ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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書きあがりました。

今回はちょっと短めかな?

ではどうぞ



第十話 幻の復讐者

安全だと思っていた宿屋で突然起こった出来事。

窓の外に投げ出されるような形で落下したヨルコは、地面に叩きつけられたと同時にその身体を四散させた。

我が目を疑うキリト。

その時、何者かの姿が視界に入る。

ローブを纏った何者かがそこに居た。

顔はフードを深く被っている為視認できない。

キリトは身を乗り出し

 

「ユウキ! 後は頼む!」

 

「ダメっ……!」

 

ユウキの制止も聞かずキリトは跳躍し、隣の建物に跳び移った。

直後にローブの人物は走り出す。

キリトはAGIを全開にして追いかけた。

ようやく追いつきかけたその時。

何かを取り出した。

その手には転移結晶。

 

「っ! くそ!!」

 

キリトはベルトにセットしていたピックを三本抜き取り、ローブの人物に投げつけた。

真っ直ぐローブの人物へと飛んでいくピック。

しかしそれは紫色のシステム障壁に阻まれる。

直後にローブの人物は鐘の音が鳴り響く中、青白い光と共に姿を消した。

キリトは立ち止まり苦い表情を浮かべた。

ヨルコに刺さった投げ短剣を拾い、宿に戻る。

扉を開いて中に入ると

 

「キリトの馬鹿!」

 

ユウキが涙目で怒鳴ってきた。

キリトは驚いて一歩後退する。

 

「無茶しないでって言ったよね!」

 

凄い剣幕で怒るユウキ。

 

「わ、悪かった」

 

キリトは引き気味で謝った。

腰に手を当ててユウキは

 

「まったく……で、どうだったの?」

 

問いかけた。

 

「転移結晶で逃げられた……街の、宿の中なら安全だと思って油断してた……クソ!!」

 

言いながらキリトは壁を叩きつける。

それをシステム障壁が阻んだ。

その時

 

「あ、あれは、グリセルダのローブだ……あれはグリセルダの幽霊だ……俺たち全員に復讐に来たんだ……」

 

ガタガタと震えながらシュミットが口を開いた。

表情は恐怖に染まり、声も弱々しかった。

 

「は……ははは。ゆ、幽霊なんだから、圏内でPKするくらい楽勝だよな……? あ、はははははは……」

 

もはや恐怖で頭の中が整理できていないようだ。

そんな彼を見ながら

 

「幽霊な筈はない。このPKには絶対にシステム的なロジックがある筈だ」

 

キリトは呟いた。

その後、キリト達はシュミットを聖竜連合本部まで送りとどけ、マーテンに戻ってきていた。

互いにベンチに座って考え込んでいる。

 

「本当にあれってグリセルダさんの幽霊だったのかな……? 目の前であんな事を二度も見せられたらボクもそう思っちゃうよ……」

 

半ば諦めたようにユウキが口を開く。

しかしキリトは首を振って

 

「いや、そんな事は絶対にない。本当に幽霊ならさっきも転移結晶なんか……転移結晶?」

 

言いかけて何かに引っ掛かった。

 

「キリト?」

 

ユウキが不思議そうに聞いてくる。

 

「いや、なんでもない」

 

キリトは再び首を振って考え込んだ。

しばらくの沈黙。

そこへ

 

「はい」

 

ユウキが何かを差し出してきた。

受け取って包みを開く。

出てきたのはバケットサンドだ。

 

「お腹すいてたら頭働かないよ? これ食べてちょっと休憩しよう?」

 

そう言ってユウキも自分の分の包みを開く。

 

「早く食べないと耐久値が切れちゃうよ」

 

「そ、そうだな」

 

キリトはそれに一口かぶりついて

 

「……美味い」

 

そう漏らし再び口に運んだ。

黙々と食べ続け、半分くらい食べ終えたとき

 

「準備いいな。これ、どこで買ったんだ?」

 

そう尋ねる。

するとユウキは少しムッとした表情になり

 

「売ってないよ、それ」

 

そう返してきた。

呆気にとられるキリト。

 

