ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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やっと書き終えた。

戦闘シーンは書いてて楽しいが同時にめっちゃ疲れます。

それではどうぞご覧ください



第十四話 青眼の悪魔

2024年10月18日 第74層 迷宮区

 

転移門広場でのトラブルを経て、キリト達は迷宮区へと訪れていた。

道中、いくらかの戦闘をこなしマッピングを進めていく。

やがて長い一本道だけになり、3人はそこを歩いていた。

 

「ねぇ、あれ!」

 

ユウキが前方の大きな門に気付いて指をさす。

視界に入った禍々しい大門。

開いていないにもかかわらず、大きな威圧感を彼らは感じていた。

 

「ボス部屋……かな?」

 

「間違いなくな」

 

ソラの問いにキリトが答えた。

 

「どうする? 覗いてみる?」

 

微妙な表情でユウキは彼らに問いかけた。

 

「そうだな……ボスの姿くらい見ておかないと対策も立てられないし」

 

「一応、転移結晶を準備しておこう。後は奥までいかないように」

 

キリトの言葉に2人は頷いた。

それぞれの手に転移結晶が握られる。

 

「いいな……開けるぞ?」

 

ユウキとソラが頷いたのを確認し、キリトは力を込めて扉を押した。

ゆっくりと扉が開かれていく。

中には暗闇が広がっており、奥の方は真っ暗で何も確認が出来ない。

キリト達は身構えながら少しずつ歩を進めた。

その刹那、入口から奥まで炎が灯っていき中を照らしだした。

彼らが視線を向けた先には巨大な姿が映る。

その巨体の頭上にカーソルと名前が表示された。

 

The Gleam Eyes(青眼の悪魔)

 

ボスの証であるTheを含む名前。

視認したそのボスの姿は異形だった。

体躯こそ鍛え上げられた巨人のようだが頭は山羊のそれだった。

頭部の両側からはねじ曲がった角が生えている。

腰から伸びる尻尾の先は蛇の頭のようだった。

そしてその眼は禍々しい青い輝きを放っていた。

まさに名は体を表す───青眼の悪魔というべき存在だ。

その姿にキリト達は言葉が出ない。

そんな彼らを余所に、悪魔は右手に持つ巨大な剣をゆっくり振り上げる。

直後、大きな口が開き

 

「グォォォオァァァァァァァ!!!!」

 

凄まじい咆哮が放たれた。

それにキリト達は気圧されて

 

「「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

叫び声を上げながら全速力でその場から逃げだした。

AGIを全開にして逃げ切った先は安全エリア。

彼らは壁際に座り込みながら大きく息を切らしている。

 

「あ……あれは苦労しそうだねぇ……」

 

ユウキが息を整えながら口を開いた。

 

「あぁ……パッと見で武装は大型剣一つだけど、特殊攻撃ありだろうな」

 

「前衛に堅い人を集めて、スイッチを繰り返すしかない感じだね」

 

ユウキの言葉に2人も言いながら息を整える。

 

「盾装備の奴が10人は欲しいとこだな……」

 

「大型の盾装備プレイヤーを募集出来るか、戻ったら団長に相談してみるよ」

 

「あぁ、頼む」

 

「……盾装備かぁ……ねぇ、キリトにソラ」

 

不意にユウキが問いかけた。

 

「君達、なんか隠し事してない?」

 

「は?」

 

「え?」

 

それを聞いたキリト達はギョッとする。

ユウキは2人をジト目で見ながら

 

「ボクが言うのもなんだけど……片手剣の最大のメリットって、盾を持てる事じゃない? ボクは剣速が落ちるから持たないし、スタイル優先って人もいるけどさ……2人はなんか違うよね?」

 

さらに追及をかけた。

2人はなにも言えず、ただただ目を逸らすばかりだ。

そんな彼らを暫くジーッと見ていたがやがて肩をすくめながら

 

「……ま、いっか! スキルの詮索はマナー違反だもんね」

 

