ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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書き上がったのでうpします。

ユイちゃんのお話はアニメの方をベースに進めるつもりです。

ではどうぞぉ



第十七話 朝露の少女

2024年10月24日 第55層 グランザム

 

血盟騎士団本部、最上階の会議室。

キリト達は先日の出来事の報告に訪れていた。

半円形の大きなテーブルの中央にヒースクリフが手を組んで着席している。

その隣にはソラが立っていた。

キリト達からの報告を聞き終わり。ヒースクリフは一息ついて

 

「今回の件、全てはクラディールの人格を見抜けなかった私の責任だ。すまなかった、キリト君、ユウキ君」

 

そう言って謝罪してみせる。

2人はどうにも腑に落ちない表情をしていた。

何故ならヒースクリフからの謝罪に誠意を感じなかったからだ。

事務的な、社交辞令とも取れる謝罪の仕方に、命の危機に晒されたキリト達が眉を挟めるのも無理はない。

そんな彼らを見て

 

「団長。彼らを一時退団させてはどうでしょう?」

 

ソラが突然の提案をしてきた。

 

「何故だね?」

 

「彼らは今まで、アインクラッド攻略に大きな貢献をしてきています。彼らがいなければ、我々もここまで来られなかったかもしれません。なので一度前線を離れてもらい、休養を取ってもらってはと思いましたので」

 

問いかけにソラはそう言って返す。

キリト達は少々驚いた様子でソラに視線を向けた。

無言で頷くソラ。

ヒースクリフは一度目を伏せて

 

「……いいだろう。一時退団を許可しよう」

 

そう言って返した。

表情が明るくなるキリト達。

しかし

 

「だが、君達はすぐに戦場に戻ってくるだろう」

 

ヒースクリフは2人に向かいそう告げた。

浮かべられた意味深長な笑みにキリト達は訝しむ。

だが、ヒースクリフはそれ以上はなにも言わずに席を立ち、会議室を後にした。

 

2024年10月30日 第22層 

 

キリト達が前線を離れて数日。

2人は22層の森と湖面に囲まれたログハウスを新居とし、穏やかな生活を送っていた。

ベッドの上で静かにキリトは寝息をたてている。

無邪気な寝顔を浮かべているキリトをユウキは微笑ましげに眺めている。

 

「かわいいなぁ……いつもはちょっとスレてるっていうか……ふてぶてしいのにねぇ……キリトって年上なのかな? それとも年下かなぁ?」

 

言いながらユウキは寝ているキリトの頬に軽く口付けて

 

「大好きだよキリト……ずっと一緒にいようね……」

 

そう呟く。

その直後、キリトは少し唸るような声を出し眼を開けた。

それに驚いたユウキはとび跳ねるように下がり

 

「お、おはようキリト! ……今の……聞いてた?」

 

「おはよう……今のって……?」

 

問いかけに欠伸をしながら答えるキリト。

ユウキは慌てて手を振って

 

「な、なんでもないよ! ね、今日はどこに遊びに行こうか?」

 

「うぅーん……昨日も一昨日も、結構遊んだろ……?」

 

ユウキの問い掛けにキリトは頭を掻きながら、眠たそうに言う。

するとユウキは頬を膨らませて

 

「むぅ……キリトはボクと一緒に出掛けたくないの?」

 

そう言ってきた。

キリトは少し思案し、ふと何かを閃いて

 

「そうだなぁ。面白い場所があるぜ?」

 

ニヤリと笑いそう言った。

出かける支度をし、2人はログハウスを出て森の道を歩いていく。

 

「ね、どこに行くの?」

 

「着いてからのお楽しみってな」

 

問いかけにキリトはそう言って歩を進める。

 

「ふぅん……ね、キリト」

 

「なんだ?」

 

呼びかけられてキリトは立ち止る。

 

「えい!」

 

そんな彼の腕にユウキは抱きついてきた。

 

「な、なんだよ?」

 

突然の行動にキリトは戸惑う。

対するユウキは笑顔で

 

「腕組むくらい別にいいでしょ? ボク達は夫婦なんだから」

 

そう言ってきた。

頬は少し赤みを帯びている。

キリトも頬を赤く染めて

 

