ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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よし!書き終えたぜ!

しかし、本編よりクラなんとかさんがキモイ気が・・・


まぁ、いいや!気にせずいってみよう!!



第十三話 交差する剣戟

2024年10月17日 第50層 アルゲード

 

デスゲームが開始されて2年近くが経過した。

現在の最前線は74層。

出現するモンスターも段々と手強くなってきて、いっそう気の抜けない状況が続いている。

この日、キリト達は消耗品の補充を行っていた。

現在はエギルの店であらかた買い物をし、帰ろうとしていた。

そんな彼らに

 

「これはこれは、ユウキ殿」

 

否、ユウキに向かい声をかける人物がいた。

2人は振り返り、その人物を確認する。

途端にユウキは困った表情になった。

 

「クラディールさん……」

 

クラディールと呼ばれた男性プレイヤー。

白と赤を基調とした装備に身を包んでおり、一目で血盟騎士団の所属だと解る風貌だ。

 

「な、何か用ですか?」

 

用件を尋ねるユウキ。

その表情は、何故彼がここに居るのか解っているかのようだった。

 

「もちろん、ユウキ殿を勧誘に来たのです。血盟騎士団へのギルド加入を勧めに」

 

当然と言わんばかりにクラディールは答えた。

ユウキの表情は益々困った様になる。

 

(こいつがユウキの言ってた血盟騎士団の勧誘係か。この様子だと、俺の知らない所で結構な勧誘を受けたんだろうなぁ……ユウキの奴、げんなりしてるよ)

 

2人を見比べキリトは思考を巡らせた。

その横でユウキは

 

「前にも言ったけど、ボクはどこのギルドにも入らないよ。この人とコンビ組んでるし」

 

言いながらキリトを指差す。

差された指に導かれるようにクラディールは視線をキリトに向けた。

するとその表情はやや険しくなる。

 

「ほぅ……貴様が『黒の剣士』か」

 

「どうも……」

 

クラディールの言葉にキリトはぶっきらぼうな感じで返す。

 

「見たところ、噂程の実力は感じんな」

 

そう言ってクラディールは見下すような目でキリトを見る。

それに対し、ユウキはムッとした表情になり

 

「そんな事ないよ。貴方よりLVは高いし、実力だって本物だもん」

 

そう言って返す。

しかし

 

「確かにそのようですな。ですがそれも何か汚い手でも使っているのでは? 何せあの『ビーター』なのですから」

 

クラディールは評価を改めない。

どころか、キリトをさらに侮辱するような事を口走る。

 

『ビーター』

 

第一層攻略時、βテスターとビギナーの間に溝を生まないためにキリトが行った演技によりついた蔑称だ。

あれから2年近くが経とうとしている。

しかし、未だに『ビーター』に対する偏見と侮蔑は消えてはいなかった。

キリトはただ溜息を吐く。

だが、ユウキは流石に黙っていられないようで

 

「ちょっと……」

 

と口を開きかけた、その時

 

「なにをしている。クラディール」

 

クラディールの後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

彼が振り返ればそこに居たのは

 

「ソラ……副団長」

 

キリト達の友人にして血盟騎士団・副団長のソラだった。

ソラはクラディールに歩み寄り

 

「またユウキを勧誘しているのか? 断っている人に対し、あまりしつこく勧誘行為をするなといった筈だが?」

 

険しい顔でそう問いかける。

クラディールは一礼し

 

「申し訳ありません」

 

そう答えた。

 

「とりあえず、今日はもう本部に戻るんだ。それと……キリトは僕の大切な友人だ。あまり侮辱しないでくれ」

 

ソラは少々怒気の含んだ声で言う。

するとクラディールは

 

「これは失礼しました、以後気をつけます。ではユウキ殿、今度はよいお返事を期待していますので」

 

そう一礼し、その場を去っていった。

その姿が見えなくなってユウキは一息つく。

ソラは2人に歩み寄り

 

「キリト、ユウキ。ウチの団員が迷惑をかけたね。本当にすまない」

 

そう言って謝罪する。

 

「俺は気にしてないけど……」

 

言いながらキリトはユウキを見る。

 