ユウキは苦笑いで追及を止める。

キリト達はホッと息を吐いた。

 

「すまない、ユウキ……今は言えないんだ」

 

「時期が来たら、ちゃんと説明するから……ごめんな?」

 

ユウキに向かい謝るキリト達。

彼女は笑って

うん、その時を楽しみにしてるね。それじゃ、ちょっと遅いけどご飯にしよっか」

 

そう言いながらメニューを開きバスケットをオブジェクト化する。

 

「はい、キリトの分。手袋外してから食べてね?」

 

包みを差し出しながらユウキは言う。

頷いてキリトは手袋を外し包みを受け取った。

 

「で、これはソラの分ね」

 

次はソラに包みを差し出した。

 

「いいのかい? ユウキの分がなくなるんじゃ?」

 

問いかけるソラ。

そんな彼に、ユウキは笑いながら言う。

 

「大丈夫だよ。キリトが足りないって言った時の為に多めに作っといたから」

 

それを聞いてソラは

 

「じゃあ、いただくよ」

 

キリト同様に手袋を外して包みを受け取った。

包みを開くと出てきたのはサンドイッチだった。

香ばしく焼かれた肉とレタスに似た野菜を挟んである。

スパイスの香りが食欲をそそった。

2人はそれを口にする。

 

「……うまい!」

 

「ああ、それに何か懐かしい味だな!」

 

そう言って2人は夢中でサンドイッチにかぶりつく。

 

「えへへ~」

 

照れたように笑いながらユウキもサンドイッチを口にした。

 

「しかし、この味……どうやって?」

 

キリトが食べながら尋ねる。

 

「熟練度が700を超えたあたりからね、現実の調味料の再現に挑戦してたんだ」

 

言いながらユウキは食べる手を止め、バスケットから小さな小瓶を2つ取り出す。

 

「手、出して」

 

そう言ってユウキは紫の液体が入った小瓶の蓋を開ける。

差し出された手、それぞれに液体を少し垂らした。

キリト達はそれを舐めてみる。

その瞬間、懐かしい味が口に広がったのを感じた。

 

「これは、マヨネーズ!」

 

ソラは驚きの声を上げた。

 

「うん、グログアの種とシュブルの葉、カリム水で作ったんだぁ。で、こっちがアビルパ豆とサグの葉に、ウーラフィッシュの骨で作ったヤツ」

 

今度は黄緑色の液体が入った小瓶を開ける。

それを先程と同じように彼らの手に少し垂らし、それを舐める。

するとキリトは目を見開き

 

「こ、この懐かしい味は……醤油だ!!」

 

ユウキに目を向けて叫んだ。

そんなキリトにユウキは笑う。

 

「サンドイッチのソースはこれで作ったんだよ」

 

「凄いぞユウキ! これ売りだしたら確実に儲かるぞ!」

 

興奮気味に言うキリト。

ユウキは照れたように笑い

 

「そ、そうかなぁ……」

 

「いや、やっぱり駄目だ……俺の分がなくなったら困る!」

 

真剣な表情で言うキリト。

その姿にユウキは溜息を吐く。

 

「もう、キリトは意地汚いなぁ……ちゃんと君の分は別に作るよ」

 

言いながら彼から目を逸らした。

そんな2人をソラは微笑ましそうに見ている。

その時だった。

安全地帯に新たなプレイヤー達が足を踏み入れた。

侍の鎧に似たような防具に身を包み、悪趣味なバンダナを頭に巻いている。

他のメンバーもバンダナ以外は似たような装備だ。

やってきたのは『風林火山』の面々だった。

迷宮区を歩き疲れたのだろう表情で歩いている。

するとバンダナの男、クラインがキリト達に気付き

 

「お、キリトにユウキちゃんじゃねぇか! しばらくだなぁ!!」

 

言いながら走り寄ってくる。

 

「久しぶり、クラインさん」

 

