ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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というわけで始まります。
タグにキリト×ユウキとありながら一話でユウキは出てきませんがw

設定などは2話以降で上げようと思います。

それではどうぞご覧ください(^ω^)


アインクラッド
第一話 終焉と始まり


2022年11月6日 

 

 

「お兄ちゃーん。部活行ってくるねー」

 

耳に届いて来た声に反応して、少年は読んでいた雑誌を閉じて立ち上がった。

そのまま自室の窓まで行き、閉められているカーテンを少し開いて外を見た。

視線の先には学生服を身につけ、走っていく少女の姿。

それを見送った少年は、部屋の扉付近に設置してあるデジタル時計を見ると、時刻は午後12時57分を指していた。

少年はヘルメットのような機器を手に取る。

それを被り、ケーブルを繋いでベッドに仰向けで寝そべった。

視界に映るデジタル時計は後1分で13時を指そうとしていた。

そして時計が13時を指した瞬間、少年は小さく笑みを浮かべ眼を閉じて

 

「リンク・スタート!」

 

そう言葉を紡ぐ。

瞬間、世界はがらりと変わる。

閉じていた目を開き、自分の手を視界に入れた。

拳を握り歓喜の笑みを浮かべ

 

「戻ってきた、この世界に!」

 

そう言って走り出した。

慣れたように街の中を走っていく。

辺りには他のプレイヤー達の姿がちらほら見えた。

VRMMO『ソードアート・オンライン』

ここは一人の天才によって生み出された仮想世界。

世界の名は『アインクラッド』といい、全部で100層にもなるフィールドによって構成されたRPGの世界だ。

今日はこのソフトの正式サービス初日であった。

βテストに当選していた彼はその時に利用していた武器屋へと迷いなく駆けていく。

その時だった。

 

「おーい! そこの兄ちゃーん!!」

 

呼び止められて脚を止め、振り返る。

そこには悪趣味なバンダナをした若武者風の男性がいた。

 

「その迷いのない動き、あんたβテスターだよな!」

 

「まぁ……そうだけど」

 

「やっぱそうか! なぁ、ちょいと序盤のコツをレクチャーしてくれねぇか? 俺、仮想世界は初めてでよ」

 

「あ……えと」

 

急な頼みに少年は少し困ったような表情を浮かべた。

 

「頼むよ! 俺はクライン! よろしくな!!」

 

勢いよく手を合わせて頼んだ後に男性は名乗る。

少年は苦笑いを浮かべて

 

「俺は、キリトだ」

 

そう名乗り返した。

 

 

 

 

 

 

 

=====================

 

 

 

 

 

 

 

 

「どぉわ!!」

叫んで倒れたのはクライン。

モンスターのイノシシ『フレンジーボア』に突進され吹き飛ばされたのだ。

股ぐらを押さえながら身悶えするクラインをキリトは苦笑いで見ながら

 

「おいおい、仮想世界じゃ痛みは感じないだろ?」

 

そう言った。

 

「あ、そうだった……ついな」

 

言いながらクラインは立ち上がる。

その表情はあまりすぐれてはいない。

思うように攻撃が当たらずにげんなりしているようだ。

 

「言っただろ? 大事なのは初動のモーションだよ」

 

「んな事言ったってよぉ……あいつ動きやがるしよぉ」

 

「どう言えばいいかな……少し溜めを作る感じで……」

 

そう言ってキリトは足元の石を拾い構える。

すると石は緑に輝いて自動的にフレンジーボアへと投げられた。

投剣スキル、『シングルシュート』

それは見事に命中し、僅かにフレンジーボアのHPが減少した。

フレンジーボアは標的をキリトに定め、突進してくる。

それを片手剣を抜いて、受け流すように防御しながら

 

「スキルが立ちあがるのを感じたらズパーンって撃ち込む感じだよ」

 

「溜め……ズパーン……お!」

 

キリトの言葉に閃いたようにクラインは深呼吸する。

そして握っている曲刀を肩に担ぐように構えた。

すると刃が澄色に輝く。

 

「おりゃ!」

 

掛け声と同時に滑らかな動きで片手曲刀基本スキル『リーパー』が発動した。

それは突進してきたフレンジーボアに見事命中しHPバーを大きく減らす。

HPバーがゼロになったフレンジーボアはポリゴン片となって砕け散った。

 

