ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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新章突入です!

ココからようやく明日奈の出番がやってきます!

活躍の程をお楽しみに!

ではフェアリィダンス編、リンクスタート!!


フェアリィダンス
第二十四話 帰還


2025年1月10日 桐ヶ谷家

 

冷たい風がゆるく吹き付ける庭先。

剣道着を纏った少女が竹刀を握り、構えをとっていた。

一呼吸置いて少女は竹刀を振りはじめる。

どうやらこれは彼女の日課のようだ。

一頻り素振りをして竹刀を降ろした時、ふと背後に気配を感じて振り返った。

少年が縁側に腰掛けて少女を見ていた。

 

「おはよう」

 

少女に向かい軽い挨拶をした。

 

「お、おはよう……やだなぁ、見てたなら声くらいかけてよ」

 

驚きながら少女はあいさつし、少年にそう言った。

少年は少し笑って

 

「いやぁ、あんまり一生懸命やってるからさ。スグに悪いと思ってな」

 

スグと呼ばれた少女に返す。

 

「そんな事ないよ。もう習慣になってるだけ」

 

言いながら少年の隣に彼女は腰を下ろした。

少女の名は直葉、桐ヶ谷直葉という。

となれば、隣の少年の名は言うまでもないだろう。

隣に座った直葉を見て少年、桐ヶ谷和人は立て掛けた竹刀を手にとって

 

「そうか……ずっと続けてるんだもんな……」

 

軽く握り振ってみる。

 

「……軽いな」

 

そう呟き竹刀を見ている和人。

それを聞いた直葉は疑問符を浮かべて

 

「それ、真竹だから結構重いよ?」

 

指摘する。

和人は少し焦った様に

 

「いや……イメージというか……比較の問題というか……」

 

そう返してきた。

直葉は少し訝しんだ表情で

 

「何と比較したのよ……」

 

視線を逸らし呟いた。

すると和人はペットボトルの水を一気に飲み干す。

空の容器を置いて立ちあがり

 

「なぁ、ちょっとやってみないか?」

 

そう言って来た。

直葉はまたも疑問符を浮かべて

 

「やるって……試合を?」

 

問い返す。

それに対し和人は頷いてみせた。

直葉は不敵な表情で

 

「ほほぅ? 久しぶりだっていうのに、随分と余裕じゃございません? 全中ベスト8の私相手に勝負になるのかなぁ?」

 

そう言って和人を見る。

 

「それに、身体の方は大丈夫なの? 無理しない方がいいんじゃ……」

 

心配そうに尋ねる直葉。

すると和人は再び腰をおろし、置いていた空のペットボトルを手にとって

 

「毎日ジムでリハビリしまくってる成果を見せてやるさ」

 

言いながらベットボトルを握りつぶした。

2人は剣道場に移動して防具を身につける。

互いに向かい合って構えをとる。

直葉は剣道の基本でもある中段の構えをとった。

そして、視線を和人に向けて思わず吹き出した。

 

「それなぁに、お兄ちゃん」

 

視線の先に居る和人はとても剣道をするとは思えない構えをとっていた。

左足を前にして半身を少し落としている。

右手を引いて竹刀の先は床のギリギリまで下げられていた。

左手は肘を曲げて前に出されている。

 

「いいんだよ。俺流剣術だ」

 

そう言う和人に直葉は

 

「じゃぁ、行くよ?」

 

言って表情を切り替えた。

鋭い目で和人を一瞥し

 

(面が隙だらけじゃない……あそこに一発……)

 

思考を巡らせてすり足で一歩分前進した時、ふと違和感を覚えた。

 

(結構……様になってる?)

 

そう思考を巡らせた直後、和人が床を蹴って駆け出した。

振りだされた竹刀を直葉は躱し、反撃の面を打ち込んだ。

それを和人は竹刀を引いて防ぐ。

そのまま竹刀の打ち合いに突入した。

剣道の基本の動きで攻める直葉に対し、和人は独自のステップを織り交ぜた我流の動きで攻めていた。

竹刀の打ち合う音が道場内に響く。

何度か打ち合った後、2人は鍔迫り合いになった。

距離を取ろうと和人がバックステップをしようとした。

直後、袴の裾を踏んでしまい和人はバランスを崩してよろめいてしまった。

その隙を直葉は逃さなかった。

身体を引いて、渾身の面を打ち込んだ。

和人は避けられずにそれを受ける。

数歩ふらついて竹刀を杖代わりにして踏みとどまった。

 

