ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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今回は幕間のお話です。

ソラ君が中心になります。

後のお話の伏線にもなりますです。

ではどうぞご覧ください




幕間の物語 空色と赤色

2024年10月27日 第55層 グランザム

 

血盟騎士団本部、最上階の会議室。

ここに、2人の男性プレイヤーが向かい合っていた。

一人は団長であるヒースクリフ。

もう一人は副団長のソラだ。

 

「その報告に間違いはないのかね?」

 

手を組んだ状態でヒースクリフは目の前のソラに問いかけた。

ソラは頷き

 

「はい。『笑う棺桶』の残党が、キリト達を狙っています。主犯はおそらく……『赤眼のザザ』でしょう」

 

険しい表情で答えを返した。

ヒースクリフは息を吐いて

 

「そうか……では、この件は君に一任しよう」

 

そう言ってソラに視線を向けた。

疑問符を浮かべるソラに

 

「キリト君とユウキ君は君の友人だ。ならば、君に任せるのが一番だと判断したのだが?」

 

そう言って返すヒースクリフ。

ソラは一度目を伏せて

 

「了解しました、ヒースクリフ団長」

 

そう言って会議室を後にした。

事の起こりはキリト達が一時退団してからすぐの事だった。

ソラのもとに一通のメッセージが届いたのだ。

差出人はアルゴ。

『鼠』と呼ばれる凄腕の情報屋で通っている女性プレイヤーだ。

届いた内容はこうだった。

 

『キー坊とユーちゃんがレッドに狙われていル。何か知らないカ?』

 

内容を確認したソラは急ぎ、アルゴに情報を求めた。

彼女と話して得た情報はほんの僅か、キリト達が狙われている事。彼らのホームに奇襲をかける事。実行の日時。

それを聞いた彼は一つの推論を立てた。

これは恐らく何かの罠だと。

だが、可能性は低い──────というよりは確証はない。

何より只の憶測にギルドが動いてくれるとは思えない。

ヒースクリフは確かに人望厚い人物だ。

しかし、彼は決して情には流されない冷徹さも持ち合わせている。

確かな事実がなければ動いてはくれない。

そう踏んだソラは、この事を報告する事で自分だけで動けるように仕向けた。

憶測の報告、そして自分がキリト達の友人である事。

それを理由にヒースクリフは自分にこの件を一任してもらったのだ。

そして、情報を掴みソラが動き出して4日後。

彼の推測は、確信へと変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2024年11月1日 第22層 

 

 

すっかり暗くなり、月明かりが辺りを照らしており、木々が月の光を遮る中、ソラは一人、森の中に居た。

伏せていた目を開き。

 

「……居るんだろう? 出てこい」

 

そう口を開いて視線を右側の木立に向ける。

ジャリッと地面を踏む音が聞こえ、やがて人影が現れた。

フードマントを被った男性プレイヤー。

深く被ったフードからは髑髏を模したマスクが薄く見える。

 

「やはり、来たか」

 

プレイヤーはソラを見据えて口を開く。

ソラはプレイヤーに向かい合い

 

「あぁ、お前の目論見どおりにな。『赤眼のザザ』」

 

そう返した。

フードのプレイヤー、ザザは軽く笑い

 

「罠だと、わかっていて、来たという、事か?」

 

「お前達がキリト達を狙っているという情報をアルゴに流す事で、僕は疑念を抱いて動き出す。だが、何処からその情報が出たのかをたどれば、答えは一つだけになった。最初からお前はキリト達を狙ってなんかいない。情報を流したのは僕がそれを鵜呑みにしてやってきたところを狙う為……そうだろう?」

 

ソラはザザに向かい、自身の推論を口にした。

 

「その通りだ。俺は、『黒の剣士』も、『絶剣』にも、興味は、ない」

 

ザザは言いながら腰に装備しているエストックを抜いて

 

「俺は、ずっとお前を、殺したかった、『刃雷』……貴様を!」

 

