ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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また書きあがっちゃった・・・

なにはともあれ投下しましょう!
この話はアニメ寄りで展開させました。

ではどうぞご覧あれ~



第九話 圏内事件

2024年 4月11日 第59層 ダナク

 

 

主街区近くの草原にある木の陰。

そこに二人のプレイヤーが寝転がっていた。

一人は黒尽くめの男性プレイヤー。

もう一人は紫を基調にした装備の女性プレイヤーだ。

暖かな陽気を浴び、心地良い風に吹かれて昼寝をしているようだった。

そんな彼らに一つの影が近づいて

 

「相変わらず呑気だなぁ」

 

彼らにとって聞きなれた声が耳に届いた。

黒尽くめのプレイヤーことキリトは片目を開き

 

「なんだ、ソラか……」

 

そう言って上体を起こした。

そんな彼の隣にソラは座って

 

「皆、迷宮区に潜ってるのに、こんな所で昼寝なんてしてていいのかい?」

 

そう問いかけてきた。

キリトは欠伸をしながら

 

「今日のアインクラッドは、最良の気温と最高の気象設定だ。こんな日は昼寝に限るよ」

 

そう言って隣で寝ている女性プレイヤーに目を向ける。

すやすやと寝息を立てて気持ちよさそうに眠っている。

ユウキは熟睡か」

 

ソラは苦笑いになる。

 

「ここのところ、迷宮区に潜りっぱなしだったからな。疲れが溜まってたんだろ」

 

言いながらキリトはユウキを見ている。

その表情はとても優しげだ。

 

「そうだね、君達は他のプレイヤー以上に先陣を切ってるからね」

 

言いながらソラは立ち上がった。

 

「まぁ、ゆっくり休むといいよ。君達ならそれくらいしても罰は当たらないさ」

 

「なんなら、ソラも昼寝してくか?」

 

「嬉しいお誘いだけど、まだ仕事が残っててね。僕はもう行くよ」

 

そう言って踵を返し

 

「ここは一応『圏内』だけど、油断しないようにね? 最近また物騒になってきたから」

 

言いながらその場を後にした。

残されたキリトは隣のユウキに再び視線を移す。

 

「すぅ……すぅ……」

 

規則正しい寝息が彼女から聞こえた。

起きるまでにはもう少しかかるとキリトは判断し、索敵スキルの警報機能をセットして空を見上げる。

主街区から外れてはいるがここは『圏内』──────正式名称は『犯罪防止(アンチクリミナル)コード有効圏内』。

この中ではいかなる攻撃や状態異常でもHPが減る事はない。

故に圏内に居る限り、絶対的な安全が保障されている。

しかし、ここには抜け道があった。

それはデュエルを利用したPK(プレイヤーキル)である。

デュエルの最中は圏内であろうと攻撃されたり、状態異常になればHPが減少する。

眠っている相手にデュエルを申し込み、相手の指を勝手に操作して『完全決着モード』を選択させる。

こうする事で対象はHPが減るようになり、それが尽きるまで一方的に攻撃するという殺害方法だった。

これ以外にも、様々な殺害方法がPKを快楽としているレッドプレイヤー達の手によって生み出されていた。

故に圏内とはいえ油断はできない。

その為キリトは一定距離にプレイヤーが近づくとアラームが鳴る警報設定を使用したのだ。

二人が昼寝をはじめて数時間後。

 

「うにゅぅ……」

 

奇妙なうめき声と共にユウキが目を覚ました。

辺りを見回すと夕陽によって空が赤く染まっていた。

大きく背伸びをして

 

「ん~~~~~っ……キリト、おはよう~……」

 

と言ってきた。

キリトは呆れた顔をして

 

「もう夕方だよ。ホントによく寝てたな」

 

「あはは、ごめんねキリト。お詫びにご飯奢るからさ」

 

そう言ってユウキは立ちあがった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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第57層 マーテン

 

夕食を摂る為にNPCレストランにキリト達は赴いた。

席に座り、NPCに料理を注文する。

そんな二人を見て、周りのプレイヤー達は

 

「おい、あれって『絶剣』じゃね?」

 

「マジか。可愛いな」

 

「一緒の黒尽くめは『黒の剣士』か」

 

「『絶剣』みたいな可愛いのと食事とか……爆発しろ!」

 

