ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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書きあがりますた

今回は結構長めかも

ではどうぞご覧ください


第十二話 心の温度

2024年 6月24日 第48層 リンダース

 

 

プレイヤーホームに設置された巨大な水車が緩やかに回る。

その中からは、カンカンと金属を叩く音が聞こえてきていた。

中では少女が一人、工房で武器作成を行っていた。

いくらか叩かれた金属が剣の形に変わっていく。

出来あがった剣を手に取り品質を真剣に確認する。

 

「……まぁまぁ……ね」

 

その時、来客を告げる鐘が鳴った。

少女は剣を作業台に置いて鏡の前に立つ。

 

「接客も仕事のうち!っと」

 

笑顔を作って、店の売り場に続く扉を開いた。

 

「リズベット武具店へようこそ!」

 

元気よく、来店客へのあいさつを言う。

店内に居たのは二人のプレイヤー。

黒尽くめの少年と紫色装備の少女だ。

 

「やっほー、リズ」

 

「ユウキ。なによ、来るなら連絡くらい入れなさいよね」

 

「あははー、ごめんねー」

 

紫の少女、ユウキとリズと呼ばれた少女は手を合わせて会話する。

その傍らで黒の少年は疎外感を覚えたのか

 

「ユウキ、その人が例の?」

 

ユウキに問いかけた。

 

「そうだよ! 紹介するね。この娘が前に言った鍛冶師のリズベットだよ。リズ、この黒い人が、あの時ボクの探していたキリトだよ」

 

「ども、えーっと……リズベットさん?」

 

紹介された黒の少年、キリトは少し遠慮気味に尋ねた。

 

「リズでいいわよ。そっか、コレがユウキの相棒の『黒の剣士』かぁ……あんまり強そうに見えないわね」

 

キリトに向かい合い鍛冶師の少女、リズベットは言う。

当のキリトは苦笑いで

 

「よく言われるよ」

 

と答えた。

 

「で、どうしたのよ? 装備のメンテでもしに来たの?」

 

気を取り直してリズベットは二人が訪ねてきた理由を問う。

その問いにユウキは首を振る

 

「違うよ、キリトが剣を造ってほしいんだって」

 

「あぁ、オーダーメイドを頼みたいんだ。予算は気にしなくていいから、今造れる最高の剣を造ってほしいんだ」

 

そう言ってキリトは前に出る。

リズベットは少し難しい顔をする。

 

「そうは言っても、具体的な目標数値を出してもらわないと解んないわよ」

 

「それもそうか……じゃぁ、この剣と同等かそれ以上のを頼む」

 

言いながらキリトは背の剣を鞘ごと取り外してリズベットに渡す。

受けとったリズベットは思わず剣を落としそうになった。

 

(おっも! ものすごい要求筋力値ね)

 

思考を巡らせて剣の鑑定を始めるリズベット。

剣をタップすると鑑定結果が表示される。

固有銘は『エリュシデータ』、作成者銘なし

 

「作成者銘なしって事はモンスタードロップ……しかも魔剣クラスじゃない」

 

現在のアインクラッドでの武器のカテゴリーは二種類ある。

一つは鍛冶師が鉱石を使って造りだした『プレイヤーメイド』と呼ばれるもの。

もう一つはモンスターやボスなどがドロップする『モンスタードロップ』と呼ばれる物がある。

キリトの愛剣であるエリュシデータは50層のフロアボス、そしてユウキの愛剣『クリスキャリバー』は49層のフロアボスのLAボーナスによってドロップしたものだ。

因みにクリスキャリバーはエリュシデータより軽いがAGIの補正が少し高い。

リズベットは少し思案し、やがて一角に置かれた剣を手に取る。

 

「これならどう? 私が打った最高傑作よ!」

 

言いながらリズベットはそれをキリトに渡した。

受け取ったキリトはその剣を2、3度程素振りする。

 

「……少し軽いな」

 