駆けだした。

ソラも愛剣を抜き放ち迎え撃った。

互いに振った刃が交差する。

小気味いい金属の打ち合う音が森に中に響いた。

 

「討伐戦の時は逃がしたが……今度は逃がさない! 牢獄へ送らせてもらうぞ! 『赤眼のザザ』!!」

 

「出来る、ものなら、やってみろ!」

 

次の瞬間、双方から剣戟の応酬が繰り広げられる。

その速さは互角。

ソラの剣をザザは紙一重で回避し、ザザの剣をソラは『抜剣』スキルによって装備状態の鞘で受け流す。

何度か打ち合った後、互いに距離をとる。

出方を窺うように2人は得物を構えて動かない。

が、ソラが剣を鞘に納める。

納剣状態になり、ザザに向かい駆け出した。

ザザはエストックを、駆けてくるソラに突き出して迎撃する。

それをソラは身体を沈めるようにして躱し、ザザの懐に潜り込んだ。

剣の柄に手を添えて

 

「はぁ!」

 

ソードスキルが発動する。

碧のライトエフェクトを纏った刃が放剣された。

『抜剣』の突撃型ソードスキル『狼臥瞬閃』

勢いよく駆け抜けて対象の真横をすり抜けると同時に抜剣し、重い一撃を与えるソードスキルだ。

その速さは通常のソードスキルとは比べ物にならない。

だが、ザザは瞬時に突き出したエストックを引き戻し、それでソラの斬撃を防御したのだ。

激しい衝撃音が響き渡る。

ソラはブレーキをかけて停止し、体勢をザザに向けた。

瞬間、青い光がソラの目に映った。

勢いよく駆けてくるザザのエストックがライトエフェクトを纏ったのだ。

放たれたのは『フラッシング・ペネトレイター』、細剣上位の突撃型ソードスキルだ。

ソニックブームにも似た衝撃音を発しながら、圧倒的な加速度を利用した突進がソラに襲いくる。

ソラはそれを身体を捻るようにして躱した。

『抜剣』のソードスキルは技後硬直が通常の半分で済む。

それ故にソラは動く事が出来、回避する事が出来たのだ。

 

「今の、タイミング、躱すのは、不可能に、近い筈だ。鞘で、防御といい、ユニークスキルか?」

 

「そうだ」

 

ザザの問い掛けにソラは短く答えた。

 

「今度は逃がさないと言った筈だ。僕の全力を以って、牢獄に送ってやる!」

 

そう言って剣を構えるソラ。

直後、ザザがニヤリと笑ったように見えた。

フードとマスクで隠れている為、確信ではないがソラにはそう見えた。

瞬間、ソラは身体を右側に捻る。

視線を向けると刃が閃を描いていた。

視界に映ったのはもう一人のプレイヤー。

おそらくはザザの部下だろう。

闇にまぎれ、ザザに気をとられているソラを背後から狙ったのだ。

再び斬りかかるプレイヤー。

その斬撃を鞘で受け止め弾き、そのまま彼の左足を切り裂いた。

 

「ぐぁぁ!!」

 

部位切断状態になり、プレイヤーはHPを減らしながら地面に倒れ込む。

倒れたプレイヤーを一瞥した後、ソラは再びザザに視線を向けた。

 

「ほぅ、流石に、気付いたか?」

 

「そこまでして『殺したい』のか? どうして命を刈り取る事に執着する? 