彼らの事を見ながらひそひそと話している。

キリトはバツの悪そうな表情で片肘を突いていた。

只でさえ目立つのが苦手なキリトはこの状況がかなり苦痛なようだ。

アインクラッドの中でもトップクラスの美少女ともいえるユウキとコンビを組んでいる彼は、幾度となく男性プレイヤーの嫉妬にさらされている。

当のユウキはそのような事を気にはしていないようだが、キリトにとっては多少は大丈夫でもこのように大勢から注目、もとい嫉妬の視線を浴びるのは中々に苦痛だった。

ある世界の性格破綻した似非神父が見ていたら、愉悦と胸中で呟きながら、ほくそ笑んでいただろう。

そんな中、ユウキはキリトに向かい

 

「ありがとね、今日はガードしてくれて」

 

そう言ってお礼を言ってくる。

 

「気にするなよ。パートナーなんだから」

 

それに対してキリトはそう返した。

ユウキは嬉しそうに

 

「えへへ~」

 

笑いかける。

その笑顔にキリトは顔に熱が籠っていくのを感じた。

その時だった。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

穏やかな空気を壊す様に大きな悲鳴が響いてくる。

二人は顔を見合わせてNPCレストランを飛び出した。

悲鳴が上がった場所へ向かうと我が目を疑う光景がそこにはあった。

教会から男性プレイヤーが首にロープをかけられて吊るされていたのだ。

その胸には刺々しい短槍(ショートスピア)が突き刺さっている。

そこからは赤いエフェクトが噴き出ていた。

それはHPが削られている事を指している。

 

「早く抜け!!!」

 

キリトは大声で呼びかけた。

男性プレイヤーは一瞬キリトを見る。

そして、短槍に手をかけ引き抜こうとするが、抜ける気配がない。

 

「キリト! ロープを斬るから下で受け止めて!!」

 

「あぁ!!」

 

言うと同時にユウキは教会の中へ、キリトは男性プレイヤーの真下へと駆け出す。

しかし、そうしている間に男性プレイヤーのHPは削られていった。

そして、その身体はポリゴン片となって四散した。

彼に突き刺さっていた短槍が音を立てて地面に落ちる。

キリトは歯を噛締め

 

「皆! デュエルの勝者(ウィナー)表示を探してくれ!!!」

集まっていた野次馬達に叫んだ。

そしてキリト自身も周りを見回す。

 

(表示は30秒で消える! それまでに見つけないと!)

 

思考を巡らせ辺りを隈なく見回すがどこにも表示は現れてなかった。

そして無情にも男性プレイヤーが散ってから30秒が経ってしまった。

キリトは短槍を拾い、教会の中でユウキと合流する。

 

「こいつは一体どういう事だ……?」

 

短槍を見ながらキリトは呟く。

 

「普通に考えたら、デュエルの相手が彼の胸にそれを突き刺してここから落としたってとこかなぁ?」

 

ユウキも首を傾げている。

 

「でも、勝者(ウィナー)表示がどこにも出なかった……」

 

「デュエル以外でHPを減らす方法は無かった筈だよね?」

ユウキはそう問いかける。

 

キリトは頷き

 

「どの道、このままって訳にはいかないな。圏内でPK出来るなんて離れ業が本当にあるなら、街の中も危険って事になってしまうからな」

 

「じゃぁ、調査するんだね?」

 

「ああ、ユウキも手伝ってくれるか?」

 

「もちろん!」

 

そう言ってユウキは頷いた。

二人は教会から出て

 

「すまない。さっきの一件を最初から見ていた人はいないか? いたら話を聞かせてほしい!」

 

キリトが切り出した。

その言葉に周囲はざわついた。

やがて、一人の女性プレイヤーがおずおずとキリト達の前に歩み寄ってきた。

装備を見る限りでは中層のプレイヤーだろう。

 

「ごめんね? 怖い思いをしたばっかりで。君の名前は?」

 

優しい口調でユウキは尋ねる。

 

「あ、あの、私ヨルコって言います……」

 

名乗った女性の声にキリトは聞きおぼえがあった。

 

「もしかして、さっきの悲鳴は……君が?」

 

そう尋ねるキリト。

 

「はい。私、さっき殺された人とご飯を食べに来ていたんです。あの人、名前はカインズって言って……昔、同じギルドに居た事があるんです。でも、広場では逸れちゃって……辺りを見回したら教会から……彼が……ぅう……」

 

