ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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書きあげたぜよ!

アインクラッド編も後一話・・・全力で書きあげて見せましょう!!



ではご覧あれ!!


第二十二話 血戦

静寂がボス部屋を支配する。

ヒースクリフの頭上に現れた『Immortal Object』のシステムメッセージ。

周り全ての視線がそれに向けられる。

やがて静寂を破るように

 

「システム的……不死? 団長……これは」

 

ソラが口を開いた。

震える声で問いかけるも、ヒースクリフは応えない。

キリトはエリュシデータを鞘に納め、真直ぐに彼を見据えながら

 

「見ての通りだ。この男のHPはどうあってもイエローまで落ちないよう、システムに保護されてるんだよ」

 

そう言葉を投げかけた。

キリトの言葉に、ボス部屋にいる彼とヒースクリフを除いた全てのプレイヤーから響めきが起る。

ヒースクリフは眉一つ動かさず、響めく彼らを眺めていた。

キリトはそんな彼を鋭く見据えながら

 

「ずっと、この世界に来てから疑問に思っていた……あいつは何処からこの世界を観察し、調整しているんだろうってな。けど、単純な心理を忘れていたよ。どんな子供でも知ってる事さ」

 

一度区切って

 

「他人がやってるRPGを、傍から眺めている程つまらないものはない─────そうだろ? 『茅場晶彦』」

 

そう告げた。

同時にその場に居た全プレイヤーに動揺が奔った。

対するヒースクリフは一度目を伏せて

 

「……何故気付いたのか、参考までに教えてくれるかな?」

 

キリトを見て静かに問う。

 

「最初におかしいと思ったのはデュエルの時だ。あれはどう考えても人間に許された限界速度を超えていた……最後の一瞬、あんた速すぎたんだよ」

 

返ってきた返答を聞いてヒースクリフは微笑を浮かべた。

 

「やはりそうか。あれは私にとって痛恨事だったよ。君のスピードに圧倒されて、ついシステムのオーバーアシストを使ってしまった……」

 

そこまで言って彼は周りを見回し

 

「確かに私は『茅場晶彦』だ! 付け加えて言うならば、この城の最上階『紅玉宮』にて待つ筈だったラストボスでもある」

 

そう声高に宣言したのだ。

それを聞いたプレイヤー達は信じられないものを見るようにざわめいた。

キリトの隣に居たユウキは一歩下がってキリトのコートの袖を軽く掴む。

 

「趣味がいいとは言えないぜ? 最強のプレイヤーが一転して最悪のラスボスか」

 

僅かに怒気の含まれたキリトの言葉。

それに対してヒースクリフは何処か愉しげな笑みを浮かべながら

 

「なかなか良いシナリオだろう? 最終的に私の前に立つのは君と、君の仲間の数名だと予想していた。『二刀流』は全てのプレイヤーの中で最大の反応速度を持つ者に与えられ、『抜剣』はもっとも的確に弱点を突いた攻撃が出来る者に与えられる。それらユニークスキルを持つ者達が、魔王を倒す勇者一行の役割を担う筈だった……しかし、君は私の予想を遥かに超える力を見せた。これも、ネットワークRPGの醍醐味かな?」

 

そう言ってキリトを見る。

その時、彼の後ろに居た血盟騎士団の幹部プレイヤーの一人が立ちあがる。

 

「俺達の忠誠……希望を……よくも……よくもっ……」

 

わなわなと肩を震わせ

 

「よくもぉぉぉぉぉ!!!」

 

絶叫。

腰の両手剣を抜き放って駆け出し、剥き出しの怒りを乗せて得物を振り被った。

渾身の斬撃が彼に振り下ろされる。

しかし、それは届く事はなかった。

ヒースクリフは素早くウインドウを開き、システム操作を行ったのだ。

直後、幹部プレイヤーの動きが止まり、そのまま地面に倒れ込んだ。

HPバーには麻痺のアイコンが付いている。

彼が倒れる直前、ソラも納剣し駆け出していた。

だが、それよりも速くヒースクリフはシステム操作を行う。

 

「っぐ!」

 