「あの人しつこいんだよね……何度も断ってるのにさ」

 

げんなりしたようにユウキは言った。

クラディールがユウキを勧誘に来始めたのは半月ほど前かららしい。

それも、キリトがいない時に限ってである。

何度も入団はしないと断っているが蛇のようなしつこさで勧誘は続いていたという事だ。

 

「僕の監督不行届きだな、返す言葉もないよ」

 

申し訳なさそうに言うソラ。

ユウキは慌てて手を振って

 

「ソラは悪くないよ! 気にしないで?」

 

「ありがとう。そう言ってもらえると気が楽だよ」

 

「で、今更だけど、俺達に何か用があったのか?」

 

キリトがソラに尋ねた。

彼の所属する血盟騎士団のギルド本部は55層『グランザム』にある。

そして、副団長であるソラはギルドのあらゆる業務を抱えている筈だ。

その彼が一人でここに居るのは極めて稀な事である。

となれば、キリト達に用があってきたという結論になる。

思い出した様に

 

「あぁ、そうだった。実は……」

 

メインメニューを開き、操作していく。

それを可視モードにして2人に見せた。

 

「普段の労いと、さっきのお詫びも兼ねて、これを2人にプレゼントしようと思ってね」

 

アイテム欄の一つを指差す。

そこに表示されている物を見て

 

「ちょ! こここここ、これって! ラグーラビットの肉!!」

 

「S級のレアアイテムじゃないか!! どうしたんだよこんなの!!!」

 

2人は心底驚いたように声を上げた。

 

「昨日74層のフィールドを探索してたら、偶然ラグーラビットを見つけてね。運よく仕留められたんだ」

 

笑顔で答えるソラ。

ラグーラビットはエンカウント率の低いモンスターで有名だ。

運よく遭遇しても持ち前のすばしっこさですぐに逃げてしまう。

だが、仕留められればS級の高級食材をドロップする。

かなり高額で売れるため、ラグーを探しまわっているプレイヤーも数が多いとか。

 

「僕は料理スキルを取得してないからね。それで、以前ユウキが料理スキルを取っているって聞いたのを思い出したんだ。今、熟練度はどのくらいかな?」

 

そう問われたユウキは

 

「ふっふっふ~。実はこの間、コンプリートしたんだよ!」

 

誇らしげにそう言った。

 

「それなら、ラグーの肉も扱えるね」

 

「でもいいの? 本当に貰っちゃって」

 

ユウキは遠慮気味に問いかけた。

ソラは笑って

 

「さっき言った通り、普段の労いとお詫びも兼ねてのプレゼントだからね。お金にも困ってないし、構わないよ」

 

「そっか。ありがとうソラ!」

 

そうして数万コルはするであろう高級アイテムが、たったの1コルでトレードされてしまった。

商人系のプレイヤーが見ていたら大激怒していだろう光景である。

トレードを終えてソラは

 

「じゃぁ、僕はこれで」

 

そう言って帰ろうとする。

そんな彼を

 

「待てよソラ。ついでだから飯食っていけよ」

 

キリトが引き止めた。

 

「いや……いいのかい?」

 

「流石に高級食材をタダで貰ってなにも返さないのはフェアじゃないからな。ユウキ、構わないだろ?」

 

「もっちろん! 腕によりをかけて調理するよ!」

 

遠慮気味に問うソラに2人は笑顔で返す。

そんな二人に彼も笑顔になり

 

「なら、御馳走になろうかな」

 

そう返した。

 

「じゃぁ、ボク達のホームに行こうか! って言うか早く行こう!」

 

「だな。周りの視線が痛い」

 

言われてソラは辺りを見回す。

周囲では中層のプレイヤー達が彼らを見てヒソヒソと話していた。

 

「おい、あれって血盟騎士団の……」

 

「間違いねぇ、『刃雷』だ」

 

「やだ、かっこいい……」

 

小声なのだろうがその会話はキリト達にしっかりと聞こえている。

『刃雷』とはソラについた二つ名である。

彼の剣技はとにかく正確さが売りだ。

その一撃は的確に相手の弱点を突く。

まるで雷のような鋭い刃。

それ故に『刃雷』という二つ名がつけられたのだ。

もっとも、彼もキリト達と同様二つ名で呼ばれるのは好んでいないが。

 