笑顔で答えるユウキ。

対してキリトは一瞬目を逸らし

 

「よう、まだ生きてたかクライン」

 

そう言って返した。

 

「相変わらず愛想のねぇ野郎だな? ユウキちゃんも苦労すんだろ?」

 

「あはは、もう慣れちゃった」

 

クラインの問い掛けにユウキは苦笑いで答える。

 

「ん? 後ろの奴は……どっかで見たような?」

 

彼らの後ろに居るソラの存在に気付いてクラインは首をひねる。

 

「あぁ……ボス戦で顔合わせてるだろうけど紹介するよ。こいつはギルド『風林火山』のクライン。で、こっちが『血盟騎士団』のソラだ」

 

そう言ってキリトは互いを紹介する。

ソラは一歩前に出て

 

「血盟騎士団所属のソラです。若輩ですが副団長をやらせてもらってます」

 

言いながら手を差し出す。

 

「おぉ! あんたがあの『刃雷』さんか!! 俺はクラインってんだ。よろしくな!」

 

クラインは人好きのする笑顔で握手に応じた。

対するソラは苦笑いになっている。

 

「はは……二つ名で呼ばれるのはちょっと勘弁してほしいですね」

 

二つ名で呼ばれた事が複雑なようだ。

キリトとユウキはその光景を苦笑いで眺めている。

直後、遠くから多数の鎧の音が聞こえてきた。

 

「キリト、誰か来る」

ユウキに言われ、彼らは視線を向けた。

視線の先に映ったのは似たような金属鎧を纏った集団だった。

 

「あれは……『軍』か?」

 

「第一層を支配してる連中がなんで最前線に……」

 

ソラとクラインが訝しげな表情で言う。

『軍』とは『アインクラッド解放軍』と言うギルドの集団だ。

もっともこのギルド名は外部のプレイヤーが揶揄的な意味で呼んだものなのだが。

 

「休めぇ!!」

 

リーダーらしき男がそう叫ぶ。

途端に残りのプレイヤーはその場に崩れ落ちるように座り込んだ。

その様子を見ているキリト達にリーダーの男が近づいてくる。

彼らの前で立ち止まり

 

「私は、『アインクラッド解放軍』所属、コーバッツ中佐だ」

 

そう名乗りを上げる。

それに対し

 

「キリトだ」

短くキリトは答えた。

 

「君達はこの先も攻略しているのか?」

 

軽く頷いて、コーバッツは横柄な態度で問いかける。

 

「……ボス部屋の前まではマッピングしてある」

 

それを聞いたコーバッツは右手を差し出し

 

「では、そのマップデータを提供してもらおう」

 

そう言った。

横柄かつ不躾な要求。

 

「んな……タダで提供しろだぁ! テメェ、マッピングする苦労が解って言ってんのか!!」

 

「一体何の権限で言っているんですか!」

 

これに対し、クラインとソラが抗議の声を上げる。

すると

 

「我々は! 情報と資源を平等に分配し、秩序を維持するのと共に! 一刻も早くこの世界から全プレイヤーを解放する為に戦っている!! ゆえに、諸君らが協力するのは当然の義務である!!!」

 

声を張り上げて主張してきた。

あまりに傲岸不遜。

『軍』は第25層のボス戦で壊滅的な打撃をこうむって以来、前線には出てきておらず、第1層に拠点を構えて勢力拡大を優先する動きしか見せていなかった。

にも関わらず、迷宮区に潜りマッピングする事もせず、いきなりマップデータを差し出せと言う。

そんな『軍』の在り方に、今まで命がけで戦ってきたクライン達が憤りを覚えてしまうのも無理はない。

今にも飛び掛かりそうな雰囲気の彼らをキリトは手で制する。

 

「やめろって。どうせ街に戻ったら公開するデータだ。構わないさ」

 

言いながらキリトはメニュー操作を開始した。

 

「おいおい、そりゃ人が好過ぎるぜ、キリトよぉ」

 