「だ、大丈夫?!」

 

慌てて直葉は和人に駆け寄った。

和人は頭を押さえて

 

「だ、大丈夫だ……いやぁ、スグは強いな。ヒースクリフなんか目じゃないぜ」

 

苦笑いで返した。

直葉は心配そうな表情で

 

「ホントに大丈夫?」

 

問いかける。

和人は頷いて

 

「あぁ。終わりにしようか」

 

言いながら一歩下がり、竹刀を一振りして背中に回した。

その動作に直葉は疑問符を浮かべて

 

「あ、頭打ったんじゃ……?」

 

さらに心配そうに聞いてきた。

ハッとした表情になって

 

「違う違う! 長年の習慣が……」

 

慌ててそう返す和人。

防具を外して2人は剣道場を出る。

和人は竹刀を握りながらなにやら思案しているようだ。

 

「ステップはともかく……ソードスキルはなぁ……やっぱアシストがないと……」

 

ブツブツと呟いている和人に、タオルで汗を拭いている直葉は

 

「それにしてもびっくりしたよ。お兄ちゃんいつの間に練習したの?」

 

感心したように問いかけた。

和人は笑って

 

「まぁな。でも、やっぱり楽しいな……またやってみようかな、剣道」

 

そう言った。

それを聞いた直葉は明るい表情になって

 

「ホント! ホントに!」

 

「あぁ。スグ、教えてくれるか?」

 

聞いてくる直葉に和人は笑顔で返した。

彼女は更に嬉しそうに笑って見せる。

 

「もちろんだよ! また一緒にやろうよ!」

 

 

「もうちょっと筋肉が戻ったらな」

 

和人は直葉の頭を撫でてそう言った。

嬉しそうな表情のまま直葉は

 

「ね、お兄ちゃん。アタシもね……」

 

言いながら和人の顔を覗き込むように見る。

彼は疑問符を浮かべていた。

 

「……ふふ、やっぱまだナイショ!」

 

小さく笑って直葉は背を向けて玄関に向かって歩き出した。

 

「なんだよ?」

 

和人は尚も疑問符を浮かべたままその後をついていった。

家の中に入り直葉は振り返って

 

「ねぇ、今日はどうするの?」

 

和人にそう尋ねてきた。

すると和人は表情を曇らせて視線を逸らす。

 

「今日は……病院に行ってくる」

 

それを聞いて直葉の表情も曇った。

 

「あ……あの人のお見舞いに行くんだね? ユウキさん……だっけ?」

 

悟られないように作り笑いで尋ねる直葉。

和人は苦笑いで頷いて

 

「まぁな……俺に出来るのはそれくらいだからな」

 

そう言い直葉の頭に手を乗せる。

軽く撫でて

 

「今日の朝飯当番は俺だから、スグは先にシャワー浴びてきな」

 

言いながらキッチンに向かっていった。

 

「……うん」

 

頷いた直葉。

その表情は何処か複雑そうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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埼玉県所沢市の総合病院。

和人はここへ訪れていた。

この病院の最上階に彼が訪れるべき病室がある。

ネームプレートには『紺野木綿季』と書かれていた。

カードキーを読み込ませて扉を開く。

病室に入って奥に設置されたベッドまで歩み寄る。

そこには彼が愛して止まない少女が眠っていた。

頭にはナーヴギアが被ってあり、インジケータのLEDが三つ光をともしていた。

 

「来たよ、木綿季」

 

和人は眠っている彼女の、木綿季の傍まで行き、その手を握った。

痩せて細くなったその手を力強く握る和人。

2か月前のあの日、ヒースクリフを倒しゲームをクリアした和人。

目覚めてすぐに、一人の人間が彼のもとに駆け込んできた。

総務省のSAO事件対策の役人らしい。

SAO内での情報提供を条件にし、和人は役人から知りたい事を聞く事にした。

一番に聞いたのは彼が最も知りたかった事。

あの世界で共に生き、愛した少女の居所だ。

その結果、木綿季は所沢市の病院に収容されている事。

そして彼女を始め、約300人のSAOプレイヤーがいまだに目覚めていないという事が判明した。

世間では、行方不明の茅場晶彦の陰謀ではと騒がれている。

そう、和人にとってもSAO事件はまだ終わっていなかったのだ。

握っていた木綿季の手を離して和人は彼女の顔を見る。

眠っているその表情は今にも消えてしまいそうな印象だ。

その時、ドアが開く音が聞こえる。

振り返ると初老の男性と、自分と同じ年頃の少女が立っていた。

男性は和人に気付き

 