「い、行こうか。兎にも角にもすぐに行こう」

 

苦笑いでソラは2人に移動を急かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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プレイヤーホームに戻ったキリト達。

ラグーの肉をオブジェクト化して

 

「さてと。どんな料理にするの?」

 

普段着に着替えたユウキが2人に問いかける。

 

「シェフのお任せコースで頼む」

 

そう言うキリトにソラも頷いている。

 

「じゃぁ、シチューにしようか! 『ラグー』は『煮込む』っていうからね」

 

言いながらユウキはシチューに入れる材料をオブジェクト化する。

 

「調理するから、2人とも座って待っててね♪」

 

包丁を握り、ユウキは手際よく調理を開始した。

材料に刃が当たると軽快な音を立てて、一口サイズに切れていく。

ラグーの肉を含む、全ての材料を切り終えて、それを鍋に入れていく。

そのままコンロにかけてタイマーをセットした。

 

「本当は色々手順があるんだけど、SAOの料理は簡略化されてるからねぇ」

 

そう言いながら今度は別の材料をオブジェクト化するユウキ。

シチューが完成するまでの間に付け合わせでも作るのだろう。

そんな彼女を見ながら

 

「楽しそうにやってるね」

 

「だな……」

 

男2人は微笑ましそうに見ていた。

やがて、タイマーが鳴りシチューが完成した事を告げる。

ユウキは鍋を取り、テーブルの中央へと運んだ。

にっこり笑って蓋を開けると、鼻腔を擽る香りが広がった。

野菜のうまみがたっぷり出た濃厚なソースの中には大ぶりなラグーの肉が転がっている。

それを3人分の皿に盛り、手合わせしてシチューを口に頬張った。

口の中に広がった何とも言えない旨味に3人は無言でシチューを食べ進める。

鍋が空になるまで食べきり

 

「美味かった~……」

 

「至福とはこの事だね……」

 

「ホントだよぉ~。今まで生き残ってきてよかった~……」

 

満足げな表情で食事を終えた。

腹を満たした3人は食器を片づけて、お茶を飲んでいた。

 

「不思議だな……」

 

不意にソラが呟く。

疑問符を浮かべるキリトとユウキ。

 

「まるで、この世界で生まれて今まで暮らしてきていたような……そんな感じがするよ」

 

カップを置いてソラは言う。

それに続くように

 

「確かに……この頃は、クリアだ脱出だって、血眼になる奴が少なくなってきてるな」

 

キリトがそう言った。

 

「攻略のペースも落ちてるよね? 最前線に居るプレイヤーも、今は500人いるかいないかでしょ?」

 

ユウキが問いかける。

 

「皆、馴染んできているんだろうね……この世界に……」

 

ソラはそう言いながら再びお茶を啜った。

キリトも無言でお茶を啜る。

すると

 

「ボクは、やっぱり帰りたい。約束があるから」

 

ユウキがカップを置いて呟く。

 

「約束? 誰と?」

 

キリトが疑問符を浮かべながら問いかけた。

 

「ボクの親友! そして姉ちゃんみたいな人だよ!」

 

笑顔で答えるユウキ。

それを聞き

 

「……だったら、尚更僕達は頑張らないとね」

 

ソラはキリトに視線を向けて口を開く。

キリトも頷いて

 

「ああ、サポートしてくれてる職人クラスの連中に申し訳立たないしな」

 

そう言って再びカップを取りお茶を口にした。

夕食会を終えて、ソラはギルド本部へと帰る為にキリト達のホームを出る。

 

「今日はありがとう。シチュー、とても美味しかったよ」

 

「こっちこそ! ラグーの肉の調理が出来て楽しかったよ!」

 

ソラの言葉にユウキも笑顔で答える。

 

「それじゃ2人とも、おやすみ」

 

そう言ってソラは背を向けて歩き出した。

 

「ああ、ソラもな」

 

「おやすみ~」

 

2人の言葉にソラは手を上げて返す。

やがて彼の姿が見えなくなり、2人はホームの中に入っていった。

 