「マップデータで商売する気はないさ」

 

クラインの言葉にキリトはそう答えながらマップデータを送信する。

データを受け取ったコーバッツはそれを確認し

 

「協力感謝する」

 

とてもそう思ってない様子でキリトに言い背を向けた。

そんな彼を引き止めるように

 

「ボスにちょっかい出すならやめといた方がいいぜ?」

 

それを聞いたコーバッツはわずかにキリトに視線を向ける。

 

「それは私が判断する」

 

「……さっきちょっと見てきたが、生半可な人数でどうこうなる相手じゃない。仲間も消耗してるみたいじゃないか」

 

その言葉にコーバッツは勢いよく振り向く。

 

「私の『部下』達は、この程度で音を上げるほど軟弱ではない!!! 貴様ら! さっさと立たんかぁ!!」

 

苛立ちを含んだように叫び、彼らを立たせた。

再び隊列をつくり、安全地帯を後にする『軍』。

それを見送りながら

 

「大丈夫かよ……?」

 

クラインが呟く。

 

「流石にぶっつけ本番はないって信じたいけど……」

 

それに対しユウキは不安そうに返した。

 

「……一応、見に行ってみるか?」

 

そう言ってキリトはクライン達を見る。

視界に映った彼らは笑っていた。

キリトは溜息を吐いて

 

「どっちがお人よしだよ」

 

そう言って歩き出す。

その後をユウキやソラ、クライン達が続いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『軍』の後を追ってキリト達は迷宮の奥にあるボス部屋を目指していた。

道中、いくらか戦闘が起こったが特に苦労もなく進んでいく。

ある程度進んでみたが『軍』の姿は見えなかった。

 

「この先はもうボスの部屋だけだろ? ひょっとしてアイテムで帰ったんじゃね?」

 

クラインがそう尋ねる。

しかし、キリトはどこか難しい表情をしていた。

その時だった。

 

「ぅわぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

奥の方から悲鳴が聞こえてくる。

一度だけではない、断続的にそれは続く。

キリトとユウキは頷いて走り出す。

 

「お、おい!」

 

それを見てクライン達も追おうとする。

しかし、直後にモンスターがPOPしてきてしまった。

ソラは剣を抜き

 

「急いで倒しましょう!」

 

「お、おうさ!」

 

答えるとクラインも構えた。

そんな彼らを余所にキリト達は全速で駆けていく。

やがてボス部屋が見えてきた。

扉は開かれ、中からは未だに悲鳴が聞こえてきた。

キリト達は入り口で立ち止まり

 

「おい、大丈夫か……!!」

 

中の様子を見て愕然とする。

陣形が崩され、『軍』のプレイヤー達は恐怖に駆られ逃げ回っている。

それを追いまわすように青眼の悪魔は巨剣を振り回していた。

キリトは数を確認してみる。

先程見た時よりも2人ほど足りなかった。

 

「早く転移結晶を使え!!」

 

嫌な予感を振り払うようにキリトは叫ぶ。

しかし、プレイヤーの一人が結晶を手に持ちながら

 

「だ、駄目だ! 結晶が使えない!!」

 

そう叫んだ。

それを聞いて2人は眼を見開く。

 

「キリト、これって!」

 

結晶(クリスタル)無効化空間(エリア)……っ!」

 

そう呟いたキリトの脳裏にあの日の出来事がよぎった。

次々と消えていく彼らを。

サチの姿を。

 

「なにをしている!! 我々解放軍に撤退などありえん! 戦え! 戦うのだ!!」

 

その時リーダーのコーバッツが怒号を上げる。

これだけの被害が出しておきながら、撤退の意志など微塵もないようだ。

 

「バカ野郎……!」

 

思わずそう呟くキリト。

そうこうしているとソラ達が追いついてきた。

 

「キリト! これはどうなってやがる!」

 

中の様子を見てクラインは叫んだ。

 

「このままじゃまずい……キリト!」

 

「ここでは結晶が使えない。俺達が飛び込めば退路は拓けるかもしれないが……」

 

ソラとクラインの言葉にキリトは言いながら思考を巡らせる。

 

(結晶の使えない空間で2人居なくなったという事は『死んだ』って事になる……どうする? どうすれば……?!)