「……そうだな」

 

そう答える。

そのまま2人は湖の道を歩いていき、森の中へと入っていった。

キリトは空いている腕でメニューを出してマップで現在位置を確認した。

確認し終えてキリトはメニューを閉じる。

 

「実は昨日、村で聞いたんだが……この森の深くなってる所……出るんだって」

 

不意にキリトは口を開く。

 

「? 出るって?」

 

ユウキは疑問符を浮かべて首を傾げた。

キリトはニヤリと笑い

 

「……幽霊」

 

そう呟いた。

それを聞いたユウキは

 

「アストラル系のモンスターとかじゃなくって……?」

 

そう言いながら組んでいる腕に少し力が入る。

恐らくソレ系の話が苦手なのだろうと察したキリトはニヤリと笑い

 

「ちゃうちゃう、本物さ。そんでこの辺りがそうらしいんだよ……」

 

「ぇ……えぅ……」

 

キリトの返答を聞いてさらに力を込めて彼にしがみつくユウキ。

 

「一週間くらい前、木工職人のプレイヤーがこの辺に木材を集めに来ていたらしい。夢中で集めている内に暗くなってきちゃってさ……慌てて帰ろうとした時、ちょっと離れた木の陰から……ちらっと、白いものが」

 

無言でキリトの話を聞くユウキ。

不意に草木がすれる音がする。

 

「モンスターなのか、なんなのか……白い影がゆっくりと木立の向こうを歩いていって─────」

 

「キ、キリト……」

 

そこまで言った時、ユウキがキリトの腕を引っ張る。

 

「ん?」

 

「あ、あれ……」

 

青ざめた表情でユウキは指をさした。

少し離れた木立の間─────そこに、何かがいた。

長い黒髪に白いワンピースを着た少女だ。

なにも言わず真直ぐ前だけを見ている。

 

「う……嘘だろ?」

 

流石のキリトも顔が青ざめていった。

その瞬間、少女はキリト達の方に視線を向ける。

ビクリと2人は身震いし一歩下がろうとした、その時だった。

少女は力なくその場に倒れてしまった。

それを見た2人は一度顔を見合わせて、少女のもとへと駆けだした。

キリトが倒れた少女を抱き起こす。

 

「……これは……妙だな……」

 

訝しげな顔でキリトは呟いた。

ユウキもその言葉の意味に気付いたようで

 

「カーソルが出ないね?」

 

アインクラッドに存在している動的なオブジェクトは基本カーソルが出る。

それはプレイヤー、モンスター、NPCに至るまで、ターゲットにしたら必ず表示されて、その色も識別できる。

しかし、タゲを取っているにもかかわらず、少女にはカーソルが出ないのだ。

 

「……とにかく、このままには出来ないよね?」

 

「とりあえず、家に連れて帰ろう。目を覚ませば色々解るだろうしな」

 

言いながらキリトは少女を背負う。

そのまま少女を連れて2人はログハウスへと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ログハウスに帰ってきたキリト達は少女を寝室へと運ぶ。

ベッドに寝かせて、毛布を掛けてあげた。

そのままもう一つのベッドに2人は並んで座る。

 

「確かなのは……この子はNPCじゃないって事だけだな」

 

「そうだね。もしNPCなら、キリトが抱き上げた瞬間にハラスメント警告が出るもんね」

 

キリトの言葉に同意しながらユウキはそう言った。

彼の肩に自身の頭を預けるように寄り添って

 

「……どうして、こんな小さい子がSAOに……?」

 

問いかける様に口を開く。

キリトは難しい顔をして

 

「わからないな……家族とログインしてるんだろうけど……確証は持てない」

 

そう返した。

 

「意識……戻るよね?」

 

不安そうな声でユウキは再び問う。

 

「身体が消滅してないって事は、ナーヴギアとの間に信号のやりとりはある。睡眠に近い状態のはずさ……きっと目を覚ますよ」

 

安心させるように、ユウキの肩を抱いて優しくキリトは答えを返した。

 

「……うん」

 

