ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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一日に3話分連続投稿できるとは・・・

やってみるもんだなと思った今日この頃です。

これにて圏内事件編は終了!

ではではどうぞ御覧なさいです~



第十一話 受け取る意志

アインクラッドには多くのギルドが存在する。

最前線で攻略を行う『血盟騎士団』や『聖竜連合』

中層を主に活動する中堅のギルド。

そして、中には犯罪を中心に活動するギルドもある。

その犯罪者ギルドの中でも特に最悪と恐れられているギルドがあった。

 

笑う棺桶(ラフィン・コフィン)

 

奪えるものは奪えばいい、殺せるのなら殺せばいい。

その思想の下に集まった、SAO内最大最狂の犯罪者ギルドである。

今、そのイカれたギルドのトップスリーがシュミット達の眼の前に居た。

毒投げ短剣を扱う『ジョニー・ブラック』

エストック使い『赤眼のザザ』

そして、ギルドリーダーの『PoH(プー)

その三人は獲物を選別するように彼らの前に立ちはだかる。

 

「さぁて、どう料理したもんかねぇ……」

 

そうするかを思案し始めるPoH。

その横で

 

「あれ! あれやろうよヘッド! 『殺し合わせて、生き残った奴だけ助けてやるぜ』ゲェーム!」

 

子供がはしゃぐような声でジョニーはPoHに提案した。

するとPoHは溜息をついて

 

「んな事言って、結局生き残った奴も殺しただろうがよ?」

 

そう言う。

するとジョニーは心底残念そうに

 

「あぁー! 今それ言っちゃゲームにならないっすよ、ヘッドォ!!」

 

それでいて狂気の孕んだ声で言った。

おぞましいやりとりを聞きながらエストックをヨルコ達に突き付けているザザを見ると

 

「クククっ」

 

小さく笑っていた。

フードで顔は見えない、それでも充分な狂気が伝わってきた。

 

「さて、取りかかるとするか」

 

言いながらPoHはシュミットに歩み寄る。

握っている大型短剣『メイトチョッパー』を大きく振り上げた。

シュミットは自身の死を覚悟して目を閉じる。

刃が振り下ろされようとした、その時だった。

主街区の方から何かが駆けてくる音が聞こえてきた。

それは蹄が地を蹴る音。

振り返り、視線を向けた先に見えたのは馬だった。

その背には黒尽くめの少年が乗っている。

それを確認した犯罪者三人は一歩後退。

やがて彼らの前で馬が鳴き声と共に後ろ足で立ちあがる。

 

「いった!」

 

着地に失敗し少年は尻餅をついた。

立ち上がり腰をさすりながら

 

「いたた……どうやら間に合ったみたいだな? タクシー代は聖竜連合の経費にしといてくれよ、シュミットさん?」

 

黒の少年、キリトが言った。

馬の尻を叩き街の方に走らせる。

 

「よう、PoH。相変わらず悪趣味な恰好してるな?」

 

キリトが言いながら歩み寄ってきた。

 

「フン。『黒の剣士』……てめぇには言われたくねぇよ。それよか、状況わかってるか? 恰好よく助けに来たつもりだろうが、お前一人で俺達三人を相手に出来んのか?」

 

メイトチョッパーをキリトに突き付けてPoHは問う。

キリトは愛剣を抜きながら

 

「難しいだろうな。ただ戦うだけならまだしも、彼女達を守りながらは流石にな……」

 

そこで一旦区切り

 

「けど、対毒POT(ポーション)は飲んできたし、結晶(クリスタル)もありったけ持ってきたから20分は稼げるよ。それだけあれば援軍が駆け付けるには充分だ! お前達3人だけで、攻略組30人を相手にしてみるか?」

不敵に言葉を紡ぎ剣を構える。

 

「ちっ……」

 

それを聞いたPoHは小さく舌打ちする。

しばらく沈黙した睨み合いが続いていたが、PoHは指を鳴らす。

その瞬間、残りの二人は構えを解いた。

突き付けられたエストックが離れ、ヨルコは膝をつく。

 

「『黒の剣士』……てめぇは必ず殺してやる。お前の大事なもん全部、根こそぎ奪ってなぁ」

 