クラインの目の前にシステム画面が現れる。

モンスターを倒したことにより経験値、そしてコルという『アインクラッド』での通貨を入手したからだ。

 

 

「うおぉっしゃぁぁぁ!!」

 

大きくガッツポーズを決めて曲刀を持つ右手を高々に挙げる。

 

「初勝利おめでとう。でも今のイノシシ、スライムみたいなもんだけどな」

 

言いながらキリトは自身が握る片手剣を背の鞘へと納めた。

それを聞いたクラインは

 

「マジかよ? おりゃぁてっきり中ボスだと」

 

キリトを見やる。

対する彼は

 

「んなわけあるか」

 

言いながら苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

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「しっかし、何度見ても信じられねえよな? ここが仮想世界なんてよ」

 

「まぁな」

 

その後も共に狩りを続けた二人は彼方に見える夕陽を見ながら休憩取っていた。

 

「作った奴は天才だぜ。マジこの時代に生まれてよかったってな」

 

「おおげさだな」

 

クラインの言葉にキリトはそう返す。

 

「初のフルダイブ体験だからな」

 

「じゃぁ、ナーヴギア用のゲームをやるのはこれが初めてなのか?」

 

「あぁ、つーかSAOが買えたから慌ててハードも揃え

って感じだな。初回ロット一万本のうちの一つを買えるなんて我ながらラッキーだぜ」

 

そう言ってクラインは笑う。

 

「なぁ? βテストじゃどこまでいけたんだ?」

 

「二ヵ月で8層までだ。今回は一ヶ月もあれば十分だけどな」

 

言ってキリトは不敵な笑みを浮かべる。

それを見たクラインは

 

「おめぇ、相当はまってんな?」

 

苦笑いで聞き返す。

キリトは剣を抜きそれを掲げて

 

「正直、βの時は寝ても覚めても、SAOの事しか考えてなかったな。この世界はこの剣一本あればどこまでもいける、現実よりも生きてるって感じがするんだ」

 

そう言った。

掲げた剣の刀身は夕陽で赤く輝いていた。

その剣を背の鞘に収め

 

「さて、まだ狩りを続けるか?」

 

クラインに視線を向けて問いかける。

勢いよくクラインは立ち上がり

 

「ったりめぇよ!っていいてぇとこだけどな」

 

言いながら自身の腹を抑えて

 

「腹減っちまってよ、一度落ちるわ。五時半にアツアツのピザを予約済みだからよ!」

 

そう言い苦笑いを向けてきた。

 

「準備いいな」

 

「なぁ、この後一緒にゲーム買った奴らとも落ち合う約束してんだ。そいつらともフレンド登録するか?」

 

「え……いや、俺は……」

 

突然の誘いにキリトは戸惑いの声を出す。

戸惑うと言うよりは怯えと言うべきか。

 

「いや、無理にとはいわねぇさ! また機会はあるだろ」

 

その様子を見て何かを察したクラインはそう言って返した。

キリトは申し訳なさそうな表情で

 

「ああ、悪いな……ありがとう」

 

そう言って返す。

 

「おいおい、礼を言うのはこっちだぜ。この礼はいつかきっと返すぜ。精神的に!」

 

言いながらクラインは右手を差し出してきた。

 

「これからもよろしく頼むぜ?」

 

笑いながらそう言った。

応じるようにキリトはその手を握り

 

「解らない事があればいつでも聞いてくれ」

 

そう返した。

笑いあった後、クラインはログアウトする為にシステムメニューを開いた。

キリトはその場を去ろうと背を向けた。

瞬間

 

「あれ? ログアウトボタンがねぇ……」

 

そんな言葉が聞こえてきた。

訝しげな表情をして

 

「そんな訳ないだろ? よく見ろって」

 

キリトは言う。

しかし

 

「いや、どこにもねぇよ」

 

返ってくるのはこの反応。

キリトは自身のメニューを開いて

 

「メインメニューの一番下に……」

 

目を見開く。

そこはあるべきものがなかった。

 

「ログアウトボタンがない……」

 

「ないだろ?」

 

「あぁ……」

 

クラインは溜息をついて

 

「ま、正式サービス初日だしな。こんなバグもあるだろ? 今頃運営は半泣きだろうな」

 

苦笑いでそう言った。

そんなクラインに

 

