ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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書きあがっちゃったよ・・・


これにてアインクラッド編終了です。

次はフェアリィダンス編に突入します!

ついにあの人が登場です!!


ではアインクラッド編最終話、始まります!


第二十三話 世界の終焉

 

 

 

閉じた目をゆっくりとキリトは開く。

視界に映ったのは何処までも広がっている黄昏だった。

透明なクリスタルの足場があり、そこにキリトは立っている。

自身の両手や身体を視界に入れる。

映ったのはいつもの黒尽くめの装備だ。

キリトは自身の右手を振ってみると、システム音と共にウインドウが表示された。

しかし、そこにはメニューの一覧はなく、『最終フェイズ実行中』と表示されているだけだった。

メニューを閉じてキリトは息を吐いた─────その時だった。

 

「キリト?」

 

彼の耳に声が届いた。

目を見開き振り返る。

視線の先に居たのは、彼がアインクラッドで出会い、共に戦い、愛した少女だった。

紫がかった長い黒髪を揺らし、ユウキはキリトを見ている。

キリトは苦笑いになって

 

「ごめん……俺も死んじゃったよ」

 

そう告げた。

 

「……バカ!」

 

叫んでユウキは勢いよく駆け出し、キリトに飛びつく。

彼女を受け止めて、温もりを確かめるように抱きしめる。

一頻り抱きあった後、2人は手を繋いで周りを見回した。

 

「ここ……何処だろうね?」

 

ユウキが尋ねるが、キリトも疑問符を浮かべている。

すると、彼らの視界に空に浮かぶ大きな建造物が映った。

円錐形で何層も薄く積み重ねられている。

それこそが、彼らが2年間過ごしてきた鋼鉄の城。

デスゲームの舞台となった、アインクラッドそのものだった。

鋼鉄の城は下の層から音を立てて崩れていく。

2人はそれを無言で眺めていた。

 

「なかなかに絶景だな」

 

不意に声が聞こえてきた。

声のした方に2人が振り向くと、そこには白衣を纏った男性が立っていた。

その人物を見てキリトは

 

「茅場晶彦……」

 

少し驚いて声を出す。

彼こそがナーヴギアとSAOを造り出した人物だ。

はじまりを創った男が今二人の前に立っている。

茅場はそんなキリト達に目を向ける事なく

 

「現在、アーガス本社の地下5階に設置された、SAOメインフレームの全記憶装置がデータの完全消去を行っている。後10分程で、この世界の何もかもが消滅するだろう」

 

崩れゆく浮遊城を眺めながらそう告げてきた。

ユウキは訝しむような表情で

 

「あそこに居た人たちは……どうなったの?」

 

茅場に問いかける。

すると茅場はメニューを開いて

 

「心配には及ばない。今しがた、生き残ったプレイヤー6147人のログアウトが完了した」

 

答えを返す。

 

「死んだ連中は……今までに死んだ4000人はどうなったんだ?」

 

今度はキリトが問いかける。

茅場は目を伏せて

 

「彼らの意識は還ってこない。死者が消え去るのは何処の世界も一緒さ……」

 

そう答えた。

 

「なんで……なんでこんな事をしたんだ?」

 

キリトは一番気になっていた事を、この事件を起こした動機について茅場に尋ねる。

彼はメニューを閉じて

 

「なぜ……か。私も長い間忘れていたよ。何故だろうな。フルダイブ技術の開発……いや、その遥か以前から、私はあの城を、現実世界のあらゆる法則を超越した世界を創り出すことだけを欲していた。そして……その世界の法則をも超えるものを見る事が出来た……」

 

既に半分ほど崩壊している浮遊城を見つめながら

 

「空に浮かぶ城の空想に私がとり憑かれたのは、何歳の頃だったかな……この地上から飛び立って、あの城へ行きたい……長い長い間、それが私の唯一の欲求だった……私はね、キリト君。今でも信じているんだよ。こことは違う別の世界に、あの城が存在していると……」

 

告げられる茅場の想いと願い。

キリトは同情ともいえないような表情で

 

「あぁ……そうだといいな」

 

そう呟いた。

少しの沈黙。

やがて茅場は2人に目を向けて

 