「君がいなくなってた半年の間に、料理スキル取得したんだ、ボク」

 

そう言ってユウキはバケットサンドを頬張る。

キリトはバケットサンドとユウキを見比べて

 

「そ、そうなのか……うん、ユウキはいいお嫁さんになれるな」

 

何とも言えない表情でそう言った。

それを聞いた瞬間、ユウキは顔を赤く染めて

 

「な、ななな、何言ってんの!」

 

キリトを小突く

 

「あだ!」

 

その衝撃で手元が狂いバケットサンドを地面に落してしまう。

急いで拾おうとするも、耐久値が切れたのかバケットサンドは砕けてしまった。

 

「あ……あぁ……」

 

がくりと項垂れるキリト。

そのまま固まって動かない。

 

「キリト?」

 

様子のおかしい彼に、疑問符を浮かべてユウキは問いかけた─────次の瞬間

 

「あぁ!」

 

何かに閃いたようにキリトは声を出した。

 

「ど、どうしたの?」

 

ユウキは驚いてキリトを見る。

 

「俺達は、なにも見えていなかった……見ているようでなにも……」

 

キリトは立ち上がり

 

「二件の圏内殺人。そんなものを実現する武器もロジックも、最初から存在しちゃいなかったんだ!」

 

その言葉にユウキは動揺が隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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第19層 十字の丘

 

薄暗い丘の上。

ここにシュミットは訪れていた。

彼の眼の前には一つの墓標がある。

 

「グリセルダ……俺が助かるには、もうお前に許してもらうしかない……」

言いながらシュミットは膝をつき

 

「すまない!許してくれ、グリセルダ!!」

 

地面に頭つけて謝りはじめる。

 

「まさか、まさかあんな事になるなんて……思ってなかったんだ!!」

そう叫んでしばらくすると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────本当に?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!」

 

彼の耳に女性の声が響いてくる。

驚き顔を上げるが目の前には誰もいない。

尚も声は響いてくる。

その時、背後に気配を感じシュミットは振り返った。

視線の先に居たのは『ラグーラビット』と言われるウサギのようなモンスター。

振り向いた彼に驚いて素早く逃げていく。

その様子をみて、シュミットは息をつき前を向く。

視線の先はローブを着てフードを被った女性がいた。

 

「ひっ!!!」

 

突然の事にシュミットは両手で口を押さえながら驚いた。

そんな彼を追い詰める様に

 

「なにをしたの? 貴方は私になにをしたの……? シュミット?」

 

言いながら赤黒い槍を突き付けてきた。

シュミットは後ずさり

 

「お、俺は、俺はただ、指輪の売却が決まった日に、いつの間にかベルトポーチにメモと結晶が入ってて、そこに指示が!」

 

そこまで言った時だった。

 

「誰のだ、シュミット? 誰からの指示だ?」

 

奥の方から男性の声が聞こえてくる。

目を向けると同じようにローブを着てフードを被った男性が近づいてきていた。

 

「グリムロック……? あんたも死んでたのか……?」

訳がわからないといった様子でシュミットは問う。

 

「誰だ? お前を動かしたのは誰なんだ?」

 

そんな彼に構う事なくローブの男性は問い続ける。

 

「わ、分からない! 本当だ! メモにはグリセルダの部屋に忍び込めるように、結晶の位置セーブだけしてからギルド共通ストレージに入れろと指示が……」

 

「それで?」

 

「俺がしたのはそれだけなんだ! 俺は本当に殺しの手伝いなんかする気はなかったんだ! 信じてくれ! 頼む!!」

 

必死の懇願。

その言葉には嘘偽りは感じられなかった。

一瞬の静寂。

それを破る様に

 

「全部録音したわよ、シュミット」

 

と声がする。

シュミットは勢いよく顔を上げて眼を見開く。

そこに居たのは───────殺された筈のカインズとヨルコだった。

一方その頃、キリト達は

 

「い、生きてるの! カインズさんもヨルコさんも!!」

 

ユウキは動揺しながらキリトに問いかけた。

キリトは頷き

 