「使った金属がスピード系だったからね」

 

「……ちょっと試していいか?」

 

そう言ってキリトは左手でエリュシデータを握り、右手でリズベットの最高傑作を構える。

 

「ちょ! 試すって、耐久値のこと! やめなさいよ、あんたの剣が折れるわよ!!」

 

「その時はその時……さ!」

 

リズベットの制止も虚しく、キリトはソードスキル『バーチカル』を発動させる。

勢いよく刃が振り下ろされ……

バギンという音が店内に響き渡った。

これは剣が折れた音。

折れたのはリズベットの最高傑作。

半分に折れた刀身は宙を舞う。

それをリズベットは呆気にとられながら見ていた。

折れた刀身はカランと音を立てて床に落ち、ポリゴン片となり砕け散った。

その様子にキリトはヤバいといった感じの表情になり、ユウキは片手で顔を覆っていた。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

 

ようやく正気に戻ったリズベットは勢いよくキリトから剣を奪い取る。

状態を確認するが

 

「修復……不可能……」

 

駄目だったようだ。

それもポリゴン片となり砕け散る。

リズベットはわなわなと肩を震わせていた。

 

「な……なぁんて事すんのよぉ!!!!」

 

振り向きキリトの胸倉を掴んでそう叫んだ。

 

「い、いや! まさか当てた方が折れるなんて思わなくて!」

 

「それはアタシの剣が思ったよりやわっちかったって意味ぃ!!」

 

「あぁー……まぁ……そうだ」

 

そこまでやりとりし、リズベットは胸倉から手を離す。

 

「ご、ごめんねリズ?」

 

ユウキがおずおずと謝ってくる。

リズベットは首を振って

 

「ユウキが謝る必要ないわ! 言っときますけどね! 金属さえあれば、あんたの剣なんかポッキポキ折れちゃうのが造れるんだから!!!」

 

キリトを指差し言う。

それを聞いたキリトはニヤリと笑い。

 

「ほほぅ? じゃぁ、作ってもらおうかな? これがポキポキ折れるヤツをさ」

 

そう言った。

その言葉にリズベットはさらに頭に血を上らせる。

 

「むっきー! そこまで言ったからには最初から付き合ってもらうわよ!! 

金属採りに行くとこからね!!」

 

腰に手を当ててそう言った。

 

「ふぅん。金属のアテは?」

 

「55層の氷雪地帯の西の山に、水晶を餌にするドラゴンがいるらしいの。そいつが体内に金属を溜めこんでるって話よ」

 

「あ、それ聞いたことあるな。55層か……俺一人で行ってくるよ。二人はここで待っててくれ」

 

そう言ってキリトはエリュシデータを鞘に戻し、背に背負う。

そんな彼に

 

「残念だけど、金属を手に入れるには『マスタースミス』がいないとだめらしいわよ?」

 

「キリト! 一人でなんて行かせないよ!」

 

リズベットは勝ち誇ったような、ユウキは怒ったような表情でキリトに言う。

キリトは少し考えて

 

「しょうがないな……」

 

そう言って頭を掻いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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第55層 西の山

 

辺り一面白一色。

雪が降り積もった山道を、キリト達は歩いている。

 

「うぅ……さっむぅ~……」

 

「氷雪地帯なのは知ってたけど……ここまで寒いなんて……」

 

言いながら歩いているのはユウキとリズベット。

二人とも両手で自身を抱えるようにし、身体をさすりながら歩く。

キリトは振り返り、メインメニューを開く。

アイテムストレージからコートを二着取り出して

 

「ほら、これ着てろ」

 

二人に差し出す。

 

「……あんたは平気なの?」

 

コートを羽織りながらリズベットは尋ねる。

キリトはブラックコートの襟を正しながら

 

「鍛え方が違うからな」

 

そう言って歩き出した。

 

「むかつくわねぇ……」

 

「気にしなくていいよ? あれ痩せ我慢だから」

 