 

その直後

 

「全員……突撃ぃ!!」

 

瀕死の2人を置いて、残り8人を4人二組の左右に分けて突進させる。

コーバッツは真正面から悪魔に飛び込んだ。

 

「や、やめろ!」

 

キリトは叫ぶがそれは意味をなさなかった。

悪魔は大きく息を吸い、眩いブレスを吹き出す。

その威力は突撃してきたプレイヤー達を簡単に吹き飛ばしてしまうほどだ。

体勢を崩されたところを巨剣が叩きつけられ、幾人かのプレイヤーのHPがさらに減少した。

そして一人のプレイヤーがすくい上げられるように斬り飛ばされた。

高く飛ばされそのプレイヤーはキリト達のもとに落下してくる。

コーバッツだった。

 

「しっかりしろ!」

 

キリトは急いで駆け寄る。

直後に彼が装備していた頭部のメットが音を立てて砕け散る。

晒されたその素顔には絶望の色が浮かんでいた。

見開かれた目から涙が零れ落ち

 

「有り得ない……」

 

そう呟いた瞬間、彼の身体はポリゴン片となって四散した。

キリト達は悔しさからが奥歯を噛み締めるような表情をしていた。

その刹那、再び奥から悲鳴が聞こえてくる。

悪魔は残ったプレイヤーにその兇刃を振り上げていた。

 

「だめ……だめだよ……」

 

ユウキは震えながら愛剣を握り

 

「駄目だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

勢いよく抜き放ち駆けだした。

 

「ユウキ!! くそ!!」

 

止める間もなく走り出したユウキを追うようにキリトも走り出す。

 

「こうなったらやるしかない!」

 

「くそ! どうとでもなりやがれ!!」

 

ソラとクライン、『風林火山』のメンバーも後に続いた。

悪魔の兇刃が振り下ろされる直前、ユウキのソードスキル『ヴォーパルストライク』が発動する。

凄まじいスピードで一気に間を詰め、その刃が悪魔に直撃した。

それに反応し悪魔は勢いよく、振り向きながら巨剣を振り下ろしてきた。

技後硬直でユウキは動けない。

その刃が直撃すると思ったその瞬間。

 

「おおぉ!!」

 

黒い刃がそれを受け止めた。

軌道をずらしてユウキへの直撃を避けたのだ。

彼女の硬直が解けたのを確認し

 

「ユウキ、一旦下がれ!!」

 

キリトは叫んだ。

ユウキはその場から後ろに退避する。

悪魔は再び巨剣を振り回してきた。

キリトはそれを愛剣、エリュシデータで受け止める。

凄まじい衝撃が走り、彼のHPが減少した。

 

「キリト! スイッチ!!」

 

ソラの声に反応し、キリトは巨剣を弾き返す。

飛び込んできたソラの『シャープネイル』が放たれた。

隙の少ない三連斬撃。

獣の爪痕のような斬撃に悪魔のHPは減少する。

しかし、それもわずかだ。

壁仕様のプレイヤーがいない上に相手との火力差がキリト達を苦しめる。

クライン達、『風林火山』は負傷したプレイヤー達を退避させていた。

 

「キリト! ソラ!」

 

ユウキの声が聞こえる。

負傷者の退避が完了したのだろう。

しかし、悪魔はキリト達に後退させる隙を与えない。

繰り出される斬撃をキリトはバックステップで躱し

 

(もう……アレを使うしか……でも……)

 

思考を巡らせてユウキ達に視線を向ける。

再び脳裏に浮かぶのはあの日の光景。

目の前で、モンスターの群れによって無残に散っていった、あの娘達の姿。

直後に巨剣が勢いよく振り下ろされてきた。

それをキリトは受け流しながら

 

(迷ってる場合じゃない!!)