「さて、明日は迷宮区のマッピングだな」

 

「そうだね。あ、そうだ! ボク、ちょっとリズに用事があるから、キリトは

先に74層の転移門広場で待っててくれる?」

 

「ああ、わかった」

 

そうやりとりした後2人は明日の準備をし、其々眠りに就く。

彼らのホームから少し離れた場所で、怪しい人影が様子を伺っていることもつゆ知らず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2024年 10月18日 第74層 カームデット

 

転移門の前でキリトはユウキがくるのを待っていた。

互いにホームを出て、キリトは先にここにきているのだが……

待ち始めて既に30分は経っている。

すぐに済むと言っていたから10分もあれば来るだろうと思っていたが、一向にユウキが来る気配はない。

さらに時間は過ぎて待つ事45分。

 

「ふぁ~……来ないなぁ……ん?」

不意に背後の転移門が青白く光を放つ。

その光の中から人影が現れて

 

「避けて! 避けて───────────!!!!」

 

と叫びながら飛んできた。

どうやらこの人物は転移門のゲートに飛び込みながら転移してきたのだろう。

飛び込んできた人物がキリトに覆いかぶさるようになった状態で2人は地面に倒れ込んだ。

 

「いてて……な、なんだってんだ……?」

 

覆いかぶさってる人物を押しのけようと右手に力を込める。

すると

 

「ひゃ!」

 

何とも可愛らしい声が聞こえてきた。

 

(なんだこれ? 柔らかい?)

 

キリトの右手にはなにやら柔らかい感触がある。

確かめるように何度か手を動かしてみるキリト。

 

「や、やだぁぁぁぁ────────!!!!」

 

大きな悲鳴が響きわたる。

直後、キリトの身体が宙を舞った。

ゴロゴロと地面を転がり柱のような装飾に後頭部をぶつけてようやく停止した。

 

「いっつ……なにが……」

 

後頭部をさすりながら前方をキリトは確認する。

視線の先には女性プレイヤーがぺたりと座りこんでいた。

紫を基調とした見覚えのある装備。

彼に飛び込んできたのはユウキだった。

両腕を胸の前で交差させて、キリトを涙目で睨んでいる。

そこでようやくキリトは先程の感触が何だったのかを理解した。

 

(あ、あれって……ユウキの……!)

 

思考を巡らせ、感触を思い出すように右手をグッパする。

 

「お、遅かったな、ユウキ」

 

とりあえず誤魔化すようにキリトはそう言った。

ユウキは視線をさらに鋭くした。

顔を引き攣らせるキリト。

その時だった。

再び転移門が青白い光を放つ。

ユウキは立ち上がりキリトの後ろに隠れるように駆け寄った。

光の中から現れたのは白と赤を基調とした装備の男性プレイヤー、クラディールだった。

辺りを見回し、ユウキの姿を確認すると

 

「探しましたぞ、ユウキ殿」

 

言いながら転移門から降りて2人に向かい合う。

 

「今日こそは、『血盟騎士団』への入団を決意していただきたい」

 

どうやらユウキが待ち合わせに遅れ、あまつさえ転移門に飛び込んで転移してきたのはこの男が原因だったようだ。

ユウキはキリトの後ろに隠れたまま

 

「何度も言ってるでしょ!! ボクはギルドには入らないって!!」

 

そう叫ぶ。

流石に追いまわされて頭にきているのだろう。

 

「大体なんでリンダースで待ちかまえてるのさ!!」

 

「なぬ!」

 

思いもよらぬ言葉にキリトは驚いてクラディールを見る。

当の本人は

 

「貴方を勧誘する為に、半月前から行動を監視してましたので」

 

悪びれもなく言う。

それに対しユウキは悪寒が奔ったように身震いした。

 

「やだやだ! 気持ち悪い!」

 

(マジかよ……俺の検索(サーチ)スキルでも気付けなかったとか、こいつどんだけ隠蔽(ハイディング)スキルを上げてるんだよ……)

 

あまりに衝撃的な事実にキリトも言葉が出てこない。

 