呟くリズベットにユウキは言う。

リズベットは疑問符を浮かべて

 

「じゃぁ、あいつも厚着すればいいのに」

 

「コートはこの二着しかなかったんだろうね。キリトはいっつも自分以外の誰かを優先するんだよね。それがいい所でもあるけど……」

 

そこまで言ってユウキは口を閉ざす。

が、すぐに走り出し

 

「キーリト♪」

 

彼の腕に抱きついた。

 

「な、なんだよ急に!」

 

「こうすればキリトも温かいよねぇ?」

 

言いながら笑顔を向けるユウキ。

 

「ま、まぁな」

 

顔を少し赤くしてキリトは返した。

腕にユウキが抱きついたまま二人は歩いていく。

少し後ろではリズベットが二人を眺めながら。

 

(……ユウキもキリトも……きっとあるんだろうな……本物と思える大切な『何か』が……それに比べて、アタシは……)

 

思考を巡らせて二人の後をついていった。

やがて3人は頂上に着く。

辺りは水晶で囲まれていた。

白い雪と透き通る水晶が別世界を創り出しているように見えた。

 

「さて、ドラゴンとは俺とユウキが戦う。リズは水晶の陰で大人しくしてろよ」

 

そう言われたリズベットは

 

「なによ! アタシだってマスターメイサーなんだから戦えるわよ!」

 

不機嫌そうな表情でそう言うが

 

「駄目だ!」

 

キリトが真剣な表情で強く言う。

その姿にリズベットはたじろいだ。

映る瞳はどこまでも真剣だ。

 

「リズ、ボク達なら大丈夫だから。ね?」

 

ユウキがやんわりと諭すと、リズベットは渋々ながらに頷いた。

キリトは微笑み

 

「んじゃ、いくかな」

 

そう言ってリズベットの頭に軽く手で触れた。

その後をユウキが続く。

リズベットは彼が手を置いた頭に自身の手を添えた。

 

「……温かい……」

 

そう呟いた。

刹那

 

「ギュオオオオォォォォォォォォォ!!!!」

 

猛々しい雄叫びが響いてきた。

 

「リズ! 水晶の陰へ!」

 

ユウキに促されてリズベットは大きめな水晶の陰へと退避する。

現れたのは白銀の竜。

巨大な翼をはばたかせ、宙へと舞い上がる。

そして、繰り出されたのは氷のブレス。

 

「ブレスよ! 避けて!!」

 

リズベットが叫んだ直後。

キリトのエリュシデータが青く光る。

ブレスが直撃する一歩前に剣を回転させてブレスをかき消した。

対ブレス専用ソードスキル『スピニングシールド』だ。

剣を握りなおし、ユウキも愛剣であるクリスキャリバーを構える。

 

「いくぞ、ユウキ!」

 

「了解、キリト!」

 

直後に二人はドラゴンに向かい駆け出す。

 

「ギュァァ!!」

 

大きく鳴きドラゴンは二人を迎え撃つ。

鉤爪による攻撃がユウキに向かって放たれた。

それをユウキは躱しすれ違いざまに一撃を入れる。

背後に回り込み、そこからソードスキル『ホリゾンタル・スクエア』が放たれた。

水平に正方形を描くような4連斬撃がドラゴンの背中に直撃する。

それにより体勢が揺らいだ事を確認して

 

「キリト!」

 

「おぉぉ!!」

 

ユウキの叫びに応えるようにキリトは『ヴォーパルストライク』を繰り出した。

鋭く重い突撃刺突攻撃がドラゴンを貫くように直撃する。

HPは確実に削られていた。

その光景を水晶の陰からリズベットは息をのんで見ていた。

 

(ユウキが凄いのは知ってたけど、キリトも凄い! あれが『黒の剣士』の実力なのね……)

 

思考を巡らせながらドラゴンとの戦闘を見守るリズベット。

HPバーを見るとそれは既にレッドゾーンに突入してた。

それを見てリズベットは

 