「やってみろよ、やれるもんならな」

 

一瞬睨みあうがすぐに視線は外れる。

そして三人は歩き出しその場を去っていった。

彼らの姿が完全に見えなくなって、キリトは息を吐いて剣を背に鞘に納めた。

さて、また会えてうれしいよ、ヨルコさん。そっちのあんたは初めましてかな、カインズさん?」

 

言われたカインズは苦笑いで

 

「いえ、正確には二度目です。僕が死亡を偽装した時に目が合いましたから……あの時、貴方には見破られるんじゃないかって予感はしてたんです」

 

そう答えた。

 

「全部終わったら、きちんと謝罪に伺おうと思ってたんです……信じてはもらえないでしょうけど……」

 

続いてヨルコは俯きながら言う。

キリトは苦笑いになった。

その時

 

「キリト! 助けてくれた礼は言うが、どうしてわかったんだ? あの3人がここで襲ってくるって……」

 

ようやく麻痺の解けたシュミットが片膝をつきながら尋ねてきた。

 

「わかった訳じゃない、ありえると推測したんだ。なぁ、カインズさん、ヨルコさん、あの二つの武器をグリムロックに造ってもらったんだよな?」

 

シュミットの問いに答えながらキリトは二人に問いかけた。

ヨルコ達は迷ったように顔を見合わせる。

やがて、意を決し

 

「最初は、気が進まないようでした。もうグリセルダさんを安らかに眠らせてあげたいって……」

 

「でも、僕らが一生懸命頼んだら、やっと武器を造ってくれたんです」

 

そう言った。

キリトは一度目を伏せるもすぐに目を開き、真剣な表情で

 

「残念だけど、あんた達の計画に反対したのはグリセルダさんの為じゃない」

 

言いきった。

それを聞き二人は疑問符を浮かべる。

 

「圏内PKなんて派手な演出をして、皆の眼を引けば、いずれ誰かが気付いてしまうと思ったんだ。俺も気付いたのはほんの30分前だ……」

 

そう言ってキリトは語りはじめた。

指輪事件の真相を──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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遡る事30分前。

マーテンのNPCレストランにキリト達は訪れていた。

席に座り、注文した料理がくるのを待っている。

 

「まんまとヨルコさんの目論見通り動いちゃったけど、俺は嫌な気分じゃないな」

 

「そうだねぇ」

 

言いながら二人は笑っていた。

キリトはハーブティーのカップを取りそれを飲む。

すると

 

「ねぇ、キリトはさ、超級レアアイテムがドロップしたらどうする?」

 

「ん?」

 

突然のユウキの問いにキリトは疑問符を浮かべる。

 

「だってさ、この世界でどんなアイテムを手に入れたかなんて全部自己申告でしょ? だからキリトも隠したりするのかなって」

 

「うーん、俺はそう言うのが嫌で基本ソロだったんだが、ユウキになら正直に話すかな。パートナーだしな」

 

言いながらキリトは笑う。

 

「そっか……ボクの事信頼してくれてるんだね」

 

ユウキは嬉しそうに笑う。

 

「でも、どうしてそんな事聞くんだ?」

 

いきなりの質問にキリトは疑問に思ってそう尋ねた。

するとユウキは苦笑いになって

 

「ごめんね。ずっと前に友達の武器屋さんと話した事があったんだ、この世界での結婚についてね」

 

そう返す。

 

「なんでまた?」

 

「この世界で結婚したらアイテムはストレージ共通になっちゃうでしょ? 隠したいのに隠せなくなるって実際的(プラグマティック)だなってさ」

 

またキリトは疑問符を浮かべる。

 

「実際的? SAOでの結婚が?」

 

「だってそうじゃん? 身も蓋もないよ、ストレージ共通化なんて」

 

それを聞いたキリトはハッとした表情になった。

 

「なぁ、結婚相手が死んだ時、アイテムはどうなるんだ? ストレージは共通化されてるんだろ?」

 

それを聞いたユウキは腕を組んで

 

「グリセルダさん達の事? そうだね、一人が亡くなったら……」

 