そこまで言って、ヨルコと名乗った女性は堪え切れなくなったようで瞳から涙が零れ落ちた。

それを見たユウキは彼女のそばに寄り

 

「その時に誰かを見なかった?」

 

背中をさすりながらそう尋ねた。

 

「一瞬……カインズの後ろに、誰かいたような……気がしました」

 

「その人影に見覚えは?」

 

問いかけにヨルコは首を横に振る。

 

「その、嫌な事を聞くようだけど……心当たりはあるかな? カインズさんが誰かに狙われる理由に」

 

少し遠慮気味にキリトは尋ねる。

それに対しヨルコは首を横に振った。

その後、明日もう一度話を聞くという事で彼女を宿に送り届けた。

二人は歩きながら

 

「とりあえず、手持ちの情報を整理しようよ」

 

「そうだな……あの短槍の出所が分かればそれから犯人を追えるだろうし。となると鑑定スキルがいるな……ユウキ、フレンドにアテはあるのか?」

 

問いかけにユウキは難しそうな表情になり

 

「武器屋の娘がいるにはいるけど、この時間帯は一番忙しいし……頼むのは難しいかなぁ」

 

そう返した。

キリトは少し思案し

 

「ならあいつに頼むか」

 

そう言ってメニューを開きメッセージを打ち始めた。

それを見てユウキは

 

「雑貨屋も忙しいんじゃないかな?」

苦笑いで尋ねた。

対するキリトは

 

「大丈夫だろ(棒)」

 

と言って送信ボタンを押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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第50層 アルゲード

 

主街区の一角にあるエギルの店にキリト達は訪れた。

扉を開いて

 

「よう、来たぞー」

 

とキリトは声をかける。

すると奥に居る褐色の大男は

 

「客じゃない奴にいらっしゃいませは言わんぞ?」

 

苦い顔でそう返してきた。

第一層でキリト達とボス戦に挑み、その後も一緒に戦った頼りがいある重戦士エギル。

溜息をつきながら

 

「ったくよぉ。この時間は一番の稼ぎ時だってお前も知ってるだろ?」

 

「そう言わずに頼むよ。俺達の仲じゃないか」

 

苦言を申し立てるエギルにキリトはニヤリと笑ってそう言った。

そんな彼の脇腹をユウキは小突いて

 

「もう、キリトは! ごめんなさいエギルさん。少しお願いしたい事があるんだけどいいですか?」

 

そう尋ねる。

 

「ユウキちゃんの頼みとありゃ仕方ねぇな。キリト、用件は奥で聞くぜ」

 

そう言って二人を奥の部屋へと招き入れた。

椅子に座り、二人は先程の事件を説明する。

 

「圏内でHPがゼロに……デュエルじゃないのか?」

 

訝しげな表情でエギルは問いかけてきた。

キリトは首を振って

 

勝者(ウィナー)表示はどこにも出なかった」

 

「直前までヨルコさんと歩いてたなら、睡眠PKの線もなくなるね」

 

続けてユウキも言う。

 

「突発的なPKにしてはやり口が複雑すぎる。事前に計画されていたのはまず間違いない……そこで、この短槍だ」

 

言いながらキリトは例の短槍をオブジェクト化してエギルに渡した。

エギルは鑑定スキルを発動し短槍の情報を調べる。

 

「プレイヤーメイドだ。作成者はグリムロック……聞いたことねぇな。少なくとも一戦級の刀匠じゃねぇ」

 

鑑定結果をエギルは二人に伝える。

キリト達は顔を見合わせた後

 

「固有銘は? 後、他に変わった事はあるか?」

 

「武器自体に変わった事はないな……固有銘は『ギルティーソーン』か。罪の茨ってとこか」

 

そう言って短槍をキリトに渡す。

 

「罪の茨か……」

 

しばらくそれをキリトは眺め

 

「よし」

 

短槍を逆手に持ち、自身の手に向ける。

勢いよく突き刺そうとした時、ユウキがその手を掴んだ。

 

「何やってるのキリト!」

 

「何って……試してみないと解らないだろ?」

 

止めるユウキにキリトはそう返す。

 

「その武器で実際に人が死んでるんだよ!」

 

「だが……」

 

「駄目ったら駄目!! これはエギルさんが預かってて!!」

 

キリトから短槍を取り上げて、それをエギルに渡す。

御立腹の様子でユウキは部屋から出ていった。

 