「ほら、はやくカタをつけちゃいなさいよ!」

 

水晶の陰から出てきてそう叫ぶ。

 

「な、馬鹿! まだ出てくるな!!」

 

それに気付いたキリトは慌てて叫ぶ。

しかし、遅かった。

ドラゴンは高く舞い上がり、巨大な翼を羽ばたかせた。

竜種特有の突風攻撃である。

強大な風が雪を舞い上がらせながらリズベットを襲う。

直撃し彼女は投げ出された。

その真下には巨大な縦穴。

 

「うそ! うそぉぉぉ!!!」

 

リズベットは成す術なく縦穴に落ちていく。

そんな彼女の腕を何かが掴む。

キリトだった。

彼女が突風を受けた瞬間に全速で駆けだしたのだ。

 

「摑まれ!」

 

いいながらキリトはリズベットを守るように抱きかかえる。

二人はそのまま穴の底まで落ちていった。

その様子を見ていたユウキは縦穴のすぐ近くまで駆け寄る。

 

「リズ!! キリトォォォォォ!!!!」

 

彼女の叫び声が雪山に木魂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ぅ……」

 

目を開けると黒い何かがリズベットの目に映る。

キリトだった。

 

「助かったな……」

 

そう言いながらキリトは起き上がる。

続いてリズベットも起き上がり

 

「生きてた……わね……」

 

そう呟いた。

そんな彼女にキリトはハイポーションを差し出す。

 

「飲んどけよ、一応な」

 

「……うん」

 

受け取ったハイポーションをリズベットは口に含んだ。

キリトも同じようにハイポーションを飲み始める。

お互いにイエローまで落ちたHPが緩やかに回復していった。

 

「あの……ありがと、助けてくれて」

 

「礼を言うのはまだ早い……どうやって登ったもんか……」

 

言いながらキリトは上を見る。

そんな彼にリズベットは

 

「テレポートすればいいじゃない」

 

言いながら転移結晶を取り出し

 

「転移! リンダース!」

 

と叫ぶ。

しかし結晶は反応を示さなかった。

 

「そんな……」

 

「結晶が使えないなら、他の手段がある筈だ」

 

「そんなの解んないじゃない! 落ちた人が100%死ぬって想定した罠かもしれないでしょ!」

 

「なるほど……そうかもな」

 

キリトは思案し始める。

 

「ちょっと! 少しは元気付けなさいよ!!」

 

落ち着いた様子のキリトに苛立ったように食ってかかるリズベット。

やがて思案し終わったのか

 

「一つ提案がある」

 

そう言って来た。

 

「ホント?」

 

「あぁ、壁を走って登る」

 

真顔で言うキリト。

その言葉にリズベットは呆れた表情になる。

 

「……バカ?」

 

「バカかどうか、試してみるか?」

 

言われたキリトは立ち上がり数歩下がる。

そして勢いよく蹴りだした。

跳躍し壁を勢いよく駆けあがる。

 

「うそーん……」

 

呆気に取られながらリズベットは呟く。

直後、キリトは足を滑らせる。

どうやら凍っていた部分を踏んでしまったようだ。

 

「ぉわぁぁぁぁぁあぁああああぁぁぁあぁ!!!!」

 

悲鳴と共にキリトは落下し地面に叩きつけられた。

 

「も……もう少し助走があればいけたんだよ」

 

「んな訳ねー」

 

いじけたように言い訳するキリトにリズベットはしゃがみ込んでそう言った。

やがて日が落ち夜が来る。

2人は互いに寝袋に入って寝ころんでいた。

沈黙が続いていたが

 

「ねぇ、ユウキはどうしたかな?」

 

不意にリズベットが尋ねてくる。

 

「あぁ、ユウキなら、ここに来る前に互いに何かあったら無理せずに街にいったん戻るように打ち合わせてたんだ。明日の昼になっても戻らなかったらフレンドに協力依頼出すようにもな」