「なにをおっしゃいますか? 私はユウキ殿に『血盟騎士団』の素晴らしさを理解してほしいのです。ギルド本部までいらしてくれれば貴女も気が変わるでしょう」

 

言いながらクラディールは歩み寄る。

怯えたようにユウキはキリトのコートの袖を強く握った。

それに気付いたキリトは

 

「待てよ」

 

そう言ってユウキを庇うように一歩前に出る。

 

「ユウキは嫌がってるだろ? それに、こいつは俺のパートナーだ。勧誘する

なら俺にも話を通すのが筋じゃないのか?」

 

言いながらキリトはクラディールに鋭い視線を向けた。

すると少々苛立ったような表情になるクラディール。

 

「なにを言っている。貴様のような雑魚プレイヤーがユウキ殿のパートナーなどと、思い上がるなよ『ビーター』が!!」

 

指をさしてそう主張するクラディール。

しかし、キリトは表情を変える事はなく。

 

「思い上がってるのはあんたの方じゃないのか? 少なくとも俺にはそう見えるぜ?」

 

そう言い切った。

それを聞いたクラディールはわなわなと肩を震わせる。

 

「貴様ぁ……そこまで言ったからには覚悟は出来ているんだろうな?」

 

言いながらメニューを開いて操作した。

キリトの目の前にシステムウインドウが表示される。

デュエルの申請画面だった。

 

「キ、キリト……」

 

不安そうな声でユウキは彼を呼ぶ。

 

「やるしかないさ……大丈夫だよ」

 

ユウキを安心させるようにキリトは微笑み、デュエル申請を『初撃決着モード』で承諾した。

デュエルにはいくつかのモードが存在する。

『初撃決着モード』はそのうちの一つで、相手に一撃入れた時点で勝敗が決するモードだ。

アインクラッドではHPがゼロになれば現実でも死に至るデスゲーム。

それ故に、この世界でデュエルをする際には『初撃決着モード』を選ぶのが暗黙の了解となっている。

申請が通り、デュエル開始までのカウントダウンが開始した。

 

「見せてやるぞ小僧! 『血盟騎士団』クラディールの実力をな!」

 

そう言い放ちクラディールは腰に装備していた両手剣を抜く。

キリトも背の鞘に納められている愛剣、エリュシデータを抜く。

 

「おい! 『黒の剣士』と『血盟騎士団』のメンバーがデュエルだとよ!」

 

「見物だな!」

 

騒ぎを聞きつけた野次馬が彼らを取り囲み騒ぎ始めた。

中にはどちらが勝つか、賭けまで行っている者もいる。

クラディールは小さく舌打ちし、中段で担ぐような形で剣を持つ。

前傾姿勢になり腰を落とすように構えた。

対するキリトは剣を下段に落とし緩やかに構えた。

やがてカウントがゼロになり、アラーム音と共にデュエルが開始された。

2人は地を蹴って駆け出す。

速度的にはキリトが少し速かったようだ。

互いの剣がライトエフェクトを纏う。

クラディールが放ったのは両手剣ソードスキルの『アバランシュ』。

上段からの突進攻撃だ。

対してキリトが放ったのは片手剣ソードスキル『ソニックリープ』。

同じ上段からの突進斬撃。

二つのライトエフェクトは弧を描くように振られ、ぶつかり合う。

激しい剣戟音が辺りに響いた。

互いに交差するようにすり抜け停止する。

攻撃の瞬間、勝ち誇ったような表情をしていたクラディール。

しかし、今は驚愕の表情を見せていた。

 

「な、なんだと……」

 

自身の剣を見て呟く。

そこにはある筈の刀身がなかった。

横腹から真っ二つに折れている。

折られた刃は空中で回転しながら落ちてきて地に刺さった。

直後、ポリゴン片となり砕け散った。

彼の手に残っていた柄の部分も後を追うように砕け散る。

この結果に周りの野次馬は騒然としていた。

 

「すげぇ……『武器破壊』だ……」

 

「狙ってやったのか?」

 

武器破壊(アームブラスト)』とは武器の衝突時に稀に起きる現象である。

 