「キリトよぉ、もう少しユウキちゃんのこと考えてやれ。ただでさえお前は半年もあの娘に心労かけさせたんだからな」

 

エギルは真剣な表情でキリトに言う。

キリトは苦い表情で

 

「それ言われると辛いな……わかった。今回は助かったよエギル」

 

そう言って彼は立ち上がる。

 

「またなんかあったら相談に来いよ。今度はちゃんと時間も考えてな」

ニッと笑いながら言うエギルに、キリトは頷いて返してから彼の店を後にする。

 

店の外でユウキは待っていた。

彼女に歩み寄り

 

「ユウキ、ごめんな?」

 

キリトは頭を下げる。

ユウキは振り向いて

 

「もうあんなことしないでね?」

 

上目遣いでキリトを見る。

瞳には涙が浮かんでいた。

 

「あぁ、約束するよ」

 

そう言ってキリトはユウキの涙を拭った。

翌日、キリト達はヨルコを連れてNPCレストランに訪れていた。

三人は座ったままで沈黙が続いている。

やがてそれを破る様に

 

「ねぇ、ヨルコさん。グリムロックって名前に心当たりあるかな?」

 

ユウキが切り出した。

それを聞いたヨルコは一瞬動揺するが

 

「はい……知ってます。昔、私とカインズがいたギルドのメンバーです」

 

そう答えた。

キリト達は一瞬目を合わせて

 

「実は、あの黒い短槍を鑑定してもらったんだが、作成したのがそのグリムロックさんだったんだ」

 

それを聞いたヨルコは大きく目を見開いた。

 

「何か、心当たりはないか?」

 

キリトは問いかける。

しばしの沈黙。

やがてヨルコは口を開き

 

「はい……あります。昨日、お話出来なくてすみません……忘れたい、思い出したくない事があったので……でも、お話しします」

 

そこで区切り一度目を伏せて

 

「それが原因で……ギルドは消滅したんです」

目を開いてそう言った。

 

そこからヨルコは語りはじめた。

ギルドの名前は『黄金林檎』

半年前、彼女らはたまたま倒したモンスターがAGIを20も上げる指輪をドロップした。

ギルドで使おうという意見と、売って儲けを分配しようという意見で割れて多数決でどうするかを決めたらしい。

結果は5対3で売却だった。

競売にかけるため、リーダーのグリセルダという女性プレイヤーが一泊する予定で出かけたが、彼女は帰ってこなかった。

後になり、彼女が死んでいる事が判明した。

指輪がどうなったのか、どうして死んでしまったのかは未だにわからないと言う。

話を聞いたキリト達は

 

「そんなレアアイテム抱えて、圏外には出ないだろうな……睡眠PKか」

 

「半年前なら手口が広まる直前だね」

 

「あぁ。ただ、偶然とは考えにくいな……グリセルダさんを狙った犯人は指輪の事を知っていたプレイヤー……つまり」

 

そこまでキリトが言って

 

「黄金林檎の、残り七人の誰か……」

 

ヨルコが引き継ぐようにそう言った。

 

「なかでも怪しいのは、売却に反対した3人だろうな」

 

「指輪が売られる前に、彼女を襲ったって事かな?」

 

ユウキは疑問符を浮かべる。

 

「ああ、おそらくな。グリムロックさんというのは?」

 

キリトはヨルコに尋ねた。

 

「彼はグリセルダさんの旦那さんでした。もちろん、このゲーム内のですけど。二人ともとても仲が良くて、お似合いの夫婦でした。もし昨日の事件の犯人がグリムロックさんなら指輪の売却に反対した3人を狙っているんでしょうね……」

 

そこで一度目を逸らして

 

「指輪の売却に反対した3人のうち2人は、私とカインズなんです」

 

そう言った。

それを聞いたキリト達は驚く。

 

「もう一人は?」

 

キリトが尋ねる。

 

「シュミットというタンクです。今は聖竜連合に所属していると聞きました」

問いにヨルコはそう答えた。

 

「聞いたことあるな」

 

「聖竜連合の防御(ディフェンス)隊のリーダーだよ。大きいランス使いの」

 

それを聞いたキリトは納得したように頷く。

 

「あの、シュミットに会わせてもらえませんか? 彼は今回の事件の事を知ら

ないかも……もしかしたら彼もカインズのように……」

 

そこまで言ってヨルコは口を閉ざす。

一瞬の沈黙。

 