「おぉ。桐ヶ谷君、来ていたのかね」

 

声をかけてきた。

 

「こんにちは。お邪魔してます、結城さん」

 

和人は軽く頭を下げて挨拶をした。

男性は笑って

 

「構わないよ。木綿季君も喜んでいるさ」

 

そう返した。

彼の名は結城彰三、総合電子機器メーカー『レクト』の最高責任者である。

同時に、木綿季の身元引受人でもあった。

その隣に居た少女は和人に視線を向けて

 

「父さん、誰なの?」

 

彰三に問いかける。

父さんといったと言う事は彼女は娘なのだろう。

 

「あぁ、すまない。桐ヶ谷君、紹介しよう。私の娘の明日奈だ」

 

「結城明日奈です」

 

紹介された少女、明日奈は丁寧にお辞儀する。

和人は少し照れたように

 

「あ、桐ヶ谷和人です」

 

軽く頭を下げてそう返した。

明日奈は少し笑い、手に持っていた花束を花瓶へと移していく。

彼女が花を移し終えた時、再びドアが開く音が聞こえてきた。

入ってきたのは眼鏡をかけた男性だ。

 

「社長、もうすぐ会議の時間です」

 

「もうそんな時間かね? 丁度いい、君の事も紹介しよう。うちの研究所で主任をしている須郷君だ」

 

「須郷伸之です」

 

紹介された男性、須郷は人好きのする笑みを見せ、手を差し出した。

 

「桐ヶ谷和人……です」

 

和人も自己紹介をし、握手に応じた。

彼の名を聞いた須郷は

 

「桐ヶ谷……そうか! 君があの英雄『キリト』君か!」

 

握手しながら少し興奮気味に尋ねる。

和人は困惑し、彰三に目を向けた。

彰三は苦笑いになって

 

「すまないね。SAOサーバー内部の事は機密だったんだが……彼は私の腹心の息子で、娘の婚約者でもあるから、つい話してしまった」

 

そう答える。

その瞬間、明日奈の表情が陰ったのを和人は見た。

 

「や、やめてください社長。人前でそんな……」

 

対する須郷は照れたように頭を掻いた。

 

「ははは、そう照れずともよい。君は優秀な人だ、私はそう思っているよ」

 

彰三は頷いて言う。

やがて腕時計で時間を確認し

 

「さて、私はそろそろ行こう。桐ヶ谷君、また来てやってくれ」

 

言いながら彰三は病室を後にした。

ドアが閉まると同時に明日奈は表情を切り替えて

 

「……私もそろそろ行きます」

 

そう言って病室を出ようとする。

そんな彼女の肩を須郷は軽く掴んで引き止めた。

 

「つれないねぇ。折角、婚約者同士になったっていうのに」

浮かべた表情は先程見せていたものとは別物だった。

ニヤリと笑うそれは下賤という表現がぴったりだろう。

そんな彼を明日奈は睨みつけて

 

「やめてください。私は貴方を婚約者とは認めてません」

 

そう返す。

すると須郷は肩をすくめるような仕草をして

 

「なにを言ってるのかな? これはもう決まった事だよ。それに、君に断る権利があるとでも?」

 

厭らしい笑みを浮かべて明日奈に問いかけた。

その問いに明日奈は答える事なく、彼の手を振り払い

 

「失礼します!」

 

そう言い残して逃げるように病室を去っていった。

残された和人と須郷。

2人の間にいやな雰囲気が漂う。

それを破るように須郷は溜息を吐いて

 

「やれやれ、みっともないところを見せたねぇ」

 

和人に視線を向けてそう言った。

訝しむような表情で

 

「……失礼だが、本当にあんたは彼女と婚約してるのか? どう見ても彼女は納得していないように見えたぞ?」

 

そう問いかけた。

須郷は大げさに肩をすくめて

 

「君の言う通り彼女は納得してないよ。親同士が決めた事だしね。でも、彼女に断る事は出来ないよ。なぜなら……」

 

言いながら木綿季の眠るベッドに座り

 

「この娘が眠っているから……ね」

 

そう言い和人に視線を向けた。

和人は疑問符を浮かべる。

 