 

問いにキリトは答えた。

 

「……信頼してんのね、ユウキの事」

 

「まぁな……第一層のころからの付き合いだし、ずっとコンビ組んでたからな」

 

そう言うキリトの表情はとても優しげだ。

それを眺めながら

 

「でも、半年間ほったらかしてたんでしょ?」

 

そう言って指摘する。

キリトは苦い表情をして

 

「そ、それは、色々と説明できない事情が……あってだな……」

 

バツの悪そうに答える。

リズベットは軽く吹き出し

 

「ごめんごめん……でも、いいな。あんた達には確かなものがあるのね……」

そう呟く。

 

「ん? なにが?」

 

聞こえなかったようでキリトは問い返した。

 

「なんでもない……ねぇ、も一つ聞いていい?」

 

「なんだ?」

 

「……どうして、アタシを助けたの? 死ぬかもしれなかったのに」

 

その問いにキリトは少し沈黙する。

やがて口を開き

 

「誰かを見殺しにはしたくはない。そんなのは二度とごめんだ。それに死ぬ気はないよ。あいつが待ってるからな」

 

キリトはそう応える。

 

「変な奴……でも、そっか……そうなんだね」

 

答えを聞きリズベットは納得したように頷く。

再び沈黙が訪れる。

しばらく無言だったが

 

「ね……手、握って」

 

言いながらリズベットは手を伸ばす。

キリトは不思議そうな顔をしてリズベットを見た。

 

「うん」

 

頷いてキリトは手を差し出す。

手が重なるとリズベットが軽く握ってきた。

 

「……温かい」

 

「え?」

 

呟きにキリトは疑問符を浮かべた。

 

「アタシもあんたも……仮想世界のデータなのに……」

 

「リズ……」

 

互いに目が合う。

するとリズベットは軽く微笑んで目を閉じた。

キリトも目を閉じる。

互いの手を重ねたまま、2人は眠りについた。

翌日。

 

「んぅ~~~~~っ」

 

目覚めたリズベットは寝袋から出て背伸びをする。

ふと隣を見るともうひとつの寝袋は蛻の殻だった。

耳を澄ますと後ろの方から、ザクザクと雪を掻きわける音が聞こえてくる。

振り向くとキリトはそこに居た。

雪を掻きわけて何かをそこから取り出した。

 

「そ、それって!」

 

手に握られていたのは水晶のように透き通った鉱石だ。

それを受け取ったリズベットはタップしアイテム名を確認する。

 

『クリスタライトインゴット』

 

「俺達が探しに来た鉱石だろうな……ドラゴンは水晶をかじり、腹の中で精製する……見つからないわけだ」

 

「でも、なんでこんな所に?」

 

キリトの説明に疑問符を浮かべるリズベット。

 

「この縦穴は罠じゃなく、ドラゴンの巣だったんだ。つまり、その鉱石はドラゴンの排泄物、ンコだ」

 

さらに淡々と説明するキリト。

リズベットは手に持っている鉱石とキリトを交互に見る。

やがて、意味に気付いたリズベットは何とも言えない表情でそれをキリトに投げ渡した。

それをキリトは掴み取り、ストレージに収納する。

 

「さて、これで目的は達成だな。後は……」

 

そこまで言った時、リズベットが何かに気付く。

 

「ね、ここってドラゴンの巣でしょ? でもってドラゴンは夜行性だから、つまり……」

 

恐る恐る言うリズベット。

その意図をキリトも察した。

直後

 

「ギュォォォォォ!!!!」

 

咆哮と共にドラゴンが降下してきた。

 

「きたーーーーーーー!!」

 

予感が的中してリズベットは顔面蒼白で叫ぶ。

そんな彼女を

 

「ちょいと失礼!」

言いながらキリトはリズベットを担ぎあげた。

 

「は? んあ!?」

 

「しっかり摑まってろよ!」

 