その手の剣はそんな事の為にしか振るえないのか?」

 

ザザを睨むようにしてソラは言う。

対するザザは只、無言で耳を傾けていた。

 

「剣はどう足掻いても人を『殺す』凶器だ。それは否定はしない。だけど、使い方次第では『護る』事も出来る筈だ! どうしてお前は……いや、『笑う棺桶(ラフィン・コフィン)』はその剣を『護る』事ではなく『殺す』事に使う!!」

 

ソラの声が静かな森に響き渡る。

少しの静寂。

それを破るように

 

「くくく、くくくく、はははははは!」

 

ザザは笑って歩き出した。

歩を進めて辿り着いたのは、倒れた部下のプレイヤーのもと。

 

「ザ、ザザ様?」

 

疑問符を受かべ、目の前に立つザザを見るプレイヤー。

その次の瞬間、ザザのエストックがプレイヤーの胴を貫いた。

 

「ぎゃぁぁぁ!!」

 

それは残っていた彼のHPを一瞬で刈り取る。

プレイヤーはポリゴン片となって砕け散った。

ソラは目の前で起こった事に呆然とするも、すぐに正気に戻り

 

「な……なにを! 彼はお前の仲間じゃないのか!?」

 

そう叫び、問いかけた。

問いかけにザザは

 

「仲間? 違う、こいつは、『駒』だ。使えない、『駒』を処分した、それだけ、だろう?」

 

冷やかに答える。

 

「お前は、剣は『護る』為にも、使えると、言ったな? それは、有り得ない、剣は只の、『殺し』の道具に、すぎない」

 

「ザザぁ!!」

 

返ってきた返答にソラは激昂した。

自身の考えを否定された事ではない、彼に付き従っていた者を『駒』と道具のように言い捨てた事に怒りが爆発したのだ。

一瞬で納剣し、駆けだすソラ。

ザザは反応しバックステップで後退する。

しかし、ソラは速かった。

後退することなど意味がないと言わんばかりに間合いが詰められる。

そして、ソードスキルが発動した。

『飛燕一閃』─────高速で剣を抜き、垂直に斬りつける、『抜剣』単発型基本ソードスキルだ。

その一閃はザザの右腕を切り裂いた。

HPが減少し、部位切断状態になるザザ。

斬り落とされた右腕はポリゴン片となって砕け散り、握られていたエストックが地に落ちる。

それを拾おうと左手を伸ばした。

が、それは叶わなかった。

ソラの剣が素早く彼の両足を切断したのだ。

さらにザザはHPを減らして、地面に倒れ込んだ。

仰向けになって倒れたザザにソラは剣先を突き付ける。

 

「……殺さ、ないのか?」

 

問いかけるザザ。

ソラは首を縦に振り

 

「言っただろう? 牢獄に送ると」

そう返した。

 

するとザザは軽く笑って

 

「相変わらず、優しいな……『先輩』」

 

そう言いながら、残った左手でフードを少し上げて、髑髏を模したマスクをとる。

曝け出した素顔を見てソラは目を見開いた。

 

「き……君は……」

 

そう呟いて、すぐに首を横に振った。

剣を収めて、アイテムストレージから回廊結晶をオブジェクト化する。

それを発動し

 

「これで牢獄に飛んでもらう……ゲームクリアの日まで、そこで大人しくしているんだ」

 

そう言ってザザの左手を掴んだ。

そのままコリドーに入れようとした。

その時だった。

 

「これで終わった、訳じゃない。あの人が、終わらせない。お前達は、真の、絶望を、目の当たりに、するのさ。俺も必ず、またお前達の、前に、現れてやる」

 

ザザは言葉を紡いだ。

ソラはなにも言わずに彼をコリドーに入れて、牢獄へと送った。

コリドーが閉じて、辺りに静寂さが戻る。

 

「……そうか……君が、『赤眼のザザ』だったのか……『新川』……」

 

そう呟いて、ソラはヒースクリフにメッセージを送る。

しばらくして彼から返信が返ってきた。

内容を確認し、ソラは転移結晶を取り出してグランザムへと転移していった。

こうしてザザは牢獄へと送られ、クリアの日までそこで過ごす事になる。

そして、ソラはまだ知らなかった。

いや知る由もなかった。

再び彼と再会し、剣を交える日が来る事を。

 

 

 




前書きでも書いたように、今回の話は後の伏線にもなりますです

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