「ああ、二人ともな」

 

「で、でも……」

 

未だ信じられない様子のユウキ。

 

「圏内ではプレイヤーのHPは基本減らない。でも、オブジェクトの耐久値は減るんだ。さっきのバケットサンドみたいに」

 

そこまで聞いてユウキも一つの確信をもったようだ。

 

「あの時、カインズさんを貫いていた短槍が削っていたのはHPじゃなくて鎧の耐久値だったの?」

 

「そうだ。そして鎧の耐久値がなくなると同時に転移結晶でテレポートした。その結果、発生したのは死亡エフェクトに限りなく近い……けど、まったく別のものだったんだ」

 

ユウキは頷いて

 

「それなら、ヨルコさんもだね?」

 

「彼女は最初から背中にダガーを刺した状態だったんだろうな。背中を見せないようにして服の耐久値を確認し、タイミングを測って背中にダガーが刺さったように演技したんだ」

 

「じゃぁ、あの黒いローブの人は……」

 

「十中八九、グリムロックじゃない。カインズだ」

 

キリトは腕を組んで

 

「二人はこの方法を使えば、死亡を偽装できると考えた。それも、圏内殺人という恐ろしい演出をつけて」

 

そう言葉を紡ぐ。

 

「その目的は指輪事件の犯人を焙りだすため。自分達の死亡を演出して、幻の復讐者を創り出した……」

 

「シュミットの事は、最初からある程度疑ってたんだろう。なぁ、ユウキ。ヨルコさんとフレンド登録したままだろ? 今どこに居るかわかるか?」

 

言われてユウキはメニューを開いた。

フレンドリストからヨルコの位置を特定する。

 

「19層に居るみたい。主街区から少し離れた小さい丘の上だね」

 

それを聞いたキリトは腕組を解いて

 

「そうか。なら、後は二人に任せよう。この事件での俺達の役回りはこれで終わりさ」

 

そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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場所は戻り十字の丘。

殺された筈の二人が目の前に居る事に驚きが隠せずいるシュミット。

ふとヨルコの手に音声結晶が録音モードで浮いている事に気付いた。

そこで彼は全てに気付く。

大きく息をついて

 

「そうか……そういう事か……お前達、そこまでグリセルダの事を……」

 

そう呟く。

 

「あんただって、彼女を憎んでいたわけじゃないんだろう?」

 

そんなシュミットにカインズは問いかける。

その表情は険しいままだ。

シュミットは慌てたように手を振って

 

「も、もちろんだ! 信じてくれ!」

 

言いながら少し目を逸らし

 

「そりゃぁ、受け取った金で買ったレア武器のおかげで、聖竜連合の入団基準をクリアできたのは確かだが……」

 

そこまで言ったその時だった。

トスリと何かが刺さる音がした。

途端にシュミットはよろめきその場に倒れた。

視線を移すと鎧の間を縫うように右からに投げ短剣が刺さっている。

視線を自身のHPバーにむけると、点滅している。

状態異常の麻痺だった。

なにが起こったのか理解する間もなく

 

「ワァーン・ダァーウゥン」

 

とぼけた声が響いてくる。

フードを被った男がそう言いながらシュミットの前でしゃがみ込んでいた。

ヨルコ達の前ではエストックを突き付けている男がいた。

これもまたフードを被っている。

そしてその後ろから

 

「Wow。確かにこいつはでっかい獲物だ。聖竜連合の幹部様じゃないか」

 

更に声が聞こえてくる。

同様にフードを被り、右手には肉切り包丁を思わせる大型短剣を握っていた。

その男の手を見てシュミットは眼を見開く。

 

「お、お前らは……」

 

その右手にあったのは刺青。

棺桶が描かれそこから髑髏が手を招いている。

 

「さ、殺人ギルド……『笑う棺桶(ラフィン・コフィン)』……!!」

 

絶望するかのような声でシュミットは言いながら、男達を見た。

 

 




明かされる指輪事件の真相。

ギルドリーダーの死の理由。

男が抱いたのは愛情か妄執か・・・

次回「受け取る意思」

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