同じように麻痺になり倒れるソラ。

次いでエギルとクライン、そしてユウキも麻痺を付加されその場へと倒れ込む。

キリトとヒースクリフを除いた、ボス部屋にいる全てのプレイヤーが強制麻痺状態となってしまっていた。

キリトは倒れたユウキを支えるように抱えて

 

「どうするつもりだ? この場で全員殺して隠蔽する気か?」

 

ヒースクリフを睨み、問いかけた。

対する彼は微笑を浮かべて

 

「まさか。そんな理不尽な真似はしないさ」

 

首を横に振り

 

「こうなっては致し方ない。私は最上階の『紅玉宮』にて、君達の到着を待つとしよう。ここまで育てた血盟騎士団や攻略組プレイヤーをそのまま投げ出すのは不本意だが、なぁに、君達ならきっと辿り着けるさ。だが、その前に……」

 

キリトを見据え言葉を切り、剣の収まった盾を床に突く。

 

「キリト君。君には私の正体を看破した報酬を与えなくては。チャンスをあげよう。この場で私と一対一で戦うチャンスを」

 

彼の言葉にキリトは眼を見開いた。

 

「無論、不死属性は解除する。私に勝てばゲームはクリアされ、生き残った全プレイヤーがログアウト出来る。どうかな?」

微笑を浮かべたまま、ヒースクリフはキリトに問いかけた。

対するキリトは思案し始める。

そんな彼に

 

「キリトっ……駄目だよ、今は退こうっ……態勢を、立て直さないと……」

 

ユウキが訴えかける。

しかし、彼にその言葉は聞こえていなかった。

キリトの思考は今までの、このデスゲームが始まった事から思い出されていた。

脳裏に浮かぶ、悲鳴と怒号をあげる人々。

HPを全損し、散っていたプレイヤー達。

慢心していた故に護れなかった、黒猫団のメンバーと……サチの姿。

涙を流しながら消えていったユイ。

そして……自身の最愛の少女が苦しみ、悲しむ姿。

奥歯を噛締めて

 

「ふざけるなっ……」

 

キリトは怒りを込めて呟いた。

顔を上げてヒースクリフを見据えるキリト。

 

「いいぜ、決着をつけてやる」

 

そう答えるキリトにヒースクリフは満足そうに笑った。

 

「キリト……死なないよね?」

 

不安そうに彼を見て問うユウキ。

キリトは安心させるように頷いて

 

「あぁ、必ず勝つよ。勝って全てを終わらせる」

 

そう告げた。

ユウキも頷き

 

「わかった……信じてるね?」

 

そう言って薄く笑う。

キリトはユウキをそっと床に寝かせて立ち上がり、ヒースクリフに向けて歩を進めた。

愛剣のエリュシデータとダークリパルサーを抜いて彼を見据えた。

その時

 

「キリトォ────────!!!!」

 

「いくな! キリト!」

 

背後からクラインとソラの声が響いてきた。

キリトは少し振り返り、まずエギルを見る。

少し笑って

 

「エギル。今まで剣士クラスのサポートサンキューな。知ってたぜ? 儲けのほとんどを中層プレイヤーの育成につぎ込んでた事」

 

そう言った。

エギルは眼を見開いてキリトを見る。

 

「ソラ。お前とは一層からの付き合いだったな。俺なんかと普通に接してくれて嬉しかったよ。ソラと友達になれて本当によかった」

 

次にソラを見てそう告げた。

 

「何を言ってるんだ! 今生の別れみたいな事を言わないでくれ!」

 

彼には珍しく、泣きそうな表情で訴えるソラ。

キリトは苦笑いを浮かべて、次にクラインに視線を向けた。

 

「クライン……あの日、お前を……置いていって、悪かった……ずっと、後悔していた」

 

そう言ってキリトは顔を少し伏せる。

彼の言葉を聞いたクラインは目からボロボロと涙を零し

 

「キリト! テメェ! 謝んじゃねぇ! 今謝るんじゃねぇよ!! 許さねぇぞ……向こうで飯の一つでも奢ってからじゃないと許さねぇからなぁ!!!」

 

大声で叫ぶ。

キリトは顔を上げ

 