 

「ユウキ! クライン!! 頼む10秒持ちこたえてくれ!!」

 

決意したように叫んだ。

 

「了解!!」

 

「お、おうよ!!」

 

ユウキ達は剣を構えて悪魔に向かい駆け出した。

 

「ソラ!」

 

「わかってる!」

 

互いにメニューを開き、スキルのセットアップを素早く行った。

繰り出される斬撃をユウキは躱し、クラインは刀で受け止めて弾く。

 

「よし! いいぞ!!」

 

キリトの叫びを聞いてクラインは後退し、ユウキは巨剣を受け止め弾き返した。

 

「スイッチ!」

 

そうしてキリトがユウキの横をすり抜けるように駆ける。

悪魔は弾かれた巨剣を構えなおし、再び振り下ろしてきた。

直後、キリトが左手を背に持っていく。

その手には何かが握られた。

次の瞬間、悪魔は剣ごと身体を弾き飛ばされた。

エリュシデータで巨剣を弾き、左手に握られたもので悪魔を攻撃したのだ。

それを見てユウキ達は驚愕する。

彼の左手にはもう一本の剣が握られていたのだ。

翡翠に輝く刀身『ダークリパルサー』

鍛冶師リズベットが創り出した最高の剣。

押し返された身体を持ち直し、悪魔は再び巨剣をキリトの頭上目掛けて振り下ろす。

それを二本の剣を交差させてキリトは受け止める。

勢いよく弾き返し

 

「ソラ! スイッチ!!」

 

キリトを横切ってソラが悪魔に向かい駆けた。

しかし、その右手に剣は握られていない。

左手の持つ鞘に納められていた。

構う事なくソラは悪魔の正面で停止し、剣の柄に手をかけた。

 

「斬覇……雷閃刃!!!」

 

その刹那、納められていた刃が眩い白のライトエフェクトを纏いながら抜き放たれた。

それは目にも止まらぬ速さで悪魔を水平に斬りつける。

そこから身体を捻るように一回転し、バツの字を描くように2連撃が続いた。

しかし、そこで終わったわけではない。

 

「はぁぁ!!!」

 

地を蹴りすれ違いざまに超高速の斬り払いが悪魔に叩きこまれたのだ。

それにより大きく削られる悪魔のHP。

 

「キリト! 決めてくれ!!」

 

ソラが叫ぶ。

それに応えるようにキリトは二刀を構えた。

 

「スターバースト……ストリーム!!!」

 

黒と翡翠の剣が蒼いライトエフェクトを纏う。

直後に凄まじい連撃が始まった。

縦に、横に、斜めに、水平に、クロスを描くようにそれは放たれる。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

咆哮と共にキリトは凄まじい速度で悪魔を斬りつけていった。

しかし、悪魔は斬撃の嵐を受けながらもキリトに攻撃を繰り出す。

連撃の途中なのでキリトは避ける事は出来ない。

HPを減らしながら

 

(速く……もっと速く!!!)

 

思考を巡らせさらに速度を上げて悪魔を斬り続けた。

そして最後の一撃が放たれる。

それは大きく悪魔を斬り裂き大きくHPを削ぎ落した。

光に包まれ、悪魔はポリゴン片となって砕け散った。

直後に『Congratulations!』と目の前に表示された。

 

「……おわった……のか?」

 

小さく呟きキリトは自身のHPを確認する。

レッドゾーンに突入し残りは数ドット。

それを見終わって気が抜けたようにキリトはよろめく。

そしてそのまま地面へと倒れこんでしまった。

 

 

 

 

 

 




湧き上がる歓声

向かい合うのは黒と紅

鋭き二刀と強靭なる盾がぶつかり合う

次回「黒と紅の剣舞」

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