そう叫んで跳躍する。

直後にドラゴンは穴底で急停止する。

その後ろをキリトはリズベットを担いだまま走り抜け、壁を蹴り剣を抜いた。

落下速度を利用しながらドラゴンの背に刃を突きたてる。

それに驚いたドラゴンは

 

「ギュアァァ!!」

 

咆哮と共に今度は急上昇する。

一気に縦穴を登りぬけて、上空で急停止した。

反動で剣が抜けて2人は投げ出される。

リズベットを抱えたままキリトは地面に着地した。

彼女を降ろして

 

「よし、脱出成功!」

 

ドヤ顔でそう言った。

対するリズベットは

 

「寿命が縮むかと思ったわよ!」

 

キリトに向かい講義する。

 

「まぁまぁ、目的は果たしたからいいだろ?」

 

言いながらキリトは巣に戻っていくドラゴンを見た。

 

「鉱石の取り方が解れば、もう無闇に狩られる事はないだろ。達者で暮らせよな」

 

「はぁ……もういいわ」

 

呑気なキリトに対しリズベットは諦めたように溜息を吐いた。

 

「さて、街に戻るか。ユウキが心配してるからな」

 

そう言って転移結晶を取り出す。

それを使い街に戻ろうとした、その時

 

「まって!」

 

リズベットがそれを制した。

キリトは疑問符を浮かべて彼女を見る。

 

「帰る前に、キリトにお礼が言いたいの!」

 

「助けた礼はもう言ってくれたろ?」

 

その言葉にリズベットは首を振る。

 

「違うの。アタシね……アタシ、ずっとこの世界でのホントの『何か』を探してたんだ。この虚ろな世界で、何もかも偽物の世界で……」

 

「リズ……」

 

一度リズベットは俯く。

が、すぐに顔を上げる。

 

「でもね、キリトが手を握ってくれた時、温かかった! この温かさは本物だって思えたの!だから、だからね! ありがとう! キリトのおかげで、アタシもまだこの世界で頑張れる! この『熱』がある限り、前を向いていける気がするの!」

 

真直ぐにキリトの眼を見ながらリズベットは言う。

それを聞き終えて

 

「俺も、リズにお礼が言いたいんだ」

 

キリトも真直ぐに彼女を眼を見て口を開いた。

 

「俺は以前……助けられなかった人たちがいるんだ。その事がどうしても悲しくて悔しくて、認めたくなくて、ユウキを置き去りにして一人で無茶してたんだ」

 

ゆっくりとキリトは語りだす。

 

「色々あって、それは何とか心の整理がついたんだけど……それからは一人で生き残るくらいなら死んだ方がマシだって思ってたんだ。でも、穴に落ちた時、リズが生きてて嬉しかった。誰だって生きるために生きてるんだって思えたから……だから、ありがとう」

 

言いながらキリトは微笑む。

それを聞いてリズベットは

 

「そっか……その言葉、ユウキにも聞かせてあげなさいよ。それから、あの娘をこれ以上悲しませない事! わかった?」

 

キリトの顔を覗き込む。

 

「そうだな……」

 

苦笑いでキリトは言う。

 

「それじゃ、街に帰りましょ!」

 

そう言って転移結晶を取り出す。

互いにそれを掲げて

 

「「転移! リンダース!」」

 

同時に転移先を叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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第48層 リンダース

 

街に戻った2人は真直ぐにリズベット武具店に足を運ぶ。

扉を開けると奥にはユウキがいた。

2人に気付いて駆け寄ってくる。

 

「リズ! 無事? 怪我はない?」

 

不安そうな表情で尋ねてくる。

 

「大丈夫よ。鉱石もゲットできたわ」

 

安心させるようにリズベットは答えた。

それを聞きユウキは胸を撫で下ろす。

そして、キリトの方に向かい合う。

 

「キリト! 無茶しないでってあれほど言ったのに!」

 

「わ、悪かった! 悪かったって!」

 