考え込む。

そこにキリトが

 

「全て生き残った方の物になるんじゃないか?」

 

そう口にする。

それを聞いてユウキもハッとした表情になった。

 

「じゃぁ、グリセルダさんのストレージに入ってたレア指輪は……」

 

「犯人の足元にはドロップせずに、グリムロックの足元にドロップした筈なんだ」

 

「指輪は……奪われてなかった?」

 

ユウキは恐る恐る問う。

しかし、キリトは首を振って

 

「いや、奪われたんだ。グリムロックは自分のストレージにある指輪を奪ったんだ!」

 

そう言い切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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語られた真実にヨルコ達は驚きが隠せない。

 

「……じゃあ、グリムロックが指輪事件の犯人なのか? グリセルダを殺したのは……」

 

シュミットが問う。

 

「いや、直接手は汚さなかっただろう。殺人の依頼は汚れ仕事専門に依頼したんだろう。あの『笑う棺桶』に」

 

「そ、そんな……じゃあ、なんで彼は私達の計画に協力してくれたんですか?!」

 

未だ信じられない様子でヨルコは問う。

 

「あんた達はグリムロックに、計画の全てを説明したんだろ? なら、それを利用して、今度こそ指輪事件を永久に闇に葬る事が可能だ。3人が集まったところをまとめて消せばいいと……」

 

キリトの言葉にシュミットは納得したように頷く。

 

「そうか……だから、だからここに『笑う棺桶』の3人がいたのか」

 

肯定するようにキリトも頷いた。

 

「多分、グリセルダさん殺害を依頼した時から、パイプがあったんだろう」

 

それを聞いてヨルコは力なく膝をつく。

そんな彼女をカインズは寄り添うように支えた。

その時

 

「キリト、いたよ」

 

ユウキの声が聞こえた。

 

「詳しい事は、直接本人に聞こうか」

 

言いながらキリトは振り返る。

長身で革製の衣服に身を包んだ男性プレイヤーが歩いてくる。

その後ろではユウキが剣の切っ先を突き付けていた。

その男、グリムロックは彼らを見回した後

 

「やぁ……久しぶりだね、皆」

 

穏やかな口調で口を開く。

 

「グリムロック……さん……貴方は、本当に私達を……?」

 

ヨルコは力ない声で問いかける。

しかし、グリムロックは答えない。

返答が返ってこない事にヨルコは業を煮やし

 

「なんでなのグリムロック! なんでグリセルダさんを?! 奥さんを殺してまで指輪をお金にする必要があったの!!」

 

涙を流しながらそう叫ぶ。

憎しみを孕んだ目でグラムロックを睨むヨルコ。

そんな彼女の言葉を聞いたグリムロックは

 

「金……? 金だって? ……くくくくくく……」

 

嘲るように笑い出し、言う。

 

「金の為じゃない、私はどうしても彼女を殺さなければならなかった……彼女がまだ私の妻である間に……」

 

そこでグリムロックは言葉を区切り

 

「彼女は現実でも私の妻だった」

 

と告白する。

それを聞いたキリト達は驚愕した。

当然だろう。

それが事実ならば、彼は最も大切な存在を自ら殺したという事になるのだから。

絶句しているキリト達に構う事なく、グラムロックは言葉を続けていく。

 

「私にとって、一切の不満のない妻だった。可愛らしく従順で、ただの一度も夫婦喧嘩もした事はなかった……しかし、共にこの世界に囚われた後、彼女は変わってしまった……強要されたデスゲームに怯え、竦んだのは私だけだった。彼女は現実に居た時よりも、遥かに生き生きとして充実した様子だった……ギルドを作ると言った時も、私は反対した……! しかし、彼女は聞かなかった! 「いつか攻略組に入り、最前線で戦うんだ」と……そう言ってね……。私は悟ってしまったのだ、私の愛した『ユウコ』は消えてしまったのだと……」

 

小刻みに肩を震わせグリムロックは言葉を続ける。

 

「ならば……ならばいっそ! この合法的殺人が可能な世界に居る間に『ユウコ』を! 永遠の思い出の中に封じてしまいたいと思った私を、誰が責められるだろう?!」

 