本来は狙って出来るものではない。

しかし、キリトは攻撃の出始めか終わりの攻撃判定が存在しない状態に、武器の脆い部分に一定角度で剣を命中させて任意に『武器破壊』を起こしたのだ。

がくりと膝を突きクラディールは項垂れる。

キリトは愛剣を背の鞘に納めて振り返り

 

「武器を変えて仕切りなおすなら付き合うけど……もういいんじゃないか?」

 

静かに問いかけた。

するとクラディールは勢いよく立ちあがり

 

「ふざけるな!! 一体何をした! 『武器破壊』など、任意で起こせるものじゃないだろう!! なんの小細工をした! この『ビーター』がぁ!!」

 

怒りの形相でキリトを指差し叫ぶ。

対する彼は呆れたように溜息を吐いた。

直後、2人の間にユウキが割って入る。

その表情は険しかった。

 

「ゆ、ユウキ殿……?」

 

「いい加減にして……これ以上キリトを『ビーター』って呼ぶなら……ボクが許さないよ」

 

静かに、それでいて怒気を含んだ声でユウキは言う。

愛剣のクリスキャリバーを抜いて剣先をクラディールに向けた。

うろたえるクラディール。

その時だった。

 

「ユウキ、剣を納めてくれ」

 

キリト達の背後から声が聞こえた。

振り返ると

 

「ソ、ソラ!」

 

ソラが彼らに歩み寄っていた。

 

「どうしてここに?」

 

「ユウキの友達から連絡を受けてね。急いで駆け付けてみたんだが……」

 

ユウキの前に立ち、クラディールに向かい合うソラ。

 

「クラディール。ヒースクリフ団長からの指示を伝える」

 

そこで一旦区切り、一息ついて

 

「ただちに本部に帰投せよ。そして、別命あるまで自室にて待機。以上だ」

 

冷やかな声でそう告げる。

それを聞いたクラディールは

 

「な……おのれぇ……」

 

奥歯を噛締めながら、憎しみの籠った目でキリトを睨む。

やがて「アイ・リザイン」と降伏の宣言をして転移門へと歩いていく。

 

「転移……グランザム」

 

行先を呟いた直後、彼の姿は青白い光と共に消えていった。

それを確認したソラは2人に向かい合い

 

「2人とも本当にすまない!」

 

そう言って深々と頭を下げてきた。

 

「僕がもっと注意しておけば、ここまで2人に迷惑をかけずに済んだのに……」

 

「気にするなよ。ソラは悪くないって」

 

「そうだよ、悪いのはあの気持ち悪い人だよ! ソラは気にしなくていいんだよ!」

 

申し訳なさそうなソラに2人はそう言う。

しかし、彼は未だに納得できてはいないようだ。

そんな彼を見て

 

「そうだ。ソラ、今日は空いてるのか?」

 

閃いたようにキリトは尋ねる。

当のソラは疑問符を浮かべた。

 

「今日はオフだけど……」

 

「なら、久しぶりに俺達とパーティー組まないか?」

 

キリトはそう言ってメニューを操作し始める。

 

「え……でも……」

 

戸惑うソラ。

 

「いいじゃん、組もうよソラ! ボクも久しぶりに一緒に戦いたい!」

 

「今日1日俺達に付き合う。それでチャラでいいんじゃないか?」

 

2人は笑ってそう言った。

釣られるようにソラも笑みを浮かべて

 

「そうだね……そうさせてもらおうかな」

 

パーティー申請に同意する。

 

「それじゃ、行こうよ! 今日はキリトがずっと前衛ね!」

 

「んな! 前衛は交代だろ!!」

 

「さっきやった事忘れてないよボク?」

 

振り向きとびきりの笑顔で言うユウキ。

キリトは苦い表情になり

 

「く……わ、わかった」

 

頷くしかなかった。

ソラは疑問符を浮かべて

 

「なにをしたんだ?」

 

問いかける。

 

「聞かないでくれ」

 

目を逸らしながらキリトは返した。

そうして、3人は74層の迷宮区に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 




訪れる迷宮の最奥

開かれるはボスの部屋

待ち構えていたのは青き眼の悪魔だった

次回「青眼の悪魔」

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