「お前もな? 今17時25分だぜ?」

 

キリトは意地の悪い笑みで言う。

 

「んがぁぁぁぁ!!! 俺のピリマヨピザがぁぁぁぁ!!」

 

頭を抱えて叫ぶクライン。

だがそんな彼を余所にキリトは表情を陰らせる。

少し思考を巡らせて

 

「……なにかおかしくないか?」

 

キリトは呟いた。

クラインは疑問符を浮かべて

 

「そりゃバグだしよ……」

 

「だからこそだ。ログアウト出来ないなんて、今後の運営に係わる大問題だ」

 

「言われてみれば……」

 

不穏な空気が二人を包む。

遠くから聞こえてくる鳥の鳴き声が、一層不安を掻き立てるように感じるキリト達。

 

「こんなの、一度サーバーを停止させて、全プレイヤーを強制ログアウトさせればいいのに……アナウンスすら流れないなんて────」

 

そうキリトが呟いた瞬間。

大きく鐘の音が響き渡る。

同時に二人を青い光が包んでいった。

気が付くとそこはフィールドではなくはじまりの街。

中央の噴水広場に二人はいた。

彼らだけではない様々なプレイヤーがこの場所に強制転送されてきていた。

訳もわからないといった様子の者やログアウト出来ない事にイラだった者もいる。

やがて一人のプレイヤーが

 

「おい! 上!!」

 

そう言って指をさした先には赤く染まった文字が浮かんでいる

『Warning』『System Announcement』

そう表示された赤いパネルが段々と空を覆うように広まっていく。

やがてそこから滴る赤い滴が集まっていき巨大な人型を創り出す。

20メートルはあるだろうそれは、フードを被り、顔は隠れている為見る事は出来ない。

いや、隠れているというよりは最初から中身がないともいえる。

そして完全に形をなしたそれから

 

『プレイヤー諸君、私の世界へようこそ』

 

声が発せられた。

 

『私の名は茅場晶彦、この世界を唯一コントロールできる人間だ』

 

それを聞いたキリトは目を見開く。

『茅場晶彦』。

『ソードアート・オンライン』そしてフルダイブ機器『ナーヴギア』を開発した人物だ。

驚きざわめくプレイヤー達。

そんな彼らを気にするでもなく

 

『プレイヤー諸君はメインメニューからログアウトボタンが消滅している事に気付いているだろう。しかし、これはバグではなくソードアート・オンライン本来の仕様である』

 

「仕様……だって?」

 

告げられた言葉にクラインが掠れた声で呟く。

 

『諸君は今後、自発的にログアウトする事は出来ない。また、外部の人間によるナーヴギアの停止もあり得ない。それを試みた場合───ナーヴギアが発する高出力マイクロウェーブが、諸君らの脳を破壊し、生命活動を停止させる』

 

告げられた言葉はあまりにも現実離れしていた。

プレイヤー達は馬鹿馬鹿しいと吐き捨てている。

 

「何言ってんだあいつ? んな事が出来る訳……」

 

言いながらクラインはフードのアバターを指差した。

だが

 

「出来るんだ……ナーヴギアの原理は電子レンジと同じなんだよ。リミッターを外せば、脳の限界温度42度を超えるんだ」

 

キリトは深刻な表情でそう言った。

それを聞いたクラインは眼を見開く。

が、否定するように首を振って

 

「けどよ、電源を切れば……」

 

そう言うが

 

「ナーヴギアには内蔵バッテリーがある……」

 

「な……けど、無茶苦茶だろ! なんなんだよ!」

 

痺れを切らしたようにクラインは叫んだ。

尚もアナウンスは続いていく。

 

『残念ながら、警告を無視したプレイヤーの家族、あるいは友人らがナーヴギアを強制解除しようとしたその結果、すでに213名のプレイヤーが、このアインクラッド及び現実世界から永久退場している』

 

発せられた言葉はそこに居た者達を愕然とさせた。

この言葉が事実なら……いや、事実なのだろうとキリトは確信したようにフードのアバターを睨む。

隣のクラインは信じられないといったように再び首を振り

 

「信じねぇ……信じねぇぞ俺は!」

 

叫んだ。

 

『この事はすでにあらゆる報道メディアが繰返し報道している。よって、ナーヴギアの強制解除の可能性は十分に低くなっているだろう。諸君らは安心してゲーム攻略に励んでほしい』