「わかった、向こう側でな」

 

そう言って笑いかける。

そして最後にユウキを見た。

不安そうに彼を見えるユウキ。

キリトは視線を彼女からヒースクリフに向けて

 

「悪いが、一つ頼みがある」

 

「ほう? 何かね?」

 

キリトは一度息を突いて

 

「簡単に負けるつもりはないが、もし俺が死んだら、少しの間でいい……ユウキが自殺できないように計らってくれ」

 

自身の願いを言う。

 

「……よかろう」

 

ヒースクリフは頷く。

それを聞いたユウキは

 

「なんだよそれ……いやだ! そんなのいやだよ!! キリトぉ!!」

 

涙を浮かべてキリトに叫んだ。

キリトは振り返らない。

正面ヒースクリフはシステム操作を行っている。

彼の頭上に黄色のシステムウインドウが現れる。

表示されたのは『Changed intomortal object』

不死属性の解除を意味していた。

同時に彼のHPバーがイエローゾーンに突入した。

剣を抜いてヒースクリフは戦闘態勢になる。

キリトも二刀を構えた。

 

(これはデュエルじゃない……単純な殺し合いだ……)

 

思考が巡る。

 

(そうだ……俺は今からこの男を……殺す!!)

 

思考がそこで区切られ、キリトは地を蹴り駆け出した。

一瞬で間を詰めて斬撃を繰り出す。

それは盾により防がれた。

瞬間、2人は連撃を繰り出した。

高速と高速。

凄まじい速さの斬撃の応酬で、フロア全体に激しい金属の打ち付け合う音が響き渡る。

 

「おぉぉ!!」

 

咆哮と共にキリトは更なる連撃を繰り出した。

盾で受け止めながら、ヒースクリフは斬撃を返す。

繰り出されるキリトの剣撃は全てアシストのかかってない普通の斬撃だ。

 

(『二刀流』をデザインしたのは奴だ! システム上で作られた連続技は全て読まれる! ソードスキルを使わずに、自分だけの力で倒すしかない!!)

 

思考を巡らせながらキリトはさらに速力を上げていく。

 

(速く! もっと速く!!)

 

以前のデュエルより速い剣撃。

しかし、ヒースクリフは冷静に──────否、無感情でキリトの高速連撃を盾で捌いていく。

その姿にキリトは言い知れぬ恐怖を感じ取った。

何処まで速力を上げても彼の表情は崩れない。

恐怖は焦りへと変わりつつあった。

その時、ヒースクリフの刺突がキリトの頬を掠めた。

眼を見開くキリト。

直後に険しい表情になり

 

「あぁぁぁ!!!」

 

彼の二刀が澄色のライトエフェクトが纏いだす。

放たれたのは二刀流最上位ソードスキル『ジ・イクリプス』

光速ともいえる速さで繰り出される27連撃の大技だ。

それを見たヒースクリフは勝利を確信したように笑みを浮かべ、キリトはそこで自分が最大のミスを犯した事に気付く。

彼は狙っていたのだ────キリトが焦りから上位ソードスキルを発動させるのを。

完全に発動してしまったソードスキルはキャンセルが出来ない。

さらに上位の大技を使った後は長い硬直時間が課せられてしまう。

その隙を彼は、ヒースクリフは決して逃さないだろう。

繰り出されるコロナの爆発のような斬撃の応酬を、ヒースクリフは単純作業(ルーティン)を熟すように盾で防いでいく。

 

(ごめん……ユウキ、君だけは……生きてくれ!)

 

思考を巡らせながらシステムアシストのままに動くキリト。

やがて最後の一撃が繰り出される。

だが、それも盾により防がれた。

耐久値の限界が来たのか、ダークリパルサーの刀身は衝撃によって折れ、ポリゴン片となって砕け散り、大技の技後硬直でキリトは動けない。

勝利を確信したヒースクリフは剣を高々に振り上げた。

 

「さらばだ、キリト君!」

 