「なにを言ってる? 木綿季が眠り続けている事と、あんた達の婚約に何の関係があるんだ?」

 

さらに問い返す和人。

それを聞いた須郷は再び厭らしい笑みを浮かべて

 

「あるんだなぁこれが。ねぇ、桐ヶ谷君。君はSAOを作った『アーガス』がどうなったか知ってるかい?」

 

問い返す。

和人は須郷を見据えたまま

 

「解散したと聞いた」

 

「そう。事件の補償で莫大な負債を抱えて会社は消滅! SAOサーバーの維

持を委託されたのが、『レクト』のフルダイブ技術研究部門……僕の管轄する部署だ。つまり、木綿季君の命は僕が維持していると言っても過言じゃぁはいんだなぁ」

 

言いながら立ちあがる須郷。

そして、今度は木綿季に視線を移し

 

「木綿季君の家と僕の家は、昔から結城家と家族ぐるみの付き合いをしていてね。明日奈と木綿季君、そして亡くなった彼女の双子の姉の藍子君はとても仲が良かったんだ。まるで本当の姉妹のようにね。そんな彼女がいまだ目覚めずにいる。そしてその木綿季君の命は僕が維持しているんだ。ちょっとくらい対価を要求しても、罰は当たらないだろう?」

 

下卑た笑みを浮かべながらそう言った。

それを聞いた和人は拳を握りしめて

 

「ふざけるな! 自分の欲の為に木綿季の昏睡を利用する気か!」

 

須郷を睨みそう声を荒げる。

無理もない。木綿季は和人が最も愛している女性だ。

そんな彼女を、自身の欲望の為に利用されている。

怒りが込み上げてくるのは必然だった。

対する須郷はまるで気にするでもなく

 

「どう取ってもらっても構わないさ。どの道、明日奈には断る事は出来ないよ。木綿季君が目覚めない限りね」

 

ニヤリと笑って和人に背を向ける。

 

「ま、君も、いつ目覚めるかわからないお姫様をみて愁いているといいさ。英・雄・君?」

 

そう言い捨てて病室を出ていった。

残された和人は拳を強く握りしめていた。

やりきれない想いを抱えたまま和人は病室を後にして病院を出た。

すると、そこには先程病室であった少女、明日奈がいた。

和人に気付いて彼女は

 

「貴方を待ってた……これから時間、ある?」

 

そう問いかける。

戸惑いながらも和人は頷いた。

2人はそのまま病院を後にして、近くの公園へと赴いた。

購入した缶コーヒーを一本、ベンチに座っている明日奈に手渡す。

その横に和人も腰を降ろした。

 

「……さっきはごめんなさい。みっともないところを見せちゃって」

 

そう言って明日奈は和人に頭を下げた。

和人は微妙な表情で

 

「えっと……明日奈さん」

 

そう返す。

すると明日奈は首を横に振って

 

「呼び捨てでいいよ。私も君の事、和人くんって呼ぶから」

 

言いながら笑いかける。

綺麗な笑顔に和人は頬を赤らめて

 

「そ、そうか……じゃぁ、明日奈。君も大変なんだな」

 

そう返した。

明日奈は苦笑いになって

 

「……厭な人だったでしょう? 昔からああなのよ。目上の人の前では猫を被ってるけど、その人たちがいない所ではやりたい放題。私も木綿季も大嫌いな人よ」

 

「確かに……人格は最悪の部類だな……」

 

和人は表情を曇らせてそう言った。

それを見た明日奈は少し慌てて

 

「ご、ごめんね。こんな事を話したくて君を待ってたわけじゃないのに」

 

言いながら頭を下げてくる。

和人は疑問符を浮かべて

 

「なにか俺に聞きたい事でもあるのか?」

 

問い返した。

明日奈は頷いて

 

「聞かせて欲しいんだ……あの世界、SAOの事を。そこで君が木綿季とどう出会って、どんな風に過ごしてきたのかを」

 

真剣な表情でそう答えた。

和人は軽く頭を掻いて

 

「ちょっと長くなるけど……いいかな?」

 

そう尋ねる。

明日奈は真剣な表情で頷いた。

それを確認した和人はゆっくりと、木綿季と過ごした日々の事を語りはじめた。

 

 

 

 




届いたメールに添付された画像。

そこに映っていたものを見て少年は驚愕する。

映っていたのは彼の良く知る少女と瓜二つだった。


次回「アルヴヘイム・オンライン」

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