ。

その威力は半分は残っていた筈のHPを一気に持っていったのだ。

呆然としているサラマンダーを余所に、キリトは再び駆け出した。

一気に間合いを詰めて、もう一人のサラマンダーに斬撃を繰り出す。

気付いた時にはもう遅かった。

 

「ぎゃぁ!」

 

呆気なく彼は両断され、炎に包まれる。

信じられないものを見るようなリーファとカゲムネ。

そんな彼らにキリトは振り返って

 

「次は誰かな?」

 

不敵に笑いそう言った。

 

 

 

 

 

 

 




降り立ったのは碧の街

シルフ達が拠点とする領地では、様々なプレイヤーが楽しんでいた。

その一方、世界樹のはるか上

そこには鳥籠に囚われた少女がいた


次回「囚われの少女」

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