狂気の含んだ声でグリムロックは主張する。

 

「そんな……そんな理由であんたは奥さんを殺したのか? この世界からの脱出を目指して、いつかは攻略組にさえなれていたかもしれない人を……」

 

キリトは静かな怒りを込めて問いかける。

しかし、グリムロックは悪びれもなく

 

「充分すぎる理由だ……君にもいずれ解るよ探偵くん。愛情を手に入れ、それが失われようとした時にね」

 

狂気じみた笑みでキリトにそう言った。

あまりに身勝手で傲慢な主張に、キリトは怒りのままに剣を抜いて駆け出そうとした──────その時だった

 

 

「それは違う!」

 

グラムロックの後ろに居たユウキが剣を納めて彼の前に歩み出る。

 

「あなたが奥さんに抱いていたのは愛情なんかじゃない」

 

振り返り

 

「あなたが抱いていたのは、ただの所有欲と支配欲だ!!」

 

怒りを孕んだ目で睨みながらそう指摘する。

途端にグリムロックから薄気味の悪い笑みが消え、目が見開かれる。

わなわなと震えながら力なくその場に膝をついた。

そんな彼に、シュミットとカインズが歩み寄る。

 

「キリトさん、この男の処遇は僕達に任せてもらえませんか?」

 

「心配しなくても、私刑にだけはしないと約束する」

 

二人はグリムロックを抱え上げてそう言った。

キリトは頷く。

グリムロックを抱えて二人は背を向けた。

ヨルコはその後に続いて、一度振り返り

 

「ありがとうございました。キリトさん、ユウキさん。おかげで真相が解りました。これでグリセルダさんも浮かばれます」

 

そう言って深々とお辞儀する。

そしてカインズ達の後を追っていった。

辺りは白み始めている。

いつの間にか夜が明けていたのだ。

 

「ねぇ、キリト……」

 

不意にユウキが呼びかけてきた。

キリトは疑問符を浮かべた

 

「キリトはさ……結婚した相手の隠れた部分が後になって解った時……どうする?」

 

ユウキはそう尋ねてくる。

それを聞いたキリトは少し思案して

 

「ラッキーだったって……思うかな?」

 

そう答えた。

 

「どういう事?」

 

「結婚したって事は、もう見えてる部分は好きになってるって事だろ? なら、隠れた部分も好きになれたら……なんていうか、二倍じゃない?」

 

そう問い返してきたキリト。

一瞬ユウキは呆気にとられるが

 

「ぷっ……変なの」

 

吹き出してそう言った。

キリトは微妙な表情になる。

やがて日が昇ってきたのを見て

 

「さて、街に戻ろうか? 明日からは攻略に戻らないとね?」

 

「そうだな、二日も前線から離れたからな。今週中に今の層は突破したいからな」

 

二人は歩き出した。

 

しかし、不意にキリトがユウキの腕を掴んで止める。

 

「な、なに?」

 

ユウキは不思議そうに尋ねると、キリトは答える事なく指をさした。

彼女が視線を向けた先にあるのはグリセルダの墓。

朝陽の光が照らされる中、その傍らに一人の女性が立っていた。

その光景にキリト達は驚いて声が出せない。

しかし、彼らは確信していた。

彼女はグリセルダなのだと。

グリセルダはキリト達を見ながら微笑んでいる。

やがてその姿は朝陽と共に消えていった。

しばらく立ちつくしていた二人だが

 

「グリセルダさん……貴方の遺志は俺達が受け取ります」

 

「ボク達は必ずこのゲームをクリアしてみせるよ」

 

そう決意を口にする。

不意に

 

「キリト……生き残ろうね、一緒に」

 

言いながらキリトの手にユウキの手が重なる。

キリトはその手を軽く握って

 

「あぁ、約束だ」

 

そう言って笑いかけた。

ユウキも笑顔で返す。

そして二人は背を向けてその場を後にする。

主街区に向けて歩き出した。

 

 




重なる手と手。

伝わる温もり。

虚ろな世界で鍛冶屋の少女は確かな『熱』を見つける

次回「心の温度」

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