「言い忘れていたな……ゲームクリアおめでとう、キリト君、ユウキ君」

 

穏やかに微笑んでそう言った。

 

「さて……私はそろそろ行くよ」

 

そう言って茅場は背を向ける。

歩き出すと同時に一陣の風が吹いて、霧が舞った。

それが晴れた時、彼の姿は完全に消えていた。

再びキリト達は2人きりになり、クリスタルの床に腰を下ろす。

完全に崩れていく鋼鉄の城。

この空間が消えるまでの僅かな時間を2人は噛みしめるように抱きあった。

しばらくそうして、やがて身体を離し

 

「……お別れ……だな」

 

寂しそうな表情でキリトが言う。

ユウキは首を振って

 

「それは違うよ。ボク達は一つになって消えるんだ……だから、いつまでも一緒だよ」

 

微笑んで言葉を返すユウキ。

が、不意に思い立ったように

 

「ね、最後に聞きたいな。キリトの本当の名前を」

 

そう尋ねる。

キリトは軽く笑い

 

「和人……桐ヶ谷和人。多分、先月で16歳」

 

そう答える。

ユウキも軽く笑って

 

「きりがや……かずと……同い年だったんだね。ボクは紺野木綿季(ゆうき)、16歳だよ」

 

頬を赤く染めてそう告げた。

彼女の名を聞いて

 

「ゆうき……紺野……木綿季……っ……」

 

繰返し呼んで、次第に涙が零れだす。

 

「ごめんっ……一緒に現実に帰るって……約束したのに……俺は……俺はっ……」

 

涙を流し、嗚咽を混じらせながらキリトは言葉を紡ぐ。

ユウキは首を横に振って

「いいんだ……ボク、幸せだった。和人に出会えて、一緒に暮らせて、家族になれて、本当に幸せだったよ……ありがとう、愛してるよ……」

 

涙を浮かべ、それでも微笑みながらユウキはキリトに告げる。

それは彼女の心からの言葉。

キリトはそんなユウキを再び抱き寄せた。

ユウキも彼を抱き返す。

直後、白く大きな光が溢れだす。

それは2人を飲み込むように拡がっていった。

光の中に溶けながら、2人は互いの存在を確かめあうように口付ける。

そのまま彼らは眩く白い光の中に消えていった。

意識が途切れる直前

 

 

 

────────あいして……あいしてるよ……。

 

 

 

愛しい少女の声が、少年の耳に響いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=====================

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞼がゆっくりと開かれる。

擦れた視界に入ったのは見知らぬ天井だった。

一度目を閉じて、もう一度開く。

今度ははっきりと天井が目に映った。

視線を動かし、自分の腕を視界に入れる。

痩せ細り、骨と皮だけなのではないかと思わせるそれは、彼にここが現実だと認識させた。

少年───────桐ヶ谷和人は朧げな意識を覚醒させようと被っているナーヴギアに手を添える。

次の瞬間、彼の脳裏に少女の姿がよぎる。

紫がかった長い黒髪を(なび)かせて、笑いかけてくる愛しい少女の姿を。

直後、彼の瞳からとめどなく涙が溢れてきた。

和人は鈍り、衰えた上体を無理やりに起こす。

被っていたナーヴギアを外すと伸びた黒髪がパサリと靡いた。

身体に付けられた電極の類を外していき、ベッドから降りて立とうとする。

しかし、脚に力が入らない。

その為、点滴用の支柱を掴んで支えにして立ちあがった。

 

「ゆ……う……き……」

 

掠れた声で少女の名を呼びながら和人はゆっくりと脚を踏み出す。

ドアが開かれ、和人は廊下に出た。

 

「ゆ……う……きっ……」

 

力の入らない身体に鞭を打つように和人は少女の名を口にする。

そして、そのままゆっくりと歩き出した。

2年間、共に笑い、泣いて、愛した少女を求めて、和人は現実での一歩を踏み出したのだった。

 

 

 

 

 




デスゲームはクリアされ、囚われた少年は帰ってきた

それから2カ月・・・未だ300人のプレイヤーが目覚めない。

その中には、少年が愛した少女も含まれていた・・・


次回「帰還」

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