「シュミットさんを呼んでみようよ。ボク、聖竜連合に知り合いがいるからなんとかなるかも」

 

ユウキの提案にキリトは頷いて

 

「なら、一度ヨルコさんを宿屋に送ろう。俺達が戻るまで、宿屋から絶対に出ないでくれ」

 

そう言った。

ヨルコはそれに対し静かに頷いた。

キリト達はヨルコを宿に送り届け、転移門広場に向かい主街区の道を歩いている。

その道中

 

「ねぇ、キリト。今回の事件どう見てる?」

 

ユウキが尋ねてきた。

キリトは少し思案して

 

「そうだな……大まかに3通りだな。一つは正当なデュエル。二つ目は既知の手段の組み合わせによるシステム上の抜け道」

 

そう答えを返す。

ユウキは難しそうな表情をして

「三つ目は?」

 

さらに問う。

 

「……圏内の保護を無効化する未知のスキルかアイテムの存在……けど、この線はないと考えていい」

 

問いにキリトはそう返した。

 

「どうして??」

 

ユウキは疑問符を浮かべている。

 

「フェアじゃないからな。認めるのはちょいと業腹だけど、SAOのルールは基本的にフェアネスを貫いてる。圏内殺人なんて、このゲームは認めてる筈がない」

 

真剣な表情でキリトは断言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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キリト達に連れてこられたシュミットは始終落ち着かない様子でソファーに座っていた。

苛立っているのか、貧乏ゆすりをしている。

対するヨルコは落ち着いた様子でシュミットと向かい合っていた。

部屋の中を沈黙が支配する。

それを破ったのはシュミットだった。

 

「グリムロックの武器で、カインズが殺されたってのは本当か?」

 

怯えを含んだ声で尋ねてきた。

ヨルコは落ち着き払ったままで

 

「本当よ……」

 

そう返した。

それを聞いた瞬間、シュミットは目を見開く。

 

「なんで今更カインズが殺されるんだ! あいつが……あいつが指輪を奪ったのか? グリセルダを殺したのはあいつだったのか? グリムロックは売却に反対した3人を全員殺す気なのか? 俺やお前も狙われているのか?」

 

怯えるようにシュミットは捲し立てる。

そんな彼に

 

「彼に槍を造って貰った他のメンバーかもしれないし。もしかしたら、グリセルダさん自身の復讐なのかもしれない……」

 

ヨルコは静かに告げてきた。

 

「だって、圏内で人を殺すなんて幽霊じゃなきゃ不可能だもの……」

 

その言葉を聞いたシュミットは絶句した。

部屋の隅で二人を見守っていたキリト達も顔を見合わせる。

そんな彼らをヨルコは気にもせずに立ち上がり

 

「私……昨日寝ないで考えた。結局のところグリセルダさんを殺したのはメンバー全員でもあるのよ!!! あの指輪がドロップした時、投票なんかしないでグリセルダさんの指示に従えばよかったんだわ!!!!」

 

半ば狂乱気味に彼女は叫ぶ。

シュミットは言葉が出て来ない。

ヨルコは後ずさりながら空いた窓際へと下がっていく。

 

「あの時、グリムロックさんだけは……グリセルダさんに任せると言ったわ。だからグリムロックさんには私たち全員を殺して、グリセルダさんの仇を討つ権利があるのよ……」

 

力ない声でそう呟く。

ガタガタと身体を震わせてシュミットは立ち上がり

 

「今更! 半年も経ってからなんで今更!! お前はそれでいいのかよヨルコ!! こんな訳も解らない方法で殺されていいのか!!」

 

ものすごい剣幕でヨルコに食ってかかろうとする。

それをキリトが腕を掴んで制した─────その直後、ドスリと鈍い音が耳に届く。

ヨルコの眼が見開かれ、身体が大きくよろめいた。

その背中には投げ短剣が深々と刺さっていた。

 

「くっ!!」

 

キリトは駆けだす。

しかし、一歩遅かった。

ヨルコはそのままグラリと体勢を崩し、窓の外に落ちていく。

地面に叩きつけられると同時に──────その身体を四散させてしまった。

 




懺悔する男と、その罪を暴くため奔走した2人の男女。

そんな彼らの前に、無慈悲な殺意が突き付けられる。

現れたのは棺桶。

中から髑髏が手招きする。

次回「幻の復讐者」

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