未だ眠り続けている少女を見て、ユウキは頷く。

少女の目が覚めぬまま夜が訪れた。

少女がベッドを使っている為、もう一つのベッドでキリト達は寝ていた。

しかし、ユウキは眠れないようで

 

「ね……キリト……?」

 

呼びかけるが返事はない。

キリトは規則正しい寝息を立てていた。

ユウキは呆れた表情をして溜息を吐き、ベッドから降りる。

そのまま隣のベッドで眠り続けている少女に目を向けた。

目を覚まさない少女を見つめながら

 

(もし、この子がたった独りでSAOに来ていたなら……この子は今までたった独りで……)

 

少女の髪をユウキは撫でて、少女の寝ているベッドに入る。

そのまま少女を抱きしめるように

 

「おやすみ……明日は目が覚めるといいね……」

 

自身の眼を閉じて眠りについた。

そして翌日。

目を覚ましたユウキはふと視線を感じ、その方向に目を向けた。

視界に入ったのは目を覚ました少女。

大きな瞳がジッとユウキを見つめていた。

驚いたユウキは飛び起きて

 

「キ、キリト! 起きて!」

 

隣のベッドで寝ているキリトに呼びかける。

応じるようにキリトはのそりと起き上がり

 

「うぅ~……おはよう……どうした……?」

 

眠たそうに目を擦りながらそう返してきた。

 

「早く! こっちきて!」

 

未だに急かしてくるユウキにキリトは疑問符を浮かべながらベッドを下りる。

ふと視線を向けて、少女が目を覚ました事に気がついた。

 

「起きたのか!」

 

「よかったぁ……大丈夫? 自分がどうなったかわかる?」

 

ユウキは少女の上体を優しく抱き起こして問いかけた。

問いかけに少女はゆっくりと首を横に振った。

 

「お名前は? 言える?」

 

問われた少女は少し考える素振りを見せて

 

「ぁ……ぅ……な……なまえ……わたしの……なまえ……ぁ、ゆ……い。ゆい、それが……なまえ……」

 

たどたどしい口調で少女はユイと名乗る。

 

「ユイちゃんかぁ……いい名前だね? ボクはユウキ。この人はキリトだよ」

 

ユウキはユイと名乗った少女に優しい口調で自己紹介をした。

 

「ゆ……き? ……きぃ……と?」

 

首を傾げながら少女は途切れ途切れで言葉を紡ぐ。

 

「ユイちゃんはどうして森に居たの? 何処かに、お父さんやお母さんはいないのかなぁ?」

 

そう問われユイは少し考えるが

 

「わ……かん……ない……なんにも……わかんない……」

 

首を振って答える。

それを聞いたユウキの表情が曇っていき、気付いたキリトがベッドに座り

 

「やぁ、ユイちゃん。ユイって呼んでいいかい?」

 

そう尋ねる。

ユイは小さく頷いた。

 

「そっか。じゃぁ、ユイも俺の事をキリトって呼んでくれ」

 

「き……と……」

 

「キリトだよ。キ、リ、ト」

 

「……きぃと」

 

少し難しい顔をした後、ユイはそう呼びかけた。

キリトは苦笑いして

 

「ちょっと難しかったかな。ユイの呼びやすい呼び方でいいよ?」

 

そう優しく言った。

するとユイは少し考え込んで

 

「……ぱぱ」

 

キリトに向かいユイは言う。

当の彼は予想外の呼び方に戸惑っていた。

そしてユイはユウキの方を向いて

 

「ゆぅきは……まま」

 

そう言った。

それを聞いたユウキは動揺して表情が曇る。

そんな彼女を、ユイは不安そうに見ていた。

ユウキは優しく微笑んで安心させるように言った。

 

「そうだよ。ママだよ、ユイちゃん」

 

そう言ってユウキは微笑んだ。

ユイは笑顔をみせて

 

「まま! ぱぱ!」

 

嬉しそうに彼女に抱きついてきた。

そんなユイをユウキは抱きあげる。

 

「お腹空いたね? ご飯にしよう!」

 

「うん!」

 