言いながら赤いライトエフェクトを纏った刃を振り下ろすヒースクリフ。

迫り来る刃に死を覚悟し、キリトは目を閉じかけた───その時だった。

そんな彼の前に影が差す。

それは人影。

気付いて見開いたキリトの目に映ったのは紫がかった長い黒髪。

彼のパートナーであるユウキが大きく両腕を広げて割って入ってきたのだ。

そしてヒースクリフの一撃が容赦なく────彼女を深く切り裂いた。

倒れるユウキを咄嗟に受け止めるキリト。

視界に入った彼女のHPバーは勢いよく減少し、ゼロになった。

 

「ユウキ……? うそだ……こんな……こんなの……」

 

目の前で起きた事が信じられずキリトは力なく呟く。

直後にユウキの身体が光に包まれていき、キリトに視線を向け、涙を浮かべたまま微笑んで

 

「ごめんね……さよなら……」

 

そう言った瞬間、ユウキの身体はポリゴン片となり四散した。

彼女の愛剣、クリスキャリバーが床に落ち、ガランという落下音だけがボス部屋に虚しく響き渡った。

キリトは自身の腕から零れるポリゴン片を必死にかき集めるが、それは無駄な行為だった。

膝を突いてキリトは崩れ落ちる。

地についた左手に一欠片のポリゴン片が落ち、砕ける。

崩れ落ちたキリトを見下ろしながら

 

「驚いたな。麻痺から回復する手段はなかった筈だが……こんな事もあるかな」

 

ヒースクリフは少々芝居がかったようにそう言った。

それを聞いたキリトはゆっくりと傍に落ちたクリスキャリバーに手を伸ばす。

鞘から抜いて、エリュシデータを右手に持ち立ちあがった。

エリュシデータを振りかぶり、ヒースクリフに向けて振る。

しかし、それは斬撃とはとても呼べないものだ。

軽く避けてヒースクリフは憐れむような溜息を吐く。

そして、彼のエリュシデータを自身の剣で弾き飛ばした。

それを見てキリトの身体が脱力した直後──────ヒースクリフの剣が彼の胴を貫いた。

視界が霞んでいき、ヒースクリフの姿がおぼろげになる。

諦めたようにキリトは目を閉じていく。

真っ暗になったそこには自身のHPバーが浮かんでいた。

イエローからレッドに落ちていき、尚も減少していく。

 

(これで……もう……)

 

諦めの思考が彼を支配し、HPが残り数ドットとなった。

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────信じてるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

声が聞こえた。

それは幻聴なのかもしれない。

でも、間違えるはずもない。

キリトが愛し、護ると、現実に帰すと誓った少女の声。

直後にHPはゼロとなり、赤いシステムウインドウが表示される。

 

『You are dead』

 

───────死の宣告。

 

途端にキリトの身体は光に包まれてポリゴン片となり……四散しなかった。

 

───────まだだ……

 

消えながらもブレるキリトの身体。

目の前で起こっている現象にヒースクリフは動揺している。

 

 

 

────────────まだだ!

 

 

 

左手に力を込めて、一歩、また一歩と足を踏み出していく。

驚愕の表情をしてヒースクリフは一歩後退る。

 

「う……ぐ……うぉぉぉぉぁぁぁあ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!!!」」

 

最後の力を振り絞り、咆哮を上げながらキリトはクリスキャリバーを突きだした。

それが彼の胸に突き刺さるその瞬間、ヒースクリフは一瞬笑みを見せ───────刃が彼の胸を貫いた。

目を閉じてそれを受け入れるヒースクリフ。

HPが勢いよく減少し、ゼロになった。

それを見届けたキリトは左手のクリスキャリバーに目を向けて

 

 

 

 

───────これで……いいかい?

 

 

 

 

思考を巡らせた。

応えるようにクリスキャリバーの刀身がが輝き、直後にキリトとヒースクリフの身体は光に包まれ、同時にポリゴン片となって砕け散った。

それはボス部屋から勢いよく外へと流れていく。

同時に無機質なアナウンスが、アインクラッド全層に響き渡った。

 

 

『11月7日午後14時55分。ゲームはクリアされました。ゲームはクリアされました』

 

 

 

 

 

 

 




崩れゆく鋼鉄の城

1人の男との廻合

彼は語る・・・自身が夢見た世界のことを


次回「世界の終焉」

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