 

続けられた言葉に

 

「ふざけるな!! 今の状況で呑気に遊んでろって言うつもりか!!」

 

我慢の限界が来たようにキリトは叫んだ。

しかし、それすら気にすることなく

 

『しかし十分に留意してほしい。今後このゲームに於いて、あらゆる蘇生手段は機能しない。諸君らのHPがゼロになった瞬間に、アバターは永久消滅し同時に────諸君らの脳はナーヴギアによって破壊される』

 

放たれた言葉。

すでにプレイヤー達に余裕な雰囲気はない。

重い沈黙が周囲を駆け巡る。

それを切り裂くように

 

『諸君らが解放される手段はたった一つ、このゲームをクリアする事だ。アインクラッド一層から最上層の100層までを完全クリアする事でのみ、生き残ったプレイヤーはこの世界からログアウトする事が出来るのだ』

 

「クリア……100層だと! 出来る訳ねぇだろ! βじゃロクに上がれなかったんだろうが!!」

 

『では最後に、諸君らに私からのプレゼントがある。アイテムストレージを確認してくれたまえ』

 

言われたプレイヤー達は自身のストレージを確認する。

そこに表示されていたのは手鏡。

キリトはそれをタップしオブジェクト化する。

鏡を覗き込んで見ると同時に青白い光が自身を包んでいった。

 

「うわぁ!!」

 

その光は広場に居るあらゆるプレイヤーを包んでいく。

やがて光が収まっていく。

 

「おい、大丈夫かキリト?」

 

「ああ、大丈――?」

 

声をかけられ振り向いたキリトの視界に入ったのは

 

「あんた、誰?」

 

無精髭を生やした野武士面の男がいた。

 

「いや。おめぇこそ誰だよ?」

 

そう言われキリトは持っている手鏡を見る。

映ったものを見て驚いた。

そこに映っているのはアバターの姿ではない。

黒い髪に黒い瞳、中性的な顔立ちがある。

紛れもない、見間違うはずもない。

 

「な……俺……って事は」

 

鏡から視線を野武士に移して互いに指をさして

 

「お前がクラインか!!」「おめぇキリトかよ!!!」

 

驚きの声を上げた。

辺りを見るとプレイヤー達はその姿が変わっていた。

中には男性装備をした女性、その逆のプレイヤーもいる。

皆、作り上げた理想のアバターではなく現実の自分に戻っていたのだ。

 

「マジかよ……どうなってんだこれ?」

 

未だに驚きが収まらないクライン。

それに答えるように

 

「スキャンだ、ナーヴギアは、高密度の信号素子で顔を覆っている。だから正確に顔の形を把握できてるんだ」

応えるキリト。

 

「でも、身体はどうやって……」

 

「アレじゃねぇか? 初めてセットアップした時キャリブレーション? だっけか、あちこち身体触っただろ?」

 

「あぁ……そういう事か」

 

納得したように頷くキリト。

 

「でもよォ……なんだってこんな事!」

 

「……それもすぐに答えてくれるさ」

 

クラインの言葉に答えながらキリトは再びフードのアバターに視線を向ける。

直後、再び声が響きはじめる。

 

『諸君は今、「何故?」と思っているだろう。SAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦は何故こんな事をしたのかと。私の目的は既に達成せしめられた。私はこの世界を鑑賞する為に、その為だけにこのナーヴギアを、SAOを創造したのだ』

 

告げられた言葉。

その言葉に再び辺りは沈黙が包んだ。

 

『以上で『ソードアート・オンライン』正式サービスのチュートリアルを終了する。諸君らの健闘を祈る』

 

最後の一言が終わった瞬間。

フードのアバターは融けるように消えていった。

辺りは静寂に包まれたままだ。

その中でキリトは一人思考を巡らせる。

 

(奴の……茅場の言った事は全て事実だ……)

 

力いっぱいに拳を握りしめて

 

(彼に憧れていた俺には解る! この世界で死ねば───本当に死ぬんだ!!)

 

奥歯を噛み締めて、既になにもない空を見上げた。

この日、当たり前の日常が終わり……ありえない非日常が始まったのだ。

 




強要されたデスゲーム。

絶望に落とされたプレイヤー達。

生きる為に街を出た少年は、1人の少女と出会う、

次回「出会い」

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