キリト達はユイを連れてリビングに降りる。

ユウキが食事を作っている間、キリトはソファーに座って新聞に目を通していた。

そんな彼をユイは隣で不思議そうに見ている。

そうこうしていると、キリト用の食事が運ばれてくる。

赤色の香味ソースがかかったサンドイッチだ。

キリトはそれを一つ手に取り口に運ぶ。

その様子もまた彼女は不思議そうに見ていた。

そして今度はユイの食事が運ばれてきた。

 

「ユイちゃんはこっちね?」

 

そう言ってユイの目の前に置かれたのはパンケーキ。

かかったシロップからは甘い香りが漂っている。

しかし、ユイはキリトの持っているサンドイッチに興味があるのか、そちらばかり見ていた。

 

「ユイ。これはな、すごーく辛いぞ?」

 

それを聞いたユイは少し考える素振りを見せてから

 

「ぱぱとおなじのがいい」

 

そう言って両手を広げるように差し出してくる。

するとキリトはニヤリと笑い

 

「そうか、そこまでの覚悟があるなら俺は止めん。何事も経験だ」

 

そう言って、皿に残っていたもう一つのサンドイッチをユイに渡す。

そんな様子をユウキはハラハラしながら見ていた。

ユイは受け取ったサンドイッチを小さな口をめいっぱい開けて頬張る。

何度か咀嚼するうちに表情が難しくなっていく。

やがて喉を鳴らして飲み込み

 

「おいしい」

 

そう言って笑ってみせた。

 

「なかなか根性のある奴だ。晩飯は激辛フルコースに挑戦しような?」

 

キリトは笑いながらユイの頭を撫でる。

目の前のソファーに座っていたユウキは腰に両手をあてて

 

「調子に乗らないの! そんなの作らないからね!」

 

全力で提案を却下する。

 

「だってさ」

 

「だってさ」

 

キリトの言葉をユイが真似て、2人に笑いが起きる。

その様子を見ていたユウキもいつの間にか微笑んでいた。

やがて、ユイは気持ちよさそうに椅子に座って寝息を立て始めた。

そんなユイを見ながらキリト達は表情を少し曇らせていた。

 

「どう思う?」

 

ユウキが問いかけてくる。

キリトは首を振って

 

「記憶はないようだな……いや、それより……」

 

ユイに視線を向けた。

 

「まるで赤ちゃんみたいになってる……ごめんキリト、ボク、どうしたらいいかわかんないよぉ……」

 

涙眼になりながらユウキは言った。

キリトは微笑みながら

 

「ユイが記憶を取り戻すまで、面倒見たいって思ってるんだろ?」

 

そう尋ねた。

ユウキは涙を拭いながら頷いた。

 

「ジレンマだよな……攻略に戻らなければ、その分ユイが解放されるのも遅れる……」

 

言いながらキリトの脳裏にヒースクリフの姿が過った。

あの時の意味深長な笑みはこういう事を表していたのだろうか?と

 

「とにかく、出来る事をしよう。ユイの装備からすると、日常的にフィールドに出ていたとは思えない。はじまりの街で、親か兄弟を探してみよう」

 

「……そうだね」

 

キリトの提案に頷くユウキ。

そんな彼女の手をキリトは握って

 

「ユイと別れたくないのは、俺も一緒さ」

 

優しく言葉をかける。

 

「キリト……」

 

「なんて言うのかな……ほんのちょっとの間だけど、ユイがいる事で、ここが本当の家になったみたいな……そんな気がしてさ」

 

キリトの言葉にユウキは小さく頷く。

 

「でも二度と会えなくなる訳じゃない。それに家族がいるなら、今頃心配してるかもしれないしな」

 

「うん。ユイちゃんが起きたら、はじまりの街に行こう」

 

ユウキはソファーから立ちあがってそう言った。

 

「一応、すぐ武装が出来るようにはしておこう。あそこは『軍』のテリトリーだからな」

 

「気は抜けないね」

 

そう言いながら互いに頷く。

そこへ

 

「ぱぱ……まま……」

 

そう呟きながら幸せそうに笑うユイ。

彼女の笑顔を見てキリト達も微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




すべてが終わり始まった場所

少女の家族を捜して彼らは再びそこに足を踏み入れた

そこでは『軍』による圧政が横行していた

次回「アインクラッド解放軍」

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