すごい剣幕に流石のキリトも焦る。

だがユウキは止まらない。

 

「いつもいつもいつも! ボクが、ボクが……ど、どれだけぇ……うっ……うぇぇ……」

 

ついには堪え切れずに泣き出してしまった。

 

「ユウキ、本当にごめんな」

 

そう言ってキリトは涙を拭う。

 

「……しばらくお弁当無しね」

 

「うぐ! わ、わかった……」

 

応えてキリトは項垂れる。

よほどショックだったのだろう。

その様子にリズベットは苦笑いになり

 

「ほら、キリト! 剣作るんでしょ? 片手用直剣でいいのよね?」

 

そう言って声をかけた。

 

「あ、あぁ」

 

頭を上げてストレージから鉱石をオブジェクト化する。

それを受け取ってリズベットは奥の作業場へと歩き出す。

ユウキも落ち着きを取り戻した様で

 

「ほら、行こうキリト」

 

と、キリトを促す。

頷いて2人も作業場へと向かった。

キリト達は椅子に座ってリズベットの作業を見守った。

カン、カンと金属が叩かれる音が作業場に響いている。

それが十数分過ぎた時、叩かれていた鉱石は光り輝き、一振りの剣へと姿を変えた。

翡翠色に輝く刀身が一目で業物だという事を示していた。

その剣をリズベットは手に取りタップする。

 

「名前は『ダークリパルサー』アタシが初耳って事は情報屋のリストにまだ載ってない筈よ。試してみて」

 

そう言ってキリトにダークりパルサーを手渡す。

受けとってそれを2、3度素振りする。

 

「ど、どう?」

 

少し不安そうな声で尋ねるリズベット。

 

「……重いな。いい剣だ。魂が籠ってる気がするよ」

 

振り向いてキリトは満足そうに答えた。

それを聞いてリズベットはガッツポーズをとる。

 

「やった!」

 

「よかったね! リズ!」

 

「ユウキもありがと!」

 

2人は互いにハイタッチする。

直後にリズベットは

 

「変な奴だけど、いい奴だねキリトって。応援するから頑張んなさいよ?」

 

ユウキの耳元でそう言った。

それを聞いた彼女は

 

「な、ななななな! 何言ってんの!! ボクは! ボクは!」

 

耳まで真っ赤になりながら返ってくる反応。

そんな彼女にキリトは疑問符を浮かべながら

 

「どうした? 顔真っ赤だぞ?」

 

問いかけた。

 

「な、なんでもない! なんでもないよ!!」

 

首と腕をブンブン振りながらそう返すユウキ。

キリトは疑問符を浮かべていたが

 

「ま、いいか。リズ、剣の代金払うよ。いくらだ?」

 

そう問いかけた。

対してリズベットは首を振って

 

「代金はいいわ。その代わり二つ条件があるの」

 

「条件?」

 

「なになに?」

 

疑問符を浮かべながら問う2人。

リズベットは一呼吸置いて

 

「一つは、アタシをあんた達の専属スミスにする事! 冒険が終わったらここにメンテに来なさい!」

 

そう言って2人を指差す。

 

「それはいいけど……もう一つは?」

 

キリトが尋ねる。

 

「もう一つは、あんた達が終わらせて、この世界を」

 

問いかけにリズベットは真剣な表情でそう言った。

 

「アタシも頑張る。この『熱』がある限り頑張るから!」

 

そう言って自分の胸に手を当てた。

それを聞いた2人は

 

「あぁ、約束するよ」

 

「終わらせてみせるね。もちろん生きてこの世界を」

 

決意を込めて頷いた。

2人の答えを聞いたリズベットは

 

「うん……これからも、リズベット武具店をよろしく!!」

 

とびっきりの笑顔でそう言った。

 

 

 

 

 




デスゲーム開始から二年

最前線は74層

いつ終わるともわからぬゲームに少年たちは何を思うのか

次回「交差する剣戟」

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